JP4213577B2 - グラフト重合鎖固定基材、グラフト重合鎖固定基材の製造方法及び測定方法 - Google Patents

グラフト重合鎖固定基材、グラフト重合鎖固定基材の製造方法及び測定方法 Download PDF

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この発明は、生体高分子固定化可能なグラフト重合体ならびにそれを固定した基材に関するものである。この発明のグラフト重合体ならびにそれを固定化した基材は、生体高分子を固定化できると共に、走査型プローブ顕微鏡などによる生体高分子の力学特性および分子間の相互作用力特性を有効に測定することに利用することができる。
タンパク質や核酸、糖鎖などの生体高分子は合成高分子には付与の困難な、特有の生化学的、生理的機能を有するため、バイオテクノロジーの様々な領域で分子素材として応用が行われている。例えば、医用材料の分野では種々の酵素等タンパク質を材料の表面に固定することにより材料の機能化を図ったり、細胞工学分野・薬学分野等では細胞・組織の生理機能の調節・制御や創薬に用いられる。このような種々のバイオテクノロジーへの生体高分子の応用においては、生体高分子自体の構造・機能特性を詳細に理解することが要求される。このためは、生体高分子の力学特性、分子間相互作用特性、 材料と生体高分子の相互作用特性等の、ナノスケールレベルでの相互作用力情報の特性解析が強く望まれている。
近年、このようなナノスケールレベルでの相互作用の解析手段として、試料からの力を受けて試料表面を測定する原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope: AFM)等の走査型プローブ顕微鏡(Scanning Probe Microscope: SPM)を用いて生体試料の観察や材料表面の特性解析が活発に行われるようになってきている(特許文献1)。
なかでも、測定に際して試料に特別な前処理を必要とせず、大気、真空、液体中という様々な環境で、試料表面を原子スケールで直接観察できるAFMは、材料表面に原子・分子レベルで点在して機能を発現する局所領域の構造を明らかにし、その微小領域における物理的・化学的性質などを評価するための有力な手段として活用されている(非特許文献1)。AFMは、また、スタティックな表面観察に留まらず、表面局所領域において生じる吸着現象、分子間相互作用、生体高分子構造変移や生化学反応過程をダイナミックに測定する手段として利用されている。
原子間力顕微鏡の主要部は、AFM探針と、探針が受ける斥力または引力を変位に変換するカンチレバー、その撓みを検出する変位センサー、試料を3次元方向に高精度に移動させるための走査素子(ピエゾ)から構成されている。AFM探針は、高分解能、高精度な観察または分子操作を実現するための重要な要素であり、カンチレバーと呼ばれる片持ちの板ばねの先端に微小突起(探針)として形成されている。本明細書では、AFM探針を以下「AFMプローブ」ともいう。
AFMが発明された当初は、そのAFM探針は、金箔の先端にダイヤモンドの小片を接着したものや電解エッチングしたタングステン線の先端を折曲げたものなどが使用されていた(非特許文献2、3)。このような金属製のAFM探針では、その表面の硬度が高すぎたりして、生体高分子の表面特性を測定するのには適していない。
そこで現在では、フォトリソグラフィ技術により Si3N4、SiO2、Si などを加工した薄板カンチレバーが製作され、その先端部に探針が設けられている(非特許文献4,5,6)。AFMカンチレバーは、微視的な力である原子間力(10?9 N 程度)を検知するために、力に対する変位を大きくし感度を上げるためバネ定数が小さいことが求められる。また、床振動など低周波ノイズを抑制し、走査速度を向上させるために、共振周波数が高いことが望ましい。
微小変位検出法と測定モードには、小型で安定な半導体レーザーが用いられ、レーザー光の反射を利用する変位検出方式が実用化されている。とりわけ、光てこ方式が一般的であり、この方式では集光したレーザー光をカンチレバーの先端部に当て、カンチレバーのたわみによるレーザー光束の反射角度変化を、4分割フォトダイオード検出器や半導体位置センサーに入射する光の相対強度の変化として検出する方式(DC検出方式)である(非特許文献7、8)。
AFMでは、探針・試料間の物理的相互作用力を検出することができる。AFMによる生体高分子間力測定を行なうためには、AFM探針と基板表面を表面修飾し、生体高分子をAFM探針と基板表面とに固定することが必要になる。一方、タンパク質などの生体高分子は、その分子特有の立体構造を持っており、その構造によって様々な機能を発揮している。また、その機能はタンパク質の自由な分子運動の下で、より効果的に発現される。タンパク質は、固定される表面の特性によっては構造の変化(変性)や運動性の抑制などに起因して元の機能を失う場合があるので、AFM探針と基板表面上へのタンパク質の固定法は非常に重要な課題になっている。したがって、タンパク質などの生体高分子をAFM探針と基板表面とに固定させる際には、その構造と機能・活性および運動自由度を如何に保持できるかが重要なポイントである。
タンパク質固定法については、図1で示されているように、当初は、短いクロスリンカー(cross-linker)またはシランカップリング剤等を用いてAFM探針と基板表面に直接固定される手法が使われた。このような「表面直接固定法」では、タンパク質など生体高分子は、表面との非特異的付着によって変性したり、立体方向性と運動自由度が制限されたり、AFMプローブと基板の表面間触圧によって機械的に変性してしまう恐れがある。また、AFMプローブと基板表面間の非特異的付着も分子間相互作用力測定の大きな障害になってきた。
そこで、近年では、ポリエチレングリコール(PEG)などのスペーサー分子を使った固定法が検討されている。しかし、この方法においても、使用するスペーサーの分子量とそれによる表面の被覆状態が充分でなければ上記障害の完全な回避は難しく、この二条件を満足できるスペーサー分子の表面への固定法は確立されていないため、この方法も必ずしも理想的な方法とは言えない。
かかる従来法を改善する手法として、高分子による表面修飾法の応用が考えられる。その方法は、高分子素材の表面に光照射によりラジカルを発生する光反応性化合物を塗布あるいは含浸させ、モノマー溶液中で光を照射することにより、光反応性化合物またはそれに由来して発生するラジカルを重合開始種として、高分子素材表面においてモノマーのラジカル重合を開始させてグラフト重合高分子を生成させ、そのグラフト重合高分子により高分子素材の表面を修飾することから構成されている(図2、非特許文献9,10,11、特許文献2)。
具体的には、光イニファターとしてS−ベンジルN,N−ジエチルジチオカルバメートなどを使用した例が示されている(非特許文献10、11)。更に、このS−ベンジルN,N−ジエチルジチオカルバメート基を固定化したポリマー表面に対して、N,N−ジメチルアクリルアミド、メタクリル酸などのビニルモノマーの存在下において紫外線を照射すると、グラフト重合層を形成できることが記載されている(非特許文献11、12、13、特許文献2)。
しかしながら、上記のようにして得られたグラフト重合層に対してタンパク質などの生体高分子を、その構造、活性、運動自由度を保持した状態で固定化することは通常は困難であるところから、AFMなどのSPMによる生体高分子間力測定に応用することは困難である。したがって、タンパク質などの生体高分子を容易に固定化することが可能でかつAFMなどのSPMによる生体高分子間力測定にも応用することが可能な生体高分子固定化技術の開発が要請されている。
特開平10−115624号公報 特開2001−164013号公報 Binnig, G., et al. : Phys.Rev. Lett., 49(1982), 57. Binnig, G., Quate, C. F. and Gerber, Ch. : Phys. Rev. Lett., 56(1986), 930. Martin, Y., Williams, C. C. and Wickramasinghe, H. K. : J. Appl. Phys., 61(1987), 4723. Albrecht, T. R., Akamine, S., Carver, T. E. and Quate, C. F.: J. Vac. Sci. Technol., A8(1990), 3386. Akamine, S., Barrett, R. C. and Quate, C. F. : Appl. Phys. Lett., 57(1990), 316. Wolter, O., Bayer, Th. and Greschner, J. : J. Vac. Sci. Technol., B9(1991), 1353. Meyer, G. and Amer, N. M. : Appl. Phys. Lett., 53(1988), 1045 および2400. Alexander, S., Hellemans, L., Marti, O., Schneir, J., Elings, V. and Hansma, P. K. : J. Appl. Phys., 65(1989), 164. Otsu, T. and Yoshida, M.: Makromol. Chem., Rapid Commun., 3(1982), 127-132. Otsu, T. and Yoshida, M.: Makromol. Chem., Rapid Commun., 3(1982), 133-140. Nakayama, Y. and Matsuda, T.: Macromolecules, 29(1996), 8622-8630, Kidoaki, S., Nakayama, Y. and Matsuda, T. Langmuir, 17(2001), 1080-1087. Kidoaki, S., Ohya, S., Nakayama, Y. and Matsuda, T. Langmuir, 17 (2001), 2402-2407.
これらの問題点を解決するために、本発明者らは、AFM探針と基板の表面修飾方法を鋭意研究した結果、AFM探針と基板表面上に、生体高分子固定可能化学官能基を有するイニファター分子を用いた重合反応により形成されるグラフト重合層を設けることによって、タンパク質などの生体高分子をグラフト重合層上に緩やかに固定し、その構造、活性、運動自由度を保持した状態で分子操作する技術(本明細書ではこの技術を「ソフトハンドリング」ともいう)が従来方法の問題点を解決することができることを見出して、この発明を完成するに到った。
なお、この発明において、「イニファター」という用語は、光または熱照射により解離してラジカルを発生し、一方のラジカルがモノマー分子の重合開始剤となり、他方のラジカルが重合停止剤として作用し、光または熱照射の間だけ一方のラジカルによる重合鎖が伸長すると共に、光または熱照射を停止すると他方のラジカルにより重合を停止させる化合物を意味する(非特許文献9)。この場合、イニファター分子はグラフト重合鎖の自由末端に常に配置される特徴を示す。
したがって、この発明は、ランカップリング結合を介して基材に固定されている、生体高分子固定可能化学官能基を有するイニファターと、該シランカップリング結合と該イニファターとの間に介在するグラフト重合鎖とからなる生体高分子固定可能グラフト重合鎖固定基材であって、該生体高分子固定可能化学官能基が−COOH基、−NH基、−SH基または−OH基であり、また該グラフト重合鎖がビニルモノマーの重合反応により該シランカップリング結合と該イニファターとの間に挿入されていることを特徴とする生体高分子固定可能グラフト重合鎖固定基材を提供することを目的とする。
更に、この発明は、生体高分子固定可能化学官能基を有するイニファターを、シランカップリング剤によりシランカップリング結合させて基材に固定させ、ビニルモノマーを重合させて該イニファターと該シランカップリング結合との間に挿入させて生体高分子固定グラフト重合鎖固定基材を得ることを特徴とする生体高分子固定可能グラフト重合鎖固定基材の製造方法を提供することも目的としている。
この発明は更に、上記グラフト重合固定基材または上記グラフト重合固定基材の製造方法によって得られたグラフト重合固定基材を使用して、生体高分子の力学特性および分子間の相互作用力特性の精密測定方法を提供することを目的としている。また、別の態様としては、かかる測定を原子間力顕微鏡によって行う方法を提供することも目的としている。
上記目的を達成するために、ランカップリング結合を介して基材に固定されている、生体高分子固定可能化学官能基を有するイニファターと、該シランカップリング結合と該イニファターとの間に介在するグラフト重合鎖とからなる生体高分子固定可能グラフト重合鎖固定基材であって、該生体高分子固定可能化学官能基が−COOH基、−NH基、−SH基または−OH基であり、また該グラフト重合鎖がビニルモノマーの重合反応により該シランカップリング結合と該イニファターとの間に挿入されていることとした。
また、以下の点にも特徴を有する。
(1)イニファターが光イニファターまたは熱イニファターであること。
(2)イニファターが一般式[I]:
Figure 0004213577
(式中、R1はラジカル発生基を意味し、R2およびR3はアルキル基、アラルキル基、水素または前記所定の官能基を意味し、ただし、R2およびR3は少なくとも一方は前記所定の官能基を意味する)
で表されるジチオカルバメートまたは一般式[II]:
Figure 0004213577
(式中、R4およびR5はアルキル基、アラルキル基、水素または前記所定の官能基を意味し、ただし、R4およびR5は少なくとも一方は前記所定の官能基を意味し、R2とR3は前記と同じ意味を有する)
で表されるチウラムジスルフィドであること。
(3)所定の官能基に生体高分子を固定していること。
(4)生体高分子がタンパク質であること。
(5)基材がプローブ顕微鏡用プローブまたはガラス基板であること。
また、本発明に係るグラフト重合固定基材の製造方法では、生体高分子固定可能化学官能基を有するイニファターを、シランカップリング剤によりシランカップリング結合させて基材に固定させ、ビニルモノマーを重合させて該イニファターと該シランカップリング結合との間に挿入させて生体高分子固定グラフト重合鎖固定基材を得ることを特徴とすることとした。
また、以下の点にも特徴を有する。
(6)イニファターが光イニファターまたは熱イニファターであること。
(7)イニファターが、一般式[I]:
Figure 0004213577
(式中、R1はラジカル発生基を意味し、R2およびR3はアルキル基、アラルキル基、水素または前記所定の官能基を意味し、ただし、R2およびR3は少なくとも一方は前記所定の官能基を意味する)
で表されるジチオカルバメートまたは一般式[II]:
Figure 0004213577
(式中、R4およびR5はアルキル基、アラルキル基、水素または前記所定の官能基を意味し、ただし、R4およびR5は少なくとも一方は前記所定の官能基を意味し、R2とR3は前記と同じ意味を有する)
で表されるチウラムジスルフィドであること。
(8)グラフト重合がシランカップリング結合を介して基材に固定すること。
(9)請求項7ないし10項のいずれか1項に記載のグラフト重合固定基材の製造方法において得られたグラフト重合固定基材に対して、更に生体高分子を固定化すること。
(10)生体高分子がタンパク質であること。
また、本発明に係る測定方法では、請求項1〜6に記載のグラフト重合固定基材を使用して生体高分子を操作することを特徴とすることとした。
さらに以下の点にも特徴を有する。
(11)生体高分子がタンパク質であること。
(12)生体高分子の力学特性および分子間の相互作用力特性を原子間力顕微鏡で測定すること。
(13)請求項13または14に記載の測定方法において、前記生体高分子の力学特性および分子間の相互作用力特性を原子間力顕微鏡で測定すること。
さらに、本発明に係る測定方法では、請求項1〜6に記載のグラフト重合固定基材を使用して生体高分子の力学特性および分子間の相互作用力特性を測定することとした。
さらに、以下の点にも特徴を有する。
(14)生体高分子がタンパク質であること。
(15)基材がナノ・マイクロスケールプローブまたは被検体としての基板であること。
(16)生体高分子力学特性および分子間の相互作用力特性を測定すること。
(17)請求項13ないし19のいずれか1項に記載の測定方法において前記生体高分子の活性および運動自由度が保持されていること。
この発明に係る生体高分子固定可能なグラフト重合体は、特にAFM探針と試料間に作用する力を検出することによって生体高分子間力測定を行なうために、AFM探針と基板表面との表面修飾をして、生体高分子をAFM探針と基板表面に固定させるために有用である。
前述したように、AFMの主要部は、AFM探針と、AFM探針が受ける斥力または引力を変位に変換するカンチレバー、その撓みを検出する変位センサー、試料を3次元方向に高精度に移動させるための走査素子(ピエゾ)から構成されている。このAFM探針は、装置性能を決める重要な要素であり、この探針によって高分解能、高精度な観察または分子操作を実現することができる。
AFMでは、探針・試料間の物理的相互作用として、AFM探針と試料間に作用する力を検出することができる。AFM探針と試料間に力が作用すると、カンチレバーが上下方向に撓む。レーザー光の反射を利用して検出されるカンチレバーのたわみ変位から、カンチレバーのバネ定数を考慮して相互作用力が算出される。
現在よく使用されているカンチレバーのバネ定数(k)は、0.01〜100 N/m が一般的であり、一方、カンチレバーの変位検出の分解能は、約 0.1 nm である。したがって、フックの法則 (Hooke's law: F = kz) から分かるように、AFM探針と試料表面との間に働く力は 10 -12 〜 10 -8 N の分解能で検出可能である。原子の共有結合力は、10 -9 N 程度と考えられているので、バネ定数の小さいカンチレバーを用いれば、試料表面の形状の観察、分子操作や、分子間力測定などを行うことができる。
AFMによる力測定では、そのピエゾスキャナーをZ軸方向に移動させながら、探針を試料表面に降下・接触・上昇させ、試料からの力により生じるカンチレバーのたわみ変位 (Deflection) を時間またはピエゾスキャナーの移動距離に対して連続的にプロットしていく。ここで、カンチレバーの変位にそのバネ定数をかけることによってカンチレバーに負荷された力が計算でき、そのプロットカーブはフォースカーブと呼ばれる。
この方法によって、図3に示すようにグラフト鎖一本の引伸時の力変移の測定、グラフト重合層の厚さ、弾性等の測定が可能である。また、カンチレバーの Deflection ピークの高さにバネ定数をかけると、ポリマー鎖を伸ばし切る力(Rupture force) が推算できる (90 nm ×20 pN/nm = 1800 pN)。なお、ポリマーの長さも 200 nm 前後であるなどことが判る。
ここで、この発明に係る生体高分子固定可能なグラフト重合体について説明する。
この発明に係る生体高分子固定可能なグラフト重合体は、生体高分子固定可能化学官能基を有するイニファターが表面グラフト重合鎖の自由末端に配置されていることを特徴とする。このグラフト重合体においては、グラフト重合鎖の固定端はシランカップリング結合等を介して基材に固定化されている。
この発明において使用することができるイニファターとしては、例えば、一般式[I]:
Figure 0004213577
(式中、R1はラジカル発生基を意味し、R2およびR3はアルキル基、アラルキル基、水素または生体高分子固定可能化学官能基を意味し、ただし、R2およびR3は少なくとも一方は生体高分子固定可能化学官能基を意味する)
で表されるジチオカルバメートまたは一般式[II]:
Figure 0004213577
(式中、R4およびR5はアルキル基、アラルキル基、水素または生体高分子固定可能化学官能基を意味し、ただし、R4およびR5は少なくとも一方は生体高分子固定可能化学官能基を意味し、R2とR3は前記と同じ意味を有する)
で表されるチウラムジスルフィドが挙げられる。
上記イニファターにおいて、生体高分子固定可能化学官能基としては、タンパク質などの生体高分子を結合することができる化学官能基であれば、特に限定されるものではなく、例えば、−COOH基、−NH2基、−SH基、もしくは−OH基またはこれらの1つを含む化学官能基を挙げることができる。また、−COOH基、−NH2基、−SH基、もしくは−OH基を含む生体高分子固定可能化学官能基としては、例えば、−CH2COOH、−(CH22COOH、−CH2NH2、−CH2SH、−CH2OHなどの−COOH基、−NH2基、−SH基、もしくは−OH基置換アルキレン基などが挙げられる。ここで、アルキレン基とは、炭素数1ないし4個の2価脂肪族炭化水素残基を意味する。
上記一般式[II]で表されるチウラムジスルフィドは、ジチオカルバメート2分子が結合した形状であって、特に熱によりジチオカルバメートにそれぞれ分離され、上記ジチオカルバメートと実質的に同様に作用する。
上記一般式において、R1で表されるラジカル発生基としては、特に限定されるものではなく、光または熱照射によってR1−S結合が、R1とSとに解離し、それぞれラジカルを発生する者であればいずれでもよいが、例えば、低級アルキル基、低級シクロアルキル基、アラルキル基などを挙げることができる。
更に詳細には、低級アルキル基としては、炭素数が1ないし6の飽和鎖状炭化水素残基を意味し、例えば、メチル、エチル、メチルエチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシルなどを挙げることができる。低級シクロアルキル基としては、素数が3ないし6の環状炭化水素残基を意味し、例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシルなどを挙げることができる。アラルキル基としては、炭素数が7ないし11の環状―鎖状炭化水素残基を意味し、ベンジル、メチルベンジル、ナフチルメチルなどを挙げることができる。
この発明において、グラフト重合鎖は、基材にシランカップリング結合を介して固定した上記イニファターに対して、ビニルモノマーの存在下に光または熱照射による重合反応の結果、該基材上のシランカップリング剤とイニファター分子との間に挿入・伸長させて得ることができる。
また、この発明において使用できる基材としては、この発明のグラフト重合体が、特にAFMなどのSPM探針・試料間の物理的相互作用力測定に基づく生体高分子間力測定に有用であるので、AFM探針や、試料用基板などを使用するのが好ましいが、この発明の目的に適うものであれば、特に限定されるものではなく、マイクロスケールのプローブの他に、ナノチューブへの修飾、または作成したナノスケールのプローブなども包含される。
次に、この発明に係る生体高分子固定可能なグラフト重合体の製造方法について説明する。
上記の構成からなるこの発明の生体高分子固定可能なグラフト重合体は、まず、シランカップリング剤等で処理して基材にイニファターを固定可能な化学官能基を導入した後、上記イニファターをそのシランカップリング剤分子との結合を介して基材に固定化する。なお、基材への固定化方法やシランカップリング法はいずれも当業者に公知の文献記載の方法に従って行なうことができる。
続いて、この基材に固定化したイニファターに対して、ビニルモノマーの存在下に光照射もしくは加熱することにより重合反応を起こして、該基材上のシランカップリング剤とイニファター分子との間にグラフト重合鎖を挿入・伸長させることができる。なお、この重合反応は非特許文献11、12、13に記載の方法に従って行なうことができる。
この発明に使用することができるビニルモノマーとしては、ビニル基を有するモノマーであれば、この発明の目的に適うものである限り、特に限定されるものではないが、例えば、アクリル酸、アクリルアミド、アクリロニトリル、メタクリル酸、スチレン、酢酸ビニル、ビニルアルコール、塩化ビニルなどが挙げられる。
なお、この重合反応においては、該イニファターは、前述したように、光または熱照射によりR1−S結合が解離して互いにラジカルを発生し、一方のラジカル(S側)はモノマー分子の重合開始剤となり、他方のラジカル(R1側)は重合停止剤として作用し、光または熱照射の間だけ一方のラジカルによる重合鎖が伸長すると共に、光または熱照射を停止すると他方のラジカルにより重合が停止する化合物を意味する。したがって、光または熱照射の時間を調節することによって、グラフト重合鎖の長さを自由に調節することができる。
この発明に係る生体高分子固定化グラフト重合体は、上記のようにして得られた生体高分子固定可能なグラフト重合体に対して、水溶性カルボジイミド、マレイミド、スクシンイミド等の架橋剤を用いる常法に従ってタンパク質などの生体高分子を結合させることによって得ることができる。
次に、上述の生体高分子固定可能化学官能基を有するイニファターを用いるグラフト重合体を基材表面上に形成する方法をAFMプローブおよびガラス基材上への修飾を例にして説明する。
(AFMプローブおよびガラス基材の修飾方法)
−COOH基を持つイニファター(N-(dithiocarboxy)sarcosine, DTCS)を用いたAFMプローブおよびガラス基材へのグラフト重合層修飾方法について、図4を参照して説明する。この方法では、まず、AFM探針およびカバーガラスの両表面側にシラン化剤にて処理をした後、DTCSを化学固定させ、ビニルモノマーなどの重合反応基質を共存させた状態でUV照射する。
UV照射によりラジカル化された反応開始剤がモノマーを次々と重合し、光照射時間の制御によって一定の鎖長を持つグラフト重合高分子を作ることができる。光照射時間のコントロールによってグラフト重合鎖の鎖長をよく制御できることも、この方法の重要な特徴である。なお、光照射停止によって重合反応が止まった際には、イニファター分子がグラフト重合鎖の末端に留まった状態で残るので、イニファターの種類を選ぶことによって様々な自由末端特性を持つグラフト重合層を作成することができるという利点もある。
グラフト重合層修飾化されたAFMプローブ上にタンパク質を固定して、同様の方法で基材表面に固定されたタンパク質との間の相互作用測定を行う際には、グラフト重合層間の付着が起こらないように親水性のモノマー基質を選ぶ必要性があるため、N、N-dimethylacrylamide(DMAAm)などのビニルモノマーを重合反応基質として選ぶのが好ましい。
(作成されたグラフト重合層の特定)
ガラス基材とAFMプローブ表面にグラフト重合層の状態の確認は次のようにして行なうことができる。グラフト重合層の状態としては、例えば、グラフト重合層の厚さ、鎖長、末端特性、鎖間または層間相互作用などを特定する必要がある。
UV強度を上げるまたは照射時間を長くすることによって、グラフト重合層の鎖長が伸長し、厚さは増加する。グラフト重合層の末端特性と鎖間または層間相互作用は、上述したように反応開始剤とモノマー基質の種類によって決めることができる。
ガラス基材表面上に作成されたグラフト重合層の特性は、水接触角測定およびAFMフォースカーブ測定方法によって特定する研究結果が既に発表されている(非特許文献12、図5)。この研究結果により、親水性モノマーを重合基質とした場合には、一定のUV強度下では、グラフト重合層は30秒間の短時間内に“mushroom state”から“mushroom monolayer state”を経て “brush state”に変移し、表面が疎水性から親水性に変わるので、この変移過程を水接触角を測定することによって解析するができることが知られている。また、グラフト重合の厚さ変化は、AFMプローブで押しながら取ったForce-Distanceカーブによって予測できることも知られている(非特許文献13)。
本発明におけるAFMプローブ表面のグラフト化については、AFMプローブ表面が非常に小さいので、水接触角度測定による解析は不可能であるが、AFMフォースカーブ測定方法によってプローブ表面にグラフト重合層ができているかどうかは確認できることが判明した。
AFMプローブ表面とガラス基材表面にグラフト重合層を以下のようにして作成した。
ガラス基材をアセトン、脱イオン蒸留水(DDW)、続いてエタノールで各20分づつ超音波洗浄した。次に、ガラス基材は、ピラニア液(c-H2SO4 : 30%H2O2 = 7 : 3)で80℃のオイルバスで1時間処理し、基材の表面をシラノール化するとともに、汚れを除去した。続いて、基材をDDWで3回洗浄し、ピラニア液を完全に洗い流した後、脱水アセトンで5回洗浄し、水を完全に洗い流した。更に、脱水アセトン・トルエン(1:1)で洗浄した後、脱水トルエンで5回洗浄して、アセトンを完全に洗い流した。
更に、ガラス基材を、クロロメチルフェニルトリクロロシラン(蒸留トルエン中にシラン5%)中で、ArまたはN2ガス置換状態で18時間震盪し、シランカップリングした。その後、ガラス基材をトルエン、次にアセトンでそれぞれ20分間超音波洗浄し、上記と同様にして、クロロメチルフェニルトリクロロシランによりシランカップリングを行い、更にトルエン、次にアセトンでそれぞれ20分間超音波をかけながら再度洗浄した。再洗浄後、ガラス基材を115℃で10分間乾燥処理し、トルエンとアセトンの吸着残留物を揮発除去させた。
続いて、反応開始剤としてDTCSの5%メタノール液中で48時間震盪し、ガラス基材に反応開始剤を固定した。その後、ガラス基材をメタノールで5回洗浄した後、乾燥、密封、暗所状態で保存するかまたは下記の光イニファター重合反応を行った。
次に、蒸留DMAAmの1Mエタノール液300μLを直径35 mmガラスディッシュの真中においてある直径15 mm カバーガラス基材上に載せ、直径30 mm ガラスでカバーし、N2ガスを当てながらUV照射をして光イニファター重合反応を行った。AFMプローブは、テフロン(登録商標)製の小さいチャンバーの中に上向きで入れ、同じ方法で重合反応を行った。
図6に、UV照射時間制御によってガラス基材およびAFMプローブ表面に作成された -COOH自由端グラフト重合層のフォースカーブ測定結果を示す。図の左側のカーブは Deflection-Displacement プロットを示し、右はそのForce-Extension (Force-Distance) プロットである。Force-Extension カーブの縦軸はカンチレバーにかかった力 (Deflection) を、横軸はAFMプローブ先端のZ方向での移動距離 (Distance) を表している。グラフト重合反応の際のUV強度は700 mW/cm2、UV照射時間は3分間とした。無修飾のガラス基材またはAFMプローブ表面をグラフト化されていない際の対照表面とした。その結果から、AFMプローブ表面上に約30 nm厚さでグラフト重合層ができていることが確認できた。DTCS は親水性であり、付着現象は完全に解消されたことも確認された。
以上の実験によって、AFMプローブとガラス基材表面上に−COOH自由端グラフト重合層が作成できていることを確認した後、グラフト重合層が共有結合で表面に固定されているかどうか、またグラフト重合層の鎖長分布について調べた。
UV強度800 mW/cm2、UV照射時間3分間の条件でガラス基材表面上に作成された−COOH自由端グラフト重合層にEDC処理を施し、アミノシラン化されたAFMプローブを使って自由末端から引っ張った。EDCは、−COOH 基および−NH2 基の架橋剤で、[1-Ethyl-3-(3-Dimethylaminopropyl)-carbodiimide Hydrochloride]である。図7に、測定された鎖長延伸フォースカーブを示す。
図中、左のカーブは観察された幾つかの典型的な Deflection-Displacement プロットを示し、右はそのExtension (Force-Distance) プロットである。その結果、ガラス基材表面上に作成された−COOH自由端グラフト重合層のポリマー鎖長は50〜300 nmの範囲内であり、ポリマー鎖を切り離すRupture forceは1〜2 nNであることが判った。
さらに、同じ方法で、AFMプローブ表面上に作成された−COOH自由端グラフト重合層のポリマー鎖を自由末端から引き伸ばし、グラフト重合層が共有結合でプローブ表面に固定されているかどうかを調べた。その結果を図8に示す。その結果からは、AFMプローブ表面上に作成された−COOH自由端グラフト重合層のポリマー鎖長は200〜1000 nm範囲内であり、ポリマー鎖を切り離すRupture forceは2〜3 nNであることが判った。普通、共有結合を切り離す力も1〜3 nN範囲内であるため、今回の結果によってAFMプローブとガラス基材表面上にできたグラフト重合層は共有結合によって表面上に固定されていることが確認できる。
この発明において作成したグラフト重合層化表面上では、タンパク質など生体高分子が表面付着で変性されたり、立体方向性と自由度が制限されたり、AFMプローブと基板の表面接触で押しつぶれたりする他のタンパク質固定方法で見られる諸問題が解決できると同時に、AFMプローブと基板の表面の接触によって発生する非特異的な表面間付着現象も解消される。
以上の特徴から見ても、この発明に係るグラフト重合層を仲介したタンパク質のソフトハンドリング方法は全く新しい発想であり、AFMによる1分子の観察、操作または力測定分野での応用性が期待される。
そこで、この発明に係るグラフト重合層化AFMプローブをタンパク質のソフトハンドリングによる相互作用力の測定に応用した例について説明する。
ここで、この発明のAFMプローブの−COOH自由端グラフト重合層化技術を使って、AFMを使用して、グラフト重合層化AFMプローブを用いたタンパク質のソフトハンドリングによる微弱相互作用力の測定の検証実験を行った。ヒト血清アルブミン(HSA)とそのモノクローナル抗体 (IgG1) を対象にして、グラフト重合層上での抗体・抗原相互作用力の測定実験を行った。また、その比較実験として、抗体・抗原をシラン化処理表面およびPEG3400修飾表面に固定した際の相互作用力の測定実験も同時に行い、この発明方法の特徴と実用性について比較、評価を行った。
(実験目的)
HSA抗体・抗原に対し、シラン化表面、PEG3400修飾表面およびPDMAAmグラフト重合層表面上での相互作用力測定を行い、それぞれの固定条件で観察されるフォースカーブの形態、力と延伸距離の測定値分布、特異的なフォースカーブの出現確率、非特異的なフォースカーブの割合などについて比較と評価を行う。それによって、この発明によるグラフト重合層化AFMプローブを用いたタンパク質のソフトハンドリングによる微弱相互作用力の測定方法の特徴と実用性を検証する。
(実験原理)
抗体・抗原の相互作用力は、一般的に他のリガンドーレセプタ対に比べて強いとされているので、今回の実験試料にはアルブミン抗体・抗原を使用した。新しい固定条件で観察されるフォースカーブの形態、力と延伸距離の測定値分布、特異的なフォースカーブの出現確率、非特異的なフォースカーブの割合など諸状況については、他の方法を使った場合の結果を比べながら評価を行い、この発明方法の応用性を試験した。なお、三種類の固定方法の問題点については既に説明したので、ここでは実験方法と結果を中心に説明する。
(実験方法)
HSA抗体・抗原の3種類のタンパク質固定方法および相互作用力測定の基本原理をそれぞれ図9、図10および図11に示す。
図9に示すシラン化表面の場合には、一晩SH−シラン化剤でカップリングされた基材とプローブ表面上に抗体・抗原を固定する。図10に示すPEG3400修飾表面の場合には、一晩SH−シラン化剤でカップリングされた基材とプローブ表面を20 mMのNHS-PEG3400-MALで1時間修飾した後、タンパク質固定を行う。
これに対して、図11に示すグラフト重合層表面上での場合には、UV強度が840 mW/cm2で、 重合時間が3 minの条件で作成されたPDMMAm-DTCSグラフト重合層を0.1MのEDC(pH4.8)で一晩修飾した後、タンパク質固定を行う。
また、3種類のタンパク質固定条件と同様にして、非固定のタンパク質を1M Tris bufferで洗い流してから、PBS(-) buffer中で力測定を行った。
なお、これらのタンパク質固定は、HSA抗原として 2 mg/ml のものを、抗体として 1 mg/mlのものを使い、タンパク質固定時間を約3時間にして行った。AFMによる力測定は、スキャン速度を500 nm/sec (スキャン距離は 500 nm で、 頻度は 0.5 Hz) に設定した状態で行った。マイクロカンチレバーはオリンパス製の OMCL TR400PSA の長いカンチレバー(バネ定数20 pN/nm)を使用した。
(実験結果と考察)
HSA抗体・抗原に対し、シラン化表面、PEG3400修飾表面およびグラフト重合層表面上での相互作用力測定を行って、フォースカーブの形態特性を調べた後、それぞれの場合に観察された典型的なフォースカーブを非吸着型、付着型、シングルピーク型、ダブルピーク型、マルチピーク型に分けて、それらの形態特性を図12にまとめた。
まず、シラン化表面上では、8割のフォースカーブに付着現象が見られたのに対して、PEG3400修飾表面では付着力の出現は1割程度に留まり、グラフト重合層表面上ではほとんど付着力は確認されなかった。
また、シラン化表面上では、ほとんどの場合にマルチフォースピーク現象が観察され、特異的なフォースピークと非特異的なフォースピークの区別が難しい場合がほとんどだった。他方、マルチフォースピークの場合には、最後に現れるピークを力測定値データとして使っているが、それが必ずしも特異的なものであるとは言えないため、この方法で測定されたタンパク質間相互作用力の測定値には誤差が予想される。
表1は、HSA抗体・抗原の三種類の違うタンパク質固定条件で示したフォースカーブの統計比較を示す。
Figure 0004213577
3種類の固定条件で得られた力測定データを統計し、図13で示したように力と延伸距離の分布図を作成した。これを上述の吸着割合結果と一緒にまとめてみると、表1で示したような結果が得られた。この統計結果からは、シラン化表面上での力測定値は、他の2つの方法の場合よりは少し高めになっていることが判る。ところが、吸着現象の影響が少ないPEG3400修飾表面とグラフト重合層表面では、力測定値はそれぞれ64 ± 34 pNと73 ± 35pNであり、お互いに僅か11 pNの差があったに過ぎない。この結果から、グラフト重合層表面上でのタンパク質固定では、非特異的なフォースカーブの割合が減少し、付着現象を抑えることが確認された。
また、付着現象の確率については、PEG3400修飾表面またはグラフト重合層上では非特異的な吸着現象は少なかったが、プローブを基材表面により強い力で押し付けた場合だけは、時々付着現象が観察された(図14)。この現象は、グラフト重合層よりもPEG3400修飾表面上での場合にはよく見られた。その原因は図15に模式的に示すように、固体表面上でのグラフト重合層作成に使われる二種類の方法である"Grafting from"および"Grafting to"基本的な特徴によるものだと考えられる。"Grafting from"法では、モノマーが表面から重合し高密度でポリマーが成長してくるため、UV照射時間が長くなるのにつれて「ブラシ状」の重合層が形成されることに起因して、AFMプローブで押し付けた際の「クッション」機能が強くなる。一方、"Grafting to"法では、ランダムコイル状態のポリマーが溶液中から表面に吸着してくるため、最高の密度で吸着した場合でも「マッシュルーム」の単分子層状態での被覆が限界であり、形成されるポリマーグラフト層は「ブラシ状」には至らないことが知られている。このため、AFMプローブで押し付けた際の「クッション」機能が弱くなるものと考えられる。
したがって、本実験においても、PEG3400修飾表面上では、グラフト重合層のようにポリマー鎖がブラシ状にはなっておらず、ポリマー鎖の固定密度が比較的に低く、強い力でプローブを基材に押し付けた場合には、固体表面間に直接的な接触が起こりやすくなっていることが予測される。グラフト重合層上では、その現象は解消される。
HSA抗体・抗原に対し、シラン化表面、PEG3400修飾表面およびPDMAAmグラフト重合層表面上で行った相互作用力測定結果から、今回我々が開発した「グラフト重合層修飾AFMプローブを用いたタンパク質のソフトハンドリングによる微弱相互作用力の測定」法は、他の方法に比べて種々の面で優れており、AFMによる生体高分子の精密一分子観察、操作、力測定などに実用化できることがわかった。
AFMによる抗体・抗原の相互作用力測定に使用される従来の固定方法を比較説明する図。 イニファターグラフト重合層の作成過程を説明する模式図。 AFMのフォースモードによるPDMAAm(ポリジメチルアクリルアミド)グラフト重合層中からポリマー鎖1本を引き伸ばしたときのフォースカーブを示す図。 AFMでグラフト重合層を仲介したタンパク質のソフトハンドリングによる抗体・抗原の相互作用力測定方法の実験セットアップを示す説明図。 グラフト重合層構造変移過程の水接触角測定(左)およびAFMフォースカーブ測定(右)方法による特定方法(Kidoaki S.、 Nakayama Y. and Matsuda T. (2001) Langmiur、 17: 1080-1087)を説明する図。 UV照射時間制御によってガラス基材およびAFMプローブ表面に作成されたカルボキシル基自由端グラフト重合層のフォースカーブ測定結果を示す図。 UV照射時間制御によってガラス基板上に作成されたカルボキシル基自由端グラフト重合層の鎖長延伸フォースカーブを示す図。 UV照射時間制御によってAFMプローブ表面上に作成されたカルボキシル基自由端グラフト重合層の鎖長延伸フォースカーブ (Deflection-Displacement プロット) を示す図。 シラン化表面上でのタンパク質直接固定方法によって行われる抗体・抗原相互作用力測定の原理図。 PEG3400修飾表面上でのタンパク質固定方によって行われる抗体・抗原相互作用力測定の原理図。 カルボキシル基自由端グラフト重合層表面を仲介したタンパク質固定方法によって行われる抗体・抗原相互作用力測定の原理図。 HSA抗体・抗原の三種類の違うタンパク質固定条件で示したフォースカーブの形態特性の比較を示すグラフ。 HSA抗体・抗原の三種類の違うタンパク質固定条件で示した相互作用力と延伸距離測定値の分布の比較を示すグラフ。 PEG3400修飾表面とグラフト重合層表面上での力測定中に発生する付着の触圧依存性を説明する説明図。 固体表面上でのグラフト重合層作成に使われる"Grafting from"および"Grafting to" の二種類の方法の基本的な特徴を比較説明する説明図。

Claims (20)

  1. シランカップリング結合を介して基材に固定されている、生体高分子固定可能化学官能基を有するイニファターと、該シランカップリング結合と該イニファターとの間に介在するグラフト重合鎖とからなる生体高分子固定可能グラフト重合鎖固定基材であって、該生体高分子固定可能化学官能基が−COOH基、−NH基、−SH基または−OH基であり、また該グラフト重合鎖がビニルモノマーの重合反応により該シランカップリング結合と該イニファターとの間に挿入されていることを特徴とする生体高分子固定可能グラフト重合鎖固定基材。
  2. 請求項1に記載のグラフト重合鎖固定基材において、前記イニファターが光イニファターまたは熱イニファターであることを特徴とするグラフト重合鎖固定基材。
  3. 請求項1または2に記載のグラフト重合鎖固定基材において、前記イニファターが一般
    式[I]:
    Figure 0004213577
    (式中、Rはラジカル発生基を意味し、RおよびRはアルキル基、アラルキル基、水素または前記所定の官能基を意味し、ただし、RおよびRは少なくとも一方は前記所定の官能基を意味する)
    で表されるジチオカルバメートまたは一般式[II]:
    Figure 0004213577
    (式中、RおよびR5はアルキル基、アラルキル基、水素または前記所定の官能基を意味し、ただし、RおよびRは少なくとも一方は前記所定の官能基を意味し、RとRは前記と同じ意味を有する)
    で表されるチウラムジスルフィドであることを特徴とするグラフト重合鎖固定基材。
  4. 請求項1〜3のいずれか1項に記載の生体高分子固定可能グラフト重合鎖固定基材の該生体高分子固定可能化学官能基に生体高分子が固定されていることを特徴とする生体高分子固定グラフト重合鎖固定基材。
  5. 請求項4に記載のグラフト重合鎖固定基材において、前記生体高分子がタンパク質であることを特徴とするグラフト重合鎖固定基材。
  6. 請求項1〜5のいずれか1項に記載のグラフト重合鎖固定基材において、前記基材がプローブ顕微鏡用プローブまたはガラス基板であることを特徴とするグラフト重合鎖固定基材。
  7. −COOH基、−NH基、−SH基または−OH基である生体高分子固定可能化学官能基を有するイニファターを、シランカップリング剤によりシランカップリング結合させて基材に固定させ、ビニルモノマーを重合させて該イニファターと該シランカップリング結合との間に挿入させて生体高分子固定グラフト重合鎖固定基材を得ることを特徴とする生体高分子固定可能グラフト重合鎖固定基材の製造方法。
  8. 請求項7に記載のグラフト重合鎖固定基材の製造方法において、前記イニファターが光イニファターまたは熱イニファターであることを特徴とするグラフト重合鎖固定基材の製造方法。
  9. 請求項7または8に記載のグラフト重合鎖固定基材の製造方法において、前記イニファターが、一般式[I]:
    Figure 0004213577
    (式中、Rはラジカル発生基を意味し、RおよびRはアルキル基、アラルキル基、水素または前記所定の官能基を意味し、ただし、RおよびRは少なくとも一方は前記所定の官能基を意味する)
    で表されるジチオカルバメートまたは一般式[II]:
    Figure 0004213577
    (式中、RおよびRはアルキル基、アラルキル基、水素または前記所定の官能基を意味し、ただし、RおよびRは少なくとも一方は前記所定の官能基を意味し、RとRは前記と同じ意味を有する)
    で表されるチウラムジスルフィドであることを特徴とするグラフト重合鎖固定基材の製造方法。
  10. 請求項7〜9のいずれか1項に記載のグラフト重合鎖固定基材の製造方法において、前記グラフト重合鎖がシランカップリング結合を介して基材に固定することを特徴とするグラフト重合鎖固定基材の製造方法。
  11. 請求項7〜10のいずれか1項に記載のグラフト重合鎖固定基材の製造方法において得られたグラフト重合鎖固定基材に対して、更に生体高分子を固定化することを特徴とするグラフト重合鎖固定基材の製造方法。
  12. 請求項11に記載のグラフト重合鎖固定基材の製造方法おいて、前記生体高分子がタンパク質であることを特徴とするグラフト重合鎖固定基材の製造方法。
  13. 請求項1〜6のいずれか1項に記載のグラフト重合鎖固定基材を使用して生体高分子を操作することを特徴とする測定方法。
  14. 請求項13に記載の測定方法において、前記生体高分子がタンパク質であることを特徴とする測定方法。
  15. 請求項13または14に記載の測定方法において、前記生体高分子の力学特性および分子間の相互作用力特性を原子間力顕微鏡で測定することを特徴とする測定方法。
  16. 請求項1〜6のいずれか1項に記載のグラフト重合鎖固定基材を使用して生体高分子の力学特性および分子間の相互作用力特性を測定することを特徴とする測定方法。
  17. 請求項16に記載の測定方法において、前記生体高分子がタンパク質であることを特徴とする測定方法。
  18. 請求項16または17に記載の測定方法において、前記基材がナノ・マイクロスケールプローブまたは被検体としての基板であることを特徴とする測定方法。
  19. 請求項16〜18のいずれか1項に記載の測定方法において前記生体高分子力学特性および分子間の相互作用力特性を測定することを特徴とする測定方法。
  20. 請求項13〜19のいずれか1項に記載の測定方法において前記生体高分子の活性および運動自由度が保持されていることを特徴とする測定方法。
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