JP4205234B2 - ポリアミド組成物 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ポリアミド組成物に関し、より詳しくは、280℃を超える高温下でも発泡や変色を生じることがなく、しかも耐熱老化性に優れているポリアミド組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、耐熱性が要求される樹脂成形品を製造する材料として、融点が280℃を超える半芳香族ポリアミドが使用されている。特に、自動車部品等には、長期間にわたり高温に晒される部品があり、このような部品では常に樹脂材料の熱劣化、酸化劣化等が問題となっている。この問題を解決するために、例えば、半芳香族ポリアミドに配合される安定剤として、銅化合物が知られている。
しかしながら、この種の安定剤は、280℃を超える高温下で半芳香族ポリアミドに練り込んだ場合、発泡や変色傾向が大きく、また強いて銅化合物を半芳香族ポリアミドに練り込んだとしても有効に効果を発現するに至っていない。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
かように、銅化合物安定剤は、ナイロン6、ナイロン6,6のような脂肪族ポリアミドに対しては優れた耐熱老化性を付与するものではあるが、融点が280℃を超えるようなポリアミド、特に半芳香族ポリアミドに混練するときには、上記の問題を発生するものであり、未だ満足すべき効果を挙げるに至っていない。
【0004】
そこで、本発明の目的は、280℃を超える高温下でも発泡や変色を生じることがなく、しかも熱安定性(耐熱老化性)に優れているポリアミド組成物を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明によれば、
(A)テレフタル酸成分単位20〜100モル%と、
テレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸成分単位0〜80モル%及び/又は炭素原子数4〜20の脂肪族ジカルボン酸成分単位0〜80モル%と、
からなるジカルボン酸成分単位[a]、
及び
脂肪族ジアミン成分単位及び/又は脂環族ジアミン成分単位からなるジアミン成分単位[b]
からなる繰り返し単位から構成され、
30℃濃硫酸中で測定した極限粘度が0.5〜3.0dL/gの範囲にあり、
融点が280℃以上の
半芳香族ポリアミドの少なくとも1種を50〜100重量部、
(D)グラフト変性α−オレフィン重合体、グラフト変性芳香族ビニル化合物・共役ジエン共重合体及びグラフト変性水素化芳香族ビニル化合物・共役ジエン共重合体からなる群より選択されたグラフト変性物を0〜50重量部、
及び
(B)銅化合物及びハロゲン化アルカリ金属化合物を含む、融点が270℃以下の低融点ポリアミドからなるマスターバッチ、
を含んで成るポリアミド組成物であって、(A)と(D)との合計100重量部当たり前記銅化合物を0.001〜0.4重量部及び前記ハロゲン化アルカリ金属化合物を0.005〜4.0重量部の割合でそれぞれ含んでなることを特徴とするポリアミド組成物が提供される。
本発明のポリアミド組成物においては、更に、(C)有機系安定剤を、(A)と(D)との合計100重量部に対して、0.005〜4.0重量部の割合で含むことが好ましい。
【0006】
【発明の実施の形態】
本発明によれば、高温(280℃以上)で銅化合物安定剤を半芳香族ポリアミドに混練するに先立って、融点の低いポリアミドで銅化合物安定剤のマスターバッチを製造し、このマスターバッチを半芳香族ポリアミドのような融点が280℃以上のポリアミドに混練することにより、前述した発泡も生ぜず、また変色も抑制でき、またポリアミド組成物の耐熱老化性も顕著に向上させることができる。即ち、後述する表1に示すとおり、半芳香族ポリアミドに対して、直接銅化合物やハロゲン化アルカリ金属を配合した場合には、発泡や変色が生じ、熱老化も認められるのに対して、銅化合物及びハロゲン化アルカリ金属を低融点ポリアミドとのマスターバッチの形で配合することにより、発泡や変色等のトラブルを解消し、耐熱老化性を向上させることが可能となる。
更に、本発明では、銅化合物を、(A)と(D)との合計100重量部当たり0.001〜0.4重量部という少量の配合で半芳香族ポリアミドの耐熱老化性を向上させうることも特徴である。
【0007】
[(A)半芳香族ポリアミド]
本発明の組成物を構成する半芳香族ポリアミド(A)は、特定のジカルボン酸成分単位[a]と、特定のジアミン成分単位[b]とからなる繰り返し単位から構成されている。
【0008】
ジカルボン酸成分[a]:
このポリアミドを構成する特定のジカルボン酸成分単位[a]は、必須成分単位としてテレフタル酸成分単位[a−1]を有している。このようなテレフタル酸成分単位[a−1]を有する繰返し単位は、次式[I−a]で表わすことができる。
【化1】
−NH−R−NH−CO−(pPh)−CO− [I−a]
ただし、上記式[I−a]において、Rは、二価の炭化水素基、好ましくは炭素原子数4〜18のアルキレン基を表わし、pPHは、パラフェニレン基を表わす。
【0009】
この特定のジカルボン酸成分単位[a]は、全部が上記[I−a]で表される成分単位である必要はなく、上記のようなテレフタル酸成分単位[a−1]の一部が他のジカルボン酸成分単位であってもよい。
このようなテレフタル酸成分以外の他のカルボン酸成分単位には、テレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸成分単位[a−2]と脂肪族ジカルボン酸成分単位[a−3]とがある。
テレフタル酸以外の他の芳香族ジカルボン酸成分単位[a−2]の例としては、イソフタル酸成分単位、2−メチルテレフタル酸成分単位およびナフタレンジカルボン酸成分単位を挙げることができる。芳香族ポリアミドがテレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸から誘導される成分単位を含む場合、このような成分単位としては、特にイソフタル酸成分単位が好ましい。
【0010】
このようなテレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸成分単位[a−2]のうち、本発明において特に好ましいイソフタル酸成分単位を有する繰返し単位は、次式[I−b]で表わすことができる。
【化2】
−NH−R−NH−CO−(mPh)−CO− [I−b]
ただし、上記式[I−b]において、Rは上記式[I−a]と同じ意味であり、mPhは、メタフェニレン基を表わす。
【0011】
脂肪族ジカルボン酸成分単位[a−3]は、通常は炭素原子数4〜20、好ましくは6〜12のアルキレン基を有する脂肪族ジカルボン酸から誘導される。このような脂肪族ジカルボン酸成分単位[a−3]を誘導するために用いられる脂肪族ジカルボン酸の例としては、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等を挙げることができる。
このポリアミドが脂肪族ジカルボン酸成分単位を有する場合、このような成分単位としては、特にアジピン酸成分単位およびセバシン酸成分単位が好ましい。
【0012】
ジカルボン酸成分単位[a]を構成する他のジカルボン酸成分単位として、脂肪族ジカルボン酸成分単位[a−3]を有する繰返し単位は、例えば、次式[II]で表わすことができる。
【化3】
−NH−R−NH−CO−(CH−CO− [II]
ただし、上記式[II]において、Rは上記式[I−a]と同じ意味であり、nは、通常、2〜18の整数を表わす。
【0013】
ジアミン成分[b]:
本発明で用いる半芳香族ポリアミドを形成するジアミン成分単位[b]は、脂肪族ジアミン成分単位[b−1]及び脂環族ジアミン成分単位[b−2]から選ばれるものである。
【0014】
脂肪族ジアミン成分単位[b−1]としては、炭素原子数4〜18の直鎖アルキレンジアミン成分単位、側鎖アルキル基を有する炭素原子数4〜18のアルキレンジアミン成分単位等が好適である。
【0015】
このような直鎖アルキレンジアミン成分単位の具体的な例としては、1,4−ジアミノブタン、1,6−ジアミノヘキサン、1,7−ジアミノヘプタン、1,8−ジアミノオクタン、1,9−ジアミノノナン、1,10−ジアミノデカン、1,11−ジアミノウンデカン、1,12−ジアミノドデカン等を挙げることができる。
これらのなかでは、1,6−ジアミノヘキサン、1,8−ジアミノオクタン、1,10−ジアミノデカンおよび1,12−ジアミノドデカンから誘導される成分単位が好ましく、本発明で用いる半芳香族ポリアミド中にはこれらの成分単位が複数種類含有されていてもよい。さらに、これらの中でも、1,6−ジアミノヘキサンから誘導される成分単位が特に好ましい。
【0016】
また、側鎖アルキル基を有する炭素原子数4〜18のアルキレンジアミン成分単位の具体的な例としては、1−ブチル−1,2−ジアミノ−エタン、1,1−ジメチル−1,4−ジアミノ−ブタン、1−エチル−1,4−ジアミノ−ブタン、1,2−ジメチル−1,4−ジアミノ−ブタン、1,3−ジメチル−1,4−ジアミノ−ブタン、1,4−ジメチル−1,4−ジアミノ−ブタン、2,3−ジメチル−1,4−ジアミノ−ブタン、2−メチル−1,5−ジアミノペンタン、2,5−ジメチル−1,6−ジアミノ−ヘキサン、2,4−ジメチル−1,6−ジアミノ−ヘキサン、3,3−ジメチル−1,6−ジアミノ−ヘキサン、2,2−ジメチル−1,6−ジアミノ−ヘキサン、2,2,4−トリメチル−1,6−ジアミノ−ヘキサン、2,4,4−トリメチル−1,6−ジアミノ−ヘキサン、2,4−ジエチル−1,6−ジアミノ−ヘキサン、2,3−ジメチル−1,7−ジアミノ−ヘプタン、2,4−ジメチル−1,7−ジアミノ−ヘプタン、2,5−ジメチル−1,7−ジアミノ−ヘプタン、2,2−ジメチル−1,7−ジアミノ−ヘプタン、2−メチル−4−エチル−1,7−ジアミノ−ヘプタン、2−エチル−4−メチル−1,7−ジアミノ−ヘプタン、2,2,5,5−テトラメチル−1,7−ジアミノ−ヘプタン、3−イソプロピル−1,7−ジアミノ−ヘプタン、3−イソオクチル−1,7−ジアミノ−ヘプタン、1,3−ジメチル−1,8−ジアミノ−オクタン、1,4−ジメチル−1,8−ジアミノ−オクタン、2,4−ジメチル−1,8−ジアミノ−オクタン、3,4−ジメチル−1,8−ジアミノ−オクタン、4,5−ジメチル−1,8−ジアミノ−オクタン、2,2−ジメチル−1,8−ジアミノ−オクタン、3,3−ジメチル−1,8−ジアミノ−オクタン、4,4−ジメチル−1,8−ジアミノ−オクタン、3,3,5−トリメチル−1,8−ジアミノ−オクタン、2,4−ジエチル−1,8−ジアミノ−オクタン、および5−メチル−1,9−ジアミノ−ノナンから誘導される成分単位を挙げることができる。
【0017】
なお、本発明において、側鎖アルキル基を有するアルキレンジアミン成分単位の説明で示す炭素原子数は、特に限定しないかぎり、主鎖アルキレン基の炭素原子数と側鎖アルキル基の炭素原子数との合計である。
上記のような側鎖アルキル基を有するアルキレンジアミン成分単位の中でも、炭素原子数1〜2の側鎖アルキル基を1〜2個有すると共に、主鎖の炭素原子数が4〜10である側鎖アルキルジアミンから誘導される成分単位が好ましく、さらに2−メチル−1,5−ジアミノペンタン成分単位が特に好ましい。
【0018】
以下に本発明で用いる特に好ましい側鎖アルキルジアミンである2−メチル−1,5−ジアミノペンタンから誘秀導された成分単位を有する繰り返し単位の例を、下記式[III]に示す。
【化4】
Figure 0004205234
式中、Rは、その45乃至100モル%がp−フェニレン基であるという条件下に、p−フェニレン基、m−フェニレン基またはアルキレン基などの
二価の炭化水素基である。
【0019】
脂環族ジアミン成分単位[b−2]としては、炭素原子数3〜25、好ましくは6〜18であり、且つ、少なくとも1つの脂環族炭化水素環を有する脂環族ジアミンから誘導される成分単位が好適である。
【0020】
このような脂環族ジアミンとして具体的には、1,3−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、イソホロンジアミン、ピペラジン、2,5−ジメチルピペラジン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジメチルジシクロヘキシルプロパン、4,4−ジアミノ−3,3’−ジメチルジシクロヘキシルメタン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジメチル−5,5’−ジメチルジシクロヘキシルメタン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジメチル−5,5’−ジメチルジシクロヘキシルプロパン、α,α’−ビス(4−アミノシクロヘキシル)−p−ジイソプロピルベンゼン、α,α’−ビス〈4−アミノシクロヘキシル)−m−ジイソプロピルベンゼン、α,α’−ビス(4−アミノシクロヘヰシル)−1,4−シクロヘキサン、α,α’−ビス(4−アミノシクロヘキシル)−1,3−シクロヘキサンを挙げることができる。
【0021】
これらの脂環族ジアミンのうち、本発明においては、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、1,3−ビス(アミノシクロヘキシル)メタン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジメチルジシクロヘキシルメタンなどが好ましく、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、1,3−ビス(アミノシクロヘキシル)メタンまたは1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンが特に好ましい。これらの脂環族ジアミンは、単独で、または組み合わせて用いることもできる。
【0022】
本発明の半芳香族ポリアミド(A)を構成する全ジカルボン酸成分(100モル%)中におけるテレフタル酸成分単位(a−1)の含有率は20〜100モル%であり、テレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸成分単位(a−2)の含有率は0〜80モル%であり、そして、脂肪族ジカルボン酸成分単位(a−3)の含有率は0〜80モル%である。
【0023】
なお、上記ポリアミドは、ジカルボン酸成分単位として、上記の主成分単位であるテレフタル酸成分単位、さらにイソフタル酸成分単位に代表されるテレフタル酸以外の二価の芳香族ジカルボン酸から誘導される成分単位および上述の脂肪族ジカルボン酸成分単位を有する繰り返し単位の外に、少量のトリメリット酸あるいはピロメリット酸のような三塩基性以上の多価カルボン酸成分単位を含有していてもよい。本発明で使用される半芳香族ポリアミド中に、このような多価カルボン酸から誘導される成分単位は、通常は0〜5モル%含有させることができる。
【0024】
また、上記ポリアミドは、前述した芳香族乃至脂肪族ジカルボン酸、脂肪族ジアミン、脂環族ジアミン、更に必要に応じて以下に述べるようなラクタム類やアミノカルボン酸から成っていてもよい。ラクタム類及びアミノカルボン酸としては、下記式[IV]
【化5】
−CO−(CH−NH− [IV]
式中、nは、4〜20、好ましくは6〜20、特に好ましくは5〜12である。
で表わされる構造を有するものが挙げられる。具体的には、ε−カプロラクタム、6−アミノカプロン酸、ζ−エナンチオラクタム、η−カプリルラクタム、ω−ラウロラクタム、ω−ウンデカラクタム、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸等を挙げることができる。
【0025】
さらに、本発明で使用される半芳香族ポリアミド(A)は、前記式[I−a]で表わされる繰返し単位を主な繰返し単位とする芳香族ポリアミドと、前記式[I−b]で表わされる繰り返し単位を主な操返し単位とする芳香族ポリアミドとからなる混合物であってもよい。この場合、式[I−a]で表わされる繰返し単位を主な繰返し単位とする芳香族ポリアミドの含有率は、通常は50重量%よりも多く、好ましくは60重量%以上である。
【0026】
本発明で使用される半芳香族ポリアミド(A)について、濃硫酸中30℃の温度で測定した極限粘度[η]は、通常は0.5−3.0dL/g、好ましくは0.5−2.8dL/g、特に好ましくは0.6−2.5dL/gの範囲にある。
【0027】
本発明で使用される半芳香族ポリアミドのアミノ基含有量(メタクレゾール溶液中でパラトルエンスルホン酸を用いて中和滴定により測定した値)は、通常は0.04〜0.2ミリ当量/g、好ましくは0.045〜0.15ミリ当量/g、特に好ましくは0.05〜0.1ミリ当量/gの範囲内にある。
【0028】
本発明で使用される半芳香族ポリアミド(A)は、従来から使用されている脂肪族ポリアミドよりも高い融点を示す。すなわち、本発明で使用される半芳香族ポリアミド(A)は280℃以上の融点を有しており、この融点が好ましくは290〜340℃、特に好ましくは300〜340℃の範囲内にある半芳香族ポリアミドが特に優れた耐熱性を有している。
尚、この半芳香族ポリアミドを、後述する様に2種以上のポリアミドのブレンドにより製造する場合、その融点は、2種以上ののポリアミドのブレンド物についてのDSC(示差走査熱量計)測定により観測することができ、また配合成分の全てを含む組成物の状態でDSC測定を行ってもよい。
この場合、ピークが1つであれば、そのピークを融点とし、ピークが2つ以上ある場合、少なくとも1つが280℃以上であることが必要である。好ましくは、ピーク温度の平均値が280℃以上であり、より好ましくは、何れのピークもが280℃以上である。
【0029】
さらに、この半芳香族ポリアミドは、耐熱性が特に優れていると共に、吸水率が低く、成型品のアニールによる後結晶化が少ない。また、非晶部におけるガラス転移温度は通常は70℃以上、好ましくは80〜150℃の範囲内にある。
【0030】
融点、好ましくは更に非晶部のガラス転移温度、が上記の範囲内にある半芳香族ポリアミドを使用することにより、成形体、例えばコネクター、が高温に晒される場合であっても、この樹脂が溶融状態になりにくい。さらに上記のような半芳香族ポリアミドは成形性に優れているため、この半芳香族ポリアミドを用いることにより、成形体の製造が容易になる。また、この半芳香族ポリアミドは、非晶部におけるガラス転移温度が70℃以上である場合は、高温に晒された場合であってもクラック等が発生しにくいとの特性を有するようになる。
【0031】
この半芳香族ポリアミドは、芳香族成分を所定量含む特定の構造を有するため、従来の脂肪族ポリアミドの問題点とされていた吸水性に関しても低い値を示す。
【0032】
本発明に使用する半芳香族ポリアミド(A)は、1種類の半芳香族ポリアミドからなっていてもよく、また2種類以上の半芳香族ポリアミドの組合せからなっていてもよい。
また、本発明に使用する樹脂成分は、半芳香族ポリアミド(A)を主体とする範囲内で、後述する他の樹脂成分を含有することができる。半芳香族ポリアミド(A)は、本発明の組成物の樹脂成分中に、50重量%よりも多い量、さらに好ましくは55重量%以上の範囲内の量で含有されていることが好ましい。
【0033】
半芳香族ポリアミド(A)の好適な例としては、
ジカルボン酸成分として、テレフタル酸単位を40〜100モル%、イソフタル酸単位を0〜40モル%、アジピン酸単位を0〜60モル%、セバシン酸単位を0〜20モル%、の割合で含み、
ジアミン成分として、1,6−ヘキサメチレンジアミン単位を20〜100モル%、2−メチル−1,5−ペンタメチレンジアミン単位を0〜80モル%の割合で含む、
ものが挙げられる。
【0034】
より具体的には、以下のとおりである(ただし、TAはテレフタル酸から誘導される単位を表わし、IAはイソフタル酸から誘導される単位を表わし、AAはアジピン酸から誘導される単位を表わし、SAはセバシン酸から誘導される単位を表わし、HMDAは1,6−ヘキサメチレンジアミンから誘導される単位を表わし、MPMDAは2−メチル−1,5−ペンタメチレンジアミンから誘導される単位を表わす)。
(1)TA/AA/HMDA
成分比:60-45モル%/40-55モル%/100モル%
(2)TA/IA/HMDA
成分比:85-60モル%/15-40モル%/100モル%
(3)TA/IA/AA又はSA/HMDA
成分比:85-55モル%/5-25モル%/5-20モル%/100モル%
(4)TA/AA/HMDA/MPMDA
成分比:100-40モル%/60-0モル%/20-80モル%/80-20モル%
【0035】
半芳香族ポリアミドの製造方法:
本発明で用いる半芳香族ポリアミドは、ジカルボン酸成分とジアミン成分との重縮合により製造することができる。具体的には、この半芳香族ポリアミドは、テレフタル酸、或いは更にテレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸と、直鎖状ジアルキレンジアミン、側鎖アルキル基を有するアルキレンジアミン、脂環族ジアミン等とを、上述の量で水性媒体中に配合し、次亜リン酸ナトリウム等の触媒の存在下に、加圧しながら加熱してまずポリアミド前駆体を製造し、次いでこのポリアミド前駆体を溶融混練することにより製造することができる。
なお、ポリアミド前駆体を製造する際には、安息香酸のような分子量調整剤を配合することもできる。また、本発明で用いる半芳香族ポリアミドは、ジカルボン酸成分単位およびジアミン成分単位が上記範囲内になるように、組成の異なる少なくとも2種類のポリアミドの配合量を調整して、これらを溶融混練することにより、アミド交換反応を行わせつつ、製造することができる。
【0036】
[(B)マスターバッチ]
本発明に用いるマスターバッチは、銅化合物及びハロゲン化アルカリ金属化合物を含む融点が270℃以下の低融点ポリアミドからなる。
【0037】
低融点ポリアミド:
本発明のマスターバッチのベース樹脂となる低融点ポリアミドとしては、融点が270℃以下のポリアミドであれば、すなわちDSCで測定した融点のピークのうち一番高温側のピークが270℃以下であれば、特に限定されない。特に融点が220〜170℃のものが好ましい。
このような低融点ポリアミドは、前述した脂肪族ジカルボン酸、脂肪族ジアミン、脂環族ジアミン、ラクタム類やアミノカルボン酸から公知の方法により製造することができる。一般に、芳香族ジカルボン酸や芳香族ジアミン等の芳香族成分を含む化合物は、融点の高いポリアミドを与えるため、低融点ポリアミドには、少量であれば含ませることができる。
このような低融点ポリアミドの内でも、ナイロン66、ナイロン6、ナイロン612、ナイロン12、ナイロン11等の脂肪族ポリアミドが好適に使用できる。
【0038】
銅化合物:
銅化合物としては、例えば、塩化第一銅、臭化第一銅、ヨウ化第一銅、塩化第二銅、臭化第二銅、ヨウ化第二銅等のハロゲン化銅;燐酸第二銅等の燐酸の銅塩;ピロリン酸第二銅、酢酸銅等の有機カルボン酸の銅塩;硫化銅、硝酸銅等を例示することができる。これらの銅化合物は、一種単独であるいは二種以上を混合して使用してもよい。
【0039】
ハロゲン化アルカリ金属化合物:
ハロゲン化アルカリ金属化合物としては、例えば、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、フッ化ナトリウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、フッ化カリウム、塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム等が挙げられる。これらの内、特にヨウ化カリウムが好ましい。これらのハロゲン化アルカリ金属化合物は、一種単独であるいは二種以上を混合して使用してもよい。
【0040】
マスターバッチの製造方法:
本発明のマスターバッチは、通常のポリアミド粒状物の製造方法により製造することができる。即ち、低融点ポリアミド、銅化合物、及びハロゲン化アルカリ金属化合物をドライブレンドし、一軸または二軸押出機、ニーダー等の溶融混練装置を用いて、銅化合物、ハロゲン化アルカリ金属化合物を低融点ポリアミドに練り込み、得られる混練物をダイヘッドから押出し、所望の形状にカッティングして得ることができる。
通常、低融点ポリアミド100重量部に対して、銅化合物1〜5重量部、ハロゲン化アルカリ金属化合物を5〜100重量部の割合で配合するとよい。また、ハロゲン化アルカリ金属化合物は、銅化合物当たり5〜20重量倍の量で用いるのが好ましい。
溶融混練の温度は、低融点ポリアミドの融点以上の温度で、特に260℃以下の温度範囲内であることが好ましい。
また、減圧条件、不活性ガス条件等の非酸化性雰囲気下で混練を行うことが好ましい。
このようなマスターバッチの配合量は、銅化合物及びハロゲン化アルカリ金属化合物の含有量にもよるが、好ましくは、(A)と(D)との合計100重量部に対し0.01〜10重量部の割合で配合するとよい。
このようなマスターバッチを配合するに際しては、(A)と(D)との合計100重量部に対し、銅化合物が0.001〜0.4重量部、好ましくは0.005〜0.2重量部、より好ましくは0.01〜0.10重量部となるように、またハロゲン化アルカリ金属化合物を0.005〜4.0重量部、好ましくは0.01〜1.0重量部、より好ましくは0.05〜0.5重量部となるように配合する。
【0041】
[(C)有機系安定剤]
本発明のポリアミド組成物に対しては、必要に応じて、熱安定性向上、酸化防止、光安定性向上などの目的で、有機系安定剤を配合することができる。この有機系安定剤は、前記マスターバッチ(B)に予め含有させてもよく、またマスターバッチ(B)とは別個に樹脂成分に配合することができる。
有機系安定剤としては、従来公知のフェノール系安定剤、アミン系安定剤、チオエーテル系安定剤、リン系安定剤等を挙げることができる。これらの有機安定剤は、単独で使用してもよく、また2種類以上の組合せで配合してもよい。
【0042】
フェノール系安定剤としては様々のものが挙げられ、例えばオクタデシル3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート;ペンタエリスチリル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕;1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン;1,3,5−トリス−〔エチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕−s−トリアジン−2,4,6−(1H,3H,5H)トリオン;1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェノ−ルブタン;4,4’−メチレン−ビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール);ヘキサメチレングリコール−ビス〔β−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェノール)プロピオネート〕6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−2,4−ビス−オクチル−チオ−1,3,5−トリアゾール;2,2’−チオ〔ジエチル−ビス−3(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェノール)プロピオネート〕;2,2’−メチレン−ビス(4−メチル−6−t−ノニルフェノール)などを挙げることができ、これらを単独で若しくは混合して用いることができる。
【0043】
アミン系安定剤としては、ヒンダードアミン系光安定剤等が挙げられ、例えば、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルステアレート、2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルベンゾエート、N−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ドデシルコハク酸イミド、1−〔(3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシエチル〕−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル−(3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、テトラ(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ブタンテトラカルボキシレート、テトラ(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)ブタンテトラカルボキシレート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)・ジ(トリデシル)ブタンテトラカルボキシレート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)・ジ(トリデシル)ブタンテトラカルボキシレートなどがあげられる。
【0044】
チオエーテル系安定剤としては、ビス[2−メチル−4−(3−n−アルキチオプロピオニルオキシ)−5−t−ブチルフェニル]スルフィドなどが挙げられる。
【0045】
リン系安定剤としては、ホスファイト、ホスホナイトおよびホスホン酸誘導体の中から選ばれた少なくとも1種のものである。
ホスファイトとしては様々なものが挙げられ、例えばトリフェニルホスファイト;ジフェニルホスファイト;ジデシルフェニルホスファイト;トリデシルホスファイト;トリオクチルホスファイト;トリドデシルホスファイト;トリオクタデシルホスファイト;トリノニルフェニルホスファイト;トリドデシルトリチオホスファイト;ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト;4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェニルジトリデシル)ホスファイト;トリス(2,4ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト;ビス(2,4ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトなどの他、炭素数12〜15のアルキル基を有する4,4’−イソプロピリデンジフェニルテトラアルキルジホスファイトなどを挙げることができる。
また、ホスホナイトとしては例えばテトラキス(2,4−ジアルキルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイトなどを挙げることができる。なおここでアルキル基は炭素数1〜30のものである。これらの中でも特にテトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイトが好ましい。
さらに、ホスホン酸誘導体として4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルベンジルホスホン酸;O−エチル−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルベンジル)ホスホン酸;O−(2−エチルヘキシル)−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルベンジル)ホスホン酸;O−エチル−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルベンジル)ホスホン酸;O−エチル−(4−ヒドロキシ−3,5−t−ブチルベンジル)ホスホン酸のカルシウム塩などを挙げることができる。
【0046】
上記の内、特に好ましいのは、フェノール系安定剤である。
有機系安定剤は、(A)と(D)との合計100重量部に対して、0.005〜4.0重量部、特に0.1〜1.0重量部配合することができる。
【0047】
[(D)グラフト変性重合体]
本発明に用いる半芳香族ポリアミドは、脂肪族ポリアミドに比して、優れた耐熱性と低吸水性とを有しているが、脂肪族ポリアミドと比べると、その靭性が低い傾向がある。即ち、成形体の伸びが不十分であったり、脆いという問題を生じる。特に、自動車部品は信頼性の要求レベルが高く上記半芳香族ポリアミドの靭性向上は重要な課題である。
本発明のポリアミド組成物には、主に靭性向上のために、グラフト変性重合体、特に、グラフト変性α−オレフィン重合体および/またはグラフト変性芳香族ビニル系炭化水素・共役ジエン共重合体乃至その水素化物を配合することができる。
【0048】
本発明で使用されるグラフト変性α−オレフィン重合体としては、例えば、結晶性ポリオレフィンのグラフト変性物、グラフト変性α−オレフィンランダム弾性共重合体等が挙げられる。
【0049】
結晶性ポリオレフィンのグラフト変性物を調製するために使用される結晶性ポリオレフィンの例としては、炭素原子数2〜20のα−オレフィンの単独重合体およびこれらのα−オレフィンの共重合体を挙げることができる。具体的には、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度線状ポリエチレン(VLDPE)、ポリブテン−1、ポリペンテン−1、ポリ3−メチルブテン−1およびポリ4−メチルペンテン−1などを挙げることができる。このようなポリオレフィンは比較的高い結晶性を有している。
このような結晶性ポリオレフィンを後述する方法でグラフト変性することによりグラフト変性α−オレフィン重合体を得ることができる。
【0050】
本発明でグラフト変性α−オレフィン重合体として使用されるα−オレフィンランダム弾性共重合体は、異なるα−オレフィンから誘導される二種類の繰返し単位がランダムに配置された共重合体のグラフト変性物である。
このグラフト変性α−オレフィンランダム弾性共重合体は、低結晶性乃至非晶性の共重合体であり、実質的に非晶性であることが好ましい。すなわち、X線回折法により測定した結晶化度が10%以下、好ましくは5%以下であり、特に好ましくは0%である。従って、このグラフト変性α−オレフィンランダム弾性共重合体には、明確な融点を示さないものが多い。さらに、このように結晶化度が低いため、このグラフト変性α−オレフィンランダム弾性共重合体は軟質であり、この弾性共重合体の引張りモジュラスは、通常は0.1kg/cm以上20000kg/cm未満、好ましくは1kg/cm〜15000kg/cmの範囲内にある。
【0051】
また、このグラフト変性α−オレフィンランダム弾性共重合体のメルトインデックス(190℃で測定)は、通常は0.1〜30g/10分、好ましくは1.0〜20g/10分、特に好ましくは2.0〜15g/10分の範囲内にある。さらに、GPCにより測定したMw/Mnの値は、通常は5.5以下、好ましくは4.5以下、特に好ましくは3.5以下である。
さらに、このグラフト変性α−オレフィンランダム弾性共重合体のガラス転移温度(Tg)は、通常は−150〜+50℃、好ましくは−80〜20℃の範囲内にある。
このグラフト変性α−オレフィンランダム弾性共重合体の135℃、デカリン中で測定した極限粘度[η]は、通常は0.2〜10dL/g、好ましく1〜5dL/gの範囲内にある。
またその密度は、通常は0.82〜0.96g/cm、好ましくは0.84〜0.92g/cmの範囲内にある。
【0052】
こうした特性を有するグラフト変性α−オレフィンランダム弾性共重合体の具体的な例としては、エチレンをべースモノマーとして調製されるグラフト変性エチレン・α−オレフィン共重合体ゴム(i)と、プロピレンをべースモノマーとして調製されるグラフト変性プロピレン・α−オレフィン共重合体ゴム(ii)とを挙げることができる。
【0053】
このようなグラフト変性α−オレフィンランダム弾性共重合体について、その代表的な例である(i)グラフト変性エチレン・α−オレフィン共重合体ゴム、および(ii)グラフト変性プロピレン・α−オレフィン共重合体ゴムを例にしてさらに詳しく説明する。
【0054】
上記のグラフト変性エチレン・α−オレフィン共重合体ゴム(i)を構成するα−オレフィンとしては、通常は炭素原子数3〜20のα−オレフィンが使用される。このα−オレフィンの例としては、プロピレン、ブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1、4−メチルペンテン−1、オクテン−1、デセン−1およびこれらの混合物を挙げることができる。このうち特にプロピレンおよび/またはブテン−1が好ましい。
【0055】
またグラフト変性プロピレン・α−オレフィン共重合体ゴム(ii)を構成するα−オレフィンとしては、通常は炭素原子数4〜20のα−オレフィンが使用される。このα−オレフィンの例としては、ブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1、4−メチルペンテン−1、オクテン−1、デセン−1およびこれらの混合物を挙げることができる。このうち特にブテン−1が好ましい。
【0056】
上記のようなグラフト変性エチレン・α−オレフィン共重合体ゴム(i)においては、エチレンとα−オレフィンとのモル比(エチレン/α−オレフィン)は、α−オレフィンの種類によっても異なるが、一般には10/90〜99/1、好ましくは50/50〜95/5である。上記モル比は、α−オレフィンがプロピレンである場合には、50/50〜90/10であることが好ましく、α−オレフィンが炭素原子数4以上のα−オレフィンである場合には80/20〜95/5であることが好ましい。
【0057】
このようなグラフト変性エチレン・α−オレフィン共重合体ゴム(i)を形成するエチレン・α−オレフィン共重合体の例としては、
エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・ブテン−1共重合体、エチレン・4−メチルペンテン−1共重合体、エチレン・ヘキセン−1共重合体、エチレン・オクテン−1共重合体およびエチレン・デセン−1共重合体のような2成分系の共重合体;
エチレン・プロピレン・1,4−ヘキサジエン共重合体、エチレン・プロピレンジシクロペンタジエン共重合体、エチレン・プロピレン・5−エチリデン−2−ノルボルネン共重合体、エチレン・プロピレン・2,5−ノルボルナジエン共重合体、エチレン・ブテン−1・ジシクロペンタジエン共重合体、エチレン・ブテン−1・1,4−ヘキサジエン共重合体およびエチレン・ブテン−1・5−エチリデン−2−ノルボルネン共重合体のような多成分系の共重合体;
を挙げることができる。
【0058】
また、グラフト変性プロピレン・α−オレフィン共重合体ゴム(ii)においては、プロピレンとα−オレフィンとのモル比(プロピレン/α−オレフィン)は、α−オレフィンの種類によっても異なるが、50/50〜95/5であることが好ましい。上記モル比は、α−オレフィンが1−ブテンである場合には、50/50〜90/10であることが好ましく、α−オレフィンが炭素数5以上のα−オレフィンである場合には80/20〜95/5であることが好ましい。
【0059】
このα−オレフィンランダム共重合体は、上記多成分系の共重合体の例で示したように、α−オレフィンランダム弾性共重合体の特性を損なわない範囲内で、ジエン化合物から誘導される成分単位等のようなα−オレフィンから誘導される成分単位以外の成分単位を含んでいてもよい。
【0060】
このα−オレフィンランダム弾性共重合体に含まれることが許容される成分単位としては、例えば、
1,4−ヘキサジエン、1,6−オクタジエン、2−メチル−1,5−ヘキサジエン、6−メチル−1,5−ヘプタジエンおよび7−メチル−1,6−オクタジエンのような鎖状非共役ジエンから誘導される成分単位;
シクロヘキサジエン、ジシクロペンタジエン、メチルテトラヒドロインデン、5−ビニルノルボルネン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、5−メチレン−2−ノルボルネン、5−イソプロピリデン−2−ノルボルネンおよび6−クロロメチル−5−イソプロペニル−2−ノルボルネンのような環状非共役ジエンから誘導される成分単位;
2,3−ジイソプロピリデン−5−ノルボルネン、2−エチリデン−3−イソプロピリデン−5−ノルボルネンおよび2−プロペニル−2,2−ノルボルナジエン等のジエン化合物から誘導される成分単位;並びに、
環状オレフィンから誘導される成分単位
を挙げることができる。
このα−オレフィンランダム弾性共重合体中における上記のようなジエン成分単位の含有率は、通常は10モル%以下、好ましくは5モル%以下である。
【0061】
本発明で使用されるグラフト変性α−オレフィンランダム弾性共重合体は、上記のような未変性のα−オレフィンランダム弾性共重合体を不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸無水物、あるいは不飽和カルボン酸誘導体を用いてグラフト変性することにより製造される。
【0062】
ここで使用される不飽和カルボン酸の例としては、アクリル酸、メタクリル酸、α−エチルアクリル酸、マレイン酸、フマール酸、イタコン酸、シトラコン酸、テトラヒドロフタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸、エンドシス−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,5−ジカルボン酸(ナジック酸TM)およびメチル−エンドシス−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,5−ジカルボン酸(メチルナジック酸TM)を挙げることができる。
また、不飽和カルボン酸無水物の好適な例としては、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水ナジック酸および無水メチルナジック酸を挙げることができる。さらに、不飽和カルボン酸の酸ハライド誘導体としては、上記の不飽和カルボン酸の酸ハライド化合物(例:塩化マレイル)、イミド化合物(例:マレイミド)、エステル化合物(例:マレイン酸モノメチル、マレイン酸ジメチルおよびグリシジルマレエート)を挙げることができる。
上記のようなグラフト変性剤は、単独であるいは組み合わせて使用することができる。
このようなグラフト変性剤のうちでは、不飽和カルボン酸無水物を使用することが好ましく、無水マレイン酸または無水ナジック酸が特に好ましい。
【0063】
上記のような未変性のα−オレフィンランダム弾性共重合体にこのようなグラフト変性剤をグラフト重合させる方法の例としては、α−オレフィンランダム弾性共重合体を溶媒に懸濁もしくは溶解させて、この懸濁液もしくは溶液にグラフト変性剤を添加してグラフト反応させる方法(溶液法)、および、α−オレフィンランダム弾性共重合体とグラフト変性剤との混合物を溶融させながらグラフト反応させる方法(溶融法)等を挙げることができる。
このようなグラフト反応において、グラフト変性剤は、その反応性を考慮して使用量が設定されるが、一般には、未変性のα−オレフィンランダム弾性共重合体100重量部に対して、1〜10重量部の範囲内の量で使用される。
【0064】
こうしてグラフト反応を行うことにより、未反応のα−オレフィンランダム弾性共重合体100重量部あたり、グラフト変性剤が通常は0.01〜10重量部、好ましくは0.05〜5重量部の割合でグラフト重合したグラフト変性α−オレフィンランダム弾性共重合体を得ることができる。
なお、このようなグラフト反応を行う際には、ラジカル開始剤を使用することにより、グラフト効率を向上させることができる。ここで使用されるラジカル開始剤としては、有機ペルオキシド、有機ペルエステルおよびアゾ化合物など公知のラジカル開始剤を使用することができる。ラジカル開始剤を使用する場合に、この使用量は未変性のα−オレフィンランダム弾性共重合体100重量部に対して、通常は0.01〜20重量部である。
【0065】
上記のようなグラフト変性α−オレフィンランダム弾性共重合体の中でも、エチレン含有量35〜50モル%であり実質的に非晶性のグラフト変性エチレン・プロピレンランダム共重合体ゴム若しくはグラフト変性エチレン・α−オレフィンランダム共重合体ゴムを使用することにより、成形体、例えばコネクターの熱劣化による靱性の低下を効率的に抑制することができる。
【0066】
本発明の組成物に配合されるグラフト変性芳香族ビニル系炭化水素・共役ジエン共重合体またはその水素化物は、芳香族ビニル系炭化水素と共役ジエン系化合物とのランダム共重合体あるいはブロック共重合体のグラフト変性物であり、さらに本発明においてはこれらの共重合体の水素化物のグラフト変性物を使用することもできる。
ここで変性物の調製に使用される芳香族ビニル系炭化水素・共役ジエン共重合体またはその水素化物の具体的な例としては、スチレン・ブタジエンブロック共重合体ゴム、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体ゴム、スチレン・イソプレンブロック共重合体ゴム、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体ゴム、水素添加スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体、水素添加スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体ゴムおよびスチレン・ブタジエンランダム共重合体ゴム等を挙げることができる。
【0067】
これらの共重合体中において、芳香族ビニル系炭化水素から誘導される繰返し単位と共役ジエンから誘導される繰返し単位とのモル比(芳香族ビニル炭化水素/共役ジエン)は、通常は10/90〜70/30である。また、水素添加した共重合体ゴムとは、上記の共重合体ゴム中に残存する二重結合の一部または全部を水素化した共重合体である。
【0068】
この芳香族ビニル系炭化水素・共役ジエン共重合体またはその水添物について135℃のデカリン中で測定した極限粘度[η]は、通常は0.01〜10dL/g、好ましくは0.08〜7dL/gの範囲内にあり、ガラス転移温度(Tg)は、通常は0℃以下、好ましくは−10℃以下、特に好ましくは−20℃以下である。
また、X線回折法により測定した結晶化度は0〜10%、好ましくは0〜7%、特に好ましくは0〜5%の範囲内にある。
【0069】
本発明で使用されるグラフト変性芳香族ビニル系炭化水素・共役ジエン共重合体は、上記のような未変性の芳香族ビニル系炭化水素・共役ジエン共重合体を、上記グラフト変性α−オレフィンランダム弾性共重合体の製造方法と同様に、不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸無水物あるいは不飽和カルボン酸誘導体を用いてグラフト変性することにより製造される。
ここで使用される不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸無水物あるいは不飽和カルボン酸誘導体の例としては、上記グラフト変性α−オレフィンランダム弾性共重合体を製造する際に使用される化合物を挙げることができ、このようなグラフト変性剤は、単独であるいは組み合わせて使用することができる。
【0070】
このようなグラフト変性剤のうちでは、不飽和カルボン酸無水物を使用することが好ましく、無水マレイン酸または無水ナジック酸が特に好ましい。上記のような未変性の共重合体またはその水素化物をこのようなグラフト変性剤とグラフト重合させるには、上記α−オレフィンランダム弾性共重合体の変性の際に説明した溶液法および溶融法等の方法を採用することができる。
【0071】
グラフト反応において、グラフト変性剤は、その反応性を考慮して使用量が設定されるが、一般には、未変性の芳香族ビニル系炭化水素・共役ジエン共重合体または水素化物100重量部に対して、1〜10重量部の割合で使用される。グラフト反応を行う際には、上記と同様に有機ペルオキシド、有機ペルエステルおよびアゾ化合物などのラジカル開始剤を使用することができる。
こうしてグラフト反応を行うことにより、未反応の芳香族ビニル系炭化水素・共役ジエン共重合体または水素化物100重量部あたり、グラフト変性剤が通常は0.01〜10重量部、好ましくは0.05〜5重量部の割合でグラフト重合したグラフト変性芳香族ビニル系炭化水素・共役ジエン共重合体またはその水素化物を得ることができる。
なお、上記グラフト変性α−オレフィンランダム弾性共重合体などのグラフト変性α−オレフィン重合体およびグラフト変性芳香族ビニル系炭化水素・共役ジエン共重合体または水素化物は、所望の変性率になるように未変性重合体と変性剤との量などを調整して製造されたグラフト変性物であってもよいし、予め高グラフト率の変性物を調製した後所望のグラフト率になるように未変性重合体で希釈したグラフト変性物であってもよい。
【0072】
こうして得られたグラフト変性芳香族ビニル系炭化水素・共役ジエン共重合体またはその水素化物は、低結晶性乃至非晶性の共重合体であり、実質的に非晶性であることが好ましい。すなわち、X線回折法により測定した結晶化度が10%以下、好ましくは7%以下であり、特に好ましくは5%以下のグラフト変性共重合体が使用され、さらに結晶化度が実質的に0%であるグラフト変性共重合体が好ましく使用される。
従って、このグラフト変性芳香族ビニル系炭化水素・共役ジエン共重合体またはその水素化物には、明確な融点を示さないものが多い。さらに、このように結晶化度が低いため、このグラフト変性芳香族ビニル系炭化水素・共役ジエン共重合体またはその水素化物は軟質であり、引張りモジュラスは、通常は0.1kg/cm以上20000kg/cm未満、好ましくは1kg/cm〜15000kg/cmの範囲内にある。
また、このグラフト変性芳香族ビニル系炭化水素・共役ジエン共重合体またはその水素化物のメルトインデックス(190℃で測定した値)は、通常は0.1〜30g/10分、好ましくは1.0〜20g/10分、特に好ましくは2.0〜15g/10分の範囲内にある。
さらに、このグラフト変性芳香族ビニル系炭化水素・共役ジエン共重合体またはその水素化物のガラス転移温度(Tg)は、通常は−150〜+50℃、好ましくは−80〜−20℃の範囲内にある。
また、135℃のデカリン中で測定した極限粘度[η]は、通常は0.01〜10dL/g、好ましくは1〜5dL/gの範囲内にある。
【0073】
上記のようなグラフト変性芳香族ビニル系炭化水素・共役ジエン共重合体またはその水素化物を使用することにより、熱劣化による成形体、例えばコネクター、の靱性の低下を効率的に抑制することができる。
【0074】
本発明においてグラフト変性α−オレフィン重合体およびグラフト変性芳香族ビニル系炭化水素・共役ジエン共重合体またはその水素化物は、単独で使用することもできるし、組み合わせて使用することもできる。
上記のグラフト変性α−オレフィン共重合体および/またはグラフト変性芳香族ビニル系炭化水素・共役ジエン共重合体または水素化物は、これらの樹脂の特性を損なわない範囲内で上記のグラフト変性重合体が他の重合体あるいは共重合体を含んでいてもよい。
【0075】
本発明のポリアミド組成物に、上記のようなグラフト変性α−オレフィンランダム弾性共重合体および/またはグラフト変性芳香族ビニル系炭化水素・共役ジエン共重合体は、(A)と(D)との合計量100重量部に対して、0〜50重量部、好ましくは0.1〜40重量部、より好ましくは1〜30重量部の範囲内の量で含有されている。この範囲であれば、加熱による靭性の低下の少ない成形体を製造可能な組成物とすることができる。
【0076】
[その他の配合剤]
本発明のポリアミド組成物には、その特性を損なわない範囲内で、上記の成分の他に無機充填剤、熱安定剤、耐候性安定剤、帯電防止剤、スリップ防止剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、滑剤、顔料、染料、天然油、合成油およびワックス等の添加剤が配合されていてもよい。
【0077】
たとえば、無機充填剤として使用される繊維の好適な例としては、ガラス繊維、炭素繊維およびホウ素繊維を挙げることができる。このような繊維状の充填剤としては特にガラス繊維が好ましい。ガラス繊維を使用することにより、組成物の成形性が向上すると共に、熱可塑性樹脂組成物から形成される成形体の引張り強度、曲げ強度、曲げ弾性率等の機械的特性および熱変形温度などの耐熱特性が向上する。上記のようなガラス繊維の平均長さは、通常は、0.1〜20mm、好ましくは0.3〜6mmの範囲にあり、アスペクト比が、通常は10〜2000、好ましくは30〜600の範囲にある。平均長さおよびアスペクト比がこのような範囲内にあるガラス繊維を使用することが好ましい。このようなガラス繊維は、本発明の組成物中の(A)と(D)との成分100重量部に対して、通常200重量部以下の量で、好ましくは5〜180重量部の量で、さらに好ましくは5〜150重量部の量で配合される。
【0078】
上記の無機繊維状充填剤の他、本発明においては、粉末状、粒状、板状、針状、クロス状、マット状等の形状を有する種々の充填剤を使用することができる。このような充填剤の例としては、
シリカ、シリカアルミナ、アルミナ、二酸化チタン、タルク、ケイソウ土、クレー、カオリン、ガラス、マイカ、セッコウ、ベンガラ、酸化亜鉛などの粉状あるいは板状の無機化合物;
チタン酸カリウム等の針状無機化合物;
ポリパラフェニレンテレフタルアミド、ポリメタフフェニレンテレフタルアミド、ポリパラフェニレンイソフタルアミド、ポリメタフェニレンイソフタルアミド、ジアミノジフェニルエーテルとテレフタル酸(イソフタル酸)との縮合物、パラ(メタ)アミノ安息香酸の縮合物などの全芳香族ポリアミド;
ジアミノジフェニルエーテルと無水トリメリット酸または無水ピロメリット酸との縮合物などの全芳香族ポリアミドイミド;
全芳香族ポリエステル、全芳香族ポリイミド、ポリベンズイミダゾール、ポリイミダゾフェナントロリンなどの複素環含有化合物;
ポリテトラフルオロエチレンなどから形成されている粉状、板状、繊維状あるいはクロス状物などの二次加工品;
などを挙げることができる。
これらの充填剤の中でも、粉末状の充填剤、特にタルクを使用することが好ましい。
【0079】
これらの充填剤は、2種以上を混合して使用することもできる。また、これらの充填剤をシランカップリング剤あるいはチタンカップリング剤などで処理して使用することもできる。
なお、このような粉末状の充填剤の平均粒径は、通常0.1〜200μm、好ましくは1〜100μmの範囲内にある。
このような粉末状の充填剤は、組成物中の(A)と(D)との成分100重量部に対して、通常200重量部以下の量で、好ましくは100重量部以下の量で、特に好ましくは0.5〜50重量部の量で使用される。
【0080】
本発明のポリアミド組成物には、本発明の組成物の特性を損なわない範囲内で、他の樹脂を配合してもよい。
他の樹脂としては、例えば、ジカルボン酸成分単位が、炭素原子数4〜20の脂肪族ジカルボン酸成分単位であり、ジアミン成分単位が、炭素原子数4〜18の直鎖アルキレンジアミン成分単位である脂肪族ポリアミドを挙げることができる。具体的には、ポリヘキサメチレンアジパミド(6,6ナイロン)、ポリヘキサメチレンアゼラミド(6,9ナイロン)、ポリヘキサメチレンセバサミド(6,10ナイロン)、ポリヘキサメチレンデカアミド(6,12ナイロン)、ポリヘキサメチレンジアミノブタン(4,6ナイロン)などのように脂肪族ジアミンとの重縮合物であるポリアミドを挙げることができる。
また、他の樹脂として、例えば、炭素原子数6〜20、好ましくは6〜12のラクタムまたはアミノカルボン酸から誘導される繰り返し単位を有するポリアミドも挙げられる。このようなラクタムまたはアミノカルボン酸の例としては、ε−カプロラクタム、6−アミノカプロン酸、ζ−エナンチオラクタム、η−カプリルラクタム、ω−ラウロラクタム、ω−ウンデカラクタム、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸等を挙げることができる。
このような他の樹脂は、本発明の組成物中に、A+D 100重量部に対して0.01〜20重量部、好ましくは0.5〜10重量部の割合で存在していてもよい。
【0081】
また、本発明のポリアミド組成物には、本発明の組成物の特性を損なわない範囲内で、耐熱性樹脂を配合することもできる。このような耐熱性樹脂の例としては、PPS(ポリフェニレンスルフィド)、PPE(ポリフェニレンエーテル)、PES(ポリエーテルスルホン)、PEI(ポリエーテルイミド)およびLCP(液晶ポリマー)などを挙げることができ、更にこれらの樹脂の変性物を挙げることができる。特に本発明においては、PPS(ポリフェニレンスルフィド)が好ましい。このような耐熱性熱可塑性樹脂は、組成物中の樹脂成分の合計量に対して、通常50重量%未満、好ましくは0〜40重量%である。
【0082】
[ポリアミド組成物]
このような組成を有する本発明のポリアミド組成物の熱変形温度(荷重:1.82MPaで測定した値)は、通常70〜150℃、好ましくは80〜120℃の範囲内にあり、熱可塑性でありながら非常に高い耐熱性を示す。
本発明のポリアミド組成物は、半芳香族ポリアミド(A)及びマスターバッチ(B)、さらに必要により他の樹脂成分及び他の添加剤、からなり、これらを混合して溶融することにより、種々の成形品の成形加工に供される。この溶融には、例えば、押出機、ニーダーなどのような通常の混練装置を用いることができる。
このように混練することにより、通常の場合、半芳香族ポリアミド(A)中にマスターバッチの低融点ポリアミド及びその他の樹脂成分が微細に分散した状態になる、いわゆるポリマーアロイを形成する。
【0083】
上記のようにして調製したポリアミド組成物を用いて、通常の溶融成形法、例えば圧縮成形法、射出成形法、押出成形法などを利用することにより、所望の形状の成形体を製造することができる。
例えば、本発明の樹脂組成物を、シリンダ温度が300〜350℃程度に調整された射出成形機に投入して溶融状態にして、所定の形状の金型内に導入することにより成形体を製造することができる。
【0084】
本発明のポリアミド組成物を用いて製造される成形体の形状に特に制限はなく、例えば電動工具および一般工業部品、ギヤおよびカム等のような機械部品、並びに、プリント配線基板および電子部品のハウジングなどのような電子部品などを形成するための樹脂として使用することができる。さらに、本発明のポリアミド組成物は、自動車内外装部品、エンジンルーム内部品および自動車電装部品などを形成するための樹脂としても好適である。
【0085】
【発明の効果】
本発明によれば、安定剤としての銅化合物及びハロゲン化アルカリ金属化合物を低融点ポリアミドをベース樹脂とするマスターバッチとして、高融点の半芳香族ポリアミドに配合することにより、発泡及び変色がなく、長時間高温下で経時させた後でも、老化がなく、引張強度や伸びなどの機械的物性の保持性(耐熱老化性)に優れているポリアミド組成物が得られる。
【0086】
【実施例】
本発明を以下の例により具体的に説明するが、本発明はこれら例により何等限定されるものではない。
以下の例で得られた樹脂、組成物は、次の方法により評価した。
[評価方法]
(1)融点
DSCの吸熱曲線を求め、最大ピーク位置の温度を融点とした。
吸熱曲線は、試料をアルミパンに詰め、340℃まで急激に昇温し、340℃で5分間保持した後、20℃/分で室温まで降温し、ついで10℃/分で昇温させることにより求めた。
(2)結晶化度
試料を用いて1mmのプレスシートを作製し、23℃でX線回折法により測定した。
(3)メルトフローレート(MFR)
ASTM D 1238に準拠して、190℃、2.16kg荷重の条件で行った。
(4)密度
ASTM D 792に準拠して、23℃で測定した。
(5)グラフト量
IR(赤外線吸収)により測定した。
(6)造粒時の発泡
得られたペレットの発泡の様子を目視観察し、下記の基準で評価した。
○:発泡が無い。
×:発泡がみられた。
(7)耐熱老化性
ASTM 4号(1mm厚)の引張試験片を射出成形機を用いて成形し、得られた試験片を150℃のオーブン中に1000時間放置して老化させ、その後、老化させた試験片の引張強度と伸度をASTM D638の方法により測定した。
老化後の測定結果は、老化前のものと比較することにより、耐熱老化性の評価に供した。
(8)変色
3.2mm厚の曲げ試験片を成形し、その試験片を35℃、95%RHの槽の中に入れ135時間後の色相変化ΔEを測定装置(日本電色工業(株)社製、ND−1001DP)により測定した。
【0087】
[参考例1] 半芳香族ポリアミド(PA−1)の製造
1,6−ジアミノヘキサン139.3g(1.20モル)
2−メチル−1,5−ジアミノペンタン139.3(1.20モル)、
テレフタル酸365.5g(2.2モル)、
触媒として次亜リン酸ナトリウム0.55g(5.2×10−3モル)、及びイオン交換水64mL、
を1リットルの反応器に仕込み、窒素置換後、250℃、35kg/cmの条件で1時間反応を行った。1,6−ジアミノヘキサンと2−メチル−1,5−ジアミノペンタンとのモル比は50:50である。
1時間経過後、この反応器内に生成した反応生成物を、この反応器と連結され、且つ圧力を約10kg/cm低く設定した受け器に抜き出し、極限粘度[η]が0.15dL/gのポリアミド前駆体561gを得た。
次いで、このポリアミド前駆体を乾燥し、二軸押出機を用いてシリンダー設定温度330℃で溶融重合して半芳香族ポリアミド(PA−1)を得た。この芳香族ポリアミドの組成は次のとおりである。即ち、ジアミン成分単位中の1,6−ジアミノヘキサン成分単位含有率は50モル%、2−メチル−1,5−ジアミノペンタン成分単位含有率は50モル%であった。
【0088】
[参考例2] 半芳香族ポリアミド(PA−2)の製造
1,6−ジアミノヘキサン269.3g(2.32モル)
テレフタル酸205.6g(1.24モル)、
アジピン酸148.0g(1.01モル)、
触媒として次亜リン酸ナトリウム0.48g(4.50×10−3モル)、
分子量調節剤として安息香酸3.43g(2.81×10−2モル)、及び
イオン交換水62mL、
を1リットルの反応器に仕込み、窒素置換後、250℃、35kg/cmの条件で1時間反応を行った。テレフタル酸とアジピン酸とのモル比は55:45である。
1時間経過後、この反応器内に生成した反応生成物を、この反応器と連結され、且つ圧力を約10kg/cm低く設定した受け器に抜き出し、極限粘度[η]が0.15dL/gのポリアミド前駆体559gを得た。
次いで、このポリアミド前駆体を乾燥し、二軸押出機を用いてシリンダー設定温度330℃で溶融重合して半芳香族ポリアミド(PA−2)を得た。この芳香族ポリアミドの組成は次のとおりである。即ち、カルボン酸成分単位中のテレフタル酸成分単位含有率は55モル%、アジピン酸成分単位含有率は45モル%であった。
【0089】
[参考例3] 変性エチレン・1−ブテン共重合体(MAH−PE)の製造
Ti系触媒を用いて調製したエチレン・1−ブテン共重合体(PE−1と略す;密度=0.920g/cm、融点=124℃、結晶化度=48%、MFR(ASTM D 1238、190℃、2.16kg荷重)=1.0g/10分、エチレン含有量=96モル%)100重量部、
無水マレイン酸0.8重量部、及び
過酸化物(商品名:パーヘキシン−25B、日本油脂(株)製)0.07重量部、
をヘンシェルミキサーで混合し、得られた混合物を230℃に設定した65mmφの一軸押出機で溶融グラフト変性することによって、変性エチレン・1−ブテン共重合体(MAH−PEと略す)を得た。
この変性エチレン・1−ブテン共重合体(MAH−PE)の無水マレイン酸グラフト量をIR分析で測定したところ、0.8重量%であった。また、MFR(ASTM D 1238、190℃、2.16kg荷重)は0.27g/10分であり、融点は122℃であった。
【0090】
[参考例4] マスターバッチの製造
融点が215℃の低融点ポリアミド(6,12ナイロン)1kgに対し、銅化合物(CuI)17g、ハロゲン化アルカリ金属化合物(KI)140gをドライブレンドし、二軸押出機で溶融混練し(240〜260℃)、得られたストランドをカッティングし、ペレット状のマスターバッチを製造した。
【0091】
[実施例1〜4]
参考例1、2で得られた半芳香族ポリアミドPA−1、PA−2、参考例3で得られた変性エチレン・1−ブテン共重合体(MAH−PE)、ナイロン12(以下PA−3と略す)、タルク、参考例4で得られた銅化合物安定剤のマスターバッチ(以下MBと略す)、及び有機安定剤(イルガノックス1010、チバガイギー社製、以下有機安定剤と略す)を表1に示す割合で混合し、次いで、ベント付二軸スクリュー押出機を用いて300〜335℃のシリンダー温度条件で溶融混合して、半芳香族ポリアミド組成物のペレットを製造した。
得られたペレットを用いて試験片を射出成形し、前述した方法により、ポリアミド組成物の造粒時の発泡、耐熱老化性及び変色を評価した。結果を表2に示す。
【0092】
[実施例5]
有機安定剤を使用しない以外は、実施例1と同様に行った。結果を表2に示す。
【0093】
[比較例1]
MBを使用せずにCuIと有機安定剤を表1に示す量で使用した以外は、実施例1と同様に行った。結果を表2に示す。
【0094】
[比較例2]
MBを使用せずにCuI/KIと有機安定剤を表1に示す量で使用した以外は、実施例1と同様に行った。結果を表2に示す。
【0095】
【表1】
Figure 0004205234
【0096】
【表2】
Figure 0004205234

Claims (2)

  1. (A)テレフタル酸成分単位20〜100モル%と、テレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸成分単位0〜80モル%及び/又は炭素原子数4〜20の脂肪族ジカルボン酸成分単位0〜80モル%と、からなるジカルボン酸成分単位[a]、及び脂肪族ジアミン成分単位及び/又は脂環族ジアミン成分単位からなるジアミン成分単位[b]からなる繰り返し単位から構成され、
    30℃濃硫酸中で測定した極限粘度が0.5〜3.0dL/gの範囲にあり、
    融点が280℃以上の半芳香族ポリアミドの少なくとも1種、
    (D)グラフト変性α−オレフィン重合体、グラフト変性芳香族ビニル化合物・共役ジエン共重合体及びグラフト変性水素化芳香族ビニル化合物・共役ジエン共重合体からなる群より選択されたグラフト変性物、並びに
    (B)銅化合物及びハロゲン化アルカリ金属化合物を含む、融点が270℃以下の低融点ポリアミドからなるマスターバッチ、
    を含んで成るポリアミド組成物であって、
    (A)と(D)との合計100重量部に対して(D)を0.1〜50重量部、
    (A)と(D)との合計100重量部に対して(B)を0.01〜2.1重量部、かつ
    (A)と(D)との合計100重量部当たり前記銅化合物を0.001〜0.4重量部及び前記ハロゲン化アルカリ金属化合物を0.005〜1.0重量部の割合でそれぞれ含んでなることを特徴とするポリアミド組成物。
  2. 更に、(C)フェノール系安定剤、アミン系安定剤、チオエーテル系安定剤およびリン系安定剤から選択される少なくとも1種を、(A)と(D)との合計100重量部に対して、0.005〜4.0重量部の割合で含んでなることを特徴とする請求項1に記載のポリアミド組成物。
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