JP4229405B2 - 鉛含有複合酸化物の製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、鉱化剤としてアルカリ金属水酸化物を用いない鉛含有複合酸化物の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
鉛含有複合酸化物のチタン酸ジルコン酸鉛Pb(Zr,Ti)O3(一般にPZTと呼ばれる。)は優れた圧電特性を有する強誘電体セラミックスとしてよく知られており、誘電体セラミックス、圧電体セラミックス、焦電体セラミックス、抵抗体セラミックス、半導体セラミックス等の種々の分野に使用され、主な用途としてSAWフィルター、センサー、アクチュエーター等の圧電素子、コンデンサー、不揮発性メモリー(FERAM)等がある。
【0003】
このようなチタン酸ジルコン酸鉛の合成方法としては、固相反応法、液相反応法、ゾル−ゲル法、及び水熱合成法が挙げられる。
【0004】
これらのうち、固相反応法は高温での反応であるため、加熱時に蒸気圧の低いPbが蒸発して組成ずれが起こる上に、得られる粉末形状が不均一で粒径分布に偏りが生じるという問題がある。また液相反応法は原料成分を共沈させる共沈法であるが、各成分の最適pHが異なるためにpHコントロールが困難であり、かつ水和物が生成するので高温での加熱処理が必要となるという問題がある。さらにゾル−ゲル法は原料として金属アルコキシドを用いる方法であり、有機溶剤を必要とし、かつ高温での加熱工程が必要となるため、鉛の蒸発による組成ずれがおこるという問題がある。
【0005】
一方、水熱合成法としては水溶性鉛塩、水溶性チタン塩及び水溶性ジルコニウム塩をアルカリ金属水酸化物を含むアルカリ性溶液に分散し、50〜300℃で水熱反応させてPZT粉末を得る方法(特開昭63-85014号)が提案されている。この方法で得られたPZT粉末中には、十分に洗浄した後でも、鉱化剤として使用したアルカリ金属(K、Na)が約0.01〜0.07%残存する。アルカリ金属はPZT粒子の表面に付着しているだけでなく、その一部は固溶などによりPZTの結晶構造に入り込んでいるので、PZT粒子中のアルカリ金属量を更に減少させることは困難である。
【0006】
PZTの構成金属イオンと原子価が異なる金属イオン(アルカリ金属イオン)が添加されると、構成金属イオンの原子価が変化したり酸素空孔が生じ、PZTセラミックスが半導体化し絶縁性が低下する。又、PZT中に残留するアルカリ金属はアクセプターとして作用し、抗電界が高くなり、また絶縁性が低くなって、圧電性等の電気特性が低下するか得られなくなるという問題がある。このように、アルカリ金属水酸化物を鉱化剤として用いた場合には、アルカリ金属除去のための余分な工程が必要であり、また、この工程を経てもアルカリ金属を十分に除去することは困難で、残留アルカリ金属によりPZTセラミックスの電気特性が低下する。
【0007】
特開平2-212316号は、水溶性鉛化合物を低濃度アルカリ金属水溶液と反応させる工程を経て水熱反応を行い、PZT系粉末を得る方法を提案しているが、やはりPZT系粉末中にアルカリ金属が残留するという問題がある。
【0008】
したがって本発明の目的は、鉱化剤としてアルカリ金属水酸化物を用いないために、得られる鉛含有複合酸化物中にアルカリ金属の混入がなく、電気的特性の優れた鉛含有複合酸化物を製造することができる方法を提供することである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記目的に鑑み鋭意研究の結果、本発明者等は、鉛含有原料化合物の酸化鉛PbOが、水溶液中でPb(OH)2となり、その溶液が弱アルカリ性を示すことに着目し、前記鉛含有原料化合物が原料であるとともに鉱化剤の作用を有することを発見し、本発明に想到した。
【0010】
すなわち、本発明の鉛含有複合酸化物の製造方法は、ジルコニウムアルコキシド及びチタンアルコキシドを混合し脱炭酸処理した蒸留水で加水分解することにより Zr Ti 前駆体を調製する工程、前記 Zr Ti 前駆体、鉛含有原料化合物及び脱炭酸処理した蒸留水を混合撹拌してpH8〜 12 の反応液を調製する工程、及び前記反応液を水熱反応処理する工程を含み、前記各工程をアルカリ金属の不存在下で行うことを特徴とする。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明を以下詳細に説明する。
【0012】
[1] 原料
鉛含有複合酸化物がチタン酸ジルコン酸鉛の場合を例にとって、本発明の方法を詳細に説明するが、他の鉛含有複合酸化物も本質的に同じ工程で製造することができる。
【0013】
(1) 原料
鉛(Pb)源である鉛含有原料化合物として、酸化鉛PbOを用いるのが好ましい。またチタン(Ti)源及びジルコニウム(Zr)源としては、それぞれチタン及びジルコニウムの無機塩、アルコキシド又はアセチルアセトナートを用いるのが好ましい。TiCl4は強酸性でTi(OH)4を生成しやすいので、余り好ましくない。
【0014】
(2) 原料の配合割合
PbOは反応液中にPb(OH)2として溶解するので、目標組成に対して多めに配合する。具体的にはモル比でPb/(Zr+Ti)=1.0〜1.10とするのが好ましい。Ti及びZrは、目標組成通りの配合比とする。
【0015】
[2] 製造方法
(1) Zr−Ti前駆体粉末の合成
ジルコニウム源及びチタン源となる原料化合物をそれぞれ目標組成の割合で配合し、これらを溶媒と混合して加熱還流した後、室温に降温する。溶媒としてはアルコール、特にエタノールが好ましい。加熱還流は窒素ガス雰囲気下、溶媒の沸点付近の温度で、原料化合物が溶解するまで行う。
【0016】
次いで脱炭酸処理した蒸留水と溶媒との混合液を滴下し、加水分解する。加水分解は窒素ガス雰囲気下、室温にて行う。脱炭酸処理した蒸留水を使用することにより炭酸塩が生成してZr−Ti比が変化するのを防ぐことができる。
【0017】
加水分解終了後、窒素ガス雰囲気下、室温にて6時間以上攪拌した後、減圧乾燥し、溶媒を除去してZr−Ti前駆体粉末を得る。
【0018】
(3) 反応液の生成
上記のようにして得たZr−Ti前駆体粉末、鉛含有原料化合物として酸化鉛PbO、及び脱炭酸処理した蒸留水とを室温にて攪拌して反応液とする。酸化鉛PbOが溶解してPb(OH)2となるため、鉱化剤としてアルカリ金属水酸化物を添加することなく反応液のpHが8〜12となる。
【0019】
(4) 水熱反応
▲1▼水熱合成装置
水熱反応を行う装置として、図1に示すような水熱合成装置を使用するのが好ましい。水熱合成装置のステンレス製耐圧容器1の外周はヒーター2に覆われており、内部はテフロン製容器3である。ステンレス製蓋4はステンレス製耐圧容器1にボルト5で締め付け固定される。この装置はテフロン製容器の蓋6を貫通してテフロン製攪拌子7を有する。テフロン製攪拌子7は、外部に設けられた攪拌用モーター8にゴムベルト9を介して連動し、回転する。反応溶液10は、テフロン製容器6内で、ヒーター2により加熱され、テフロン製攪拌子7で攪拌される。
【0020】
▲2▼水熱反応
水熱合成装置中に投入した混合物が150〜250℃となるようにヒーターにより加熱し、250〜350rpmの速度で撹拌しながら1〜96時間、好ましくは11時間以上水熱反応を行う。
【0021】
(5) 乾燥
反応終了後、混合物を室温まで降温し、吸引濾過して粉末を得る。得られた粉末を蒸留水で洗浄した後、前記粉末を乾燥炉等を用いて乾燥し、チタン酸ジルコン酸鉛粉末を得る。
【0022】
[3] 鉛含有複合酸化物
(1) 結晶構造
本発明の方法で得られた鉛含有複合酸化物は、ペロブスカイト結晶構造を有する。具体的には図2に示すように、Bサイト原子のTi/Zrが中心に位置する酸素八面体構造である。結晶の形状は正方晶系、立方晶系、菱方晶系、斜方晶系のいずれであってもよい。
【0023】
【実施例】
本発明を以下の実施例及び比較例により詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0024】
実施例1
ジルコニウムテトラエトキシド(高純度化学研究所(株)製、純度99.9%、分子量271.45)1.04×10-3モル、チタニウムテトライソプロポキシド(キシダ化学(株)製、純度99%、分子量284.23)9.6×10-4モル、及び精製エチルアルコール(キシダ化学(株)製)20mlを混合し、窒素ガス雰囲気下で攪拌しながら78℃で24時間加熱還流した後、室温まで降温した。
【0025】
窒素ガス中100℃で1時間加熱還流することにより脱炭酸した蒸留水0.72mlと精製エチルアルコール(キシダ化学(株)製)40mlとの混合液を作成した。還流後降温した混合物に、窒素ガス雰囲気下、室温で攪拌しながら前記混合液を滴下し、加水分解を行った。滴下終了後も攪拌を続け、6時間経過した後、減圧乾燥して溶媒を除去し、乾燥粉末を得た。
【0026】
得られた乾燥粉末、一酸化鉛(キシダ化学(株)製、分子量223.20)2.1×10-3モル、及び脱炭酸水100mlを混合し、室温にて1時間攪拌して反応液を得た。得られた反応液を水熱合成装置(容量250ml)に投入し、反応液が200℃となるようにヒーターで加熱し、攪拌速度300rpmで20時間攪拌して水熱反応を行い、その後室温まで降温した。
【0027】
反応後の生成物を吸引濾過して粉末を得た。得られた粉末を合計500mlの蒸留水で洗浄し、濾過した後、乾燥炉を用いて大気中、温度80℃で12時間乾燥し、チタン酸ジルコン酸鉛粉末を得た。
【0028】
得られたチタン酸ジルコン酸鉛粉末をICP発光分析により分析した結果、アルカリ金属は検出されなかった。また、X線回折により分析した結果、ペロブスカイト型結晶構造を有することが分かった。X線回折の結果を図3に、水熱反応条件と生成相とを表1にそれぞれ示す。
【0029】
実施例2
水熱反応条件を温度180℃で50時間とした以外は実施例1と同様にして、チタン酸ジルコン酸鉛を製造した。得られたチタン酸ジルコン酸鉛をICP発光分析により分析した結果、アルカリ金属は検出されなかった。また、X線回折により分析した結果、ペロブスカイト型結晶構造を有することが分かった。X線回折の結果を図4に、水熱反応条件と生成相とを表1にそれぞれ示す。
【0030】
実施例3
Zr源をジルコニウムテトラプロポキシド(キシダ化学(株)製、純度99.9%、分子量327.2)とした以外は実施例1と同様にして、チタン酸ジルコン酸鉛を製造した。得られたチタン酸ジルコン酸鉛をICP発光分析により分析した結果、アルカリ金属は検出されなかった。また、X線回折により分析した結果、ペロブスカイト型結晶構造を有することが分かった。水熱反応条件と生成相とを表1にそれぞれ示す。
【0031】
参考例1〜2
水熱反応条件を表1に示す通りとした以外は実施例1と同様にして、チタン酸ジルコン酸鉛を製造した。得られたチタン酸ジルコン酸鉛をX線回折により分析した。X線回折の結果を図5〜6に、水熱反応条件と生成相とを表1にそれぞれ示す。
【0032】
Figure 0004229405
【0033】
比較例1
脱炭酸水100mlを混合する代わりに、水酸化カリウム水溶液100ml(濃度:1モル/リットル)を混合した以外は実施例1と同様にしてチタン酸ジルコン酸鉛粉末を得た。得られたチタン酸ジルコン酸鉛粉末を合計500mlの蒸留水で洗浄し、濾過した後、乾燥炉を用いて大気中、80℃で12時間乾燥した。チタン酸ジルコン酸鉛粉末のX線回折図を図7に示す。また、ICP発光分析の結果、チタン酸ジルコン酸鉛粉末中のカリウム残量は0.05重量%であった。
【0034】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明の方法によれば、鉱化剤としてアルカリ金属を用いることなく鉛含有複合酸化物を製造することができる。本発明の方法により得られた鉛含有複合酸化物は、アルカリ金属の混入がなく、電気的特性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【図1】 水熱反応に使用する装置を示す概略図である。
【図2】 ペロブスカイト型結晶構造のチタン酸ジルコン酸鉛を示す概略図である。
【図3】 実施例1で製造したチタン酸ジルコン酸鉛のX線回折パターンを示すグラフであり、縦軸は回折線の強度を表わし、横軸は入射X線の視射角の2倍(2θ)を表わす。
【図4】 実施例2で製造したチタン酸ジルコン酸鉛のX線回折パターンを示すグラフであり、縦軸は回折線の強度を表わし、横軸は入射X線の視射角の2倍(2θ)を表わす。
【図5】 参考例1で製造したチタン酸ジルコン酸鉛のX線回折パターンを示すグラフであり、縦軸は回折線の強度を表わし、横軸は入射X線の視射角の2倍(2θ)を表わす。
【図6】 参考例2で製造したチタン酸ジルコン酸鉛のX線回折パターンを示すグラフであり、縦軸は回折線の強度を表わし、横軸は入射X線の視射角の2倍(2θ)を表わす。
【図7】 比較例1で製造したチタン酸ジルコン酸鉛のX線回折パターンを示すグラフであり、縦軸は回折線の強度を表わし、横軸は入射X線の視射角の2倍(2θ)を表わす。
【符号の説明】
1・・・ステンレス製耐圧容器
2・・・ヒーター
3・・・テフロン製容器
4・・・ステンレス製蓋
5・・・ボルト
6・・・テフロン製容器の蓋
7・・・テフロン製攪拌子
8・・・攪拌用モーター
9・・・ゴムベルト
10・・・反応溶液

Claims (1)

  1. ジルコニウムアルコキシド及びチタンアルコキシドを混合し脱炭酸処理した蒸留水で加水分解することによりZr−Ti前駆体を調製する工程、前記Zr−Ti前駆体、鉛含有原料化合物及び脱炭酸処理した蒸留水を混合撹拌してpH8〜12の反応液を調製する工程、及び前記反応液を水熱反応処理する工程を含み、前記各工程をアルカリ金属の不存在下で行うことを特徴とする、アルカリ金属を含まない鉛含有複合酸化物の製造方法。
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