図1(a)(b)に示した第1実施例は、リング本体1の周方向の一箇所に一定の間隙をおいて相互に対向する合い口2、2’を設け、その合い口2、2’の先端面3をストレート面に形成した、いわゆるストレートカット型の合い口2、2’を有するシールリングである。
このシールリングの各合い口2、2’の先端面3とリング本体1の外径面4との境界に面取り部5が設けられる。この面取り部5は、図示のように所定の曲率をもった円弧状のもの(アールともいう。)でもよいが、曲率が0のもの、すなわち斜面による面取り状のもの(チャンファーともいう。)であっても差支えない(このことは以下の各実施例の場合も同様である。)。このような面取り部はクラウニング部ともよばれる。このようなクラウニング部は、例えば、連続して曲率がさまざまに変化するような、クラウニング形状をとることができる。
このような形状にすると、装着状態において、シールリングと相手部材との曲率の不一致があっても合い口2、2’の先端部分の突出量が零となるか又は少なくなり、局部的接触を防止することができる。
図2(a)(b)(c)に示した第2実施例は、ステップカット型の合い口9、9’を有する場合である。この合い口9は外径面側突起10と内径面側段部11から成り、合い口9’は、内径面側突起13と外径面側段部14から成る。合い口9の外径面側突起10と合い口9’の外径面側段部14、合い口9の内径面側段部11と合い口9’の内径面側突起13とが相補的に一定の間隙をおいて嵌合するものであり、更に詳細に説明すると次のとおりである。
即ち、(c)図に示すように、合い口9について、リング本体1から外径面側突起10が周方向に突き出す部分面を基準とし、この面を段差面15と呼ぶことにすると、外径面側突起10は、その段差面15の内外(リング本体1の内径側と外径側)に二分した場合の外径側に設けられ、その外径面側突起10の外径面8は、リング本体1の外面と段差なく連続し、同じ曲率をもつように形成される。また、内径面側段部11は、上記外径面側突起10の内径面側に設けられている。
他方の合い口9’は、上記の合い口9と相補的な形態に形成されており、内径面側突起13は、その段差面15’の内外(リング本体1の内径側と外径側)に二分した場合の内径側に設けられている。また、外径面側段部14は、上記内径面側突起13の外径面側に設けられている。
両方の合い口9、9’は一定の間隙をおいて相互に嵌合し、シールリングは全体として真円形に似た形状となっている。
この発明の特徴は、外径面側に面して有している角部に面取り部を設けたものである。具体的には、上記のごときステップカット型の合い口9、9’を有するシールリングにおいて、外径面側突起10の先端面12とその外径面8との境界に面取り部7を設け、また外径面側段部14の段差面15’とリング本体1の外径面8’との境界にも面取り部7’を設けたものである。
この場合も、これらの面取り部7、7’により、合い口9、9’の部分の突出量が零となるか、又は少なくなるので、相手部材との局部的接触を防止することができる。
図3(a)(b)(c)に示した第3実施例は、複合ステップカット型の合い口16、16’を有する場合である。この合い口16、16’は外径面側突起17と外径面側段部18から成り、両方の合い口16、16’の外径面側突起17と外径面側段部18、外径面側段部18と外径面側突起17とが相補的に一定の間隙をおいて嵌合するものであり、更に詳細に説明すると次のとおりである。
即ち、(c)図に示すように、一方の合い口16’について、リング本体1から外径面側突起17が周方向に突き出す部分及び外径面側段部18を形成する凹所が反対方向へ延び出す部分の内径面側の先端の面を基準とし、この面を突き合わせ面19と呼ぶことにすると、外径面側突起17は、その突き合わせ面19を左右両側に二分した場合の一側面側、かつ内外(リング本体11の内径側と外径側)に二分した場合の外径側に設けられ、その外径面側突起17の外径面26は、リング本体1の外面と段差なく連続し、同じ曲率をもつように形成される。
また、外径面側段部18は、上記の突き合わせ面19を同様に左右及び内外に二分した場合の他側面側、かつ外径側に設けられ、その外径面側段部18の内面22は、リング本体1の内径面と同じ曲率をもつように形成される。
他方の合い口16は、上記の合い口16’と相補的な形態に形成され、両方の合い口16、16’は一定の間隙をおいて相互に嵌合し、シールリングはほぼ真円形をなす。
この発明の特徴は、外径面側に面して有している角部に面取り部を設けたものである。具体的には、上記のごとき複合ステップカット型の合い口16、16’を有するシールリングにおいて、各外径面側突起17の先端面23とその外径面26との境界に面取り部24を設け、また各外径面側段部18の段差面25とリング本体1の外径面26との間にも面取り部24’を設けたものである。
この場合も、これらの面取り部24、24’により、合い口16、16’の部分の突出量が零となるか、又は少なくなるので、相手部材との局部的接触を防止することができる。
図4(a)(b)(c)に示した第4実施例は、複合ステップカット型の一方の合い口16と、他方の合い口16’とを嵌合するときに生じる局部的接触による折れ、ひび等の破損を防ぐものである。複合ステップカット型の合い口16、16’の構造は、面取り部24、24’を除いて、図3(a)(b)(c)と同様である。
この発明の特徴は、一方の合い口16と、他方の合い口16’とが嵌合するときに互いに接触する面として有している角部に面取り部を設けたものである。具体的には、上記のごとき複合ステップカット型の合い口16、16’を有するシールリングにおいて、各外径面側突起17の先端面23と、合い口16、16’が嵌合したとき前記各外径面側突起17が向き合う外径面突起内面27との境界に面取り部30を設け、また、各外径面側突起17の先端面23と、合い口16、16’が嵌合したとき前記各外径面側突起と外径面側段部18とが向き合う面である外径面側段部内面22との境界に面取り部30’を設け、さらに、前記外径面側段部内面22と、合い口16、16’の突き合わせ面19との境界に面取り部30’’を設けたものである。
この場合、これらの面取り部30、30’、30’’により、合い口16、16’を嵌合するときに生じる局部的接触が回避されるか、又は少なくなるので、お互いの合い口の破損等が防ぐことができる。
図5(a)(b)(C)に示した第5実施例は、上記の第3実施例の構成と第4実施例の構成を組み合わせたものである。
この発明の特徴は、外径面側に面して有している角部、及び一方の合い口16と、他方の合い口16’とが嵌合するときに互いに接触する面して有している角部に面取り部を設けたものである。具体的には、複合ステップカット型の合い口16、16’を有するシールリングにおいて、前記各外径面側突起の先端面23とその外径面26との境界、及び前記各外径面側突起の先端面23と、前記外径面突起内面27との境界に面取り部24、24’を設け、前記各外径面側突起の先端面23と前記外径面突起内面27との境界に面取り部30を設け、前記各外径面側突起の先端面23と前記外径面側段部内面22との境界に面取り部30’を設け、さらに、前記外径面側段部内面22と、前記突き合わせ面19との境界に面取り部30’’を設けたものである。
この場合は、面取り部24、24’により、合い口16、16’の部分の突出量が零となるか、又は少なくなるので、相手部材との局部的接触を防止することができ、かつ、面取り部30、30’、30’’により、合い口16、16’を嵌合するときに生じる局部的接触が回避されるか、又は少なくなるので、お互いの合い口の破損等が防ぐことができるという、相乗効果を得ることができる。
図6(a)(b)(c)に示した実施例6は、上記の実施例5の構成に次の構成を加えたものである。即ち、この場合は、合い口16、16’の外径面側段部18の段差面25と、前記外径面側突起内面27及び外径面側段部内面22の境界に丸みであるすみ肉32、32’を設けたものである。上記すみ肉32、32’を設けることにより、上記の効果に加え、前記外径面側突起17及び外径面側段部18の補強がなされることになり、合い口16、16’を嵌合するときに生じる局部的接触による破損等が防ぐことができる。
実施例6は、実施例5にすみ肉32、32’を加えたものであるが、実施例5の場合だけでなく、実施例2〜4のいずれの場合にも用いることができ、実施例6の場合と全く同様のすみ肉を加えた効果を得ることができる。
また、図2の面取り部30’、30’’及びすみ肉32は、上記の他の実施例に記載の面取り部及びすみ肉と同様に、これらを設けることにより、嵌合時の局部的接触による破損等を防ぐことができる。
尚、前述の角部分に相当する部位以外の角部分を面取り形状、又はすみ肉を加えた形状としてもよい。
ところで、この面取り部分又はすみ肉部分の形状は、曲率ないしは斜面のものいずれでもよいが、より好ましい形状は曲率の面取り形状である。その面取り部分又はすみ肉部分の最小値付近の寸法は、シールリングの軸方向寸法又は径方向寸法のいずれかのうちの約5%〜50%程度、好ましくは約5%〜25%程度である。この値が小さすぎると、合い口部分の突出量がわずかに有る場合に相手部材を傷つけることが考えられる。
一方、曲率ないしは斜面のものの面取り部分又はすみ肉部分の形状の最大値付近の寸法は、シールリング外周径、内周径、ないしはそれらの中間部の径寸法のいずれかのうちの、約5〜50%程度、好ましくは、約25〜50%程度であればよい。この値が大きすぎると、面取り部を設けるという効果が薄れ、実質的にシールリングの外周径の曲率とほぼ同等の面取り部しか形成できず、合い口部分の突出量を零とするか、又は少なくすること期待できない。いずれにしても面取り部寸法はこれらの最小値以上又はこの値を越え、これらの最大値以下又はこれ未満の範囲であればよい。
図7(a)(b)に示した第7実施例は、上記の第3実施例の構成に次の構成を加えたものである。即ち、この場合は、一方の合い口16又は16’の外径面側突起17の内径側面と、これと対面した他方の合い口16’又は16の外径面側断面18の内面22との間に所定の間隙g1 を設けたものである。このようにすると、前記外径面側突起17がシールリングの外径面側へ突出する量が一層少なくなる。また、前記外径面側突起17及び外径面側断面18の厚さ方向の寸法公差もこの間隙g1 により吸収することができ、各前記外径面側突起17の外径面側への突出を防止する。
また、両方の合い口16、16’の各前記外径面側突起17の相互に対面する内側面27相互間にも所定の間隙g2 を設けている。この間隙g2 は各前記外径面側突起17の幅方向の寸法公差を吸収し、各前記外径面側突起17の両側面側への突出を防止する。
前記間隙g1 及びg2 は、他の実施例1〜6の合い口に設けた場合でも、実施例7の場合と同様に、各前記外径面側突起17の両側面側への突出の防止、及び、合い口16、16’を嵌合するときに生じる局部的接触による破損等の防止が図られる。
次に、合成樹脂製シールリングの製造方法について、上述の実施例3の複合ステップカット型の合い口16、16’を用いて説明する。これは、実施例3だけでなく、他の実施例1〜2、4〜7にも同様に適用できる。
まず、図8に示すように、合い口16、16’部分を離して、両者の間に半径方向の重なりのない形状に射出成形する。次に、図9に示すごとき、合成樹脂製又はゴム製の円柱体29及びリングゲージ31とからなる治具を用い、上記の成形品28をリングゲージ31の内径面に挿入し、その成形品28の内側に円柱体29を挿入する。上記の円柱体29を構成する樹脂はリングゲージ31より熱膨張率の大きい物質、例えばリングゲージ31より熱膨張率の大きい樹脂又はエラストマー等の重合物質等であり、加熱した際の熱膨張により成形品28の内側から強制力を加える。エラストマー系重合体の場合、ゴム硬度(Hs)が約60〜100程度、好ましくは65〜90程度であれば、良好な弾性強制力が得られ好ましいと考えられる。ゴム硬度が高すぎると硬すぎるため、成形品28の内側に円柱体29を挿入しずらく、ゴム硬度が低すぎると柔らかすぎるため、適度な弾性強制力が得られにくい。
次に、上記の治具全体を電気炉等に入れ、成形品28のベース樹脂のガラス転移点以上の温度になるよう加熱して、該成形品28の熱固定を行う。かくして、前述のごとき複合ステップカット型のシールリングを得ることができる。
上記の製造によって得られたシールリングの性能を知るため、耐久性の比較試験を行ったので、以下に示す。
(実験例の試験内容)
ポリエーテルエーテルケトン樹脂を主材料とし、カーボン繊維、四フッ化エチレン樹脂を充填材として配合した材料を用い、これを縦断面が略矩形、外径50mm、リング幅2.0mm、リング厚さ1.8mm、図3に示した複合ステップカット型の合い口16、16’を有するシールリングを、各合い口16、16’相互を広ろげた形態(図8参照)に射出成形し、次に、図9に示したように治具に装着して強制変形させ、その治具のまま電気炉に入れて200℃で2時間の熱固定を行った。
このようにして得られたシールリングを自動車用オートマチックトランスミッションオイル(昭和シェル石油製:デキシロンII(商品名))を使用し、シリンダ材質S45C、軸材質S45C相手材において、油圧1.5MPa、シリンダ回転数8000rpm(軸は固定)、油温120℃の条件で100時間の耐久試験に供し、リーク量及びシリンダの摩耗量を測定した。得られた結果を図10に示す。
(比較例の試験内容)
材料、縦断面形状、外径、リング幅、リング厚さ及び合い口の形態を実験例と同一とし、合い口を拡ろげ、かつ突起やポケットにクラウニング部のない角張ったものを射出成形により製作し、熱固定することなく、強制的に変形させて相手材に装着し、上記と同一の条件で耐久試験に供した。得られた結果を図10に示す。
(試験結果の考察)
図10に示すように、実施例のオイルシーリングは、リーク量が少なく、また、シリンダの摩擦量も著しく少ないことが確認された。
(シールリングの射出成形)
前記の合い口を有するシールリングは、通常の方法を用いることにより得ることができるが、より好ましい方法として次の方法があげられる。
図11(a)(b)に示した第8実施例のシールリング41は、一部に相い対向した前記記載の構造を有する合い口42を有し、この部分で分離されている。この分離部分は射出成形後、各合い口42を相互に噛み合わせて熱固定され、相手部材のシール溝に組付けるときは、その合い口42を押し広げる。
上記のシールリング41の全長のほぼ中央部に材料を注入するための注入位置43が存在する。この注入位置43は、通常射出成形時のゲート44の痕跡として残るので、その位置を知ることができる。また、ゲート44部分を平滑に加工等しても、その部位は拡大鏡等により認識できる。
上記のシールリング41の外径はφ70で、全長は約220mmである。注入位置が「ほぼ中央」とは、シールリング1の全長の中央部であって±30°の範囲内の位置をいう。
上記のシールリング41をポリエーテルケトン系樹脂を主材料とし、炭素繊維、四フッ化エチレン樹脂等のフッ素系樹脂等、固体潤滑材を充填材料として配合した材料により、縦断面が略矩形状となるよう、外径70mm、幅2mm、肉厚2mmにそれぞれ定めて射出成形し、寸法測定及び曲げ強度テストを行った。得られた結果を図13及び図14に示す。
図12に第9実施例を示す。この場合はシールリング41の全長の中央から若干ずらせた(±10°〜±30°程度)位置に材料注入位置43を有するものであり、材料の組成、寸法形状は、第8実施例と同様である。
この場合は相手部材のシール溝に組付ける際の応力が全長の中央に集中し、その中央から若干ずれた位置にある注入位置43に集中することが避けられる。特に、ステップカット形状のシールリングにおいて、ゲート位置をシールリングの全長の中央から±10°〜±30°程度ずれせば、成形後の熱固定やシールリングのピストンへの組み込み時にステップカットの突起部長さだけより多く広げたり閉じたりすることがあっても、ゲート部分に大きな力が加わることを緩和できる。
第8実施例と同じ組成、寸法、形状で、注入位置43をシールリング41の一方の合い口42近傍に定めて射出成形し、第8実施例と同時に寸法測定及び曲げ強度テストを行った。得られた結果を前記の図13及び図14に併記した。
この結果からわかるように、注入位置から150mmを越すと強度が低下し、幅寸法が減少することが認められた。
なお、注入位置43において強度低下が認められるが、機能上問題のないレベルである。
次に、図15は射出成形金型45の一部を示すものであり、前述のシールリング41を成形するためのキャビティ6が形成され、その全長のほぼ中央にゲート44を設けている。
上記のゲート44の位置は全長の中央から±30°以内の範囲、好ましくは±10°程度の位置に選定され、この金型45により前記第8実施例又は第9実施例のシールリングの射出成形が行われる。射出成形によって成形することにより、複雑な形状を有するシールリングを容易に製造することができる。
このようにして製造されたシールリングは、耐熱性に優れているので、特に、自動変速機用のオイルシールリングに好適である。
(他の形状のシールリングの例)
次に、他の形状のこの発明の合い口を有するシールリングについて説明する。
図16(a)〜(f)は、上記の合い口の構造を有する第10実施例のシールリング50である。そのリング50の一方の側面のシール面51にはほぼ3等分位置に内周側から外周側に貫通した潤滑溝52が形成され、また他方の側面のシール面21にも、若干位置をずらせて同様の潤滑溝52が形成されている。
これらの潤滑溝52は深さ0.1mm程度、幅0.1mm程度の微細なものであり、図示のように1〜5箇所、好ましくは1〜3箇所程度設けてもシール性を損わないものである。また潤滑溝52のシール面51側の開口端には、面取り部53が施される。
上記のシールリング50の断面形状は図16(d)(e)に示すように、両側シール面51と外周面54との間及び両側シール面51と内周面55との間にそれぞれ段差部56が設けられる。段差部56は図16(f)に示すようにシール面51に対する直角面57と、外周面54に対する直角面57’及びこれら両方の直角面57、57’間に形成された傾斜面58とから成り、その段差部56の高さhは、潤滑溝52の深さより高い。
上記の段差部56の高さhは特に限定しないが、シールリング50の矩形断面の半径方向の長さ、または、軸方向長さのそれぞれ約5〜50%程度、好ましくは、約5〜25%程度、更に好ましくは、約5〜10%程度とし、シールリング50の片面又は両面部に設けることが好ましい。上記いずれの数値範囲についても、下限値を超え、上限値未満の範囲に選定してもよい。
上記の段差の高さhが少なすぎると、金型の長期にわたる使用での可動型と固定型とのズレが比較的短い周期で発生した時に、不具合を招来する可能性があり、多すぎると、シールリングのシール部分面積、いわゆるシールランドが減少してしまうため、確実で、良好な密封特性に期待できない。
なお、合い口60の形状は上記の実施例1〜7のいずれの型を有していてもよい。実施例6を用いた場合の例を図21に示す。
図17は上記のシールリング50を合成樹脂で射出成形する場合の金型59の合せ面61の位置を示している。即ち、合せ面61は外周面54の一方の段差部56側の端に設定される。合せ面61をこのような位置に設定すると、バリ62は潤滑溝52から離れた位置に生じるので、該潤滑溝52を閉塞することがない。
図18(a)(b)は第11実施例のシールリング50であり、この場合の潤滑溝52は、両側シール面51の中央部分に全周にわたり形成された周溝63と、その周溝63から、外周方向及び内周方向にそれぞれ形成された外径方向溝64及び内径方向溝65とから成り、外径方向溝64と内径方向溝65の位置が周方向にずれている。
図19(a)(b)の第12実施例のシールリングの潤滑溝52は、周溝63と同一位置に形成された外径方向溝64と内径方向溝65とから成る。
図20(a)(b)は、シールリングの各種段差部56の形状の諸例を示すものであり、いずれも金型の合せ面61と潤滑溝52との間には段差があり、バリによって潤滑溝52が閉塞されることを防ぐ。また、これらはいずれも金型の合せ面61が直角面57’と一致するので、固定金型と可動金型の合わせ面が多少ずれても、外周面54又は内周面25側にはみ出す部分が生じることがない。
(シールリングの材料及び成形方法)
この発明のシールリングは、耐熱性樹脂、強化繊維、フッ素系樹脂、充填剤からなる樹脂組成物を成形することにより得られる。
前記耐熱性樹脂は、耐熱性を有していればどのような樹脂でもよいが、例えば、ポリシアノアリールエーテル系樹脂(以下、PENと略記する。)、ポリエーテル・エーテルケトン樹脂(以下、PEEKと略記する。)等の芳香族ポリエーテルケトン系樹脂(以下、PEKと略記する。)、芳香族系熱可塑性ポリイミド樹脂(以下、TPIと略記する。)、ポリアミド4−6系樹脂(以下、PA−46と略記する。),ポリフェニレンサルファイド系樹脂(以下、PPSと略記する。)等があげられる。これらは、高い耐熱性に加え、高い耐燃性、優れた機械的性質、優れた電気的性質、耐薬品性を有している。これらの材料は、この発明のオイルシールリングの成形ベース材料として用いられる。これらの耐熱性熱可塑性樹脂の融点は、少なくとも280℃以上あれば、この発明において好適に使用することができる。
この発明に用いられるPEEK等のPEKとしては、その融点が330℃以上であるケトン系ポリマーを限定なく採用することができる。PEKはエーテル結合(−O−)とケトン結合(−CO−)の両者を含んで芳香族環を結合したものであり、例として下記(化1)〜(化6)で表される構造単位を有する樹脂をあげることができる。これらは、いずれも結晶性の樹脂である。これらPEK樹脂は、熱的寸法性に優れており、熱固定などの熱収縮や、自動変速機等の高温下でのオイルシールリングとして用いても寸法変化が少なく、このような寸法精度を必要とする合い口形状のシールリングで高温下において使用される場合に好適である。
(nは、整数を示す。)
(nは、整数を示す。)
(nは、整数を示す。)
(nは、整数を示す。)
(nは、整数を示す。)
(nは、整数を示す。)
上記の樹脂のうち、(化1)の樹脂のガラス転移点(Tg)は約165℃、融点(Tm)は365℃であり、代表的な例として、英国アイ・シー・アイ社製:VICTREX−PEK 220G(商品名)が挙げられる。また、(化2)の樹脂のガラス転移点(Tg)は約150℃、融点(Tm)は334〜337℃であり、代表的な例として、英国アイ・シー・アイ社製:VICTREX−PEEK 150P(商品名)が挙げられる。また、(化3)の樹脂のガラス転移点(Tg)は約160℃、融点(Tm)は360〜380℃であり、代表的な例として、独国ヘキスト社製:HOSTATEC(商品名)が挙げられる。さらに、(化4)の樹脂のガラス転移点(Tg)は約170〜175℃、融点(Tm)は375〜381℃であり、代表的な例として、独国ビー・エー・エス・エフ社製:Ultrapek−A2000(商品名)が挙げられる。
上記PEEK等のPEK以外の耐熱性樹脂は、それぞれ市販されている周知の樹脂を採用することができる。具体例としては、PENとして出光興産社製:ID300(商品名)、TPIとして三井東圧社製:オーラム450(商品名)、PA−46として日本合成ゴム社製:スターニル TW300(商品名)、PPSとして呉羽化学社製:フォートロンKPS W214(商品名)等を例示することができる。
上記耐熱性樹脂の配合割合は、この発明の樹脂組成物に対して30〜82重量%が好ましく、30〜78重量%がより好ましい。なぜなら30重量%未満の少量では強度が低下してしまう結果となるからであり、82重量%を越える多量では、充填剤による補強効果が得られず、耐摩耗性が劣る結果となって好ましくないからである。
この発明における強化繊維としては、特に限定されるものではないが、炭素繊維や芳香族ポリアミド繊維を例としてあげることができる。
上記炭素繊維は、平均繊維径が1〜20μm、好ましくは5〜18μm、さらに好ましくは5〜15μmである。また、アスペクト比は、1〜80が好ましく、5〜50がより好ましい。なぜならば、平均繊維径が1μm未満の細いものでは繊維間の凝集が起こり、均一分散が困難となり、また20μmを越える太いものでは軟質相手材を摩耗させるからであり、平均繊維径が上記の範囲内では、このような傾向がより少なくなり好ましい。また、アスペクト比が1未満のものではマトリックス自体の補強効果が損われ機械的特性が低下し、逆に80を越えると混合時の均一分散がきわめて困難であって、摩耗特性に支障を来たし品質低下を招くなど好ましくないからである。アスペクト比が1〜80では、このような傾向が比較的少なく、好ましい結果が得られる。
また、上記芳香族ポリアミド繊維は、下記(化7)の式で表わされる繊維状の耐熱樹脂として周知のものであり、芳香族環がメタ位でアミド結合によって結合されたもの、芳香族環がパラ位でアミド結合によって結合されたもののいずれであってもよい。
このうち、パラ系芳香族ポリアミド繊維は、下記(化8)の式で表わされる反復単位を含むパラ系芳香族ポリアミド繊維である。
このパラ系芳香族ポリアミド繊維は、繊維軸方向に分子鎖が配列しているので、軸方向に高弾性・高強度であるが、直角方向には分子間力が弱いものである。このようにパラ系芳香族ポリアミド繊維は軸方向の強度によって、配合された樹脂組成物の耐摩耗性をよく向上させることができ、一方、繊維直角方向に圧縮力を受けると分子鎖が座屈しまたは破壊され易いので、軟質摺動相手材を損傷しないと考えられる。
また、パラ系以外の芳香族ポリアミド繊維を採用する場合は、四フッ化エチレン樹脂などのフッ素系樹脂の所定量を含むものを添加することによって、前記組成物と同様に軟質の摺動相手材を損傷せず、耐摩耗性に優れた組成物とすることができる。
このような芳香族ポリアミド繊維は、繊維長約0.15〜3mm、アスペクト比約1〜230程度の範囲のものがよい。また、平均繊維径が約1〜20μmのものが好ましく、より好ましくは約5〜15μmのものである。また、アスペクト比は、約1〜60のものが好ましく、より好ましくは約15〜40のものである。芳香族ポリアミド繊維が所定範囲未満の繊維長では、耐摩耗性が不充分となり、上記範囲を越える繊維長では組成物中の分散不良で好ましくない。また、アスペクト比が1未満のものでは、粉末形状に近くなって耐摩耗性改善効果が不充分となってマトリックスの補強効果がなくなり、機械的特性も低くなる。また、60を越えると混合時の均一な分散が困難となり、組成物の摩耗特性が一様でなくなる。
また、平均繊維径が約1μm未満の細径のものでは、マトリックスに混合した際に繊維間に凝集が起こり均一な分散が困難であり、平均繊維径が約20μmを越える太径のものでは、組成物が軟質相手材を摺動摩耗するおそれがある。平均繊維径が約5〜15μmのものではこのような傾向が全くみられずに極めて好ましい。
上記強化繊維の全樹脂組成物中の配合割合は、5〜45重量%、好ましくは10〜45重量%、さらに好ましくは10〜30重量%である。なぜなら、5重量%未満では成形体の耐摩耗性が殆ど向上せず、45重量%を越える多量では溶融流動性が著しく低下して成形性が悪くなるからである。同配合割合が10〜30重量%であれば、このような傾向が全くなく、好ましい結果が得られる。
この発明に用いるフッ素系樹脂としては、例えばポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEと略称する)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFAと略称する)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEPと略称する)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFEと略称する)、テトラフルオロエチレン−フルオロアルキルビニルエーテル−フルオロオレフィン共重合体(EPEと略称する)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFEと略称する)、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFEと略称する)、ポリフッ化ビニリデン(PVDFと略称する)、ポリフッ化ビニル(PVFと略称する)等が挙げられる。これらは、それぞれ単独もしくは、例えば1:10から10:1の範囲で前記2種以上の共重合体や3元共重合体等のフッ素化ポリオレフィン等であってもよく、これらは良好な固体潤滑剤としての特性を示す。
このうちPTFEは、融点が約327℃であり、約340〜380℃でも溶融粘度が約1011〜1012ポイズと高く、融点を越えても流動し難く、フッ素樹脂のなかでは最も耐熱性に優れた樹脂であると考えられている。このようなPTFEを採用する場合は、これが成形用の粉末であっても、また、いわゆる固体潤滑剤用の微粉末であってもよく、市販品としては三井・デュポンフロロケミカル社製:テフロン7J(商品名)、TLP−10(商品名)、旭硝子社製:フルオンG163(商品名)、ダイキン工業社製:ポリフロンM15(商品名)、ルブロンL5(商品名)などを例示することができる。また、アルキルビニルエーテルで変性されたようなPTFEであってもよい。一般にPTFEは、四フッ化エチレンの単独重合体で、圧縮成形可能な樹脂として市販のものを用いることができ、例えば喜多村社製:400H(商品名)等を採用することができる。
PFAとしては、三井・デュポンフロロケミカル社製:テフロンPFA−J(商品名)、MP−10(商品名)、ヘキスト社製:ホスタフロンTFA(商品名)、ダイキン工業社製:ネオフロンPFA(商品名)を、FEPとしては三井・デュポンフロロケミカル社製:テフロンFEP−J(商品名)、ダイキン工業社製:ネオフロンFEP(商品名)を、ETFEとしては三井・デュポンフロロケミカル社製:テフゼル(商品名)、旭硝子社製:アフロンCOP(商品名)を、また、EPEとしては三井・デュポンフロロケミカル社製:テフロンEPE−J(商品名)などを挙げることができる。
PTFE、PFA、FEP等のパーフルオロ系フッ素樹脂は、骨格である炭素原紙の周囲を全てフッ素原紙又は微量の酸素原子で取り囲まれた状態であり、C−F間の強固な結合により、フッ素系樹脂のなかでも比較的耐熱温度が高く、また、低摩擦係数、非粘着性、耐薬品性等の諸特性に優れており好ましい。PVDFとしては、呉羽化学工業社製;KFポリマー(商品名)などを例示できる。
上記フッ素系樹脂の配合割合は2〜25重量%、好ましくは5〜25重量%である。なぜなら2重量%未満では、自己潤滑性および耐摩耗性などの摺動特性の改良が顕著に認められず、また25重量%をこえると成形性が悪くなり、機械的特性が低下するからである。同配合割合が5〜25重量%であれば、このような傾向はほとんど見られず、好ましい結果が得られる。
この発明に用いられる充填剤は、例えば、粉末状タルクやカルシウム系粉末充填剤をあげることができる。
上記粉末状タルクは、平均粒径約0.5〜40μmが好ましく、約1〜30μmがより好ましい。約0.5μm未満の小粒では粒子間の凝集が起こって均一分散が困難となり、約40μmを越える大粒では表面平滑性が悪くなって好ましくないからである。
上記カルシウム系粉末充填剤としては、カルシウムの炭酸塩、硫酸塩、酸化物、水酸化物が挙げられ、なかでも炭酸カルシウムまたは硫酸カルシウムが好ましい。上記カルシウム系充填剤の平均粒径は、約0.5〜40μmが好ましく、約1〜30μmがより好ましい。約0.5μm未満の小粒では粒子間の凝集が起こり、均一分散が困難となり、また約40μmを越える大粒では表面平滑性が悪くなって好ましくないからである。
上記充填剤の配合割合は、全樹脂組成物中10〜40重量が好ましく、10〜30重量%がより好ましい。なぜなら、10重量%未満では軟質相手材を摩耗させ、40重量%を越えると成形性が悪くなり、機械的特性も低下するからである。同配合割合が10〜30重量%であれば、このような傾向が全くなく、好ましい結果が得られる。
また、上記の他に、耐磨耗剤として二硫化モリブデン等を用いることもできる。この二硫化モリブデンは、耐摩耗性の向上を図るために添加され、その配合割合は、1〜10重量%が好ましい。なぜなら、上記所定範囲未満の配合量では、自己潤滑性および耐摩耗性などの摺動特性の改良が顕著に認められず、また上記所定範囲を越える配合量では、機械的強度が低下し、かつ配合量に見合う耐摩耗性の向上が見られないからである。
この発明のシールリングに用いられる樹脂組成物における組み合わせの例として、次のようなものをあげることができる。
(1) TPI、PEEK、PEK、PEN、PA−46、PPSからなる群から選ばれるいずれか一つの樹脂30〜82重量%、炭素繊維5〜45重量%およびフッ素系樹脂2〜25重量%を含む樹脂組成物。
(2) PEN、PEEK、PEK、TPI、PPS、PA−46からなる群から選ばれるいずれか一つの樹脂30〜82重量%、炭素繊維5〜45重量%、フッ素系樹脂2〜25重量%、粉末状タルク10〜40重量%を主要成分とする樹脂組成物。
(3) PEN、PEEK、PEK、TPI、PPS、PA−46からなる群から選ばれるいずれか一つの樹脂30〜78重量%、炭素繊維10〜45重量%、フッ素系樹脂2〜25重量%、粉末状カルシウム化合物10〜40重量%を主要成分とする樹脂組成物。
(4) PEN、PEEK、PEK、TPI、PPS、PA−46からなる群から選ばれるいずれか一つの樹脂30〜82重量%、炭素繊維5〜45重量%、フッ素系樹脂2〜25重量%、粉末状タルク10〜40重量%および二硫化モリブデン1〜10重量%を含む樹脂組成物。
(5) 前記の粉末状タルク10〜40重量%に代えてカルシウム系粉末充填剤10〜40重量%を配合したもの。
(6) 前記の炭素繊維5〜45重量%に代えて、芳香族ポリアミド繊維5〜45重量%を配合したもの。
(7) 前記の炭素繊維5〜45重量%に代えて芳香族ポリアミド繊維5〜45重量%を配合し、かつ粉末状タルク10〜40重量%に代えてカルシウム系粉末充填剤10〜40重量%を配合した樹脂組成物。
この発明の樹脂組成物には、上記以外の添加剤としてこの発明の効果を阻害しない範囲内で、例えば自己潤滑性、機械的強度、および熱安定性などの向上及び着色等の目的で固体潤滑剤、増量剤、粉末充填剤および顔料など350℃程度以上の高温で安定な物質を適宜混合してもよい。例えば、樹脂組成物の潤滑性をさらに改良するために、耐摩耗性の改良剤を配合することができる。この耐摩耗性改良剤の具体例としては、カーボン、グラファイト、マイカ、ウォラストナイト、金属酸化物の粉末、硫酸カルシウムなどのウィスカ、リン酸塩、炭酸塩、ステアリン酸塩、超高分子量ポリエチレンなどを例示することができる。このような添加剤を添加する際の残部耐熱性樹脂は、約40重量%を下回らないようにすることが好ましい。
これらの耐熱性樹脂に対して各種の添加物を添加混合する方法は特に限定するものではなく、通常広く用いられている方法、たとえば主成分となる樹脂、その他の諸原料をそれぞれ個別に、またはヘンシェルミキサー、ボールミル、タンブラーミキサー等の混合機によって適宜乾式混合した後、溶融混合性のよい射出成形機もしくは溶融押出成形機に供給するか、又は予め熱ロール、ニーダ、バンバリーミキサー、溶融押出機などで溶融混合するなどの方法を利用すればよい。
さらに、前記の組成物を成形する際には、特に成形方法を限定するものではなく、圧縮成形、押出成形、射出成形等の通常の方法、または組成物を溶融混合した後、これをジェットミル、冷凍粉砕機等によって粉砕し、所望の粒径に分級することも可能である。なかでも射出成形法は、生産性に優れ、安価な成形体を提供することができる。
また、このようにして得られたペレットなどの粒は、成形前に後述の熱処理と同程度の乾燥処理を施しても良い。充分にペレット等の粒から水分などを蒸発させることで、成形体の膨れや強度低下を防ぐことができると考えられる。
このようにして得られた成形体は、熱固定及び成形時のひずみを除いて高温使用時の寸法安定性を確保するため、約100〜280℃で約0.1〜24時間程度のアニール熱処理をしておくことが望ましい。
アニール熱処理温度は、材料にもよるが、約280℃以下、例えば約140〜270℃程度、材料によっては約140〜230℃程度や約140〜200℃程度で行われることが適当である。これらの耐熱樹脂は、広い温度範囲にわたって剛性が高く、耐衝撃性も優れており、クリープなどの歪みに対しても強く、また殆どの種類の油類や薬品等にも耐性を示す樹脂である。また、これらの樹脂は結晶性であって、結晶化度の上昇で強度や剛性の増加、耐摩耗性や潤滑性の向上、熱膨張係数や吸水率の低下などの性質をもっている。
熱処理温度が約140℃未満の低温では、結晶化の進行に多大の時間を要して効率が悪く、成形体のわずかな歪みを除くことも難しくなり、寸法安定性も得られ難いと考えられる。
アニール熱処理温度が熱変形温度よりも約20〜30℃程度を越えると、樹脂にかかる熱履歴の影響が大きくなり好ましくないと考えられ、これ以下で熱処理することが好ましい。熱処理時は、前記所定の温度に達する前に、例えば常温、約80℃、約130℃、約180℃、約220℃、約230℃、約280℃というように、数段階に分けて、約15〜180分程度の範囲で、約15〜60分毎に徐々に昇温し、前記温度範囲内の最適な温度にて、前記時間の範囲で温度を一定に保持してもよい。その場合の最高温度の保持時間は、約15〜480分程度であればよい。最高温度の保持時間が所定時間よりも短時間であると、樹脂の結晶化が不充分となって寸法安定性が悪くなり、所定時間よりも長時間であると、「ソリ」などの不適当な熱変形が起こり、また電気炉などのエネルギー消費量の増大や製造時間の超時間化からみても製造コストの低減を図ることが難しくなる。
また、約90〜120℃程度に昇温した時にそのような一定温度で保持してもよい。このようにすると、成形体内に僅かに取り込まれた水分を乾燥させることができ、その後、結晶化させることができる。一方、短時間で急激に加熱して熱処理を終了させることは好ましくない。前記水分が沸点を越えて気化し、その際の体積膨張によって成形体に「膨れ」などの不具合が発生する可能性が高くなるからである。
結晶化工程後の冷却は、前記昇温時と逆の段階を経て冷却してもよく、または約60〜180分程度の時間をかけて連続的に徐冷してもよい。
以上のような熱処理工程を行なうことにより、成形体の膨れなどの不具合の発生を極力防ぐと共に、樹脂の結晶化を確実かつ徐々に進行させて、成形体の寸法安定性を高めて寸法精度の高い成形体を提供することができる。
また、成形体と相手部材の少なくとも一方の摺動面の表面粗さは、Rmax、Ra、Rz等のJISで定義された評価法によって、約3〜25μm以下であり、好ましくは約8μm以下、より好ましくは約3μm以下である。なぜなら、表面粗さが前記所定範囲を越えると、摺動面に傷が多く付くようになり、これは摩耗の原因になると考えられるからである。
なお、相手材表面の仕上げ加工などの工程に長時間を要するので、効率的でないことや樹脂材の転移膜の形成に影響される可能性もあるため、摩耗に影響されないような仕様や条件であれば、約3〜8μm程度の範囲以下としても良いとも推定される。
また、ピストン、シリンダー等の相手材は、S45C,SCM420H等の炭素鋼、FCD45等の球状黒鉛鋳鉄等あるいはこれらの硬化処理材等の硬質材料であっても、又はADC12等のアルミニウム合金等の軟質材であってもよい。