JP4252225B2 - 地中レーダ装置およびその距離感度制御回路 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は地中レーダ装置およびその距離感度制御回路に係り、特に、FMCW(Frequency Modulated Continuous Wave)方式地中レーダの検知可能深度を延ばすためのSTC(Sensitivity Time Control)システムを用いた地中レーダ装置およびその距離感度制御回路に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
空気中のような電磁波の減衰が無視できる場合、レーダで得られる信号は、以下の式すなわちレーダ方程式で表される。
【数1】
但し、Pr;反射波受信電力、Pt;送信出力、G;アンテナ利得、λ;送信波長、σ;目標の有効反射面積、R;目標までの距離である。
【0003】
上式より、第一波結合(送信アンテナから受信アンテナに直接回り込む信号や、地表面からの反射など、基本的に不要な信号)のような近距離からの信号は、遠距離にある物体からのそれに対して、圧倒的に大きいことが解る。このため、受信機が飽和を起こし、反射波の細かい強弱の比較ができなくなる。これを防ぐため、近距離からの信号に対して受信利得を下げ、遠方からの信号に対しては受信機利得を最大にするような回路が設けられる。これがSTC回路である。従来のSTC回路はパルスレーダに用いられるため、受信側にのみスイッチ(あるいは可変減衰器)を設けている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上述のSTC回路は地中レーダに適用することによって、より的確な地中物体の検出が可能となる。しかし、従来のSTC回路は高速動作が不可能な構成となっており、FMCW方式地中レーダへの適用は不可能であった。
【0005】
すなわち、地中レーダにSTC回路を適用するには次のような解決すべき問題があった。
(1)地中レーダにおいては目標までの距離が空中レーダに比べて非常に近いため、高速で動作する回路が要求される。
物体からの反射信号の遅れ時間Δtは、物体の深さをlとすると、次式で示される。
【数2】
但し、cは光速である。
【0006】
受信波には第一波結合と物体からの反射成分が重なっている。したがって、送信信号を物体からの反射が返ってくる前に切ってしまえば、物体からの反射成分を取り出すことが可能となる(図2参照)。しかし、この場合、Δtは数10nsecであることを考えると、送信信号を切るのに許される時間は、これ以下の値(具体的には数nsec)程度の値が要求される。
【0007】
例えば、近距離の物体からの反射信号に対してSTCを利かせるためには、スイッチを高速度で動作させる必要がある。通常、スイッチはスイッチ「入」のコントロール信号が入ってから完全に「入」の状態になるまでに、ある程度の時間を必要とする。いわゆる立ち上がり時間が必要である。スイッチを高速度で動作させるということは、この立ち上がり時間を短くするということである。具体的には、数nsec程度の立ち上がり時間が要求される。そして、従来、STC回路に使用されているスイッチは現状ではこのような高速には追従することができない。更に、PINダイオードに関していえば、その回路構成上、高速化は不可能である。
【0008】
すなわち、図5にPINダイオードを用いたスイッチの回路構成の一例を示す。図5において、コントロール信号(スイッチの入り切りの信号)はBIAS端子に入力される。上述したように、BIAS端子には高周波信号が入力される。このコントロール信号はレーダ信号(RF−INから入り、RF−OUTに抜けていく信号)と左側にある一段目のダイオード出力側で混ざりあうこととなる。もし、ここでコントロール信号とレーダ信号の周波数が大きく離れていたならば、図の一番左側にあるコンデンサなどを用いてこの2つの信号を分離できる。すなわち、コントロール信号がレーダ信号に漏れないようにすることができる。しかし、近距離の物体に対してSTCを適用する場合、コントロール信号は数10MHz〜数100MHzの周波数成分を持つこととなる。この周波数帯はレーダ信号の周波数帯領域に含まれており、この両者を分離することは不可能である。このため、パルスレーダで用いられている方式をそのまま適用することはできないことが解る。
(2)FMCW方式のレーダにおいては、受信側の感度を制御しただけではSTCは実現できない。
【0009】
図6はFMCWレーダによる送信波と受信波の関係を示したものである。地中レーダの信号は大きく分ければ、図6に示すように、埋設物からの反射信号(受信信号▲2▼)および地表面などからの反射による信号(受信信号▲1▼)の2つからなる。受信信号▲1▼は、受信信号▲2▼に比べて圧倒的に大きい為、受信信号▲1▼によって増幅回路が飽和してしまい、受信信号▲2▼(必要な信号であり、非常に微弱な信号)を充分増幅することができない。したがって、その結果として、検知距離を延ばすことが困難となっている。
【0010】
また、FMCWレーダに上述した方式をそのまま採用したのでは、STCとしての役目を果たすことはできない。その理由は以下の通りである。
FMCW方式においてはN段階に切替える周波数の各段階においては送信アンテナ側からは連続的に電波が発射されている。したがって、受信感度を時間に応じて変化させたとしても、同時にあらゆる距離からの信号が受信される結果となる。すなわち受信信号▲1▼と受信信号▲2▼を同時に受信してしまうことに変わりはないということになる。このため、近距離からの信号も遠距離からの信号も同じ増幅率で増幅されることに変わりはなく、問題を解決することはできない。
本発明は、RF信号の高速スイッチング方式のSTC(Sensitivity Time Control)により、地中レーダの探査深度を延ばすことを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明に係る地中レーダ装置は、FMCW方式の地中レーダ装置であって、送信アンテナの前段と受信アンテナの後段に信号経路の遮断もしくは減衰をなすスイッチ回路を備え、前記スイッチ回路を制御されたタイミングでオンオフさせるとともに送信側スイッチ回路と受信側スイッチ回路とのオンオフタイミングを調整することにより距離と感度の関係を制御するスイッチコントローラを備えた構成とすればよい。
【0012】
また、本発明に係る地中レーダの距離感度制御回路は、FMCW方式の地中レーダ装置の距離感度制御回路であって、送信経路と受信経路の各信号経路に信号遮断もしくは減衰をなすスイッチ回路を備え、前記スイッチ回路を制御されたタイミングでオンオフさせるとともに送信側スイッチ回路と受信側スイッチ回路とのオンオフタイミングを調整することにより距離と感度の関係を制御するスイッチ制御回路を備えた構成とした。この構成において、前記スイッチ回路にはFETを用い、前記スイッチ制御回路からのコントロール信号をゲート信号として取り込むように構成することが望ましい。
【0013】
上記構成によって、前記スイッチコントローラによってスイッチ回路を交互にオンオフさせ、前記送信側スイッチ回路を送信開始から第一波結合の受信可能時点までの設定時間範囲で信号経路を遮断もしくは減衰させることができる。前記スイッチ回路はFETを用い、コントロール信号をゲート信号に用いることで、レーダ信号とコントロール信号とが混合することが無い。
【0014】
すなわち、本発明は、発振器側における送信アンテナの手前、および復調器側における受信アンテナの後ろにそれぞれ同期を調整できるスイッチを取り付け、また、これらのスイッチをタイミングよく作動させるスイッチコントローラを設けた構成とすることによって前記問題を解決できる。これは必ずしもスイッチである必要はない。例えば、ゲインを調整できる可変ゲイン増幅器、可変アッテネータ(減衰器)などでもよい。送信側のスイッチが入っているときには受信側のスイッチを切っておく(あるいは受信感度を最低にする)ことにより、地表面などからの反射による信号(受信信号▲1▼:第一波結合)を受信しないようにすることができる。そして、ある時間が経過した後、送信側スイッチを切る。このときには両方のスイッチが切れた状態となる。更に希望する時間が経過した後、受信側のスイッチを入れて、埋設物からの反射信号のみを受信する。このとき、受信側のスイッチを入れるタイミングを調整することにより、STCが効き始める深さを任意に設定できる。
【0015】
また、FMCWレーダ用STC回路では、パルスレーダ用STC回路とは使用する素子が異なっている。すなわち、パルスレーダ用STC回路では、パルスの電圧が高くなるため、受信側のスイッチに高電圧に耐えられる機械式リレー、PINダイオードなどの部品を使用しなければ回路が成立しない。しかし、FMCWレーダにおいては、その電圧が高くないため、回路を簡略化できるFET(電界効果トランジスタ)を使用することが可能となる。そして、このため、以下に述べるような近距離に対するSTCを実現することが可能となる。
【0016】
更に、本発明の回路構成を採用すると、近距離に対するSTCが可能となる。本発明では、FMCWレーダ用STC回路には、パルスレーダでは耐圧が低くて使用できないFETを使用することができる。FETはゲートにコントロール信号を加えることにより、素子中の空乏層厚さをコントロールして電流を制御する構造をもっているため、コントロール信号とレーダ信号が混ざる心配がない。したがって、コントロール信号とレーダ信号を完全に分離できる。その結果、高速のスイッチングが可能となり、近距離用STCが実現可能となる。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明に係る地中レーダ装置およびその距離感度制御回路の具体的実施の形態を、図面を参照して、詳細に説明する。
図3は実施形態に係る地中レーダの全体ブロック図を示している。この地中レーダはFMCWレーダ(ステップ状周波数変調レーダ)構成となっており、送信アンテナ10を備え、これに一定振幅をもつCW信号を出力する発振部12と、受信アンテナ14を備え、地中からの反射波を受信して復調する受信部16とからなり、高周波回路を構成しているレーダ本体部18を備えている。そして、このレーダ本体18に距離感度制御回路としてのSTC回路を組み込んでいるのである。
【0018】
STC回路は、前記発振部12における送信アンテナ10の前段部に設けられ、送信経路を開閉できるスイッチ20と、受信部16における受信アンテナ14の後段部に設けられ、受信経路を開閉できるスイッチ22とを有している。これらのスイッチ20,22は回路を簡略化できるFET(電解効果トランジスタ)を使用している。FETはゲートにコントロール信号を加えることにより、素子中の空乏層厚さをコントロールして電流を制御することができる。したがって、スイッチコントロール信号とレーダ信号との完全分離が実現でき、スイッチ20,22の開閉に伴うレーダ信号への影響を防止できる。
【0019】
また、STCは、上記スイッチ20,22の開閉コントロールを行なうために、スイッチコントローラ24を備えている。これはECL(emitter-coupled logic)回路と、当該ECL回路からの出力をFETコントロール用にレベル変換してスイッチ20,22に出力するように構成されている。ECL回路部分は二つのトランジスターのエミッターを一つの負荷抵抗に接続し,一つのトランジスターだけがある時刻に導通可能なようにした回路であるが、クロック発生器(14MHz)26により発生させたクロック信号をバッファアンプ28に取り込み、これをデジタルIC30(4ビットカウンタ32およびAND回路34T、34R)に出力させ、2つのスイッチ20,22の同期をとるようにしている。なお、クロックの周波数またはカウンタ、AND回路の設定変更(但し、この場合、カウンタのビット数を増やす必要がある)により、STCが動作する深さを変えることができる。デジタルIC30には、一般的にCMOS、TTLなどが使用されるが、このような素子では信号遅れが数10〜数100nsec程度生じるため、実施形態では信号遅れが約1nsec程度にできる高速デジタルICを用いている。また、バッファアンプ28についても高速動作可能なものを選定している。更に、クロック発生器26についても、シャープな立ち上がりをもつクロックを発生することが可能な高周波対応の発振器を使用している。上記デジタル1C30の後段の出力端にはレベル変換回路36T、36Rが設けられ、前述したスイッチ20,22のゲートコントロール信号として出力するようにしている。このような構成により、スイッチコントローラ24としては高周波回路で構成されているとみることができ、スイッチコントロール信号の立ち上がり時間を約2nsec程度にすることができる。
【0020】
レーダ本体18は高周波回路(周波数帯は20MHz〜1.5GHz)であり、まず、発振部12は発振器としてVCO(voltage-controlled oscillator :電圧制御発振器)38を有しており、発振周波数が印加電圧によって変化する発振器を用いている。これの出力側には方向性結合器40が接続され、アンプ42、送信スイッチ20を介して送信アンテナ10からFMCW信号を出力させるようにしている。受信部16では受信信号を受信アンテナ22から取り込み、これを第1アンプ44により増幅して受信スイッチ22に入力させ、このスイッチ22が「開」のときにのみ、受信信号が、第2アンプ46、ミクサ48、中間周波増幅器(IFアンプ)50を経て、主処理装置52に入力されるようになっている。
【0021】
上記のように構成された地中レーダでは、FMCWレーダに対してSTCを適用することができ、図4に示すようなスイッチ20,22の切替を行なわせることにより、第一波結合を防止することが可能となる。この結果、受信アンプの増幅率を上げることができ、もって地中レーダの検知可能深度を向上させることができるのである。
【0022】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明は、FMCW方式の地中レーダ装置にて、送信アンテナの前段と受信アンテナの後段に信号経路の遮断もしくは減衰をなすスイッチ回路を備えた構成とし、また、前記スイッチ回路を希望する深度に対してSTCが動作するよう、コントローラにてタイミングを調整し、そのタイミングにしたがって交互にオンオフさせる構成としたので、地中レーダの分解能を下げること無く、検知深度を大きく延ばすことができるという優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の原理構成図である。
【図2】本発明に係る地中レーダ装置の信号処理の説明図である。
【図3】実施形態に係る地中レーダ装置およびその距離感度制御回路の構成図である。
【図4】実施形態に係る地中レーダにおけるSTCのタイミングチャートである。
【図5】PINダイオードを用いたスイッチの回路構成例である。
【図6】従来の地中レーダの構成図である。
【符号の説明】
10 送信アンテナ
12 発振部
14 受信アンテナ
16 受信部
18 レーダ本体
20 送信側スイッチ
22 受信側スイッチ
24 スイッチコントローラ
26 クロック発生器
28 バッファアンプ
30 デジタルIC
32 4ビットカウンタ
34T、34R AND回路
36T、36R レベル変換回路
38 VCO
40 方向性結合器
42 アンプ
44 第1アンプ
46 第2アンプ
48 ミクサ
50 中間周波増幅器
52 主処理装置
Claims (3)
- FMCW方式の地中レーダ装置であって、送信アンテナの前段と受信アンテナの後段に信号経路の遮断もしくは減衰をなすスイッチ回路を備え、前記スイッチ回路を制御されたタイミングでオンオフさせるとともに送信側スイッチ回路と受信側スイッチ回路とのオンオフタイミングを調整することにより距離と感度の関係を制御するスイッチコントローラを備えたことを特徴とする地中レーダ装置。
- FMCW方式の地中レーダ装置の距離感度制御回路であって、送信経路と受信経路の各信号経路に信号遮断もしくは減衰をなすスイッチ回路を備え、前記スイッチ回路を制御されたタイミングでオンオフさせるとともに送信側スイッチ回路と受信側スイッチ回路とのオンオフタイミングを調整することにより距離と感度の関係を制御するスイッチ制御回路を備えてなることを特徴とする地中レーダ装置の距離感度制御回路。
- 前記スイッチ回路にはFETを用い、前記スイッチ制御回路からのコントロール信号をゲート信号として取り込むように構成してなることを特徴とする請求項3に記載の地中レーダ装置の距離感度制御回路。
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