JP4244496B2 - リビングラジカル重合開始剤系及びそれを用いる重合体の製造方法 - Google Patents

リビングラジカル重合開始剤系及びそれを用いる重合体の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、リビングラジカル重合開始剤系及びそれを用いる重合体の製造方法に関する。より詳しくは、本発明は、ラジカル重合性単量体の種類及び組合わせに関して幅広い範囲で適用可能なリビングラジカル重合開始剤系に関し、更に、そのリビングラジカル重合開始剤系を使用し、分子量を制御しつつ且つ分子量分布の狭い重合体を容易に製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ビニル化合物の重合体の製造方法としてラジカル重合方法が工業的に広く用いられている。このラジカル重合は、一般に、ラジカル発生剤を重合開始剤として用いてビニル化合物の連鎖を開始させ、これを成長させて重合させるものであるが、成長末端の重合停止や連鎖移動等の副反応を起こしやすいため、分子量を制御しつつ分子量分布の狭い重合体を製造することは困難である。
【0003】
そこで、分子量を制御しつつ分子量分布の狭い重合体を製造する方法として、ジクロロトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム等の遷移金属錯体と、四塩化炭素、1−フェニルエチルクロリド、2−ブロモ−2−メチルプロパン酸エチル等のハロゲン化合物(重合開始剤)と、アルミニウムアルコキシ化合物等のルイス酸とからなる重合開始剤系(リビングラジカル重合開始剤系)を用いたリビングラジカル重合方法が提案されている(Macromolecules, vol.28, 1721(1995); J. Am. Chem. Soc., 117, 5614(1995);特開平8−41117号公報;特開平9−208616号公報等参照)。例えば、このリビングラジカル重合方法に従ってメタクリル酸エステルをリビングラジカル重合させた場合には、遷移金属錯体としてジクロロトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウムを用い、且つハロゲン化合物として四塩化炭素を用いることによって、分子量を制御しつつ且つ分子量分布の狭い重合体を製造することができる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、本発明者等の得た知見によれば、アクリル酸エステル又はスチレン等をリビングラジカル重合させた場合には、前述したメタクリル酸メチルの重合に対して好結果を与えたリビングラジカル重合開始剤系と同じ重合開始剤系を使用したとしても、また、遷移金属錯体としてジクロロトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウムを含み且つハロゲン化合物として2−ブロモ−2−メチルプロパン酸エチルを含む重合開始剤系を使用したとしても、得られる重合体の分子量分布を十分に狭くすることができないという問題がある。
【0005】
以上のように、前述したような遷移金属錯体を含む重合開始剤系を使用するリビングラジカル重合方法においては、適用しようとするラジカル重合性単量体の種類によっては、分子量を制御しつつ且つ狭い分子量分布の重合体を製造することが困難であるという問題が生ずる。特に、二種類以上のラジカル重合性単量体をリビングラジカル共重合させる場合には、分子量を制御しつつ且つ分子量分布の狭い共重合体を製造することがより困難となる場合が多い。
【0006】
本発明は、ラジカル重合性単量体を分子量を制御しつつリビングラジカル重合させ且つ分子量分布の狭い重合体を得るために、単量体の種類及び二種以上の単量体を使用する場合にはその組み合わせにおいて幅広い範囲で適用可能なリビングラジカル重合開始剤系を提供することを目的とする。また、本発明は、重合させるべきラジカル重合性単量体の種類及び二種以上のラジカル重合性単量体を使用する場合にはその組み合わせにおいて幅広い範囲で、分子量を制御しつつ重合でき、かつ分子量分布の狭い重合体を得ることの可能な重合体(共重合体を包含する)の製造方法も提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、遷移金属錯体として特定のルテニウム錯体を選択し、その特定のルテニウム錯体を特定のハロゲン化合物及びルイス酸と組合わせてリビング重合開始剤系を形成させることにより上述の課題が解決されることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
即ち、本発明は、下記の成分(A)、(B)及び(C):
(A)ハロゲノペンタメチルシクロペンタジエニルビス(トリアリールホスフィン)ルテニウム;
(B)α−ハロゲノカルボニル化合物又はα−ハロゲノカルボン酸エステル;及び
(C)ルイス酸
からなることを特徴とするリビングラジカル重合開始剤系を提供する。
【0009】
また、本発明は、上述のリビングラジカル重合開始剤系の存在下で、少なくとも一種のラジカル重合性単量体をリビングラジカル重合させることを特徴とする重合体の製造方法も提供する。
【0010】
なお、この製造方法において、ラジカル重合性単量体として少なくとも二種のラジカル重合性単量体を用いる場合には、得られる重合体は共重合体となる。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明のリビングラジカル重合開始剤系は、遷移金属錯体(成分(A))としてハロゲノペンタメチルシクロペンタジエニルビス(トリアリールホスフィン)ルテニウムを使用し、ハロゲン化合物(重合開始剤(成分(B))としてα−ハロゲノカルボニル化合物又はα−ハロゲノカルボン酸エステルを使用し、活性化剤としてルイス酸(成分(C))を使用する。
【0013】
本発明においては、成分(A)の遷移金属錯体としてハロゲノペンタメチルシクロペンタジエニルビス(トリアリールホスフィン)ルテニウムを使用するが、中心金属のルテニウムに対する配位子のひとつであるペンタメチルシクロペンタジエニル基を他の配位性の基(例えば、シクロペンタジエニル基)に置き換えると、本件発明の作用効果が十分には達成されなくなる。その理由は、ペンタメチルシクロペンタジエニル基が適度な電子供与性基であるため、それを配位子の一つとする遷移金属錯体が適度な酸化還元能力を有し、その結果、重合開始剤及び重合体の成長末端の炭素−ハロゲン結合を持つ構造とその構造が遷移金属錯体によりラジカル的に解離して形成される炭素ラジカルの構造との間の平衡反応を効率よく活性化するためではないかと推定される。
【0014】
成分(A)の好ましい具体例としては、クロロペンタメチルシクロペンタジエニルビス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム等のクロロペンタメチルシクロペンタジエニルビス(トリアリールホスフィン)ルテニウムを挙げることができる。
【0015】
本発明のリビングラジカル重合開始剤系においては、重合開始剤として成分(B)のα−ハロゲノカルボニル化合物又はα−ハロゲノカルボン酸エステルを使用する。
【0016】
成分(B)がα−ハロゲノカルボニル化合物である場合、その好ましい具体例として2,2−ジクロロアセトフェノン等を挙げることができる。また、成分(B)がα−ハロゲノカルボン酸エステルである場合、その好ましい具体例として2−クロロ−2,4,4−トリメチルグルタル酸ジメチル等を挙げることができる。
【0017】
本発明のリビングラジカル重合開始剤系においては、成分(A)中のハロゲン原子と成分(B)中のハロゲン原子とは、同種のハロゲン原子であることが好ましい。このような組み合わせとしては、例えば、成分(A)としてクロロペンタメチルシクロペンタジエニルビス(トリフェニルホスフィン)ルテニウムを用いた場合は、同種のハロゲン原子(塩素原子)を持つハロゲン化合物、即ち、2,2−ジクロロアセトフェノン、2−クロロ−2,4,4−トリメチルグルタル酸ジメチル等を使用することが好ましい。
【0018】
以上のように成分(A)中のハロゲン原子と成分(B)中のハロゲン原子とを同種にすることにより、二種以上のラジカル重合性単量体を使用するリビングラジカル共重合において生成する共重合体の分子量分布を特に狭くすることができる。この理由は以下のように考えられる。
【0019】
本発明のリビングラジカル重合開始剤系を使用したリビングラジカル重合においては、成長末端の炭素原子が重合開始剤(ハロゲン化合物)由来のハロゲン原子との間で炭素−ハロゲン結合を形成している構造と、その構造が遷移金属錯体によりラジカル的に解離して形成される炭素ラジカルの構造とが、前者の炭素−ハロゲン結合の構造側に偏った平衡状態を保つことで、ラジカル成長末端の停止反応が起こらずリビング重合が達成されるものと推定される。ここで、重合開始剤と遷移金属錯体のそれぞれのハロゲン原子の種類が異なる場合には、上記平衡反応の際に、重合開始剤(もしくは成長末端)と遷移金属錯体との間でハロゲン交換が起こり、成長末端に異種のハロゲン原子を持つ二種の炭素−ハロゲン結合が生じるが、その二種の炭素−ハロゲン結合は相互に解離エネルギーが異なるために重合速度に違いが生じ、その結果、それぞれの重合体分子の成長速度が揃わず、分子量分布がやや広くなる可能性がある。それに対して、重合開始剤と遷移金属錯体のそれぞれのハロゲン原子の種類が同じである場合には、上記のような成長末端の炭素―ハロゲン結合の種類の不均一化が生じないことから、分子量分布の均一性が一層向上するものと推定される。
【0020】
本発明のリビングラジカル重合開始剤系においては、活性化剤として成分(C)のルイス酸、例えばアルミニウムトリイソプロポキシドやアルミニウムトリ(t−ブトキシド)等のアルミニウムトリアルコキシド;ビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノキシ)メチルアルミニウム、ビス(2,4,6−トリ−t−ブチルフェノキシ)メチルアルミニウム等のビス(置換アリールオキシ)アルキルアルミニウム;トリス(2,6−ジフェニルフェノキシ)アルミニウムなどのトリス(置換アリールオキシ)アルミニウム;チタンテトライソプロポキシド等のチタンテトラアルコキシド等を挙げることができ、好ましくはアルミニウムトリアルコキシドであり、特に好ましくはアルミニウムトリイソプロポキシドである。
【0021】
本発明のリビングラジカル重合開始剤系における各成分の含有割合については、必ずしも限られるものではないが、成分(B)に対する成分(A)の割合が低すぎると重合が遅くなる傾向があり、逆に、高すぎると得られる重合体の分子量分布が広くなる傾向があるので、成分(A):成分(B)のモル比は0.05:1〜1:1の範囲内であることが好ましい。また、成分(B)に対する成分(C)の割合が低すぎると重合が遅くなる傾向があり、逆に、高すぎると得られる重合体の分子量分布が広くなる傾向があるので、成分(B):成分(C)のモル比は1:1〜1:10の範囲内であることが好ましい。
【0022】
本発明のリビングラジカル重合開始剤系は、通常、使用直前に成分(A)の遷移金属錯体、成分(B)の重合開始剤、及び成分(C)の活性化剤を常法により混合することにより製造することができる。また、成分(A)の遷移金属錯体、成分(B)の重合開始剤及び成分(C)の活性化剤をそれぞれ別々に保管しておき、重合反応系中にそれぞれ別々に添加し、重合反応系中で混合してリビングラジカル重合開始剤系として機能するようにしてもよい。
【0023】
次に、本発明のリビングラジカル重合開始剤系を使用する重合体(共重合体の場合を包含する)の製造方法について説明する。
【0024】
この製造方法は、基本的には本発明のリビングラジカル重合開始剤系の存在下、ラジカル重合性単量体を、トルエンなどの溶剤中でリビング重合させるものである。これにより、重合率の増大にほぼ比例して、得られる重合体の数平均分子量(Mn)を増大させることができ、さらに重量平均分子量/数平均分子量(Mw/Mn)で表される分子量分布を1に近い値とすることができる。従って、重合の進行時に、連鎖停止や移動反応による重合体が生成することなく、リビング重合を進行させることができる。更に、二種類以上の単量体を組み合わせて、ランダム共重合を行っても分子量を制御し分子量分布を1に近い値とすることができる。また、第一段階として一種類の単量体もしくは二種類以上の単量体混合物の重合がほぼ完了した重合反応系に、第二段階として新たに一種類の単量体もしくは二種類以上の単量体の混合物を添加すれば、分子量分布を1に近い値を保持したまま数平均分子量を増大させることができ、ブロック共重合体の製造ができる。その後、同様に第三段階もしくはそれ以上の段階で逐次的に、一種類の単量体もしくは二種類以上の単量体混合物を添加すれば、トリブロックあるいはそれ以上のマルチブロック共重合体を製造することができる。
【0025】
本発明の製造方法に従うリビングラジカル重合反応で使用するラジカル重合性単量体としては、汎用性及び本発明の効果の顕著さの点から、スチレン系単量体、メタクリル酸エステル及びアクリル酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも一種のラジカル重合性単量体が好ましい。スチレン系単量体としては、スチレン、p−メチルスチレン、p−メトキシスチレン、p−t−ブチルスチレン、p−n−ブチルスチレン、p−クロロスチレン等が挙げられ、特に好ましい例はスチレンである。メタクリル酸エステルとしては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル等が挙げられ、特に好ましい例はメタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル等である。また、アクリル酸エステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル等が挙げられ、特に好ましい例はアクリル酸メチル、アクリル酸ブチル等である。
【0026】
本発明の製造方法に従うリビングラジカル重合反応では、その他に、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸アミド、(メタ)アクリル酸置換アミド、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、フマル酸無水物、フマル酸メチル、フマル酸エチル等のラジカル重合性単量体を使用することができる。なお、上記の「(メタ)アクリル酸」は「メタクリル酸」及び「アクリル酸」の総称である。
【0027】
本発明の製造方法において、重合反応系内のラジカル重合性単量体の初期濃度は、必ずしも限られるものではないが、低すぎると反応速度が遅すぎ、高すぎると生成ラジカルの単量体への連鎖移動反応が増大し、得られる重合体の分子量分布が広くなる傾向があるので、好ましくは0.5〜8mol(モル)/L(リットル)、特に好ましいのは1〜4mol/Lの範囲である。その際における各成分の重合系内の濃度についても必ずしも限られるものではないが、ラジカル重合性単量体の濃度に応じて差はあるものの、成分(B)の重合開始剤濃度は、好ましくは0.1〜100mmol(ミリモル)/L(リットル)、特に好ましくは0.5〜50mmol/Lである。成分(A)の遷移金属錯体の濃度は、好ましくは0.1〜50mmol/L、特に好ましくは0.5〜10mmol/Lである。また、成分(C)のルイス酸の濃度は、好ましくは1〜200mmol/L、特に好ましくは5〜50mmol/Lである。
【0028】
本発明の製造方法において、リビングラジカル重合反応開始に際しては、窒素のような不活性気体の雰囲気下、反応容器に、単量体、溶媒、ルイス酸(成分(C))及び遷移金属錯体(成分(A))からなる混合物を調製し、これに重合開始剤(成分(B))を加えることが好ましい。このようにして得られた混合物を、例えば、60〜120℃の範囲内の温度に加温することにより重合を開始させることができる。
【0029】
重合反応終了後、例えば、重合反応系を0℃以下、好ましくは−78℃程度に冷却して反応を停止させ、ついでトルエン等の有機溶媒で生成重合体を抽出し、希塩酸にて重合開始剤系の金属成分などを除去した後、揮発分を蒸発させることによって重合体を得ることができる。
【0030】
【実施例】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
【0031】
なお、以下の実施例並びに比較例において、特に断りのない限り、操作は全て乾燥窒素ガス雰囲気下で行い、試薬類は容器から注射器により採取し、反応系に添加した。また、溶媒及び単量体は、蒸留によって精製し、更に乾燥窒素ガスを吹き込んだ後に用いた。
【0032】
重合体の重合率は、n−オクタンを内部標準として得られた反応溶液中の単量体の濃度をガスクロマトグラフィーにて分析し、その分析値に基づいて算出した。得られた重合体の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)及び分子量分布Mw/Mnの値は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)を用いて、次の条件にて測定し、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸メチル及びメタクリル酸メチル−アクリル酸メチル共重合体についてはポリメタクリル酸メチル換算にて算出し、またポリスチレン、スチレン−アクリル酸ブチルランダム共重合体及びスチレン−アクリル酸ブチルランダム共重合体ブロックとポリメタクリル酸メチルブロックとのブロック共重合体についてはポリスチレン換算にて算出した。
【0033】
GPC測定条件
カラム:ショーデックスK−805L(3本直列)
溶媒:クロロホルム
温度:40℃
検出器:RI及びUV
流速:1ml/分
実施例1
メタクリル酸メチル4.28ml(40.1mmol)、トルエン1.17ml及びn−オクタン0.856mlをシュレンク反応管に採取し、均一に混合した。この混合溶液にアルミニウムトリイソプロポキシドの125mmol/Lトルエン溶液3.20ml(0.401mmol)を加え、ついでクロロペンタメチルシクロペンタジエニルビス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム31.9mg(0.0401mmol)を室温で加えて十分に撹拌し、最後に2−クロロ−2,4,4−トリメチルグルタル酸ジメチルの802mmol/Lトルエン溶液0.499ml(0.401mmol)を加えた。得られた混合物を80℃に加温することにより重合反応を開始させた。
【0034】
重合反応を開始後30時間経過した時点で、反応溶液を−78℃に冷却することにより、重合反応を停止させた。メタクリル酸メチルの重合率は26%であり、また、反応溶液中に存在するポリメタクリル酸メチルの数平均分子量(Mn)は2900、重合平均分子量(Mw)は3200で、従ってMw/Mnは1.10であった。さらに、そのGPC曲線は単峰性であった。
【0035】
実施例2
実施例1において、重合反応を開始して127時間後に停止させた以外は、実施例1と同様に重合反応を行い、同様に分析した。その結果、メタクリル酸メチルの重合率は94%、反応系中に存在するポリメタクリル酸メチルのMnは12700、Mwは14400、Mw/Mnは1.13であり、GPC曲線は単峰性であった。
【0036】
実施例2を実施例1と比較すれば明らかなように重合率を増大させると、それにほぼ比例して得られる重合体のMnが増大し、Mw/Mnの値が1に近い値に保たれていることが分かる。
【0037】
比較例1
メタクリル酸メチル4.28ml(40.1mmol)、トルエン1.28ml及びn−オクタン0.856mlをシュレンク反応管に採取し、均一に混合した。この混合溶液にアルミニウムトリイソプロポキシドの125mmol/Lトルエン溶液3.20ml(0.401mmol)を加え、ついでジクロロトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウムの191.8mg(0.200mmol)を室温で加えて十分に撹拌し、最後に2−ブロモ−2−メチルプロパン酸エチルの1030mmol/Lトルエン溶液0.389ml(0.401mmol)を加えた。得られた混合物を80℃に加温することにより重合反応を開始させた。
【0038】
重合反応を開始して57時間経過後、反応溶液を−78℃に冷却することにより、重合反応を停止させた。メタクリル酸メチルの重合率は90%であり、また、反応溶液中に存在するポリメタクリル酸メチルのMnは21300、Mwは27500で、従ってMw/Mnは1.29であった。
【0039】
実施例1及び実施例2と比較例1とを比較すれば明らかなように、遷移金属錯体としてクロロペンタメチルシクロペンタジエニルビス(トリフェニルホスフィン)ルテニウムを用い、同種のハロゲン原子を持つ2−クロロ−2,4,4−トリメチルグルタル酸ジメチルを用いた場合は、遷移金属錯体として本発明の範囲外であるジクロロトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウムを用い、異種のハロゲン原子を持つ2−ブロモ−2−メチルプロパン酸エチルを用いた場合に比べ分子量分布は狭いことが分かる。
【0040】
実施例3
スチレン5.04ml(44.0mmol)、トルエン0.882ml及びn−オクタン1.01mlをシュレンク反応管に採取し、均一に混合した。この混合溶液にアルミニウムトリイソプロポキシドの125mmol/Lトルエン溶液3.52ml(0.440mmol)を加え、ついでクロロペンタメチルシクロペンタジエニルビス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム35.0mg(0.0440mmol)を室温で加えて十分に撹拌し、最後に2−クロロ−2,4,4−トリメチルグルタル酸ジメチルの802mmol/Lトルエン溶液0.549ml(0.440mmol)を加えた。得られた混合物を100℃に加温することにより重合反応を開始させた。
【0041】
重合反応を開始後20時間経過した時点で、反応溶液を−78℃に冷却することにより、重合反応を停止させた。スチレンの重合率は32%であり、また、反応溶液中に存在するポリスチレンのMnは3800、Mwは4100で、従ってMw/Mnは1.08であった。さらに、そのGPC曲線は単峰性であった。
【0042】
実施例4
実施例3において、重合反応を開始して129時間後に停止させた以外は、実施例3と同様に重合反応を行い、同様に分析した。その結果、スチレンの重合率は89%、反応系中に存在するポリスチレンのMnは10900、Mwは11900、Mw/Mnは1.09であり、GPC曲線は単峰性であった。
【0043】
実施例4を実施例3と比較すれば明らかなように重合率を増大させると、それにほぼ比例して得られる重合体のMnが増大し、Mw/Mnの値が1に近い値に保たれていることが分かる。
【0044】
比較例2
スチレン2.52ml(22.0mmol)、トルエン4.24ml及びn−オクタン0.504mlをシュレンク反応管に採取し、均一に混合した。この混合溶液にアルミニウムトリイソプロポキシドの125mmol/Lトルエン溶液3.52ml(0.440mmol)を加え、ついでジクロロトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム105.5mg(0.110mmol)を室温で加えて十分に撹拌し、最後に2−ブロモ−2−メチルプロパン酸エチルの1030mmol/Lトルエン溶液0.214ml(0.220mmol)を加えた。得られた混合物を100℃に加温することにより重合反応を開始させた。
【0045】
重合反応を開始後50時間経過した時点で、反応溶液を−78℃に冷却することにより、重合反応を停止させた。スチレンの重合率は90%であり、また、反応溶液中に存在するポリスチレンのMnは9500、Mwは16800で、従ってMw/Mnは1.77であった。
【0046】
実施例3及び実施例4と比較例2とを比較すれば明らかなように、遷移金属錯体としてクロロペンタメチルシクロペンタジエニルビス(トリフェニルホスフィン)ルテニウムを用い、同種のハロゲン原子を持つ2−クロロ−2,4,4−トリメチルグルタル酸ジメチルを用いた場合は、遷移金属錯体として本発明の範囲外であるジクロロトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウムを用い、異種のハロゲン原子を持つ2−ブロモ−2−メチルプロパン酸エチルを用いた場合に比べ分子量分布は狭いことが分かる。また、この相違は、ラジカル重合性単量体として、実施例3及び4のようにスチレンを使用した場合において、実施例1及び2のようにメタクリル酸メチルを使用した場合に比べていっそう顕著になることが分かる。
【0047】
実施例5
アクリル酸メチル3.42ml(38.0mmol)、トルエン1.88ml及びn−オクタン0.684mlをシュレンク反応管に採取し、均一に混合した。この混合溶液にアルミニウムトリイソプロポキシドの125mmol/Lトルエン溶液3.04ml(0.380mmol)を加え、ついでクロロペンタメチルシクロペンタジエニルビス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム30.3mg(0.0381mmol)を室温で加えて十分に撹拌し、最後に2−クロロ−2,4,4−トリメチルグルタル酸ジメチルの802mmol/Lトルエン溶液0.474ml(0.380mmol)を加えた。得られた混合物を80℃に加温することにより重合反応を開始させた。
【0048】
重合反応を開始して49時間経過した時点で、反応溶液を−78℃に冷却することにより、重合反応を停止させた。アクリル酸メチルの重合率は27%であり、また、反応溶液中に存在するポリアクリル酸メチルのMnは3000、Mwは3500で、従ってMw/Mnは1.17であった。さらに、そのGPC曲線は単峰性であった。
【0049】
実施例6
実施例5において、重合反応を開始して159時間後に停止させた以外は、実施例5と同様に重合反応を行い、同様に分析した。その結果、アクリル酸メチルの重合率は91%、反応系中に存在するポリアクリル酸メチルのMnは10000、Mwは11900、Mw/Mnは1.19であり、GPC曲線は単峰性であった。
【0050】
実施例6を実施例5と比較すれば明らかなように重合率を増大させると、それにほぼ比例して得られる重合体のMnが増大し、Mw/Mnの値が1に近い値に保たれていることが分かる。
【0051】
比較例3
アクリル酸メチル1.71ml(19.0mmol)、トルエン4.22ml及びn−オクタン0.342mlをシュレンク反応管に採取し、均一に混合した。この混合溶液にアルミニウムトリイソプロポキシドの125mmol/Lトルエン溶液3.04ml(0.380mmol)を加え、ついでジクロロトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム91.1mg(0.0950mmol)を室温で加えて十分に撹拌し、最後に2−ブロモ−2−メチルプロパン酸エチルの1030mmol/Lトルエン溶液0.185ml(0.190mmol)を加えた。得られた混合物を80℃に加温することにより重合反応を開始させた。
【0052】
重合反応を開始後145時間経過した時点で、反応溶液を−78℃に冷却することにより、重合反応を停止させた。アクリル酸メチルの重合率は95%であり、また、反応溶液中に存在するポリアクリル酸メチルのMnは6800、Mwは10900で、従ってMw/Mnは1.60であった。
【0053】
実施例5及び実施例6と比較例3とを比較すれば明らかなように、遷移金属錯体としてクロロペンタメチルシクロペンタジエニルビス(トリフェニルホスフィン)ルテニウムを用い、同種のハロゲン原子を持つ2−クロロ−2,4,4−トリメチルグルタル酸ジメチルを用いた場合は、遷移金属錯体として本発明の範囲外であるジクロロトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウムを用い、異種のハロゲン原子を持つ2−ブロモ−2−メチルプロパン酸エチルを用いた場合に比べ分子量分布は狭いことが分かる。また、この相違は、ラジカル重合性単量体として、実施例5及び6のようなアクリル酸メチルを使用した場合において、実施例1及び2のようなメタクリル酸メチルを使用した場合に比べ、いっそう顕著になることが分かる。
【0054】
実施例7
メタクリル酸メチル3.21ml(30.0mmol)、アクリル酸メチル2.70ml(30.0mmol)、トルエン2.36ml及びn−オクタン1.18mlをシュレンク反応管に採取し、均一に混合した。この混合溶液にアルミニウムトリイソプロポキシドの125mmol/Lトルエン溶液4.80ml(0.600mmol)を加え、ついでクロロペンタメチルシクロペンタジエニルビス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム47.8mg(0.0600mmol)を室温で加えて十分に撹拌し、最後に2−クロロ−2,4,4−トリメチルグルタル酸ジメチルの802mmol/Lトルエン溶液0.748ml(0.600mmol)を加えた。得られた混合物を80℃に加温することにより重合反応を開始させた。
【0055】
重合反応を開始して98時間経過後、反応溶液を−78℃に冷却することにより、重合反応を停止させた。メタクリル酸メチル及びアクリル酸メチルの重合率はそれぞれ92%及び65%であり、また、反応溶液中に存在するメタクリル酸メチル−アクリル酸メチルランダム共重合体のMnは7900、Mwは9400で、従ってMw/Mnは1.19であった。
【0056】
比較例4
メタクリル酸メチル2.14ml(20.0mmol)、アクリル酸メチル1.80ml(20.0mmol)、トルエン1.68ml及びn−オクタン0.788mlをシュレンク反応管に採取し、均一に混合した。この混合溶液にアルミニウムトリイソプロポキシドの125mmol/Lトルエン溶液3.20ml(0.400mmol)を加え、ついでジクロロトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウムの191.78mg(0.200mmol)を室温で加えて十分に撹拌し、最後に四塩化炭素の1030mmol/Lトルエン溶液0.389ml(0.400mmol)を加えた。得られた混合物を80℃に加温することにより重合反応を開始させた。
【0057】
重合反応を開始して57時間経過後、反応溶液を−78℃に冷却することにより、重合反応を停止させた。メタクリル酸メチル及びアクリル酸メチルの重合率はそれぞれ93%及び75%であり、また、反応溶液中に存在するメタクリル酸メチル−アクリル酸メチルランダム共重合体のMnは6000、Mwは8000で、従ってMw/Mnは1.33であった。
【0058】
実施例7と比較例4とを比較すれば明らかなように、遷移金属錯体としてクロロペンタメチルシクロペンタジエニルビス(トリフェニルホスフィン)ルテニウムを用い、同種のハロゲン原子を持つ2−クロロ−2,4,4−トリメチルグルタル酸ジメチルを用いた場合は、遷移金属錯体として本発明の範囲外のジクロロトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウムを用い、同種のハロゲン原子を持つ四塩化炭素を用いた場合に比べ二種類の単量体混合物を用いたランダム共重合体の分子量分布は狭いことが分かる。
【0059】
実施例8
スチレン3.44ml(30.0mmol)、アクリル酸ブチル4.30ml(30.0mmol)、トルエン0.166ml及びn−オクタン1.55mlをシュレンク反応管に採取し、均一に混合した。この混合溶液にアルミニウムトリイソプロポキシドの125mmol/Lトルエン溶液4.80ml(0.600mmol)を加え、ついでクロロペンタメチルシクロペンタジエニルビス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム47.8mg(0.0600mmol)を室温で加えて十分に撹拌し、最後に2−クロロ−2,4,4−トリメチルグルタル酸ジメチルの802mmol/Lトルエン溶液0.748ml(0.600mmol)を加えた。得られた混合物を80℃に加温することにより重合反応を開始させた。
【0060】
重合反応を開始して213時間経過した時点で、反応溶液の一部(2.50ml)を抜き取り、それを−78℃に冷却することにより重合反応を停止させ、分析に供した。スチレン及びアクリル酸ブチルの重合率はそれぞれ60%及び45%であり、また、反応溶液中に存在するスチレン−アクリル酸ブチルランダム共重合体のMnは3900、Mwは4300で、従ってMw/Mnは1.10であった。さらに、そのGPC曲線は単峰性であった。
【0061】
実施例9
実施例8の抜き取り後の残部について、重合反応をさらに継続した。重合反応を開始して430時間後、反応溶液のうちの2.50mlを重合反応系から抜き取り、それを−78℃に冷却することにより、重合反応を停止させた。その抜き取り液中のスチレン及びアクリル酸ブチルの重合率はそれぞれ93%及び76%であり、また、その中に存在するスチレン−アクリル酸ブチルランダム共重合体のMnは9300、Mwは10000で、従ってMw/Mnは1.08であった。さらに、そのGPC曲線は単峰性であった。
【0062】
第2段階として、抜き取り後の反応管中の残りの反応溶液10.0ml中に、メタクリル酸メチル4.28ml(40.0mmol)、トルエン1.17ml、アルミニウムトリイソプロポキシドの125mmol/Lトルエン溶液3.20ml(0.400mmol)及びクロロペンタメチルシクロペンタジエニルビス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム31.9mg(0.0401mmol)を加えて十分に撹拌し、得られた混合物を80℃に加温することにより引き続き重合反応させた。
【0063】
第2段階の重合反応を開始して23時間経過後、反応溶液を−78℃に冷却することにより、重合反応を停止させた。スチレン、アクリル酸ブチル及びメタクリル酸メチルの重合率はそれぞれ96%、95%及び86%であり、また、反応溶液中に存在するスチレン−アクリル酸ブチルランダム共重合体ブロックとポリメタクリル酸メチルブロックとのブロック共重合体のMnは19800、Mwは23100であり、従ってMw/Mnは1.17であった。さらに、そのGPC曲線は単峰性であった。
【0064】
実施例8を実施例9と比較すれば明らかなように、二種類の単量体混合物を用いたランダム共重合においても、重合率を増大させると、それにほぼ比例して得られる重合体のMnが増大し、Mw/Mnの値が1に近い値に保たれていることが分かる。更に、実施例9からは、第1段階の単量体混合物の重合反応に引き続き、それとは異なる単量体を追加添加した場合、第二段階の重合反応が継続され、Mw/Mnの値が1に近い値に保たれたブロック共重合体が容易に製造されることが分かる。
【0065】
【発明の効果】
本発明のリビングラジカル重合開始剤系によれば、幅広い種類のラジカル重合性単量体について、分子量を制御しつつ重合させることができ、更には分子量分布の狭い重合体を製造することが可能となる。そして、そのリビングラジカル重合開始剤系を二種以上のラジカル重合性単量体の共重合に適用した場合、各種の単量体の幅広い組合わせについて、分子量を制御しつつ共重合させることができ、更には分子量分布の狭い共重合体を製造することが可能となる。

Claims (9)

  1. 下記の成分(A)、(B)及び(C):
    (A)ハロゲノペンタメチルシクロペンタジエニルビス(トリアリールホスフィン)ルテニウム;
    (B)α−ハロゲノカルボニル化合物又はα−ハロゲノカルボン酸エステル;及び
    (C)ルイス酸
    からなることを特徴とするリビングラジカル重合開始剤系。
  2. 成分(A)中のハロゲン原子及び成分(B)中のハロゲン原子が同種のハロゲン原子である請求項1記載のリビングラジカル重合開始剤系。
  3. 成分(A)がクロロペンタメチルシクロペンタジエニルビス(トリアリールホスフィン)ルテニウムである請求項1又は2記載のリビングラジカル重合開始剤系。
  4. 成分(B)が2−クロロ−2,4,4−トリメチルグルタル酸ジメチルである請求項1〜3のいずれかに記載のリビングラジカル重合開始剤系。
  5. 成分(C)がアルミニウムトリアルコキシドである請求項1〜4のいずれかに記載のリビングラジカル重合開始剤系。
  6. 請求項1〜5のいずれかに記載のリビングラジカル重合開始剤系の存在下で、少なくとも一種のラジカル重合性単量体をリビングラジカル重合させることを特徴とする重合体の製造方法。
  7. ラジカル重合性単量体がスチレン系単量体、メタクリル酸エステル及びアクリル酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも一種のラジカル重合性単量体である請求項6記載の製造方法。
  8. 少なくとも二種のラジカル重合性単量体を用いて共重合させる請求項6記載の製造方法。
  9. スチレン系単量体、メタクリル酸エステル及びアクリル酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも二種のラジカル重合性単量体を用いる請求項8記載の製造方法。
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