JP4215525B2 - 超砥粒メタルボンド砥石 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、メタルボンド砥石に関し、特に連続研削を安定して行うことが可能な超砥粒メタルボンド砥石に関する。
【0002】
【従来の技術】
砥粒保持力に優れ、寿命を向上させた超砥粒メタルボンド砥石として、コバルト、銅及び銀を用いてメタルボンドを形成したメタルボンド砥石の製造方法が、特許文献1に記載されている。
【0003】
【特許文献1】
特開平3−190672号公報(第1頁〜第2頁)
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、このメタルボンド砥石は、砥粒保持力が優れているために、焼入れ鋼等のように表面硬度が高い材料のホーニング研削では、砥粒の先端が平滑に摩耗しても砥粒が脱落せず、摩耗した砥粒によって研削が行われることとなる。このように摩耗した砥粒によって研削が行われると、研削の際の消費電力が大きくなり、研削焼けが発生する。そのため、連続研削を安定して行うことができない。
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたもので、研削焼けの発生を防止して、連続研削を安定して行うことが可能なメタルボンド砥石を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
以上の課題を解決するために、本発明は、コバルト及び錫を主成分とするメタルボンドによってボンド層が形成され、このボンド層に砥粒を固着してなるメタルボンド砥石であって、コバルト粒子への錫の拡散深さが、コバルト粒子の平均半径の60%以下であることを特徴とする超砥粒メタルボンド砥石である。ここで、コバルト粒子の平均半径とは、コバルト粒子の平均粒径を2で割った値をいう。
コバルト粒子への錫の拡散深さが、コバルト粒子の平均半径の60%を超えると、コバルト粒子と錫粉末が強固に結合して砥粒層の強度が必要以上に強くなり、研削時に砥粒が強固に保持され、砥粒の先端が平滑に摩耗しても砥粒が脱落せず、消費電力が大きくなり、研削焼けが発生して本発明の効果が得られにくい。
従って、コバルト粒子への錫の拡散深さを、コバルト粒子の平均半径の60%以下とすることによって、メタルボンドの弾性を高め、強度を弱めて、平滑に摩耗した砥粒を適度に脱落させて目替りを促進させることができ、研削による焼けの発生を抑制して、連続研削を安定して行うことが可能となる。
【0006】
本発明においては、コバルト粒子の平均粒径が1μm以上70μm以下であることが好ましい。
コバルト粒子の平均粒径が1μm未満であると、砥粒層が形成されるためにはある程度の焼結温度を必要とするが、その焼結温度内では錫粉末が容易にコバルト粒子に拡散するため、コバルト粒子の平均半径の60%以下の拡散深さを得ることが困難となる。また、コバルト粒子の平均粒径が70μmを超えると大きな粒径のコバルト粉末が脱落することにより砥粒層が過多に摩耗し、平滑に摩耗した砥粒のみならず鋭利な砥粒も脱落し、適度な目替りが進行せず本発明の効果が得られにくい。
【0007】
本発明においては、メタルボンドの重量に対するコバルトの重量割合が30重量%以上90重量%以下であることが好ましい。
メタルボンドの重量に対してコバルトの重量割合が30重量%未満であると、砥粒層の弾性率が低くなり、研削時に砥粒がメタルボンド内に埋まりこみ、平滑摩耗した砥粒が脱落せず本発明の効果が得られにくい。また、メタルボンドの重量に対してコバルトの重量割合が90重量%を超えると、砥粒層を形成するための焼結温度内ではコバルト粉末同士の拡散結合が進み、結果的に砥粒層強度が必要以上に高くなり本発明の効果が得られにくい。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明をその実施の形態に基づいて説明する。
本発明の実施形態に係るメタルボンド砥石の一例として、図1(a)にメタルボンドホイールを、図1(b)にメタルボンドホーニング砥石を形成したときの外観を示す。
図1(a)において、メタルボンドホイール1は、台金2の上面に砥粒層3を設けて形成されたものであり、砥粒層3は、コバルト及び錫を主成分とするメタルボンドからなるボンド層に砥粒を固着することによって形成されている。
同様に図1(b)において、メタルボンドホーニング砥石4は、台金5の上面に砥粒層6を固着することによって形成されている。
ボンド層の組成と、各組成粒子の粒径及び重量割合を表1に示す。
【0009】
【表1】
【0010】
この組成によるメタルボンドの焼結圧力を40MPaとし、焼結温度を変化させて焼結したときの、焼結温度に対するボンド層の弾性率と抗折強度の関係を図2に示す。図2に示すように、焼結温度が500℃から700℃の範囲においては、弾性率が約70GPa程度に高く維持されるが、焼結温度が800℃になると、弾性率が低下している。また、焼結温度が900℃になると、ボンドが流出してボンド層を形成することができなかった。
【0011】
このような弾性率の変化は、ボンド層中でコバルト粒子に対して錫が拡散する深さによって左右される。図3は、ボンド層において、錫の溶融層中に存在するコバルト粒子に対して錫が拡散している様子を示すものである。
【0012】
図4に、焼結温度によって、コバルト粒子に対する錫の拡散深さが変わる様子をTEM観察した結果を示す。焼結温度が700℃のときに、錫の拡散深さは0.9μmであり、これはコバルト粒子の平均半径の60%に相当する。図2において示したように、焼結温度が700℃以下であれば弾性率を高く維持することができることから、コバルト粒子に対する錫の拡散深さは、コバルト粒子の平均半径の60%以下であることが好ましい。
【0013】
図5に、焼結温度を変えて作製された砥石の研削性能を調査した結果を示す。砥粒としてcBNを用いており、砥粒の粒度は325、集中度は75である。
加工条件を以下に示す。
研削盤 メカ拡張ホーニング盤
被削材 焼入れ鋼 SCM435H
硬度 HRC61
寸法 内径20×厚み
砥石寸法 長さ20mm×幅1.25mm×高さ2mmの4本セット
砥石周速 0.75m/sec
砥石拡張速度 φ0.2mm/min
研削液 油性研削液 ノリタケカットSF805(商品名)
【0014】
図5からわかるように、コバルト粒子に対する錫の拡散深さが、コバルト粒子の平均半径の60%以下であるときには、研削の際の消費電力が低く抑えられているが、コバルト粒子に対する錫の拡散深さがこれより大きくなると、砥石摩耗量が低下して研削焼けが発生し安定した連続研削ができなかった。研削後の砥面状態を観察した結果、コバルト粒子に対する錫の拡散深さがコバルト粒子の平均半径の60%を超えると砥粒先端が平滑に摩耗した砥粒で多く残っていた。このことから、コバルト粒子に対する錫の拡散深さがコバルト粒子の平均半径の60%を超えることによって、砥粒先端が平滑に摩耗した砥粒で研削が行われ、焼けが発生したことがわかる。
【0015】
次に、ボンド層に含まれるコバルト粒子の粒径を変化させて砥石を作製したときに、砥石の研削性能を調査した結果を示す。
コバルト粒子の粒径を表2に示す。
【0016】
【表2】
【0017】
ボンドの組成は表1に示すものと同様である。また、砥粒としてcBNを用いており、砥粒の粒度は325、集中度は75である。ボンドの焼結条件は、焼結温度が600℃、焼結圧力が40MPaである。また、コバルト粒子に対する錫の拡散深さは、コバルト粒子の平均半径の50%とした。しかしながら、No1砥石(平均粒径0.5μm)は錫の拡散深さは80%であった。
【0018】
図6に、コバルト粒子の粒径を変えて作製された砥石の研削性能を調査した結果を示す。
図6からわかるように、コバルト粒子の粒径が1.0μm以上70μm以下であるときは、研削時の消費電力、砥石摩耗量ともに安定しているのに対して、コバルト粒子の粒径が0.5μmのときは、研削焼けの発生が顕著になるとともに、砥石摩耗量は低下する。一方、コバルト粒子の粒径が100μmのときは、消費電力は低下するものの、砥石摩耗量が著しく増大する。
以上の結果から、研削時の焼けの発生を防止するためには、コバルト粒子の粒径を1.0μm以上70μm以下とすることが効果的であることがわかる。
【0019】
次に、ボンド層に含まれるコバルト粒子の含有量を変化させて砥石を作製したときに、砥石の研削性能を調査した結果を示す。
コバルト粒子の含有量と、その他の粒子の含有量を表3に示す。なお、表3中の数値は重量%を示す。
【0020】
【表3】
【0021】
図7に、コバルト粒子の含有量を変えて作製された砥石の研削性能を調査した結果を示す。
図7からわかるように、メタルボンドの重量に対するコバルト粒子の含有量が30重量%以上90重量%以下であるときは、研削時の消費電力、砥石摩耗量ともに安定している。これに対し、コバルトの含有量が100%のものは、砥石摩耗量が低下し研削焼けの発生が顕著であった。その一方、コバルトの含有量が20%のものは、錫が溶出して製品として形成することができなかった。
以上の結果から、研削時の焼けの発生を防止するためには、コバルト粒子の含有量をメタルボンドの重量に対して30重量%以上90重量%以下とすることが効果的であることがわかる。
【0022】
以上の検討結果に基づき、以下の条件でホイールを作製した。
砥粒はcBNを用い、その粒度は140、集中度は50である。
発明品のボンドの組成を表4に示す。
【0023】
【表4】
【0024】
ボンドの焼結条件は、焼結温度が600℃、焼結圧力が40MPaである。ホイールの寸法は、外径150mm×厚み30mm×内径80mm×砥粒層幅3mm×砥粒層高さ5mmである。
この発明品と比較するために、焼結温度を800℃とし、他の条件は発明品と同一として作製された比較品を用いて、研削性能を調査した。研削条件は以下の通りである。
【0025】
研削盤 立軸平面研削盤
被削材 焼入れ鋼 SCM435H
硬度 HRC61
寸法 外径185mm×内径145mm×高さ40mm
ホイール周速度 2000m/min
被削材回転数 300min-1
切込み速度 0.020mm/min
研削液 ノリタケクールSEC−500(商品名)を50倍に希釈
【0026】
以上の研削試験の結果、焼結温度を600℃とした発明品は、安定して連続研削を行うことが可能であったが、焼結温度を800℃とした比較品は、研削途中において研削焼けが発生し、研削を中止せざるを得なかった。
【0027】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によると、以下の効果を奏することができる。
(1)コバルト粒子への錫の拡散深さを、コバルト粒子の平均半径の60%以下とすることによって、メタルボンドの弾性を高め、強度を弱めて、平滑に摩耗した砥粒を適度に脱落させて目替りを促進させることができ、表面硬度が高い材料を研削する場合であっても、研削による焼けの発生を抑制して、連続研削を安定して行うことが可能となる。
【0028】
(2)コバルト粒子の平均粒径を1μm以上70μm以下とすることにより、焼結温度内で錫がコバルト粒子の平均半径の60%以下の拡散深さで拡散することが容易になるとともに、適度な目替りを進行させることができる。
【0029】
(3)メタルボンドの重量に対するコバルトの重量割合を30重量%以上90重量%以下とすることにより、研削時に砥粒がメタルボンド内に埋まりこむことを防止しつつ、コバルト粉末同士の拡散結合が進むことを防止して砥粒層強度が必要以上に高くなることを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施形態に係るメタルボンド砥石の一例を示す図であり、(a)は、メタルボンドホイールを形成したときの外観を示し、(b)は、メタルボンドホーニング砥石を形成したときの外観を示す図である。
【図2】 焼結温度を変化させて焼結したときの、焼結温度に対するボンド層の弾性率と抗折強度の関係を示す図である。
【図3】 ボンド層において、錫の溶融層中に存在するコバルト粒子に対して錫が拡散している様子を示す図である。
【図4】 焼結温度によって、コバルト粒子に対する錫の拡散深さが変わる様子をTEM観察した結果を示す図である。
【図5】 焼結温度を変えて作製された砥石の研削性能を調査した結果を示す図である。
【図6】 コバルト粒子の粒径を変えて作製された砥石の研削性能を調査した結果を示す図である。
【図7】 コバルト粒子の含有量を変えて作製された砥石の研削性能を調査した結果を示す図である。
【符号の説明】
1 メタルボンドホイール
2 台金
3 砥粒層
4 メタルボンドホーニング砥石
5 台金
6 砥粒層
Claims (2)
- 砥粒にダイヤまたはcBN砥粒を用い、コバルト及び錫を主成分とするメタルボンドによってボンド層が形成され、このボンド層に砥粒を固着してなるメタルボンド砥石であって、コバルト粒子の平均粒径が1μm以上70μm以下であり、前記コバルト粒子への錫の拡散深さが、コバルト粒子の平均半径の60%以下であることを特徴とする超砥粒メタルボンド砥石。
- 前記メタルボンドの重量に対するコバルトの重量割合が30重量%以上90重量%以下であることを特徴とする請求項1記載の超砥粒メタルボンド砥石。
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