以下、本発明の一実施の形態による光ディスクとしてROM型光ディスクを例に説明する。なお、本発明が適用される光記録媒体は、この例に特に限定されず、例えば、光磁気ディスク、相変化ディスク等の微細な凹凸を情報記録層に有する各種光学記録媒体にも本発明を同様に適用することができる。
本ROM型光ディスクは、凹凸からなるピット列が主データとして形成された基板上に金属反射膜を形成した主情報領域と、金属反射膜を部分的に除去して反射膜除去領域を複数個形成することにより光ディスクを個別に識別するための媒体識別情報を記録した副情報領域とを有し、金属反射膜に対して光ビームを照射することにより情報が再生されるものである。
一般に、ROM型光ディスクの高密度化には、トラックの狭ピッチ化及び最短ピット長(最短マーク長)の微小化が必要とあるが、トラックピッチを狭くし過ぎると、RF信号特性におけるクロストークが大きくなり、充分なシステムマージンが確保できず、また、最短ピット長を小さくしすぎると、再生信号の分解能が低下して再生信号のジッタ値が悪化する。
このため、再生用の光ビームの光源の波長λが405nm、対物レンズの開口数NAが0.85の情報再生装置を用いて最適なトラックピッチの検討を重ねた。検討の結果、下表の測定結果が得られ、トラックピッチが0.24μm以上であれば、クロストーク信号がメイン信号に対して実用上問題にならないことが判明した。
また、上記の情報再生装置を用いて、最適な最短ピット長の検討を行い、良好な再生信号が得られる分解能を調査した結果、下表の測定結果が得られ、最短ピット長が0.12μm以上であれば、再生信号の分解能を充分に確保できることが判明した。
なお、光ディスク、ドライブの種々のマージンを考慮すると、光ディスクの特性を示すジッタ値は、6.5%以下であることが必要である。
ここで、上記の情報再生装置を用いて直径12cmの光ディスクを再生して当該光ディスクの記憶容量を23.3GB以上にするためには、(最短ピット長)×(トラックピッチ)≦0.0512μm2という関係式を満足しなければならない。例えば、記録容量を23.3GB、最短ピット長を0.12μmとした場合、トラックピッチの上限は約0.43μmとなる。同様に、記録容量を23.3GB、トラックピッチを0.24μmとした場合、最短ピット長の上限は約0.21μmとなる。
次に、23.3GB以上の記録容量を有する直径12cmの光ディスクの製造方法について説明する。上記したように、23.3GB以上の記録容量を有する直径12cmの光ディスクを作成するためには、トラックピッチが0.24μm以上0.43μm以下、最短ピット長が0.12μm以上0.21μm以下である基板を用いる必要がある。
例えば、25GBの記録容量を有する直径12cmの光ディスクを作成するため、まず、最短ピット長が0.149μm、トラックピッチが0.32μmのピット列が形成された基板を用意した。この基板としては、例えば、射出成形機によって作成されたポリカーボネート材料からなる基板を用いることができる。
次に、この基板に金属反射膜を成膜装置によって形成した。成膜装置としては、マグネトロンスパッタ装置、蒸着装置等の均一に金属反射膜を形成できるものを用いることができ、例えば、マグネトロンスパッタ装置を用い、成膜時間を変化させることによって金属反射膜の膜厚を制御することができる。なお、金属反射膜の材質及び膜厚等については後述する。
次に、金属反射膜が上になるように光ディスクをスピンコーターに設置し、紫外線硬化樹脂を滴下し、その上にポリカーボネートからなる厚さ88μmの透明なシートを乗せた。この状態でスピンコーターにより光ディスクを回転させながら、紫外線硬化樹脂に紫外線を照射し、紫外線硬化樹脂の硬化後の厚さが12μmになるようにスピンコーターの回転数を制御して金属反射膜上に膜厚100μmの透明な樹脂層を形成した。この紫外線硬化樹脂としては、例えば、アクリル系樹脂を用いることができる。
上記のようにして、最短ピット長が0.149μm、トラックピッチが0.32μmのピット列が形成された基板上に金属反射膜が形成され、その上に膜厚100μmの樹脂層が形成された光ディスクを製造した。
次に、上記のようにして製造した光ディスクについて、再生信号の品質に対するピット深さ、金属反射膜の材料及び膜厚等を検討した。具体的には、製造した光ディスクを上記の情報再生装置にセットし、この情報再生装置により厚さ100μmの樹脂層を介して金属反射膜に光ビームを入射し、光ディスクから得られる再生信号を評価した。
まず、ピット深さに対する再生信号の品質の依存性について検討した。上記のようにして製造した光ディスクのピット深さを変化させて再生信号のばらつきを表すジッタ値を測定した。図1は、ピット深さに対するジッタ値の測定結果を示す図であり、横軸がピット深さ(nm)であり、縦軸がジッタ値(%)である。なお、図1では、金属反射膜として膜厚25nmの純度99wt%のAl合金からなるものを用いたが、金属反射膜としてAg98Pd1Cu1(wt%)(以下、AgPdCu合金という)からなるものを用いても以下と同様の結果が得られた。
一般に、充分なシステムマージンを確保するためには、ジッタ値を6.5%以下にする必要があり、図1からピット深さが44nm以上88nm以下である場合に、ジッタ値を6.5%以下にできることがわかった。作成した樹脂層の屈折率nは1.53であり、光ビームの波長λは405nmであるため、上記の測定結果から、良質な再生信号が得られるピット深さDは、λ/(6×n)以上λ/(3×n)以下であることがわかった。
これは、以下の理由によるものと考えられる。すなわち、ピット深さは再生信号の振幅に影響を及ぼし、光学計算上では、ピット深さがλ/(4×n)のときに振幅が最大となり、樹脂層の屈折率nが1.53、光ビームの波長λが405nmの場合、ピット深さが66nm付近で最大になるが、多少振幅が小さくなっても、再生信号のジッタ値はほぼかわらない。しかしながら、ピット深さがλ/(6×n)より浅い場合や、λ/(3×n)より深い場合は、十分な信号対ノイズ比(以下、S/N比と記載する。)が得られないため、再生信号のジッタ値が悪化するからである。
次に、金属反射膜の適切な膜厚について検討した。まず、ピット深さがλ/(4×n)である基板を用意し、金属反射膜として、AgPdCu合金からなる金属反射膜と純度99wt%のAl合金からなる金属反射膜の2種類についてその膜厚を変化させてジッタ値を測定した。図2は、AgPdCu合金からなる金属反射膜の膜厚に対するジッタ値の測定結果を示す図であり、図3は、Al合金からなる金属反射膜の膜厚に対するジッタ値の測定結果を示す図であり、それぞれ横軸が金属反射膜の膜厚(nm)であり、縦軸がジッタ値(%)である。
図2からAgPdCu合金の金属反射膜の場合、膜厚が25nm以上70nm以下のとき、ジッタ値を6.5%以下にでき、また、図3からAl合金の金属反射膜の場合、膜厚が15nm以上40nm以下のとき、ジッタ値を6.5%以下にできることがわかった。なお、金属反射膜の材質は、上記の例に特に限定されず、高い反射率が得られ、成膜装置によって基板に均一に形成できるものであれば、他の材質を用いてもよく、また、耐腐食性を向上させるために、Ndなどの希土類金属元素やTiやCrなどの遷移金属元素をAgやAlの反射膜材料に少量添加してもよい。
次に、金属反射膜の反射率について検討した。金属反射膜が薄くなると、反射光量が小さくなり、反射光量が小さくなると、媒体ノイズもそれに比例して小さくなるため、S/N比は変わらない。一方、システムノイズやレーザノイズは反射光量に依存せず、システムノイズやレーザノイズが媒体ノイズに比べて無視できる程度の低いレベルであれば、反射光量が小さくなっても再生信号の品質に影響しない。
しかしながら、反射光量が小さくなってシステムノイズやレーザノイズが媒体ノイズと同程度になると、反射光量の減少は再生信号の品質を悪化させる。また、金属反射膜の膜厚が同じでもその材質が異なる場合、反射率が異なるため、信号品質が悪化する膜厚が異なる。さらに、金属反射膜の膜厚が厚くなると、再生信号が悪化する。例えば、マグネトロンスパッタリング装置ではArイオンによって叩き出されたターゲット上の金属原子が基板上に飛来して金属反射膜が形成され、この金属原子の大きさは成膜装置の構造や成膜の条件にも依存するが、最短ピットの底部には成膜されにくい傾向がある。
図4は、ピットを形成した基板上にAgPdCu合金からなる膜厚100nmの金属反射膜を形成した光ディスクの断面図である。図4に示すように、最短ピット11と、最短ピット11より長い長ピット12とが基板1上に形成されている場合、長ピット12より最短ピット11の方がその底部に金属反射膜2が成膜されにくいため、最短ピット11では、基板1上のピット形状よりも金属反射膜2を成膜した後のピット形状の方が小さくなり、ピット深さも深くなる現象が発生する。
この現象を見越して、最短ピット11を大きく記録するために記録パワーを大きくすると、最短ピット11の信号品質は改善されるが、記録パワーを大きくすることによって長ピット12の幅も大きくなり、隣接トラックからのクロストークが増大してジッタ値が悪化する。両者の信号品質の悪化要因を考慮して、Al合金及びAgPdCu合金の金属反射膜に適する基板を作成した結果、ジッタ値が悪化しないAl合金の金属反射膜の最大膜厚は40nmであり、AgPdCu合金の金属反射膜の最大膜厚は70nmであった。
上記の検討を基に、図2に示すAgPdCu合金の金属反射膜及び図3に示すAl合金の金属反射膜の各膜厚に対する反射率を測定した。図5は、AgPdCu合金からなる金属反射膜の膜厚に対する反射率の測定結果を示す図であり、図6は、Al合金からなる金属反射膜の膜厚に対する反射率の測定結果を示す図であり、それぞれ横軸が金属反射膜の膜厚(nm)であり、縦軸が反射率(%)である。なお、測定に使用した樹脂層の屈折率nは、1.53であり、光ビームの波長λは405nmである。
図5からAgPdCu合金の金属反射膜の場合、良好なジッタ値が得られる膜厚25nm〜70nmの範囲に対して反射率は35%〜70%となり、図6からAl合金の金属反射膜の場合、良好なジッタ値が得られる膜厚15nm〜40nmの範囲に対して反射率は35%〜70%となった。この結果、それぞれの再生信号の品質が保障できる金属反射膜の反射率は35%以上70%以下であることがわかった。
次に、上記のようにしてジッタ値の良い再生信号が得られるように、主情報領域に凹凸からなるピット列が主データとして形成された光ディスクの副情報領域に形成される媒体識別情報について詳細に説明する。図7は、光ディスクの主情報領域及び副情報領域の一例を示す図である。
図7に示す例では、光ディスクの外周部に主情報領域21(図中のハッチング部分)が設定され、その内側の円環状部分に副情報領域であるBCA領域22(図中の破線で示す2つの円の間の領域)が設定され、BCA領域22に媒体識別情報23がバーコードパターンで記録される。媒体識別情報23は、ポリカーボネート等の透明な樹脂層を金属反射膜上に形成した後に、光ディスクの表面から0.1mmの深さにある金属反射膜にパルスレーザ(例えば、YAGレーザ)を照射して記録される。このとき、金属反射膜が溶融して表面張力により両側の境界部に蓄積される現象が起こっていると考えられる。このようにして、金属反射膜を部分的に除去して反射膜除去領域を複数個形成することにより光ディスクを個別に識別するための媒体識別情報を記録したBCA領域が作成される。
次に、光ディスクのBCA領域に媒体識別情報を記録する方法について詳細に説明する。なお、以下の例では、金属反射膜としてAg98Pd1Cu1(wt%)又はAl99Cr1(wt%)からなる金属反射膜に対するBCA領域の記録方法を説明するが、同様の効果が得られれば、他の金属反射膜、相変化膜、又は光磁気記録膜にも本発明を同様に適応することができる。
図8は、BCA領域に媒体識別情報を記録する媒体識別情報記録装置の構成を示すブロック図である。図8に示す媒体識別情報記録装置は、DVD−ROMにBCA領域を作成するために用いられているBCAパターン記録装置であり、モータ101、回転制御部102、光ピックアップ103、レーザ駆動部104、波形設定部105、BCA信号生成部106、フォーカス制御部107、プリアンプ108及びシステム制御部109を備える。
回転制御部102は、モータ101の回転を制御する。モータ101は、光ディスク100を所定の回転数で回転させる。BCA信号生成部106は、光ディスク100に記録する媒体識別情報を変調してBCA信号を作成する。波形設定部105は、BCA信号を基にレーザ変調波形を成形する。レーザ駆動部104は、レーザ変調波形に応じて光ピックアップ103内の高出力レーザを駆動する。光ピックアップ103は、高出力レーザから発生する光ビームを内部の光学系を通して光ディスク100上に集光させる。プリアンプ108は、光ピックアップ103からの再生信号を増幅してフォーカス制御部107へ出力する。フォーカス制御部107は、光ディスク100の金属反射膜上に光ビームを集光させるために、プリアンプ108からの増幅信号を用いて光ピックアップ103内の対物レンズを制御する。システム制御部109は、回転制御部102、レーザ駆動部104、波形設定部105、BCA信号生成部106及びフォーカス制御部107の動作を総合的に制御する。
次に、上記のように構成された媒体識別情報記録装置の記録時の動作について説明する。まず、システム制御部109からの指示に基づき、回転制御部102はモータ101を駆動して光ディスク100を回転させる。レーザ駆動部104は光源として高出力レーザを駆動し、高出力レーザから出射された光ビームが光ピックアップ103から光ディスク100へ照射される。このとき、フォーカス制御部107によりフォーカス制御が行われ、高出力レーザから出射された光ビームを光ディスク100の金属反射膜上に集光させる。
ここで、光ディスク100からの反射光は、光ピックアップ103内の光検出器によって検出され、光検出器から電気信号として再生信号が出力される。この再生信号は、プリアンプ108を通じて増幅され、フォーカス制御部107に入力される。フォーカス制御部107は、増幅された再生信号に応じて光ピックアップ103の対物レンズを駆動して光ディスク100のフォーカス方向に微動させることにより、光ビームが光ディスク100の金属反射膜上に集光するように光ピックアップ103を制御する。
次に、システム制御部109は、位置検出器(図示省略)によって光ピックアップ103のトラッキング方向の位置を検出し、検出された位置情報を基に光ピックアップ103が副情報記録開始位置にあることを認識する。次に、システム制御部109は、BCA信号生成部106にBCA信号を生成するように指示し、波形設定部105からBCA信号が出力され、BCA記録シーケンスが開始され、BCA領域に媒体識別情報が記録される。
上記の媒体識別情報記録装置を用いて、AgPdCu合金からなる膜厚50nmの金属反射膜を形成した光ディスクのピット列や案内溝を形成していない部分にBCAパターン(バーコードパターン)の記録を試みた。しかしながら、レーザの出力パワーを大きくしても金属反射膜を除去した反射膜除去領域を作製することができなかった。
これは、Alの融点が660℃であるのに対して、Agの融点が960℃と高いので、AgPdCu合金の金属反射膜が溶融するために大きなエネルギーを必要とするためである。また、Alの熱伝導度が237W/(m・K)であるのに対して、Agの熱伝導度が427W/(m・K)と大きいため、AgPdCu合金の金属反射膜にレーザ光を照射しても熱伝導によって周囲に拡散してしまう熱量が大きいためである。なお、一般的に、金属の融点を下げるためには、異なる金属を混入して融点を下げることができるが、充分な反射率を確保する目的及び腐食を防ぐ目的から、金属反射膜におけるAgのwt%を97%以下に下げることはできない。
次に、AgPdCu合金からなる膜厚50nmの金属反射膜を形成した光ディスクにおいて、DVD−ROMのBCA領域に用いられているトラックピッチ0.74μmでピット列を形成し、その部分にBCAパターンを記録した。このとき、所望の幅でBCAパターンを記録することができなかったため、情報を再生することはできなかったが、AgPdCu合金の金属反射膜の一部が溶融して、小さな反射膜除去部を形成することができた。これは、凹凸がある基板上の斜面には金属反射膜が形成されにくい傾向があるため、ピット斜面部の金属反射膜の膜厚が局部的に薄くなり、熱伝導が妨げられるためである。
図9は、ピットを形成した基板上に金属反射膜を形成し、さらに金属反射膜上に樹脂層を形成した光ディスクの断面図である。図9に示すように、ピット12を形成した基板1上に金属反射膜2を形成し、さらに金属反射膜2上に樹脂層3を形成すると、斜面部4に形成される金属反射膜2の膜厚は、ピット底部5及び平板部6に形成される金属反射膜2の膜厚より薄くなるため、周囲への熱伝導が小さくなる。このため、ピット列のトラックピッチを小さくして斜面部4の面積を大きくするほど、周囲への熱伝導が大きくなる。また、斜面部4では他の場所に比べて、金属反射膜2の単位体積が小さいため、融点に達するまでの熱容量が小さくなり、低い照射パワーで融点に達する。
上記の知見に基づき、ピット列を種々のトラックピッチで形成した基板上にAgPdCu合金からなる膜厚50nmの金属反射膜を形成した光ディスクを用意し、BCAパターンを記録した。図10は、AgPdCu合金からなる50nmの金属反射膜を有する光ディスクに形成されたピット列のトラックピッチに対するBCA記録パワーのデフォーカスマージンの測定結果を示す図であり、その横軸がピット列のトラックピッチ(μm)であり、縦軸がデフォーカスマージン(%)である。
図10に示すように、0.54μm以下のトラックピッチでピット列を形成した領域では、BCAパターンを記録することができ、媒体識別情報を再生することはできたが、0.54μmを超えるトラックピッチでピット列を形成した領域では、デフォーカスマージンを確保することができなかった。ここで、BCAパターンが記録できたという判断は、作成した光ディスクを評価機にセットして再生し、BCA領域に記録された媒体識別情報が正確に再生可能か否かを基準に行った。評価機には、再生用の光ビームの波長λが405nm、対物レンズの開口数NAが0.85の再生装置を用いた。
ここで、光ディスクの量産性を考慮した場合、金属反射膜の膜厚のバラツキ、BCA記録パワーの変動等が考えられるため、充分なデフォーカスマージンは20%以上必要である。図10から、20%以上のデフォーカスマージンが得られるトラックピッチは、0.24μm以上0.45μm以下であることがわかった。このように、BCA領域に記録したピット列のトラックピッチが0.24μm以上0.45μm以下の範囲で充分なデフォーカスマージンを確保することができ、媒体識別情報が記録可能である理由は以下のように推定される。
すなわち、BCA領域に記録したピット列のトラックピッチが0.45μmを超える場合は、単位面積に占めるピット数が少ないため、ピットの斜面部の面積も小さくなり、熱伝導の遮断が充分に行われない。このため、デフォーカスによって金属反射膜に吸収される熱容量が変動すると、ノイズの小さなBCAパターンを記録できないからである。
一方、トラックピッチが0.24μmより狭い場合、ピットとピットとが近づきすぎ、ピット間のランド部分の形成が不充分となり、ピットの斜面部の角度が小さくなる。このため、ピットの斜面部にも金属反射膜が形成されやすくなり、ピットの形成による熱伝導の遮断効果が小さくなるからである。なお、図10では、トラックピッチが0.22μmまでBCAパターンを記録及び再生することができたが、0.22μmより狭いトラックピッチでは、BCAパターンを記録することができなかったため、図10に示した0.22μm以下の点線は予想線である。
また、図10ではAgPdCu合金からなる膜厚50nmの金属反射膜が形成された光ディスクにおけるデフォーカスマージンのトラックピッチ依存性を示したが、良好なジッタ値が得られる光ディスクではAg又はAg合金からなる金属反射膜の膜厚が25nm以上70nm以下であれば、BCA領域に記録されたピット列のトラックピッチが0.24μm以上0.45μm以下の範囲で、上記と同程度のデフォーカスマージンを得ることができた。
同様に、ピット列のかわりに、案内溝を形成した光ディスクでも上記と同様の実験を行ったが、案内溝の場合でも案内溝の斜面部に金属反射膜が形成されにくい傾向はピット列と同様であるため、BCA領域に記録された案内溝のトラックピッチが0.24μm以上0.45μm以下の範囲で、上記と同程度のデフォーカスマージンを得ることができた。
したがって、良好なジッタ値が得られる光ディスクではAg又はAg合金からなる金属反射膜の膜厚が25nm以上70nm以下の場合、BCA部に記録するピット列又は案内溝のトラックピッチが0.24μm以上0.45μm以下であれば、デフォーカスマージンを充分に確保することができた。
次に、金属反射膜としてAl99Cr1(wt%)からなる金属反射膜(以下、Al反射膜という)を用いて作成した光ディスクについて説明する。まず、膜厚30nmのAl反射膜を形成した光ディスクを用意し、上記の媒体識別情報記録装置を用いて、ピット列や案内溝を形成していない部分にBCAパターンの記録を試みた。この場合、Al反射膜を除去した部分を形成することができ、また、BCAパターンとして記録した媒体識別情報も再生することができた。しかしながら、Al反射膜の膜厚がDVD−ROMに用いられている膜厚(50〜70nm)よりも薄いため、充分なデフォーカスマージンを得ることができなかった。また、膜厚30nmのAl反射膜を形成した光ディスクにおいて、DVD−ROMのBCA領域に用いられているトラックピッチ0.74μmでピット列を形成した領域にBCAパターンを記録したが、上記と同様の結果であった。
このため、ピット列を種々のトラックピッチで形成した基板上に膜厚30nmのAl反射膜を形成した光ディスクを用意し、BCAパターンを記録した。図11は、膜厚30nmのAl反射膜を有する光ディスクに形成されたピット列のトラックピッチに対するBCA記録パワーのデフォーカスマージンの測定結果を示す図であり、その横軸がピット列のトラックピッチ(μm)であり、縦軸がデフォーカスマージン(%)である。
Al反射膜の場合でも、上記と同様にBCA記録時のデフォーカスマージンは20%以上必要であるため、図11から、20%以上のデフォーカスマージンが得られるトラックピッチは、0.24μm以上0.45μm以下であることがわかった。このように、DVD−ROMに比して薄い膜厚のAl反射膜を形成した光ディスクでも、BCA領域に記録したピットのトラックピッチが0.24μm以上0.45μm以下の範囲で充分なデフォーカスマージンを確保することができ、媒体識別情報が記録可能である理由は以下のように推定される。
すなわち、BCA領域に記録したピット列のトラックピッチが0.45μmを超える場合は、Al反射膜の膜厚が薄いため、融点に達する熱容量が極めて小さくなり、BCAパターンのエッジ部分が良好に形成されず、BCA再生信号のノイズが高くなるからである。
一方、0.45μm以下のトラックピッチでピット列を形成すると、トラックピッチが小さくなるにつれてBCAパターンのエッジ部分にピットが形成されている確率が高くなり、溶融したAl反射膜はピットが形成されている部分で流動が抑制される。このため、小さなトラックピッチでピットが形成されている領域の方がBCAパターンのノイズが小さくなる。この結果、0.45μm以下のトラックピッチでピット列を形成すると、充分なデフォーカスマージンを実現可能なBCAパターンを記録することができる。
しかしながら、トラックピッチが0.24μmより狭くなると、形成されるピットの斜面の角度が小さくなり、Al反射膜の流動を妨げる力が弱まり、充分なデフォーカスマージンが得られなくなるからである。
したがって、0.24μm以上0.45μm以下のトラックピッチでピット列を基板上に形成することにより、膜厚の薄いAl反射膜でも熱的制御が容易になり、Al反射膜をほぼ完全に除去して良好なBCAパターンを記録することができた。
なお、図11ではAl99Cr1(wt%)からなる膜厚30nmの金属反射膜が形成された光ディスクにおけるデフォーカスマージンのトラックピッチ依存性を示したが、良好なジッタ値が得られる光ディスクではAl又はAl合金からなる金属反射膜の膜厚が15nm以上40nm以下であれば、BCA領域に記録されたピット列のトラックピッチが0.24μm以上0.45μm以下の範囲で、上記と同程度のデフォーカスマージンを得ることができた。
同様に、ピット列のかわりに、案内溝を形成した光ディスクでも上記と同様の実験を行ったが、案内溝の場合でも同様の効果が生じるため、BCA領域に記録された案内溝のトラックピッチが0.24μm以上0.45μm以下の範囲では、同程度のデフォーカスマージンを得ることができた。
次に、情報記録層として複数の金属反射膜が積層されて形成された多層光学記録媒体である多層光ディスクについて説明する。例えば、ピット列を形成した厚さ1.1mmの第1のポリカーボネート基板上に、前述したマグネトロンスパッタリング装置によりAlからなる膜厚45nmの第1の金属反射膜を形成し、その上にピットを形成した厚さ15μmの第2のポリカーボネート基板を当該基板のピットを形成していない側が接するように貼り合わせる。この接着には、例えば、接着性の強い光硬化性樹脂等を用いることができる。さらに、上記のようにして張り合わされた第2のポリカーボネート基板上にAgPdCuからなる膜厚28nmの金属反射膜を形成し、その上に厚さ70μmの透明な樹脂層を接着させる。この接着には、例えば、感圧性接着シート等を用いることができる。
上記のようして作成された2層の光ディスクでも、BCA領域に記録されたピット列のトラックピッチが0.24μm以上0.45μm以下であれば、BCA記録時のフォーカスを合わせることにより2層のうちのどちらにもBCAパターンを記録することができ、上記と同程度のデフォーカスマージンを得ることができた。
なお、多層光ディスクの作成方法は、上記の例に特に限定されず、透明な樹脂層を貼り合わせる前に、複数の基板を形成することにより光ディスクを多層化してもよい。この場合、光ディスクが多層化されてもBCA記録時にフォーカスを合わせることによって、所望の層にBCAパターンを記録することができる。また、透明な樹脂層の貼り合わせ及びポリカーボネート基板の接着に、光硬化性樹脂及び感圧性接着シートに代えて、ドライフォトポリマー等の接着性を有し且つ透明な媒体を用いてもよく、又は、透明な樹脂層を貼り合わせることなく、感圧性接着シートのみ又は光硬化性樹脂のみで透明な樹脂層を形成してもよい。
上記のように、本多層光ディスクでは、複数の層を貼り合わせることにより記録密度を向上させることができるとともに、BCA領域に形成されたピット列又は案内溝のトラックピッチを0.24μm以上0.45μm以下に設定することにより、BCAパターンの記録時にレーザ光のフォーカスをピット列又は案内溝が形成された金属反射膜に焦点を合わせて適切なレーザパワーを加え、ノイズが低く且つ所望の幅のBCAパターンを記録することができた。
なお、再生専用光ディスクでは、光ディスクの記録時間が短いほどコストを削減することができるため、上記の各例において、BCA領域のピット列又は案内溝と主情報領域のピット列とは、同時に形成されることが望ましい。また、BCA領域のピット列又は案内溝のトラックピッチと主情報領域のピット列のトラックピッチが大きく異なっていると、原盤製造時のディスク回転数を不連続に大きく変化させたり、また、主情報領域とBCA領域とが隣接しているため、できる限り短時間でディスク回転数を所望の回転数に制御しなければならないので、線速度が常に一定となるように、主情報領域のピット列のトラックピッチとBCA領域のピット列又は案内溝のトラックピッチは等しいことが好ましい。