JP4252746B2 - 軟骨無形成症治療剤 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、軟骨無形成症の治療剤及び治療方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
軟骨無形成症(achondroplasia)は、胴体に比べて手足が短いという四肢短縮型小人症の原因として最も一般的な先天性の疾患である。四肢管状骨の長径成長障害のほか、頭蓋骨が大きく前頭部に突出する、鼻が低い顔貌という身体的特徴と、X線写真により診断される。発症は、1万人〜2万5千人に一人といわれている。この疾患は、常染色体優性遺伝疾患であるが、症例の80〜90%は散発的に認められる。治療は、股関節の人工関節置換や脚延長術などの整形外科手術、成長ホルモンの投与がある。脚延長術は、10歳以降に骨を切って特殊な機械(脚延長器)により、半年くらいかけて徐々に身長を伸ばすが、この手術は患者に大きな苦痛を与える。また、成長ホルモン療法は幼児期から定期的な成長ホルモン注射により身長の伸びは改善するが、注射を止めると伸びは止まってしまう。いずれの治療法も病気を治すものではなく、患者のQOLの観点からも理想的ではないと考えられており(American Jounal of Medical Genetics 72: 71-76, 1997; European Jounal of Endocrinology 138: 275-280, 1998)、新しいメカニズムに基づく軟骨無形成症治療薬の開発が望まれている。
【0003】
近年になって、軟骨無形成症を患う患者では、染色体4p16.3に存在する繊維芽細胞増殖因子レセプター3(FGFR3)に突然変異が認められることが報告され、現時点で2種類の変異が知られている。これらの突然変異のうち、97%がG1138A(1138番目のGがAに変異)、2.5%がG1138C(1138番目のGがCに変異)であり、その結果、いずれも380位のアミノ酸がGlyからArgへ置換(G380R)している(Nature 371: 252-254, 1994; Cell 78: 335-342, 1994)。この変異と軟骨無形成症との関連を調べるために、ヒトの軟骨無形成症の動物モデルとして、G380R型変異FGFR3(以下においてFGFR3achということもある)のトランスジェニックマウスが作製され、四肢の短縮と頭蓋顔面骨の低形成が認められた(Development. 125: 4977-4988, 1998)。
【0004】
一方、ナトリウム利尿ペプチド(NP)類は、ANP(心房性ナトリウム利尿ペプチド)、BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)、及びCNP(C型ナトリウム利尿ペプチド)の3種類からなり、2種類のグアニリルシクラーゼ共役受容体(ANP及びBNPに対するGC-A受容体、CNPに対するGC-B受容体)を介して、細胞内cGMP濃度を上昇させることにより、生物学的活性を示すと考えられている(Annu. Rev. Biochem. 60:229-255, 1991)。NP類は、体液の恒常性の制御や血圧の調節に重要な役割を果たすと報告されているが(J. Clin. Invest. 93:1911-1921, 1987; J. Clin. Invest. 87:1402-1412, 1994)、心臓血管系以外の様々な組織での発現とその生理活性も知られている(Endocrinology. 129:1104-1106, 1991; Annu. Rev. Biochem. 60:553-575, 1991)。その一つに骨の成長因子としての役割がある。マウス胎仔の脛骨器官培養において、CNPは長骨の成長を著しく促進させる(J. Biol. Chem. 273:11695-11700, 1998)。また、CNPは、マウス胎仔の脛骨の器官培養や、軟骨培養細胞や、骨芽細胞培養細胞で、ANPやBNPよりもcGMP産生能が高い(J. Biol. Chem. 269:10729-10733, 1994; Biochem. Biophys. Res. Commun. 223:1-6, 1996; Biochem. Biophys. Res. Commun. 215: 1104-1110, 1995)。更に、CNP及びその受容体であるGC-Bは、骨の成長板で発現している(J. Biol. Chem. 273:11695-11700, 1998; Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 95: 2337-2342, 1998)。また、CNPを軟骨特異的に発現するトランスジェニックマウスにより、CNPの成長板軟骨層増大作用が見出されている(八十田他, 第72回日本内分泌学会学術総会抄録、1999)。
【0005】
また、CNPのノックアウトマウスが小人症になることから、CNPと小人症との関係が指摘されている(Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 98: 4016-4021, 2001)が、FGFR3の変異に起因する軟骨無形成症との関連については記載されておらず、またCNPがFGFR3の変異に起因する軟骨無形成症に有効であるとの確証は全く得られていない。即ち、FGFR3の変異が軟骨無形性症に関連すること、及びCNPが軟骨形成に関与することは知られているが、これら両者の関連、特にFGFR3とCNPのいずれが内軟骨骨化の調節経路において上流に位置するのかという点、及びCNPが軟骨無形成症治療効果をもつかどうかについては現在までに知られていない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、FGFR3の変異に起因する軟骨無形成症の新しい治療剤及び治療方法を提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、グアニリルシクラーゼB(GC-B)を活性化する物質(例えばCNP)が軟骨形成に関わる疾患に適応できるのではないかとの予想のもとに、適当な軟骨不全症モデルを探し、その動物モデルとCNP-トランスジェニックマウスを交配して得られるダブルトランスジェニックマウスを作製して、その軟骨不全の症状が回復できるかどうかを検証することにした。上述したように、ヒトの軟骨無形成症の動物モデルとして、G380R型変異FGFR3(FGFR3ach)のトランスジェニックマウスが作製され、四肢の短縮と頭蓋顔面骨の低形成が認められていた(Development. 125: 4977-4988, 1998)。そこで、上記FGFR3ach-トランスジェニックマウスを入手して、本発明者らが作製したCNP−トランスジェニックマウスを交配して、CNP/FGFR3ach-ダブルトランスジェニックマウスを作製したところ、CNPがFGFR3achによる骨の成長抑制を回復できることを見出し、CNPによる軟骨無形成症の治療剤及び治療方法に関する本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、グアニリルシクラーゼB(GC-B)を活性化する物質を有効成分として含有する、繊維芽細胞増殖因子レセプター3(FGFR3)遺伝子の変異による軟骨の成長抑制に起因する軟骨無形成症治療剤、及びグアニリルシクラーゼB(GC-B)を活性化する物質を投与することからなる軟骨無形成症の治療方法を提供する。
【0009】
本発明において、「繊維芽細胞増殖因子レセプター3(FGFR3)遺伝子の変異による軟骨の成長抑制に起因する軟骨無形成症」というときは、FGFR3遺伝子の変異によるFGFR3の機能亢進、機能抑制不全、又はFGFR3遺伝子の発現亢進などを原因とする軟骨無形成症をいい、軟骨無形成症(achondroplasia)は軟骨形成不全症と同義の言葉として使用する。また、本明細書で、FGFR3achは、FGFRの380位のアミノ酸であるGlyからArgへの置換(G380R)変異を持つ繊維芽細胞増殖因子レセプター3(FGFR3)を示し、この変異はFGFR3の機能亢進をもたらすことが知られている(Development. 125: 4977-4988, 1998)。
【0010】
本発明において、「グアニリルシクラーゼBを活性化する物質」とは、CNP(C型ナトリウム利尿ペプチド)の受容体として知られているGC-Bと結合してこれを活性化する物質(ペプチド又は低分子化合物)であり、好ましいものは、CNP(C型ナトリウム利尿ペプチド)様活性を有する物質(ペプチド又は低分子化合物)である。例えば、哺乳類由来CNP(CNP-22:Biochem. Biophys. Res. Commun. 168, 863-870, 1990、WO91/16342、CNP-53(Biochem. Biophys. Res. Commun. 170, 973-979, 1990、特開平4-74198、特開平4-139199)、鳥類由来CNP(特開平4-120094)、両生類由来CNP(特開平4-120095)及びCNP類似体ペプチド(特開平6-9688)等が挙げられるが、好ましくは哺乳類由来CNP、更に好ましいのは、CNP-22である。また、「グアニリルシクラーゼBを活性化する物質」を同定する方法としては、例えば、COS-7等の培養細胞にGC-B受容体を発現させておき、目的の物質(ペプチド又は低分子化合物)を培地に添加してから一定の温度及び一定の時間後(例えば37℃、5分後)に、細胞抽出液中のcGMPの濃度を測定する方法(Science 252, 120-123, 1991)等がある。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明者らが作製したCNP-トランスジェニックマウスは、内軟骨性骨化による骨の長軸方向の過成長に伴い体長が長くなっていた。このCNP-トランスジェニックマウスの更なる解析の結果、成長板の組織化学的解析により、1)増殖軟骨細胞層及び肥大軟骨細胞層の両方の伸長により成長板の厚さが増していた、2)増殖軟骨細胞層の細胞外マトリクスが増大していた、3)成熟肥大軟骨細胞の大きさが増大していた。これらの事実は、CNP-トランスジェニックマウスの成長板の肥大軟骨細胞層においてBrdUrd染色で示される軟骨細胞の増殖の明らかな変化が観察されないという事実とあいまって、CNPは、成長板の軟骨細胞の分化あるいは増殖のコミットメントに寄与するというよりは、成長板の各分化段階における軟骨細胞の分化形質の発現を促進していることを示している。これは、CNP-トランスジェニックマウスの成長板における肥大軟骨細胞のtype XコラーゲンのmRNAの発現が、野生型同腹マウスの場合に比べて、その発現する細胞領域は拡大しているにもかかわらず、同程度の濃さであったという事実により支持される。因みに、膜性骨化による頭蓋骨の幅は、CNP-トランスジェニックマウスで変化していない。これは、CNPが、頭蓋骨で発現していないか、膜性骨化の過程に関与していないことを示している。
【0012】
Ex vivoの器官培養の実験は、成長板CNPの作用機作についての更なる情報を提供してくれた。CNP-トランスジェニックマウスの培養脛骨における、拡張した細胞外マトリクスを伴った軟骨原基の伸長の程度と、肥大軟骨細胞の大きさの拡大の程度は、野生型同腹マウスの培養脛骨に10-7Mの濃度でCNPを添加したときと同様であった。この組織学的変化は、非ペプチド性NP受容体アンタゴニストであるHS-142-1(Circ. Res. 78: 606-614, 1996)を添加したことにより完全に抑制されたが、野生型同腹マウスの培養脛骨に10-7Mの濃度でCNPを添加したときと場合のHS-142-1を添加による抑制と同様であった。これらの結果は、CNP-トランスジェニックマウス由来の培養脛骨では、CNPの第二次メッセンジャーであるcGMPの産生が増加するという事実とあいまって、成長板軟骨のin vivoにおける表現形に変化を及ぼすようにCol II-CNP導入遺伝子(実施例1に記載するマウスCNP cDNA断片を、マウスプロコラーゲンa1 type II (Col 2a1)プロモーター領域DNA断片に挿入した遺伝子)が十分に機能していることを示している。CNP-トランスジェニックマウスの培養脛骨における35Sの取り込みの増加であらわされる細胞外マトリクスの合成の増加は、CNP-トランスジェニックマウスの成長板の細胞外マトリクスの増大と矛盾がない。従って、CNP-トランスジェニックマウスの成長板の増大の機序を説明できる。CNP-トランスジェニックマウスで観察される骨端の海綿骨の伸長は、軟骨から石灰化骨への置き換えがスムースに行われていることを示している。これらの実験により、CNPの内軟骨成骨化における重要性が明らかとなった。
【0013】
次に、G380R型変異FGFR3(FGFR3ach)のトランスジェニックマウスを入手(米国ワシントン大学David M. Ornitz教授より入手)し、CNP-トランスジェニックマウスを交配して、CNP/FGFR3ach -ダブルトランスジェニックマウスを作製した。CNP/FGFR3ach -ダブルトランスジェニックマウスでは、CNP-Tg遺伝子もFGFR3 ach-Tg遺伝子も、成長板の静止軟骨細胞層と増殖軟骨細胞層で発現しており、FGFR3ach-トランスジェニックマウスの小人症の症状が目に見えて回復していた。ちなみに、内在性のCNP、GC-B及びFGFR3は増殖軟骨細胞層と前肥大軟骨細胞層に発現していた。
【0014】
本発明の効果は図6に最も端的に示されている。図6Aは、上からそれぞれ、3ヶ月齢の野生型同腹マウス、CNP-トランスジェニックマウス、FGFR3ach-トランスジェニックマウス、CNP/FGFR3ach-ダブルトランスジェニックマウスの全体の外観を示し、また図6Dは、それらの骨格の概観を示す。CNP/FGFR3ach-ダブルトランスジェニックマウスの鼻−肛門長は、野生型同腹マウスとほぼ同等であり、FGFR3ach-トランスジェニックマウスで観察される四肢の短縮がCNPの過剰発現により回復できることを示している。
【0015】
CNPがFGFR3ach-トランスジェニックマウスの小人症の症状を回復させていることからCNPは少なくとも大部分では、内軟骨骨化の調節経路においてFGFR3よりも上流に位置していることはないと考えている。FGFR3ach-トランスジェニックマウスの短縮した成長板がCNPの過剰発現により、増殖軟骨細胞層と肥大軟骨細胞層の両方が伸長したが、部分的な組織学的特徴は、野生型同腹マウスのものとは異なっていた。増殖軟骨細胞層と肥大軟骨細胞層の両方の細胞外マトリクスが増大し、肥大軟骨細胞の配置構造が乱れたり、肥大軟骨細胞の大きさが増大していた。過剰発現したCNPがFGFR3ach-トランスジェニックマウスの二次骨化中心の形成遅延に影響を与えていないので、CNPがFGFR3のように、軟骨細胞の分化のコミットメントに関与しているのではなく、各分化ステージの軟骨細胞の遺伝子発現を促進している。つまり、CNPが内軟骨骨化を調節している経路は、FGFR3の経路とは同一ではないと思われる。
【0016】
更に、マウス軟骨細胞株を用いて、CNPとFGFR3との相互作用をin vitroで検討したところ、CNP/GC-B系とbasic FGF/FGFR3系(basic FGF はFGFR3のリガンドである)が軟骨細胞において相互に細胞内情報伝達に影響していることが明らかとなった。
【0017】
本発明者らは、上述した特定の理論に拘束されるものではないが、以上の結果から、CNPとFGFR3の内軟骨骨化の調節機構は異なるが、FGFR3ach-トランスジェニックマウスの成長遅延はCNPの過剰発現によって回復されることを確認した。従って、軟骨無形成症の患者の治療を目的としてCNPが長管骨の成長の促進医薬として治療効果を持つことが示唆され、本発明に至った。知られている軟骨無形成症の主たる原因は、FGFR3遺伝子の変異によるFGFR3の機能亢進であるが、FGFR3の機能抑制不全やFGFR3遺伝子の発現亢進を原因とする軟骨無形成症症状の可能性も考えられる。これらの軟骨無形成症に対して、GC-Bを活性化すること、そのリガンドであるCNPの遺伝子発現、蛋白質発現、蛋白質の機能を促進すれば、新しい治療剤となり得る。また、CNPの遺伝子発現の促進に関しては、内在性のCNP遺伝子の発現亢進の場合もあるし、外来性のCNP遺伝子を生体内に導入することによる遺伝子治療も考えられる。
【0018】
本発明の軟骨無形成症用治療剤は、GC-Bを活性化する物質を有効成分として含み、さらに通常の製剤化の際に用いられる担体や賦形剤、その他の添加剤を用いて調製される。
【0019】
製剤用の担体や賦形剤としては、例えば、乳糖、ステアリン酸マグネシウム、デンプン、タルク、ゼラチン、寒天、ペクチン、アラビアゴム、オリーブ油、ゴマ油、カカオバター、エチレングリコールなどやその他常用されるものをあげることができる。
【0020】
経口投与のための固体組成物としては、錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤などが用いられる。このような固体組成物においては、少なくともひとつの有効成分が少なくともひとつの不活性な希釈剤、例えば、乳糖、マンニトール、ブドウ糖、ヒドロキシプロピルセルロース、微結晶性セルロース、デンプン、ポリビニルピロリドン、メタケイ酸アルミン酸マグネシウムなどと混合される。組成物は、常法にしたがって不活性な希釈剤以外の添加物、例えば、ステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤、繊維素グリコール酸カルシウムのような崩壊剤、グルタミン酸又はアスパラギン酸のような溶解補助剤を含んでいてもよい。錠剤又は丸剤は、必要によりショ糖、ゼラチン、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートなどの糖衣や胃溶性又は腸溶性物質のフィルムで被覆してもよいし、2つ以上の層で被覆してもよい。さらに、ゼラチンのような吸収されうる物質のカプセルも含まれる。
【0021】
経口投与のための液体組成物は、薬剤的に許容される乳濁剤、溶液剤、懸濁剤、シロップ剤、エリキシル剤などを含み、一般的に用いられる不活性な希釈剤、例えば精製水、エタノールなどを含んでいてもよい。この組成物は、不活性な希釈剤以外に湿潤剤、懸濁剤のような補助剤、甘味剤、風味剤、芳香剤、防腐剤などを含んでいてもよい。
【0022】
非経口投与のための注射剤としては、無菌の水性又は非水性の溶液剤、懸濁剤、乳濁剤が含まれる。水性の溶液剤、懸濁剤としては、例えば、注射用水及び注射用生理食塩液が含まれる。非水性の溶液剤、懸濁剤としては、例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油のような植物油、エタノールのようなアルコール類、ポリソルベート80(登録商標)などが含まれる。このような組成物は、さらに防腐剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤、安定化剤(例えば、乳糖)、溶解補助剤(例えば、グルタミン酸、アスパラギン酸)のような補助剤を含んでいてもよい。これらは、例えば、精密ろ過膜によるろ過滅菌、高圧蒸気滅菌のような加熱滅菌、あるいは、殺菌剤の配合などの通常の滅菌方法によって無菌化することが可能である。注射剤は溶液製剤であっても、使用前に溶解再構成するために凍結乾燥したものであってもよい。凍結乾燥のための賦形剤としては例えばマンニトール、ブドウ糖などの糖アルコールや糖類を使用することが出来る。
【0023】
また、本発明の治療剤を遺伝子治療に用いる場合にはウイルスベクター、好ましくはレンチウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、更に好ましくはアデノウイルスベクター、又は化学合成リポソーム、ウイルスエンベロープ、若しくはウイルスエンベロープと合成リポソームの複合体等公知の遺伝子治療に適した媒体に、宿主細胞内で機能するようなプロモーター配列、例えばサイトメガロウイルスプロモーター(CMV promoter)等、の下流に、GC-Bを活性化する物質、例えばCNPに係る核酸を組み込んだものを用いることができる。
【0024】
本発明の軟骨無形成症用治療剤は、医薬に一般に使用されている投与方法、例えば、経口投与方法、又は非経口投与方法によって投与するのが好ましい。有効成分がGC-Bアゴニスト抗体である場合には通常非経口投与経路で、例えば注射剤(皮下注、静注、筋注、腹腔内注など)、経皮、経粘膜、経鼻、経肺などで投与されるが、経口投与も可能である。
【0025】
本発明の製剤中に含まれる有効成分であるGC-Bを活性化する物質の量は、治療すべき疾患の種類、疾患の重症度、患者の年齢などに応じて決定できるが、一般に0.005μg/kg〜100mg/kgの範囲で投与することができるが、0.025μg/kg〜5mg/kgで投与することが好ましい。
【0026】
本発明の軟骨無形成症治療剤は、成長ホルモンなどの従来の治療剤と組み合わせたり、また股関節の人工関節置換や脚延長術などの整形外科手術と組み合わせて使用することができる。
【0027】
本発明として以下の事項を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
(1)グアニリルシクラーゼB(GC-B)を活性化する物質を有効成分として含有する、繊維芽細胞増殖因子レセプター3(FGFR3)遺伝子の変異による軟骨の成長抑制に起因する軟骨無形成症治療剤。
(2)肥大軟骨細胞を肥大化させること及び増殖軟骨細胞層の細胞外マトリクスを増大させることにより軟骨の成長抑制を回復する、上記(1)記載の治療剤。
(3)GC-Bを活性化する物質がペプチドである上記(1)又は(2)記載の治療剤。
(4)ペプチドが、C型ナトリウム利尿性ペプチド(CNP)である上記(3)記載の治療剤。
(5)CNPが、CNP-22又はCNP-53である上記(4)の治療剤。
(6)GC-Bを活性化する物質が、低分子化合物であることを特徴とする上記(1)又は(2)記載の治療剤。
(7)GC-Bを活性化する物質を有効成分とする治療剤が、GC-Bを活性化する物質の遺伝子発現、蛋白質発現、蛋白質の機能を促進させる、上記(1)又は(2)記載の治療剤。
(8)GC-Bを活性化する物質を有効成分とする治療剤が、CNPの遺伝子発現、CNP蛋白質発現、CNP蛋白質の機能を促進させる、上記(1)又は(2)記載の治療剤。
(9)グアニリルシクラーゼB(GC-B)を活性化する物質を投与することを含む、繊維芽細胞増殖因子レセプター3(FGFR3)遺伝子の変異による軟骨の成長抑制に起因する軟骨無形成症の治療方法。
(10)肥大軟骨細胞を肥大化させること及び増殖軟骨細胞層の細胞外マトリクスを増大させることにより軟骨の成長抑制を回復する、上記(9)記載の治療方法。
(11)GC-Bを活性化する物質がペプチドである上記(9)又は(10)記載の治療方法。
(12)ペプチドが、C型ナトリウム利尿性ペプチド(CNP)である上記(11)記載の治療方法。
(13)CNPが、CNP-22又はCNP-53である上記(12)の治療方法。
(14)GC-Bを活性化する物質がペプチドをコードする遺伝子(例えばDNA)である上記(9)又は(10)記載の治療方法。
(15)ペプチドが、C型ナトリウム利尿性ペプチド(CNP)である上記(14)記載の治療方法。
(16)CNPが、CNP-22又はCNP-53である上記(15)の治療方法。
(17)ペプチドをコードする遺伝子を直接導入すること又は遺伝子治療に適したベクター(例えば、アデノウイルス由来ベクター)若しくはリポソームに組込んで導入することを含む上記(14)乃至(16)記載の治療方法。
(18)繊維芽細胞増殖因子レセプター3(FGFR3)遺伝子の変異による軟骨の成長抑制に起因する軟骨無形成症治療剤の製造のための上記(3)乃至(6)に記載されている物質の使用。
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明する。
【0028】
【実施例】
実施例1:CNP-トランスジェニックマウス作製用組換え遺伝子の調製
図1Aに示すように、1-126アミノ酸をコードするマウスCNP cDNA断片(489bp; FEBS Lett. 276: 209-213, 1990)を、マウスプロコラーゲンa1 type II (Col 2a1)プロモーター領域DNA断片(6.5kb; Dev. Dyn. 204: 202-210, 1995)に挿入した。このプロモーター領域DNA断片は、HustonのAnderson Cancer CenterのB. de Crombrugghe. M.D.から提供された。また、このプロモーター領域DNA断片は、プロモーター、exon 1、intron 1、人工的なスプライス受容部位を含み、下流のCNP cDNA断片に連結した。さらにこのプロモーター領域DNA断片のexon 1中の翻訳開始コドンは点突然変異にて不活性化してある。ウシ成長ホルモンのポリアデニレーションシグナルを含んだDNA断片(0.3kb)が、CNP-cDNAの下流に連結してある。図1AのNotI/NotI DNA断片(7.3kb)は、受精卵に注入するために精製して、col-CNPDNA溶液として用いた。
【0029】
実施例2:CNP-トランスジェニックマウスの作製
col-CNP DNA溶液(以下、注入用DNA溶液)を注入する受精卵を得るためのマウス(採卵用マウス)は日本クレア株式会社からC57BL/6J純系マウスを購入して使用した。8週齡以上の雌を過排卵処理して8週齡以上の雄と交配させ、多数の受精卵を採取し、M2培地に移し37℃で5% 炭酸ガスインキュベータの中で培養した。次に、DNA注入ピペットを用いて、前記受精卵の雄性前核に2pLの注入用DNA溶液をマイクロインジェクション法により注入した。注入用DNA溶液を注入した受精卵をM16培地に移し、37℃で5% 炭酸ガスインキュベータの中で一夜培養した。注入用DNA溶液を注入した受精卵を妊娠・出産・保育させるための雌マウス(仮親マウス)及びそれと交配させる雄マウスはICR近交系マウスを日本クレア株式会社から購入して使用した。精管結紮手術をした8週齡以上の雄マウスは、8週齡以上の雌マウスと交配させ、膣栓のあるものを仮親として使用した。仮親は、ネンブタール注射液(ダイナボット株式会社製品、ペントバルビタールナトリウム、50mg/mL)を希釈液(プロピレングリコール20mL、エタノール10mL、滅菌水70mLの混合液)にて12%に希釈した麻酔薬0.01mL/g体重を腹腔内注射し外科的手術により左右の輸卵管を体外に露出させた。一夜培養した受精卵のうち、2細胞期胚に発生したものを選び、10〜15個ずづ左右の輸卵管内に挿入した後、手術部位を縫合した。仮親は3週間飼育し、出産した場合仔マウスを5週後に、尾を約1cm切断し、染色体DNAをEasy-DNA Kit(Invitrogen社製品)を用いて抽出精製した。この尾DNAを用いて、PCR法により導入遺伝子の存在を確認した。導入遺伝子の存在を確認したマウスは、始祖トランスジェニックマウスとして7週齡に達した後、7週齡以上の野生型C57BL/6Jと自然交配して子孫のトランスジェニックマウスを得た。
【0030】
遺伝子注入実験により、採卵用マウスC57BL/6Jの累計336匹から5278個の卵が得られ、そのうち2280個が受精卵と確認され、注入用DNA溶液を注入した。翌日、1600個(70%)が2細胞期胚に発生し、このうち1476個を累計60匹の仮親の輸卵管に移植した。37匹の仮親が出産し、累計108匹(7%)の仔マウスを出産した。尾DNAのPCR法による導入遺伝子の検定により、累計4匹(4%)の始祖トランスジェニックマウス(雄2匹、雌2匹)が得られた。これらの始祖トランスジェニックマウスは、野生型C57BL/6Jと自然交配して子孫を得たが、2系統(Tg-1055♂, Tg-1077♀)が導入遺伝子を子孫に伝達した。
【0031】
実施例3:CNP-トランスジェニックマウスの遺伝子解析
3-1 トランスジェニックマウスの PCR による遺伝子導入の確認
導入遺伝子の確認は、抽出精製された尾DNAを用いてサザンハイブリダイゼーション法により行った。尾DNA を、制限酵素SacIで消化し、32P-標識 CNP cDNA断片(526bp)を用いてサザンハイブリダイゼーションを行い、導入遺伝子は2.1kbのバンドを、内在性遺伝子は3.0kbのバンドを与えた(図1B)。コピー数は、2.1kbのバンドの濃さを、内在性の3.0kbのバンドの濃さと比較して行い、10コピーと判定された系統Tg-1055♂系統を以後の解析に用いた。
【0032】
3-2 PCR 法による IskD77N 遺伝子の発現解析
導入遺伝子の発現解析はReal Time-PCR法により行った。野生型マウス及びトランスジェニックマウスの新生仔から、椎骨下部と尾より軟骨、その他臓器をすばやく切除し、液体窒素中に保存した。Physcotoron homogenizer(NITION Medical Supply, Chiba, Japan)にてホモゲナイズした後、ISOGEN試薬を用いてtotal RNAを単離精製した。Superscript first strand synthesis kit(GIBCO/BRL, Gaithersburg, MD)を用い、Oligo-dTプライマーによるcDNAを合成した後、図1Cに示すような上流プライマー(exon 1中)と下流プライマー(cDNA中)を用いて、PCRを行った。PCR反応は、95℃で30秒、58℃で30秒、72℃で1分間の3段階反応を45回行った。PCR反応後、10 μLを分注して1%アガロース電気泳動にて検定した。450bpの陽性バンドは、軟骨のみに確認され、脳、心臓、肺、肝臓、腎臓、小腸、筋肉には検出されなかった。野生型同腹マウスでは、軟骨及び他の臓器で450bpの陽性バンドは検出されなかった。
【0033】
実施例4:CNP-トランスジェニックマウスの成長曲線の測定
鼻と肛門の間の長さ(以下、鼻−肛門長)を1週間毎に測定し、マウスの成長曲線を作成した。週産期には、CNP-トランスジェニックマウスは野生型同腹マウスと区別がつかなかった。出生後1日目には、骨と軟骨をAlizarin red SとAlcian blue染色すると、CNP-トランスジェニックマウスの四肢の長骨、椎骨、頭蓋骨の骨と軟骨の長軸方向の過成長が観察された(図2A)。この時期の四肢の骨端の骨化の遅れは観察されなかった。CNP-トランスジェニックマウスは野生型同腹マウスと同様に、指節骨の骨化中心がすでに出現していた。成長するにつれ、CNP-トランスジェニックマウスは鼻−肛門長が次第に顕著に増加していた(図2B)。10週齢のCNP-トランスジェニック雌マウスは、野生型同腹雌マウス(n=7)よりも19%長くなっていた。CNP-トランスジェニック雄マウスは、野生型同腹雄マウス(n=7)よりも長くなったが、その程度は雌より小さかった(10%)。ホモのCNP-トランスジェニック雄マウスは、ヘテロのCNP-トランスジェニック雄マウスよりも長かった(雌6%、雄4%、n=7)。6ヶ月齢のCNP-トランスジェニックマウスは、軟X線解析によると、野生型同腹マウスよりも四肢の長さ、椎骨の長さ、頭蓋骨の長軸の長さが非常に増加していた。これらの骨はいずれも内軟骨成骨化により形成されるが、頭蓋骨の幅の長さは増加していなかった(図2C)。椎骨と、近位の長骨(上膊骨、大腿骨)は特に顕著で、野生型同腹マウスのそれぞれの長さの28%、25%、23% (n=6)であった。
【0034】
実施例5:CNP-トランスジェニックマウスの組織学的解析
光学顕微鏡観察のために、脛骨と椎骨を除去し、10% formalin/PBS (pH7.4)で固定した。石灰化した骨は20% EDTAを含む10% formalin/PBS (pH7.4)中で脱灰した。パラフィンブロックは通常の組織化学的方法により調製した。複数の部位で切片(5-6um)を作製し、Alcian blue (pH2.5)にて染色後、hematoxylin/eosinにて対比染色した。成長板の各層の長さ、成長肥大軟骨細胞の直径、増殖軟骨細胞層のBrdUrd標識インデックスは、マッキントッシュコンピュータ上で、NIHイメージプログラムを使用して解析した。BrdUrd染色では、2週齢のマウスにBrdUrd (100 ug/g体重)を腹腔注射し、1時間後に殺した。脛骨の成長板の細胞にBrdUrdを取り込ませた免疫組織化学的染色は、定法により行った。標本の石灰化の程度を評価するために、脱灰していない切片を用いてVon Kossa染色を行った。
【0035】
In situ ハイブリダイゼーション解析のために、ジゴキシゲニン標識のセンス及びアンチセンスリボプローブは、ラットのpro-a1(X) collagen cDNA断片、マウスのpro-a1(II) collagen cDNA断片から、ジゴキシゲニンRNA labeling kit(Roche Diagnostics, Indianapolis, IN)を用いて調製した。
【0036】
出生前のCNP-トランスジェニックマウスでは、骨端の軟骨に典型的な組織学的変化は認められなかったが、成長に伴い、少なくとも3週齢以降では、CNP-トランスジェニックマウスの椎骨の長骨の成長板の高さの増加が顕著になった(図3A、B)。3週齢のマウスの脛骨の成長板軟骨層の中で、肥大軟骨細胞層(234±12 μm対207±14 μm、n=4、p<0.05)も、増殖軟骨層(215±3 μm対193±16 μm、n=4、p<0.05)もCNP-トランスジェニックマウスの方が野生型同腹マウスに比べて長くなっていた。肥大軟骨細胞層、増殖軟骨層は、in situハイブリダイゼーション解析にて、X型コラーゲンあるいはII型コラーゲンを発現している(図3E-H)。強拡大により、軟骨細胞の大きさ(24.3±1.2μm対21.2±1.3μm、n=6、p<0.05)が拡大していることがわかる(図3C,D)。静止軟骨細胞層の長さはCNP-トランスジェニックマウスでも変化なかった。BrdUrd陽性軟骨細胞のバンドは、CNP-トランスジェニックマウスで野生型同腹マウスよりも広くなっていたが、BrdUrd陽性軟骨細胞の数(13.3±3% 対 12.5±2.9%、n=4)には変化がなかった(図3K,L)。3週齢のマウスの脛骨の成長板のvon Kossa染色から、隣接した肥大軟骨層から形成される骨端の小柱骨は、CNP-トランスジェニックマウスは野生型同腹マウスに比べ、明らかに長くなり、小柱骨の体積は大きくなっていた(図3I, J)。
【0037】
実施例6:CNP-トランスジェニックマウスの胎児脛骨の培養細胞における軟骨特異的CNP発現の効果
CNP-トランスジェニックマウスあるいは野生型同腹マウスの胎児脛骨は、交尾後16.5日目に切除し、人工培地中で4日間浮遊培養した。内在性のCNPの効果を阻害するために、脛骨の培養は、非ペプチド性NP受容体アンタゴニスト、HS-142-1(Komatsu et al., Circ Res. 78: 606-614, 1996)を50 mg/Lの濃度で培地に添加した。培養期間の終わりに、培養された脛骨は、その長軸長を測定し、固定包埋して組織学的解析に用いた。包埋した標本から5μm厚に切り出した切片は、Alcian blue (pH2.5)染色、hematoxylin/eosin対比染色した。培養脛骨のcGMP量は、培養4日後、RIAにて測定した。培養脛骨のグリコサミノグリカン合成は、取り込まれた35SO4を測定することにより評価した(Mericq et a., Pediatr Res 47: 189-193, 2000)。即ち、CNP-トランスジェニックマウス及び野生型同腹マウスの培養脛骨は、5 μCi/mlのNa2 35SO4 (Amersham, 比活性は100 mCi/mmol)にて、1時間標識した。培養脛骨はPack's saline (Sigma Chemical Co. St.Louis, MO)にて10分間3回リンスし、0.3%のパパインを含む新鮮培地1.5 ml中で、60℃24時間消化した。次に、0.5mlの10% cetylpyridinium chloride (Sigma Chemicl Co.)-0.2M NaClを添加し、室温にて18時間保温しグリコサミノグリカンを沈殿させた。沈殿は1 mlの0.1% cetylpyridinium chloride (Sigma Chemicl Co.)-0.2M NaClにて3回洗浄し、23Nの蟻酸1 mlに溶かした後35SO4量を液体シンチレーションカウンターで計測した。
【0038】
培養前から、CNP-トランスジェニックマウスの脛骨の培養臓器片は、野生型同腹マウスよりも顕著に長かった(図4A)。培養の間、CNP-トランスジェニックマウスの脛骨の培養臓器片はその長軸長が著しく増加し、培養4日後にはは野生型同腹マウスに比べ、約35%長くなった(n=6, 図4A)。脛骨の培養臓器片の他の部分に比べ、軟骨原基の増大が著しかった(40%増加)。HS-142-1は、軟骨の内在性のCNPの効果を阻害するが、野生型同腹マウス由来の脛骨の培養臓器片の自然な成長を阻害する(図4A)。さらに、CNP-トランスジェニックマウス由来の脛骨の培養臓器片の長さの増加は、HS-142-1(50 mg/L)により完全に阻害され、HS-142-1処理された野生型同腹マウスの脛骨の培養臓器片の長さと同じになった(図4A)。CNP-トランスジェニックマウスの脛骨の培養臓器片のcGMPの量は、野生型同腹マウスの場合の約9倍であった(18.7±1.2 fmol/mg蛋白質 対 2.1±0.2 fmol/mg 蛋白質、n=5、図4B)。グリコサミノグリカン合成はCNP-トランスジェニックマウスで野生型同腹マウスの25%増であった(2300±170 cpm/脛骨 対 1840±140 cpm/脛骨、n=6、図4C)。組織学的には、CNP-トランスジェニックマウスの脛骨の培養臓器片の骨端の軟骨の増殖軟骨層(369±26 μm対287±14 μm、n=4、p<0.05)も肥大軟骨細胞層(450±29 μm対294±16 μm、n=4、p<0.05)もその高さが増加しており、また、増殖軟骨細胞層の軟骨マトリクスをAlcian blueで染色した細胞外領域も増加していた(図5A,B)。肥大軟骨細胞層も大きくなっていた(17.8±0.8 μm対15.4±1.4 μm、n=6、p<0.05、図D)。CNP-トランスジェニックマウスの同濃度でのHS-142-1による培養脛骨の骨端の軟骨の変化も消失していた。
【0039】
実施例7:CNP/FGFR3ach-ダブルトランスジェニックマウスの解析
CNP-トランスジェニックマウスの雌とFGFR3ach-トランスジェニックマウスの雄(米国ワシントン大学David M. Ornitz教授より入手)とを掛け合わせた。FGFR3ach-トランスジェニックマウスは、FVB/Nバックグランドなので、ダブルトランスジェニックマウスはF1のみを使用し、対照とするCNP、FGFR3ach、及び野生型マウスは、同腹の仔マウスを用いた。
【0040】
3ヶ月齢では、CNP-トランスジェニックマウスは野生型同腹マウスより体長が長く、FGFR3ach-トランスジェニックマウスは野生型同腹マウスより体長が短くなっていた(図6A)。CNP/FGFR3ach-トランスジェニックマウスの鼻−肛門長は、野生型同腹マウスとほぼ同等であった。このとき、CNP/FGFR3ach-トランスジェニックマウスの軟骨におけるCNPの発現量は、CNP-トランスジェニックマウスの発現量と同等であった(図6C)。CNP/FGFR3ach-トランスジェニックマウス、FGFR3ach-トランスジェニックマウス、野生型同腹マウスの鼻−肛門長による成長曲線は、FGFR3ach-トランスジェニックマウスの成長遅延が、成長板軟骨におけるCNPの過剰発現によりレスキューされていることがわかった。10週齢において、CNP/FGFR3ach-トランスジェニックマウスの鼻−肛門長は94.7±4.0 mmで、FGFR3ach-トランスジェニックマウスは87.0±2.6 mmで8%長く、野生型同腹マウス(97.0±4.2 mm)と同等であった(図6B)。軟X線解析によると、FGFR3ach -トランスジェニックマウスで観察された骨の長さの短縮は、頭蓋骨の鼻−頭頂骨長、上腕骨の長さ、椎骨(L1-7)の長さが、CNP/FGFR3ach-トランスジェニックマウスでは部分的にレスキューされた。頭蓋骨の幅は、FGFR3ach-トランスジェニックマウスもCNP/FGFR3ach-トランスジェニックマウスも変化はなかった(図6D)。2週齢のCNP/FGFR3ach-トランスジェニックマウス、FGFR3ach-トランスジェニックマウス、野生型同腹マウス近位の脛骨の成長板軟骨の顕微鏡解析では、FGFR3ach-トランスジェニックマウスの肥大軟骨細胞の高さは、野生型同腹マウスに比べて減少していた(169±15 μm対220±15 μm)。CNP/FGFR3ach-トランスジェニックマウスでは回復していた(229±21μm、図7A-C)。CNP/FGFR3ach-トランスジェニックマウスは、FGFR3ach-トランスジェニックマウスや野生型同腹マウスに比べて、肥大軟骨細胞のカラムの配置の異常や、前期肥大軟骨や上部肥大軟骨細胞層の細胞外マトリクスの拡張が観察された(図7D-F)。CNP/FGFR3ach-トランスジェニックマウスの肥大軟骨細胞の大きさは、FGFR3ach-トランスジェニックマウスや野生型同腹マウスよりも顕著に大きかった(20.1±1.5 μm、18.4±1.2 μm、19.0±0.2 μm、n=6、p<0.05、図7D-F)。10週齢のマウスの近位の脛骨では、二次的骨化中心は、野生型同腹マウスではよく形成されたが、FGFR3ach-トランスジェニックマウスやCNP/FGFR3ach-トランスジェニックマウスでは形成されなかった(図7A-C)。
【0041】
実施例8:マウス軟骨細胞株を用いたCNPとFGFR3との相互作用の検討
マウス軟骨細胞株ATDC細胞(J. Bone. Miner. Res., 12, 1174-1188, 1997、京都大学再生医科学研究所、宿南知左助教授、開祐司教授より入手)をFGFR3のリガンドであるbasic FGF(SIGMA社製品)1〜10 ng/mlで前処置した。その後、この細胞をCNP 10-9〜10-7 Mで刺激し、細胞内cGMP産生をRIA法(cyclic GMP Assay Kit、ヤマサ醤油株式会社製品)により測定した。また、リン酸化MAP-K抗体及びMAP-K抗体(何れもCell Signaling Technology社製品、MAP:mitogen-activated protein、 分裂促進物質活性型タンパク質)を用いたウエスタンブロット法によりbasic FGF刺激後のp44及びp42 MAPキナーゼ(ERK1/2)のリン酸化、MAPキナーゼ(MEK)並びにp44 MAPキナーゼ(ERK1)の発現を測定した。
【0042】
その結果、basic FGF 1 ng/mlによる1時間の前処置でCNP刺激後の細胞内cGMP産生は対照の70%に低下した。また、CNP 10-7 Mによる1時間の前処置でのbasic FGF によるERK1/2のリン酸化は有意に抑制された。
【0043】
このことから、CNP/GC-B系とbasic FGF/FGFR3系が軟骨細胞において相互に細胞内情報伝達に影響していることが明らかとなった。
【0044】
【発明の効果】
本発明によって提供される軟骨無形成症治療剤は、CNP遺伝子、CNP蛋白質、あるいはGC-Bを活性化する低分子物質として、成長ホルモンとは異なった作用点に働くことにより軟骨無形成症を治療することが可能である。本発明の軟骨無形成症治療剤は、従来の股関節の人工関節置換や脚延長術などの整形外科手術に比べて患者の負担、苦痛が少なく、患者のQOLに配慮した優れた治療剤となりうる。更に本発明の記載のトランスジェニック動物は、FRFR3のG380R 変異以外の変異を原因とする軟骨無形成症に対して、その有効性を検証するために用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】軟骨特異的にCNPを過剰発現するトランスジェニックマウスの作製を示す図であり、
A. CNP-トランスジェニックマウス作製用組換え遺伝子の構造を示す模式図;
B. CNP-トランスジェニックマウスの尾DNAを用いたサザンハイブリダイゼーションの結果を示す写真;
C. CNP-トランスジェニックマウス由来の各臓器のCol II-CNPの発現RT-PCRにて解析した結果を示す写真である。
【図2】 CNP-トランスジェニックマウスの概観を示す図であり、
A. 1日齢の野生型マウス(上)とCNP-トランスジェニックトランスジェニックマウス(下)の骨格を示す写真;
B. CNP-トランスジェニックマウスの雄(左)と雌(右)の成長曲線を示したグラフであり、黒丸(●)がヘテロ、黒四角(■)がホモ、白丸(○)が野生型同腹マウス;
C. 左側は、6ヶ月齢の野生型同腹雌マウス(左)とCNP-トランスジェニック雌マウス(右)の頭蓋骨(上)と脚(下)の軟X線写真であり、右側は、野生型同腹雌マウス(白抜き棒)とCNP-トランスジェニック雌マウス(黒塗り棒)の左側写真から計測したいくつかの骨の長さの比較を示したグラフである。
【図3】 CNP-トランスジェニックマウスの成長板の組織学的解析を示す図であり、
A〜DはAlcian blueとhematoxylin/eosin染色(3週齢)を示す写真であり、
A. 野生型同腹マウスの脛骨成長板(x50);
B. CNP-トランスジェニックマウスの脛骨成長板(x50);
C. 野生型同腹マウスの脛骨成長板(x200);
D. CNP-トランスジェニックマウスの脛骨成長板(x200)であり、
E〜HはコラーゲンcDNAプローブによるin situ ハイブリダイゼーション(2週齢)を示す写真であり、
E. 野生型同腹マウスの脛骨成長板(Type II コラーゲン、x200);
F. CNP-トランスジェニックマウスの脛骨成長板(Type II コラーゲン、x200);
G. 野生型同腹マウスの脛骨成長板(Type X コラーゲン、x200);
H. CNP-トランスジェニックマウスの脛骨成長板(Type X コラーゲン、x200)であり、
I〜JはVon Kossa染色(3週齢)を示す写真であり、
I. 野生型同腹マウスの骨端の小柱骨(x50);
J. CNP-トランスジェニックマウスの骨端の小柱骨(x50)であり、
K〜LはBrdUrd染色(2週齢)を示す写真であり、
K. 野生型同腹マウスの脛骨成長板(x50);
L. CNP-トランスジェニックマウスの脛骨成長板(x50)である。
【図4】 CNP-トランスジェニックマウスの脛骨の器官培養を示す図であり、
A. 左側は、16.5日齢のマウス胎児の脛骨の4日間培養後の外観を示す写真であり、
(左上)野生型同腹マウス;
(右上)CNP-トランスジェニックマウス;
(左下)野生型同腹マウス(HS-142-1(50 mg/L)を培地に添加);
(右下)CNP-トランスジェニックマウス(HS-142-1(50 mg/L)を培地に添加)であり、右側は、頚骨の器官培養開始時と、4日間培養後の脛骨の長さのタイムコースを示すグラフである。白丸は野生型同腹マウス, n=6、白四角はCNP-トランスジェニックマウス, n=6、黒丸は野生型同腹マウス(HS-142-1), n=6、黒四角はCNP-トランスジェニックマウス(HS-142-1), n=6)。*は、P<0.05 CNP-トランスジェニックマウス対野生型同腹マウス、**は、P<0.05 HS-142-1処理野生型同腹マウス対非処理野生型同腹マウス、***は、P<0.01 HS-142-1処理CNP-トランスジェニックマウス対非処理処理CNP-トランスジェニックマウス;
B. CNP-トランスジェニックマウス胎仔の培養脛骨のcGMPの量(n=5)を示すグラフである。*は、P<0.01 CNP-トランスジェニックマウス対野生型同腹マウス;
C. CNP-トランスジェニックマウス胎仔の培養脛骨中の35SO4の取り込み量(n=6)を示すグラフである。*は、P<0.05 CNP-トランスジェニックマウス対野生型同腹マウス。
【図5】 CNP-トランスジェニックマウスの培養脛骨の組織化学的解析(Alcian blueとhematoxylin/eosin染色)を示す写真であり、
A. 野生型同腹マウス(x25);
B. CNP-トランスジェニックマウス(x25);
C. CNP-トランスジェニックマウス(HS-142-1処理)(x25);
D. 野生型同腹マウス(x200);
E. CNP-トランスジェニックマウス(x200);
F. CNP-トランスジェニックマウス(HS-142-1処理)(x200)。
【図6】 CNP-トランスジェニックマウス、FGFR3ach-トランスジェニックマウス、CNP/FGFR3ach-ダブルトランスジェニックマウスの全体的な表現型を示す図であり、
A. 上から、3ヶ月齢の野生型同腹マウス、CNP-トランスジェニックマウス、FGFR3ach-ダブルトランスジェニックマウス、CNP/FGFR3ach-ダブルトランスジェニックマウスの全体の外観を示す写真;
B. FGFR3ach-トランスジェニック雌マウス(黒三角)、CNP/FGFR3ach-トランスジェニック雌マウス(白四角)、野生型同腹マウス(黒丸)の鼻−肛門長の成長曲線(n=7)を示すグラフ;
C. RT-PCRによる、軟骨由来total RNAを用いたCol II-CNPの発現の検出を示す写真であり、Lane 1, 野生型同腹マウス;lane 2, CNP-トランスジェニックマウス;lane 3, FGFR3ach-トランスジェニックマウス;
D. 左側は上から、3ヶ月齢の野生型同腹マウス、CNP-トランスジェニックマウス、FGFR3ach-ダブルトランスジェニックマウス、CNP/FGFR3ach-ダブルトランスジェニックマウスの骨格の外観を示す写真であり、右側は、野生型同腹マウス(白抜き)、CNP-トランスジェニックマウス(黒)、FGFR3ach-トランスジェニックマウス(斜線)、CNP/FGFR3ach-ダブルトランスジェニックマウス(影)における各骨の長さの比較(n=4)を示すグラフである。*は、p<0.05。頭蓋骨(前後長)、頭蓋骨(横長)、上腕骨、大腿骨、椎骨を示す。
【図7】2週齢のマウスの成長板脛骨の組織化学的解析(Alcian blueとhematoxylin/eosin染色)を示す写真であり、
A. 野生型同腹マウス(x50);
B. FGFR3ach-トランスジェニックマウス(x50);
C. CNP/FGFR3ach-トランスジェニックマウス(x50);
D. 野生型同腹マウス(x100);
E. FGFR3ach-トランスジェニックマウス(x100);
F. CNP/FGFR3ach-トランスジェニックマウス(x100)。

Claims (3)

  1. C型ナトリウム利尿性ペプチド(CNP)を有効成分として含有する、繊維芽細胞増殖因子レセプター3(FGFR3)遺伝子の変異による軟骨の成長抑制に起因する軟骨無形成症治療剤。
  2. 肥大軟骨細胞を肥大化させること及び増殖軟骨細胞層の細胞外マトリクスを増大させることにより軟骨の成長抑制を回復する、請求項1記載の治療剤。
  3. CNPが、CNP-22又はCNP-53である請求項1または2記載の治療剤。
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