以下、本発明の実施の形態について、実施例に基づき以下の順で説明する。
A.装置構成:
B.切換機構:
C.一般動作:
D.運転制御処理:
E.結合状態切換制御:
F.切換機構の第2実施例:
G.切換機構の第3実施例:
H.変形例:
A.装置構成:
図1は、本発明の第1実施例としてのハイブリッド車両の概略構成を示す説明図である。このハイブリッド車両の動力系統は、エンジン150、クラッチモータ130、アシストモータ140を主として構成されており、この順に配置されている。アシストモータ140は、その結合先を切換機構200によってエンジン150側とクラッチモータ130側に切換えることができる。なお、切換機構200は、図示しない切換機構用アクチュエータを備えている。エンジン150は、本発明における原動機に相当する。また、クラッチモータ130は、本発明における動力調整装置に相当する。また、アシストモータ140は、本発明における電動機に相当する。以下、各要素の構成について順に説明する。
エンジン150は通常のガソリンエンジンである。エンジン150の運転は、エンジンECU(E/ECU)170により制御されている。エンジンECU170は、内部にCPU、ROM、RAM等を有するワンチップ・マイクロコンピュータであり、ROMに記録されたプログラムに従いCPUがエンジン150の燃料噴射など制御を行う。これらの制御を可能とするために、エンジンECU170にはエンジン150の運転状態を示す種々のセンサが接続されている。例えば、クランクシャフトの回転数を検出するための回転数センサが接続されている。その1つとしてクランクシャフト156の回転数を検出する回転数センサ152がある。その他のセンサおよびスイッチの図示は省略した。エンジンECU170は、制御ユニット190とも電気的に接続されており、制御ユニット190との間で種々の情報を、通信によってやりとりしている。制御ユニット190もエンジンECU170と同様、内部にCPU、ROM、RAM等を有するワンチップ・マイクロコンピュータであり、ROMに記録されたプログラムに従い、CPUが後述する種々の制御処理を行うよう構成されている。制御ユニット190には、アクセルペダル92の操作量を検出するアクセルペダルポジションセンサ92aや、ブレーキペダル94の操作量を検出するブレーキペダルポジションセンサ94aや、シフトレバー96の位置を検出するシフトポジションセンサ96aや、車軸116の回転数を検出する回転数センサ117や、アシストモータ140の回転数を検出する回転数センサ等が接続されている。アクセルペダル92とブレーキペダル94は、加減速用操作部として機能する。また、バッテリ194の残容量を検出するための残容量検出器196も接続されている。エンジンECU170は、制御ユニット190からエンジン150の運転状態に関する種々の指令値を受けてエンジン150を制御している。
エンジン150のクランクシャフト156は、ダンパ157を介してクラッチモータ130のアウタロータ134に結合されている。クランクシャフト156は、本発明における出力軸に相当する。クラッチモータ130は、インナロータ軸133に結合されたインナロータ132とクランクシャフト156に結合されたアウタロータ134を備え、両者が相対的に回転可能な対ロータ電動機である。インナロータ132は、インナロータ軸133、駆動軸135、ディファレンシャルギヤ114を介して、駆動輪116R,116Lを備えた車軸116に結合されている。クラッチモータ130は、電力の供給を受けてインナロータ132、アウタロータ134の両者が相対的に回転駆動する電動機として動作し、両者が外力によって回転させられる場合には発電機としても動作する。なお、クラッチモータ130は、インナロータ132とアウタロータ134との間の磁束密度が円周方向に正弦分布する正弦波着磁モータを適用することも可能であるが、本実施例では、比較的大きなトルクを出力可能な非正弦波着磁モータを採用した。
クラッチモータ130は、インナロータ132とアウタロータ134の双方が回転可能であるため、インナロータ軸133およびクランクシャフト156の一方から入力された動力を他方に伝達することができる。クラッチモータ130を力行運転すれば、他方の軸には動力を増大して伝達することができるし、回生運転すれば、動力の一部を電力の形で取り出しつつ残余の動力を伝達することができる。力行運転も回生運転も行わなければ、動力が伝達されない状態となる。この状態は機械的なクラッチを解放にした状態に相当する。
アウタロータ134は、給電装置138および駆動回路191を介してバッテリ194に電気的に接続されている。給電装置138は、スリップリングとブラシとから構成されている。駆動回路191は、内部にスイッチング素子としてのトランジスタを複数備えたトランジスタインバータであり、制御ユニット190と電気的に接続されている。制御ユニット190が駆動回路191のトランジスタのオン・オフの時間をPWM制御するとバッテリ194を電源とする三相交流が給電装置138を介してアウタロータ134に流れ、クラッチモータ130は回転する。
アシストモータ140も、クラッチモータ130と同様に同期電動発電機として構成され、外周面に複数個の永久磁石を有するロータ142と、回転磁界を形成する三相コイルが巻回されたステータ144とを備える。アシストモータ140は駆動回路192を介してバッテリ194に接続されている。駆動回路192もトランジスタインバータで構成されている。制御ユニット190が駆動回路192のトランジスタをスイッチングすることによりステータ144に回転磁界を生じアシストモータ140が回転する。本実施例では、アシストモータ140として非正弦波着磁モータを適用した。
アシストモータ140、クラッチモータ130は、それぞれ動力伝達機構としてのギヤG1,G2,G3を介して、これらとは異なる軸上に配置された切換機構200に結合されている。ギヤG1は、クラッチモータ130のアウタロータ134の中空の回転軸と一体的に回転するように設けられている。ギヤG2は、駆動軸135と一体的に回転するように設けられている。ギヤG3は、アシストモータ140のロータ142の、本発明におけるロータ軸に相当する中空の回転軸と一体的に回転するように設けられている。切換機構200の詳細については後述する。動力系統について、エンジン側を上流、車軸116側を下流と呼ぶものとすると、ギヤG3の結合先を制御ユニット190からの信号によってギヤG1またはギヤG2に切り換えることにより、アシストモータ140の結合先をクラッチモータ130の上流側と下流側とに切り換えることができる。ギヤG1は、本発明における第1の動力伝達機構を構成する。また、ギヤG2は、本発明における第2の動力伝達機構を構成する。また、ギヤG3は、本発明における第3の動力伝達機構を構成する。切換機構200の動作は、制御ユニット190によって制御される。
図2は、動力出力装置を駆動軸135方向から見た概略外観図である。図2において、上がエンジン150のシリンダ側であり、下がクランクケース側である。図1および図2に示すように、切換機構200は、クラッチモータ130とアシストモータ140との間の空隙に配置されており、駆動軸135方向から見た径方向の大きさがエンジン150の輪郭からはみ出さないように配置されている。そして、駆動軸135やクランクシャフト156よりも下側でクランクケースに陰が重なるように設置されている。これは、一般にエンジン150のクランクケース側の方が径方向の大きさが大きいため、切換機構200をエンジン150の陰に隠しやすいためである。これらの配置は、給電装置138や切換機構用アクチュエータの配置も考慮してコンパクトに設計されている。なお、図中の一点鎖線で示したリバースアイドルギヤは、本実施例では備えられておらず、第2実施例で備えられる機構である。本実施例と第2実施例の配置は、ほとんど共通するため、図2に併せて示した。
B.切換機構:
図3および図4は、切換機構200の概略構成を示す説明図である。クランクシャフト156と、クラッチモータ130のインナロータ軸133と、駆動軸135は、同軸上に配置されている。クラッチモータ130のアウタロータ134には、その中空の回転軸と一体的に回転するギヤg1が設けられている。駆動軸135には、その回転と一体的に回転するギヤg6が設けられている。アシストモータ140のロータ142には、その中空の回転軸と一体的に回転するギヤg8が設けられている。更に、これらの軸と平行な位置に軸AXが設けられており、この軸AXには、軸AXを回転軸の中心とするギヤg2、ギヤg3、ハブギヤgh1、ギヤg4、ギヤg5、ギヤg7が上流からこの順で配置されている。ギヤg1とギヤg2、ギヤg5とギヤg6、ギヤg7とギヤg8は、常時かみ合っている。ギヤg2とギヤg3、ギヤg4とギヤg5は、それぞれ同一の中空の回転軸を有しており、一体的に回転する。また、ハブギヤgh1とギヤg7と軸AXも一体的に回転する。なお、これらのギヤ比は任意に設定可能である。ギヤg1、ギヤg6、ギヤg8は、それぞれ、本発明における第1ないし第3の動力伝達機構として機能する。また、ギヤg2,g3の回転軸は、本発明における第1回転軸に相当する。また、ギヤg4,g5の回転軸は、本発明における第2回転軸に相当する。また、ハブギヤgh1,ギヤg7の回転軸は、本発明における第3回転軸に相当する。なお、図から分かるように、本実施例では、第1回転軸と第2回転軸と第3回転軸とは、同軸に配置されている。
切換機構200は、いわゆるシンクロメッシュ機構を備えている。シンクロメッシュ機構のシフトフォークsf1を切換機構用アクチュエータによってスライドさせることにより、ギヤg3とハブギヤgh1、ハブギヤgh1とギヤg4の結合状態を切り換えることができる。
図3は、ハブギヤgh1とギヤg4とが結合している状態を示している。このとき、アシストモータ140の動力は、ギヤg8、ギヤg7、軸AX、ハブギヤgh1、ギヤg4、ギヤg5、ギヤg6、駆動軸135の順に伝達される。従って、アシストモータ140が駆動軸135に結合されたのと同等の構成となり、アンダードライブ結合となる。
図4は、ハブギヤgh1とギヤg3とが結合している状態を示している。このとき、アシストモータ140の動力は、ギヤg8、ギヤg7、軸AX、ハブギヤgh1、ギヤg3、ギヤg2、ギヤg1、クランクシャフト156の順に伝達される。従って、アシストモータ140がクランクシャフト156に結合されたのと同等の構成となり、オーバードライブ結合となる。
このような切換機構200をクランクシャフト156および駆動軸135と異なる軸上に配置し、クラッチモータ130とアシストモータ140との間の空隙を有効活用することによって、動力出力装置の軸方向のサイズを小型化することができる。この結果、ハイブリッド車両への搭載性を向上することができる。なお、本実施例では、切換機構200とクランクシャフト156および駆動軸135との間の動力伝達をギヤによって行う場合を例示したが、ベルト、チェーン等を用いて伝達してもよい。
C.一般動作:
上述したアンダードライブ結合とオーバードライブ結合の切り換えを含め、本実施例のハイブリッド車両の運転状態は、制御ユニット190により制御されている。本実施例のハイブリッド車両の一般的動作として、エンジン150から出力された動力を要求された回転数およびトルクに変換して車軸116に出力する動作について説明する。以下では、説明の容易のため、ディファレンシャルギヤ114のギヤ比は値1であるものとして説明する。つまり、車軸116の回転数およびトルクと駆動軸135の回転数およびトルクは等しいものとする。
本実施例のハイブリッド車両では、エンジン150の回転数Neと車軸116の回転数Ndとの大小関係、およびアシストモータ140の結合状態に応じて、上記変換の経路が異なる。以下、それぞれの場合について個別に説明する。
最初にアンダードライブ結合について説明する。図5は、アンダードライブ結合について、「車軸116の回転数Nd<エンジン150の回転数Ne」の場合におけるトルク変換の様子を示す説明図である。横軸に回転数N、縦軸にトルクTを採り、エンジン150の運転ポイントPeと車軸116の回転ポイントPdを示した。図5中の曲線Pは動力、つまり回転数とトルクの積が一定の曲線である。回転数Ne、トルクTeでエンジン150から出力された動力Peを、Neよりも低い回転数Nd、Teよりも高いトルクTdの動力Pdに変換して車軸116から出力する場合を考える。
図5に示した変換を行う場合、車軸116の回転数Ndは、エンジン150の回転数Neよりも小さいから、クラッチモータ130は、相対的に逆転することになり、クラッチモータ130は、エンジン150から出力された動力の一部を車軸116に伝達しつつ、残りを電力として回生する状態で運転される。このとき、回生される電力は、クラッチモータ130の動力、即ち領域GU1の面積に等しい。一方、車軸116のトルクTdは、エンジン150のトルクTeよりも大きい。従って、アシストモータ140は、正のトルク、正の回転数で運転される。つまり、アシストモータ140は、電力の供給を受け力行される。このとき供給される電力は、アシストモータ140が出力する動力、即ち領域AU1の面積に等しい。
両モータでの運転効率を100%と仮定すれば、クラッチモータ130で回生される電力とアシストモータ140に供給される電力とは等しくなる。つまり、クラッチモータ130で領域GU1に相当する分のエネルギを電力の形で取り出し、領域AU1に相当する分のエネルギとして供給することによりエンジン150の運転ポイントPeで表される動力を、ポイントPdの状態に変換する。実際には運転効率が100%になることはないため、バッテリ194からの電力の持ち出しを伴ったり、損失に相当する動力をエンジン150から余分に出力したりして、上記変換を実現する。説明の容易のため、以下では、運転効率を100%として本実施例の動作について説明する。
図6は、アンダードライブ結合について、「車軸116の回転数Nd>エンジン150の回転数Ne」の場合におけるトルク変換の様子を示す説明図である。図6に示した変換を行う場合、クラッチモータ130は、電力の供給を受けて力行される。供給される電力は、領域「GU2+GU3」の面積に等しい。一方、車軸116のトルクTdは、エンジン150のトルクTeよりも小さい。従って、アシストモータ140は回生運転される。このとき回生される電力は領域「AU2+GU3」の面積に等しい。両モータでの運転効率を100%と仮定すれば、クラッチモータ130で回生される電力とアシストモータ140に供給される電力とが等しくなる。かかる変換では、下流側に位置するアシストモータ140から上流側に位置するクラッチモータ130に電力が供給されるため、動力の循環が生じる。図6中の領域GU3が循環する動力に相当する。
アンダードライブ結合において、上述の変換を実現するための、アシストモータ140およびクラッチモータ130の運転ポイントは、それぞれ次式(1)の通りとなる。
クラッチモータ130の回転数Nc=Nd−Ne;
トルクTc=Te;
アシストモータ140の回転数Na=Nd;
トルクTa=Td−Te; ・・・(1)
図7は、オーバードライブ結合について、「車軸116の回転数Nd<エンジン150の回転数Ne」の場合におけるトルク変換の様子を示す説明図である。図7に示した変換を行う場合、車軸116のトルクTdは、エンジン150のトルクTeよりも大きい。従って、アシストモータ140は、領域「AO1+AO2」の面積に等しい電力の供給を受けて力行される。一方、車軸116の回転数Ndは、エンジン150の回転数Neよりも小さいため、クラッチモータ130は回生運転となる。回生される電力は、領域「AO2+GO1」の面積に等しい。クラッチモータ130で回生された電力は、アシストモータ140の力行に供給される。回生された電力と供給される電力とは等しい。かかる変換では、下流側に位置するクラッチモータ130から上流側に位置するアシストモータ140に電力が供給されるため、動力の循環が生じる。図7中の領域AO2が循環する動力に相当する。
図8は、オーバードライブ結合について、「車軸116の回転数Nd>エンジン150の回転数Ne」の場合におけるトルク変換の様子を示す説明図である。図14に示した変換を行う場合、車軸116のトルクTdはエンジン150のトルクTeよりも小さい。従って、アシストモータ140は回生運転され、領域「AO3」の面積に等しい電力を回収する。一方、車軸116の回転数Ndはエンジン150の回転数Neよりも大きいため、クラッチモータ130は領域「GO2」の面積に等しい電力の供給を受けて力行運転する。回生された電力と供給される電力とは等しい。かかる変換では、上流側に位置するアシストモータ140から下流側に位置するクラッチモータ130に電力が供給されるため、動力の循環は生じない。
オーバードライブ結合において、上述の変換を実現するための、アシストモータ140およびクラッチモータ130の運転ポイントは、次式(2)の通りとなる。
クラッチモータ130の回転数Nc=Nd−Ne;
トルクTc=Td;
アシストモータ140の回転数Na=Ne;
トルクTa=Td−Te; ・・・(2)
以上で説明した通り、本実施例のハイブリッド車両は、アシストモータ140の結合状態、および車軸116の回転数Ndとエンジン150の回転数Neとの大小関係に応じて、エンジン150から出力された動力を要求された回転数およびトルクからなる動力に変換して、車軸116から出力することができる(以下、この運転モードを通常走行と呼ぶ)。この他、エンジン150を停止してアシストモータ140を動力源として走行することも可能である(以下、この運転モードをEV走行とよぶ)。EV走行はアンダードライブ結合で行われる。また、停車中にエンジン150の動力でアシストモータ140を回生運転して発電することも可能である。この発電はオーバードライブ結合で行われる。
図5〜8で説明した通り、「車軸116の回転数Nd>エンジン150の回転数Ne」の走行時にオーバードライブ結合を採り、「回転数Nd<回転数Ne」の走行時にアンダードライブ結合を採れば、動力の循環を回避でき運転効率を向上することができる。本実施例のハイブリッド車両は、運転効率を向上するため、回転数Nd,Neの大小関係に応じてアシストモータ140の結合状態を制御する。
図9は、本実施例のハイブリッド車両における各種走行モードの使い分けの様子を示す説明図である。図中の曲線LIMはハイブリッド車両が走行可能な領域を示している。図示する通り、車速およびトルクが比較的低い領域では、EV走行を行う。車速およびトルクが所定値以上の領域では、通常走行を行う。図中の曲線Aはエンジン150の回転数Neと車軸116の回転数Ndが等しくなる境界を示している。かかる曲線Aよりもトルクが低い側の領域では、原則としてオーバードライブ結合により走行し、高い側の領域では、アンダードライブ結合または中立状態により走行する。例えば、図9中の曲線DDに沿って車両の走行状態が変化していく場合には、当初EV走行を行った後、オーバードライブ結合による走行に移行することになる。
図9のマップから明らかな通り、アンダードライブ結合は、比較的高トルクが要求される領域で用いられる。従って、本実施例のハイブリッド車両は、運転効率に基づく上述の制御と併せて、アクセルが急激に踏み込まれた場合などの加速時にアンダードライブ結合に切り換え、高い応答性と滑らかな加速感の実現を図っている。こうしたアシストモータ140の切り換えの制御については、後に詳述する。
D.運転制御処理:
先に説明した通り、本実施例のハイブリッド車両は、EV走行、通常走行など種々の運転モードにより走行することができる。制御ユニット190内のCPU(以下、単に「CPU」という)は、車両の走行状態に応じて運転モードを判定し、それぞれのモードについてエンジン150、クラッチモータ130、アシストモータ140等の制御を実行する。これらの制御は種々の制御処理ルーチンを周期的に実行することにより行われる。以下では、これらの運転モードのうち、通常走行モードについてトルク制御処理の内容を説明する。
図10は、通常走行時のトルク制御ルーチンのフローチャートである。この処理が開始されると、CPUは駆動軸135から出力すべきエネルギPdを設定する(ステップS10)。この動力は、アクセルペダルポジションセンサ92aにより検出されたアクセルペダル92の踏み込み量、即ち、アクセル開度および車速に基づいて設定される。駆動軸から出力すべきエネルギPdは、車軸116の回転数Nd*と目標トルクTd*の積で表される。目標トルクTd*は、アクセル開度および車速に応じたテーブルとして予め設定されている。
次に、充放電電力Pbおよび補機駆動エネルギPhを算出する(ステップS15,S20)。充放電電力Pbとは、バッテリ194の充放電に要するエネルギであり、バッテリ194を充電する必要がある場合には正の値、放電する必要がある場合には負の値を採る。補機駆動エネルギPhとは、エアコンなどの補機を駆動するために必要となる電力である。こうして算出された電力の総和が要求動力Peとなる(ステップS25)。
なお、トルク制御ルーチンでは、単位時間当たりのエネルギ収支を考慮してエンジン150等の制御を実行する。従って、本明細書でエネルギという場合は、全て単位時間当たりのエネルギを意味するものとする。この意味で、本明細書においては、機械的なエネルギは動力と同義であり、電気的なエネルギは電力と同義である。
次に、CPUは、こうして設定された要求動力Peに基づいてエンジン150の運転ポイントを設定する(ステップS30)。運転ポイントとは、エンジン150の目標回転数Neと目標トルクTeの組み合わせをいう。エンジン150の運転ポイントは、予め定めたマップに従って、基本的にはエンジン150の運転効率を優先して設定する。
図11は、エンジンの運転ポイントと運転効率との関係について示す説明図である。回転数Neを横軸に、トルクTeを縦軸にとりエンジン150の運転状態を示している。図中の曲線Bはエンジン150の運転が可能な限界範囲を示している。曲線α1からα6まではエンジン150の運転効率が一定となる運転ポイントを示している。α1からα6の順に運転効率は低くなっていく。また、曲線C1からC3は、それぞれエンジン150から出力される動力(回転数×トルク)が一定となるラインを示している。
エンジン150は図示する通り、回転数およびトルクに応じて、運転効率が大きく相違する。エンジン150から曲線C1に相当する動力を出力する場合には、図中のA1点に相当する運転ポイント(回転数およびトルク)が最も高効率となる。同様に曲線C2およびC3に相当する動力を出力する場合には、図中のA2点およびA3点で運転する場合が最も高効率となる。出力すべき動力ごとに最も運転効率が高くなる運転ポイントを選択すると、図中の曲線Aが得られる。これを動作曲線と呼ぶ。なお、この曲線Aは、先に図14に示した曲線Aと同じである。
図10のステップS30における運転ポイントの設定では、予め実験的に求められた動作曲線Aを制御ユニット190内のROMにマップとして記憶しておき、かかるマップから要求動力Peに応じた運転ポイントを読み込むことで、エンジン150の目標回転数Neおよび目標トルクTeを設定する。こうすることにより、エンジン150について効率の高い運転ポイントを設定することができる。
こうして設定されたエンジン150の運転ポイントに応じて、CPUは結合状態切換制御処理を行う(ステップS100)。この処理は、ハイブリッド車両の走行状態に応じてアンダードライブ結合とオーバードライブ結合とを切り換える処理である。処理内容の詳細は後述する。この処理を実行することにより、アシストモータ140はアンダードライブ結合またはオーバードライブ結合のいずれかの結合状態を採る。
次にCPUはクラッチモータ130およびアシストモータ140のトルクおよび回転数の指令値を設定する(ステップS200)。アンダードライブ結合時には、先に示した式(1)において、車軸の回転数Nd、トルクTdにそれぞれ目標回転数Nd*、Td*を代入し、エンジンの回転数Ne、トルクTeにステップS30で設定した目標回転数Ne*、目標トルクTe*を代入して設定される。オーバードライブ結合の場合には、先に示した式(2)において、それぞれ上記諸量を代入することにより設定される。
こうして設定されたトルク指令値および回転数指令値に基づいて、CPUはクラッチモータ130、アシストモータ140、エンジン150の運転を制御する(ステップS205)。モータの運転制御処理は、同期モータの制御として周知の処理を適用することができる。本実施例では、いわゆる比例積分制御による制御を実行している。つまり、各モータの現在のトルクを検出し、目標トルクとの偏差および目標回転数に基づいて、各相に印加する電圧指令値を設定する。印加される電圧値は上記偏差の比例項、積分項、累積項によって設定される。それぞれの項にかかる比例係数は実験などにより適切な値が設定される。こうして設定された電圧は、駆動回路191,192を構成するトランジスタインバータのスイッチングのデューティに置換され、いわゆるPWM制御により各モータに印加される。
CPUは駆動回路191,192のスイッチングを制御することによって、上述の通り、クラッチモータ130およびアシストモータ140の運転を直接制御する。これに対し、エンジン150の運転は現実にはエンジンECU170が実施する処理である。従って、制御ユニット190のCPUはエンジンECU170に対してエンジン150の運転ポイントの情報を出力することで、間接的にエンジン150の運転を制御する。以上の処理を周期的に実行することにより、本実施例のハイブリッド車両は、エンジン150から出力された動力を所望の回転数およびトルクに変換して駆動軸から出力し、走行することができる。
E.結合状態切換制御:
図12は、結合状態切換制御ルーチンのフローチャートである。本ルーチンが開始されると、CPUは運転状態を表すパラメータを入力する(ステップS102)。パラメータとしては、車軸116の目標回転数Nd*、目標トルクTd*、アクセル開度、ブレーキペダル94の踏み込み量およびバッテリ194の残容量SOCなどが挙げられる。次に、これらのパラメータに基づいて結合状態の切換モードの判定を行う(ステップS104)。
切換モードとしては、4つのモードがある。「切換モード1」は、結合状態をオーバードライブ結合またはアンダードライブ結合の状態からニュートラルの状態にする(ニュートラル処理を行う)モードである。ここでニュートラルの状態とは、アンダードライブ結合にもオーバードライブ結合にもなっていない、即ち、ハブギヤgh1がギヤg3にもギヤg4にも結合されていない状態である(図3参照)。
運転者がアクセルペダル92を踏み込んで急加速を要求した場合を考える。アクセルペダルポジションセンサ92aが検出したアクセルペダルポジションAPが所定値Athを超えた場合である。本実施例のハイブリッド車両の場合、出力可能な最大トルクはアンダードライブ結合の方が大きくなり、アンダードライブ結合の方が急加速に適しているという特性がある。オーバードライブ結合の場合は、エンジン150、アシストモータ140、クラッチモータ130の順に動力が伝達される。かかる構成の最大トルクはクラッチモータ130が伝達可能なトルクの最大値で制限される。これに対し、アンダードライブ結合の場合は、エンジン150、クラッチモータ130、アシストモータ140の順に動力が伝達される。この場合は、クラッチモータ130が伝達可能な最大トルクに対し、さらにアシストモータ140でトルクを付加することが可能となる。こうした種々の理由により、急加速をする場合には、アンダードライブ結合の方が適している。しかし、アシストモータ140の回転数を上昇させる過渡期においては、アシストモータ140の慣性が妨げとなる。この場合に、アシストモータ140の結合を切り離し、アシストモータ140の慣性の影響をなくし、アシストモータ140を単独で運転することによって回転数を上昇させたのちアンダードライブ結合にすることが有効である。このようにすることによって、加速時の応答性を向上することができる。なお、所定値Athは車速に応じて変更してもよい。車速とアクセル開度に応じて運転手の加速要求の程度が異なるからである。
また、運転手の加速要求があっても(AP>0)、バッテリ194の残容量SOCが所定値SLよりも低い場合には放電することはできない。この場合にもアシストモータ140の結合状態を切り離すことによってバッテリ194の放電を抑制することができる。同様に、急加速時(AP>Ath)にもバッテリ194の残容量SOCを併せて考慮してもよい。
次に、運転者がブレーキペダル94を踏み込んで急制動を要求した場合を考える。ブレーキペダルポジションセンサ94aが検出したブレーキペダルポジションBPが所定値Bthを超えた場合である。急制動時には、アシストモータ140の慣性が制動の妨げとなる。この場合に、アシストモータ140の結合を切り離すことによってアシストモータ140の慣性の影響をなくし、制動距離を短縮する、換言すれば、減速時の応答性を向上することができる。なお、所定値Bthは車速に応じて変更される値である。車速とブレーキペダル94の踏み込み量に応じて運転手の制動要求の程度が異なるからである。
また、運転手の制動要求があっても(BP>0)、バッテリ194の残容量SOCが所定値SHよりも高い場合には回生制動することができない。この場合にもアシストモータ140の結合状態を切り離すことによってバッテリ194への過充電を抑制することができる。同様に、急制動時(BP>Bth)にもバッテリ194の残容量SOCを併せて考慮してもよい。
「切換モード2」は、結合状態がニュートラルまたはオーバードライブ結合からアンダードライブ結合にする(アンダードライブ処理を行う)モードである。例えば、オーバードライブ結合で通常走行中に運転者がアクセルペダル92を踏み込むと、車両の出力トルクは増加し、車両は加速する。このとき、図9に示した境界線A付近を境に切り換えを行う。こうすることによって、運転効率を向上することができる。なお、切り換えを行うポイントは、乗り心地の低下を考慮して任意に設定可能である。
「切換モード3」は、結合状態がニュートラルまたはアンダードライブ結合からオーバードライブ結合にする(オーバードライブ処理を行う)モードである。例えば、アンダードライブ結合で車両を加速して運転者が要求する車速が得られた時点でアクセルペダル92の踏み込みを緩めると、車両の出力トルクは減少する。このとき、図9に示した境界線A付近を境に切り換えを行う。こうすることによって、運転効率を向上することができる。なお、切り換えを行うポイントは、乗り心地の低下を考慮して任意に設定可能である。
「切換モード4」は、切換モード1〜3の条件を満たさない場合に選択される切換不要のモードである。
なお、本実施例では、上記切換モードの判定は主としてアクセル開度とブレーキペダル94の踏み込み量に応じて行っているが、アクセル開度の増加率やブレーキペダル94の踏み込み量の変化率に応じて行うことも可能である。
次に、切換モードに応じて各処理を行う(ステップS106)。即ち、「切換モード1」のときは、ニュートラル処理を行う(ステップS110)。「切換モード2」のときには、アンダードライブ(UD)結合処理を行う(ステップS130)。「切換モード3」のときには、オーバードライブ(OD)結合処理を行う(ステップS150)。「切換モード4」のときには、何も行わない。これらの処理が終了すると結合状態切換制御ルーチンを終了する。
切換モード1〜3のときに行う各処理について説明する。ニュートラル処理は、上述したように、結合状態をオーバードライブ結合またはアンダードライブ結合の状態からどちらにもなっていないニュートラルの状態にする、即ち、アシストモータ140の結合を切り離す処理である。
アンダードライブ結合処理について説明する。図13は、アンダードライブ結合処理ルーチンのフローチャートである。CPUは、切り換えが可能であるか否かの判断基準として「駆動軸135の回転数Nd−アシストモータ140の回転数Ne」で与えられる回転数差ΔNを算出する(ステップS132)。
次に、この回転数差ΔNが小さくなるように、アシストモータ140のトルクを制御する(ステップS134)。本実施例では、ΔNに基づく比例積分制御を適用した。オーバードライブ結合は、「エンジン150の回転数Ne<駆動軸135の回転数Nd」の状態で走行しているから、回転数差ΔN>0である。切り換え時にはエンジン150の回転数Neを駆動軸の回転数Nd相当にまで上昇させる必要がある。アシストモータ140はエンジン150に結合されているため、回転数差ΔNに応じた正のトルクを出力し、エンジン150の回転数を上昇させる。この正のトルクを回転数差ΔNの比例項、積分項に所定のゲインを乗じて設定する。もちろん、アシストモータ140のトルクはこれに限らず種々の方法によって設定することができる。
アシストモータ140の制御を実行した後、CPUは結合状態の切り換えを行ってもよいか否かを判定する(ステップS136)。この判定は、回転数差ΔNが所定値NT未満であるか否かによって行われる。所定値NTは、切り換え可能な許容回転数差であり、各ギヤの回転数に応じて設定される。回転数差ΔNが所定値NT未満である場合には、回転数差が許容範囲に入ったと判断される。回転数差ΔNが所定値NT以上である場合には、切り換えが許容されないと判断し、回転数差を縮めるための制御(ステップS132〜S134)を繰り返し実行する。
回転数差ΔNが所定値NT未満になると、現在の結合状態がニュートラルの状態か否かを判断する(ステップS138)ニュートラルの状態であれば、そのままアンダードライブ結合とし(ステップS142)、ニュートラルの状態でなければ、オーバードライブ結合を解除してから(ステップS140)アンダードライブ結合にする(ステップS142)。
オーバードライブ結合について説明する。オーバードライブ結合処理もアンダードライブ結合処理とほぼ同様に行うことができる。即ち、オーバードライブ結合処理では、アンダードライブ結合処理ルーチンのステップS132において回転数差ΔNを「駆動軸135の回転数Nd−アシストモータ140の回転数Na」とする代わりに、「エンジン150の回転数Ne−アシストモータ140の回転数Na」とする。また、ステップS140およびステップS142においてオーバードライブを解除した後にアンダードライブ結合にする代わりに、アンダードライブ結合を解除した後にオーバードライブ結合にする。この他はアンダードライブ結合処理と同じである。
このように、通常走行時にはアンダードライブ結合とオーバードライイブ結合とを切り換えることによって、運転効率を向上させることができる。そして、急制動時や急加速時には、積極的にニュートラルの状態を利用することによってアシストモータ140の慣性の影響をなくすことができるので、加減速の応答性を向上することができる。また。バッテリ194の過充電および過放電を抑制し、バッテリ194の劣化を防止することもできる。
F.切換機構の第2実施例:
図14は、回転方向切換機構を備えた切換機構200aの構成を示す説明図である。クラッチモータ130のアウタロータ134には、その中空の回転軸と一体的に回転するギヤg1aが設けられている。クラッチモータ130のインナロータ軸133には、その回転と一体的に回転するギヤg6aとギヤg11aが設けられている。駆動軸135には、その回転と一体的に回転するギヤg13aが設けられている。アシストモータ140のロータ142には、その中空の回転軸と一体的に回転するギヤg15aが設けられている。更に、これらの軸と平行な位置に軸AXaが設けられており、この軸AXaには、軸AXaを回転軸の中心とするギヤg2a、ギヤg3a、ハブギヤgh1a、ギヤg4a、ギヤg5a、ギヤg7a、ハブギヤgh2a、ギヤg8a、ギヤg9a、ギヤg12a、ギヤg14aが上流からこの順で配置されている。また、ギヤg9aとギヤg11aとの間には、駆動軸135の回転方向を反転させるためのリバースアイドルギヤg10aが設けられている。リバースアイドルギヤg10aは、図2に示すように、切換機構の回転軸AXaおよびクランクシャフト156を含む平面から外れた位置に支持されている。かかる配置により、切換機構とクランクシャフト156との間隔を抑制でき、動力出力装置の小型化を図ることができる。ギヤg1aとギヤg2a、ギヤg5aとギヤg6a、ギヤg9aとリバースアイドルギヤg10a、リバースアイドルギヤg10aとギヤg11a、ギヤg12aとギヤg13a、ギヤg14aとギヤg15aは、常時かみ合っている。ギヤg2aとギヤg3a、ギヤg5aとギヤg7a、ギヤg8aとギヤg9a、ギヤg4aとハブギヤgh2aとギヤg12aは、それぞれ同一の中空の回転軸を有しており、一体的に回転する。また、ハブギヤgh1aとギヤg14aと軸AXaも一体的に回転する。なお、これらのギヤ比も任意に設定可能である。ギヤg1a、ギヤg6a、ギヤg11a、ギヤg13a、ギヤg15aは、動力伝達機構として機能する。
切換機構200aもシンクロメッシュ機構を備えている。図2および図3で説明したのと同様に、シフトフォークsf1aを切換機構用アクチュエータによってスライドさせることにより、オーバードライブ結合とアンダードライブ結合とを切り換えることができる。また、シフトフォークsf2aをスライドさせることにより、ギヤg7aとハブギヤgh2a、ハブギヤgh2aとギヤg8aの結合状態を切り換えることができる。
図14に示したように、アンダードライブ結合になっており、ハブギヤgh2aとギヤg8aとが結合しているとき、クラッチモータ130のインナロータ軸133の動力は、ギヤg11a、リバースアイドルギヤg10a、ギヤg9a、ギヤg8a、ハブギヤgh2a、ギヤg12a、ギヤg13a、駆動軸135の順に伝達される。また、この結合状態のときには、アシストモータ140の回転方向を電気的に前進時とは反転させており、アシストモータ140の動力は、ギヤg15a、ギヤg14a、軸AXa、ハブギヤgh1a、ギヤg4a、ギヤg12a、ギヤg13a、駆動軸135の順に伝達される。こうしてハイブリッド車両はアシストモータ140の動力とエンジン150の動力を用いて後退する。一方、ハブギヤgh2とギヤg7aとが結合しているときには、クラッチモータ130のインナロータ軸133の動力は、ギヤg6a、ギヤg5a、ギヤg7a、ハブギヤgh2a、ギヤg12a、ギヤg13a、駆動軸135の順に伝達され、ハイブリッド車両は前進する。
従来のハイブリッド車両では、アシストモータ140のみの動力で後退していた。本実施例のハイブリッド車両は、切換機構を上記の構成にすることによって、アシストモータ140とエンジン150の動力を用いて前進と後退をすることが可能となる。この結果、後退時のアシストモータ140の消費電力を低減することができる。また、アシストモータ140の定格以上の後退トルクが出力可能となる。
G.切換機構の第3実施例:
図15は、変速機構を備えた切換機構200bの構成を示す説明図である。クラッチモータ130のアウタロータ134には、その中空の回転軸と一体的に回転するギヤg1bが設けられている。クラッチモータ130のインナロータ軸133には、その回転と一体的に回転するギヤg6bとギヤg10bが設けられている。なお、ギヤg6bとギヤg10bは、大きさと歯数が異なる。駆動軸135には、その回転と一体的に回転するギヤg12bが設けられている。アシストモータ140のロータ142には、その中空の回転軸と一体的に回転するギヤg14bが設けられている。更に、これらの軸と平行な位置に軸AXbが設けられており、この軸AXbには、軸AXbを回転軸の中心とするギヤg2b、ギヤg3b、ハブギヤgh1b、ギヤg4b、ギヤg5b、ギヤg7b、ハブギヤgh3b、ギヤg8b、ギヤg9b、ギヤg11b、ギヤg13bが上流からこの順で配置されている。ギヤg1bとギヤg2b、ギヤg5bとギヤg6b、ギヤg9bとギヤg10b、ギヤg11bとギヤg12b、ギヤg13bとギヤg14bは、常時かみ合っている。ギヤg2bとギヤg3b、ギヤg5bとギヤg7b、ギヤg8bとギヤg9b、ギヤg4bとハブギヤgh3bとギヤg11bは、それぞれ同一の中空の回転軸を有しており、一体的に回転する。また、ハブギヤgh1bとギヤg13bと軸AXbも一体的に回転する。なお、これらのギヤ比も任意に設定可能である。ギヤg1b、ギヤg6b、ギヤg19b、ギヤg12b、ギヤg14bは、動力伝達機構として機能する。
切換機構200bもシンクロメッシュ機構を備えている。上述したのと同様に、シフトフォークsf1bを切換機構用アクチュエータによってスライドさせることにより、オーバードライブ結合とアンダードライブ結合とを切り換えることができる。また、シフトフォークsf3bをスライドさせることにより、ギヤg7aとハブギヤgh3b、ハブギヤgh3bとギヤg8aの結合状態を切り換えることができる。
図15示したように、アンダードライブ結合になっており、ハブギヤgh3bとギヤg7bとが結合しているとき、クラッチモータ130のインナロータ軸133の動力は、ギヤg6b、ギヤg5b、ギヤg7b、ハブギヤgh3b、ギヤg11b、ギヤg12b、駆動軸135の順に伝達される。一方、ハブギヤgh3bとギヤg8bとが結合しているときには、クラッチモータ130のインナロータ軸133の動力は、ギヤg10b、ギヤg9b、ギヤg8b、ハブギヤgh3b、ギヤg11b、ギヤg12b、駆動軸135の順に伝達される。ギヤg6bとギヤg10bとは、大きさと歯数が異なるので、これらへの結合を切り換えることによって変速比を切り換えることができる。なお、本実施例では、変速比を2段階に切り換えられるようにしたが、更に多段に切り換えられるようにしてもよい。変速比の切り換えによって、出力可能な回転数、トルクの範囲を拡張することができる。
なお、上記第1実施例、切換機構の第2および第3実施例では、図示および説明の便宜上、切換機構200,200a,200bについて、図3、図4、図14、図15を用いて分けて説明したが、これらの機構は同時に組合せて構成することができる。
H.変形例:
以上、本発明のいくつかの実施の形態について説明したが、本発明はこのような実施の形態になんら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において種々なる態様での実施が可能である。例えば、以下のような変形例も可能である。
H1.変形例1:
上記実施例では、エンジン150とクラッチモータ130とアシストモータ140とをこの順に配置したが、クラッチモータ130とアシストモータ140との順番を逆に配置してもよい。図16は、変形例としてのハイブリッド車両の概略構成を示す説明図である。このハイブリッド車両では、エンジン150とアシストモータ140と、クラッチモータ130がこの順に配置されている。エンジン150のクランクシャフト156は、ダンパ157を介してクラッチモータ130のインナロータ軸133に結合されている。アウタロータ134は、駆動軸135、ディファレンシャルギヤ114を介して車軸116に結合されている。その他の構成は、図1に示したハイブリッド車両と同じである。
H2.変形例2:
上記実施例では、動力調整装置としてクラッチモータ130を適用した。一般に、動力調整装置としては、クラッチモータ130のように、電力の供給を受けて回転数を増速したり、電力を回生することで回転数を低減したりして、エンジン150から出力された動力の大きさを変更しつつ、車軸116側に伝達することができる種々の装置を適用することができる。従って、例えば、ロータ軸を有する発電機とプラネタリギヤを適用してもよい。
図17は、変形例としてのハイブリッド車両の概略構成を示す説明図である。ここでは、動力をやりとりする要素についてのみ示し、制御ユニットや駆動回路等の電気系統は図示を省略した。変形例では、クラッチモータ130の代わりプラネタリギヤ230と電動発電機240とを用いている。
プラネタリギヤ230は、遊星歯車とも呼ばれるギヤであり、中心で回転するサンギヤ231、その周囲で自転するプラネタリピニオンギヤ232およびそれをサンギヤ231周りに公転可能に軸支するプラネタリキャリア233、さらにその周囲で回転するリングギヤ234から構成されている。
電動発電機240は、アシストモータ140と同様の三相同期モータであり、ステータ244はケースに固定されている。電動発電機240は電動機として機能したり、発電機として機能したりする。電動発電機240は、上記実施例のクラッチモータ130と同様、駆動回路のトラジスタをオン・オフすることにより運転が制御される。
プラネタリギヤ230は機構学上周知の通り、サンギヤ231,プラネタリキャリア233,リングギヤ234のうち2つの回転状態が決定されると残余の回転状態が一義的に決定するという特性を有している。かかる特性に基づき、変形例のハイブリッド車両では、プラネタリギヤ230と電動発電機240の組み合わせにより、上記実施例におけるクラッチモータ130と同等の作用、即ち動力調整装置としての作用を奏することができる。クラッチモータ130のインナロータに相当するのがプラネタリキャリア233であり、アウタロータ134に相当するのがリングギヤ234である。
プラネタリギヤ230のサンギヤ231は、電動発電機240のロータ242に結合されている。プラネタリキャリア233は、エンジン150のクランクシャフト156と結合されている。また、クランクシャフト156には、その回転と一体的に回転するギヤg1cが設けられている。リングギヤ234には、その中空の回転軸と一体的に回転するギヤg6cが設けられている。駆動軸135には、その回転と一体的に回転するギヤg8cが設けられている。アシストモータ140のロータ142には、その中空の回転軸と一体的に回転するギヤg10cが設けられている。更に、これらの軸と平行な位置に軸AXcが設けられており、この軸AXcには、軸AXcを回転軸の中心とするギヤg2c、ギヤg3c、ハブギヤgh1c、ギヤg4c、ギヤg5c、ギヤg7c、ギヤg9cが上流からこの順で配置されている。ギヤg1cとギヤg2c、ギヤg5cとギヤg6c、ギヤg7cとギヤg8c、ギヤg9cとギヤg10cは、常時かみ合っている。ギヤg2cとギヤg3c、ギヤg4cとギヤg5cとギヤg7cはそれぞれ同一の中空の回転軸を有しており、一体的に回転する。また、ハブギヤgh1cとギヤg9cと軸AXcも一体的に回転する。なお、これらのギヤ比は、任意に設定可能である。ギヤg1c、ギヤg6c、ギヤg8c、ギヤg10cは、動力伝達機構として機能する。また、軸AXcを回転軸の中心とするギヤg2c、ギヤg3c、ハブギヤgh1c、ギヤg4c、ギヤg5c、ギヤg7c、ギヤg9c、およびシフトフォークsf1cは切換機構200cとして機能する。
この変形例の切換機構200cも第1実施例と同様に、シンクロメッシュ機構を備えている。シフトフォークsf1cを切換機構用アクチュエータによってスライドさせることにより、ギヤg3とcハブギヤgh1c、ハブギヤgh1cとギヤg4cの結合状態を切り換えることができる。
図示するように、ハブギヤgh1cとギヤg4cとが結合しているとき、アシストモータ140の動力は、ギヤg10c、ギヤg9c、軸AXc、ハブギヤgh1c、ギヤg4c、ギヤg7c、ギヤg8c、駆動軸135の順に伝達される。従って、アシストモータ140が駆動軸135に結合されたのと同等の構成となり、アンダードライブ結合となる。
また、ハブギヤgh1cとギヤg3cとが結合しているときには、アシストモータ140の動力は、ギヤg10c、ギヤg9c、軸AXc、ハブギヤgh1c、ギヤg3c、ギヤg2c、ギヤg1c、クランクシャフト156の順に伝達される。従って、アシストモータ140がクランクシャフト156に結合されたのと同等の構成となり、アンダードライブ結合となる。
以上で説明した通り、変形例のハイブリッド車両も、第1実施例と同様にシフトフォークsf1の切り換えによってアンダードライブ結合、オーバードライブ結合を実現することができる。従って、第1実施例と同様の制御処理を適用することができる。
H3.変形例3:
上記実施例では、エンジン150としてガソリンにより運転されるガソリンエンジンを用いたが、その他に、ディーゼルエンジンや、タービンエンジンや、ジェットエンジンなど各種の内燃あるいは外燃機関を用いることもできる。
また、上記実施例では、クラッチモータ130及びアシストモータ140として三相同期電動機を適用したが、回生動作及び力行動作を行なわせるのであれば、その他にも、VR形(可変リラクタンス形;Variable Reluctance type)同期電動機や、バーニアモータや、直流電動機や、誘導電動機や、超電導モータや、ステップモータなどを用いることもできる。
また、上記実施例では、クラッチモータ130に対する電力の伝達手段としてスリップリングとブラシとからなる給電装置138を用いたが、回転リング−水銀接触、磁気エネルギの半導体カップリング、回転トランス等を用いることもできる。
また、上記実施例では、駆動回路191,192としてトランジスタインバータを用いたが、その他に、IGBT(絶縁ゲートバイポーラモードトランジスタ;Insulated Gate Bipolar mode Transistor)インバータや、サイリスタインバータや、電圧PWM(パルス幅変調;Pulse Width Modulation)インバータや、方形波インバータ(電圧形インバータ,電流形インバータ)や、共振インバータなどを用いることもできる。
また、バッテリ194としては、Pbバッテリ,NiMHバッテリ,Liバッテリなどを用いることができるが、バッテリ194に代えてキャパシタを用いることもできる。
H4.変形例4:
上記実施例では、エンジンと電動機とを備える動力出力装置を搭載したハイブリッド車両について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。上記実施例においてハイブリッド車両に搭載した動力出力装置は、船舶,航空機などの交通手段や、その他各種産業機械などに搭載することも可能である。