JP4245757B2 - 鉄道車両の走行性能向上方法及び装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、車輪とレールとの間の摩擦係数をコントロールすることで、レールの波状摩耗、車輪の空転及びスリップ、また、振動や騒音を防止して、車両の乗り心地や走行性能を向上させる鉄道車両の走行性能向上方法及び装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
車両が曲線区間を通過する際に、台車後方における輪軸の、車両進行方向左右に配置された両車輪はレールに対してほぼ中央で接触して走行する状態となる。また、曲線区間における内外軌側レールは長さが多少異なるため、内軌側レールを通過する車輪は、曲線区間では同じレール頭頂面を重複して通過することとなる。
【0003】
また、台車後方における輪軸の前記両車輪はレールに対して縦方向に大きな滑りを発生する。その結果、曲線区間通過時の車輪と内軌側レール間の前記滑りによってスチック・スリップ振動が発生し、レールの頭頂面に波状摩耗が発生する。
【0004】
このように、曲線区間を通過する際、レールの頭頂面に波状摩耗が発生すると、レールの摩耗や車輪のフランジ部の摩耗などが発生すると共に、振動や騒音が発生し、車両の乗り心地も悪くなり、さらにはレールや台車の補修費の増大を招くことになる。
【0005】
また、車両が駅手前区間を通過する際、ブレーキによって車輪がスリップすると、停止距離が増加し、正しい位置で停止できないことがある。
【0006】
さらには、車両が急勾配区間を通過する際、例えば雨や落ち葉などが車輪とレール間に介在すると、車輪とレール間とにおける摩擦係数が低下して上り走行時には空転による登坂不良が生じ、下り走行時にはスリップによる減速不良が発生することがある。
【0007】
一方、車両が曲線区間を通過するとき、台車は曲線方向に回転し、進行方向の台車前方における輪軸の外軌側車輪は、そのフランジ部がレール肩部に接触し、車両は前記フランジ部にガイドされながら走行する状態となる。
【0008】
従って、台車における輪軸の前記車輪は、上記したような状態となっているので、曲線区間を通過する際、台車前方に位置する輪軸の前記車輪は、レールに対してアタック角(走入角)を持つことになり、横方向に非常に大きな滑りを発生する。
【0009】
こうした現象により、騒音や振動が発生し、また、レール摩耗や車輪のフランジ部が摩耗して補修費の増大を招いたり、また、横圧が増加することで、乗り心地の悪化や、走行安全性の低下などの問題が発生する。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
従来、上記した曲線区間におけるレール波状摩耗を防止する対策として、車両の旋回性能を向上させるため、車輪の踏面形状を円弧踏面として輪径差を大きくしたり、輪軸を操舵させアタック角を小さくするものがあるが、これらは走行性能が低下するために限界がある。
【0011】
また、一部には曲線内軌側に塗油装置を設け、レール頭頂面に粘度の低い潤滑油を噴射するものがあるが、潤滑油を塗油した場合、潤滑剤にブレーキの火花が引火して火事になることも多く危険であった。
【0012】
また、潤滑油の量が多いと車輪踏面に潤滑油が回って、ブレーキ性能を阻害したり、停止距離の増加やスリップの危険があり、少ないとその効果がなく、塗油量の設定が困難であった。
【0013】
つまり、曲線区間を走行する際において、レールの波状摩耗を防止するための従来の対策では、車両側の対策には限度があり、また、レール頭頂面に潤滑油を塗布すると摩擦係数が極端に低下し、ブレーキ性能を阻害して停止距離の増加やスリップの危険があった。
【0014】
また、駅手前区間及び急勾配区間では、上記したように車輪の空転やスリップが発生するので、車輪とレール間の摩擦係数を大きくするために、車両側からレールに向かって砂を撒くといった手法が採用されていたが、この手法では、自然落下に近い状態でレール上に供給されるため、風などで砂がレール上に到達する前に飛散したり、砂がレール頭頂面に止まる率が低く、車輪とレール間で十分な摩擦係数を得るために多量の砂を撒く必要が生じていた。
【0015】
また、多量の砂を撒いたり、定常的に砂を撒く区間では、軌道内に砂が堆積し、道床の目詰まりが生じ、結果として撒いた砂の除去などの後処理作業が必要となっていた。この点を解決するものとして、特許第2950641号には、粒子又は粉末状のスリップ防止材を、車両側から車輪とレールとの接触部に向けて高速噴射するようにしたものが開示されている。
【0016】
上記特許によれば、車輪とレールとの接触部に直接スリップ防止材を供給するので、多量のスリップ防止材を必要とせず、また、効率よくブレーキ及び加速性能の向上を図ることができるが、曲線区間においてはレールの波状摩耗を防ぐ効果はなく、また、定常的にスリップ防止材を噴射する区間では、砂を撒くものと較べて少量ではあるがやはりスリップ防止材が堆積するといった問題が生じる。
【0017】
一方、曲線区間を車両が通過するとき、台車前方に位置する輪軸の車輪とレールとの間で生じる騒音や振動、及びレール摩耗や車輪のフランジ部の摩耗を抑制するものにおいては、車輪のフランジ部とレール肩部とが接触するときに、塗油装置によってレール肩部と車輪フランジ部との間に潤滑油が塗油されるようにしていた。
【0018】
しかしながら、塗油装置を使うため、上記同様に、潤滑剤にブレーキの火花が引火して火事になることも多く、また、車輪踏面に潤滑油が回ることによる弊害が生じ、さらに、レール肩部のみに潤滑油を噴射することが困難であった。
【0019】
このように、レール頭頂面と車輪との接触において、曲線区間の内軌側では適度な摩擦係数が、駅手前区間及び急勾配区間では大きな摩擦係数が、また、レール肩部と車輪との接触において、曲線区間の外軌側では小さい摩擦係数が、各々必要とされ、従来では、こうした各走行区間において車輪とレールとの接触部位で、個々に対応するものがあるが上記したように各種の問題を抱えており、車両走行の全体に確実で効率よく作動するものはなかった。
【0020】
本発明は、上記の問題を解決するものであり、車輪とレールとの間に摩擦調整剤を介在させ、摩擦係数をコントロールすることで、各走行区間で生じる、レールの波状摩耗、車輪の空転及びスリップ、また、振動や騒音を、確実に防止して、車両走行区間全域に亘って乗り心地や走行性能を向上させる鉄道車両の走行性能向上方法及び装置を提供することを目的とする。
【0021】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するために、本発明は、すべり率が増加すると摩擦係数が増加する特性を有する第1摩擦調整剤をレール頭頂面に、車輪が接触する領域の面積に対して、20%以上、80%以下となるように付着させ、潤滑作用を呈した第2摩擦調整剤を、レール肩部に付着するようにしたのである。
【0022】
このように、本発明は、第1及び第2摩擦調整剤を車輪とレールとの適切な位置で両者が互いに混じることなく付着させることによって各摩擦調整剤の作用を互いに阻害することなく、確実に作用させることができると共に、車輪とレールの接触部位で生じるレールの波状摩耗、車輪の空転及びスリップ、また、振動や騒音を、確実に抑制して走行性能を向上させることが可能となる。
【0023】
【発明の実施の形態】
本発明の鉄道車両の走行性能向上方法は、鉄道車両の走行中に、進行方向の最後尾の車両側から、少なくとも勾配区間、曲線区間における進行方向内軌側、及び停車駅手前におけるレール頭頂面に、すべり率が増加すると摩擦係数が増加する特性を有する第1摩擦調整剤を、レール頭頂面の車輪が接触する領域の面積に対して、20%以上、80%以下となるように付着させると共に、先頭車両の輪軸の進行方向左右に配置された両車輪に相対する位置から、少なくとも曲線区間における進行方向外軌側のレール肩部に、潤滑作用を呈した第2摩擦調整剤を付着させるものである。
【0024】
第1摩擦調整剤を鉄道車両の走行中に、進行方向の最後尾の車両側から、少なくとも勾配区間、曲線区間における進行方向内軌側、及び停車駅手前におけるレール頭頂面に付着させる理由は次の通りである。すなわち、例えば曲線区間において、進行方向の台車後方の輪軸の(内軌側)車輪とレール頭頂面との間に、潤滑油を塗布すると極端に摩擦係数が低下してスリップやブレーキ性能低下の危険があり、スリップ防止材を噴射すると極端に摩擦係数が増加して波状摩耗を増長したり脱線係数が高くなるといった可能性がある。
【0025】
つまり、曲線区間では、車輪とレール頭頂面との間の摩擦係数を大きすぎずかつ小さすぎず適度に保つことが必要となる。その一方で、駅手前区間や急勾配区間では、摩擦係数を大きくすることで適正なブレーキ性能の確保と車輪の空転を防止することができる。
【0026】
ところで、車輪とレールとの摩擦係数は、乾燥時は通常0.3〜0.4程度とされ、この状態で例えば雨などが車輪とレールとの間に介在すると摩擦係数は小さくなり、潤滑油が介在すると0.06にまで小さくなる。また、車輪の空転やスリップなどのように車輪とレールとに「すべり」が発生するときには摩擦係数は上記した状態からさらに小さくなる。この特性を摩擦係数の負特性とする。
【0027】
レール頭頂面に付着させる第1摩擦調整剤は、車輪とレールとの間で生じる、車輪の空転、スリップなどのように「すべり」が発生するときに摩擦係数が大きくなり、上記負特性に対して正特性を呈するものであり、例えば、特許第2876551号(特許権者:ケルサン・テクノロジーズ・コーポレイション)にかかる潤滑剤組成物を使用する。
【0028】
従って、第1摩擦調整剤は、すべり率が増加すると摩擦係数が増加するから、例えば曲線区間では、特に台車後方における輪軸の車輪がレールに対して縦方向に滑る際、曲線区間通過時の車輪と内軌側レール間の摩擦係数が増加し、結果としてスチック・スリップ振動の発生が防止され、レール頭頂面に生じる波状摩耗が抑制される。
【0029】
また、第1摩擦調整剤は、急勾配区間では、上り走行時に車輪が空転してすべりが発生するときに、摩擦係数が増加するので、結果として空転が防止され登坂不良が抑制され、一方、下り走行時にレール上を車輪がスリップしてすべりが発生するときに、摩擦係数が増加するので、結果としてスリップが防止され停止距離の増加が抑制される。
【0030】
また、第1摩擦調整剤は、駅手前区間では、ブレーキをかけることによりスリップが生じるときに、上記同様に摩擦係数が増加するので、停止距離の増加が抑制される。このように、本発明は、第1摩擦調整剤を少なくとも勾配区間、曲線区間における進行方向内軌側、及び停車駅手前におけるレール頭頂面に付着させることにより、車両の走行区間における車輪とレールとの摩擦による各現象を抑制して適正に車両を走行させることができる。
【0031】
さらに、第1摩擦調整剤をレール頭頂面の車輪が接触する領域の面積に対して、付着総面積が、20%以上、80%以下となるように付着させるようにした理由は、次のとおりである。
【0032】
レール頭頂面の車輪が接触する領域の面積に対して、第1摩擦調整剤の付着総面積が20%未満であると、第1摩擦調整剤の特性が満足に得られないときがあり、一方、80%を超えると、噴射直後のレールと車輪間の摩擦係数が低くなり、車輪滑走の虞がある。
【0033】
一方、先頭車両の輪軸の進行方向左右に配置された両車輪に相対する位置から、少なくとも曲線区間における進行方向外軌側のレール肩部に転写する第2摩擦調整剤は、潤滑作用を呈するものであり、摩擦係数が0.1以下のものを採用することが望ましい。その理由は、摩擦係数が、0.1より大きいと、騒音や振動防止効果が低く、レールと車輪の摩耗を防ぐ効果に乏しいからである。
【0034】
特に曲線区間の外軌側において、台車前方に位置する輪軸の車輪は、レールに対してアタック角(走入角)を持ち、横方向に非常に大きな滑りが発生し、これにより、騒音や振動が発生し、また、レール摩耗や車輪のフランジ部が摩耗して補修費の増大を招いたり、また、横圧が増加することで、乗り心地の悪化や、走行安全性の低下などの問題が発生する。
【0035】
従って、本発明は、レール肩部に潤滑作用を呈する第2摩擦調整剤を付着させることで、上記した車輪フランジ部とレール肩部との摩擦係数を小さくして騒音や振動の発生を抑制するのである。そして、第2摩擦調整剤は、摩擦係数を小さくすることを目的としているので、レール頭頂面などに転写されることがないように、一旦車輪フランジ部に付着させて、車輪の回転によってレール肩部に転写されるようにしているのである。
【0036】
第2摩擦調整剤は、より好ましくは、車輪フランジ部以外の部分に付着されてレール頭頂面に転写されることがないように、固形のものを車輪フランジ部に押しつけて付着させるようにすればよい。
【0037】
なお、液体のように流動性の良い第2摩擦調整剤を採用する場合は、高粘度として流動性を悪くしたり、速乾性のものを選択したり、また、極めて薄い膜厚で塗布するようにすれば、車輪フランジ部以外に第2摩擦調整剤が塗布されてレール頭頂面に転写される可能性は低くなる。
【0038】
このようにすることで、ブレーキ性能を阻害することなく、曲線区間の外軌側のレール肩部と車輪フランジ部との接触による騒音や振動を確実に抑制できる。
【0039】
また、上記方法において、複数種の摩擦係数の異なる第1摩擦調整剤を、区間に応じて選択するようにすれば、より一層、区間毎に適切な摩擦係数を有した第1摩擦調整剤をレール頭頂面に付着させることができるので、走行性能は上記より向上する。
【0040】
また、上記方法においては、車両側の対応にて確実に走行性能が向上することとなり、例えば地上側に複数の塗油装置を設けたりする必要がなくなると共に、それに伴うメンテナンスの手間と時間を省くことができる。
【0041】
上記した、車両側から第1摩擦調整剤と第2摩擦調整剤をレールの所定位置に付着させる本発明の鉄道車両の走行性能向上装置は、例えば第1摩擦調整剤が単数の場合、以下のように構成される。
【0042】
すなわち、本発明の鉄道車両の走行性能向上装置は、輪軸の前記鉄道車両の進行方向左右に配置された両車輪とそれぞれ接触する各々のレールに対応した、進行方向の最後尾の車両側に設けられ、第1摩擦調整剤をレール頭頂面に付着させる第1付着機構と、先頭車両の輪軸の前記両車輪に相対する位置に設けられ、車輪フランジ部に第2摩擦調整剤を付着させる第2付着機構と、車両の現在の走行地点情報を得るための走行地点検知手段と、この走行地点検知手段によって取り込む車両の走行地点情報に第1及び第2摩擦調整剤を付着させる位置の情報を記憶させた付着位置記憶手段と、この付着位置記憶手段の付着位置情報と走行地点検知手段の走行地点情報とを比較して第1及び第2摩擦調整剤の付着判定を行う付着判定手段と、この付着判定手段の判定に基づいて、第1及び第2付着機構のそれぞれに第1及び第2摩擦調整剤を各部へ付着させる旨の指令を出す付着制御手段とを備えたものである。
【0043】
本発明の鉄道車両の走行性能向上装置において、第1付着機構は、進行方向の最後尾の車両に設けられ、例えば最後尾の台車に設けた噴射ノズルからレール頭頂面に向かって第1摩擦調整剤を、レール頭頂面の車輪が接触する領域の面積に対して、20%以上、80%以下となるように噴射する構成とすればよい。
【0044】
つまり、第1摩擦調整剤は、第1付着機構から噴射され、レール頭頂面に付着し、当該列車が通過した後、後続する列車に第1摩擦調整剤の効果が及ぶようにしているのである。
【0045】
一方、上記走行性能向上装置において、第2付着機構は、先頭車両の台車の車輪に相対する位置に搭載され、車輪フランジ部に第2摩擦調整剤を付着させる。よって、車輪フランジ部に塗布された第2摩擦調整剤は、車輪の回転に伴ってレール肩部に転写される。
【0046】
第2付着機構は、例えば第2摩擦調整剤として固形状のものを採用する場合、例えば第2摩擦調整剤を把持して車輪のフランジ部に対して進退可能な構成とすればよい。また、液体状の第2摩擦調整剤を採用する場合、例えば車輪フランジ部に対して進退可能とした構成において、車輪フランジ部との接触端部に第2摩擦調整剤を塗布する構成とすればよい。
【0047】
なお、液体状の第2摩擦調整剤を採用する場合は、レール頭頂面に第2摩擦調整剤が塗布されないように、車輪フランジ部に塗布される第2摩擦調整剤の流動性を考慮して量及び膜厚を正確に制御可能な構成とする必要がある。
【0048】
上記構成において、第1及び第2摩擦調整剤の付着判定は、付着判定手段が、付着位置記憶手段における車両の走行地点情報に予め記憶された付着位置情報と、走行地点検知手段によって得た現在走行中の車両の走行地点情報とを比較し、走行軌道上における付着位置を車両が走行しているときに第1及び第2摩擦調整剤を各部に付着させる旨判定する。
【0049】
上記判定に基づいて、付着制御手段が第1及び第2付着機構に、それぞれの摩擦調整剤を付着させる指令を出すのである。このようにすることによって、確実に付着位置にて第1及び第2摩擦調整剤を使い分けて付着させることができる。
【0050】
また、本発明の鉄道車両の走行性能向上装置は、第1摩擦調整剤場合が複数の場合における上記の方法を実施するための装置であって、付着位置記憶手段には、どの該第1摩擦調整剤をどの区間で選択するかの情報が記憶され、この付着位置記憶手段の情報に基づいて付着判定手段が、複数の第1摩擦調整剤から区間に応じて1つを選択するようにすれば、車両をより適正に走行させることが可能となる。
【0051】
まず、このときに用いる第1摩擦調整剤は、上記特許にかかる潤滑剤組成物の製品で、例えば、摩擦係数が0.40〜0.55(車輪とレールの通常の摩擦係数より少し大きい)とされ、液体状で速乾性の第1摩擦調整剤VHPF(Very High Positive Friction) 、及び摩擦係数が0.17〜0.35(車輪とレールの通常の摩擦係数より少し小さい)とされ、液体状で速乾性の第1摩擦調整剤HPF(High Positive Friction)の少なくとも2種類を走行区間に応じて選択してレール頭頂面に付着させる。
【0052】
例えば、上記した第1摩擦調整剤VHPFは、摩擦係数が高いので急勾配区間に用いて特に好適であり、また、駅手前区間で用いてもよい。ちなみに、駅手前区間では急勾配区間ほど大きな摩擦係数を要しないので、後述する第1摩擦調整剤HPFを用いれば足りる。また、曲線区間で用いないのは、摩擦係数が大きすぎて波状摩耗を増長する可能性があると共に脱線係数が高くなるからである。
【0053】
一方、上記した第1摩擦調整剤HPFは、第1摩擦調整剤VHPFに較べて摩擦係数が低いので曲線区間や駅手前区間に用いて特に好適であり、また、急勾配区間に用いてもよい。ちなみに急勾配区間では、上記したように駅手前区間より大きい摩擦係数を要するので、第1摩擦調整剤HPFを用いたときは、第1摩擦調整剤VHPFを用いたときの効果に較べて若干劣るが使用しても効果はある。
【0054】
例えば単純に大きな摩擦係数を要する急勾配区間では、第1摩擦調整剤VHPFを選択すれば、すべり率が増加するときには摩擦係数が増加するので、下り走行時のスリップが抑制されてブレーキ性能が向上し、また、上り走行時の車輪の空転が抑制され登坂性能が向上する。
【0055】
一方、例えば摩擦係数が大きすぎても小さすぎても問題が生じる曲線区間では、第1摩擦調整剤HPFを用いることで、車輪とレールの通常の摩擦係数より小さくされているにも拘わらず、特に台車後方における輪軸の車輪がレールに対して縦方向に大きく滑る際、曲線区間通過時の車輪と内軌側レール間の摩擦係数が増加し、結果としてスチック・スリップ振動の発生が防止され、レールの頭頂面に生じる波状摩耗を抑制する。
【0056】
この方法を実施するための鉄道車両の走行性能向上装置は、付着判定手段が、付着位置記憶手段に記憶された走行軌道上における付着位置を車両が走行しているときに、当該付着位置で最適な第1摩擦調整剤を選択し、レール頭頂面に付着させる旨判定する。上記判定に基づいて、付着制御手段が第1付着機構に、所定量の選択された第1摩擦調整剤をレール頭頂面に付着させる指令を出すのである。
【0057】
このように、摩擦係数の異なる複数の第1摩擦調整剤を走行区間に応じて選択して台車側からレール頭頂面に噴射することで、各区間における車輪とレールとの摩擦係数が適正にされるため、上記した方法に較べてさらに最適に走行することができ、曲線区間におけるレールの波状摩耗及びそれに起因する騒音や振動の抑制効果が高く、また、急勾配区間及び駅手前区間におけるスリップや車輪の空転の抑制効果が高くなる。
【0058】
ちなみに本発明の請求項1に相当する方法で使用する第1摩擦調整剤は、以上説明したことから、具体的には、第1摩擦調整剤VHPFより摩擦係数が小さい第1摩擦調整剤HPF相当のものを採用すれば、各走行区間に使用することができ、上記に相当する作用効果を得ることができる。
【0059】
また、本発明の鉄道車両の走行性能向上装置は、上記したいずれかの構成に加えて、付着位置記憶手段の付着位置情報と走行地点検知手段の走行地点情報とを比較して得た最新の付着位置情報を、該付着位置記憶手段に更新して入力する付着位置更新手段を備えれば、走行中の付着位置と記憶された付着位置との間でずれが少なくなり、常に適正な位置で第1及び第2摩擦調整剤を適正区間及び位置に付着させることができる。
【0060】
また、本発明の鉄道車両の走行性能向上装置は、上記したいずれかの構成に加えて、同じ編成車両において、先頭車両に設置した騒音計及び/又は振動計で走行中のデータを測定し、測定値が設定値以上のレベルで所定時間持続的に検知されたとき、その区間を走行する車両から第1又は第2摩擦調整剤を選択的に付着させるようにしてもよい。
【0061】
すなわち、走行中に、所定値以上のレベルで所定時間持続した信号が、先頭車両に設置した騒音計及び/又は振動計から付着判定手段に入力されたときは、付着判定手段がその区間を波状摩耗や騒音及び振動が発生する軌道不良箇所であると判定すると共に軌道不良種類を判定し、軌道不良に応じた第1摩擦調整剤又は第2摩擦調整剤を選択する。
【0062】
付着判定手段の判定に基づいて、付着制御手段は、この場合において車両に設けた第1付着機構と第2付着機構を制御して第1摩擦調整剤又は第2摩擦調整剤をレールの適所に付着させる。このようにすれば、駅手前区間、急勾配区間、曲線区間といった、予め記憶された区間のみならず、全区間において軌道不良に即座に対処することができる。
【0063】
【実施例】
以下に、本発明の鉄道車両の走行性能向上方法及び装置の実施例について図面を参照して説明する。図1は、本発明の鉄道車両の走行性能向上方法を実施する本発明の鉄道車両の走行性能向上装置の概略構成を示す。図2は、本発明の鉄道車両の走行性能向上装置における第1摩擦調整剤の付着機構周辺を示す。図3及び図4は、本発明の鉄道車両の走行性能向上装置における第2摩擦調整剤の第2付着機構を示す。図5は、第1摩擦調整剤の付着区間を示す。図6は、第2摩擦調整剤の付着区間を示す。
【0064】
図において、1は、鉄道の車両Pに搭載され、走行区間に応じて、車両P側から摩擦係数の異なる複数の第1摩擦調整剤をレールRの一方又は両方の頭頂面に選択的に付着させ、かつ車両Pが曲線区間を走行中に、台車Tにおける前軸の曲線外軌側に位置する車輪Wのフランジ部Fに、例えば摩擦係数が0.06で固形状の第2摩擦調整剤Mを押しつけて車輪Wの回転に伴い不図示のレールRの肩部に転写させる走行性能向上装置であり、以下の構成とされている。
【0065】
なお、本実施例で使用する第1摩擦調整剤は、例えば摩擦係数が例えば0.50とされ、液体状で速乾性の第1摩擦調整剤VHPF(Very High Positive Friction) と、摩擦係数が例えば0.20とされ、液体状で速乾性の第1摩擦調整剤HPF(High Positive Friction)の2種類であり、これら第1摩擦調整剤が走行区間に応じて選択されて、後述する第1付着機構としての噴射機構7によってレール頭頂面に車速に応じて一定量の割合で噴射される。
【0066】
また、本実施例で使用する第2摩擦調整剤は、例えば摩擦係数が0.06で固形状のものを用い、この第2摩擦調整剤が曲線区間において外軌側の車輪フランジ部に、後述する第2付着機構としての塗布機構8によって塗布され、レール肩部に転写される。
【0067】
2は、車両の現在の走行地点を検知する走行地点検知手段である。この走行地点検知手段2には、不図示の動力の回転方向を検知する正逆回転検知部2Aと、車輪Wの回転により発生するパルス信号から車速を検知する車速検知部2Bと、停車駅近傍の地上に敷設したIDタグQを読みとるためのIDタグ検知部2Cとを有している。
【0068】
走行地点検知手段2において、車速検知部2Bには、検知した車速からF/V変換して距離を算出する変換部2Baが接続され、この変換部2Baからの出力には、車輪Wの直径データの補正を行う補正部2Bcからの情報が付加されるように構成されている。そして、変換部2Ba及び補正部2Bcから出力された情報は、現在車両Pが走行している地点を算出する地点算出部2Bdに出力されるように構成されている。
【0069】
走行地点検知手段2において、IDタグ検知部2Cには、読み出したIDタグQの中の走行地点情報を読み出す読出部2Caが接続され、この読出部2Caには、読み出した情報と走行地点の距離表とを対応させる対応部2Cbが接続されている。そして、前記読出部2Caで読み出されたIDタグ情報は、上記した地点算出部2Bdに出力されるように構成されている。地点算出部2Bdでは、これらの情報から、必要があれば走行地点の算出を修正して現在走行中の正確な走行地点が算出される。
【0070】
3は、車両Pの走行軌道情報に第1及び第2摩擦調整剤を付着させるべき地点、例えば本実施例では、大きく分けて急勾配区間、曲線区間、駅手間区間を車両が走行するときに、2種類の第1摩擦調整剤のうちのどちらを選択するか、また輪軸の進行方向左右に配置された両車輪とそれぞれ接触するレールRに対応する噴射機構7の一方又は両方のどちらを選択するか、また、曲線情報及び曲線においてどちらの塗布機構8を駆動するか、といった情報が記憶された付着位置記憶手段である。
【0071】
4は、上記した走行地点検知手段2における地点算出部2Baから出力された走行地点情報と、付着位置記憶手段3から読み出した付着位置情報とを比較する付着判定手段である。
【0072】
本実施例では、この付着判定手段4は、第1及び第2摩擦調整剤を付着させるか否かを判定し、また、2種類の第1摩擦調整剤から選択して噴射機構7の一方又は両方を駆動する信号を後述の付着制御手段5に出力すると共に、車両Pが曲線区間に入ったことを判定し、進行方向における台車前方の輪軸の両車輪W,Wに相対する塗布機構8のうち、曲線区間の外軌側に対応した一方を駆動する信号を後述の付着制御手段5に出力する。
【0073】
5は、付着判定手段4の判定に基づいて噴射機構7及び塗布機構8を駆動する付着制御手段である。この付着制御手段5は、第1摩擦調整剤を付着させる際に、上記した走行地点検知手段2における変換部2Baから出力された車速情報に基づき、車速に応じて第1摩擦調整剤の噴射量を、レールRの頭頂面に車輪Wが接触する領域の面積に対して、付着総面積が例えば20%となるように制御し、かつ選択された噴射機構7を駆動すると共に、進行方向における台車前方の輪軸の両車輪W,Wに相対する塗布機構8のうち、曲線区間の外軌側に対応した一方を駆動する。
【0074】
6は、上記した付着判定手段4で付着させる旨の判定をした地点、つまり付着位置記憶手段3で読み出した付着位置情報と走行地点検知手段2から出力された現在走行地点情報とを比較して得た最新の付着位置情報を、該付着位置記憶手段3に更新して入力する付着位置更新手段である。
【0075】
7は、進行方向の最後尾の車両Pに、輪軸の両車輪と接触するレールRに対応して各々設けられ、走行区間に応じて、選択された第1摩擦調整剤を両方又は一方から噴射する第1付着機構としての噴射機構である。なお、本実施例では、レールRの右側に対応する噴射機構7を噴射機構7Rと、レールRの左側に対応する噴射機構7を噴射機構7Lと、これら噴射機構7R,7Lを総称する又は特定しない一方を称するときは噴射機構7と示すこととする。
【0076】
噴射機構7は、図2に示すように、進行方向の最後尾の車両Pに、2種類の第1摩擦調整剤が区画されて充填されたタンク7aと、このタンク7aにおいて2種類の第1摩擦調整剤が充填された各区画を切り替えて開閉する不図示の切替弁と、噴射用の圧縮空気が充填されたエアタンク7bとを設け、さらに、タンク7aからの配管途中に第1摩擦調整剤の送り出し用の例えばトロコイド式のポンプ7cを設け、最後尾の台車Tの進行方向と反対側の端部には、エアタンク7bからの圧縮空気と共に、タンク7aからの第1摩擦調整剤を噴射する噴射ノズル7dを設けている。
【0077】
噴射機構7は、レールRに対してできる限り低い位置に設けることで、車速や風などの影響で第1摩擦調整剤が流れることなく、レール頭頂面にピンポイントで第1摩擦調整剤を噴射することが可能となる。
【0078】
8は、進行方向の先頭の車両Pの最先部分に設けられ、例えば固体状の第2摩擦調整剤Mを車輪Wのフランジ部Fに塗布する第2付着機構としての塗布機構である。なお、本実施例では、レールRの右側に対応する塗布機構8を塗布機構8Rと、レールRの左側に対応する塗布機構8を塗布機構8Lと、これら塗布機構8R,8Lを総称するとき又は特定しない一方を称するときは塗布機構8と示すこととする。
【0079】
塗布機構8は、図3及び図4に示すように構成されている。すなわち、上記したように先頭の車両Pの最先部分の台車(図示なし)には、次に説明する構成部材を搭載した基台81が、進行方向前軸の車輪Wのフランジ部Fに対して所定角度をなして設けられている。
【0080】
この基台81上には、例えば、図4(a)に示す状態で図示上下方向中央にロッド82A、このロッド82Aを挟んだ両側にガイド82a,82aを配し、これらロッド82Aを挿通し、かつガイド82a,82aに案内されたシリンダ82Bが設けられている。そしてロッド82A及びガイド82a,82aの両端部は、基台81上に配置された保持具83b,83bによって該基台81に保持されている。
【0081】
シリンダ82Bの上面には、保持部86の一部が設けられており、この保持部86は支圧ばね84を介してシリンダ82Bの移動が保持部86に伝達される。支圧ばね84は、その弾性力によって後述するように第2摩擦調整剤Mの押圧力を一定とするために設けられている。また、ロッド82Aの先端側の保持具83bの上面には、第2摩擦調整剤Mを保持する後述の保持部86のガイド部86Aを案内するレール85が設けられている。
【0082】
そして、シリンダ82B、及びロッド82Aの先端側の保持具83bの上面には、第2摩擦調整剤Mを保持する保持部86が設けられており、上記したように、支圧ばね84とガイド部86Aが一体化されている。そして、保持部86におけるロッド82Aの先端側には、固形状の第2摩擦調整剤Mを設けるための保持部材86Bが設けられている。
【0083】
次に、上記構成の走行性能向上装置1の動作について説明する。車両Pの付着位置記憶手段3には、予め当該列車の走行軌道情報、付着位置情報、第1摩擦調整剤の選択情報、噴射機構7の選択情報、塗布機構8の選択情報、といった各種の情報が記憶されている。
【0084】
いま、列車が駅を出発すると、走行地点検知手段2では、正逆回転検知部2Aで動力の回転方向を検知し、車速検知部2Bにおいては、車輪Wの回転パルスから車速を検知して、変換部2Baに向けて信号を出力する。変換部2Baから出力された距離情報は、補正部2Bcからの車輪Wの補正情報を付加して地点算出部2Bdと付着制御手段5に出力される。
【0085】
さらに、図5及び図6に示すように、駅の近傍の地上に敷設されたIDタグQがIDタグ検知部2Cによって検知され、読出部2Caでどの駅のIDかを読み出すと共に、対応部2Cbから距離数を対応させる。そして、これらの情報が地点算出部2Bdに出力される。
【0086】
地点算出部2Bdでは、列車が駅を出発したときから随時、上記した距離を加算することで走行地点を算出し、また、IDタグQを検知したときには、読出部2Caからの駅間距離の情報に基づいて距離を補正する。このようにすることで、検出した走行地点の精度を高くすることができる。
【0087】
駅を出発した後に例えば曲線区間に入ったとき、付着位置記憶手段3では上記した各種の情報が読み出され、付着判定手段4に出力される。そして、付着判定手段4は、地点算出部2Bdから出力された走行地点情報が付着位置となったときに、噴射機構7及び塗布機構8を駆動するための信号を付着制御手段5に出力する。
【0088】
付着制御手段5により噴射機構7及び塗布機構8に向けて駆動信号が出力されたとき、この付着位置情報は、付着位置更新手段6により、新たに付着位置記憶手段3に入力され、最新の付着位置情報が付着位置記憶手段3に記憶される。
【0089】
いま、まず、付着判定手段4から噴射機構7を駆動する旨の信号が付着制御手段5に出力されたとき、上記した走行地点検知手段2における変換部2Ba及び補正部2Bcから出力された車速情報に基づいて、付着制御手段5は、第1摩擦調整剤の噴射量がレールRの頭頂面の車輪Wとの接触面積に対して、付着総面積が例えば20%となるように量を制御しつつ、噴射機構7R,7Lのうち曲線内軌側の噴射機構7から、第1摩擦調整剤HPFをレールRの頭頂面に向けて噴射する。
【0090】
例えば図5に示す場合は、予め付着位置記憶手段3に記憶された情報に基づいて、最初の曲線内軌側の噴射機構7L、続いて次の曲線内軌側の噴射機構7Rを駆動して、所定区間内を付着制御手段5で判定された量だけ第1摩擦調整剤HPFをレールRの頭頂面に向かって噴射する。
【0091】
また、例えば急勾配区間では、上り走行時では車輪Wの空転を防止して登坂性能を向上させるため、及び下り走行時ではスリップを防止してブレーキ性能の向上させるため、大きな摩擦係数が必要となり、第1摩擦調整剤VHPFを、輪軸の両車輪Wと接触するレールRに対応する噴射機構7L,7Rの両方から、車輪とレールとの接触面積に対して例えば20%だけ付着するようにレール頭頂面に噴射する。なお、勾配区間と曲線区間とが複合する区間では、噴射機構7L,7Rから第1摩擦調整剤HPFを噴射する。
【0092】
また、例えば駅手前区間では、ブレーキをかけたときのスリップを防止して停止距離の適正化を図るため、大きな摩擦係数が必要となるが、駅手前区間が平坦である場合には、輪軸の両車輪Wと接触するレールRに対応する噴射機構7L,7Rの両方から、車輪WとレールRとの接触面積に対して例えば20%だけ付着するようにレール頭頂面に第1摩擦調整剤HPFを噴射する。さらに、駅手前区間が、勾配を有しかつ曲線区間である場合は、第1摩擦調整剤HPFを噴射機構7L,7Rから噴射する。
【0093】
ここで、第1摩擦調整剤VHPFと第1摩擦調整剤HPFの使い分けについて整理すると、次のようになる。
第1摩擦調整剤VHPF、
・急勾配区間において噴射機構7L,7Rから噴射して好適。
・駅手前区間において噴射機構7L,7Rから噴射してもよい。
第1摩擦調整剤HPF、
・曲線区間において内軌側の噴射機構7L,7Rの一方から噴射して好適。
・駅手前区間において噴射機構7L,7Rから噴射して好適。
・急勾配区間において噴射機構7L,7Rから噴射してもよい。
【0094】
また、各区間が複合する場合には、例えば上記したように曲線区間と急勾配区間が複合している区間では、曲線区間に摩擦係数の大きい第1摩擦調整剤VHPFを用いることは、曲線区間におけるレールの波状摩耗の抑制効果が低く、また、急勾配区間の曲線内軌側の噴射機構7L,7Rの一方から噴射しても、急勾配区間における空転あるいはスリップ防止効果が低いので、第1摩擦調整剤HPFを、噴射機構7L,7Rの両方から噴射して対処する。
【0095】
こうしたことから、今度は各区間が複合した走行区間について整理すると、次のようになる。
曲線区間+急勾配区間
・第1摩擦調整剤HPFを噴射機構7L,7Rから噴射する。
曲線区間+駅手前区間
・第1摩擦調整剤HPFを噴射機構7L,7Rから噴射する。
急勾配区間+駅手前区間
・勾配が大であれば、
第1摩擦調整剤VHPFを噴射機構7L,7Rから噴射する。
・勾配が小であれば、
第1摩擦調整剤HPFを噴射機構7L,7Rから噴射する。
曲線区間+急勾配区間+駅手前区間
・第1摩擦調整剤HPFを噴射機構7L,7Rから噴射する。
【0096】
このようにすることで、当該列車又は車両が通過した後、後続する列車又は車両が各区間を走行する際に、例えば曲線区間ではレールRの波状摩耗の発生を抑制することができ、この結果、振動や騒音が抑制され、メンテナンスの頻度を低減させることができ、また、急勾配区間では、上り勾配時の車輪の空転が防止され、及び下り勾配時のスリップが防止され、また、駅手前区間では、スリップによる停止距離の増大を抑制することが可能となる。
【0097】
一方、図6に示すように、駅を出発した後に、付着位置記憶手段3で塗布位置(つまり曲線区間)に車両Pが到達した旨を示す信号が出力され、かつ地点算出部2Bdから出力された走行地点情報が曲線区間に入ったとき、その曲線における外軌側レールRに対応する車輪Wに第2摩擦調整剤Mを塗布すべく、付着制御手段4が、塗布機構8R,8Lにおける一方を駆動する信号を出力する。
【0098】
付着制御手段4により塗布機構8に向けて駆動信号が出力されたとき、この付着位置情報は、上記同様に付着位置更新手段5により、新たに付着位置記憶手段3に入力され、常に最新の付着位置情報が付着位置記憶手段3に記憶される。
【0099】
そして、付着制御手段4から塗布機構8を駆動する旨の信号が出力されたときには、図3(a)に示す状態にある塗布機構8において、シリンダ82Bがロッド82Aに対して先端側に進出し、これに伴って、支圧ばね84を介して保持部86も進出して第2摩擦調整剤Mが車輪Wのフランジ部Fに接触し、図3(b)に示す状態となる。
【0100】
保持部86は、支圧ばね84を介してシリンダ82Bに設けているので、シリンダ82Bを進出駆動して第2摩擦調整剤Mが過度に車輪Wのフランジ部Fに接触すると、支圧ばね84の作用により、保持部86全体がシリンダ82Bの退出方向に逃げ、第2摩擦調整剤Mは、常に同じ圧力で車輪Wのフランジ部Fに接触し、同じ膜厚で塗布されることとなる。
【0101】
曲線の外軌側のレールRに対応する台車前軸の車輪Wのフランジ部Fに、第2摩擦調整剤Mが塗布されると、いま車輪Wのフランジ部Fに塗布された摩擦調整剤Mが、車輪Wの回転に伴い直ちに順次レールRの肩部に転写される。
【0102】
なお、曲線区間を車両Pが通過した後には、その旨付着制御手段4が判定し、塗布機構8を上記とは逆に制御する。塗布機構8は、図3(b)に示す状態からシリンダ82Bを退出させ、図3(a)に示す状態に戻すように駆動する。
【0103】
このようにすることで、第2摩擦調整剤は、直接レールRに塗布するのではなく、レールRの肩部に確実に接触する進行方向における台車前軸の車輪Wのフランジ部Fに一旦塗布され、その後、車輪Wのフランジ部FからレールRの肩部に転写され、また、曲線区間に入ったことを検知して台車前軸における外軌側の塗布機構8の一方を選択して駆動するので、消費に無駄がなく、適量を適所に塗布することができる。
【0104】
従って、第1摩擦調整剤を付着したレールRの頭頂面に第2摩擦調整剤が付着しないので、両者が互いの作用を阻害することがなく、ブレーキ性能を保持したまま、滑走を防止しつつ確実に、曲線区間の外軌側におけるレールRの肩部と車輪Wのフランジ部Fとの摩耗や、騒音及び振動を抑制することができ、メンテナンスの頻度を低減させることができる。
【0105】
また、本発明は、第1摩擦調整剤HPFのみを用いて、噴射位置を車両Pが走行するときに両方の噴射機構7R,7Lから第1摩擦調整剤HPFを噴射するようにしても上記実施例より作用効果は低いものの、本発明を採用しない状態又は従来の技術に較べては、格段の作用効果を得ることができる。
【0106】
また、本発明は、車輪Wのフランジ部Fに、第2摩擦調整剤Mを塗布し、車輪Wの回転によって第2摩擦調整剤MをレールRの肩部に転写するため、レールRの頭頂面には第2摩擦調整剤が塗布されず、ブレーキ性能が阻害されることがないので、走行全区間の輪軸の両車輪W,Wのフランジ部F,Fに第2摩擦調整剤Mを塗布するようにしても、第2摩擦調整剤Mの消費量に無駄が生じるが、車両の走行自体に問題はない。
【0107】
また、第2摩擦調整剤Mは、車輪Wのフランジ部F以外に第2摩擦調整剤Mが塗布されてレールRの頭頂面に転写されないように、上記では固形状のものを用いたが、例えば、液体状の第2摩擦調整剤Mを採用する場合、まず、第2摩擦調整剤Mは、高粘度として流動性を悪いものや速乾性のものを選択すればよい。
【0108】
そして、装置側では、極めて薄い膜厚で車輪Wのフランジ部Fに第2摩擦調整剤Mが塗布されるように塗布機構8を構成すればよく、例えば車輪Wのフランジ部Fに対して進退可能とした塗布部材として、例えば回転体や舌状体などを採用し、車輪Wのフランジ部Fに塗布される第2摩擦調整剤Mの流動性を考慮して量及び膜厚を正確に制御しつつ塗布部材を車輪Wのフランジ部Fに接触させて第2摩擦調整剤Mを塗布する構成とすればよい。
【0109】
なお、本発明は、上記実施例に限らず各種の変形が可能である。例えば上記した実施例では、付着制御手段5は、車速に応じて第1摩擦調整剤の量を判定するが、例えば所定速度以下となったときには噴射する第1摩擦調整剤の量を0、つまり第1摩擦調整剤を噴射しないようにすることも可能であり、このようにすることで、不必要な噴射を防止することができる。
【0110】
さらに、走行地点検知手段2における変換部2Baや付着制御手段5に出力される車速の情報は、運行時に車両速度の計測に供される情報を用いてもよい。また、第1摩擦調整剤は、摩擦係数の異なるさらに複数種を用いて各区間に対応させるようにしてもよい。
【0111】
また、同じ編成車両において、先頭車両に設置した騒音計や振動計で走行中のデータを測定し、測定値が設定値以上のレベルで所定時間持続的に検知されたとき、その区間を走行する後尾車両から第1又は第2摩擦調整剤を選択的に付着させるようにしてもよい。
【0112】
この場合、走行中に、図示しない騒音計や振動計の信号を一旦付着判定手段4に入力する。付着判定手段4は、騒音計や振動計からの信号が所定値以上のレベルで所定時間持続したとき、その区間を波状摩耗や騒音及び振動が発生する軌道不良箇所であると判定すると共に騒音計からの信号か振動計からの信号かに基づいて軌道不良種類を判定する。
【0113】
付着判定手段4は、これらの判定に基づいて、第1摩擦調整剤HPF又はVHPF、第2摩擦調整剤Mを選択して付着制御手段5へ信号を出力する。そして、付着制御手段5によって、この場合は後尾車両に設けられた噴射機構7、塗布機構8が適宜選択され、第1摩擦調整剤HPF又はVHPF、第2摩擦調整剤Mをレールの適所に付着させる。
【0114】
このようにすることで、先頭車両で軌道不良が検知されたときに、即座に後尾車両で対処することができることとなり、上記した予め記憶された駅手前区間、急勾配区間、曲線区間に限らず、走行中の全区間において、軌道不良を検知して対処することが可能となる。
【0115】
また、例えば第2摩擦調整剤Mの進退移動は、上記実施例ではシリンダ82Bを用いたが、ラックとピニオンによって移動させる構成としてもよく、また、支圧ばね84は、弾性部材として例えばゴムなどを用いてもよい。さらに、本発明の請求項1、請求項2に対応する方法は、本実施例では車両側から、つまり本発明の走行性能向上装置1を用いて、第1及び第2摩擦調整剤をレールRの各部に付着させるようにしていたが、付着方法自体は特に限定しない。
【0116】
【発明の効果】
以上のように、本発明の鉄道車両の走行性能向上方法は、鉄道車両の走行中に、進行方向の最後尾の車両側から、少なくとも勾配区間、曲線区間における進行方向内軌側、及び停車駅手前におけるレール頭頂面に、すべり率が増加すると摩擦係数が増加する特性を有する第1摩擦調整剤を、レール頭頂面の車輪が接触する領域の面積に対して、20%以上、80%以下となるように付着させると共に、先頭車両の輪軸の進行方向左右に配置された両車輪に相対する位置から、少なくとも曲線区間における進行方向外軌側のレール肩部に、潤滑作用を呈した第2摩擦調整剤を付着させるので、互いの相乗効果により、車輪とレールとの間の摩擦係数を適正にコントロールすることができ、従ってレールの波状摩耗、車輪の空転及びスリップ、また、振動や騒音を防止することができ、車両の乗り心地や走行性能を向上させることができる。
【0117】
また、本発明の鉄道車両の走行性能向上方法は、上記において、複数種の摩擦係数の異なる第1摩擦調整剤を、区間に応じて選択することで、上記に較べてより精度よく車輪とレールとの間の摩擦係数を適正にコントロールすることができ、走行性能を一層向上させることができる。
【0118】
また、本発明の鉄道車両の走行性能向上方法、例えば地上側に第1及び第2摩擦調整剤を付着させるための装置を設置したときの設置台数やメンテナンスにかかる人手と時間を削減することができ、従って、確実かつ簡便に上記方法を実施することが可能となる。
【0119】
また、本発明の鉄道車両の走行性能向上装置は、単数の第1摩擦調整剤をレール頭頂面に付着させる第1付着機構、車輪フランジ部に第2摩擦調整剤を付着させる第2付着機構、走行地点検知手段、付着位置記憶手段、付着判定手段、及び付着制御手段を備えたので、走行区間のレール適所に第1及び第2摩擦調整剤を確実に付着させることができ、従って、車輪とレールとの間の摩擦係数を適正にコントロールしてレールの波状摩耗、車輪の空転及びスリップ、また、振動や騒音を防止することができ、車両の乗り心地や走行性能を向上させることができる。
【0120】
また、上記構成において、複数の第1摩擦調整剤を区間に応じて選択する場合、付着位置記憶手段には、どの該第1摩擦調整剤をどの区間で選択するかの情報が記憶され、この付着位置記憶手段の情報に基づいて付着判定手段が、複数の第1摩擦調整剤から区間に応じて1つを選択するようにしているので、上記に較べてより精度よく車輪とレールとの間の摩擦係数を適正にコントロールすることができ、走行性能を一層向上させることができる。
【0121】
また、上記構成において、付着位置記憶手段の付着位置情報と走行地点検知手段の走行地点情報とを比較して得た最新の付着位置情報を、該付着位置記憶手段に更新して入力する付着位置更新手段を備えれば、常に最新の付着位置情報を記憶しておくことができ、第1及び第2摩擦調整剤の付着位置の精度の狂いを少なくすることができる。
【0122】
また、上記構成おいて、同じ編成車両において、先頭車両に設置した騒音計及び/又は振動計で走行中のデータを測定し、測定値が設定値以上のレベルで所定時間持続的に検知されたとき、その区間を走行する後尾車両から第1又は第2摩擦調整剤を選択的に付着させるようにすれば、駅手前区間、急勾配区間、曲線区間といった、予め記憶された区間のみならず、全区間において軌道不良に即座に対処することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の鉄道車両の走行性能向上装置の概略構成を示す図である。
【図2】 本発明の鉄道車両の走行性能向上装置における噴射機構周辺を示す図である。
【図3】 本発明の鉄道車両の走行性能向上装置における塗布機構周辺を示し、(a)は駆動させていない状態を、(b)は駆動状態を、各々示す図である。
【図4】 本発明の鉄道車両の走行性能向上装置における塗布機構を示し、(a)は上方から見た図、(b)は(a)の側面方向から見た図、(c)は(b)のA−A線断面図、(d)は(b)のB矢視図、である。
【図5】 本発明の鉄道車両の走行性能向上装置を搭載した列車が走行している際の第1摩擦調整剤の付着位置を説明するための図であり、(a)は車両の側面方向から見た図、(b)は車両の上方から見た図、である。
【図6】 本発明の鉄道車両の走行性能向上装置を搭載した列車が走行している際の第2摩擦調整剤の付着位置を説明するための図であり、(a)は車両の側面方向から見た図、(b)は車両の上方から見た図、である。
【符号の説明】
1 走行性能向上装置
2 走行地点検知手段
3 付着位置記憶手段
4 付着判定手段
5 付着制御手段
6 付着位置更新手段
7 噴射機構(第1付着機構)
8 塗布機構(第2付着機構)
F フランジ部
P 車両
R レール
W 車輪

Claims (6)

  1. 鉄道車両の走行中に、進行方向の最後尾の車両側から、少なくとも勾配区間、曲線区間における進行方向内軌側、及び停車駅手前におけるレール頭頂面に、すべり率が増加すると摩擦係数が増加する特性を有する第1摩擦調整剤を、レール頭頂面の車輪が接触する領域の面積に対して、20%以上、80%以下となるように付着させると共に、
    先頭車両の輪軸の進行方向左右に配置された両車輪に相対する位置から、少なくとも曲線区間における進行方向外軌側のレール肩部に、潤滑作用を呈した第2摩擦調整剤を付着させることを特徴とする鉄道車両の走行性能向上方法。
  2. 複数種の摩擦係数の異なる第1摩擦調整剤を、区間に応じて選択することを特徴とする請求項1に記載の鉄道車両の走行性能向上方法。
  3. 求項1に記載の方法を実施するための装置であって、
    輪軸の前記鉄道車両の進行方向左右に配置された両車輪とそれぞれ接触する各々のレールに対応した、進行方向の最後尾の車両側に設けられ、第1摩擦調整剤をレール頭頂面に付着させる第1付着機構と、
    先頭車両の輪軸の前記両車輪に相対する位置に設けられ、車輪フランジ部に第2摩擦調整剤を付着させる第2付着機構と、
    車両の現在の走行地点情報を得るための走行地点検知手段と、
    この走行地点検知手段によって取り込む車両の走行地点情報に第1及び第2摩擦調整剤を付着させる位置の情報を記憶させた付着位置記憶手段と、
    この付着位置記憶手段の付着位置情報と前記走行地点検知手段の走行地点情報とを比較して第1及び第2摩擦調整剤の付着判定を行う付着判定手段と、
    この付着判定手段の判定に基づいて、前記第1及び第2付着機構のそれぞれに第1及び第2摩擦調整剤を各部へ付着させる旨の指令を出す付着制御手段と
    を備えたことを特徴とする鉄道車両の走行性能向上装置。
  4. 求項2に記載の方法を実施するための装置であって、
    付着位置記憶手段には、どの該第1摩擦調整剤をどの区間で選択するかの情報が記憶され、
    この付着位置記憶手段の情報に基づいて付着判定手段が、複数の第1摩擦調整剤から区間に応じて1つを選択することを特徴とする請求項に記載の鉄道車両の走行性能向上装置。
  5. 付着位置記憶手段の付着位置情報と走行地点検知手段の走行地点情報とを比較して得た最新の付着位置情報を、該付着位置記憶手段に更新して入力する付着位置更新手段を備えたことを特徴とする請求項又はに記載の鉄道車両の走行性能向上装置。
  6. 同じ編成車両において、先頭車両に設置した騒音計及び/または振動計で走行中のデータを測定し、
    測定値が設定値以上のレベルで所定時間持続的に検知されたとき、その区間を走行する車両から第1又は第2摩擦調整剤を選択的に付着させるようにしたことを特徴とする請求項乃至のいずれかに記載の鉄道車両の走行性能向上装置。
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