JP4218217B2 - 樹脂製歯車の製造法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車部品等として適した樹脂製歯車の製造法に関する。
【0002】
【従来の技術】
上記樹脂製歯車は、歯の噛み合い時の騒音発生を抑えるために、金属製歯車と噛み合う相手歯車として用いられ、耐摩耗性に優れ、高い強度が要求される。樹脂製歯車として、樹脂を含浸した補強繊維基材のリング状成形体に歯を加工したものが提案されている。例えば、次のような技術である(特願平11−308426)。
まず、帯状のフェルトを準備する。ここで、フェルトとは、平面方向を向いて集積された補強繊維同士が厚さ方向を向いた補強繊維により結合された構成のシート体をいう。前記帯状のフェルトを重ね巻きして筒状にし、さらにその筒状体を軸方向に蛇腹状に折り畳んで、リング状の補強繊維基材とする。次に、このリング状の補強繊維基材に樹脂を含浸し、リング状の補強繊維基材の中央に金属製ブッシュを配置した状態で成形金型内で加熱加圧成形又は加熱成形してリング状成形体とした後、リング状成形体の周囲に歯を加工する。
【0003】
上記リング状の補強繊維基材は、周方向に基材のつなぎ目が目立たない。しかも、上記リング状の補強繊維基材には、その周方向だけでなく径方向を向いた補強繊維も多数存在することになり、このような繊維の配置状態がリング状成形体にもそのままもち込まれる。径方向を向いた補強繊維は、駆動中の歯車の歯面に加わる応力を有効に受けとめることが期待される。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記技術におけるリング状の補強繊維基材は、径方向に拡張・収縮しにくい。リング状の補強繊維基材は、成形金型を閉じることによりある程度圧縮され、成形金型の内面及び金属製ブッシュの外周面に沿わせるべく形状を矯正されるが、前記のごとく拡張・収縮しにくいために、形状の矯正が不十分となる。成形金型の内面や金属製ブッシュの外周面とリング状の補強繊維基材の間に隙間がある状態のまま成形を実施すると、その隙間は補強繊維が少ない樹脂リッチ層となり、特に、リング状成形体と金属製ブッシュの結合強度の面で不十分な箇所ができる懸念がある。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、上記のようにつなぎ目の目立たないリング状の補強繊維基材を用い、そのリング状成形体で歯部を構成した樹脂製歯車において、成形体中の補強繊維密度をできるだけ均一にし、リング状成形体と金属製ブッシュの結合強度をさらに強固にすることである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る製造法が対象としている樹脂製歯車は、樹脂を含浸した補強繊維基材のリング状成形体により歯部を構成し、前記リング状成形体とその中央に配置され金属製ブッシュが結合されているものである。前記補強繊維基材は、伸縮性をもたせて編んだ帯状基材を重ね巻きして筒状にし、さらにその筒状体を軸方向に蛇腹状に折り畳んだリング状の補強繊維基材である。
上記課題を解決するために、本発明に係る樹脂製歯車の製造法は、次の(1)〜(4)の工程を経ることを特徴とする。
(1)伸縮性をもたせて編んだ帯状基材を準備する工程、
(2)前記帯状基材を重ね巻きして筒状にし、さらにその筒状体を軸方向に蛇腹状に折り畳んだリング状の補強繊維基材を形成する工程、
(3)前記リング状の補強繊維基材に樹脂を含浸し、成形金型内でその中心に配置した金属製ブッシュと共に加熱加圧成形又は加熱成形して金属製ブッシュと一体のリング状成形体とする工程、
(4)前記リング状成形体の周囲に歯を加工する工程。
【0007】
このような補強繊維基材はリング状であって、周方向に基材のつなぎ目が目立たないないのは勿論のこと、当該帯状基材を重ね巻きした筒状体を軸方向に蛇腹状に折り畳んだ構成は、帯状基材の編み目が放射状に揃えられ、しかも伸縮性をもつ。従って、このようなリング状の補強繊維基材は、成形金型を閉じるときに圧縮されると、容易に径方向に拡張・伸縮し(外周においては径が広がる方向であり、内周においては径が縮まる方向)、成形金型の内面及び金属製ブッシュの外周面に良好に沿わせることができる。
【0008】
尚、伸縮性をもたせて織った又は編んだ筒状体を端部から軸方向に巻き上げてリング状の補強繊維基材とし、このような補強繊維基材を用いて樹脂製歯車を製造する提案がある(特開平8−156124号公報)。このような場合は、製造する樹脂製歯車の径に応じて、筒状体の径を変更することになる。製造する歯車に応じて、種々の径の筒状体を織ったり編んだりする作業は極めて煩雑であり、場合によっては、所要の径の筒状体を準備できないこともある。また、歯幅の広い歯車を得ようとすると、リング状の補強繊維基材を積み重ねて歯幅を確保する必要がある。
一方、本発明においては、帯状基材を重ね巻きする巻き芯の径を変更することにより、容易に樹脂歯車の径の変更に対応できる。また、蛇腹に折り畳む量を多くすることにより、一つのリング状の補強繊維基材で広い歯幅も確保することができる。
【0009】
上記の樹脂製歯車は、次の工程を経て製造することができる(図1参照)。
まず、伸縮性をもたせて編んだ帯状基材1を準備する。次に、帯状基材1を重ね巻きして筒状にし、さらにその筒状体を軸方向に蛇腹状に折り畳んでリング状の補強繊維基材2を形成する。蛇腹状に折り畳むことにより、重ね巻きした基材層間を一体化したのと同じような状態にすることができる。蛇腹状に折り畳む前は、帯状基材の層間は一体化されておらず、一体化されていないからこそ、蛇腹状に折り畳む際に基材層間に滑りが生じ、また、基材が伸びて、きれいに蛇腹状に折り畳むことができ、折り畳み後は重ね巻きした基材層間を一体化したのと同じような状態を作り出せるのである。
このリング状の補強繊維基材2に樹脂を含浸し、成形金型内で加熱加圧成形又は加熱成形してリング状成形体とした後、リング状成形体の周囲に歯を加工する。このリング状の補強繊維基材2は、成形金型を閉じるときに圧縮されると、容易に径方向に拡張・伸縮し(外周においては径が広がる方向であり、内周においては径が縮まる方向)、成形金型の内面及び金属製ブッシュ3の外周面に良好に沿う。従って、補強繊維が少ない樹脂リッチ層が成形体中にできず、成形体中の補強繊維密度を均一にすることができる。
【0010】
【発明の実施の形態】
帯状基材を構成する補強繊維は、綿や麻等の天然繊維、ポリエステル、フッ素樹脂、全芳香族ポリエステル、ポリ−P−フェニレンベンズビスオキサゾール、パラ系芳香族ポリアミド、メタ系芳香族ポリアミド等の有機繊維を適宜採用することができる。これらの繊維は、求める歯車の特性を勘案して、単独で採用してもよいし複数種類を組合せて採用してもよい。これらの繊維を収束したあるいは混紡した糸を編んで帯状基材を構成する。パラ系芳香族ポリアミド繊維とメタ系芳香族ポリアミド繊維の混紡糸を用いると、上記リング状成形体の周囲に歯を形成するときの加工性と歯車の強度のバランスを満足いくレベルで保つことができる。
【0011】
帯状基材1は、糸を編んで構成することにより、自ずと伸縮性をもたせることができる。横編みした平たい布状の帯状基材であってもよいし、丸編した筒状体を軸方向に切り開いて帯状基材としてもよい。丸編した筒状体を偏平にして2枚重ねの状態の帯状基材としても差し支えない。
【0012】
上記帯状基材1を所定径の巻き芯に重ね巻きして筒状にし、さらにその筒状体を軸方向に蛇腹状に折り畳んでリング状の補強繊維基材2を形成する。重ね巻きと折り畳みは、例えば次のようにして行なう。巻き芯を帯状基材の端に置き、巻き芯を回転して帯状基材を巻き取る。前記巻き取った帯状基材1を予備成形型4内に配置し、その上端と下端の少なくとも一方から、帯状基材部分を加圧し蛇腹状に折り畳む。このとき所定の熱を加えることにより、アイロン効果で畳みぐせをつけ、蛇腹状に折り畳んだ形状が嵩張らないようにするとよい。
【0013】
リング状成形体の成形は、上記リング状の補強繊維基材2に適宜の樹脂を含浸して行なう。例えば、リング状の補強繊維基材にフェノール樹脂を予め含浸乾燥しておき、これを成形金型に投入し中心には金属製ブッシュ3を配置して加熱加圧成形をする。別の方法では、リング状の補強繊維基材を成形金型に投入し中心には金属製ブッシュ3を配置して成形金型を閉じ、液状樹脂(架橋ポリアミノアミド、エポキシ樹脂、ポリイミドなど)を注入して加熱成形する。このようにして得たリング状成形体の周囲に切削加工により歯を形成する。
リング状の補強繊維基材を一つで1個の歯車を成形してもよいし、リング状の補強繊維基材を複数個重ねて一体に成形し、歯幅の大きい歯車の製造に対処することもできる。しかし、積み重ねの界面を作らない方がよいので、幅広の帯状基材を筒状に巻き取って蛇腹状に折り畳み、リング状の補強繊維基材1個の厚みを厚くするのが望ましい。図1下部の左側の図は、リング状の補強繊維基材2を一つ用いて1個の歯車を成形する場合を示しており、同右側の図は、リング状の補強繊維基材2を二つ重ねて用い1個の歯車を成形する場合を示している。
さらに、リング状の補強繊維基材を多数個重ねてこれらを一体に成形した長柱体とし、これを所定幅で裁断することにより得たリング状成形体の周囲に切削加工により歯を形成することもできる。この場合、金属製ブッシュは、成形する長柱体に対応した長尺の棒状体を用いるか、歯車に対応した厚さの金属製ブッシュを分離可能なように積み重ねて用いる。
【0014】
【実施例】
実施例1
パラ系アラミド繊維(繊維長50mm,繊維径16μm)とメタ系アラミド繊維(繊維長50mm,繊維径16μm)を、質量比50/50で混紡し、太さ20番手のアラミド繊維糸を準備した。このアラミド繊維糸1本で横編みした平たい編み物を220mm幅に裁断して帯状基材1とし、この帯状基材1を所定の軸に4回重ね巻きし、外径80mm,内径60mm,高さ220mmの筒状にし、さらにその筒状体を予備成形型11内で軸方向に圧縮し、軸方向に蛇腹状に折り畳んでリング状の補強繊維基材2を形成する。このリング状の補強基材2は、外径90mm、内径60mm、厚さ40mmである。
上記リング状の補強繊維基材2を一つ成形金型に投入し中心には金属製ブッシュ3を配置して成形金型を閉じ、液状樹脂(架橋ポリアミノアミド)を注入して、リング状の補強繊維基材2と金属製ブッシュ3を一体に加熱成形した。リング状の補強繊維基材への樹脂含浸は、減圧状態(1300Pa)にした200℃の成形金型に架橋ポリアミノアミドを注入して行なった。成形したリング状成形体の寸法は、外径90mm,内径60mm,厚さ14mmであり、樹脂含有量は50質量%である。この形状寸法は、成形金型を閉じるときに、リング状の補強繊維基材が厚さ方向に圧縮され、同時に径方向に拡張されることにより、ほぼ達成されている。
歯車の歯は、リング状の補強繊維基材2で成形されたリング状成形体の周囲に機械切削により形成し、樹脂製歯車とした。その特性を表1に示す。
【0015】
従来例1
パラ系アラミド繊維原綿(繊維径5〜20μm,繊維長50mm)とメタ系アラミド繊維原綿(繊維径5〜20μm,繊維長50mm)を重量比で50/50の割合で気中に散布して集積し、これにニードリングを施して、幅2000mm,厚さ3mm,単位重量150g/m2のフェルトを準備した。このフェルトを200mmの幅に裁断し所定の軸に4回重ね巻きして、外径90mm,内径60mm,高さ200mmの筒状にし、その筒状体を実施例1と同様に軸方向に圧縮し、蛇腹状に折り畳んで外径90mm,内径60mm,厚さ40mmのリング状の補強繊維基材とする。以下、実施例と同様にして樹脂製歯車とした。その特性を表1に示す。
【0016】
参考例1
アラミド繊維糸を丸編みした筒状体を端部から軸方向に巻き上げて、外径90mm,内径60mm,厚さ20mmのリング状の補強繊維基材とする。このリング状の補強繊維基材を2個重ねて用い、以下、実施例1と同様に樹脂製歯車とした。その特性を表1に示す。
【0017】
表1に示した各特性の測定は次のようにして行なった。尚、各例の樹脂製歯車の樹脂中に占める補強繊維の含有量はいずれも同じである。
曲げ強度は、製造した樹脂製歯車の歯部三箇所から切り出した円弧状試料の曲げ強度(初期強度)を測定したものである。
実装耐久時間は、自動車エンジンのギヤ加速テスト(回転数:6000rpm,油温130℃,歯元負荷応力255MPa)での耐久時間を測定した。10個の試料の測定値の最大値と最小値を示す。
抜け強度は、樹脂製歯車の歯部を支持して金属製ブッシュを押圧し、リング状成形体と金属製ブッシュの結合部の破壊により金属製ブッシュが抜け落ちるときの押圧力である。樹脂製歯車3個について測定した結果を示す。
歯部破壊強度は、樹脂製歯車の歯と歯の間に鋼球を圧入し、歯が折れるときの圧入力である。歯部三箇所について測定した結果を示す。
【0018】
【表1】
【0019】
参考例1は、歯幅を所定の大きさとするために、リング状の補強繊維基材を止む無く2個重ねている。本発明に係る実施例では、リング状の補強繊維基材を一つで所定の歯幅を確保することが可能となっており、歯部破壊強度が上がっている。
【0020】
【発明の効果】
上述のように、本発明に係る方法により製造された樹脂製歯車は、リング状成形体と金属製ブッシュの結合強度を確保しながら、製造する歯車の径・厚さ寸法変更の容易性も備えている。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る実施例において、帯状基材からリング状の補強繊維基材を製造する工程を示す説明図である。
【符号の説明】
1は帯状基材
2はリング状の補強繊維基材
3は金属製ブッシュ
4は予備成形型
Claims (1)
- 次の(1)〜(4)の工程を経ることを特徴とする樹脂製歯車の製造法。
(1)伸縮性をもたせて編んだ帯状基材を準備する工程、
(2)前記帯状基材を重ね巻きして筒状にし、さらにその筒状体を軸方向に蛇腹状に折り畳んだリング状の補強繊維基材を形成する工程、
(3)前記リング状の補強繊維基材に樹脂を含浸し、成形金型内でその中心に配置した金属製ブッシュと共に加熱加圧成形又は加熱成形して金属製ブッシュと一体のリング状成形体とする工程、
(4)前記リング状成形体の周囲に歯を加工する工程。
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