JP4243497B2 - 難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物およびそれからの成形品に関する。さらに詳しくは難燃剤としての臭素化合物や塩素化合物(ハロゲン系難燃剤)、また難燃剤としてのリン化合物(リン系難燃剤)を実質的に含有せずかつ燃焼時の樹脂のドリップ防止性に基く良好な難燃性を有し、さらに外観、熱安定性、および耐湿熱性に優れた難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物およびそれからの成形品に関する。さらに本発明は、透明性に優れた成形品を与える難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
芳香族ポリカーボネート樹脂は射出成形などの簡便で生産性に優れた加工法により種々の成形品に形成され、幅広い産業分野で利用されている。具体的には、芳香族ポリカーボネート樹脂はパソコン、ノートパソコン、レーザービームプリンター、インクジェットプリンター、コピーおよびFAX等のOA機器や家電製品などにおける外装部材や内部部品に利用されている。
【0003】
また、前記種々の用途では近年、火災時の難燃性についても注目されており、高度な難燃性を有する樹脂組成物が求められている。芳香族ポリカーボネート樹脂に難燃性を付与する方法としては、従来臭素化合物や塩素化合物などのハロゲン化合物やリン化合物を難燃剤として添加した難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が提案されており、難燃化の要望の強いOA機器、家電製品などに利用されているが、一方でこれらの難燃剤に代わる難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が開発され、前記製品などに使用されつつある。かかる難燃剤変更の目的としては、成形時における腐蝕ガスの発生の抑制、または製品のリサイクル性の向上などが挙げられる。
【0004】
前記難燃剤に代わる難燃剤としては例えばシリコーン化合物を挙げることができる。シリコーン化合物を芳香族ポリカーボネート樹脂に配合した難燃性樹脂組成物は近年精力的に検討され、種々の提案がされている。
【0005】
例えばポリカーボネート樹脂にパーフルオロアルカンスルホン酸アルカリ(土類)金属塩とアルコキシ基、ビニル基およびフェニル基を有する有機シロキサンを配合する方法(特許文献1参照)、およびポリカーボネート樹脂にパーフルオロアルカンスルホン酸のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩と2価炭化水素基を介してケイ素原子に結合のオルガノキシシリル基を含有するオルガノポリシロキサンを配合する方法(特許文献2参照)などが提案されている。
【0006】
また、樹脂成分に特定の石油系重質油類またはピッチ類とシリコーン化合物を配合する方法(特許文献3参照)、および芳香環を有する非シリコーン樹脂に式R2SiO1.0で示される単位とRSiO1.5で示される単位を持ち、重量平均分子量が10,000以上270,000以下であるシリコーン樹脂を配合する方法(特許文献4参照)などが提案されている。
【0007】
しかしながら、前記提案のポリカーボネート樹脂組成物はいずれも透明性、耐湿熱性および難燃性が十分とはいえないものであった。例えば薄肉の場合にドリップを生じUL規格94のV−0ランクを達成できない、またはシリコーンの分散が不十分で成形品に白濁が生じる、あるいは湿熱処理によりシリコーンが凝集して湿熱処理後の透明性が低下する、などである。
【0008】
一方、Si−H基を含有するシリコーン化合物、また反応基を含有するシリコーン化合物を含有する難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物についても種々提案されている。芳香族ポリカーボネート樹脂に有機アルカリ金属塩、およびポリ(メチル水素シロキサン)の特定割合からなる樹脂組成物は公知である(特許文献5参照)。しかしながらかかる樹脂組成物は熱安定性や耐湿熱性などの点において未だ十分とはいえない。
【0009】
芳香族ポリカーボネート樹脂、反応性基を有するシリコーン化合物、および酸塩基(例えばスルホン酸アルカリ金属塩)含有芳香族ビニル系樹脂からなる樹脂組成物は公知である(特許文献6参照)。かかる樹脂組成物は、良好な透明性と難燃性とを併有する樹脂組成物として該特許文献において提案されている。しかしながらかかる特性、殊に難燃性はその再現性に極めて乏しく、かかる文献に記載の要件を満足する樹脂組成物を製造しても良好な難燃性を再現することはできない。さらに熱安定性において未だ不十分であり、成形機内に滞留させた樹脂組成物の難燃性は大幅に低下する傾向を示す。
【0010】
また芳香族ポリカーボネート樹脂、反応性基を有するシリコーン化合物、および/または有機金属塩からなるレーザーマーキング用樹脂組成物も公知である(特許文献7参照)。
【0011】
芳香族ポリカーボネート樹脂、Si−H基を有するシリコーン化合物並びにラジカル発生剤や有機アルカリ(土類)金属塩の特定割合からなる樹脂組成物は公知である(特許文献8参照)。ここでかかるシリコーン化合物はより具体的には特定粘度を有するポリメチル水素シロキサンである。かかる樹脂組成物は優れたドリップ防止性に基く良好な難燃性、並びに優れた熱安定性および耐加水分解性を有する。しかしながらかかる樹脂組成物は高い透明性が要求される場合には未だ不十分であると共に、透明性が不要である場合にも成形品の光沢感、色相、または鮮鋭性においてさらに改良が求められる場合があった。また芳香族ポリカーボネート樹脂、Si−H基を有するシリコーン化合物、ラジカル発生剤や有機アルカリ(土類)金属塩、並びにフィブリル形成能を有する含フッ素ポリマーからなる樹脂組成物も公知である(特許文献9参照)。
【0012】
芳香族ポリカーボネート樹脂、芳香族基を有する有機シロキサン、特定のアルコキシシラン化合物(1つのSi原子のみからなる)および/またはSi−H基含有シリコーン化合物、並びにフィブリル形成能を有する含フッ素ポリマーからなる樹脂組成物は公知である(特許文献10参照)。かかる樹脂組成物においては、シリコーン系難燃剤を使用した難燃性樹脂組成物に対して無機充填剤を配合したときに生ずる難燃性の低下が改良されている。また該特許文献においてはかかる樹脂組成物は金属塩をさらに配合したときの熱安定性も良好である旨が記載されている。
【0013】
しかしながら、前記従来技術のいずれもが、ハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤を実質的に含有することなく、良好な難燃性を有し、さらに外観、熱安定性、および耐湿熱性に優れた難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物、殊にさらに透明性においても優れた難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物については何ら提案していないのが現状である。
【0014】
【特許文献1】
特開平6−306265号公報
【特許文献2】
特開平6−336547号公報
【特許文献3】
特開平9−169914号公報
【特許文献4】
特開平10−139964号公報
【特許文献5】
特公昭60−38419号公報
【特許文献6】
特開2002−220526号公報
【特許文献7】
特開2002−265774号公報
【特許文献8】
特開2002−037997号公報
【特許文献9】
特開2002−060612号公報
【特許文献10】
特開2002−294062号公報
【0015】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、第1に、ハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤を実質的に含有することなく、良好な難燃性を有し、さらに外観、熱安定性、および耐湿熱性に優れた難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を提供することにあり、第2に、さらに良好な透明性をも有する難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を提供することにある。
【0016】
本発明者らは前記目的を達成すべく、従来技術の中でも良好なドリップ防止能を有するSi−H基含有シリコーン化合物に着目した。そしてさらに鋭意検討を進めた結果、かかるSi−H基含有シリコーン化合物において前記課題を解決可能な特定のシリコーン化合物を見出すと共に、さらに反応基含有シリコーン化合物を併用することによってさらに良好な難燃性および熱安定性等が安定して得られることを見出した。かかる知見に基き更なる検討を進め、本発明を完成するに至った。
【0017】
【課題を解決するための手段】
本発明は、(1)(A)芳香族ポリカーボネート樹脂(A成分)100重量部に対して、
(B)分子中にSi−H基および芳香族基を含有するシリコーン化合物であって、(1)Si−H基が含まれる量(Si−H量)が0.1〜1.2mol/100g、(2)下記一般式(1)で示される芳香族基が含まれる割合(芳香族基量)が10〜70重量%、(3)平均重合度が3〜150であるシリコーン化合物(B成分)0.1〜10重量部、並びに
(C)Si−H基を実質的に含まず、フェノール性水酸基と反応することができる基を含有する有機珪素化合物(C成分)0.01〜10重量部からなる難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物にかかるものである。
【0018】
【化5】
【0019】
(式(1)中、Xはそれぞれ独立にOH基、炭素数1〜20の一価の有機残基を示す。nは0〜5の整数を表わす。さらに式(1)中においてnが2以上の場合はそれぞれ互いに異なる種類のXを取ることができる。)
【0020】
かかる構成(1)によれば、前記目的を達成した難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が提供される。本発明においては前記特定のB成分を使用することによりSi−H基含有シリコーンと芳香族ポリカーボネート樹脂との相溶性を大幅に改善した。その結果、本発明の樹脂組成物においてその外観や透明性は大幅に改良された。一方、Si−H基はその燃焼時のシリコーンのストラクチャー形成能や還元能力によって良好な難燃性を達成すると考えられ、B成分においてポリメチル水素シロキサンに比較してSi−H基の濃度が低下する点でその能力の低下が予想された。しかしながら本発明においてはB成分の良好な相溶性によって、かかる低下を補っているものと考えられる。さらにはB成分と併用されたC成分は、芳香族ポリカーボネート樹脂とSi−H基含有シリコーンとの相溶性をさらに改善するか、またはC成分中の反応基によって燃焼時におけるシリコーンのストラクチャー形成に関与すると考えられる。その結果C成分が更なる難燃性の向上に寄与すると考えられる。
【0021】
本発明の好適な態様の1つは、(2)前記C成分は、前記一般式(1)で示される芳香族基が含まれる割合(芳香族基量)が10〜70重量%である有機珪素化合物である前記(1)の難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物である。かかる構成(2)によれば、前記第2の目的を達成した透明性に優れた難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が提供される。なお、B成分のXとC成分のXは同一であっても異なっていてもよい。
【0022】
本発明の好適な態様の1つは、(3)JIS K7105で測定された2mm厚みのヘーズが0.3〜20%である前記(1)および(2)の難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物である。また好適な態様の1つは(4)JIS K7105で測定された2mm厚みのヘーズにおいて、その試験片を温度65℃、湿度85%の環境下で300時間放置した後に測定されたヘーズと該放置前の初期ヘーズとの差が0.01〜10%である前記(1)〜(3)の難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物である。かかる構成(3)によれば、前記第2の目的を達成し、さらに透明性に優れた難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が提供され、かかる構成(4)によれば良好な耐湿熱性を有する前記目的を達成した樹脂組成物が提供される。
【0023】
本発明の好適な態様の1つは、(5)前記B成分が、下記一般式(2)および(3)で示される構成単位の少なくとも一種以上を含むシリコーン化合物である前記(1)〜(4)の難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物である。
【0024】
【化6】
【0025】
【化7】
【0026】
(式(2)および式(3)中、Z1〜Z3はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜20の一価の有機残基、または下記一般式(4)で示される化合物を示す。α1〜α3はそれぞれ独立に0または1を表わす。m1は0もしくは1以上の整数を表わす。さらに式(2)中においてm1が2以上の場合の繰返し単位はそれぞれ互いに異なる複数の繰返し単位を取ることができる。)
【0027】
【化8】
【0028】
(式(4)中、Z4〜Z8はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜20の一価の有機残基を示す。α4〜α8はそれぞれ独立に0または1を表わす。m2は0もしくは1以上の整数を表わす。さらに式(4)中においてm2が2以上の場合の繰返し単位はそれぞれ互いに異なる複数の繰返し単位を取ることができる。)
【0029】
さらに本発明の好適な態様の1つは、(6)前記B成分がMD単位またはMDT単位からなるシリコーン化合物である前記(1)〜(5)の難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物である(ただし、Mは1官能性シロキサン単位、Dは2官能性シロキサン単位、Tは3官能性シロキサン単位である)。かかる構成(5)、殊に(6)によればB成分の芳香族ポリカーボネート樹脂に対する相溶性はより改良され、前記目的をさらに良好に達成した難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が提供される。
【0030】
本発明の好適な態様の1つは、(7)フェノール性水酸基と反応することができる基がエポキシ基およびシラノール基から選択される少なくとも1種の反応基である前記(1)〜(6)の難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物である。C成分の中でも、反応基としてかかる官能基が好適である。これは芳香族ポリカーボネート樹脂に対して親和性が高いが攻撃性が少なく、またカーボネート結合の安定化に寄与する効果を有するためだと考えられる。
【0031】
さらに(8)前記C成分がMD単位、MDT単位、D単位、T単位およびDT単位から選択される少なくとも1種のシリコーン化合物である前記(1)〜(7)の難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が好適である。C成分のSi−H基以外の反応基を含有する有機珪素化合物は、単一のSi原子を有するシラン化合物、並びに複数のシロキサン単位から構成されるシリコーン化合物の何れであってもよい。しかしながら燃焼時のシリコーンのストラクチャー形成の効率の点から、複数のシロキサン単位が結合していることが好ましく、かかる点においてシリコーン化合物がより好適である。さらにかかるシリコーン化合物にあっても、前記B成分の場合と同様にC成分の芳香族ポリカーボネート樹脂に対する相溶性の観点から、前記構成(8)であることが好ましい。したがってかかる構成(8)によれば、C成分自体の相溶性、並びにA成分とB成分との相溶性を改善する効果はより改良され、前記目的をさらに良好に達成した難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が提供される。
【0032】
本発明の好適な態様の1つは、(9)芳香族ポリカーボネート樹脂(A成分)100重量部に対して、ラジカル発生剤、有機アルカリ金属塩、および有機アルカリ土類金属塩より選ばれる少なくとも一種以上の化合物(D成分)0.001〜0.3重量部をさらに含有してなる前記(1)〜(8)の難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物である。かかる構成(9)によれば、さらに良好な難燃性を有する難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が提供され、かかる構成(9)の態様は本発明において極めて好適である。
【0033】
さらに本発明によれば、(10)前記(1)〜(9)の難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物より形成された成形品が提供され、より好適には(11)前記(1)〜(9)の難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物より形成された透明成形品が提供される。
【0034】
【発明の実施の形態】
以下本発明の詳細について説明する。
【0035】
<A成分について>
本発明でA成分として使用される芳香族ポリカーボネート樹脂は、二価フェノールとカーボネート前駆体とを反応させて得られるものである。反応方法の一例として界面重合法、溶融エステル交換法、カーボネートプレポリマーの固相エステル交換法、および環状カーボネート化合物の開環重合法などを挙げることができる。
【0036】
ここで使用される二価フェノールの代表的な例としては、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4’−ビフェノール、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、4,4’−(p−フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノール、4,4’−(m−フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノール、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−イソプロピルシクロヘキサン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)オキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エステル、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)スルフィド、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンおよび9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレンなどが挙げられる。好ましい二価フェノールは、ビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカンであり、なかでも耐衝撃性の点からビスフェノールAが特に好ましい。
【0037】
カーボネート前駆体としてはカルボニルハライド、炭酸ジエステルまたはハロホルメートなどが使用され、具体的にはホスゲン、ジフェニルカーボネートまたは二価フェノールのジハロホルメートなどが挙げられる。
【0038】
前記二価フェノールとカーボネート前駆体を界面重合法によって芳香族ポリカーボネート樹脂を製造するに当っては、必要に応じて触媒、末端停止剤、二価フェノールが酸化するのを防止するための酸化防止剤などを使用してもよい。また本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂は三官能以上の多官能性芳香族化合物を共重合した分岐ポリカーボネート樹脂、芳香族または脂肪族(脂環族を含む)の二官能性カルボン酸を共重合したポリエステルカーボネート樹脂、二官能性アルコール(脂環族を含む)を共重合した共重合ポリカーボネート樹脂、並びにかかる二官能性カルボン酸および二官能性アルコールを共に共重合したポリエステルカーボネート樹脂を含む。また、得られた芳香族ポリカーボネート樹脂の2種以上を混合した混合物であってもよい。
【0039】
分岐ポリカーボネート樹脂は、本発明の難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の有するドリップ防止能をさらに相乗的に改善可能であるため、その使用は好ましい。かかる分岐ポリカーボネート樹脂に使用される三官能以上の多官能性芳香族化合物としては、フロログルシン、フロログルシド、または4,6−ジメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキジフェニル)ヘプテン−2、2,4,6−トリメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、1,3,5−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,1−トリス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,6−ビス(2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェノール、4−{4−[1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エチル]ベンゼン}−α,α−ジメチルベンジルフェノール等のトリスフェノール、テトラ(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(2,4−ジヒドロキシフェニル)ケトン、1,4−ビス(4,4−ジヒドロキシトリフェニルメチル)ベンゼン、またはトリメリット酸、ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸およびこれらの酸クロライド等が挙げられ、中でも1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,1−トリス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)エタンが好ましく、特に1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタンが好ましい。
【0040】
分岐ポリカーボネート樹脂中の多官能性化合物の割合は、芳香族ポリカーボネート樹脂全量中、0.001〜1モル%、好ましくは0.005〜0.9モル%、より好ましくは0.01〜0.8モル%、特に好ましくは0.05〜0.4モル%である。また特に溶融エステル交換法の場合、副反応として分岐構造が生ずる場合があるが、かかる分岐構造量についても、芳香族ポリカーボネート樹脂全量中、前記した範囲であることが好適である。なお、かかる分岐構造量については1H−NMR測定により算出することが可能である。
【0041】
脂肪族の二官能性のカルボン酸は、α,ω−ジカルボン酸が好ましい。脂肪族の二官能性のカルボン酸としては例えば、セバシン酸(デカン二酸)、ドデカン二酸、テトラデカン二酸、オクタデカン二酸、イコサン二酸などの直鎖飽和脂肪族ジカルボン酸、並びにシクロヘキサンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸が好ましく挙げられる。二官能性アルコールとしては脂環族ジオールがより好適であり、例えばシクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオール、およびトリシクロデカンジメタノールなどが例示される。
【0042】
さらにポリオルガノシロキサン単位を共重合した、ポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体の使用も可能である。
【0043】
界面重合法による反応は、通常二価フェノールとホスゲンとの反応であり、酸結合剤および有機溶媒の存在下に反応させる。酸結合剤としては例えば水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物、ピリジンなどが用いられる。
【0044】
有機溶媒としては例えば塩化メチレン、クロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素が用いられる。
【0045】
また、反応促進のために例えば第三級アミンや第四級アンモニウム塩などの触媒を用いることができ、分子量調節剤として例えばフェノール、p−tert−ブチルフェノール、p−クミルフェノールなどの単官能フェノール類を用いるのが好ましい。さらに単官能フェノール類としては、デシルフェノール、ドデシルフェノール、テトラデシルフェノール、ヘキサデシルフェノール、オクタデシルフェノール、エイコシルフェノール、ドコシルフェノールおよびトリアコンチルフェノールなどを挙げることができる。これらの比較的長鎖のアルキル基を有する単官能フェノール類は、流動性や耐加水分解性の向上が求められる場合に有効である。
【0046】
反応温度は通常0〜40℃、反応時間は数分〜5時間、反応中のpHは通常10以上に保つのが好ましい。
【0047】
溶融エステル交換法による反応は、通常二価フェノールと炭酸ジエステルとのエステル交換反応であり、不活性ガスの存在下に二価フェノールと炭酸ジエステルを混合し、減圧下通常120〜350℃で反応させる。減圧度は段階的に変化させ、最終的には133Pa以下にして生成したフェノール類を系外に除去させる。反応時間は通常1〜4時間程度である。
【0048】
炭酸ジエステルとしては、例えばジフェニルカーボネート、ジナフチルカーボネート、ビス(ジフェニル)カーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートおよびジブチルカーボネートなどが挙げられ、なかでもジフェニルカーボネートが好ましい。
【0049】
重合速度を速めるために重合触媒を使用することができ、重合触媒としては、例えば水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどのアルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物、ホウ素やアルミニウムの水酸化物、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、第4級アンモニウム塩、アルカリ金属やアルカリ土類金属のアルコキシド、アルカリ金属やアルカリ土類金属の有機酸塩、亜鉛化合物、ホウ素化合物、ケイ素化合物、ゲルマニウム化合物、有機錫化合物、鉛化合物、アンチモン化合物、マンガン化合物、チタン化合物、ジルコニウム化合物などの通常エステル化反応やエステル交換反応に使用される触媒があげられる。触媒は単独で使用してもよいし、二種類以上を併用して使用してもよい。これらの重合触媒の使用量は、原料の二価フェノール1モルに対し、好ましくは1×10-8〜1×10-3当量、より好ましくは1×10-7〜5×10-4当量の範囲で選ばれる。
【0050】
また、重合反応において、フェノール性の末端基を減少するために、重縮反応の後期あるいは終了後に、例えば2−クロロフェニルフェニルカーボネート、2−メトキシカルボニルフェニルフェニルカーボネートおよび2−エトキシカルボニルフェニルフェニルカーボネートなどの化合物を加えることができる。
【0051】
さらに溶融エステル交換法では触媒の活性を中和する失活剤を用いることが好ましい。かかる失活剤の量としては、残存する触媒1モルに対して0.5〜50モルの割合で用いるのが好ましい。また重合後の芳香族ポリカーボネート樹脂に対し、0.01〜500ppmの割合、より好ましくは0.01〜300ppm、特に好ましくは0.01〜100ppmの割合で使用する。失活剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩などのホスホニウム塩、テトラエチルアンモニウムドデシルベンジルサルフェートなどのアンモニウム塩などが好ましく挙げられる。
【0052】
前記以外の反応形式の詳細についても、成書および特許公報などで良く知られている。
【0053】
本発明の難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を製造するにあたり、芳香族ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(M)は、特に限定されないが、好ましくは10,000〜50,000であり、より好ましくは14,000〜30,000であり、さらに好ましくは14,000〜24,000である。
【0054】
粘度平均分子量が10,000未満の芳香族ポリカーボネート樹脂では、実用上期待される耐衝撃性などが得られない場合があり、また十分なドリップ防止能が得られないことから難燃性においても劣りやすい。一方、粘度平均分子量が50,000を超える芳香族ポリカーボネート樹脂から得られる樹脂組成物は、射出成形時の流動性に劣る点で汎用性に劣る。また成形加工温度が高くなることで本発明の特徴である透明性が十分に活かされない場合がある。
【0055】
なお、前記芳香族ポリカーボネート樹脂は、その粘度平均分子量が前記範囲外のものを混合して得られたものであってもよい。殊に、前記範囲(50,000)を超える粘度平均分子量を有する芳香族ポリカーボネート樹脂は、樹脂のエントロピー弾性の向上によって、、本発明の難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の有するドリップ防止能をさらに相乗的に改善可能である。かかる改善効果は、前記分岐ポリカーボネートよりもさらに良好である。より好適な態様としては、A成分が粘度平均分子量70,000〜300,000の芳香族ポリカーボネート樹脂(A−3−1成分)、および粘度平均分子量10,000〜30,000の芳香族ポリカーボネート樹脂(A−3−2成分)からなり、その粘度平均分子量が16,000〜35,000である芳香族ポリカーボネート樹脂(A3成分)(以下、“高分子量成分含有芳香族ポリカーボネート樹脂”と称することがある)も使用できる。
【0056】
かかる高分子量成分含有芳香族ポリカーボネート樹脂(A3成分)において、A−3−1成分の分子量は70,000〜200,000が好ましく、より好ましくは80,000〜200,000、さらに好ましくは100,000〜200,000、特に好ましくは100,000〜160,000である。またA−3−2成分の分子量は10,000〜25,000が好ましく、より好ましくは11,000〜24,000、さらに好ましくは12,000〜24,000、特に好ましくは12,000〜23,000である。
【0057】
高分子量成分含有芳香族ポリカーボネート樹脂(A3成分)は前記A−3−1成分とA−3−2成分を種々の割合で混合し、所定の分子量範囲を満足するよう調整して得ることができる。好ましくは、A3成分100重量%中、A−3−1成分が2〜40重量%の場合であり、より好ましくはA−3−1成分が3〜30重量%であり、さらに好ましくはA−3−1成分が4〜20重量%であり、特に好ましくはA−3−1成分が5〜20重量%である。
【0058】
また、A−3成分の調製方法としては、(1)A−3−1成分とA−3−2成分とを、それぞれ独立に重合しこれらを混合する方法、(2)特開平5−306336号公報に示される方法に代表される、GPC法による分子量分布チャートにおいて複数のポリマーピークを示す芳香族ポリカーボネート樹脂を同一系内において製造する方法を用い、かかる芳香族ポリカーボネート樹脂を本発明のA−1成分の条件を満足するよう製造する方法、および(3)かかる製造方法((2)の製造法)により得られた芳香族ポリカーボネート樹脂と、別途製造されたA−3−1成分および/またはA−3−2成分とを混合する方法などを挙げることができる。
【0059】
本発明でいう粘度平均分子量は、まず、次式にて算出される比粘度(ηSP)を20℃で塩化メチレン100mlに芳香族ポリカーボネート0.7gを溶解した溶液からオストワルド粘度計を用いて求め、
比粘度(ηSP)=(t−t0)/t0
[t0は塩化メチレンの落下秒数、tは試料溶液の落下秒数]
求められた比粘度(ηSP)から次の数式により粘度平均分子量Mを算出する。
【0060】
ηSP/c=[η]+0.45×[η]2c(但し[η]は極限粘度)
[η]=1.23×10-4M0.83
c=0.7
【0061】
また前記の粘度平均分子量の算出法は、本発明の樹脂組成物や該樹脂組成物から成形された成形品の粘度平均分子量測定にも適用される。すなわち、本発明においてこれらの粘度平均分子量は、塩化メチレン100mlに成形品0.7gを溶解した溶液から20℃で求めた比粘度(ηsp)を前記式に挿入して求めたものである。
【0062】
<B成分について>
本発明の樹脂組成物において、難燃剤として使用されるシリコーン化合物(B成分)はSi−H基を有する特定のシリコーン化合物である。即ち、分子中にSi−H基および芳香族基を含有するシリコーン化合物であって、▲1▼Si−H基が含まれる量(Si−H量)が0.1〜1.2mol/100g、
▲2▼前記一般式(1)で示される芳香族基が含まれる割合(芳香族基量)が10〜70重量%、▲3▼平均重合度が3〜150であるシリコーン化合物である。
【0063】
より好ましくは、Mを1官能性シロキサン単位、Dを2官能性シロキサン単位、Tを3官能性シロキサン単位とするとき、MD単位またはMDT単位からなるシリコーン化合物である。
【0064】
前記一般式(2)、(3)および(4)で示される構成単位のZ1〜Z8、および一般式(1)のXにおける炭素数1〜20の一価の有機残基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、デシル基等のアルキル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、ビニル基、アリル基等のアルケニル基、フェニル基、トリル基等のアリール基およびアラルキル基を挙げることができ、さらにこれらの基はエポキシ基、カルボキシル基、無水カルボン酸基、アミノ基、およびメルカプト基などの各種官能基を含むものであってもよい。さらに好ましくは炭素数1〜8のアルキル基、アルケニル基またはアリール基であり、特にはメチル基、エチル基、プロピル基等の炭素数1〜4のアルキル基、ビニル基、またはフェニル基が好ましい。
【0065】
前記一般式(2)および(3)で示される構成単位のうち、少なくとも一種以上の式で示される構成単位を含むシリコーン化合物において、複数のシロキサン結合の繰返し単位を有する場合は、それらはランダム共重合、ブロック共重合、テーパード共重合のいずれの形態を取ることも可能である。
【0066】
本発明においては、(B)成分としての前記シリコーン化合物において、シリコーン化合物中のSi−H量を0.1〜1.2mol/100gの範囲とすることが必要とされる。Si−H量が0.1〜1.2mol/100gの範囲にあることで、燃焼時にシリコーンのストラクチャーの形成が容易となる。より好ましくはSi−H量が0.12〜1.0mol/100gの範囲、さらに好ましくは0.15〜0.6mol/100gの範囲にあるシリコーン化合物である。Si−H量が0.1mol/100gより少ないとシリコーンのストラクチャー形成が困難となり、1.2mol/100gより多いと組成物の熱安定性が低下する上に、湿熱処理時に過剰なSi−H基が空気中の水分と反応して水素ガスを発生して発泡し、成形品が白濁してしまう。なお、本発明においてシリコーンのストラクチャーとは、シリコーン化合物相互の反応、または樹脂とシリコーンとの反応により生成する網状構造をさす。
【0067】
また、ここで言うSi−H量とは、シリコーン化合物100gあたりに含まれるSi−H構造のmol数を言うが、これはアルカリ分解法により、シリコーン化合物の単位重量当たり発生した水素ガスの体積を測定することにより求めることができる。例えば、25℃においてシリコーン化合物1g当たり122mlの水素ガスが発生した場合、下記計算式により、Si−H量は0.5mol/100gとなる。
【0068】
122×273/(273+25)÷22400×100≒0.5
【0069】
さらに本発明のシリコーン化合物(B成分)としては、105℃/3時間における加熱減量法による揮発量が18%以下であることが好適である。さらに好ましくは揮発量が10%以下であるシリコーン化合物である。揮発量が18%より大きいと樹脂組成物製造時のシリコーン化合物の揮発量も多くなり、また、本発明の樹脂組成物からの成形品の成形時に支障を来す場合がある。
【0070】
前記一般式で示される構成単位を含むシリコーン化合物としては、前記の条件を満たすものであれば直鎖状であっても分岐構造を持つものであっても良く、Si−H基を分子構造中の側鎖、末端、分岐点の何れか、または複数の部位に有する各種の化合物を用いることが可能である。
【0071】
一般的にシリコーン化合物の構造は、以下に示す4種類のシロキサン単位を任意に組み合わせることによって構成される。
【0072】
M単位:(CH3)3SiO1/2、H(CH3)2SiO1/2、H2(CH3)Si
O1/2、(CH3)2(CH2=CH)SiO1/2、(CH3)2
(C6H5)SiO1/2、(CH3)(C6H5)(CH2=CH)
SiO1/2等の1官能性シロキサン単位
D単位:(CH3)2SiO、H(CH3)SiO、H2SiO、H(C6H5)
SiO、(CH3)(CH2=CH)SiO、(C6H5)2SiO等の
2官能性シロキサン単位
T単位:(CH3)SiO3/2、(C3H7)SiO3/2、HSiO3/2、
(CH2=CH)SiO3/2、(C6H5)SiO3/2等の3官能性シロ
キサン単位
Q単位:SiO2で示される4官能性シロキサン単位
【0073】
本発明において使用されるシリコーン化合物の構造は、具体的には、示性式としてDn、Tp、MmDn、MmTp、MmQq、MmDnTp、MmDnQq、MmTpQq、MmDnTpQq、DnTp、DnQq、DnTpQqが挙げられる。この中で好ましいシリコーン化合物の構造は、MmDn、MmTp、MmDnTp、MmDnQqであり、さらに好ましい構造は、MmDnまたはMmDnTpである。
【0074】
(ここで、前記示性式中の係数m、n、p、qは各シロキサン単位の重合度を表す1以上の整数であり、各示性式における係数の合計がシリコーン化合物の平均重合度となる。本発明においては、この平均重合度を3〜150の範囲であり、好ましくは3〜80の範囲、より好ましくは3〜60の範囲、さらに好ましくは4〜40の範囲、特に好ましくは4〜20の範囲である。かかる好適な範囲であるほど良好な難燃性と透明性との両立において優れるようになる。またm、n、p、qのいずれかが2以上の数値である場合、その係数の付いたシロキサン単位は、結合する水素原子や有機残基が異なる2種以上のシロキサン単位とすることができる。)
【0075】
本発明の難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物においては、そのB成分およびC成分の分散状態が重要である。シリコーン化合物が偏在する場合には、樹脂組成物自体が白濁し、さらには成形品表面で剥離などが生じたり、あるいは湿熱処理時にシリコーン化合物が移行して偏在して透明性が低下するなど、透明性の良好な成形品を得ることが困難となるためである。かかる分散状態を決定する重要な因子としてシリコーン化合物中の芳香族基量、平均重合度が挙げられる。殊に透明性の樹脂組成物において平均重合度は重要である。
【0076】
かかる観点より、本発明のシリコーン化合物としては、シリコーン化合物中の芳香族基量が10〜70重量%の範囲にあるものとすることが必要とされる。さらに好ましくは芳香族基量が15〜60重量%の範囲にあるシリコーン化合物である。シリコーン化合物中の芳香族基量が10重量%より少ないとシリコーン化合物が偏在して分散不良となり、透明性が良好な成形品を得ることが困難となる。芳香族基量が70重量%より多いとシリコーン化合物自体の分子の剛直性が高くなるためやはり偏在して分散不良となり、透明性が良好な成形品を得ることが困難となる。
【0077】
また、ここで芳香族基量とは、シリコーン化合物において、下記一般式(1)で示される芳香族基が含まれる割合のことをいい、下記計算式によって求めることができる。
【0078】
【化9】
【0079】
(式(1)中、Xはそれぞれ独立にOH基、炭素数1〜20の一価の有機残基を示す。nは0〜5の整数を表わす。さらに式(1)中においてnが2以上の場合はそれぞれ互いに異なる種類のXを取ることができる。)
【0080】
(計算式) 芳香族基量=〔A/M〕×100(重量%)
【0081】
ここで、上記式におけるA、Mはそれぞれ以下の数値を表す。
【0082】
A=シリコーン化合物1分子中に含まれる、全ての一般式(1)で示される芳香族基部分の合計分子量
M=シリコーン化合物の分子量
【0083】
前記のB成分のシリコーン化合物は、単独で用いてもよく2種以上を組合せて用いてもよい。
【0084】
このようなSi−H結合を有するシリコーン化合物は、それ自体従来公知の方法によって製造することができる。例えば、目的とするシリコーン化合物の構造に従い、相当するオルガノクロロシラン類を共加水分解し、副生する塩酸や低沸分を除去することによって目的物を得ることができる。また、分子中にSi−H基や一般式(1)で示される芳香族基、その他の有機残基を有するシリコーンオイル、環状シロキサンやアルコキシシラン類を出発原料とする場合には、塩酸、硫酸、メタンスルホン酸等の酸触媒を使用し、場合によって加水分解のための水を添加して、重合反応を進行させた後、使用した酸触媒や低沸分を同様に除去することによって、目的とするシリコーン化合物を得ることができる。
【0085】
前記B成分のシリコーン化合物の組成割合は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A成分)100重量部に対して0.1〜10重量部、好ましくは0.3〜7重量部、より好ましくは0.5〜5重量部である。
【0086】
<C成分について>
反応基で変性された有機珪素化合物はそれ自体既に知られ利用されている。かかる有機珪素化合物のうち1つのSi原子からなるシラン化合物としては、シランカップリング剤が広く知られている。また複数のシロキサン単位から構成されるシリコーン化合物においても、各種の反応基で変性されたシリコーン化合物は、反応基含有シリコーン化合物として公知であり広く利用されている。かかる反応基としては、例えばハイドロジェン(即ちSi−H基)、シラノール基、アルコキシシリル基、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、ビニル基、メルカプト基、およびメタクリロキシ基などが例示され、本発明のC成分はこれらのうちSi−H基を実質的に含まず、その基以外の反応基を有する有機珪素化合物である。
【0087】
C成分において“Si−H基を実質的に含まない”とは、Si−H基を全く含まないか、あるいはSi−H基を含有していてもその量が0.1mol/100g未満、好ましくは0.05mol/100g未満であることを意味する。
【0088】
C成分においてSi−H基以外の反応基は、フェノール性水酸基(OH)と反応することができる基であることが好ましい。この“フェノール性水酸基と反応することができる基”とは、通常の化学反応において、フェノール性水酸基含有化合物(例えばフェノール)と接触させた場合、その水酸基と反応することができる基をいう。
【0089】
これらの反応基の中でもその反応性の点から、シラノール基、アルコキシシリル基、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基およびメルカプト基が好ましく、さらに反応性と熱安定性との両立(即ち、フェノール性水酸基と反応性を有するが過度な反応による熱分解は生じ難い)の点から、エポキシ基、およびシラノール基が特に好適である。なお、本発明のB成分はこれらの反応基を含有することができるが、B成分自体の安定性の点でSi−H基以外の反応基を含有しないものがより好ましい。
【0090】
C成分中の反応基は、C成分中のいずれのSi原子に結合されたものであってもよい。当然のことながらSi原子に直接結合しなくとも有効な活性を有する反応基(シラノール基およびアルコキシシリル基以外の基)は、反応基が直接Si原子に結合されず、2価の炭化水素基を介して結合してよい。また該炭化水素基はヘテロ原子を有していてよい。
【0091】
さらにC成分がシリコーン化合物の場合、C成分中の反応基は以下に説明するM、D、およびT単位中のいずれかにおいて含有されていればよく、特に限定されない。さらにシリコーン化合物の主鎖に対して、反応基は側鎖に含有されていること、主鎖の末端に含有されていること、並びに側鎖および主鎖の末端に何れにも含有されていることのいずれであってもよい。反応基をシリコーン化合物の側鎖に含有することはその反応基量の高濃度化および合成の容易性の点から有利である。
【0092】
C成分中の反応基量は、0.01〜1mol/100gの範囲であることが好ましい。かかる範囲にあるとB成分と共に燃焼時にシリコーンのストラクチャーの形成がさらに促進される。さらに好ましくは反応基量が0.02〜0.6mol/100gの範囲であり、さらに好ましくは反応基量が0.1〜0.4mol/100gの範囲であるシリコーン化合物である。また、ここで言う反応基量とは、C成分100gあたりに含まれる反応基のmol数をいう。反応基量は各反応基の定量に利用される方法を用いて求めることができる。
【0093】
C成分は、前記の如く複数のシロキサン単位から構成されるシリコーン化合物が、燃焼時のシリコーンのストラクチャー形成の効率の点から好ましい。したがって、C成分も前記B成分と同様により好ましい態様として、具体的には、示性式としてDn、Tp、MmDn、MmTp、MmQq、MmDnTp、MmDnQq、MmTpQq、MmDnTpQq、DnTp、DnQq、DnTpQqが挙げられる。この中で好ましいC成分のシリコーン化合物の構造は、Dn、Tp、MmDn、MmTp、MmDnTp、MmDnQq、DnTpであり、さらに好ましい構造は、Dn、Tp、MmDn、MmDnTp、DnTpである(ここで、前記示性式中の係数m、n、p、qは各シロキサン単位の重合度を表す1以上の整数であり、各示性式における係数の合計がシリコーン化合物の平均重合度となる)。
【0094】
C成分においては平均重合度は、好ましくは3〜1,500の範囲であり、より好ましくは3〜150の範囲、さらに好ましくは4〜80の範囲、特に好ましくは4〜20の範囲である。かかる好適な範囲であるほど良好な難燃性と透明性との両立において優れるようになる。またm、n、p、qのいずれかが2以上の数値である場合、その係数の付いたシロキサン単位は、結合する反応基や有機残基が異なる2種以上のシロキサン単位とすることができる。
【0095】
なお、C成分中に含有される反応基以外の有機残基としては特に限定されないが、炭素数1〜20の有機残基が好ましい。かかる有機残基としては、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、デシル基などのアルキル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、フェニル基、トリル基等のアリール基およびアラルキル基を挙げることがでる。さらに好ましくは炭素数1〜8のアルキル基、アルケニル基またはアリール基である。アルキル基としては、特にはメチル基、エチル基、プロピル基等の炭素数1〜4のアルキル基が好ましい。
【0096】
さらにC成分中に含有される反応基以外の有機残基は、アリール基を含有することが、より透明性に優れた難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が提供できる点で好ましい。より好適には、前記一般式(1)で示される芳香族基が含まれる割合(芳香族基量)が好ましくは10〜70重量%(より好適には15〜60重量%)である。かかる範囲ではC成分自体の芳香族ポリカーボネート樹脂との良好な相溶性と屈折率差の減少により、透明性の更なる向上に寄与する。またかかる範囲ではC成分がA成分とB成分との相溶性を向上させ、B成分のA成分中における分散性をさらに改良し透明性の向上に寄与する。なお、芳香族基量の意味するところは、前記B成分の場合と同様である。
【0097】
本発明のC成分としての有機珪素化合物は、それ自体従来公知の方法によって製造することができる(例えば、日刊工業新聞社が出版する「伊藤邦雄 編 シリコーンハンドブック」に記載の各種合成法)。
【0098】
C成分がエポキシ基を含有する有機珪素化合物の場合、Si−H基を含有する有機珪素化合物と不飽和基含有エポキシドとを触媒の存在下ヒドロシリル化反応することにより合成することができる。したがってかかるエポキシ基を含有する有機珪素化合物の合成においては、前記B成分をその合成前駆体としてそのまま使用することが可能である。C成分がB成分と同様の骨格を有する場合、B成分とC成分との相溶性はさらに向上し、透明性においてより有利な効果を発揮する。したがって、C成分のさらに好適な態様としては、B成分のシリコーン化合物のSi−H基に不飽和基含有エポキシドを反応させて得られた、エポキシ基含有シリコーン化合物が挙げられる。
【0099】
また、C成分がシラノール基を含有するシリコーン化合物の場合には、例えば、アルキルトリクロロシラン、ジアルキルジクロロシラン、アリールトリクロロシラン、ジアリールジクロロシラン、アルキルアリールジクロロシラン等のクロロシラン類を共加水分解することによって合成することができる。
【0100】
前記C成分の有機珪素化合物の組成割合は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A成分)100重量部に対して0.01〜10重量部、好ましくは0.05〜7重量部、より好ましくは0.1〜5重量部である。
【0101】
前記B成分およびC成分は、それらの合計量が芳香族ポリカーボネート樹脂(A成分)100重量部に対して、0.11〜13重量部、好ましくは0.35〜10重量部、より好ましくは0.6〜7重量部であるのが有利である。
【0102】
<D成分について>
本発明の難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物には、さらにD成分としてラジカル発生剤、有機アルカリ金属塩および有機アルカリ土類金属塩より選ばれる少なくとも一種の化合物を配合することができる。このD成分の配合により、難燃性をより向上させることができ、殊にドリップ防止性が改良される。一方、D成分を配合した芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、概してその熱安定性や耐加水分解性が低下する。しかしながら本発明の難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、B成分およびC成分の併用効果により、かかる熱安定性や耐加水分解性の低下を抑制することが可能となる。その結果D成分の併用により本発明の難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、さらに好ましい実用的特性を発揮する。なお、本発明ではD成分を難燃性改良剤と称する。難燃性改良剤としてのD成分の配合量は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A成分)100重量部に対して、0.001〜0.3重量部、好ましくは0.005〜0.3重量部、より好ましくは0.005〜0.2重量部の範囲が適当である。
【0103】
本発明のD成分として使用されるラジカル発生剤としては、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、ジクミルパーオキサイド等の有機過酸化物、2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタン(ジクミル)等が挙げられ、これらは日本油脂(株)製パーヘキシン25B、パークミルD、ノフマーBC等の商品名で市販されており容易に入手できる。特に溶融混練時にはラジカルの発生が極力少なく、燃焼時に有効にある程度安定したラジカルを発生するものが好ましいため、2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタン(ジクミル)をより好ましいラジカル発生剤として挙げることができる。
【0104】
本発明のD成分として使用されるアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩としては、従来ポリカーボネート樹脂を難燃化するのに使用されている各種の金属塩が使用可能であるが、特に有機スルホン酸の金属塩、または硫酸エステルの金属塩を挙げることができる。これらは単独の使用だけでなく、2種以上を混合して使用することも可能である。なお、D成分のアルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムが挙げられ、アルカリ土類金属としては、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムが挙げられ、特に好ましくはリチウム、ナトリウム、カリウムである。
【0105】
前記有機スルホン酸の金属塩としては、脂肪族スルホン酸のアルカリ金属塩、脂肪族スルホン酸のアルカリ土類金属塩、芳香族スルホン酸のアルカリ金属塩、芳香族スルホン酸のアルカリ土類金属塩等が挙げられる。かかる脂肪族スルホン酸金属塩の好ましい例としては、アルカンスルホン酸アルカリ(土類)金属塩、かかるアルカンスルホン酸アルカリ(土類)金属塩のアルキル基の一部がフッ素原子で置換したスルホン酸アルカリ(土類)金属塩、およびパーフルオロアルカンスルホン酸アルカリ(土類)金属塩を挙げることができ、これらは1種もしくは2種以上を併用して使用することができる(ここで、アルカリ(土類)金属塩の表記は、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩のいずれも含む意味で使用する)。
【0106】
アルカンスルホン酸アルカリ(土類)金属塩に使用するアルカンスルホン酸の好ましい例としては、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、プロパンスルホン酸、ブタンスルホン酸、メチルブタンスルホン酸、ヘキサンスルホン酸、へプタンスルホン酸、オクタンスルホン酸等が挙げられ、これらは1種もしくは2種以上を併用して使用することができる。またかかるアルキル基の一部がフッ素原子で置換した金属塩も挙げることができる。
【0107】
一方、パーフルオロアルカンスルホン酸の好ましい例としては、パーフルオロメタンスルホン酸、パーフルオロエタンスルホン酸、パーフルオロプロパンスルホン酸、パーフルオロブタンスルホン酸、パーフルオロメチルブタンスルホン酸、パーフルオロヘキサンスルホン酸、パーフルオロヘプタンスルホン酸、パーフルオロオクタンスルホン酸等が挙げられ、特に炭素数が1〜8のものが好ましい。これらは1種もしくは2種以上を併用して使用することができる。
【0108】
かかるアルカンスルホン酸アルカリ(土類)金属塩としては、エタンスルホン酸ナトリウム塩が、パーフルオロアルカンスルホン酸アルカリ(土類)金属塩としては、パーフルオロブタンスルホン酸カリウム塩を好ましく挙げることができる。
【0109】
芳香族スルホン酸アルカリ(土類)金属塩に使用する芳香族スルホン酸としては、モノマー状またはポリマー状の芳香族サルファイドのスルホン酸、芳香族カルボン酸およびエステルのスルホン酸、モノマー状またはポリマー状の芳香族エーテルのスルホン酸、芳香族スルホネートのスルホン酸、モノマー状またはポリマー状の芳香族スルホン酸、モノマー状またはポリマー状の芳香族スルホンスルホン酸、芳香族ケトンのスルホン酸、複素環式スルホン酸、芳香族スルホキサイドのスルホン酸、芳香族スルホン酸のメチレン型結合による縮合体からなる群から選ばれた少なくとも1種の酸を挙げることができ、これらは1種もしくは2種以上を併用して使用することができる。
【0110】
モノマー状またはポリマー状の芳香族サルファイドのスルホン酸アルカリ(土類)金属塩としては、特開昭50−98539号公報に記載されており、例えば、ジフェニルサルファイド−4,4’−ジスルホン酸ジナトリウム、ジフェニルサルファイド−4,4’−ジスルホン酸ジカリウムなどを挙げることができる。
【0111】
芳香族カルボン酸およびエステルのスルホン酸アルカリ(土類)金属塩としては、特開昭50−98540号公報に記載されており、例えば5−スルホイソフタル酸カリウム、5−スルホイソフタル酸ナトリウム、ポリエチレンテレフタル酸ポリスルホン酸ポリナトリウムなどを挙げることができる。
【0112】
モノマー状またはポリマー状の芳香族エーテルのスルホン酸アルカリ(土類)金属塩としては、特開昭50−98542号公報に記載されており、例えば1−メトキシナフタレン−4−スルホン酸カルシウム、4−ドデシルフェニルエーテルジスルホン酸ジナトリウム、ポリ(2,6−ジメチルフェニレンオキシド)ポリスルホン酸ポリナトリウム、ポリ(1,3−フェニレンオキシド)ポリスルホン酸ポリナトリウム、ポリ(1,4−フェニレンオキシド)ポリスルホン酸ポリナトリウム、ポリ(2,6−ジフェニルフェニレンオキシド)ポリスルホン酸ポリカリウム、ポリ(2−フルオロ−6−ブチルフェニレンオキシド)ポリスルホン酸リチウムなどを挙げることができる。
【0113】
芳香族スルホネートのスルホン酸アルカリ(土類)金属塩としては、特開昭50−98544号公報に記載されており、例えばベンゼンスルホネートのスルホン酸カリウムなどを挙げることができる。
【0114】
モノマー状またはポリマー状の芳香族スルホン酸アルカリ(土類)金属塩としては、特開昭50−98546号公報に記載されており、例えばベンゼンスルホン酸ナトリウム、ベンゼンスルホン酸ストロンチウム、ベンゼンスルホン酸マグネシウム、p−ベンゼンジスルホン酸ジカリウム、ナフタレン−2,6−ジスルホン酸ジカリウム、ビフェニル−3,3’−ジスルホン酸カルシウムなどを挙げることができる。
【0115】
モノマー状またはポリマー状の芳香族スルホンスルホン酸アルカリ(土類)金属塩としては、特開昭52−54746号公報に記載されており、例えばジフェニルスルホン−3−スルホン酸ナトリウム、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸カリウム、ジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホン酸ジカリウム、ジフェニルスルホン−3,4’−ジスルホン酸ジカリウムなどを挙げることができる。
【0116】
芳香族ケトンのスルホン酸アルカリ(土類)金属塩としては、特開昭50−98547号公報に記載されており、例えばα,α,α−トリフルオロアセトフェノン−4−スルホン酸ナトリウム、ベンゾフェノン−3,3’−ジスルホン酸ジカリウムなどを挙げることができる。
【0117】
複素環式スルホン酸アルカリ(土類)金属塩としては、特開昭50−116542号公報に記載されており、例えばチオフェン−2,5−ジスルホン酸ジナトリウム、チオフェン−2,5−ジスルホン酸ジカリウム、チオフェン−2,5−ジスルホン酸カルシウム、ベンゾチオフェンスルホン酸ナトリウムなどを挙げることができる。
【0118】
芳香族スルホキサイドのスルホン酸アルカリ(土類)金属塩としては、特開昭52−54745号公報に記載されており、例えばジフェニルスルホキサイド−4−スルホン酸カリウムなどを挙げることができる。
【0119】
芳香族スルホン酸アルカリ(土類)金属塩のメチレン型結合による縮合体としては、ナフタレンスルホン酸ナトリウムのホルマリン縮合物、アントラセンスルホン酸ナトリウムのホルマリン縮合物などを挙げることができる。
【0120】
一方、硫酸エステルのアルカリ(土類)金属塩としては、特に一価および/または多価アルコール類の硫酸エステルのアルカリ(土類)金属塩を挙げることができ、かかる一価および/または多価アルコール類の硫酸エステルとしては、メチル硫酸エステル、エチル硫酸エステル、ラウリル硫酸エステル、ヘキサデシル硫酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルの硫酸エステル、ペンタエリスリトールのモノ、ジ、トリ、テトラ硫酸エステル、ラウリン酸モノグリセライドの硫酸エステル、パルミチン酸モノグリセライドの硫酸エステル、ステアリン酸モノグリセライドの硫酸エステルなどを挙げることができる。これらの硫酸エステルのアルカリ(土類)金属塩として好ましくはラウリル硫酸エステルのアルカリ(土類)金属塩を挙げることができる。
【0121】
また他のアルカリ(土類)金属塩としては、芳香族スルホンアミドのアルカリ(土類)金属塩を挙げることができ、例えばサッカリン、N−(p−トリルスルホニル)−p−トルエンスルホイミド、N−(N’−ベンジルアミノカルボニル)スルファニルイミド、およびN−(フェニルカルボキシル)スルファニルイミドのアルカリ(土類)金属塩などが挙げられる。
【0122】
上記に挙げたアルカリ(土類)金属塩のうち、より好ましい成分として芳香族スルホン酸のアルカリ(土類)金属塩およびパーフルオロアルカンスルホン酸のアルカリ(土類)金属塩を挙げることができる。
【0123】
<本発明の組成物の有する特性について>
前記の如く、本発明によれば、芳香族ポリカーボネート樹脂(A成分)、Si−H基含有シリコーン化合物(B成分)、Si−H基を実質的に含まず、その基以外の反応基含有有機珪素化合物(C成分)および必要により難燃性改良剤(D成分)の組合せによって、燃焼時のドリップ防止性に優れた難燃剤として臭素化合物などのハロゲン系難燃剤を含有しない(以下、単に“ハロゲンフリー”と称する場合がある)難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が提供された。この本発明の樹脂組成物には、ポリカーボネート樹脂組成物に通常配合されるように、他の樹脂、充填剤あるいは種々の添加剤を配合することができる。これら他の樹脂、充填剤あるいは添加剤の詳細については後述する。
【0124】
次に本発明の代表的な好ましい実施態様について説明する。この好ましい実施態様は、ハロゲンフリーの難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物であって、透明性かつ耐湿熱性に優れた成形品を与える樹脂組成物である。従来、ハロゲンフリーの難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物であって、比較的簡単な組成によって、透明性および耐湿熱性が良好な組成物は、実用的には見当たらなかった。
【0125】
より具体的には、本発明の難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、JIS K7105で測定された2mm厚みのヘーズが0.3〜20%、好適には0.5〜15%である樹脂成形品を構成し得る。またJIS K7105で測定された2mm厚みのヘーズにおいて、その試験片を温度65℃、湿度85%の環境下で300時間放置した後に測定されたヘーズ(H1)と該放置前の初期ヘーズ(H0)との差ΔH(H1−H0)が0.01〜10%、好適には0.02〜7%である樹脂成形品を構成し得る。このように本発明の難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の好適な態様は、透明性および耐湿熱性に優れた成形品を得るのに適している。本発明の難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の好適な態様は、ハロゲンフリーの難燃性組成物でもあるから、透明性および耐湿熱性を必要とする種々の成形品に有利に利用することができる。さらに本発明の難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の好適な態様は、透明性に優れていることから、顔料や染料を配合することにより透明性に優れかつ色彩が鮮やかな成形品を得ることが可能となる。
【0126】
<その他添加成分について>
以上本発明の難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物におけるA成分、B成分、C成分、およびD成分について説明したが、さらにこの組成物に配合することができる充填剤、他の樹脂および種々の添加剤について説明する。
【0127】
本発明の難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物には、さらにE成分として充填剤を配合することができる。この充填剤(E成分)の配合は、成形品の機械的強度、剛性、耐湿熱性、および難燃性の向上などを可能とし、その他電気・電子的機能の改良など、特定機能の向上を可能とする。この充填剤としては、芳香族ポリカーボネート樹脂に配合される充填剤として公知のものが使用される。E成分の配合量は樹脂成分(A成分)100重量部に対して、0.001〜100重量部である。特に透明性よりも機械的強度の改良などが重視される場合には、好ましくは1〜80重量部、より好ましくは3〜60重量部が好適である。一方、透明性を維持し、かつ耐湿熱性や難燃性の向上を目的とする場合には、好ましくは0.001〜1重量部、より好ましくは0.003〜0.8重量部、さらに好ましくは0.005〜0.6重量部である。
【0128】
E成分としては、例えばタルク、マイカ、クレー、ワラストナイト、炭酸カルシウム、ガラス繊維、ガラスビーズ、ガラスバルーン、ミルドファイバー、ガラスフレーク、炭素繊維、炭素フレーク、カーボンビーズ、カーボンミルドファイバー、金属フレーク、金属繊維、金属コートガラス繊維、金属コート炭素繊維、金属コートガラスフレーク、シリカ、セラミック粒子、セラミック繊維、アラミド粒子、アラミド繊維、ポリアリレート繊維、グラファイト、導電性カーボンブラックおよび各種ウイスカーなどが挙げられる。
【0129】
本発明の樹脂組成物には、成形品の機械的物性、化学的性質または電気的性質の改良のために、A成分以外の他の熱可塑性樹脂を配合することができる。この他の熱可塑性樹脂の配合量は、その種類および目的によって変わるが、通常、芳香族ポリカーボネート樹脂(A成分)100重量部当たり、0.001〜30重量部が適当である。殊に透明性が必要とされる場合には他の熱可塑性樹脂の配合量は、A成分100重量部当り好ましくは0.001〜5重量部、より好ましくは0.01〜3重量部の範囲が適当である。一方、透明性以上に他の特性が重要視される場合には、他の熱可塑性樹脂の配合量は、A成分100重量部当り好ましくは2〜20重量部が適当である。
【0130】
他の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアルキルメタクリレート樹脂などに代表される汎用プラスチックス、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、スチレン系樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、環状ポリオレフィン樹脂、ポリアリレート樹脂(非晶性ポリアリレート、液晶性ポリアリレート)等に代表されるエンジニアリングプラスチックス、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイドなどのいわゆるスーパーエンジニアリングプラスチックスと呼ばれるものを挙げることができる。さらにオレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマーなどの熱可塑性エラストマーも使用することができる。
【0131】
本発明の樹脂組成物には、成形品に種々の機能の付与や特性改善のために、それ自体知られた添加物を少割合配合することができる。これら添加物は本発明の目的を損なわない限り、通常の配合量である。
【0132】
かかる添加剤としては、B成分およびC成分以外の難燃剤(リン酸エステル、赤リン、金属水和物系など)、ドリップ防止剤(フィブリル形成能を有する含フッ素ポリマーなど)、熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、離型剤、滑剤、摺動剤(PTFE粒子など)、着色剤(カーボンブラック、酸化チタンなどの顔料、染料)、光拡散剤(アクリル架橋粒子、シリコン架橋粒子、極薄ガラスフレーク、炭酸カルシウム粒子など)、蛍光増白剤、蓄光顔料、蛍光染料、帯電防止剤、流動改質剤、結晶核剤、無機および有機の抗菌剤、光触媒系防汚剤(微粒子酸化チタン、微粒子酸化亜鉛など)、グラフトゴムに代表される衝撃改質剤、赤外線吸収剤またはフォトクロミック剤が挙げられる。
【0133】
本発明の難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、その熱安定性、酸化防止性、光安定性(紫外線安定性)および離型性の改良のために、芳香族ポリカーボネート樹脂において、これらの改良に使用されている添加剤が有利に使用される。以下これら添加剤について具体的に説明する。
【0134】
本発明の難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、熱安定剤としてリン含有安定剤を配合することができる。かかるリン含有安定剤としては、ホスファイト化合物、ホスホナイト化合物、およびホスフェート化合物のいずれも使用可能である。
【0135】
ホスファイト化合物としては、例えば、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、ジイソプロピルモノフェニルホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、トリス(ジエチルフェニル)ホスファイト、トリス(ジ−iso−プロピルフェニル)ホスファイト、トリス(ジ−n−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、フェニルビスフェノールAペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジシクロヘキシルペンタエリスリトールジホスファイトなどが挙げられる。
【0136】
さらに他のホスファイト化合物としては二価フェノール類と反応し環状構造を有するものも使用できる。例えば、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)(2−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェニル)(2−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト、2,2’−エチリデンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェニル)(2−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイトなどを挙げることができる。
【0137】
ホスフェート化合物としては、トリブチルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクロルフェニルホスフェート、トリエチルホスフェート、ジフェニルクレジルホスフェート、ジフェニルモノオルソキセニルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジオクチルホスフェート、ジイソプロピルホスフェートなどを挙げることができ、好ましくはトリフェニルホスフェート、トリメチルホスフェートである。
【0138】
ホスホナイト化合物としては、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−3,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−3,3’−ビフェニレンジホスホナイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4−フェニル−フェニルホスホナイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−3−フェニル−フェニルホスホナイト、ビス(2,6−ジ−n−ブチルフェニル)−3−フェニル−フェニルホスホナイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−4−フェニル−フェニルホスホナイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−3−フェニル−フェニルホスホナイト等があげられ、テトラキス(ジ−tert−ブチルフェニル)−ビフェニレンジホスホナイト、ビス(ジ−tert−ブチルフェニル)−フェニル−フェニルホスホナイトが好ましく、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−ビフェニレンジホスホナイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−フェニル−フェニルホスホナイトがより好ましい。かかるホスホナイト化合物は上記アルキル基が2以上置換したアリール基を有するホスファイト化合物との併用可能であり好ましい。
【0139】
ホスホネイト化合物としては、ベンゼンホスホン酸ジメチル、ベンゼンホスホン酸ジエチル、およびベンゼンホスホン酸ジプロピル等が挙げられる。
【0140】
上記リン系安定剤は、1種のみならず2種以上を混合して用いることができる。上記リン系安定剤の中でも、ホスファイト化合物またはホスホナイト化合物が好ましい。殊にトリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイトおよびビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−フェニル−フェニルホスホナイトが好ましい。またこれらとホスフェート化合物との併用も好ましい態様である。
【0141】
本発明の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物に配合することができる酸化防止剤としてはフェノール系酸化防止剤を挙げることができる。フェノール系酸化防止剤により熱暴露時の変色を抑制できると共に、難燃性の向上に対してもある程度の効果を発揮する。かかるフェノール系酸化防止剤としては種々のものを使用することができる。
【0142】
例えば、α−トコフェロール、ブチルヒドロキシトルエン、シナピルアルコール、ビタミンE、n−オクタデシル−β−(4’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルフェル)プロピオネート、2−tert−ブチル−6−(3’−tert−ブチル−5’−メチル−2’−ヒドロキシベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、2,6−ジ−tert−ブチル−4−(N,N−ジメチルアミノメチル)フェノール、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホネートジエチルエステル、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−シクロヘキシルフェノール)、2,2’−ジメチレン−ビス(6−α−メチル−ベンジル−p−クレゾール)2,2’−エチリデン−ビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2’−ブチリデン−ビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、トリエチレングリコール−N−ビス−3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート、1,6−へキサンジオールビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ビス[2−tert−ブチル−4−メチル6−(3−tert−ブチル−5−メチル−2−ヒドロキシベンジル)フェニル]テレフタレート、3,9−ビス{2−[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]−1,1,−ジメチルエチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、4,4’−チオビス(6−tert−ブチル−m−クレゾール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−チオビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、ビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)スルフィド、4,4’−ジ−チオビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−トリ−チオビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2−チオジエチレンビス−[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,4−ビス(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、N,N’−ヘキサメチレンビス−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシンナミド)、N,N’−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル]ヒドラジン、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)イソシアヌレート、トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、1,3,5−トリス(4−tert−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチルベンジル)イソシアヌレート、1,3,5−トリス2[3(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]エチルイソシアヌレート、およびテトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンなどが例示される。
【0143】
より好ましくは、n−オクタデシル−β−(4’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルフェル)プロピオネート、2−tert−ブチル−6−(3’−tert−ブチル−5’−メチル−2’−ヒドロキシベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、3,9−ビス{2−[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]−1,1,−ジメチルエチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、およびテトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンであり、さらにn−オクタデシル−β−(4’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルフェル)プロピオネートが好ましい。
【0144】
これらはいずれも入手容易である。上記ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、単独でまたは2種以上を組合せて使用することができる。
【0145】
酸化防止剤はイオウ含有酸化防止剤を使用することもできる。特に樹脂組成物が回転成形や圧縮成形に使用される場合には好適である。かかるイオウ含有酸化防止剤の具体例としては、ジラウリル−3,3’−チオジプロピオン酸エステル、ジトリデシル−3,3’−チオジプロピオン酸エステル、ジミリスチル−3,3’−チオジプロピオン酸エステル、ジステアリル−3,3’−チオジプロピオン酸エステル、ラウリルステアリル−3,3’−チオジプロピオン酸エステル、ペンタエリスリトールテトラ(β−ラウリルチオプロピオネート)エステル、ビス[2−メチル−4−(3−ラウリルチオプロピオニルオキシ)−5−tert−ブチルフェニル]スルフィド、オクタデシルジスルフィド、メルカプトベンズイミダゾール、2−メルカプト−6−メチルベンズイミダゾール、1,1’−チオビス(2−ナフトール)などを挙げることができる。より好ましくは、ペンタエリスリトールテトラ(β−ラウリルチオプロピオネート)エステルを挙げることができる。
【0146】
上記に挙げたリン含有熱安定剤、フェノール系酸化防止剤、およびイオウ含有酸化防止剤はそれぞれ単独または2種以上併用することができる。より好ましくはリン含有安定剤は本発明の難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂中に必須成分として配合される。
【0147】
これらの安定剤の組成物中の割合としては、芳香族ポリカーボネート樹脂(A成分)100重量部当たり、リン含有安定剤、フェノール系酸化防止剤、またはイオウ含有酸化防止剤はそれぞれ0.0001〜1重量部であることが好ましい。より好ましくはA成分100重量部当たり、0.0005〜0.5重量部である。さらに好ましくは0.001〜0.2重量部である。
【0148】
本発明の難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物には、必要に応じて離型剤を配合することができる。かかる離型剤としてはそれ自体公知のものが使用できる。例えば、飽和脂肪酸エステル、不飽和脂肪酸エステル、ポリオレフィン系ワックス(ポリエチレンワックスまたは1−アルケン重合体が挙げられる。これらは酸変性などの官能基含有化合物で変性されているものも使用できる)、シリコーン化合物(本発明のB成分およびC成分以外のもの。例えば直鎖状または環状のポリジメチルシロキサンオイルやポリメチルフェニルシリコーンオイルなどが挙げられる)、フッ素化合物(ポリフルオロアルキルエーテルに代表されるフッ素オイルなど)、パラフィンワックス、蜜蝋などを挙げることができる。これらの中でも飽和脂肪酸エステル類、直鎖状または環状のポリジメチルシロキサンオイルやポリメチルフェニルシリコーンオイルなど、およびフッ素オイルを挙げることができる。かかる離型剤はA成分100重量部に対して0.01〜0.3重量部が好ましい。
【0149】
好ましい離型剤としては飽和脂肪酸エステルが挙げられ、例えばステアリン酸モノグリセライドなどのモノグリセライド類、デカグリセリンデカステアレートおよびデカグリセリンテトラステアレート等のポリグリセリン脂肪酸エステル類、ステアリン酸ステアレートなどの低級脂肪酸エステル類、セバシン酸ベヘネートなどの高級脂肪酸エステル類、ペンタエリスリトールテトラステアレートなどのエリスリトールエステル類が使用される。
【0150】
本発明の難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、紫外線吸収剤を含んでいることが好ましい。これは該樹脂組成物が、より好適な態様においてその透明性を活して直接光に曝露される部品や、光を導く部品に使用されることが多いためである。また不透明な成形品であっても改善された耐候性が必要とされる場合がある。
【0151】
紫外線吸収剤としては、例えば2−ヒドロキシ−4−n−ドデシルオキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、ビス(5−ベンゾイル−4−ヒドロキシ−2−メトキシフェニル)メタンなどに代表されるベンゾフェノン系化合物を挙げることができる。
【0152】
また紫外線吸収剤としては例えば2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ビス(α,α’−ジメチルベンジル)フェニルベンゾトリアゾール、2,2’メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]、メチル−3−[3−tert−ブチル−5−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−ヒドロキシフェニルプロピオネート−ポリエチレングリコールとの縮合物に代表されるベンゾトリアゾール系化合物を挙げることができる。
【0153】
さらに紫外線吸収剤としては例えば、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−ヘキシルオキシフェノール、2−(4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−ヘキシルオキシフェノールなどのヒドロキシフェニルトリアジン系化合物を挙げることができる。
【0154】
さらに紫外線吸収剤としては例えば、2,2’−p−フェニレンビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、2,2’−m−フェニレンビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、および2,2’−p,p’−ジフェニレンビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)などの環状イミノエステル系化合物を挙げることができる。
【0155】
またビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、テトラキス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、ポリ{[6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル][(2,2,6,6−テトラメチルピペリジル)イミノ]ヘキサメチレン[(2,2,6,6−テトラメチルピペリジル)イミノ]}、ポリメチルプロピル3−オキシ−[4−(2,2,6,6−テトラメチル)ピペリジニル]シロキサンなどに代表されるヒンダードアミン系の光安定剤も含むことができ、かかる光安定剤は前記紫外線吸収剤や各種酸化防止剤との併用において、耐候性などの点においてより良好な性能を発揮する。
【0156】
前記紫外線吸収剤および光安定剤は、ラジカル重合が可能な単量体化合物の構造をとることにより、かかる紫外線吸収性単量体および/または光安定性単量体と、アルキル(メタ)アクリレートなどの単量体とを共重合したポリマー型の紫外線吸収剤および/または光安定剤であってもよい。前記紫外線吸収性単量体および光安定性単量体としては、(メタ)アクリル酸エステルのエステル置換基中にベンゾトリアゾール骨格、ベンゾフェノン骨格、トリアジン骨格、環状イミノエステル骨格、およびヒンダードアミン骨格を含有する化合物が好適に例示される。
【0157】
前記紫外線吸収剤、光安定剤の組成割合は、それぞれA成分100重量部に対して、0.01〜2重量部が好ましく、より好ましくは0.03〜1重量部、さらに好ましくは0.05〜0.6重量部である。
【0158】
また、本発明の難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物には紫外線吸収剤などに基づく黄色味を打ち消すためにブルーイング剤を配合することができる。ブルーイング剤としては通常ポリカーボネート樹脂に使用されるものであれば、特に支障なく使用することができる。一般的にはアンスラキノン系染料が入手容易であり好ましい。具体的なブルーイング剤としては、例えば一般名Solvent Violet13[CA.No(カラーインデックスNo)60725;商標名 バイエル社製「マクロレックスバイオレットB」、三菱化学(株)製「ダイアレジンブルーG」、住友化学工業(株)製「スミプラストバイオレットB」]、一般名Solvent Violet31[CA.No68210;商標名三菱化学(株)製「ダイアレジンバイオレットD」]、一般名SolventViolet33[CA.No60725;商標名 三菱化学(株)製「ダイアレジンブルーJ」]、一般名Solvent Blue94[CA.No61500;商標名 三菱化学(株)製「ダイアレジンブルーN」]、一般名Solvent Violet36[CA.No68210;商標名 バイエル社製「マクロレックスバイオレット3R」]、一般名Solvent Blue97[商標名 バイエル社製「マクロレックスブルーRR」]および一般名Solvent Blue45[CA.No61110;商標名 サンド社製「テラゾールブルーRLS」]等が挙げられ、特に、マクロレックスブルーRR、マクロレックスバイオレットBやテラゾールブルーRLSが好ましい。
【0159】
本発明の難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物はドリップ防止性に優れるが、かかる性能をさらに補強するため通常のドリップ防止剤を併用することができる。しかしながら本発明の好適な態様である透明樹脂組成物において、かかる透明性を損なわないためその配合量はA成分100重量部に対し0.1重量部以下が適切であり、0.08重量部以下がより好ましく、0.05重量部以下がさらに好ましい。かかるドリップ防止剤としてはフィブリル形成能を有する含フッ素ポリマーを挙げることができる。特にポリテトラフルオロエチレン(以下PTFEと称することがある)が好ましい。
【0160】
フィブリル形成能を有するPTFEの分子量は極めて高い分子量を有し、せん断力などの外的作用によりPTFE同士を結合して繊維状になる傾向を示すものである。その分子量は、標準比重から求められる数平均分子量において100万〜1,000万、より好ましくは200万〜900万である。かかるPTFEは、固体形状の他、水性分散液形態のものも使用可能である。またかかるフィブリル形成能を有するPTFEは樹脂中での分散性を向上させ、さらに良好な難燃性および透明性を得るために他の樹脂との混合形態のPTFE混合物を使用することも可能である。混合形態のPTFEの市販品としては、三菱レイヨン(株)の「メタブレン A3000」(商品名)、およびGEスペシャリティーケミカルズ社製「BLENDEX B449](商品名)などを挙げることができる。
【0161】
<樹脂組成物の製造方法および成形方法について>
本発明の樹脂組成物を製造するには、任意の方法が採用される。例えばA成分、B成分、C成分および任意に他の成分をそれぞれV型ブレンダー、ヘンシェルミキサー、メカノケミカル装置、押出混合機などの予備混合手段を用いて充分に混合した後、必要に応じて押出造粒器やブリケッティングマシーンなどにより造粒を行い、その後ベント式二軸ルーダーに代表される溶融混練機で溶融混練し、およびペレタイザー等の機器によりペレット化する方法が挙げられる。
【0162】
別法として、A成分、B成分、C成分および任意に他の成分をそれぞれ独立にベント式二軸ルーダーに代表される溶融混練機に供給する方法、A成分および他の成分の一部を予備混合した後、残りの成分と独立に溶融混練機に供給する方法、B成分、およびC成分を水または有機溶剤で希釈混合した後、溶融混練機に供給、またはかかる希釈混合物を他の成分と予備混合した後、溶融混練機に供給する方法なども挙げられる。なお、配合する成分に液状のものがある場合には、溶融混練機への供給にいわゆる液注装置、または液添装置を使用することができる。
【0163】
本発明の難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は通常かかるペレットを射出成形して成形品を得ることにより各種製品を製造することができる。かかる射出成形においては、通常のコールドランナー方式の成形法だけでなく、ランナーレスを可能とするホットランナーによって製造することも可能である。また射出成形においても、通常の成形方法だけでなくガスアシスト射出成形、射出圧縮成形、超高速射出成形、射出プレス成形、二色成形、サンドイッチ成形、インモールドコーティング成形、インサート成形、発泡成形(超臨界流体を利用するものを含む)、急速加熱冷却金型成形、断熱金型成形および金型内再溶融成形、並びにこれらの組合せからなる成形法等を使用することができる。
【0164】
また本発明の難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、押出成形により各種異形押出成形品、シート、フィルムなどの形で使用することもできる。またシート、フィルムの成形にはインフレーション法や、キャスティング法なども使用可能である。さらに特定の延伸操作をかけることにより熱収縮チューブとして成形することも可能である。また本発明の樹脂組成物を溶融混練することなく回転成形により成形品とすることも可能である。
【0165】
さらに樹脂組成物から形成された成形品には、各種の表面処理を行うことが可能である。表面処理としては、加飾塗装、ハードコート、撥水・撥油コート、親水コート、紫外線吸収コート、赤外線吸収コート、電磁波吸収コート、発熱コート、帯電防止コート、制電コート、導電コート、並びにメタライジング(メッキ、化学蒸着(CVD)、物理蒸着(PVD)、溶射など)などの各種の表面処理を行うことができる。殊に透明シートに透明導電層が被覆されたものは好適である。
【0166】
前記の製造方法および成形方法により、本発明によれば本発明の難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物より形成された成形品が提供され、より好適には該樹脂組成物より形成された透明成形品が提供される。かかる透明成形品の代表例として透明シートが挙げられる。
【0167】
【実施例】
以下、実施例により本発明を詳述する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0168】
なお、実施例中の各種物性の測定は、以下の方法によった。
【0169】
(1)材料特性
(1−I)難燃性
UL規格に従って作成した厚さ2.8mmのUL燃焼試験片を温度70℃、168時間で処理した試験片を用いてUL規格94に基づいて試験を行った。評価は、5本の試験片のうちドリップを生じた試験片の本数、および5本の試験片の合計燃焼時間(秒)で評価した。
【0170】
(1−II)成形品外観
大きさ150mm×150mm、厚さ2.0mmの角板状成形品を目視にて観察し、以下の基準で評価した。
○:良好。剥離無し、光沢有り、均一外観。
×:不良。剥離有り、光沢無し、不均一外観。
【0171】
(1−III)透明性
大きさ150mm×150mm、厚さ2.0mmの角板状成形品の透明性をJIS K7105で測定して得られたヘーズ値および、以下の基準で成形品色相を目視で評価した。
○:無色透明。
×:濁りまたは着色あり。
【0172】
(1−IV)耐湿熱性
(1−III)で測定に用いた角板状成形品を、温度65℃、湿度85%の環境下で300時間放置した後にJIS K7105でヘーズ値を測定した。得られたヘーズ値(H1)と初期ヘーズ値(H0)との差(ΔH)および、湿熱処理後の成形品色相を目視で評価した(なお、“白濁”は光の透過が目視で確認し得る程度である。“不透明”は光の透過を目視で確認し得ない程度でありヘーズの測定を行わなかった)。
【0173】
[実施例1〜17および比較例1〜3]
表1〜2に記載の樹脂組成物を以下の要領で作成した。なお、説明は以下の表中の記号にしたがって説明する。
【0174】
表1〜2の割合の各成分を計量し、さらにホスファイト系抗酸化剤(日本チバガイギー社製IRGAFOS168):0.01重量部、フェノール系抗酸化剤(日本チバガイギー社製IRGANOX1076):0.01重量部、紫外線吸収剤(ケミプロ化成工業(株)製 ケミソーブ79):0.1重量部、離型剤(理研ビタミン(株)製 リケマールSL900):0.1重量部を計量して、タンブラーを用いて均一に混合し、かかる混合物を押出機に投入して樹脂組成物の作成を行った。
【0175】
押出機としては径30mmφのベント式二軸押出機((株)神戸製鋼所KTX−30)を使用した。スクリュー構成はベント位置以前に第1段のニーディングゾーン(送りのニーディングディスク×2、送りのローター×1、戻しのローター×1および戻しニーディングディスク×1から構成される)を、ベント位置以後に第2段のニーディングゾーン(送りのローター×1、および戻しのローター×1から構成される)を設けてあった。シリンダ−温度およびダイス温度が280℃、およびベント吸引度が3,000Paの条件でストランドを押出し、水浴において冷却した後ペレタイザーでストランドカットを行い、ペレット化した。
【0176】
得られたペレットは120℃で5時間、熱風循環式乾燥機にて乾燥し、射出成形機[東芝(株)150T射出成形機 IS150EN]によりシリンダー温度300℃、金型温度70℃で試験片を成形した。
【0177】
また、表1〜2に記載した記号に対応する使用した原材料等は以下の通りである(なお、原材料の記号はかかる表以外においても同じ内容を表す)。
【0178】
(A成分)
PC−1:直鎖状ポリカーボネート樹脂(ホスゲン法で作成されたビスフェノールAおよび末端停止剤としてp−tert−ブチルフェノールからなる芳香族ポリカーボネート樹脂。かかる芳香族ポリカーボネート樹脂はアミン系触媒を使用せず製造され、芳香族ポリカーボネート樹脂末端中、末端水酸基の割合は10モル%であり、またかかる芳香族ポリカーボネート樹脂は25ppmのホスホナイト系抗酸化剤[クラリアント(Clariant)社製 Sandstab P−EPQ]を含んでいた。粘度平均分子量は22,500であった)
PC−2:分岐状芳香族ポリカーボネート樹脂(出光石油化学(株)製 タフロンIB2500)
PC−3:ビスフェノールA、末端停止剤としてp−t−ブチルフェノールおよびホスゲンを塩化メチレン、10%水酸化ナトリウム水溶液、トリエチルアミンの存在下常法により反応させてポリカーボネート樹脂を製造するに当り、p−tert−ブチルフェノールをビスフェノールAに対して0.0004のモル比の量使用して製造された粘度平均分子量が121,000のポリカーボネート樹脂
【0179】
(B成分)
合成例−1
撹拌装置、冷却装置、温度計を取り付けた1Lフラスコに水301.9gとトルエン150gを仕込み、内温5℃まで冷却した。滴下ロートにトリメチルクロロシラン21.7g、メチルジクロロシラン23.0g、ジメチルジクロロシラン12.9gおよびジフェニルジクロロシラン76.0gの混合物を仕込み、フラスコ内へ撹拌しながら2時間かけて滴下した。この間、内温を20℃以下に維持するよう、冷却を続けた。滴下終了後、さらに内温20℃で撹拌を4時間続けて熟成した後、静置して分離した塩酸水層を除去し、10%炭酸ナトリウム水溶液を添加して5分間撹拌後、静置して分離した水層を除去した。その後、さらにイオン交換水で3回洗浄し、トルエン層が中性になったことを確認した。このトルエン溶液を減圧下内温120℃まで加熱してトルエンと低沸分を除去した後、濾過により不溶物を取り除いてシリコーン化合物B−1を得た。
【0180】
合成例−2
撹拌装置、冷却装置、温度計を取り付けた1Lフラスコにヘキサメチルジシロキサン16.2g、1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン61.0g、オクタメチルシクロテトラシロキサン103.8gおよびジフェニルジメトキシシラン391.0gを仕込み、さらに撹拌しながら濃硫酸25.0gを添加した。内温10℃まで冷却した後、水29.4gをフラスコ内へ撹拌しながら30分間かけて滴下した。この間、内温を20℃以下に維持するよう、冷却を続けた。滴下終了後、さらに内温10〜20℃で撹拌を5時間続けて熟成した後、水8.5gとトルエン300gを添加して30分間撹拌後、静置して分離した水層を除去した。その後、さらに5%硫酸ナトリウム水溶液で4回洗浄し、トルエン層が中性になったことを確認した。このトルエン溶液を減圧下内温120℃まで加熱してトルエンと低沸分を除去した後、濾過により不溶物を取り除いてシリコーン化合物B−2を得た。
【0181】
合成例−3
1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン167.9g、オクタメチルシクロテトラシロキサン92.7g、オクタフェニルシクロテトラシロキサン49.6gおよびフェニルトリメトキシシラン297.4gを仕込み、さらに濃硫酸25.5gを添加し、水41.3gを滴下した以外は、合成例−2と同様に操作して、シリコーン化合物B−3を得た。
B−1:合成例−1に従って作成したSi−H量が0.21mol/100g、芳香族基量が49重量%、平均重合度が8.0のシリコーン化合物
B−2:合成例−2に従って作成したSi−H量が0.20mol/100g、芳香族基量が50重量%、平均重合度が42.0のシリコーン化合物
B−3:合成例−3に従って作成したSi−H量が0.50mol/100g、芳香族基量が31重量%、平均重合度が11.0のシリコーン化合物
【0182】
(B成分以外)
合成例−4
水560.6gとトルエン130gを仕込み、トリメチルクロロシラン21.2g、メチルジクロロシラン52.3g、ジメチルジクロロシラン83.9gおよびフェニルトリクロロシラン13.8gの混合物を滴下した以外は、合成例−1と同様に操作して、シリコーン化合物B−4を得た。
B−4(比較):合成例−4に従って作成したSi−H量が0.45mol/100g、芳香族基量が5重量%、平均重合度が21.0のシリコーン化合物
【0183】
<各シリコーン化合物の示性式>
B−1 : M2DH 2D1Dφ2 3
B−2 : M2DH 10D14Dφ2 16
B−3 : MH 5D2.5Dφ2 0.5Tφ3
B−4 : M3DH 7D10Tφ1(比較)
【0184】
なお、上記示性式における各記号は以下のシロキサン単位を表し、各記号の係数は1分子中における各シロキサン単位の重合度を示す。
【0185】
M :(CH3)3SiO1/2
MH : H(CH3)2SiO1/2
D :(CH3)2SiO
DH : H(CH3)SiO
Dφ2 :(C6H5)2SiO
Tφ :(C6H5)SiO3/2
【0186】
(C成分)
C−1:MD単位からなり、芳香族基を含有しないエポキシ変性シリコーンオイル(信越化学工業(株)製 X−22−163A)、粘度 30mm2/s(25℃)、芳香族基量0重量%、エポキシ基当量950g/mol(反応基量0.105mol/100g)
C−2:MD単位からなり、芳香族基を含有しないエポキシ変性シリコーンオイル(信越化学工業(株)製 KF−1001)、粘度 17,000mm2/s(25℃)、芳香族基量0重量%、エポキシ基当量 3,500g/mol(反応基量0.029mol/100g)
C−3:下記合成例−5に従って作成したMD単位からなり、フェニル基を含有するエポキシ変性シリコーンオイル、粘度=160mm2/s(25℃)、芳香族基量39重量%、エポキシ基当量590g/mol(反応基量0.170mol/100g)
【0187】
合成例−5
攪拌装置、冷却装置、温度計を取付けた0.2Lフラスコに、前記合成例−1によって得られたSi−H基とフェニル基を含有するシリコーン化合物B−1を50.0gとトルエン50.0gを仕込み、さらに攪拌しながら白金触媒のトルエン溶液(信越化学工業(株)製 CAT−PL−50T)0.15gを添加した。内温80℃まで加熱した後、アリルグリシジルエーテル14.4gをフラスコ内へ攪拌しながら30分間かけて滴下した。この間、内温を80〜90℃の範囲に維持するよう、温度管理を行った。滴下終了後、さらに内温110℃前後で攪拌を4時間続けて還流熟成した後、このトルエン溶液を減圧下内温120℃まで加熱してトルエンと低沸分を除去した後、濾過により不溶物を取り除いて、フェニル基を含有するエポキシ変性シリコーンオイルC−3を得た。
C−4:T単位からなり、フェニル基、プロピル基とシラノール基を含有する固形シリコーンレジン(信越化学工業(株)製 KR−216)、軟化点=80℃、芳香族基量43重量%、水酸基当量 330g/mol(反応基量0.303mol/100g)
【0188】
(C成分以外)
C−5:MD単位からなり、芳香族基を含有しないメチルハイドロジェンポリシロキサン(信越化学工業(株)製 KF−99)、粘度20mm2/s(25℃)、芳香族基量0重量%、Si−H基当量64g/mol(反応基量1.55mol/100g)
【0189】
(D成分)
D−1:パーフルオロブタンスルホン酸カリウム塩(大日本インキ化学工業(株)製 メガファックF−114P)
D−2:ジフェニルスルホンスルホン酸カリウム塩(ユーシービージャパン製 KSS)
D−3:スルホン酸カリウム塩基で核置換されたポリスチレン重合体(ライオン(株)製 レオスタットPS−19S30K)
【0190】
(E成分)
E−1:タルク(林化成(株)製 UPN HS−T0.8)
【0191】
(その他)
PTFE:GEスペシャリティーケミカルズ製Blendex B−449
【0192】
【表1】
【0193】
【表2】
【0194】
上記表から明らかなように本発明の難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、B成分とC成分との併用によってそのドリップ防止性能に加えて、燃焼時間が短縮され樹脂組成物の難燃性が改善できることがわかる。また殊にアリール基を含有する特定のC成分を使用した場合には、良好な透明性が達成されることがわかる。
【0195】
さらに本発明の実施例10の組成と、該組成からB−1成分を除いた組成との効果を熱安定性の観点から比較した。それぞれのペレットを前記と同様の方法で作成し、該ペレットからそれぞれ厚さ2.8mmのUL燃焼試験片を作成した。但しかかる試験片の作成において、シリンダ温度を300℃で10分間滞留を行って作成した。かかるUL燃焼試験片を温度70℃、168時間で処理した後燃焼試験に供した。実施例10の組成より得られた試験片はドリップ本数:0本および合計燃焼時間43秒であったが、かかる組成よりB−1成分を除いた組成ではドリップ本数:3本となり、明らかに難燃性能の低下が認められた。かかる結果から本発明の構成がD成分との併用における熱安定性の改良に効果があることがわかる。
【0196】
【発明の効果】
本発明の難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、難燃剤としてのSi−H基を有するシリコーン化合物(B成分)およびSi−H基以外の反応基を含有する有機珪素化合物(好適にはシリコーン化合物)(C成分)を含有し、ハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤を実質的に含有することなく、良好な難燃性を有し、さらに外観、熱安定性、および耐湿熱性に優れたものであり、かかる特性はOA機器分野、電気電子機器分野などの各種工業用途に極めて有用である。
【0197】
殊に本発明の好ましい態様によれば、さらに透明性にも優れた難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が得られる。この難燃性樹脂組成物は、難燃剤としての特定のシリコーン化合物(B成分)および好適にはフェニル基を特定量含有する、Si−H基以外の反応基を含有するシリコーン化合物を含有することに起因し、ドリップ防止性、透明性を有するものである。この透明性の良好な樹脂組成物は、成形して透明シートとして利用でき、また照明カバー、透過型ディスプレイ用保護カバーのみならず、導光部品、太陽電池カバーおよび基材、レンズ、レンズアレイ、カプラー、タッチパネル、樹脂窓、遊技機部品(パチンコ前面カバー、回路カバーなど)、プリズムおよびミラーなどの用途に有用である。すなわちOA機器分野、電気電子機器分野、車両分野、農業分野、漁業分野および土木建築分野などの各種工業用途に極めて有用であり、価値を有する。
Claims (11)
- (A)芳香族ポリカーボネート樹脂(A成分)100重量部に対して、
(B)分子中にSi−H基および芳香族基を含有するシリコーン化合物であって、(1)Si−H基が含まれる量(Si−H量)が0.1〜1.2mol/100g、(2)下記一般式(1)で示される芳香族基が含まれる割合(芳香族基量)が10〜70重量%、(3)平均重合度が3〜150であるシリコーン化合物(B成分)0.1〜10重量部、並びに
(C)Si−H基を実質的に含まず、フェノール性水酸基と反応することができる基を含有する有機珪素化合物(C成分)0.01〜10重量部からなる難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
- 前記C成分は、前記一般式(1)で示される芳香族基を含み、その割合(芳香族基量)が10〜70重量%である請求項1に記載の難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
- JIS K7105で測定された2mm厚みのヘーズが0.3〜20%である請求項1または請求項2のいずれかに記載の難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
- JIS K7105で測定された2mm厚みのヘーズにおいて、その試験片を温度65℃、湿度85%の環境下で300時間放置した後に測定されたヘーズと該放置前の初期ヘーズとの差が0.01〜10%である請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
- 前記B成分が、下記一般式(2)および(3)で示される構成単位の少なくとも一種以上を含むシリコーン化合物である請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
- 前記B成分がMD単位またはMDT単位からなるシリコーン化合物である請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。(ただし、Mは1官能性シロキサン単位、Dは2官能性シロキサン単位、Tは3官能性シロキサン単位である)
- 前記C成分におけるフェノール性水酸基と反応することができる基が、エポキシ基およびシラノール基から選択される少なくとも1種の反応基である請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
- 前記C成分がMD単位、MDT単位、D単位、T単位およびDT単位から選択される少なくとも1種のシリコーン化合物である請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。(ただし、Mは1官能性シロキサン単位、Dは2官能性シロキサン単位、Tは3官能性シロキサン単位である)
- 芳香族ポリカーボネート樹脂(A成分)100重量部に対して、ラジカル発生剤、有機アルカリ金属塩、および有機アルカリ土類金属塩より選ばれる少なくとも一種以上の化合物(D成分)0.001〜0.3重量部をさらに含有してなる請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
- 請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載の難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物より形成された成形品。
- 請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載の難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物より形成された透明成形品。
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