しかしながら、上記従来の構成では、試料の光学的変化を高感度で検出できないという問題点を有している。即ち、試料96および試薬93における光学的変化(化学発光や蛍光)は、反射膜98によって遮られ、対物レンズ102を介して検出できない。また、例えばレーザビーム100が反射膜98をわずかに透過して試料96および試薬93に照射され、その部分において吸収や反射などの光学的変化が生じ、その光学的変化における光が再び反射膜98を介してピックアップ内の対物レンズ102にて検出されたとしても、その光は反射膜98にて反射されたレーザビーム100自体の反射光の強度に比べてかなり小さいものである。このため、この場合にも同様に光学的変化を検出することができない。
一方、試料96および試薬93における光学的変化(化学発光や蛍光)は、上記の場合とは逆に、ディスクカバー92側から検出することも可能である。しかしながら、レーザビーム100は、反射膜98を透過する際に強度が著しく減衰するため、試料96および試薬93に到達する光量が非常に小さくなる。このため、反射膜98を有する従来の光ディスク90において、入射光により分析を行うことは上記何れの場合にも困難である。
本発明は、上記問題点に鑑みなされたものであって、試料や試薬からの光学的な変化を感度良く検出するための分析用基板と分析装置の提供を目的としている。
上記課題を解決するために、本発明の分析用基板は、基板と、前記基板の表面に形成された流路溝と、前記基板における前記流路溝の形成側の面における前記流路溝が存在しない位置に形成された案内溝(例えば入射光のトラッキング制御のためのもの)と、前記基板における前記流路溝の形成側の面に設けられ、前記流路溝による液体の流路が維持されるように前記流路溝を覆うカバー層とを備えていることを特徴としている。
上記の構成によれば、案内溝が基板における流路溝の形成側の面における流路溝が存在しない位置に形成されているので、分析用基板への分析用入射光は、案内溝によって遮られること無く、試料や試薬などの溶液が注入された流路に直接到達することができる。また、流路の試料への入射光の入射によって生じた光学的変化である化学発光や蛍光などは、同様に案内溝によって遮られること無く入射光の入射側へ向かうことができる。したがって、流路に注入された試料の分析のために、入射光を分析用基板に入射させた場合、これによって得られる検出光の光量は多くなる。この結果、化学発光や蛍光などの光学的変化を高感度にて検出することができる。
また、本発明の分析用基板は、基板と、前記基板の表面に形成された流路溝と、前記基板における前記流路溝の形成側の面における前記流路溝が存在しない位置に、に形成された案内溝(例えば入射光のトラッキング制御のためのもの)と、前記基板における前記流路溝の形成側の面に設けられ、前記流路溝による液体の流路が維持されるように前記流路溝を覆うカバー層と、前記流路が存在する領域には無く、案内溝が存在する領域にある入射光の反射層とを備えていることを特徴としている。
上記の構成によれば、案内溝が基板における流路溝の形成側の面における流路溝が存在しない位置に形成されているので、分析用基板への入射光は、案内溝によって遮られること無く、試料や試薬などの溶液が注入された流路に直接到達することができる。ここで案内溝によって遮られるという意味は、入射光が案内溝において回折することにより散乱し、試料や試薬に到達しにくくなるということである。
また、流路の試料への入射光の入射によって生じた光学的変化である化学発光や蛍光などは、同様に案内溝によって遮られること無く入射光の入射側へ向かうことができる。ここでの案内溝によって遮られるという意味は、化学発光や蛍光などが案内溝において回折することにより散乱し、入射光の入射側へ向かいにくくなるということである。
また、入射光のうち上記光学的変化を引き起こさなかった光(波長変化が生じなかった光)は、流路溝に入射光の反射層が無いため、反射されない。
したがって、流路に注入された試料の分析のために、入射光を分析用基板に入射させた場合、これによって得られる検出光の光量は多くなり、そのほとんどは波長変化を伴った化学発光や蛍光などの光となる。この結果、化学発光や蛍光などの光学的変化をさらに高感度にて検出することができる。
また、本発明の分析用基板は、基板と、前記基板の表面に形成された流路溝と、前記基板における前記流路溝の形成側の面における前記流路溝が存在しない位置に、前記流路溝と交差する方向に形成された案内溝(例えば入射光のトラッキング制御のためのもの)と、前記基板における前記流路溝の形成側の面に設けられ、前記流路溝による液体の流路が維持されるように前記流路溝を覆うカバー層と、前記流路溝内に形成され、入射した所定波長の入射光を反射せず、前記流路溝に供給されている試料に前記入射光が照射されることにより生じる所定波長の検出光を入射方向に反射する反射層とを備えていることを特徴としている。
上記の構成によれば、案内溝が基板における流路溝の形成側の面における流路溝が存在しない位置に形成されているので、分析用基板への入射光は、案内溝によって遮られること無く、試料や試薬などの溶液が注入された流路に直接到達することができる。ここで案内溝によって遮られるという意味は、入射光が案内溝において回折することにより散乱し、試料や試薬に到達しにくくなるということである。また、回折や散乱が少ない場合でも、案内溝に伴って形成される反射層が存在しないということであり、この反射層によって反射され、試料や試薬に到達しにくくなるということである。
また、流路の試料への入射光の入射によって生じた光学的変化である化学発光や蛍光などは、同様に案内溝によって遮られること無く入射光の入射側へ向かうことができる。ここでの案内溝によって遮られるという意味は、化学発光や蛍光などが案内溝において回折することにより散乱し、入射光の入射側へ向かいにくくなるということである。また、回折や散乱が少ない場合でも、案内溝に伴って形成される反射層が存在しないということであり、この反射層によって反射され、試料や試薬に到達しにくくなるということである。
また、入射光によって波長変化を伴って生じた光学的変化である化学発光や蛍光などは、反射層により入射光の入射側へと反射される。一方、入射光のうち上記光学的変化を引き起こさなかった光(波長変化が生じなかった光)は、反射層によって反射されない。
したがって、流路に注入された試料の分析のために、入射光を分析用基板に入射させた場合、これによって得られる検出光の光量はさらに確実に多くなり、そのほとんどは波長変化を伴った化学発光や蛍光などの光となる。この結果、化学発光や蛍光などの光学的変化をさらに高感度にて検出することができる。
上記の分析用基板において、前記基板の前記流路溝の形成側の面における前記案内溝と前記流路溝との間には、隔離部が形成されている構成としてもよい。
上記の構成によれば、流路から試料や試薬が案内溝へ漏れるという事態を隔離部によって防止することができる。なお、前記隔離部は、例えば、流路溝と案内溝とを離間させるために基板に形成された領域である。
上記の分析用基板において、前記反射層は複数の誘電体膜を積層した誘電体積層膜からなる構成としてもよい。
上記の構成によれば、流路溝内(流路内)に形成された反射層は、金属ではなく、複数の誘電体膜を積層した誘電体積層膜、即ち絶縁体からなる。したがって、分析用基板において、例えば電気泳動による分析を行う際には、流路内に生じる電場が乱されたり、あるいは著しく低下することなく、流路の電極間において均一な電場を印加でき、精度の高い電気泳動による分析が可能である。なお、仮に反射層が金属である場合には、流路に沿って全体的に導体が存在するため、流路内の電場がゼロになること、あるいは流路内に偽電極が形成されることなどの不都合が生じ、良好な電気泳動が困難となる。したがって、反射膜を金属ではなく、誘電体積層膜にて形成することにより、分析用基板では、流路内の電場が均一となり、良好な電気泳動、即ち良好な分析が可能となる。
上記の分析用基板は、前記流路溝の領域には形成されず、前記案内溝の領域に形成されている、入射光を反射する第2の反射層を備えている構成としてもよい。
上記の構成によれば、案内溝では第2の反射層により入射光が反射される。第2の反射層は、例えば金属膜を使用することにより容易に形成可能である。このように、案内溝の領域に第2の反射層が形成されている構成により、流路内では入射光により高感度の分析を行い、案内溝では分析用入射光のトラッキングを行うことが可能となる。特に、前述のように、流路溝内に反射層(例えば誘電体積層膜からなる反射層)を備えた構成では、案内溝では入射光を反射してトラッキングを行い、流路内では分析用入射光を反射せず、化学発光や蛍光などを反射して高感度の分析が可能となる。
上記の分析用基板は、少なくとも第2の反射層を覆う絶縁層を備えている構成としてもよい。
上記の構成によれば、第2の反射層が金属である場合に、その金属が流路内の試料や試薬などの溶液に触れて、電気泳動などの分析が乱される事態を防止することができる。前記絶縁層は例えば誘電体薄膜にて実現可能である。なお、仮に前記絶縁層がない場合には、金属(第2の反射層)が直接試料や試薬などの溶液に触れるため、流路内に余分な電極が形成されること、あるいは流路内の電場が乱されることなどの不都合が生じ、正常な電気泳動が困難となる。
上記の分析用基板において、前記基板における前記流路溝の形成側の面とは反対側の面には、前記流路溝に電源を接続するための電源接続配線が形成されている構成としてもよい。
上記の構成によれば、流路溝に電源を接続するための電源接続配線が基板における流路溝の形成側の面とは反対側の面に形成されているので、流路への入射光が電源接続配線によって遮られることがない。また、基板上において電源接続配線を形成する場合の位置上の自由度が高く、かつ配線に必要な面積も十分に確保できるので、配線抵抗を低く抑えて、効率的な電流の供給が可能となる。
本発明の分析装置は、上記何れかの分析用基板を使用し、入射光を前記分析用基板に入射させるとともに、前記分析用基板からの光を検出する光ピックアップと、前記光ピックアップに対して前記分析用基板を前記案内溝方向に移動させる移動手段と、前記反射光を検出した前記光ピックアップからの検出信号に基づき、前記案内溝に前記光が追従するように前記光ピックアップを制御するトラッキング手段とを備えていることを特徴としている。
上記の構成によれば、移動手段に装填された分析用基板は、移動手段の動作により光ピックアップに対して案内溝方向に移動する。即ち、分析用基板は、例えばディスク形状である場合、移動手段に駆動されて回転する。この状態において、光ピックアップから分析用基板に入射光が入射され、また、分析用基板からの光が光ピックアップにて検出される。トラッキング手段は、光を検出した光ピックアップからの検出信号に基づき、案内溝に光が追従するように光ピックアップを制御する。これにより、分析装置において、分析用基板を使用した分析が可能となる。
分析用基板を使用した分析においては、案内溝が基板における流路溝の形成側の面における流路溝が存在しない位置に形成されているので、分析用基板への入射光は、案内溝によって遮られること無く、試料や試薬などの溶液が注入された流路に直接到達することができる。また、流路の試料への入射光の入射によって生じた光学的変化である化学発光や蛍光などは、同様に案内溝によって遮られること無く入射光の入射側へ向かうことができる。したがって、流路に注入された試料の分析のために、入射光を分析用基板に入射させた場合、これによって得られる検出光の光量は多くなる。この結果、化学発光や蛍光などの光学的変化を高感度にて検出することができる。
上記の分析装置において、前記トラッキング手段は、前記案内溝が存在する領域では前記案内溝に前記入射光が追従する一方、前記案内溝が途切れた前記流路溝では前記追従動作を保持するように前記光ピックアップを制御する構成としてもよい。
上記の構成によれば、分析用基板の案内溝が途切れた流路溝では入射光のトラッキング動作を保持するので、入射光が流路を通過する前のトラッキング状態を入射光が流路を通過した後にも維持することができる。これにより、流路等の存在によって、入射光についてのトラッキングサーボが乱されることが無く、入射光を流路の所望の位置に安定してアクセスすることができる。
また、本発明の分析装置は、前記基板における前記流路溝の形成側の面とは反対側の面には、前記流路溝に電源を接続するための電源接続配線が形成されている分析用基板を使用し、入射光を前記分析用基板に入射させるとともに、前記分析用基板からの光を検出する光ピックアップと、前記光ピックアップに対して前記分析用基板を前記案内溝方向に移動させる移動手段と、分析用基板の前記電源接続配線と接続可能な中継接続配線を有し、前記移動手段に装填された分析用基板に対し、前記電源接続配線に前記中継接続配線が接続されるように、分析用基板に当接可能な接続手段とを備えていることを特徴としている。
上記の構成によれば、移動手段に装填された分析用基板は、移動手段の動作により光ピックアップに対して案内溝方向に移動する。即ち、分析用基板は、例えばディスク形状である場合、移動手段に駆動されて回転する。この状態において、光ピックアップから分析用基板に入射光が入射され、また分析用基板からの光が光ピックアップにて検出される。さらに、分析用基板の電源接続配線に接続手段の中継接続配線を、例えば両者を接触させることにより、接続させることができる。したがって、接続手段の中継接続配線を分析装置の電源に接続しておけば、分析用基板に対して分析用の電源を適切に供給することができる。
また、分析用基板においては、流路への入射光が電源接続配線によって遮られることがない。また、基板上において電源接続配線を形成する場合の位置上の自由度が高く、かつ配線に必要な面積も十分に確保できるので、配線抵抗を低く抑えて、効率的な電流の供給が可能となる。
本発明の分析用基板は、基板と、流路溝と、前記基板の前記流路溝の形成側の面における前記流路溝が存在しない位置に形成された案内溝と、前記流路溝を覆うカバー層とを備えている構成である。
本発明の構成によれば、入射光が案内溝や反射層などによって遮られること無く直接流路に到達できる。流路と案内溝は、基板の同じ側の面に位置を変えて配置されるため、入射光の入射方向において重なることがない。即ち、入射光は、案内溝や反射層によって遮られること無く、直接流路に入射される。ここで遮られるという意味は、分析用入射光が案内溝において回折することにより散乱し、試料や試薬に到達しにくくなるということである。
上記の流路において入射光の入射によって生じた光学的変化である化学発光や蛍光などは、同様に遮られること無く入射光の入射側へ向かう。ここでの遮られるという意味は、化学発光や蛍光などが案内溝において回折することにより散乱し、入射光の入射側へ向かいにくくなるということである。また、回折や散乱が少ない場合でも、案内溝に伴って形成される反射層が存在しないということであり、この反射層によって反射され、試料や試薬に到達しにくくなるということである。したがって、この光を電気的に検出すれば、化学発光や蛍光などの光学的変化を高感度にて検出できる。
本発明の実施の形態を図1から図8に基づいて以下に説明する。
図1は、本発明の実施の形態における分析用基板1の要部、およびこの分析用基板1に分析用入射光が入射した状態を示す縦断面図である。同図における断面は、流路8において試料などの溶液が流れる方向に直角な面であり、また案内溝5に沿った方向に分析用基板1を切断した面である。
分析用基板1は、例えばディスク形状のプラスチックあるいはガラスの基板13と、この基板13の上に順次形成された第1の反射層(反射層、溝内形成層)2、第2の反射層3および絶縁層4と、カバー層7と、基板13とカバー層7とを接着する接着層6とを備えている。
カバー層7の形状は、基板13と同じディスク形状とするが、少なくとも下記に示す流路8を密閉するような形状であればよい。分析用基板1におけるカバー層7側の面は、分析用の光の入射面となっている。
基板13は厚さ0.6mmであり、第1の反射層2等が形成されている側の面に、溝形状に成型された流路溝14を有し、流路溝14の両側に、隔離部12および案内溝11を有する。上記の流路溝14により、試料や試薬、バッファなどが流れる流路8が形成される。流路溝14の幅と深さは、数μm〜数百μmである。
また、基板13には、流路溝14の形成側の面に、光ビームを案内するための上記の案内溝11が形成されている。案内溝11は基板13の表面において各層の積層後に案内溝5を形成するためのものである。この案内溝11は、流路溝14と重ならない位置に成型されている。即ち、流路溝14の形成位置においては、案内溝11が形成されておらず、上記第2の反射層3および絶縁層4も形成されていない。
上記構造によれば、入射光がa1およびa2の光路を通り、対物レンズ10を経て分析用基板1に入射した場合、その入射光は案内溝11やトラッキング用の第2の反射層3によって遮られること無く流路8へ入射することができる。ここで遮られるという意味は、分析用入射光が案内溝11において回折することにより散乱したり、反射層3によって反射するため、試料や試薬に到達しにくくなることである。また、回折や散乱が少ない場合でも、案内溝に伴って形成される反射層が存在しないということであり、この反射層によって反射され、試料や試薬に到達しにくくなるということである。したがって、流路8の試料や試薬を十分な光量にて照射でき、高感度の分析が可能となる。
上記案内溝11の深さは数十nm、幅は100nm〜数百nm、ピッチは数μm〜数十μmである。基板13がディスク形状であれば、光ディスクの装置技術を活用して、高速で安価な分析用基板や分析装置を実現できる。
次に、分析用基板1の形成方法について説明する。
基板13には、まず第1の反射層2をスパッタなどの方法によって成膜する。この反射層2は、流路溝14だけでなく、案内溝11や隔離部12に成膜しても構わない。隔離部12は、基板13における流路溝14の形成側の面において、流路溝14の側縁部に沿って形成された凸部であり、流路溝14と案内溝11とを隔離するために設けられる。これによって、流路8(流路溝14)に満たされた試料や試薬の溶液が、案内溝5に漏れることを防止できる。
第1の反射層2は分析のための入射光(分析用入射光)の波長の光を吸収する有機薄膜(この場合は反射層ではなく吸収層)でも代用可能である。しかしながら、その層としては、分析用入射光の波長の光を透過し、かつ化学発光や蛍光などの波長の光を反射する反射層、例えば誘電体の多層膜の方が好ましい。これら反射層および吸収層は、いずれにしても光源からの分析用入射光の波長の光を反射せず、試料や試薬の光学的変化である化学発光や蛍光などの波長の光だけを入射側へ導くような膜である。
即ち、第1の反射層2に代えて有機薄膜(吸収層)が設けられている場合は、それによって分析用入射光の波長の光が吸収されるため、分析用入射光が反射せず、化学発光や蛍光への混入を低減できる。化学発光や蛍光などの波長の光は、点光源からの放射光であるため、一部が入射側へ進み、ピックアップにて検出できる。これにより、分析用入射光の影響を低減して、化学発光や蛍光などの検出すべき光を感度良く検出できる。したがって、反射層2は、これに代えて吸収層であってもよい。
これに対し、第1の反射層2を誘電体多層膜とすると、その層は化学発光や蛍光などの波長の光だけを反射させることができる。後でも詳述するように、誘電体多層膜では、分析用入射光の波長の光を反射させずに透過させる。上記のように化学発光や蛍光などの波長の光は、点光源からの放射光であるため、一部がそのまま入射側へ進むものの、他の一部は誘電体多層膜にて反射された後に入射側へ進むため、より多くの光をピックアップにて検出できる。これにより、吸収層ではなく反射層の方が、分析用入射光の影響を低減して、化学発光や蛍光などの検出すべき光をさらに高感度で検出できる。
なお、上述のような反射層や吸収層ではなく、入射光を透過して入射側へ反射しない構造であってもよく、この場合は反射層や吸収層が無い構造か、もしくは入射光の波長も化学発光や蛍光の波長も透過する透過層となる。この場合でも入射光は入射側へ反射されず、また化学発光や蛍光も反射されないが、化学発光や蛍光は全角度に放射されるため、入射側へも進むため、入射光を含まず化学発光や蛍光のみが検出される。つまり、少なくとも入射光を反射しない構造である必要があり、加えて化学発光や蛍光のみを反射する構造であればさらによいことになる。
次に、第2の反射層3を案内溝11の領域に成膜する。この第2の反射層3は、少なくとも入射光の波長(例えば400nm)の光を反射する膜であり、例えばアルミニウムや銀などの金属薄膜が用いられ、厚みは10〜50nmである。トラッキングサーボにより案内溝5に光ビームを追従させるには、案内溝5において入射光を反射する必要があり、第2の反射層3はこのためのものである。したがって、第2の反射層3は従来から反射層として使われている金属薄膜でよい。
なお、図1に示した分析用基板1の例では、成膜プロセスを簡略化するために、第1の反射層2を基板13における入射側面の全体に成膜した後、その上の必要な領域のみに第2の反射層3を成膜している。ただし、流路溝14においては第1の反射層2を、案内溝5においては反射層3を少なくとも成膜すれば、それぞれの機能を満足する。したがって、必要に応じてマスクを使用し、案内溝5においては第1の反射層2を成膜せずに、第2の反射層3のみを成膜しても構わない。
第2の反射層3の上にはさらに絶縁層4が設けられる。この絶縁層4にはSiNやSiO2などの誘電体が使用される。この絶縁層4は第2の反射層3を覆うように成膜される。これによって、第2の反射層3が金属である場合に、流路8内の試料や試薬などの溶液に触れることを防止できる。仮に、この絶縁層4がない場合は、第2の反射層3が流路8を流れる試料や試薬などの溶液に直接触れるため、流路8内に偽電極が形成されること、あるいは流路8内の電場が乱されることなどの不都合が生じ、例えば、流路8内での電気泳動を良好に行えないといった問題を招来する。
上記絶縁層4は接着層6を介してカバー層7と接着される。接着層6は、例えばUV硬化樹脂を使用し、厚みは数μm〜数十μmである。絶縁層4の表面は、最終的に案内溝5と隔離部9を形成する。隔離部9は、接着層6と直接接着される部分であり、流路溝14を密閉し、また流路溝14と案内溝5とを隔離する。これにより、流路8(流路溝14)における試料、試薬などの溶液が案内溝5に漏れることを防ぐ。カバー層7はプラスチックやガラスを用い、厚みは0.1mmである。
次に、上記のようにして形成された分析用基板1における試料の分析原理について説明する。
分析用基板1に対して分析用入射光を入射させる場合、この分析用入射光は、a1およびa2で示される光路を通り、対物レンズ10にて集光され、案内溝5と同一平面上で焦点を結ぶように制御される。
例えば、入射光の波長は400nm、対物レンズ10の開口数は0.85である。分析用入射光が流路8に照射されると、この分析用入射光は、流路8における接着層6の近傍位置に焦点を結んだ後、再び発散し、流路8内の試料、試薬、バッファなどの溶液を照射する。これにより、流路8が例えば電気泳動に使用される場合は、流路8を満たした溶液中の試料に化学結合した蛍光剤が蛍光a5を発する。この蛍光剤として例えばFIC-I(同仁化学製)を使用すると、蛍光の波長は540nmとなる。
反射層2は入射光の波長400nmを透過し、検出光(蛍光)の波長540nmを反射する。したがって、蛍光a5(波長540nm)のうち、光路a6,a7にて示すように、直接対物レンズ10の方向へ向かうものもあれば、光路a8,a9にて示すように、第1の反射層2にて反射され、対物レンズ10の方向へ向かうものもある。このように、上記蛍光a5は、例えばa6〜a9示す軌跡をたどって、対物レンズ10を介して光学ピックアップに導かれる。
また、分析用入射光のうち上記蛍光a5を励起しなかった光(波長400nmのうち、変化が生じなかった光)は、反射層2を透過するため、入射側へは反射せず、a3やa4で示される光路を通って、流路8から出て行く。即ち、流路8からの反射光のほとんどは波長変化を伴った化学発光や蛍光などの光(波長540nm)となる一方、蛍光に関与しなかった分析用入射光(400nm)はそのまま透過する。したがって、反射光(540nm)を電気的に検出すれば、化学発光や蛍光などの光学的変化を高感度で検出できる。
図2は、第1の反射層2の構成を具体的に説明する縦断面図である。第1の反射層2は、2種の誘電体膜21および22を交互に重ねた多層膜からなる。この多層膜が反射の機能を生じるためには、一方の誘電体膜21が高屈折率を持ち、他方の誘電体膜22が低屈折率を持つ必要がある。さらに、それぞれの厚みを、反射すべき光学波長の4分の1に設計すると、反射効率が最も高くなることが良く知られている。即ち、第1の誘電体膜21の屈折率をn1、第2の誘電体膜22の屈折率をn2、反射する波長をλ、2つの誘電体膜21,22の厚みをd1,d2とすると、d1=λ/(4×n1)、d2=λ/(4×n2)となる。
例えば、第1の誘電体膜21として高屈折率を持つ二酸化チタン(TiO2)を選び、第2の誘電体膜22として低屈折率を持つ二酸化珪素(SiO2)を選ぶ。二酸化チタンの屈折率n1を2.5、二酸化珪素の屈折率n2を1.5とし、反射すべき蛍光の波長を上述のとおり540nmとすると、第1誘電体膜21(二酸化チタン)の厚みd1は53nm、第2誘電体膜22(二酸化珪素)の厚みd2は90nmとなる。
図2には、第1の反射層2として、第1の誘電体膜21(二酸化チタン)の層数を4層、第2の誘電体膜22(二酸化珪素)の層数を3層とし、交互に積層した例を示す。第1の反射層2は、積層数が多いほど反射の効率は高くなるものの、積層後の膜厚が厚くなる。このため、案内溝5の形状を維持できなくなる。したがって、積層数は数層から10層程度が適切である。このように第1の反射層2として誘電体多層膜を使用すると、分析用入射光の波長400nmの光は透過し、蛍光の波長540nmの光は反射するため、上述のとおり、化学発光や蛍光などの光学的変化のみを高感度で検出できる。
上記の例では、反射率が最大となる場合を示しているが、反射率は最大でなくても高感度となる反射率であれば良い。したがって、上記の例に限らず、層数や層厚などは適宜設計してもよい。少なくとも絶縁体である誘電体層を使用して反射膜を形成すればよい。
第1の反射層2は、上述したように有機薄膜の吸収層で代用することが可能であるものの、この場合には吸収スペクトルが急峻ではないため、波長に対する選択性が低い。一方、誘電体多層膜を使用すると、反射スペクトルが鋭くなるため、波長選択性が非常に高くなり、分析用入射光(光源光)と検出光(化学発光や蛍光など)を感度良く分離することができる。
なお、図2に示した第1の反射層2における積層構造から、第1の反射層2が設けられる流路溝14の表面は第1の誘電体21(二酸化チタン)となり、これは疎水性の薄膜である。そこで、第1の誘電体21を酸素プラズマ中にて表面処理することにより親水性に変化させれば、試料や試薬などの溶液をスムーズに流路8に満たすことができる。
また、蛍光のみを検出する構成としては、第1の反射層2を使用せずに、ピックアップの中に波長フィルタを入れるものが容易に考えられる。この構成によれば、分析用入射光(400nm)と蛍光(540nm)が混じった反射光から、波長フィルタを使って蛍光(540nm)のみを検出できる。しかしながら、この場合には、通常の光ディスク装置のピックアップに余分な光学部品を挿入する必要があり、光の利用効率や、量産性の低下などの問題が生じる。これに対し、本実施の形態の構成によれば、ピックアップは通常の光ディスク装置に使用するものと同等であり、フィルタを入れる必要が無いため、互換性や汎用性のある分析装置を提供できる。
図3は、分析用基板1において、光ビームのトラッキングにより、分析用入射光が流路8を通り過ぎて、案内溝5のトラッキング領域に移った状態を示す分析用基板1の縦断面図である。
同図に示すように、分析用入射光はb1およびb2で示される光路を通って、案内溝5に集光される。このとき、分析用入射は、その波長(400nm)の光を反射する第2の反射層3によって反射され、同じくb1およびb2を通って光学ピックアップへ戻る。これによって、光ビームは案内溝5に追従することができる。したがって、案内溝5が流路8の所望の位置を横切る(だだし、流路8自体には存在しない)ように成型しておけば、光ビームによって流路8における所望の位置の試料を分析できる。後述するように、流路8を通過する期間にはトラッキング制御が保持されているため、流路8自体に案内溝5が存在しなくても、流路8の通過前の案内溝5’からその延長上にある案内溝5へ連続して安定なトラッキングが行われる。
基板13における案内溝5形成側(流路溝14形成側)とは反対側の面には、電極51(51a〜51d)が成膜されている。この電極51は、例えば以下に示すようにスパッタ法を用いて導体を蒸着することにより、後述の液溜・注入口41(41a〜41d)内にも同時に導体を蒸着することが可能であるため、電極51(51a〜51d)と液溜・注入口41(41a〜41d)とが接続される。
図4は、分析用基板1が備える流路8、液溜・注入口41の構造を断面を用いて示す斜視図である。同図では、図1および図3の断面と同一の断面を含んでおり、説明の便宜上、成膜された各層を省略し、また一例として電気泳動を行う分析用基板を示している。
基板13には、前述の流路溝14および案内溝5の他に、液溜・注入口41があらかじめ成型されている。この液溜・注入口41には、電極51が接続されている。電極51は、白金やアルミニウムの薄膜などの金属を使用し、スパッタ法などの手法により成膜される。図4では、液溜・注入口41と電極51との一対のみ示しているものの、後述するように、基板13には液溜・注入口41と電極51との複数対が設けられている。
液溜・注入口41には試料や試薬などの溶液が注入される。誘電体多層膜からなる第1の反射層2は、流路溝14および案内溝5を含めて、基板13の一方の面(分析用入射光の入射側面)の全面に成膜する方が作製が容易である。しかしながら、少なくとも流路8の内部(流路溝14の内面)に成膜されていれば良い。
第1の反射層2は、誘電体多層膜からなり絶縁体であるため、流路8内に偽電極が形成されること、あるいは電場が減少することがない。即ち、第1の反射層2としては、反射の機能だけでなく、絶縁体の機能も備えた誘電体多層膜が適している。
金属薄膜である第2の反射膜3は、電気泳動などおける電界を乱さないように、流路8および液溜・注入口41には成膜せず、案内溝5の領域に成膜される。したがって、流路8への分析用入射光の入射側面には案内溝5や第2の反射膜3が無いため、分析用入射光は、遮られることあるいは散乱されることが無く、流路8内の試料や試薬などの溶液に適切に照射される。また、化学発光や蛍光などの光学的変化光は、第1の反射膜2にて反射され、同様に遮られること無く、光学ピックアップへ導くことができる。
上記のような分析用基板(分析ディスク)1を使用する分析装置(分析ディスク装置)としては、例えば上述のように光源から分析用入射光として出射されるレーザの波長が400nm、対物レンズ10の開口数が0.85のピックアップを備える。この場合、集光された光スポットの径は約500nmとなるので、案内溝5の幅は100〜400nmが適切である。この幅は、上記レーザの波長や対物レンズ10の開口数が変われば、勿論それに応じて変える必要がある。
案内溝11のピッチは、通常の光ディスクでは、高密度記録を行うためになるべく短くされており、300nm〜1μmである。しかしながら、電気泳動などの分析を行う分析用基板1において、案内溝11のピッチは、分析対象の分解能に依存するため、通常の光ディスクのピッチよりも大きくし、例えば数μmから数十μmとした方がよい。これは通常の光ディスクの場合の10倍〜100倍である。案内溝11のピッチを大きくするほど、分析対象を走査するピッチに等しい分解能が低下する傾向にある。しかしながら、この場合には、ディスク1回転当たりの光ビームの移動量が大きいため、高速で分析対象を走査することができる。これにより、案内溝11のピッチは数μmから数十μmが適切である。
以上の例では、入射光をカバー層7側から入射する例を示したが、これに限らず、逆に基板13側から入射する構造としてもよい。この場合は、流路溝8の基板13側とこれに接するカバー層7側のどちらにも第1の反射層がないか、あるいは流路溝8の基板側13には第1の反射層が無く、カバー層7側には第1の反射層がある構造となる。そうすれば、同様に入射光は反射されず、化学発光や蛍光のみが入射側へ進むため、高感度で検出できる。要するに、入射光の入射面には限定されず、少なくとも流路溝8の基板13側とこれに接するカバー層7側の両方の面に入射光を反射する反射層がなければよい。
図5は、上述した分析用基板1の構成を適用し、光ディスク形状に形成された分析ディスク50を示す平面図である。この分析ディスク50は電気泳動を使った分析を行うことができる。分析ディスク50には、後述する分析装置のターンテーブルの中心に分析ディスク50を固定するための中心穴53と、回転角度を固定するための切欠き部54が設けられている。
分析ディスク50には、電気泳動のための分析チップ55が4つ搭載されている。1つの分析チップ55は、十文字に形成された、前記流路8に相当する泳動路57と泳動路端に設けられた、前記液溜・注入口41に相当する4つの液溜・注入口41a〜41dと、これらの液溜・注入口41a〜41dに接続された、前記電極51に相当する電極(電源接続配線)51a〜51dを備えている。この分析チップ55の構造は、電極51a〜51dを除けば、一般に使われている構造と同等であり、例えば特開2003−66003公報(平成15年3月5日公開)に分析例と共に開示されている。
泳動路57は、分析ディスク50の径方向に延びる第1泳動路57aとこの第1泳動路57aに直交する方向に延びる第2泳動路57bとからなり、これらが十字形をなすように配置されている。液溜・注入口41a〜41dは、泳動路57の4個の端部に泳動路57と連通するように各1個が配置されている。即ち、第2泳動路57bの一端部に液溜41a、他端部に41cが配置され、第1泳動路57aの一端部に液溜41b、他端部に41dが配置されている。
泳動路57の幅および深さは数μm〜数百μmであり、液溜・注入口41a〜41dの直径は数百μm〜数mmである。このように細い泳動路57は一般にマイクロキャピラリと呼ばれている。泳動路57は、上述のようにカバー層7によって密閉されている一方、液溜・注入口41a〜41dは、試料や試薬などの溶液が注入されるため、分析ディスク50の表面に露出している。
また、本実施の形態では、液溜・注入口41a〜41dに接続された電極51a〜51dが分析ディスク50の最内周部に引き出して形成され、それら電極端部に後述する分析ディスク装置からコネクタを介して電気泳動用の電源が供給される。具体的には、液溜・注入口41aに電極51a、液溜・注入口41bに電極51b、液溜・注入口41cに電極51c、液溜・注入口41dに電極51dがそれぞれ接続されている。電極51a〜51dは、白金やアルミニウムなどの金属薄膜をスパッタにて成膜したものである。なお、本実施の形態において、分析チップ55は、電気泳動が行われるものとして説明しているが、これに限らず、インキュベーションやカラムクロマトグラフィーなどが行われるものであってもよい。
上記の分析ディスク50において、分析プロセス(電気泳動プロセス)では、バッファ溶液を図1に示した液溜・注入口41a〜41dに注入し、その後サンプル溶液(例えばDNA断片溶液)を液溜・注入口41aに注入して、まずは電極51cを+電圧電源(数十〜数百ボルト)に接続し、電極51aをグランドに接続する。この時、電極51bと電極51dは開放しておく。これにより、液溜・注入口41cに+電圧(数十〜数百ボルト)が印加され、液溜・注入口41aにゼロボルトが印加され、注入されたサンプル(DNA断片:マイナスに帯電)は泳動路57(マイクロキャピラリ)の中を液溜・注入口41a(−電極)から液溜・注入口41c(+電極)に向かって泳動する。
次に、サンプル溶液に含まれるサンプルが泳動路57における十文字の交点に到達すれば、液溜・注入口41a,41cを電気的に開放する一方、電極51dを+電圧電源(数十〜数キロボルト)に接続し、電極51bをグランドに接続する。したがって、電気泳動用の電極は、電極51a,51cから電極51b,51dに切り替えられる。これにより、液溜・注入口41dに+電圧(数十〜数キロボルト)が印加され、液溜・注入口41bにゼロボルトが印加され、注入されたサンプルは泳動路57の中を液溜・注入口41bから液溜・注入口41dに向かって泳動する。このようなマイクロキャピラリにおける電気泳動分析の原理は良く知られているため、詳細な説明は省略する。
ここで、電極51a〜51dは、図3に示したように、分析ディスク50において分析用入射光の入射面とは反対の面に形成されている。したがって、分析用入射光が電極51a〜51dによって遮られることが無く、分析感度を高く保つことができる。また電極51a〜51dの配線の自由度が増すため、製造が容易となる。また、電極51a〜51dの配線に必要な面積も十分に広くできるため、配線抵抗を低く押さえ、効率的な電流の供給が可能である。
本分析ディスク50には、他に案内溝5と番地情報を記録した番地情報記録部52が設けられ、泳動路57の所望の位置を光ビームでアクセスし、かつトラッキングしながら検出(分析)できるようになっている。
具体的には、分析ディスク50には、例えば4個の分析チップ55がそれぞれ90度の角度をおいて設けられ、隣り合う分析チップ55同士における隣り合う泳動路57同士の間には、ディスク径方向に並ぶ多数の案内溝5が形成され、これら案内溝5における中途位置には番地情報記録部52が設けられている。したがって、光ビームは、1つのトラック(案内溝5)を走査している場合、案内溝5のトラッキング領域→番地情報記録部52→案内溝5のトラッキング領域→泳動路57の順にこれらを繰り返し走査することになる。
図6は、分析装置における、分析ディスク50を載置して回転させるターンテーブル81の回転機構(移動手段)72とディスク押さえ71とを示す斜視図である。なお、同図において、ディスク押さえ71はそれに形成された接点(中継接続配線)77a〜77dを明示するため、上下を逆転させて記載している。
回転機構72は、ターンテーブル81、回転軸73、スピンドルモータ74、ディスク中心出し部78および回転角度固定具79から成る。分析ディスク50はターンテーブル81に載置される。この場合、分析ディスク50は、中心穴53がターンテーブル81のディスク中心出し部78に嵌合され、ターンテーブル81に対する回転が回転角度固定具79によって阻止される。即ち、分析ディスク50の中心穴53にディスク中心出し部78が入り、切欠き部54に回転角度固定具79が入ると、分析ディスク50は回転中心とターンテーブル81に対する回転方向の角度が固定される。これにより、後述するように、分析ディスク50の電極51d〜51dとディスク押さえ71の接点77a〜77dとがずれることなく接続される。ターンテーブル81の凸状に形成されたディスク中心出し部78の周囲には、ディスク押さえ71の接点77a〜77dと接続される接点80a〜80dが設けられている。
分析ディスク50がターンテーブル81に載置されると、その分析ディスク50の上に固定用のディスク押さえ(スピンドルキャップ)71が配される。このディスク押さえ71は、一般に良く知られているように、分析ディスク50に対して上部から圧力を加えることによって、もしくは磁気力によって、分析ディスク50をターンテーブル81上に強固に固定するものである。
ディスク押さえ71には接点77a〜77dが設けられている。これら各接点77a〜77dは、分析ディスク50の各電極51a〜51dおよびターンテーブル81の接点80a〜80dに対応しており、ディスク押さえ71の下面から中心穴75の内面に向かって延びている。接点77a〜77dにおけるディスク押さえ71の下面部分は、分析ディスク50の電極51a〜51dと接触する第1接触部77a1〜77d1であり、中心穴75の内面に延びた部分は、ターンテーブル81のディスク中心出し部78における接点80a〜80dと接触する第2接触部77a2〜77d2である。
分析ディスク50上にディスク押さえ71が配された場合、分析ディスク50の電極51a〜51dは、ディスク押さえ71の接点77a〜77dにおける第1接触部77a1〜77d1に接続され、ターンテーブル81の接点80a〜80dはディスク押さえ71の接点77a〜77dにおける第2接触部77a2〜77d2に接続される。これにより、分析ディスク50の各分析チップ55へは、ターンテーブル81および回転軸73を介して電気泳動のための電源を供給することができる。したがって、分析ディスク50を回転させながら分析チップ55において電気泳動を行うことが可能となる。即ち、電気泳動を行いながら、分析ディスク50を高速にて回転させ、光ビームによって素早く試料の検出(分析)を行うことができる。
図7は、本実施の形態の分析装置60における主要部の構成を示すブロック図である。同図に示すように、分析装置60は、対物レンズ10、この対物レンズ10を駆動するアクチュエータ61、および光学系部62aからなる光ピックアップ62を備えている。光学系部62aは、対物レンズ10およびアクチュエータ61以外の、例えば半導体他レーザやその他、光ピックアップ62を構成するための周知の手段からなる。分析装置60は、さらに、光量検出回路65、番地再生回路64、コントローラ(トラッキング手段)69、サーボ回路(トラッキング手段)63およびメモリ66を備えている。なお、同図において、対物レンズ10とアクチュエータ61とは、それらの存在を明確にする便宜上、光ピックアップ62とは別に記載している。
光量検出回路65は、上記光ピックアップ62によって検出された光学情報に基づき、試料や試薬によって生ずる光学的変化(化学発光や蛍光など)を検出する検出手段として機能するものである。番地再生回路64は、分析ディスク50に設けられている番地情報記録部52を光ビームiが走査することによって得られる信号から読み取る。これにより、その光ビームiが、どの分析チップ55(電気泳動チップ)を横切って走査したかを読み取るとともに、その光ビームiが泳動路57のどの位置を走査したのかを示すトラックの番地情報を得る。
上記の分析装置60において、光ピックアップ62から出射された光ビームiは対物レンズ10によって集光され、分析ディスク50の案内溝5または番地情報記録部52に集光される。案内溝5または番地情報記録部52からの反射光は再び光ピックアップ62に戻り、光ピックアップ62はフォーカス誤差信号・トラック誤差信号j、光量検出信号cを出力する。
フォーカス誤差信号・トラック誤差信号jはサーボ回路63を介してアクチュエータ61にフィードバックされ、フォーカスサーボおよびトラックサーボ処理が行われる。光量検出信号cは番地再生回路64と光量検出回路65に入力される。番地再生回路64では番地情報gを検出し、この番地情報gをコントローラ67と光量検出回路65に送る。コントローラ67では、番地情報gを確認しながら制御信号fをサーボ回路63に出力し、光ビームiを所望の位置にアクセスさせる処理を行うとともに、後述するようにサーボ回路63をオンにする処理、あるいはホールド(保持)する処理を行う。
光量検出回路65からは、番地情報gのトラック位置における泳動路57からの光量検出データhが出力される。即ち、光量検出回路65は、どの分析チップ55の流路8であるかを示す流路識別情報(流路記号など)、トラック識別情報(流路上の位置を示すトラック番号)などの番地情報とともに、光量検出データhを出力する。なお、試料や試薬の光学特性の変化に応じて、光量検出信号cのレベルが変化する。このため、光量検出回路65は、例えば、8ビットのA/D変換回路(サンプリング手段)を備え、検出光量をデジタル処理することが好ましい。そして、光量検出回路65から出力された光量検出データhは、メモリ66に格納され、必要に応じて出力される。
図8(a)〜図8(c)は、光ビームiが案内溝5、番地情報記録部52および泳動路57上を走査した場合の制御信号f、光量検出信号cおよび光量検出データhを説明する概略の波形図である。
分析ディスク50が矢印Y方向(図5参照)に回転している状態において、図7における光ビームiが何れかの案内溝5を走査すると、光ビームiは、最初、案内溝5のトラッキング領域を通過する。そして、順次、番地情報領域、トラッキング領域、泳動路領域、トラッキング領域へと移動していく。
最初のトラッキング領域では、図8(a)に示すように、制御信号fをハイレベルとし、サーボをオンにする。このときには、案内溝5を読み出すのみであるため、光量検出信号cは、図8(b)に示すように、一定レベルとなる。即ち、光量検出信号cは、第2の反射膜3からの反射強度レベルとなる。このレベルは反射率によって予知できる。
続いて、光ビームiが番地情報領域に移動した場合、制御信号f(図8(a))はハイレベルのままとし、サーボをオンにしておく。この場合、番地情報記録部(凹凸のピットの断続)52によって光ビームiが回折するため、光量検出信号c(図8(b))には番地情報が現れる。回折によって若干レベルが下がるものの、この低下量も予知できる。
次に、光ビームiが再びトラッキング領域に移動した場合、制御信号f(図8(a))は同様にハイレベルに維持し、サーボをオンにしておく。この場合、光量検出信号c(図8(b))は一定レベル、即ち第2の反射膜3からの反射強度レベルとなる。
次いで、光ビームiが流路領域(泳動路57、流路8)に移動すると、制御信号f(図8(a))をローレベルとし、サーボをホールド(保持)する。この場合、流路8に光ビームiが集光されるため、光量検出信号c(図8(b))は、試料や試薬における光学的変化(化学発光や蛍光など)によって電圧レベルが変化する。このとき、上述した光量検出回路65が有するA/D変換回路(サンプリング手段)によって実線で示す光量検出データh(図8(c))がサンプリングされる。なお、試料や試薬(DNA)が流路8上の光ビームiの走査位置にない場合は、破線で示すように検出データhは得られない。
続いて、光ビームiが再びトラッキング領域に移動した場合、制御信号f(図8(a))をハイレベルとし、サーボをオンにする。この場合、光量検出信号c(図8(b))は元の上記一定レベルとなる。
なお、光ビームiが泳動路57を横切る時間が十分に短い場合には、サーボ帯域よりも高い周波数で横切ることになり、サーボ制御を乱すこと無く、安定してトラッキングサーボを行うことができる。この場合は、上記のようにサーボのオンまたはホールドの切り替えは必要ない。しかしながら、光量検出データhのサンプリングのみは必要となる。
このように、分析装置60では、案内溝5が泳動路57(流路8)によって途切れた場合に、追従を保持するトラッキング制御が行われるため、泳動路57(流路8)の通過前のトラッキング状態を泳動路57(流路8)通過後に維持できる。このため、泳動路57(流路8)によってトラッキングサーボが乱されることが無く、光ビームを泳動路57(流路8)の所望の位置に安定してアクセスすることができる。
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。