JP4215226B2 - 自動車用サスペンション部材 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、半凝固ダイカスト鋳造法により鋳造されたアルミニウム合金製自動車用サスペンション部材に関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車用サスペンション部材の多くは鉄系材料を用いて板金加工(含プレス)、鍛造又は鋳造により製造されている。鉄系材料が選択されるのはその強度、靭性に優れる点によるところが大きい。近年、地球温暖化防止策の一つとして自動車の低燃費、排ガスのクリーン化が叫ばれているが、燃費効率の向上という観点から車両重量の低減、特に乗り心地、車両運動性能の向上と言った点も満足するように考えればサスペンション部材の軽量化は最も効果的な手法である。
サスペンション部材の軽量化のために、材質の転換すなわち鉄合金からアルミニウム合金への変換が最も現実的な選択として考えられる。自動車用部品をアルミニウム合金よりも比強度の高いマグネシウム合金で製造することもあるが、この合金は疲労強度の問題から、サスペンション部材のようにくり返し荷重を受ける部材への適用は困難である。
サスペンション部材の軽量化を図る手段として機能上支障のない範囲で薄肉化することも考えられるが、特に鋳造や鍛造では製造上の困難さを伴う。具体的には大幅な薄肉化が困難な場合があったり、加工による肉盗みではコストが大幅に上昇し、かつ形状が制限されてしまうことなどである。そこで従来の鋳造法では極めて困難であった高信頼性を得るために、半凝固ダイカスト鋳造法を適用することが考えられる。
【0003】
半凝固ダイカスト鋳造法は、半溶融状態にした溶湯をダイカストマシンの金型キャビティ内に加圧充填し、凝固させる方法である。この半凝固ダイカスト法には、溶湯を完全に冷却して凝固させたビレットを再加熱して半溶融状態にした後鋳造するチクソキャスト(Thixo cast)法(例えば特開平7−74015号参照)と、溶湯に剪断力を与えながら冷却し、溶融金属の初晶を球状化させて半溶融状態にして鋳造するレオキャスト(Rhocast)法(例えば特開平8−257722号参照)とがある。チクソキャスト法は既に実用化されているが、所定の組成を有するビレットを準備し、これを半溶融温度領域で例えば電磁攪拌後連続鋳造して、α相を粒状化してから再加熱して球状化する手法であり、製造コストが高くなるという問題がある。一方レオキャスト法によれば、ビレットを使用しないので、コスト的にはチクソキャスト法よりも有利である。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
よって上述した高強度、高靭性の製品が得られる半凝固ダイカスト法によりサスペンション部材を製造することが考えられる。この製法は層流充填が得られることや、収縮巣の低減ができる利点がある。しかして半凝固ダイカスト法を実施する際には、キャビティ内での溶湯の分岐・合流を避ける必要がある。これは分岐した溶湯が再度合流する際、湯温が低い為に再度溶融せず、完全に密着しないことがあり、製品に欠陥として残ってしまう可能性が大きいからである。そのためキャビティ内に充填中の溶湯流を分断することは適切でない。製品にリブ部が存在すると、このリブ部の両方から進入してきた溶湯の間に空気が溜り、湯境となって現れ、製品の機能を著しく阻害する。但しリブ部が製品の外周部にある場合には、金型の割面から空気が逃げやすいため当該欠陥の発生はきわめて少ない。しかしながらこのようなリブは製品強度設計上、やむ得ず製品の外周部以外に設けなければならない必要性が生じることがある。すなわち、サスペンション部材を半凝固ダイカスト法で製造する場合には、強度と製造のしやすさとを両立させることが重要である。
【0005】
したがって、本発明の目的は、全体の機械的強度が高くしかも製造し易い自動車用サスペンション部材を提供することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明においては、車輪を支持するアルミニウム合金製サスペンション部材であって、A型形状を有し、その頂部から分岐する斜辺部は略凹形の断面形状を有し、前記斜辺部を形成する内側リブの高さをh1、その厚さをt1、前記斜辺部を形成する外側リブの高さをh2、その厚さをt2とすると、h1<h2、t1≦t2の条件を満足し、半凝固ダイカスト法により、溶湯が前記内側リブから外側リブに向かって流れるように鋳造される、という技術的手段を採用した。本発明においては、サスペンション部材がA型形状を有し、中央部が開口しているので、泥抜けを促進することができる。このサスペンション部材は全体がアルミニウム合金で形成されているので、軽量化を図ることができる。更にこのサスペンション部材は、頂部から分岐する斜辺部が凹型の断面形状であって、しかも、斜辺部を形成する外側リブ部は内側リブ部よりも厚くかつ内側リブ部は外側リブ部よりも低くなっているので、外側リブ部及び内側リブ部とも金型温度を高温に保つことができ、良好な湯流れを確保できるので、湯境やウェルドの発生を伴わずに、半凝固ダイカスト法により軽量でかつ高強度のサスペンション部材を実現することができる。
【0007】
本発明の半凝固ダイカスト法は、
(a)Al−Si−Mg系合金を溶解して、その溶湯を液相線近傍の温度にする工程と、
(b)前記溶湯を鋳込みスリーブに移し、この鋳込みスリーブ内の溶融金属の温度を液相線近傍から液相線より低く固相線または共晶線より高い所定の温度まで所定の冷却速度で低下させ、溶融金属の初晶を実質的に粒状化させて半溶融状態を得る工程と、
(c)初晶が粒状化した前記鋳込みスリーブ内の半溶融状態金属を金型キャビティ内に加圧充填する工程と、
(d)前記金型キャビティ内に加圧充填された半溶融状態合金を凝固させて、サスペンション部材を作成する工程とを有することが好ましい。
この製造方法によれば、金属を溶解して液相線近傍の温度で鋳込みスリーブへ移すので鋳込みスリーブが高熱で損傷することが少なくなり、また鋳込みスリーブ内溶融金属を液相線近傍から液相線より低く固相線または共晶線より高い所定の温度まで低下させる過程で機械撹拌、電磁撹拌その他、固液体共存状態でせん断を与えることなく、溶融金属の初晶が実質的に粒状化されて半溶融状態となり、かかる半溶融状態金属を金型キャビティ内に加圧充填して凝固させるのでブリスタ(気泡状きず)などが発生しない。
【0008】
また、鋳込みスリーブ内で半溶融状態金属の固相率を30〜60%に制御することが好ましい。それにより溶融金属にチキソトロピー性を付与することができ、しかも湯流れを良好に保つことができる。すなわち半溶融状態金属の固相率を30%以上とすることにより溶融金属にチキソトロピー性を付与することができ一方半溶融状態金属の固相率を60%未満とすることにより粘性が過度に高くなることを防止して湯流れを良好に保つことができる。
【0009】
更に、鋳込みスリーブ内の半溶融状態金属を層流状態で金型キャビティ内に加圧充填し、その後高圧を付与することが良い。それにより、半溶融状態金属へのガスの巻き込みを防止して、ブリスタの発生を防止することができる。
また、金型キャビティ内を、少なくとも半溶融状態金属を充填時に減圧雰囲気および/または不活性ガス雰囲気としたり、前記鋳込みスリーブ内を不活性ガス雰囲気とするのが好ましい。その様にすることにより、材料が半溶融状態を保つよう温度コントロールすることができると共に表面の酸化が防止され、特別な表面層除去法を実施することなく良好な製品を得ることが出来る。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下本発明の詳細を添付図面により説明する。
図1は本発明のサスペンション部材を備えたサスペンション装置の一例を示す斜視図である。
図1において、1は車輪(図示せず)を回転自在に支持するナックルであり、ナックル1の上部にはストラット2が一体に締結されており、ナックル1の下部と車体側部材(図示せず)とが、車幅方向に延在するサスペンション部材3によって揺動可能に連結されている。サスペンション部材3はA型形状をしており、A型の頂部が車輪側取付け部3aで、A型の下部の2点が車体側取付け部3b、3cである。車体側取付け部3b、3cは、それぞれ相互に車体前後方向に所定間隔をあけて配置され、軸を車体前後方向に向けたブッシュ4a、4bを介して車体側に揺動可能に取付けられている。
図2は図1のサスペンスション部材の正面図、図3は図2のA−A線断面図である。
両図において、サスペンション部材3は、頂部20から2つの斜辺部21、22に分岐され、中央部に開口部23を有し、この開口部23から泥が排出できるようになっている。斜辺部21は、図3に示すように、内側リブ24及び外側リブ25を有し、凹形の断面形状を有する。内側リブ24の高さ及び厚さを各々h1、t1とし、外側リブ25の高さ及び厚さを各々h2、t2とすると、これらの寸法関係は、h1<h2、t1≦t2の条件を満足している。斜辺部22も斜辺部21と同様の断面形状を有し、また同様の寸法関係を有している。
【0011】
上記の寸法関係を定めた理由は次の通りである。サスペンション部材3を半凝固ダイカスト法により製造する場合、所定温度に加熱された金型のキャビティ内に溶湯を注入すると、溶湯は図3の矢印で示すように内側リブ24から外側リブ25に向かって流れる。この場合、内側リブ24はその高さが内側に対して低くなっているので、その部分の金型温度は低下せずかつ行き止まりとなつている袋状の部分の体積を低減できることから、湯流れが良くなり、ガスや異物の巻き込みが無くなり、湯境やウェルドの発生を防止することができる。なお外側リブ25は高さは大であるが厚さも大なので、その部分の金型温度は高温に維持される。さらに、内側リブの高さをh1、その厚さをt1、外側リブの高さをh2、その厚さをt2としたとき、h1/t1<1、h2/t2>1/2の条件を満足する形状(斜辺部を形成する内側リブ部の厚さより小さくし、かつ、外側リブ部の高さを外側リブ部の厚さの1/2より大きくなる形状)として、より機械強度を高くすることができる。
【0012】
一方、内側リブ24及び外側リブ25が上述した寸法関係を満足しない場合には、サスペンション部材3は例えば図5に示すような断面形状を有する。図5において、図3と同一機能部分は同一の参照符号で示す。図5に示す断面形状であると、外側リブ25は高さ及び厚さのいずれも大なので、その部分の金型温度は高温に維持されるが、内側リブ24は、外側リブ25と同程度の高さを有するにも係わらず、外側リブ25よりも薄くなっているので、その部分の金型温度は低下し、溶湯の流れにくい内側リブ24の先端部が最終充填部となる。従って図6(図5のB−B線断面図)に示すように2つの方向からの湯流れが合流し、しかも、内側リブ24は袋状部位(行き止まり)になっているので、酸化膜などの異物を含んだ湯流れの先端の逃げ場がなく、ウェルド現象が発生する。
【0013】
次に本発明のサスペンション部材の製造装置を添付図面に基いて説明する。
図4は本発明のサスペンション部材を製造するための装置の一例を示す断面図である。製造装置10は、保持炉(図示せず)内の溶融金属を受け取り、半溶融金属12を形成する鋳込みスリーブ13と、この半溶融金属を金型30に向って押し出すプランジャ14を有する。鋳込みスリーブ13は、セラミックス等の絶縁体16とその内部に放射状に埋め込まれたオーステナイト系ステンレス鋼等の非磁性導電体からなる冷却パイプ17からなる内筒15と、その周囲に設けられた誘導コイル19が埋設された外筒18とを有する。金型30は、固定金型31と、可動金型32及びキャビティ33とを有する。
【0014】
次に上記装置による動作を説明する。所定の組成を有する合金を溶解して、その溶湯を液相線(626℃)近傍の温度(620〜630℃)に維持しておき、この溶湯をラドル(図示せず)から鋳込みスリーブ13内に注入する。この時冷却パイプ17に冷却媒体(例えば水又は空気)を供給することにより、溶湯を液相線近傍の温度から液相線より低く固相線又は共晶線より高い温度(580℃程度)まで冷却させる。これにより合金溶湯は初晶が粒状化された半溶融状態となる。また溶湯の半溶融化の過程では、誘導コイル19に通電することにより、半溶融溶湯を電磁的に攪拌する。次いでプランジャ14を作動させて、キャビティ33内に半溶融化した溶湯を射出充填する。そしてキャビティ33内に注入された溶湯が凝固した後、型開きを行ってサスペンション部材を金型30から取出す。
【0015】
【実施例】
以下、本発明の実施例を説明する。
図4に示す装置を用いて、図2及び図3に示すサスペンション部材の製造を行う。
先ず、Si6.5〜7.5%(重量%以下も同様)、Mg0.25〜0.35、Fe0.5%以下、残部実質的にAlからなる組成を有する合金を溶解して液相線(620℃)近傍の約630℃の温度に保持する。
次に、この合金溶湯を図示しない給湯手段により、鋳込みスリーブ13に移す。そして、粒状の組織となるように、鋳込みスリーブ13内で液相線近傍から液相線より低く固相線または共晶線より高い、約580℃の温度まで低下させる。上記合金では鋳込みスリーブ13内の冷却速度は、0.5〜8℃/sが良く、好ましくは1〜4℃/sが良い。これにより、合金溶湯は初晶が粒状化した半溶融状態となる。
【0016】
次に、初晶が粒状化したの半溶融金属12を金型のキャビティ33内に、プランジャ14により、層流状態を維持して加圧充填する。組織は、加圧充填する過程のゲートで、粒状のものがいっそう微細化し、且つ球状に変わる。半溶融金属の組織は、鋳込みスリーブ内で粒状化された後、金型キャビティ内に充填後、結晶は微細でより真円に近くなっている。鋳込みスリーブ13内での半溶融金属の固相率は、上記アルミニウム合金の状態図と温度から30〜60%にする。鋳込みスリーブ13内で半溶融金属として、これを金型のキャビティ33内に加圧充填して凝固させ、金型を型開きをすることにより、サスペンション部材が得られる。このサスペンション部材を使用して図1に示すサスペンション装置に装着して、台上試験を行ったが、サスペンション部材に異常は認められなかった。
また比較のために、キャビティ形状を変更した以外は上記と同様の条件で図5に示す断面形状を有するサスペンション部材を製造した。
このようにして得られたサスペンション部材を用いて上記同様の条件で台上試験を行ったが、内側リブに亀裂が発生し、その破面をSEMで観察したところ、酸化膜が認められた。
【0017】
【発明の効果】
以上、説明した通り、本発明によれば、サスペンション部材を特定の形状としかつ半溶融状態として金型キャビティ内に加圧充填して製造するので、軽量かつ機械強度が高くしかも欠陥のないサスペンション部材を得ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】サスペンション装置の一例を示す斜視図である。
【図2】本発明の一実施例に係るサスペンション部材の平面図である。
【図3】図2のA−A線断面図である。
【図4】本発明のサスペンション部材の製造装置の一例を示す。
【図5】従来のサスペンション部材の要部断面図である。
【図6】図5のB−B線断面図である。
【符号の説明】
3 サスペンション部材、20 頂部、21,22 斜辺部、23 開口部、
24 内側リブ部、25 外側リブ部
Claims (2)
- 車輪を支持するアルミニウム合金製サスペンション部材であって、A型形状を有し、その頂部から分岐する斜辺部は略凹形の断面形状を有し、前記斜辺部を形成する内側リブの高さをh1、その厚さをt1、前記斜辺部を形成する外側リブの高さをh2、その厚さをt2とすると、h1<h2、t1≦t2の条件を満足し、半凝固ダイカスト法により、溶湯が前記内側リブから外側リブに向かって流れるように鋳造されたことを特徴とする自動車用サスペンション部材。
- 前記サスペンション部材は、h1/t1<1、h2/t2>1/2の条件を満足することを特徴とする請求項1記載の自動車用サスペンション部材。
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