JP4242134B2 - 車両用加速度及び角速度検出装置 - Google Patents

車両用加速度及び角速度検出装置 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、車両に搭載される加速度及び角速度検出装置に関し、特に異なる方向の加速度を検出する複数のセンサを備えた加速度及び角速度検出装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
車両が勾配のある道路を走行しているときは、加速度センサにより検出される車両の前後方向の加速度は、勾配の影響により、真の値からずれる。このため、特許文献1及び2には、勾配の影響をなくす補正を行う手法が示されている。
【0003】
特許文献1に示された第1の手法によれば、勾配センサにより道路の勾配が検出され、検出された勾配に応じて検出加速度の補正が行われる。また、勾配センサを用いることなく、検出加速度の補正を行う第2及び第3の手法が示されている。第2の手法によれば、車両の走行速度がほぼ一定であるときの、加速度センサ出力が加速度補正値とされる。第3の手法によれば、車輪の駆動力、転がり・空気抵抗、及び車両の質量に基づいて、加速度補正値が算出される。
【0004】
また特許文献2に示された手法では、エンジン出力トルクに基づいて、走行中の道路が平坦路であるかいなかが判定され、平坦路でないと判定されたときに検出加速度の補正が行われる。
【0005】
【特許文献1】
特開平9−133699号公報
【特許文献2】
特開平11−281672号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
特許文献1に示された第1の手法では、勾配センサを用いることが必要となるので、製造コストが上昇するという課題がある。また第2の手法では、車速がほぼ一定とならない限り補正値が得られないという課題がある。さらに第3の手法では、演算が複雑であるにも拘わらず、空気抵抗や車両質量などの変動要因があるため、正確な補正ができないという課題がある。
【0007】
また特許文献2に示された手法では、走行中の道路が平坦路であるか否かに応じておおまかな補正が行われるだけであるので、補正の精度が低いという課題がある。
また最近は、車両の前後方向及び左右方向の加速度や、ヨーレートを検出し、これらの検出値を用いるナビゲーションシステムや横滑り制御システムなどが車両に搭載されるようになってきているため、複数の加速度センサや回転角速度センサを設けて、正確な検出データを各システムに供給することが必要となってきている。
【0008】
本発明は上述した点を考慮してなされたものであり、異なる方向の加速度及び角速度を検出する複数のセンサを備え、正確な加速度検出値及び角速度検出値を得ることができる車両用加速度及び角速度検出装置を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため請求項1に記載の発明は、車体の前後軸方向の加速度を検出する前後加速度センサ(11)と、車体の左右軸方向の加速度を検出する左右加速度センサ(12)と、車体の上下軸方向の加速度を検出する上下加速度センサ(13)と、前記前後軸まわりの角速度を検出するロールレートセンサ(15)と、前記左右軸まわりの角速度を検出するピッチレートセンサ(14)と、前記上下軸まわりの角速度を検出するヨーレートセンサ(16)と、前記ロールレートセンサ(15)、ピッチレートセンサ(14)及びヨーレートセンサ(16)の、車体に固定された車体座標系における検出値(ω、φ、θ)を車体が傾斜していない状態に対応した基準座標系における検出値(ωr、φr、θr)に座標変換を行う座標変換手段(113)と、該座標変換手段(113)により座標変換されたロールレート(φr)及びピッチレート(θr)を積分することにより、ロール角(Φ)及びピッチ角(Θ)を算出する積分手段(114,115)と、前記積分手段により算出されるロール角(Φ)に基づいて、前記左右加速度センサの検出値(b)からロール角成分を除去する左右加速度補正手段(107)と、前記積分手段により算出されたピッチ角(Θ)に基づいて、前記前後加速度センサの検出値(a)からピッチ角成分を除去する前後加速度補正手段(103)と、車両の前後速度(Uc,VP)を演算する前後速度演算手段とを備え、前記座標変換手段(113)は、前記積分手段(114,115)により算出された1サンプル周期前のロール角(Φ)及びピッチ角(Θ)に基づいて、前記座標変換を行い、さらに、前記上下加速度センサの検出値に基づいて全傾斜角(γ)を算出する全傾斜角算出手段と、車両停止時の前記前後加速度センサ及び前記左右加速度センサの検出値に基づいて算出したピッチ角及びロール角に基づいて静止全傾斜角(γ’)を算出する静止全傾斜角算出手段と、前記静止全傾斜角(γ’)を初期値として使用し、前記積分手段により算出されたピッチ角及びロール角から積分全傾斜角(Γ)を算出する積分全傾斜角算出手段と、前記全傾斜角(γ)と前記積分全傾斜角(Γ)との比較により、前記上下加速度センサ、前記ピッチレートセンサ、または前記ロールレートセンサの何れかが故障したと判定する第1監視部(121)と、前記左右加速度補正手段で補正された左右加速度(B)と、前記ヨーレートセンサの検出値に前後速度を乗じて算出される左右加速度(R)との比較により、前記左右加速度センサ、前記ロールレートセンサ、または前記ヨーレートセンサの何れかが故障したと判定する第2監視部(122,123a)と、前記車両の停止時において、前記全傾斜角(γ)と前記静止全傾斜角(γ’)との比較により、前記上下加速度センサ、前記前後加速度センサ、または前記左右加速度センサの何れかが故障したと判定する比較部(123)とを備えることを特徴とする車両用加速度及び角速度検出装置を提供する。
【0010】
この構成によれば、積分手段により算出された1サンプル周期前のロール角及びピッチ角に基づいて、ロールレートセンサ、ピッチレートセンサ及びヨーレートセンサの検出値の、車体座標系から基準座標系への座標変換が行われ、より正確なロールレート、ピッチレート及びヨーレートが得られる。また積分手段により算出されたロール角に基づいて、左右加速度センサの検出値からロール角成分を除去する補正が行われ、さらに積分手段により算出されたピッチ角に基づいて、前後加速度センサの検出値からピッチ角成分を除去する補正が行われるので、車体の前後軸まわり及び左右軸まわりの傾きがあっても、正確な左右加速度及び前後加速度が得られる。また上下加速度センサの検出値に基づいて全傾斜角が算出され、車両停止時の前後加速度センサ及び左右加速度センサの検出値に基づいて算出したピッチ角及びロール角に基づいて静止全傾斜角が算出されるとともに、静止全傾斜角を初期値として使用して、積分手段により算出されたピッチ角及びロール角から積分全傾斜角が算出され、全傾斜角と積分全傾斜角との比較により、上下加速度センサ、ピッチレートセンサ、またはロールレートセンサの何れかが故障したと判定され、左右加速度補正手段で補正された左右加速度と、ヨーレートセンサの検出値に車両の前後速度を乗じて算出される左右加速度との比較により、左右加速度センサ、ロールレートセンサ、またはヨーレートセンサの何れかが故障したと判定され、車両の停止時において、全傾斜角と静止全傾斜角との比較により、上下加速度センサ、前後加速度センサ、または左右加速度センサの何れかが故障したと判定されるので、上下加速度センサ、前後加速度センサ、左右加速度センサ、ピッチレートセンサ、ロールレートセンサ、及びヨーレートセンサの動作が相互に監視され、故障を迅速に検出することができる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の車両用加速度及び角速度検出装置において、前記車両の複数の車輪の車輪速度をそれぞれ検出する複数の車輪速度センサ(21〜24)と、前記複数の車輪速度センサの故障を個別に判断する車輪速度センサ故障判断手段(123a)とを備え、前記前後速度演算手段は、前記複数の車輪速度センサにより検出された複数の車輪速度に基づいて前記前後速度(VP)を演算し、前記第2監視部(123a)は、前記車輪速度センサが故障と判断されていないことを条件として、前記前後速度演算手段により演算された前後速度(VP)を用いて前記故障の判定を実行することを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、複数の車輪速度センサにより検出された複数の車輪速度に基づいて前後速度が演算されるとともに、複数の車輪速度センサの故障が個別に判断され、車輪速度センサが故障と判断されていないことを条件として複数の車輪速度に基づいて演算された前後速度を用いて、第2監視部による故障の判定が実行されるので、車輪速度センサの故障による誤判定を防止することができる。
【0027】
なお、上記座標変換は、より具体的には、車体に固定された座標系から、車体に傾きがない状態に対応する基準座標系への変換である。
【0028】
【発明の実施の形態】
以下本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
図1は本発明の一実施形態にかかる車両用加速度検出装置、及びその周辺装置の構成を示すブロック図である。本実施形態においては、加速度検出装置は、慣性測定ユニット(IMU:Inertia Measurement Unit)1と、これとは別に車両の各車輪の速度を検出する第1〜第4車輪速度センサ21〜24によって構成される。慣性測定ユニット1は、図2に示すように、車両10の重心位置付近に配置される。図2に示されるように、車体の前後方向に延びる軸をX軸とし、車体の左右方向に延びる軸をY軸とし、車体の上下方向に延びる軸をZ軸とする。
【0029】
慣性測定ユニット1は、車体の前後軸(X軸)方向の加速度を検出する前後加速度センサ11と、車体の左右軸(Y軸)方向の加速度を検出する左右加速度センサ12と、車両の上下軸(Z軸)方向の加速度を検出する上下加速度センサ13と、前記左右軸まわりの角速度であるピッチレートθを検出するピッチレートセンサ14と、前記前後軸まわりの角速度であるロールレートφを検出するロールレートセンサ15と、前記上下軸まわりの角速度であるヨーレートωを検出するを検出するヨーレートセンサ16と、演算部17とを備えている。
【0030】
第1及び第2車輪速度センサは、それぞれ右駆動輪速度VDR及び左駆動輪速度VDLを検出し、第3及び第4車輪速度センサは、それぞれ右従動輪速度VVR及び左従動輪速度VVLを検出する。
【0031】
横滑り制御等で直接制御に用いるヨーレートωを検出するヨーレートセンサ16は、中点電位(静止時)の安定性が重要な因子なので、従来から横滑り制御に用いられている様な比較的高価で±1deg/sec程度の安定性を確保できるセンサが採用されている。一方、車両の場合、ロールレートφ及びピッチレートθは、常時継続的に発生することが無いので、検出信号にハイパスフィルタを施して使用することできる。したがって、ピッチレートセンサ14及びロールレートセンサ15としては、中点電位の安定性がそれほど高くない、比較的安価な製品が採用されている。また加速度センサ11,12,及び13は、9.8mm/sec2程度の分解能を有する車載用の一般的な低加速度センサが採用されている。このような構成とすることにより、ヨーレートセンサと加速度センサをそれぞれを2つずつ設ける構成より、コストを低減することができる。
【0032】
慣性測定ユニット1は、LAN(Local Area Network)25を介して、各車輪速度センサ21〜24、ナビゲーションシステム31、横滑り制御システム32、アダプティブクルーズ制御システム33、及び表示システム35に接続されている。
ナビゲーションシステム31は、人工衛星からの信号により得られる位置データと、上記加速度センサ及び角速度センサの出力を積分することにより、得られる位置データと、予め蓄積されている地図情報とに基づいて、当該車両の位置を地図情報とともに、表示システム35に表示する。
【0033】
横滑り制御システム32は、車両のオーバステア状態、アンダーステア状態等の挙動を、操舵角や車速から定まる目標値と、ヨーレートや横加速度等の検出値との比較により判定し、その判定結果に基づいてオーバステアやアンダーステアを打ち消すように(検出値が目標値に近づくように)、旋回外側の車輪にブレーキをかけたり、旋回内側の車輪にブレーキをかけたりする制御を行う。
【0034】
アダプティブクルーズ制御システム33は、車間距離センサ(図示せず)を備え、オートクルーズの一定車速制御に加えて、車間距離が安全車間距離以下になると、シフトダウンや自動ブレーキ制御を行う。
表示システム35は、液晶表示装置(図示せず)を含み、ナビゲーションシステム31からの情報、及びその他の情報を液晶表示装置上に表示する。
【0035】
演算部17は、図3に示すように、上述したセンサの出力信号が入力され、アナログ信号をディジタル信号に変換するA/D変換素子51,後述する各種演算処理を実行するCPU(Central Processing Unit)52,演算プログラムなどを記憶するROM(Read Only Memory)及び演算データを格納するRAM(Random Access Memory)からなるメモリ回路53と、LAN25を介して他のシステムとの間でデータの伝送を行うインターフェース回路54と、表示システム35に信号を供給する表示出力回路55と、車両走行中の検出データを記録するデータ記録装置56とを備えている。
【0036】
CPU52は、図1に示すセンサにより検出される検出データに基づいて、前後方向の加速度、前後方向の速度、左右方向の加速度、左右方向の速度、上下方向の加速度、上下方向の速度、及び車体の前後軸(X軸)まわりの傾斜角であるロール角Φ、車体の左右軸(Y軸)まわりの傾斜角であるピッチ角Θ、及び車体の上下軸(Z軸)まわりの回転角であるヨー角Ωを算出し、算出した各種データを、LAN25を介して他のシステムに供給する。
【0037】
車両10の車体に固定された車体座標系の座標を(x,y,z)で表し、車体の前後軸(X軸)まわりの傾斜角であるロール角Φ及び車体の左右軸(Y軸)まわりの傾斜角であるピッチ角Θがともに「0」である状態、すなわち車体が傾斜していない状態に対応した基準座標系の座標を(xr,yr,zr)で表すこととすると、車体座標系の座標(x,y,z)は、下記式(1)〜(3)により、基準座標系の座標(xr,yr,zr)に変換される。
xr=x・cosΘ −z・sinΘ (1)
yr=x・sinΘ・sinΦ+y・cosΦ+z・cosΘ・sinΦ (2)
zr=x・sinΘ・cosΦ−y・sinΦ+z・cosΘ・cosΦ (3)
【0038】
各軸まわりの角速度も同様に座標変換できるので、車体座標系におけるロールレートφ、ピッチレートθ、及びヨーレートωは、下記式(4)〜(6)により、基準座標系におけるロールレートφr、ピッチレートθr、及びヨーレートωrに変換される。
φr=φ・cosΘ −ω・sinΘ (4)
θr=φ・sinΘ・sinΦ+θ・cosΦ+ω・cosΘ・sinΦ (5)
ωr=φ・sinΘ・cosΦ−θ・sinΦ+ω・cosΘ・cosΦ (6)
【0039】
式(4)〜(6)による座標変換では、回転の順序によって、実際の基準座標系の角速度と一致しない結果が得られる場合がある。回転角が小さい場合には、下記式(7)〜(9)が成り立つので、これらを式(5)及び(6)に適用することにより、下記式(5a)及び(6a)が得られる。
【0040】
sinΘ・sinΦ≒0 (7)
sinΘ・cosΦ≒sinΘ (8)
cosΘ・sinΦ≒sinΦ (9)
θr= θ・cosΦ+ω・sinΦ (5a)
ωr=φ・sinΘ−θ・sinΦ+ω・cosΘ・cosΦ (6a)
上記式(4)、(5a)及び(6a)による座標変換は、実際のデータとよく一致することが確認されている。サンプリング間隔はできるだけ短くすることが望ましいので、演算式はできるだけ簡単な方がよい。そのような点も考慮し、本実施形態では、近似式(5a)及び(6a)を用いた座標変換を行っている。
【0041】
ロール角Φ及びピッチ角Θは、座標変換後のロールレートφr及びピッチレートθrを積分することにより算出される。したがって、実際には、下記式(10)〜(12)に示すように、1サンプル周期前のロール角Φ(n-1)及びピッチ角Θ(n-1)を用いて、座標変換演算を行い、下記式(13)〜(15)により、積分演算(積算演算)を行う。
φr(n)=φ(n)・cosΘ(n-1)−ω(n)・sinΘ(n-1) (10)
θr(n)=θ(n)・cosΦ(n-1)+ω(n)・sinΦ(n-1) (11)
ωr(n)=φ(n)・sinΘ(n-1)−θ(n)・sinΦ(n-1)
+ω(n)・cosΘ(n-1)・cosΦ(n-1) (12)
Φ(n)=Φ(n-1)+Δt・φ(n) (13)
Θ(n)=Θ(n-1)+Δt・Θ(n) (14)
Ω(n)=Ω(n-1)+Δt・ω(n) (15)
ここで、Δtはサンプリング周期であり、例えば10ミリ秒に設定される。またnは、サンプリング周期Δtで離散化されたサンプリング時刻である。
【0042】
図4(a)は、走行中の車体の実際の全傾斜角(重力加速度の方向と、車体に固定したZ軸とのなす角)と、積分全傾斜角Γと対比して示すタイムチャートである。積分傾斜角Γは、ロールレートセンサ15及びピッチレートセンサ14により検出されるロールレートφ及びピッチレートθをそのまま積分してロール角Φ及びピッチ角Θを算出し、これらのロール角Φ及びピッチ角Θを下記式(16)に適用して算出される。
Γ=acos(cosΘ×cosΦ) (16)
ここでacosは、コサイン(cos)の逆関数である。
図4(a)の破線が実際の全傾斜角を示し、実線が積分全傾斜角Γを示す。この図から明らかなように、積分全傾斜角Γは、実際の全傾斜角から大きくずれることがある。
【0043】
図4(b)は、実際の全傾斜角と、上記座標変換演算により得られる変換ロールレートφr及び変換ピッチレートθrを積分することにより算出されるロール角Φ及びピッチ角Θを式(16)に適用して算出される積分全傾斜角Γとを対比して示すタイムチャートである。この図から、実際の全傾斜角(破線)と、積分全傾斜角(実線)とがよく一致していることが確認される。すなわち、上記座標変換を行うことにより、より正確なロール角Φ及びピッチ角Θが得られる。
【0044】
図5は、CPU17による演算処理を説明するためのブロック図である。同図に示す機能ブロック101〜123の演算処理、及びこれらの演算処理に関連する処理がCPU17で実行される。
前後加速度センサ11、左右加速度センサ12及び上下加速度センサ13により、前後加速度a、左右加速度b及び上下加速度cが検出される。また、ピッチレートセンサ14、ロールレートセンサ15、及びヨーレートセンサ16により、ピッチレートθ、ロールレートφ、及びヨーレートωが検出される。
【0045】
座標変換部113は、上述した座標変換演算を実行し、変換ピッチレートθr、変換ロールレートφr及び変換ヨーレートωrを算出する。ピッチ角算出部114は、変換ピッチレートθrを積分することにより、積分ピッチ角Θを算出する。ロール角算出部115は、変換ロールレートφrを積分することにより、積分ロール角Φを算出する。ヨー角算出部115は、変換ヨーレートωrを積分することにより、積分ヨー角Ωを算出する。
【0046】
前後速度算出部101は、検出前後加速度aを積分することにより、前後速度Uを算出する。ピッチ角算出部102は、下記式(21)により、ピッチ角αを算出する。
α=asin(a/g) (21)
ここで、asinはサイン(sin)の逆関数であり、gは重力加速度である。
【0047】
純前後加速度算出部103は、下記式(22)に検出前後加速度a及び積分ピッチ角Θを適用し、純前後加速度Aを算出する。式(22)により、車両の左右軸(Y軸)まわりの傾きに起因する前後加速度の検出誤差が補正される。
A=a−g×sin(Θ) (22)
純前後速度算出部104は、純前後加速度Aを積分することにより、純前後速度Ucを算出する。
【0048】
左右速度算出部105は、検出左右加速度bを積分することにより、左右速度Vを算出する。ロール角算出部106は、下記式(23)により、ロール角βを算出する。
β=asin(b/g) (23)
純左右加速度算出部107は、下記式(24)に検出左右加速度bび積分ロール角Φを適用し、純左右加速度Bを算出する。式(24)により、車両の前後軸(X軸)まわりの傾きに起因する左右加速度の検出誤差が補正される。
B=b−g×sin(Φ) (24)
【0049】
純左右速度算出部108は、純左右加速度Bを積分することにより、純左右速度Vcを算出する。上下速度算出部109は、検出上下加速度cを積分することにより、上下速度Wを算出する。
【0050】
全傾斜角算出部110は、下記式(25)に検出上下加速度cを適用し、全傾斜角γを算出する。
γ=acos(c/g) (25)
静止全傾斜角算出部112は、車両の停車時に検出されるピッチ角α及びロール角βを下記式(26)に適用し、静止全傾斜角γ’を算出する。車両の停止状態は、例えば純前後速度Ucが「0」であることにより検出される。
γ’=acos(cosα×cosβ) (26)
【0051】
積分全傾斜角算出部111は、下記式(16a)に静止全傾斜角γ’、積分ピッチ角Θ及び積分ロール角Φを適用し、積分全傾斜角Γを算出する。
Γ=γ’+acos(cosΘ×cosΦ) (16a)
ここで、静止全傾斜角γ’を適用するのは初期値補正を行うためである。ピッチレートセンサ14及びロールレートセンサ15は、車両の停止時は出力が「0」であるため、車両停止時において路面が傾斜している場合には、積分全傾斜角Γは、正確な全傾斜角とならない。そこで、静止全傾斜角γ’を加算することにより、初期値補正が行われる。これにより、正確な積分全傾斜角を得ることができる。
【0052】
監視部121は、全傾斜角γと積分全傾斜角Γとの比較を常時行い、両者の差(γ−Γ)の絶対値が所定閾値DGAMMA1を超えたとき、上下加速度センサ13、ピッチレートセンサ14またはロールレートセンサ15のいずれかが故障したと判定する。
【0053】
比較部123は、車両の停止時において、全傾斜角γと静止全傾斜角γ’との比較を行い、両者の差(γ−γ’)の絶対値が所定閾値DGAMMA2を超えたとき、上下加速度センサ13、前後加速度センサ11、または左右加速度センサ12のいずれかが故障したと判定する。
【0054】
左右加速度算出部117は、ヨーレートω及び純前後速度Ucを下記式(27)に適用し、左右加速度Rを算出する。
R=ω×Uc (27)
監視部122は、純左右加速度Bと左右加速度Rとの比較を常時行い、両者の差(B−R)の絶対値が所定閾値DBRを超えたとき、左右加速度センサ12、前後加速度センサ11、ロールレートセンサ15、またはヨーレートセンサ16のいずれかが故障したと判定する。
【0055】
図6は、センサがすべて正常である場合における左右加速度Rと、純左右加速度Bとを対比して示すタイムチャートである。この図から明らかなように、センサが正常であれば、左右加速度Rと純左右加速度Bとの差(B−R)の絶対値が所定閾値DBR以下となる。
【0056】
なお、図7に示すように、純上下加速度算出部131及び純上下速度算出部132を設けるようにしてもよい。純上下加速度算出部131は、下記式(28)に検出上下加速度c、ピッチ角Θ及びロール角Φを適用し、純上下加速度Cを算出する。純上下速度算出部132は、純上下加速度Cを積分することにより、純上下速度Wcを算出する。これにより、正確な上下加速度C及び上下速度Wcを得ることができる。
C=c×cos(acos(cosΘ×cosΦ)) (28)
【0057】
以上のように本実施形態では、座標変換部113を設け、車体に固定された車体座標系から車体に傾斜がない状態に対応する基準座標系への座標変換を行うようにしたので、ピッチレートセンサ出力、ロールレートセンサ出力及びヨーレートセンサ出力から、正確なピッチ角Θ、ロール角Φ及びヨー角Ωを得ることができる。
【0058】
またピッチ角Θに応じて検出前後加速度aを補正し、純前後加速度Aを算出するようにしたので、正確な前後加速度を得ることができる。またロール角Φに応じて検出左右加速度bを補正し、純左右加速度Bを算出するようにしたので、正確な左右加速度を得ることができる。
【0059】
また監視部121を設け、全傾斜角γと積分全傾斜角Γとを常時比較することにより、上下加速度センサ13、ピッチレートセンサ14またはロールレートセンサ15の故障を判定するようにした。さらに監視部122を設け、純左右加速簿Bと左右加速度Rとを常時比較することにより、左右加速度センサ12、前後加速度センサ11、ロールレートセンサ15、またはヨーレートセンサ16の故障を判定するようにした。したがって、複数のセンサ出力に基づく相互監視により、故障を迅速に検出することができる。
【0060】
(変形例)
図8は、上述した実施形態の変形例を示すブロック図である。この変形例は、車速演算部141が新たに設けられ、図5の左右加速度算出部117及び監視部123に代えて、左右加速度算出部117a及び監視部123aが設けられている。
【0061】
車速演算部141は、車輪速度センサ21〜24により検出される右駆動輪速度VDR、左駆動輪速度VDL、右従動輪速度VVR、及び左従動輪速度VVLの平均値として、車速VPを算出する。なお、車速演算部141は、右従動輪速度VVR及び左従動輪速度VVLの平均値として、車速VPを算出するようにしてもよい。
【0062】
左右加速度算出部117aは、下記式(27a)に車速VP及びヨーレートωを適用して、左右加速度R’を算出する。
R’=ω×VP (27a)
監視部123aは、純左右加速度Bと左右加速度R’との比較を常時行い、両者の差(B−R’)の絶対値が所定閾値DBRを超えたとき、左右加速度センサ12、ロールレートセンサ15、またはヨーレートセンサ16のいずれかが故障したと判定する。
【0063】
また監視部123aは、車輪速度センサ21〜24のそれぞれの故障診断を行い、何れかの車輪速度センサの故障が検出されたときは、上記純左右加速度Bと左右加速度R’との比較による故障判定を実行しないようにする。車輪速度センサの出力がないとき、または車輪速度センサ出力の変化量の絶対値、例えば右従動輪速度VVRの今回値VVR(n)と前回値VVR(n-1)との差(VVR(n)−VVR(n-1))の絶対値が、判定閾値DVを超えたとき、車輪速度センサは故障していると判定される。判定閾値DVは、通常ではあり得ないような加速度(減速度)に対応した値に設定される。
【0067】
上述した実施形態では、演算部17が、座標変換手段、積分手段、左右加速度補正手段、前後加速度補正手段、上下加速度補正手段、及び車輪速度センサ故障判断手段を構成する。
【0068】
より具体的には、図5の座標変換部113が座標変換手段に相当し、ピッチ角算出部114及びロール角算出部115が積分手段に相当し、純左右加速度算出部107が左右加速度補正手段に相当し、純前後加速度算出部103が前後加速度補正手段に相当する。
【0069】
また、図7の純上下加速度算出部131が上下加速度補正手段に相当し、図8の車速算出部141が前後速度演算手段に相当す
【0070】
【発明の効果】
以上詳述したように請求項1に記載の発明によれば、積分手段により算出された1サンプル周期前のロール角及びピッチ角に基づいて、ロールレートセンサ、ピッチレートセンサ及びヨーレートセンサの検出値の、車体座標系から基準座標系への座標変換が行われ、より正確なロールレート、ピッチレート及びヨーレートが得られる。また積分手段により算出されたロール角に基づいて、左右加速度センサの検出値からロール角成分を除去する補正が行われ、さらに積分手段により算出されたピッチ角に基づいて、前後加速度センサの検出値からピッチ角成分を除去する補正が行われるので、車体の前後軸まわり及び左右軸まわりの傾きがあっても、正確な左右加速度及び前後加速度が得られる。また上下加速度センサの検出値に基づいて全傾斜角が算出され、車両停止時の前後加速度センサ及び左右加速度センサの検出値に基づいて算出したピッチ角及びロール角に基づいて静止全傾斜角が算出されるとともに、静止全傾斜角を初期値として使用して、積分手段により算出されたピッチ角及びロール角から積分全傾斜角が算出され、全傾斜角と積分全傾斜角との比較により、上下加速度センサ、ピッチレートセンサ、またはロールレートセンサの何れかが故障したと判定され、左右加速度補正手段で補正された左右加速度と、ヨーレートセンサの検出値に車両の前後速度を乗じて算出される左右加速度との比較により、左右加速度センサ、ロールレートセンサ、またはヨーレートセンサの何れかが故障したと判定され、車両の停止時において、全傾斜角と静止全傾斜角との比較により、上下加速度センサ、前後加速度センサ、または左右加速度センサの何れかが故障したと判定されるので、上下加速度センサ、前後加速度センサ、左右加速度センサ、ピッチレートセンサ、ロールレートセンサ、及びヨーレートセンサの動作が相互に監視され、故障を迅速に検出することができる。
【0071】
請求項2に記載の発明によれば、複数の車輪速度センサにより検出された複数の車輪速度に基づいて前後速度が演算されるとともに、複数の車輪速度センサの故障が個別に判断され、車輪速度センサが故障と判断されていないことを条件として複数の車輪速度に基づいて演算された前後速度を用いて、第2監視部による故障の判定が実行されるので、車輪速度センサの故障による誤判定を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の一実施形態にかかる車両用加速度検出装置、及びその周辺装置の構成を示すブロック図である。
【図2】 車体に固定された座標軸を説明するための図である。
【図3】 演算部(17)の構成を示すブロック図である。
【図4】 積分演算により算出される全傾斜角及び実際の全傾斜角の推移を示すタイムチャートである。
【図5】 演算部(17)で実行される演算処理を説明するための機能ブロック図である。
【図6】 左右加速度の推移を示すタイムチャートである。
【図7】 図5のブロック図に示されていない他の演算処理を説明するための機能ブロック図である。
【図8】 図5に示した実施例の変形例を説明するための機能ブロック図である
【符号の説明】
1 慣性測定ユニット
11 前後加速度センサ
12 左右加速度センサ
13 上下加速度センサ
14 ピッチレートセンサ
15 ロールレートセンサ
16 ヨーレートセンサ
17 演算部(座標変換手段、積分手段、左右加速度補正手段、前後加速度補正手段、上下加速度補正手段、前後速度演算手段、車輪速度センサ故障判断手段)
21 第1車輪速度センサ
22 第2車輪速度センサ
23 第3車輪速度センサ
24 第4車輪速度センサ
121 監視部
122 監視部
123 比較部
123a 監視部

Claims (2)

  1. 車体の前後軸方向の加速度を検出する前後加速度センサと、
    車体の左右軸方向の加速度を検出する左右加速度センサと、
    車体の上下軸方向の加速度を検出する上下加速度センサと、
    前記前後軸まわりの角速度を検出するロールレートセンサと、
    前記左右軸まわりの角速度を検出するピッチレートセンサと、
    前記上下軸まわりの角速度を検出するヨーレートセンサと、
    前記ロールレートセンサ、ピッチレートセンサ及びヨーレートセンサの、車体に固定された車体座標系における検出値を車体が傾斜していない状態に対応した基準座標系における検出値に座標変換を行う座標変換手段と、
    該座標変換手段により座標変換されたロールレート及びピッチレートを積分することにより、ロール角及びピッチ角を算出する積分手段と、
    前記積分手段により算出されるロール角に基づいて、前記左右加速度センサの検出値からロール角成分を除去する左右加速度補正手段と、
    前記積分手段により算出されたピッチ角に基づいて、前記前後加速度センサの検出値からピッチ角成分を除去する前後加速度補正手段と
    車両の前後速度を演算する前後速度演算手段と
    を備え、
    前記座標変換手段は、前記積分手段により算出された1サンプル周期前のロール角及びピッチ角に基づいて、前記座標変換を行い、
    さらに、
    前記上下加速度センサの検出値に基づいて全傾斜角を算出する全傾斜角算出手段と、
    車両停止時の前記前後加速度センサ及び前記左右加速度センサの検出値に基づいて算出したピッチ角及びロール角に基づいて静止全傾斜角を算出する静止全傾斜角算出手段と、
    前記静止全傾斜角を初期値として使用し、前記積分手段により算出されたピッチ角及びロール角から積分全傾斜角を算出する積分全傾斜角算出手段と、
    前記全傾斜角と前記積分全傾斜角との比較により、前記上下加速度センサ、前記ピッチレートセンサ、または前記ロールレートセンサの何れかが故障したと判定する第1監視部と、
    前記左右加速度補正手段で補正された左右加速度と、前記ヨーレートセンサの検出値に前記前後速度を乗じて算出される左右加速度との比較により、前記左右加速度センサ、前記ロールレートセンサ、または前記ヨーレートセンサの何れかが故障したと判定する第2監視部と、
    前記車両の停止時において、前記全傾斜角と、前記静止全傾斜角との比較により、前記上下加速度センサ、前記前後加速度センサ、または前記左右加速度センサの何れかが故障したと判定する比較部と
    を備えることを特徴とする車両用加速度及び角速度検出装置。
  2. 前記車両の複数の車輪の車輪速度をそれぞれ検出する複数の車輪速度センサと
    記複数の車輪速度センサの故障を個別に判断する車輪速度センサ故障判断手段とを備え、
    前記前後速度演算手段は、前記複数の車輪速度センサにより検出された複数の車輪速度に基づいて前記前後速度を演算し、
    前記第2監視部は、前記車輪速度センサが故障と判断されていないことを条件として、前記前後速度演算手段により演算された前後速度を用いて前記故障の判定を実行する
    ことを特徴とする請求項1に記載の車両用加速度及び角速度検出装置。
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