本発明は、人間の耳を利用して携帯電話機やコンパクトカメラ等の比較的小さな質量を有する物品を保持する保持具に関する。
従来から人間の耳を利用して人間の社会生活に必要な小道具等を係止する方法は数多く存在する。代表的なものとして眼鏡や補聴器を挙げることができる。眼鏡は視力を補正するための器具であるが、耳と鼻を利用して装着するようになっている。一方、補聴器は難聴者の聴覚能力を補助するための器具であり、耳に関するものであることから耳を利用して装着されるようになっている。
その他に人間の耳に装着される対象物として代表的なものを挙げると、携帯型ラジオや携帯型ステレオのイヤホンがある。イヤホンにも種々のものが存在するが、大別すると外耳道にイヤホン本体を挿入しただけのものと、外耳道以外にも係止部を設けたものがある。外耳道にイヤホン本体を挿入しただけのものでは、装着が不完全で抜け易いという問題があった。この問題に対処するための方策として頭上にアームを架けて双方の耳にスピーカを装着するヘッドフォンがある。また、ヘッドフォン以外にもイヤホン等を耳から脱落することなく確実に保持するための保持具に関する提案は少なくない(例えば、特許文献1,2参照)。
一方、耳に直接関係しない機器であるコンパクトカメラ等を耳により保持する保持具は存在しなかった。少なくとも本願の発明者は知らない。
特開2002−58086号公報
特表2003−511940号公報
しかし、上記特許文献に開示された発明は、いずれも耳に関する道具であるイヤホンや補聴器を保持するための器具であって、耳に関する器具以外のコンパクトカメラ等を保持することを目的としていない。したがって、イヤホン等より質量が大きく、イヤホン等を保持する場合に比較すると、大きな保持力が必要になるコンパクトカメラ等を保持することは出来なかった。また、人間の頭と耳介との間に紐を掛けてもある程度の外部荷重を受けることは可能であるが、耳介は軟骨に過ぎず変形し易いため、確実な保持は期待できない。さらに、ヘッドフォンはスピーカの保持に限っていえば確実に保持することができるが、その一方、頭上にアームを架ける必要があることから、髪のセットに影響を与えるし、見た目にも鬱陶しく見栄えが良くないという問題があった。
本発明はかかる事情を考慮してなされたものであり、外耳道や耳介により比較的大きな外部負荷を保持することが可能な保持具を提供することを目的とする。
本発明における請求項1の保持具は、棒状の保持腕の先端近くを「へ」の字状に屈曲させ、該屈曲部に控え突起を設けると共に、該屈曲部から緩やかな螺旋状に形成された先端部に先端突起を設け、前記先端突起を外耳道第一カーブに挿入することにより、前記保持腕の他端に負荷を保持可能としたものである。
本発明における請求項2の保持具は、保持腕の一端に設けた孔に控え突起と先端突起を備えた突起支持具を装着すると共に、前記控え突起と先端突起の位置と角度を個々に調整可能とし、前記先端突起を外耳道第一カーブに挿入することにより、前記保持腕の他端に負荷を保持可能としたものである。
本発明における保持具は、請求項1または2記載の発明において、前記控え突起と先端突起(以下、複数の突起という。)の少なくとも1つの位置と角度を任意に調整可能としたものである。
本発明における保持具は、請求項2記載の発明において、前記突起支持具に備えた複数の突起の位置と角度の調整を突起支持具の取付けねじの締結により行うこととしたものである。
本発明における請求項3の保持具は、請求項1又は2に記載の発明において、前記先端突起に開口部を設けたものである。
本発明における保持具は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の発明において、前記複数の突起を可撓性材料により製作したものである。
本発明における保持具は、前記複数の突起に代えて、保持腕の一端に屈曲した係止部を設け、該係止部の先端を外耳道第一カーブに挿入し、前記保持腕の他端に負荷を保持可能としたものである。
本発明における保持具は、前記係止部の先端に可動機構を備え、前記先端を外耳道窩に挿入後、前記先端を屈曲することとしたものである。
本発明における保持具は、前記係止部の先端に開口部を設けたものである。
本発明における保持具は、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記保持腕が耳輪と頭部側面との間に係止されることとしたものである。
本発明における請求項4の保持具は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の発明において、前記先端突起を可撓性材料により製作したものである。
本発明における請求項5の保持具は、請求項1又は2に記載の発明において、前記保持腕の他端に、耳介を挟む後方当て腕を備えたものである。
本発明における請求項6の保持具は、請求項5記載の発明において、前記保持腕の他端と前記後方当て腕とを所定角度だけ回動自在に支持し、前記保持腕と前記後方当て腕との間にスプリングを装着したものである。
本発明における請求項7の保持具は、請求項5記載の発明において、前記保持腕と前記後方当て腕とを可撓性材料により一体成形し、この可撓性材料の有する復元力により前記保持腕に対して前記後方当て腕が所定角度だけ回動可能としたものである。
本発明における請求項8の保持具は、請求項1記載の発明において、前記保持腕を中空部材により製作し、前記保持腕の他端に保持されるスピーカからの音を、中空部を経由して中耳道に伝播することとしたものである。
本発明における保持具は、請求項8記載の発明において、前記後方当て腕の部材内にスピーカを内蔵したものである。
本発明における保持具は、請求項8記載の発明において、前記保持腕の他端にスピーカを装着したものである。
本発明における請求項9の保持具は、請求項5又は6に記載の発明において、前記後方当て腕の部材内に可動機構を設けると共に、揺動可能にして耳裏に付勢当接される耳輪裏当て板が前記可動機構に装着されたことを特徴とするものである。
本発明における請求項1の保持具によれば、保持具の一端が外耳道第一カーブに確実に係止されるので、比較的大きな質量の物品を保持することができる。また、保持具を耳に装着したまま転倒した場合にも保持具の一部が頭蓋に突き刺さる恐れがなく、安全性の高い保持具を実現することができる。
本発明における請求項2の保持具によれば、複数の突起の位置と角度をある程度調整可能な保持具を実現することができる。
本発明における保持具によれば、個体差によって外耳道の形状や大きさが異なっても簡単に個体差に適応可能な保持具を実現することができる。したがって、外耳道の一部だけが局部的に圧迫されることがなく、耳に優しい保持具を実現することができる。
本発明における保持具によれば、複数の突起の位置と角度の調整を容易に効率よく行うことができる。
本発明における請求項3の保持具によれば、耳に保持具を装着しても外耳道を塞ぐことがないので、生活に必要な環境聴覚を阻害することがない。したがって、耳に保持具を装着したままでも生活に必要な音を感ずることができるので、たとえば車の運転を行うこともできる。また、開口部を有する突起は変形抵抗が小さいことから、比較的容易に外耳道の形状に適応して変形するので、個体差のある外耳道であっても広範にフィット感のある保持具を実現することができる。さらに、外耳道を塞ぐことがないことから、着脱時において外耳道内に圧力変化が生じない。したがって、急激な圧力変化によって鼓膜が損傷するというような事故を防止することができる。
本発明における保持具によれば、個体差による外耳道の形状や大きさに差があっても突起の有する可撓性により突起が変形するので、外耳道を傷つけることがない。
本発明における保持具によれば、製作が容易で製作コストの低い保持具を実現することができる。
本発明における保持具によれば、係止部の先端に可動機構を備え、前記先端を外耳道窩に挿入後、前記先端を屈曲することができるので先端の外耳道への挿入が容易になる。
本発明における保持具によれば、耳に保持具を装着しても外耳道を塞ぐことがないので、生活に必要な環境聴覚を阻害することがない。
本発明における保持具によれば、保持腕が耳輪と頭部側面との間に係止されるので、比較的大きな質量を保持することができる。
本発明における請求項4の保持具によれば、係止部の先端が容易に変形するので、個体差による外耳道の形状や大きさに差があっても外耳道を傷つけることがない。
本発明における請求項5の保持具によれば、保持腕と後方当て腕により耳介を挟むことから、頭を動かしたり傾けたりしても簡単には外れない保持具を実現することができる。また、外部から多少無理な力が加わった場合においても、6次元の方向すべてに対して自由度を制限することができるので外れ難い保持具を実現することができる。
本発明における請求項6の保持具によれば、スプリングの付勢力によって保持腕と後方当て腕との間に耳介を挟むことから、より一層外れ難い保持具を実現することができる。
本発明における請求項7の保持具によれば、可撓性材料の有する復元力によって保持腕と後方当て腕との間に耳介を挟むことから、簡単には外れ難い保持具を実現することができる。
本発明における請求項8の保持具によれば、耳によって物品を保持するとともにイヤホンと同様にして音楽等を個人的に楽しむことができる。また、耳から離れた場所たとえば衣服のポケット内にスピーカを収納することもできる。
本発明における保持具によれば、スピーカから外耳道への音の伝達、遮断が容易になる。
本発明における請求項9の保持具によれば、保持具全体を確実に耳に固定することが可能となり、外部負荷を安全かつ確実に保持できる。
以下、本発明を実施するための形態について図面に基づいて説明する。
図1は本発明の実施例1を示す保持具10の正面図(b)および左側面図(a)である。正面図(b)に示すように保持腕11の一端には2つの突起12,13が設けられており、他端には孔14が設けられている。そして、保持腕11は全体として側面視が弓状の形状をした棒体をしている。保持腕11の一端に設けられた2つの突起12,13のうち、先端突起12は外耳道第一カーブに挿入し易くするため、左側面図(a)に示すように緩やかな螺旋形状をしている。図1に示すものは右耳装着用の保持具であり、左巻きの螺旋形状をしているが、左耳装着用の保持具においては右巻き螺旋形状とされる。
また、保持腕11の一端に設けられた2つの突起12,13のうち、もう一つの突起である控え突起13は外耳道入口に相当する耳甲介腔の側面に当接されるものであって、突起の大きさは先端突起12とほぼ同じ程度にされている。一方、保持腕11の他端に設けられた孔14は外部負荷を保持するための取付け孔であり、紐等により携帯電話や携帯ラジオ等を吊り下げることができる。本実施例では孔14を設けているが、孔14に替えてフックを形成してフックにより外部負荷を保持するようにしてもよい。
次に、本実施例による保持具10の外耳道への挿入方法について説明する。その前提として人間の耳の構造についての知識が不可欠であることから、人間の耳の構造について図2に基づいて簡単に説明する。図2は右耳の外耳道16を含む人間の頭の水平断面を示す略図である。図において右側が頭の前部すなわち顔面に相当し、左側が後頭部に相当する。図に示すように外耳道16は直線ではなく、三次元的に曲がった形態をしている。具体的に言えば外耳道16は第一カーブ17外方の外耳道窩に比べ内方では孔径が小さく、かつ上方に中心がずれるため、第一カーブ17の前後で螺旋形状をなしている。右耳は左巻きの螺旋形状をしており、左耳は右巻きの螺旋形状をしている。したがって、保持具10の外耳道16への挿入は外耳道16の入口に保持具10の先端突起12を挿し込んだ後、ねじ込むように回転しながら挿入する。そうすると先端突起12が第一カーブ17に達した段階で控え突起13が外耳道入口の耳介の内側19に突き当たり、それ以上挿入することができなくなる。この位置が適正装着位置であり、保持具10を外側に真っ直ぐ引っ張った程度では外耳道16から抜けない。すなわち比較的大きな外部負荷を保持することが可能になる。また、先端突起12が外耳道16の第一カーブ17まで挿入されているので、外部荷重を付加しても先端突起12の外面全体が外耳道16に接していることから外耳道内面の皮膚に作用する外部負荷による面圧が低くなり、耳に痛みを感じることが緩和される。なお、保持具10を外耳道16から抜く際には、挿入時と逆方向に回転させながら引出すと容易に抜くことができる。
本実施例による保持具10によれば、保持具10の一端が外耳道第一カーブ17に確実に係止されるので、比較的大きな質量の物品を保持することができる。また、保持具10を耳に装着したまま転倒した場合にも控え突起13により保持腕11の外耳道16内への挿入が制限されるので、保持具10の先端が鼓膜に達する恐れがなく、安全性の高い保持具10を実現することができる。
図3は本発明の実施例2を示す保持具20の正面図(b)および左側面図(a)である。本実施例の保持腕21の基本形状は実施例1に示す保持腕11と同じである。異なるのは先端突起22の形状がループ状の開口部24を有していることである。先端突起22は外耳道16の第一カーブ17まで挿入され、保持具20を外耳道16に係止するためにもっとも重要な部位であるが、実施例1に示す先端突起12では外耳道16が塞がれてしまい、環境聴覚を阻害してしまうことになる。外耳道16内における先端突起22は図3の正面図(b)に示す状態が外耳道16とほぼ直角になる。そこで、図3の正面図(b)に示すように先端突起22に孔24を形成している。すなわち先端突起22は全体としてループ形状をしている。このようにすることによって、保持腕21の一端を外耳道16内に挿入しても先端突起22により外耳道16が塞がれることがなくなり、環境聴覚が阻害されるのを防止することができる。したがって、耳に保持具20を装着したままでも生活に必要な音を感ずることができるので、たとえば車の運転を行うこともできる。なお、ここで環境聴覚とは安全な日常生活を営むのに必要な音を聴くことができる能力をいう。
また、ループ状の開口部24を有する先端突起22は変形抵抗が小さいことから、容易に外耳道16の形状に適応して変形するので、個体差のある外耳道16であっても広範にフィット感のある保持具20を実現することができる。さらに、外耳道16を塞ぐことがないことから、着脱時において外耳道16内に圧力変化が生じない。したがって、急激な圧力変化によって鼓膜が損傷するというような事故を防止することができる。
図4は本発明の実施例3を示す保持具30の正面図(b)および左側面図(a)である。本実施例による保持腕31も基本的には前記実施例1,2の保持腕11,21と同一形態をしている。大きく異なるのは控え突起の部分である。実施例1,2に示す保持腕11,21の控え突起13,23は、その名前のとおり突起を形成している。一方、本実施例では控え突起に相当する部分がない。保持腕31の棒体の先端32が屈曲した係止部を形成して先端突起の役割を果たしており、この係止部の先端32を外耳道第一カーブ17に挿入して保持腕31の他端に負荷を保持するものである。なお、保持腕31の先端32には屈曲した係止部に替えて螺旋形に巻かれた係止部を形成してもよい。また、保持腕31の他端の形状は実施例1,2の保持腕11,21と同一形態をしている。本実施例のように控え突起を省略した場合、保持具としての機能は控え突起を有するものに比較すると劣ることになるが、保持腕31の全体形状が単純になり製造コストを低減することができる。なお、外耳道16への装着に際して保持腕31の一端を回転させながら挿入することは実施例1,2と同様であるが、停止位置については先端32が外耳道16の第一カーブ17に達した段階を感知して停止する必要がある。
図5は本発明の実施例4を示す保持具40の正面図(b)および左側面図(a)である。本実施例による保持腕41の形状は基本的に前記実施例3と同一である。異なる点は保持腕41の先端部42に開口部44が設けられ、先端部42全体としてループを形成している点である。先端部42に開口部44を設けてループ形状としたのは、実施例2と同様の機能を持たせるためである。すなわち、保持具40を外耳道16に装着した段階でも、外耳道16が塞がれることがなくなり、環境聴覚が阻害されるのを防止することができる。
図6は本発明の実施例5を示す保持具50の外観図(a)と主要部品(b),(c)を示す図面である。本実施例は前記実施例1〜4とは先端部の基本構造が異なる。本実施例の保持具50は、保持腕51の一端に設けた孔51bに先端突起52と控え突起53を備えた突起支持具55を装着し、前記2つの突起の1つを外耳道第一カーブ17に挿入し、前記保持腕51の他端に負荷を保持可能としたものである。より具体的にいうと、保持腕51の一端には保持腕51の棒体と直交する短軸51aが形成されており、この短軸51aの軸芯に孔51bが設けられている。また、突起支持具55はねじ軸56の一端に先端突起52と控え突起53が備えられたものであり、このねじ軸56を保持腕51の短軸部51aに設けた孔51bに挿入した後、ナット57を用いて保持腕51に固定するものである。図6中、(a)は保持腕51に突起支持具55を組み立てた後の保持具50、(b)は保持腕51、(c)は突起支持具55を示している。本実施例では2つの突起の位置と角度をある程度調整することができる。保持腕51に突起支持具55を取り付けるねじ軸56とナット57との締結時に調整することができるからである。
ところで、人間の耳の形状には個体差があり、外耳道16の大きさと形状も個人によりバラツキが大きい。したがって、保持腕51の一端に2つの突起52,53を設けたとしても、これらの突起52,53の位置と角度を調整できないとすると、個体差に基づく外耳道16の形状に対応することが困難となる。このため2つの突起52,53の位置と角度を保持具使用者に合わせて調整する必要性は大きい。
図7は突起の位置と角度を調整するための突起支持具55の構成部品を示す分解図である。(a)は2つの突起52,53を装着する芯部材であるとともに保持腕51の一端に設けた孔51bにナット57を用いて固定するための機能をも果たすねじ軸56を有する突起支持具55の正面図であり、(b)はその側面図である。ねじ軸56の一端には板状片であって、板厚方向視および板の平面視とも概略「へ」の字状に曲げられた固定片56aが、変曲点をねじ軸56に当接して固着されている。ねじ軸56への固着手段は金属材料の場合には溶接により行うことができるし、非金属材料の場合には接着剤を用いて行うこともできる。この固定片56aをねじ軸56に固着した後の平面視は図(a)に示すように、固定片56aの一方は、ねじ軸56に対してほぼ直角とされ、他の一方は、ねじ軸56の軸線に対してやや角度をもって斜交する状態になる。直角となる側には控え突起53、斜交する側には先端突起52が挿入される。直角となる側には孔が設けられ、固定片56aとほぼ同様の形状を有する可動片56bがビス58とナット59により緩く締結され、このビス58を中心として可動片56bが回動可能な状態にされている。ここで、正面図(a)において固定片56aの右側面と可動片56bの右側面を一致させた状態では固定片56aと可動片56bの先端突起52が挿入される側の片は平面視が一致しないよう形成されている。逆に固定片56aと可動片56bの先端突起52が挿入される側の片の平面視を一致させると、固定片56aの右側面と可動片56bの右側面は一致せず、可動片56bの右側面の位置は固定片56aの右側面の位置より右側に変位する状態になる。この突起支持具55は、この形状に基づいて先端突起52と控え突起53の位置と角度を調整するとともに、保持腕51に固定するものである。
次に、この突起支持具55への突起52,53の装着と保持腕51への取付け方法について簡単に説明する。図の(a)に示す状態において控え突起53に設けられた穴53aをねじ軸56と直角の状態に固定片56aと可動片56bが締結された部分に挿入する。その後、斜め上方に向いた固定片56aと可動片56bの部分に先端突起52を装着するのであるが、その際には固定片56aと可動片56bを強制的に一致させた状態で先端突起52の有する穴52aに挿入する。したがって、この状態では可動片56bの右面は固定片56aの右面より右方向に変位することになる。すなわち、先端突起52は突起支持具55に挿入されただけであり、固く固定された状態とはいえない。次に、この状態で突起支持具55のねじ軸56を保持腕51の短軸部51aに設けられた孔51bに挿入した後、ナット57を用いて先端支持具55を保持腕51に固定する。そうすると、不一致であった固定片56aの右面と可動片56bの右面とは保持腕51の短軸51aの端面51cによって強制的に一致させられる。すなわち、先端突起52の取付け穴52aに挿入された固定片56aの上部と可動片56bの上部は正面視が一致した状態から(a)に示すようにやや開いた状態になる。これにより先端突起52の取付け穴52a内面に強い面圧を与え、先端突起52と突起支持具55を固定することができる。なお、先端突起52と控え突起53との角度や位置を変更する場合には、保持腕51に突起支持具55を固定しているねじ軸56へのナット57を緩めて角度や位置を適正にした後、再度ナット57を締め付けることにより簡単に再調整を行うことができる。
図8は図2と同様、外耳道を含む人間の頭の水平断面の一部を示す図面である。(a)は外耳道内に先端突起52を挿入し、控え突起53を外耳道16の入口の耳介内表面19に当接した状態を示している。外耳道16には第一カーブ17と第二カーブ18があることは各人に共通しているが、各湾曲部の奥行き位置と湾曲度合いは個体差が非常に大きい。したがって、先端突起52を外耳道へ挿入する前に使用者個人の耳の形状に合わせて調整しておく必要がある。図8の各図(a)(b)(c)は外耳道に保持具を装着する際の回転姿勢を示しており、(c)(b)(a)の順に左回転させながら挿入する。本実施例によれば、たとえば先端突起52と控え突起53相互間の角度も調整することができるので、外耳道16の螺旋角の大小についても適応することができる。
さらに、2つの突起52,53ともに金属やプラスチックといった剛性の大きい材料ではなく、可撓性を有する樹脂材料で製作されている。このような軟質の樹脂材料であれば、突起52,53の形状と中耳道16の形状が多少不適合な状態であったとしても、樹脂材料の有する可撓性によって突起52,53は中耳道16の形状に適合することができる。さらに大きな可撓性が要求される場合においては、各種ゴム材料を用いることもできる。その場合、ゴム材料だけで突起を製作すると突起の係止機能も損なわれるおそれがある。これを防止するため図7に示すように、突起52,53にゴム材料を用い、突起の芯部材56a,56bとしてステンレス鋼、白銅等の金属材料を用いることもできる。
なお、本実施例に示す先端突起52は全体形状がループ状をした開口部54を有するものを用いているが、環境聴覚を犠牲にしても支障がない場合には、開口部を有さない先端突起52を用いることもできる。
図9は二つの突起のうち、特に先端突起52の位置と角度を任意に調整する場合の各種態様を示すものである。この例では突起52,53の芯部材56a,56bとして金属材料を用いた突起支持具55の例を示している。図に示す各種態様は、すべて1本のねじ軸56とナット57の調整により行うことができる。この突起支持具は詳細を図7に示したものである。
図10は本発明の実施例6を示す保持具60の外観図である。本実施例は先端突起62に可動機構を有し、操作により先端突起62の角度を自由に動かすことができる点が上述した各実施例と大きく異なる。保持腕61の一端には保持腕61と概略直交する方向に横腕部材63が一体として形成されている。そして、この横腕部材63の先端部63aにはヒンジ64を介して先端突起62が取付けられており、ヒンジ64には先端突起62を駆動するための連結棒65の一端が回動自在に装着されている。また、保持腕61と横腕部材63の交差する位置に設けられた孔63bには、軸66が回転自在に支持されており、この軸66の一端に固着されたリンク67の先端には前述した連結棒65の他端が回動自在に装着されている。さらに、この軸66の他端には操作レバー68が固着されており、軸66の外周にはコイルばね69が備えられて操作レバー68と横腕部材63との間に付勢力を与えている。
このような構成とすることにより、操作レバー68を軸66の中心に対して回転すると、リンク67の回転運動が連結棒65の往復運動に変換され、この連結棒65の往復運動が先端突起62に回転変位を与えることになる。したがって、操作レバー68を動かすことにより先端突起62の角度を変化させることができる。このことにより先端突起62を外耳道16へ挿入する際に操作レバー68を操作して先端突起62と横腕部材63との位置を平行状態に近くして容易に外耳道16に挿入することができるようになる。そして、先端突起62が所定位置に達した段階で操作レバー68を元の位置に戻すと、先端突起62と横腕部材63とのなす角度が当初の位置に戻り、先端突起62を外耳道第一カーブ17に係止することができる。
図11は本発明の実施例7を示す保持具70の外観図である。本実施例は図4に示した実施例3に似ているものであるが、保持腕71の形状が大きく異なっている。すなわち、実施例3に示した保持具30は外部負荷を付加する保持腕31が耳甲介腔から下向方向に位置することになるのに対し、本実施例による保持腕71は図に示すように一端に先端突起72が固定されており、全体としてヘアピン状に2ケ所で大きく曲げられている。そして、保持腕71は耳甲介腔から上向きの方向に伸びて耳輪脚を越えた段階で180度反対向きに方向転換して耳輪と頭との間を通って耳介の頭への付根部分に保持腕71が支持されるようになっている。したがって、簡単な構造であるにもかかわらず、保持腕71の他端に比較的大きな質量の外部負荷を付加することができる。
図12は本発明の実施例8を示す保持具80の外観斜視図である。本実施例は前記各実施例の保持腕の他端、すなわち荷重を付加する端部81aに耳介を挟む後方当て腕84を取り付けたものである。一端に2つの突起82,83を装着した保持腕81の他端81aに外部負荷を取り付けるための孔81bが設けられている点は上述した各実施例と同様である。本実施例は保持腕81の他端81aに外部負荷を取り付けるための孔81bの他に、耳介を挟む後方当て腕84を取付けたものである。この後方当て腕84は耳朶を避けるように耳朶の下方から耳介の後方に当接される。したがって、この後方当て腕84を設けない場合に比較すると、保持具80全体としての耳への保持力は格段に向上する。また、後方当て腕84を単に耳介の後方に当接しただけでは保持機能として十分とはいえない場合もある。そこで、必要に応じて保持腕81と後方当て腕84との間にスプリング85を介在させて両部材81,84間に付勢力を与えるようにしてもよい。そのようにすると、より一層確実に外部荷重を保持できる保持具80を実現することができる。さらに、スプリング85のばね定数を任意に設定し、複数のスプリングを組み合わせて非線形のばね定数を設定することもできる。そのようにすると、より一層装着し易く、かつ簡単には外れ難い保持具を実現することもできる。また、保持腕81の他端81aには後方当て腕84の開閉の便宜を図るため、一端に装着した2つの突起82,83とは別に突起81cを設けてもよい。
本実施例による保持具80では保持腕81と後方当て腕84により耳介を挟むことから、頭を動かしたり傾けたりしても簡単には外れない保持具80を実現することができる。また、外部から多少無理な力が加わった場合においても、6次元の方向すべてに対して自由度を制限することができる。
図13は本発明の実施例9を示す保持具90の外観図である。本実施例は実施例8と似ているものであるが、保持腕91と後方当て腕94とが一体で形成されている点が異なる。すなわち本実施例は、保持腕91と後方当て腕94とを可撓性材料により一体成形し、この可撓性材料の有する復元力により保持腕91に対して後方当て腕94を所定角度だけ回動できるようにしたものである。一端に2つの突起92,93を設けた保持腕91の他端91aと後方当て腕94との間にはU字形状に形成された可撓み部96が設けられており、素材の有する可撓性によりU字形状の部分がスプリングと同様の作用を果たす。たとえば、素材としてナイロン樹脂などを用いることにより保持具90として必要な剛性と後方当て腕94を耳介に装着するに必要な弾性を兼ね備えることができる。本実施例によれば低コストで、簡単には外れ難い保持具を実現することができる。
図14は本発明の実施例10を示す保持具100の説明図である。本実施例は保持腕101を中空部材により製作し、この保持腕101の中空部101aを経由してスピーカ102からの音波を外耳道16に伝播するものである。図中(a)は本発明の実施例ではなく、比較のために示したものであり、中空部材でない保持腕の下端にヒンジを介してスピーカ102を装着したものである。この例では必要に応じてスピーカ102を耳に当てて音楽を楽しむことができるが、スピーカ102を耳に当てると自然聴覚を阻害するおそれがある。(b)は本発明の実施例であり中空部101aを有する保持腕101が用いられている。そして、中空部101aを通じてスピーカ102からの音を中耳道16に導き音波を鼓膜に伝播する。ここで、中耳道16に挿入される保持腕101の先端部は中耳道16を塞ぐことなく、自然聴覚を阻害することがないようにされている。したがって、この実施例によれば自然聴覚を阻害することがないので、音楽を楽しみながら車の運転を行うこともできる。また、スピーカ102を耳の近傍に配置する必要性がないことから、たとえば上着のポケットにスピーカを収納して音楽を楽しむこともできる。(c)は前記の(a)と(b)を組み合わせたものであり、選択的にいずれかの方法を採用することができる利点がある。また、本実施例では実施例8,9と組み合わせて後方当て腕の内部にスピーカを装着することもできる。そのことによりコンパクトで自然聴覚を阻害せず、かつ外部負荷を保持することが可能な保持具を実現することができる。
図15は本発明の実施例11を示す保持具110の外観図である。本実施例は後方当て腕114の部材内に可動機構115を設け、耳輪裏当て板116を装備したものである。保持腕111と後方当て腕114とはピン117により回動自在に支持されている。また、このピン117を挟んで保持腕111の反対側にはリンク119が突出し、保持腕111と一体成形されている。さらに、リンク119の先端には平行移動するローラ115aを保持する可動機構115の一端が回動自在に支持されており、このローラ115aと噛み合う回転カム115bには耳輪裏当て板116が連結されている。また、スプリング118により後方当て腕114と可動機構115には付勢力が与えられている。このような構成においてスプリング118を付勢力に抗して圧縮すると耳輪裏当て板116が下方に揺動して耳への保持具110の装着が容易になる。その後、圧縮したスプリング118を開放すれば耳輪裏当て板116は再び上方に揺動して耳裏にしっかりと当接することになり、保持具110全体を確実に耳に固定することが可能となる。したがって、外部負荷を安全かつ確実に保持できる保持具を実現することができる。
本発明は、人間の耳を利用して携帯電話機やコンパクトカメラ等の外部負荷を保持する保持具として産業上の利用可能性を有する。
保持具の正面図と左側面図である。(実施例1)
右耳の外耳道を含む人間の頭の水平断面を示す略図である。
保持具の正面図と左側面図である。(実施例2)
保持具の正面図と左側面図である。(実施例3)
保持具の正面図と左側面図である。(実施例4)
保持具の外観図と主要部品の外観図である。(実施例5)
突起支持具の部品展開図である。(実施例5)
保持具の外耳道への挿入順序を示す図面である。(実施例5)
先端突起の位置と角度を調整する場合の態様を示す図面である。(実施例5)
保持具の外観図である。(実施例6)
保持具の外観図である。(実施例7)
保持具の外観図である。(実施例8)
保持具の外観図である。(実施例9)
保持具の説明図である。(実施例10)
保持具の外観図である。(実施例11)
符号の説明
11,21,31,41,51,61,71,81,91,101,111 保持腕
12,13,22,23,52,53,62,72,82,83,92,93 突起
17 外耳道第一カーブ
24,44,54 開口部
32,42 螺旋形状係止部
51b 孔
55 突起支持具
56 取り付けねじ
84,94,114 後方当て腕
85,118 スプリング
102 スピーカ
115 可動機構