JP4255085B2 - 害虫誘引装置およびその天敵放飼装置 - Google Patents
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Description
このため、圃場内の全ての作物に対して予防的な防除を行なうことは極めて非効率であり、しかも近年、安全な農作物へのニーズの高まりや、農作物の生産時における環境への負荷の軽減が求められる中で、環境保全型の害虫防除技術の確立が求められていた。
このような課題に対処するため、害虫であるダニ類の発生状況を把握するための装置や、環境への負荷の少ない天敵を用いた害虫の防除方法に関し、天敵を大量に繁殖させるための装置や方法が開示されている。
非特許文献1に記載される「ツルグレン装置」は、土壌中の小動物の生息状況を調査するための装置であり、この装置は、例えば、底部が網目状に形成される第1の容器と、この第1の容器の底部に連設され容器の網目から落下する落下物を受け止める漏斗と、漏斗の縮径した口から落下する落下物を収容する第2の容器からなり、第1の容器の上部開口側には傘付の熱源として、例えば、白熱電球が設けられるものである。なお、上述のような「ツルグレン装置」においては、第1の容器と漏斗は、例えば、別体の三脚等により支持されている。
そして、上述のような「ツルグレン装置」を用いて土壌中の小動物を分離するには、採集した土壌サンプルを第1の容器の底部に広げて載置し、熱源である白熱電球を点灯させればよい。すると、時間の経過とともに、第1の容器の底部に広げられた土壌サンプルの表面が乾燥し、湿度のある場所を好む土壌中の小動物は第1の容器の底部側へと移動する。そして、さらに白熱灯の照射を続けると、第1の容器内の底部側の土壌サンプルも乾燥し始めるため、小動物はさらに下層側へと移動しようとして、網目の隙間から漏斗内へと落下するのである。この結果、土壌サンプル中の小動物を第2の容器内に捕集することができる。
このような、非特許文献1に係る「ツルグレン装置」によれば、土壌サンプル中の小動物を効率よく捕集することができる。
非特許文献2に記載の発明は、まず、直径9cm程度のろ紙の片面に1cm間隔で線を引いたものを水で湿らせ、このろ紙の線を引いた側の面にコナダニ類を誘引する餌である乾燥酵母又はオニオンパウダーを添加し、餌を添加した面が内側になるようにろ紙を2つ折りにした後、クリップ等でその縁部を挟持したものを準備しておき、開口部にチャックが設けられた20cm×14cmのビニール袋内に圃場から採取した土壌サンプル100cm2と、上述のように下準備を施したろ紙を入れ、20℃の温度条件下で1〜3日間静置すると、採集した土壌サンプル中のダニ類がろ紙に誘引されて個体数を確認できるというものである。
このような非特許文献2に記載の発明を用いた場合、土壌サンプルとろ紙を入れたビニール袋を20℃の温度条件下で1日間静置した場合には、土壌サンプル中のコナダニ類の約70%を捕集することができ、同様の温度条件下で3日間静置した場合には、土壌サンプル中のコナダニ類の約90%を捕集することができる。
特許文献1に記載の発明は、内側をビニールコーティングした袋の中に、天敵生物と、その餌及び保湿剤を入れ、さらに複数の通気孔を設けて、この袋の中で天敵生物を大量に繁殖させるものである
このような、特許文献1に係る「天敵生物の放飼用袋」によれば簡単な装置で大量の天敵生物を繁殖させることができ、この「天敵生物の放飼用袋」を開口することで圃場内に大量の天敵を供給することができる。この結果、薬剤を用いることなく農作物の害虫を駆除することができる。
また、作物に害を与える害虫の発生状況を正確に把握するためには、圃場から採集する土壌サンプル数を多くすることが望ましいのであるが、それぞれの土壌サンプルについて上述のような作業を繰り返すことは極めて煩雑であった。
さらに、土壌サンプルの採取時や搬送時に温度条件や湿度条件が急激に変化した場合には、採集した土壌サンプル内に生息する害虫の個体数が変動してしまう恐れがあり、正確な調査結果が得られない可能性があった。
さらに、土壌サンプルの採取時や搬送時に温度条件や湿度条件が急激に変化した場合には、採集した土壌サンプル内に生息する害虫の個体数が変動してしまう恐れがあり、正確な調査結果が得られない可能性があった。特に、採集した土壌サンプルが加湿状態にある場合、ろ紙が濡れてしまい、ダニ類の誘引効率が低下するという課題があった。
また、誘引されたダニ類の個体数を調べるためには、実体顕微鏡を用いる必要があり、この作業も煩雑であった。
また、特許文献1に開示される「天敵生物の放飼用袋」は、繰り返しの使用に不向きであるため、使用済みの「天敵生物の放飼用袋」は処分する他なく、廃棄物処理に関して課題があった。
上記構成の害虫誘引装置において、上板及び下板は、シート部の表面と裏面を被覆して、雨水や潅水がシート部に直接触れるのを妨げるという作用を有する。また、固定部は、上板又は下板の回動を可能にして、この間にシート部を挟装可能にするという作用を有する。さらに、シート部は、上板と下板との間隙を、ダニ類の生息にする高湿状態に保ちながら害虫を誘引するための餌を保持するという作用を有する。さらに、餌は、ダニ類を誘引するという作用を有する。
また、下板およびシート部の平面寸法を、上板の平面寸法よりも小さくすることで、上板と下板の隙間に雨水や潅水時の水が浸入するのを妨げるという作用を有する。
上記構成の害虫誘引装置は、請求項1記載の発明の作用に加え、上板を断熱材により構成することで、日没時に上板の下面の急激な温度低下を妨げるという作用を有する。
上記構成の害虫誘引装置は、請求項1又は請求項2の記載の発明の作用に加え、シート部に誘引されたダニ類の視認を容易にするという作用を有する。
上記構成の害虫誘引装置において、上板及び下板は、シート部の表面と裏面を被覆して、雨水や潅水時の水がシート部に直接触れるのを妨げるという作用を有する。また、固定部は、上板又は下板の回動を可能にして、この間にシート部を挟装可能にするという作用を有する。さらに、シート部は、上板と下板との間隙を、天敵の生息にする高湿状態に保ちながら天敵を繁殖させるための餌を保持するという作用を有する。さらに、餌は、天敵の繁殖を助長するという作用を有する。
上記構成の害虫誘引装置は、請求項4記載の発明の作用に加え、シート部は天敵の生息密度を高めるという作用を有する。
上記構成の害虫誘引装置は、請求項4又は請求項5記載の発明の作用に加え、上板と下板の隙間に雨水や潅水時の水が浸入するのを妨げるという作用を有する。
また、本発明の請求項1記載の発明によれば、シート部に誘引されたダニ類を視認するだけで、圃場内の任意の場所における、ダニ類の発生状況を正確に把握することができるという効果を有する。
さらにこの場合、圃場内において土壌サンプルを採集する必要がないので、ダニ類の発生状況を把握するための作業を簡略化できるという効果を有する。
そして、請求項1記載の発明によれば、上板と下板の間に雨水や潅水が浸入する可能性が一層低減される。このため、雨水にさらされる屋外の圃場や、潅水を行なう屋内の圃場のいずれにおいても、ダニ類の生息に最適な環境を提供することができるという効果を有する。この結果、ダニ類を誘引する効果が高まり、ダニ類の発生状況をより正確に把握できるという効果を有する。
また、請求項1記載の害虫誘引装置は構造が極めてシンプルであるため、作製に係るコストを安価にすることができ、しかも、保管や搬送時に特別な注意を要さないという効果を有する。そして、請求項1記載の害虫誘引装置においてシート部以外の部分は、洗浄するだけで繰り返し使用することが可能であるため、圃場内におけるダニ類の発生状況を調査する際の廃棄物の量を少なくできるという効果を有する。このため、作物の生産時における環境への負荷を低減できるという効果を有する。
また、請求項4記載の天敵放飼装置は構造が極めてシンプルであるため、作製に係るコストが安価となり、しかも、保管や搬送が容易であるという効果を有する。そして、請求項1記載の天敵放飼装置は、洗浄するだけで繰り返し使用することが可能であるため、天敵を用いて害虫を駆除する際のコストを安価にできる。しかも廃棄物がほとんど発生しないので、作物の生産時における環境への負荷を低減できるという効果を有する。また、害虫の駆除に薬剤を使用しないので、安全な農作物を提供できるという効果を有する。
しかしながら、何らかの原因でこのバランスが崩れてしまうと、天敵による害虫の防除機能が十分に働かず、害虫が一方的に増殖してしまい、害虫であるコナダニ類が餌を求めて土壌中から地上に進出すると、農作物を食害したり、繁殖場所として農作物を利用するので農作物に被害が発生するのである。
また、害虫であるコナダニ類の増加は、突発的でかつ局所的であるため、害虫による加害から農作物を守るためには、圃場の複数箇所において土壌中生息するコナダニ類の個体数を定期的に調査し、土壌中において害虫の発生が認められた場合に直ちに対策を講じる必要がある。
図1は本発明の実施例1に係る害虫誘引装置の概念図である。また、図2(a)は本発明の実施例1に係る害虫誘引装置の設置状態を示す概念図であり、(b)は図2(a)中の符号A−A線における矢視断面図である。
図1に示すように、本発明の実施例1に係る害虫誘引装置1は、遮水性を備える上板2の下面に、やはり遮水性を有する下板3が設けられ、この下板3の外縁の一部が固定部4により上板2の下面に取設されるものである。また、この固定部4はヒンジとしても作用し、下板3は、外縁3aを基軸に上板2の下面から離れる方向に回動可能に構成されている。もちろん、上板2の下面に回動軸を設け、下板3の外縁3aに回動軸に懸架する部材を設けて、下板3を回動可能としてもよい。
なお、図1に示すように、上板2は、断熱材2aとその上面側を被覆する反射部2bにより構成されている。そして、この反射部2bは必ずしも設ける必要はないのであるが、反射部2bを備える場合には、害虫誘引装置1に照射される光を反射して害虫誘引装置1の温度上昇を好適に防止できるという効果を発揮する。
また、断熱材2aとしては、合成樹脂性の発泡体や、木質材料からなる板材が適している。
そして、上板2と下板3の間には、吸湿性又は保湿性あるいはこの両方を備えるシート部6が着脱可能に挟装されており、シート部6の表面又は裏面にはコナダニ類の好む餌8が添加されている。
なお、餌8はシート部6の表面又は裏面に直接添加してもよいし、例えば、図1に示すように、シート部6の表面又は裏面に粘着部7を設け、この粘着部7の表面に餌8を付着させてもよい。
また、不意に下板3が回動して上板2と下板3の間に挟装されるシート部6が落下したり位置ずれすることがないように、仮止め部5を設けておき、下板3を上板2の下面に固定してもよい。
なお、仮止め部5の固定方法は、粘着テープから成る仮止め部5を用いて上板2の下面に下板3を固定してもよいし、害虫誘引装置1を切り返し使用する場合には、上板2の厚み部分に図示しない切れ目を設けておき、仮止め部5をこの切れ目部に差込んで下板3を上板2の下面側に固定してもよい。
そして、上述のような構成の害虫誘引装置1は、図2(a),(b)に示すように、圃場12の地表面10上に、上板2により下板3及びシート部6が被覆されるように設置し、さらに、風などで飛んでしまわないように、上板2の上面側に、例えば、石などのおもり9を載せて固定すればよい。
さらに、上板2は断熱材2aと反射部2bにより構成されているため、日照時には反射部2bにおいて熱や光が反射されて害虫誘引装置1の温度上昇が妨げられ、日没時には断熱材2aの保温効果により、上板2の下面の急激な温度の低下が妨げられる。この結果、上板2の下面では日照時と日没時の温度変化を小さくできるという効果が発揮されるのである。
このように、一日を通じて温度の変動が小さく、しかも湿度が高い環境は、コナダニ類の生息には最適である。
また、コナダニ類は高湿度な環境を好む一方で、液体の水を嫌う性質がある。これは、コナダニ類は1mm以下の微小な動物であるため、一端液体の水に体が触れてしまうと、水の表面張力に逆らって脱出することが極めて困難であり、溺死してしまうためである。
そこで、本発明の実施例1に係る害虫誘引装置1においては、上板2の下面に下板3を設け、上板2と下板3の間に吸湿性を備えるシート部6を挟装することで、上板2の下面において水蒸気が水滴にならないよう工夫している。
そして、このようなシート部6の周辺は、コナダニ類が十分身を隠すことができる程度に狭くて、温度変化の少ない高湿度状態となっており、しかも、液体の水が存在しない環境なので、コナダニ類が最も好む環境であるといえる。
つまり、地中11に生息するコナダニ類が生息に適した環境を求めて害虫誘引装置1に集まってくるのである。
なお、シート部6には吸湿性を有するシート状の繊維体が適している。また、シート部6には、ろ紙や画用紙等のような湿気を含んだ場合でも破れにくい紙が最適である。
さらに、本発明の実施例1に係る害虫誘引装置1においては、シート部6の表面又は裏面にコナダニ類が好む餌8を添加することで、コナダニ類の誘引効果を一層高めている。
なお、コナダニ類は通常土壌中に繁殖する雑菌等を餌としている。このため、餌8としては、例えば、コナダニ類が直接餌にできる雑菌類が望ましく、たとえば、乾燥酵母が適している。これ以外にも、餌8としては、コナダニ類が直接餌にしないものの、コナダニ類の餌となる雑菌の繁殖源となることで間接的にコナダニ類の餌となる、例えば、タンパク質や脂質および糖質や炭水化物を主成分とする米ぬかや、もみ殻、オニオンパウダー等の雑菌が繁殖しやすいものでもよい。以下、他の実施例においても同様である。
そして、図3に示すように、圃場12の地表面10上に一定間隔ごとに本発明の実施例1に係る害虫誘引装置1を設置しておき、設置後1〜3日を経過してから、害虫誘引装置1からシート部6を取り出して、餌8を添加した面に誘引されたダニ類の種類や個体数を肉眼で観察することで、土壌中のコナダニ類の個体数を把握することができるのである。
また、シート部6に誘引されるダニ類は、主に害虫とされるコナダニ類であるが、シート部6にはこのコナダニ類を捕食する天敵も誘引することができる。このため、シート部6に誘引される害虫に加え、天敵の個体数についても調べることで、実際に害虫を防除するための手段を講じる必要があるか否かの判断材料にすることができる。
なお、通常、害虫であるコナダニ類の体色は白やクリーム色である。このため、シート部6に誘引されるコナダニ類の視認を容易にするためには、餌8を添加する面の色が、害虫であるコナダニ類の体色と異なる色であることが望ましく、さらに望ましくは、シート部6上において害虫であるコナダニ類がより目立つように、餌8を添加する面の色を、害虫の体色に対して補色となるような、例えば、黒色や紺色、あるいは、深緑色等の鈍色系の色にすることが望ましい。
これは、上板2の外縁と下板3の外縁が近接しないようにするための工夫である。つまり、万一、上板2の外縁と下板3の外縁が近接している場合には、毛細管現象により上板2と下板3のすき間に水が流れ込みやすくなってしまい、コナダニ類の生息に不適な環境になってしまうのである。
そこで、下板3の外形寸法よりも上板2の外形寸法を大きく設定し、上板2の下面側略中央部に下板3を配置することで、上板2の外縁と下板3の外縁との距離を大きく設定することができ、この結果、上板2の側面を伝って流れる水が、上板2と下板3との隙間に流れ込み難くなり、この隙間をコナダニ類の生息に最適な環境にできるという効果を発揮するのである。
これに加えて、上板2の下面側中央部近傍は外気温が変動しても、温度が変化し難いので、この点からもコナダニ類の生息に最適な環境であると言える。
また、害虫誘引装置1の構造は極めてシンプルであり、しかも、シート部6以外の部分は洗って何度でも使用可能であるため、コナダニ類の個体数を調査する際にかかる手間やコスト、そして廃棄物を削減することができるという効果を有する。この結果、作業者の負担と環境への負荷を削減できるという効果を有する。
また、地中11における、コナダニ類の発生をいち早く把握することで、害虫による農作物への被害が発生する前に有効な対策を講じることができるという効果を有する。この結果、散布する農薬の量を少なくすることができ、農作物への害虫の被害を最少にすることができる。そして、農作物の商品価値を高めることができるのである。
本発明の実施例2に係る天敵放飼装置14は、上述の害虫誘引装置1と同様に、圃場12内に、ダニ類の天敵の生息に最適な環境を人工的に提供することで、ダニ類の天敵を大量に繁殖させることを目的としたものである。
図4に示すように、本発明の実施例2に係る天敵放飼装置14は主に、実施例1に係る害虫誘引装置1と同様の、上板2とその下面側に設けられる下板3及びシート部6により構成され、シート部6の上面又は下面には天敵を繁殖させるための餌8が添加されており、このような天敵放飼装置14は、実施例1において述べたように温度変化の少ない高湿度状態となるので、このような環境を好むダニ類の天敵の生息に最適である。
よって、餌8が添加されたシート部6に天敵を放飼することで、天敵放飼装置14において害虫の天敵を大量に繁殖させることができるのである。
なお、実施例2に係る天敵放飼装置14においても、実施例1に係る害虫誘引装置1の場合と同じ理由により、上板2の外形寸法が下板3の外見寸法よりも大きく設定されている。
なお、この場合には、それぞれの天敵の繁殖に適した餌8をシート部6の表面又は裏面に添加する必要がある。また、天敵放飼装置14に生きた餌8を添加して天敵を繁殖させ、天敵農薬として使用する際には、天敵の餌8として添加する生物が、天敵放飼装置14を設置する圃場やその近辺で栽培される作物に害が及ばないよう留意する必要がある。
以下の表1に、作物に害を及ぼす害虫とその天敵、さらにその天敵を繁殖させるためにシート部6に添加する餌8をまとめた。
また、作物の害虫がコナダニ類でない場合には、つまり、上記表1に示すように、害虫がハダニ類やアザミウマ類である場合には、天敵放飼装置14のシート部6に天敵を繁殖させる餌8としてコナダニ類自体を添加することができる。このとき、ハダニ類の天敵であるカブリダニ類やアザミウマ類も併せてシート部6の表面又は裏面に添加する必要がある。
このように、作物を加害しない天敵の補足虫を生きた状態でシート部6に添加することで、肉食性の天敵の繁殖性を高めることができるという効果を有する。
また、カブリダニ類は、コナダニ類以外にもハダニ類やアザミウマ類の天敵でもあり、これらを捕食して駆除する。従って、本実施例に係る天敵放飼装置14は多用な害虫に対して複合的な害虫駆除効果を期待できるカブリダニ類を容易に大量に、しかも持続的に繁殖させることが可能であり、低農薬で高品質な作物の生産安価に生産できるという優れた効果を有する。
このように、目的に応じて天敵放飼装置14のシート部6に添加する餌8及び天敵を選択することで、天敵放飼装置14を用いた害虫の駆除効果を高めると同時に、害虫の駆除効果に持続性を付与することができるという効果を発揮するのである。
この場合、上板2と下板3との隙間に、シート部6を構成する多孔体、起毛体、又は繊維集合体のいずれか1つ又はその組み合わせを挟装することで、天敵が身を隠したり繁殖したりするのに最適な空間を提供できるという効果を有する。
またシート部6は、シート部6自体が吸湿性や保湿性を備えていない場合でも、シート部6の上面及び下面は、遮水性を備える上板2と下板3で被覆されており、また、シート部6近傍では空気の流動が起こりにくく、しかも、このようなシート部6を備える天敵放飼装置14を地表10上に設置した際には、地表10から常時湿気がシート部6に供給されるので、天敵の繁殖に適した高湿な環境にすることができるという効果を有する。
また、上述のような実施例2に係る天敵放飼装置14は、実施例1に係る害虫誘引装置1とは異なり厚みを有するため、シート部6の外縁部分が外気にさらされると乾燥してしまい、天敵の繁殖に最適な環境が保たれなくなる可能性がある。そこで、シート部6の外縁部分の乾燥を防ぎ、さらに雨水等の水滴がシート部6の外縁部分に付着するのを防止できるよう、シート部6の側面を被覆する支持部15が上板2の下面側に設けられている。
さらに、支持部15を設けた場合に、シート部6が外界から隔絶されてシート部6で繁殖した天敵が圃場内へ移動不能となったり、あるいは、餌8で天敵の餌となるコナダニ類をシート部6に誘引する際に、コナダニ類がシート部6に進入不能になってしまわないよう、支持部15の側面には、天敵放飼装置14の外部環境とシート部6を結ぶ図示しない複数の貫通孔が設けられており、シート部6で繁殖した天敵や、シート部6に誘引されるコナダニ類が通行可能に構成されている。なお、図示しないが、支持部16は上板2の下面から地表10へと伸びる複数の突起でもよい。
そして、図5に示すように、本発明の実施例2に係る天敵放飼装置14も、上板2でシート部6及び下板3を被覆するようにして圃場12の地表面10上に設置し、さらに、風などで飛んでしまわないように上板2の上面側に、例えば、石等のおもり9を載せておけばよい。
また、実施例2に係る天敵放飼装置14において、シート部6以外の部分は洗浄して繰り返し使用することが可能であり、天敵を用いた害虫の防除に係る手間やコスト、そして廃棄物を削減することができるという効果を有する。この結果、作業者の負担と環境への負荷を削減できるという効果を有する。さらに、薬剤を使わずに、害虫を駆除することができるので、安全性の高い農作物を提供できるという効果も有す
る。
特にシート部6に、たとえば、合成樹脂性の多孔体、又は起毛体、又は繊維集合体を使用した場合には、シート部6も洗浄することで繰り返し使用することが可能である。
また、シート部6に、たとえば、綿や麻等の天然原料から成る多孔体、又は起毛体、又は繊維集合体を使用した場合には、シート部6の吸湿性や保湿性を一層高めることができるという効果を有する。
この度の試験は、実施例1に係る害虫誘引装置1におけるダニ類の誘引効果を調査する目的で、先に説明した非特許文献2に記載の「コナダニの個体数調査法」と、本発明の実施例1に係る害虫誘引装置1を用いたコナダニの個体数調査を同時に行いそれぞれの調査結果の相関性を調査した。
まず、試験方法について説明する。
本試験は、2005年6月から10月にかけて、山口県周南市の雨よけホウレンソウ栽培をしている農家5軒の計7つのビニルハウスにおいて、非特許文献2に記載のコナダニの個体数調査法と、本発明の実施例1に係る害虫誘引装置1を用いたコナダニの個体数調査の比較試験を合計9回行なった。
そして、それぞれの調査日には、非特許文献2に記載の方法によりコナダニの個体数調査を実施するため、調査対象のビニルハウス脇付近の土壌を約80cc採取した。さらに、直径9cmの円形ろ紙を1.4mLの水で湿らせ、表面に乾燥酵母0.2gを添加したものを2つ折にしてその縁部をクリップで留めたもの(以下、ろ紙トラップと呼ぶ)を予め準備しておき、このろ紙トラップと、持ち帰った土壌サンプルを17cm×27cmのビニル製の袋内に入れて密封し、常温で1日放置した。
その後、ろ紙トラップをビニル袋から取り出し、実態顕微鏡でコナダニ類の密度を計測した。
そして、非特許文献2に記載の方法による調査を実施するために土壌の採取を行なった場所に隣接した場所に、上述のような実施例1に係る害虫誘引装置1を設置し、1日経過してから回収してシート部6に誘引されたコナダニ類の密度を肉眼で計測した。
また、非特許文献2に記載の方法及び、実施例1に係る害虫誘引装置1を用いた調査方法のそれぞれにおいて、調査対象1地点当たり3箇所でコナダニの密度調査を実施し、得られた数値の平均値を求めてその地点におけるコナダニの誘引数とした。
以上説明したような、非特許文献2に記載の方法による調査結果、及び実施例1に係る害虫誘引装置1を用いた調査結果は以下の表2に示すとおりである。
上述の表2に示すように、非特許文献2に記載の方法によるコナダニの誘引数の合計は37.1頭であった。これに対し、本発明の実施例1に係る害虫誘引装置1を用いた場合のコナダニの誘引数の合計は118.7頭であった。
本発明の実施例1に係る害虫誘引装置1を用いた方法では、非特許文献2に記載の方法に比べて誘引されたコナダニの個体数が大幅に多かった。
そして、調査結果を詳細に比較したところ、本発明の実施例1に係る害虫誘引装置1を用いた場合では、ビニルハウス内の土壌が雨又は潅水により加湿状態にある場合のコナダニの誘引数が特に多い傾向が認められた。
これは、非特許文献2に記載の方法では、ビニルハウス内の土壌が雨又は潅水により加湿状態の場合、ろ紙トラップが雨水等で濡れてしまい、水を嫌うコナダニを十分に誘引できなかったためであると考えられる。
そして、非特許文献2に係る方法を用いた場合の調査結果と、本発明の実施例1に係る害虫誘引装置1を用いた場合の調査結果が一致する割合、すなわち、適合率は90.7%と極めて高かった。
また、非特許文献2に記載の方法を用いた調査結果と、本発明の実施例1に係る害虫誘引装置1を用いた調査結果の相関係数は0.87であり、特に、この調査結果から「雨又は潅水による加湿状態」時のデータを除いた場合の相関係数は0.92であった。
よって、非特許文献2に記載の方法を用いたコナダニの個体数調査結果と、実施例1に係る害虫誘引装置1を用いたコナダニの個体数調査結果の間には高い相関関係が認められると言える。
従って、本発明の実施例1に係る害虫誘引装置1を用いることで、信頼性の高いコナダニの個体数調査結果が得られると言える。
Claims (6)
- 植物を栽培する圃場に設置され害虫であるダニ類を誘引する害虫誘引装置であって、遮水性を備える平板状の上板と、前記上板の下面側に配置され遮水性を備える平板状の下板と、この下板を前記上板の下面に取設する固定部と、前記上板と前記下板の間に着脱可能に挟装されるシート部とを有し、
前記下板および前記シート部の平面寸法は、前記上板の平面寸法よりも小さく、
前記シート部の表面又は裏面の少なくとも一方には前記害虫を誘引するための餌が供給されることを特徴とする害虫誘引装置。 - 前記上板は、断熱材により構成されることを特徴とする請求項1記載の害虫誘引装置。
- 前記シート部の前記餌の付着部表面の色は、誘引する害虫の体色と異なることを特徴とする請求項1記載又は請求項2に記載の害虫誘引装置。
- 植物を栽培する圃場に設置され害虫であるダニ類を捕食する天敵を繁殖させるための天敵放飼装置であって、遮水性を備える平板状の上板と、前記上板の下面側に配置され遮水性を備える平板状の下板と、この下板を前記上板の下面に取設する固定部と、前記上板と前記下板の間に着脱可能に挟装されるシート部とを有し、
前記シート部の表面又は裏面の少なくとも一方には前記天敵を繁殖させる餌及び天敵が供給されることを特徴とする天敵放飼装置。 - 前記シート部は、多孔体、起毛体、又は繊維集合体のうち、いずれか1つ又はその組み合わせであることを特徴とする請求項4記載の天敵放飼装置。
- 前記下板および前記シート部の平面寸法は、前記上板の平面寸法よりも小さいことを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の天敵放飼装置。
Priority Applications (1)
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