JP4202656B2 - 局所投与型徐放性軟膏 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、組織再生、外科的切除部の保護、歯周病の治療等に好適に用いられる局所投与型徐放性軟膏及びその製造方法並びに該徐放性軟膏を用いた歯周病治療キットに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、生分解性ポリマーを用いた局所投与型の徐放性製剤として検討されているものの多くは、投与後に固化又は付着することによって投与部位に滞留し薬剤を徐放するものである。特に、シリンジによる投与に適した製剤には、生分解性ポリマーを有機溶媒に溶解させたゲル状の製剤や、生分解性ポリマーに有機溶媒を適量添加し、均一にしたペースト状の製剤がある。
【0003】
ゲル状の製剤としては、特開平7−163654号公報に生分解性ポリマーと水溶性有機溶媒の混合物からなるインプラント前駆体が開示されている。ここに開示された発明は、生分解性ポリマーを水溶性有機溶媒に溶解させた製剤が水と接触することによりインプラントを形成するというものである。しかしながら、この製剤は水と接触することにより即時的に固化するものの、シリンジを用いた投与に際しては、シリンジの先端で製剤が固化し、付着するため、シリンジから薬剤が離脱せず、投与が容易でないという欠点がある。また、この製剤に使用する水溶性有機溶媒はテトラサイクリン系抗生物質のような特に水溶性の強い生物学的薬物を安定配合し難いという欠点もある。さらに、生分解性ポリマーと生物活性薬物を均一に配合しつつ製剤を経時的に安定にすることも困難である。
【0004】
さらにゲル状の製剤の例として、水への溶解度が低い有機溶媒を用いた徐放性の組成物が特表平8−511528号公報に開示されている。しかし水への溶解度が低い有機溶媒を用いたゲルは、投与後、水の存在下で即時的に固化するようなものにはならないという欠点がある。
【0005】
以上のようなゲル状の製剤は、いずれも生分解性ポリマーを、非加熱条件で生分解性ポリマーを溶解する能力を有する有機溶媒に溶解して調製されるものである。
【0006】
ペースト状の製剤の例としては、前記の特表平8−511528号公報において、開示された組成物の生分解性ポリマーと有機溶媒の配合比を変え、生分解性ポリマーの配合量を高くすることにより全体をペースト状にしたものが開示されている。これらはシリンジにより投与できるような形態になりつつも、なお上述したシリンジの先端での付着、生物活性薬物の安定配合、水への接触後の即時的固化という面において十分ではない。
【0007】
一方、以上のような生分解性ポリマーと生物活性薬物を含有したゲル状又はペースト状製剤の典型的な応用として歯周病治療へ展開した発明が多数開示されている。その開示情報の中でも生物活性薬物として抗生物質、特にテトラサイクリン系抗生物質が歯周病治療薬として有効であることが知られており、種々の試みがなされている。しかしながら、テトラサイクリン系抗生物質は熱や水に対して不安定であるため、テトラサイクリン系抗生物質の安定化を達成し、かつシリンジによる投与に適した徐放性製剤の開発が望まれている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明は、シリンジによる投与に適した性状を有し、投与後は水と接触すると即時的に固化し得るとともに、テトラサイクリン系抗生物質のような不安定な生物活性薬物であっても安定に配合し得る徐放性軟膏及びその製造方法、並びに、シリンジにより該徐放性軟膏を歯周ポケットに容易に投与することができる歯周病治療キットを提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、生分解性ポリマーと生物活性薬物とを配合した局所投与型の徐放性製剤について鋭意検討した結果、軟膏の基剤としてポリエチレングリコールを配合させることにより、水と接触すると即時的に固化する性質を有する、従来にない軟膏製剤が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明は、
(1) 生分解性ポリマー、ポリエチレングリコール及び生物活性薬物を含有してなり、該ポリエチレングリコールの含有量が20重量%以上である局所投与型徐放性軟膏であって、前記ポリエチレングリコールが25℃、1気圧下において液体と固体の混合物であり、液体のポリエチレングリコールと固体のポリエチレングリコールの重量比(液体/固体)が1/10〜10/1である、水と接触すると即時的に固化する性質を有する局所投与型徐放性軟膏、
(2) 生分解性ポリマーとポリエチレングリコールとを70〜120℃の温度に加熱し、液状化により混合、均一化する工程を有する前記(1)記載の徐放性軟膏の製造方法、並びに
(3) 前記(1)記載の徐放性軟膏を歯周ポケット投与用のシリンジに封入してなる歯周病治療キット
に関する。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明の徐放性軟膏とは、生分解性ポリマー、ポリエチレングリコール及び生物活性薬物を含有してなる局所投与型徐放性軟膏であって、水と接触すると即時的に固化する性質を有することを特徴とする。
【0012】
本発明において「水と接触すると固化する」とは、本発明の徐放性軟膏は流動性を有するが、水と接触すると即時的に固化し、流動性がなくなることを意味する。具体的には、軟膏100mgを直径5mmの両側が開放されたガラスの円筒に入れ、水中にしずめることにより、軟膏の流動性が低下し、円筒を除去しても軟膏が円筒の形状を保つ程度に成形性を保持することをいう。
【0013】
「即時的」とは、上記試験において、軟膏が成形性を保持するのに必要とされる時間が、10分以内、好ましくは1分以内、より好ましくは10秒以内であることをいう。
【0014】
本発明における生分解性ポリマーとしては、生分解活性を有する種々のポリマーを使用することができ、具体的には医薬原料として使用されているポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリブチロラクトン、ポリプロピオラクトン、ポリトリメチレンカーボネイト、ポリアミノ酸、ポリコハク酸イミド及びそれらの2種以上の共重合体からなる群より選ばれた少なくとも1種が好ましい。
【0015】
生分解性ポリマーの分子量は、徐放性及び軟膏の性状を得る観点から、1000〜100000が好ましく、5000〜50000がより好ましい。
【0016】
生分解性ポリマーの含有量は、徐放性の観点から、5重量%以上が好ましく、軟膏の性状を得るために、50重量%以下が好ましい。従って、生分解性ポリマーの含有量は、5〜50重量%が好ましく、10〜40重量%がより好ましい。
【0017】
本発明におけるポリエチレングリコールは、軟膏基剤として含有されており、徐放性軟膏中、20重量%以上が好ましく、30〜90重量%がより好ましい。さらに、ポリエチレングリコールは、製剤を軟膏状にするために、25℃、1気圧下において液体と固体の混合物であるのが好ましい。
【0018】
液体のポリエチレングリコールの分子量は、1000以下が好ましく、600以下がより好ましい。また、固体のポリエチレングリコールの分子量は、2000以上が好ましく、3000以上がより好ましい。
【0019】
液体のポリエチレングリコールの含有量は、徐放性の観点から、徐放性軟膏中、70重量%以下が好ましく、50重量%以下がより好ましい。また、固体のポリエチレングリコールの含有量は、徐放性の観点から、徐放性軟膏中、5重量%以上が好ましく、10重量%以上がより好ましい。
【0020】
さらに、液体のポリエチレングリコールと固体のポリエチレングリコールの重量比(液体/固体)は、1/10〜10/1が好ましく、1/2〜5/1がより好ましい。従って、ポリエチレングリコール400とポリエチレングリコール4000との1対1混合物として一般に知られているマクロゴール軟膏も、本発明に用いることができる。
【0021】
本発明における生物活性薬物としては、通常、薬学的に用いられる種々のものを使用することができるが、特に、歯周病治療において有効であることが知られているテトラサイクリン系抗生物質が好ましい。テトラサイクリン系抗生物質は熱や水に対して不安定で力価が低下しやすく、力価低下時には色状が著しく変化することが知られているが、本発明では、製剤中の抗生物質の力価、製剤の色状等を経時的に変化しない状態で安定に維持することができる。テトラサイクリン系抗生物質としては、例えばミノサイクリン、テトラサイクリン、ドキシサイクリン及びそれらの塩(塩酸塩等)等が挙げられ、これらの中ではミノサイクリン及びその塩が好ましい。生物活性薬物の含有量は、抗生物質としての薬理効果を得るために、徐放性軟膏中、0.1〜50重量%が好ましく、1〜30重量%がより好ましい。
【0022】
さらに、本発明の徐放性軟膏には、さらなる徐放性の向上を図るべく、水への溶解度が低い有機溶媒が含有されているのが好ましい。かかる有機溶媒による徐放性の向上効果は、生物活性薬物の初期バーストを抑えることにより得られるものと推定される。本発明において、水への溶解度が低い有機溶媒とは、20℃、1気圧下において、水への溶解度が30重量%以下、好ましくは20重量%以下のものをいう。従って、かかる有機溶媒としては、薬学的に許容され、水にわずかに溶解すると一般に知られているものを例示することができる。具体的には、トリアセチン、クエン酸トリエチル及び炭酸プロピレンからなる群より選ばれた少なくとも1種が好ましい。
【0023】
水への溶解度が30重量%以下の有機溶媒の含有量は、初期バーストを防止し、かつ軟膏をより速やかに固化させるために、徐放性軟膏中、0.1〜20重量%が好ましく、1〜10重量%がより好ましい。
【0024】
なお、本発明の徐放性軟膏には、抗炎症や組織再生能などの薬理作用をもつ生理活性物質や医薬用として通常使用される多価アルコール、界面活性剤、増粘剤、抗酸化剤、pH調整剤等の添加剤が発明の効果を損ねない範囲で適宜含有されていてもよい。
【0025】
なお、軟膏が固化するためには、固化した軟膏において、25℃で液体である成分の含有量の合計が少なくとも50重量%以下となるように配合されているのが好ましい。すなわち、液体のポリエチレングリコール、有機溶媒及びその他の液状の添加物の全体に対する含有量の合計が、固化した軟膏中、50重量%以下であることが固化のためには好ましい。
【0026】
本発明の徐放性軟膏は、生分解性ポリマーとポリエチレングリコールとを特定の温度に加熱し、液状化により混合、均一化する工程を経て製造することができる。即ち、生分解性ポリマーと、軟膏基剤としてポリエチレングリコールとを、70〜120℃で加熱し、液状化することにより、生分解性ポリマーが徐放性を失うほどには加水分解されず、混合、均一化することができる。ここで、加熱温度は、生分解性ポリマーをポリエチレングリコール中において液状化するために、1気圧下で70℃以上、好ましくは90℃以上であり、生分解性ポリマーの加水分解の促進を防止するために、120℃以下、より好ましくは110℃以下である。従って、加熱温度は、70〜120℃、好ましくは90〜110℃である。加熱時間は、生分解性ポリマーの加水分解の促進を防止するために、6時間以下が好ましい。
【0027】
混合方法は、特に限定されず、例えば、手動の他、マグネチックスターラーやプロペラ攪拌機、ホモミキサー等の市販の攪拌機による方法を用いることができる。
【0028】
従って、本発明の徐放性軟膏の製造方法は、前記のような、特定の温度条件下での生分解性ポリマーとポリエチレングリコールの加熱、混合工程を有する方法であれば特に限定されず、例えば、1気圧下で室温状態にある生分解性ポリマーとポリエチレングリコールを加熱及び液状化し、混合した後、再び室温まで冷却する方法が挙げられる。
【0029】
なお、生物活性薬物は生分解性ポリマーとポリエチレングリコールの加熱の前後のどちらにおいても添加することができるが、生物活性薬物を安定に維持するためには、加熱後の冷却中又は冷却後に添加する方法が好ましい。
【0030】
また、水への溶解度が低い有機溶媒の添加も、加熱前後のどちらであってもよいが、製剤の均一性の観点から、加熱前もしくは液状化している状態で添加するのが望ましく、少なくとも室温において固体であるポリエチレングリコールを用いている場合は、その融点以上の温度で添加するのがより望ましい。
【0031】
本発明の徐放性軟膏は、局所投与型徐放性軟膏として用いられるが、「局所投与型」とは、薬学的に通常用いられる局所部位を意味し、本発明で説明されている歯周ポケットに限らず、外用、皮下、骨などの局所部位への投与を意味する。また、軟膏が固化するための水は、投与部位における身体的な水によるものでも、投与前又は後に身体外の水を利用するものであってもよい。投与部位における身体的な水とは、例えば唾液や歯周ポケットにおける滲出液である。
【0032】
本発明の徐放性軟膏は、含有する生分解性ポリマーのモノマーや重合度、ポリエチレングリコールの分子量により、その徐放性及び粘度を調整することができ、本発明ではさらに、本発明の徐放性軟膏を歯周ポケット投与用のシリンジに封入した歯周病治療キットを提供する。
【0033】
歯周ポケット投与用のシリンジとしては、歯周病治療用として開発された、例えば、「ペリオクリン」(サンスター社製)等が挙げられる。徐放性軟膏は、予め、シリンジによる投与に適した粘度に調整されていることが好ましく、具体的には、使用するシリンジや状況によって異なるため、一概には決定できないが、500〜40万cpsの粘度が好ましい。
【0034】
【実施例】
以下、実施例等により、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はかかる実施例により何ら限定されるものではない。
【0035】
実施例1
液体のポリエチレングリコール(分子量:400)1.5g、固体のポリエチレングリコール(分子量:4000)2.5g及びトリアセチン0.5gの混合物を100℃に加熱し、乳酸グリコール酸共重合体(乳酸/グリコール酸:75/25、分子量:15000)3gを添加し、液状化させた後、30分間攪拌して均一にした。この混合物を50℃まで冷却し、ミノサイクリン塩酸塩1gを液体のポリエチレングリコール(分子量:400)1.5gに均一分散したものを添加し、軟膏を得た。さらに、この軟膏を歯周ポケット投与用シリンジに封入し、歯周病治療用キットを得た。
【0036】
実施例2
液体のポリエチレングリコール(分子量:400)1.5g、固体のポリエチレングリコール(分子量:4000)2.5g及びクエン酸トリエチル0.5gの混合物を100℃に加熱し、カプロラクトングリコール酸共重合体(カプロラクトン/グリコール酸:70/30、分子量:10000)3gを添加し、液状化させた後、30分間攪拌して均一にした。この混合物を50℃まで冷却し、ミノサイクリン塩酸塩0.5gを液体のポリエチレングリコール(分子量:400)2gと均一分散したものを加添加し、軟膏を得た。
【0037】
実施例3
液体のポリエチレングリコール(分子量:300)2g、固体のポリエチレングリコール(分子量:4000)2g及び炭酸プロピレン0.3gの混合物を100℃に加熱し、ポリコハク酸イミド(分子量:10000)2gを添加し、液状化させた後、30分攪拌して均一にした。この混合物を50℃まで冷却し、ドキシサイクリン塩酸塩1gを液体のポリエチレングリコール(分子量:300)2.7gに均一分散したものを添加し、軟膏を得た。
【0038】
実施例4
液体のポリエチレングリコール(分子量:400)3.5g及び固体のポリエチレングリコール(分子量:6000)2.5gの混合物を100℃に加熱し、ポリ乳酸(分子量:10000)2gを添加し、液状化させた後、30分攪拌して均一にした。この混合物を50℃まで冷却し、テトラサイクリン塩酸塩0.5gを液体のポリエチレングリコール(分子量:400)1.5gに均一分散したものを添加し、軟膏を得た。
【0039】
比較例1
ポリ乳酸(分子量:10000)3gをN−メチル−2−ピロリドン6gに室温で溶解させ、ミノサイクリン塩酸塩1gを添加し、徐放性ゲルを得た。さらに、このゲルを歯周ポケット投与用シリンジに封入し、歯周病治療用キットを得た。
【0040】
比較例2
乳酸グリコール酸共重合体(乳酸/グリコール酸:75/25、分子量:15000)3gをトリアセチン6gに室温で溶解させ、ミノサイクリン塩酸塩1gを添加し、徐放性ゲルを得た。さらに、このゲルを歯周ポケット投与用シリンジに封入し、歯周病治療用キットを得た。
【0041】
比較例3
白色ワセリン4.5gを100℃に加熱し、ポリ乳酸(分子量:10000)3gを添加し、均一化した。この混合物を50℃まで冷却し、ドキシサイクリン塩酸塩1gを白色ワセリン1.5gに均一分散したものを添加したところ、この組成物は軟膏にならず固体になった。
【0042】
比較例4
白色ワセリン2.5g及びクエン酸トリエチル3gの混合物を100℃に加熱し、ポリ乳酸(分子量:10000)2gを添加し、均一化した。この混合物を50℃まで冷却し、テトラサイクリン塩酸塩1.0gを白色ワセリン1.5gに均一分散したものを添加したところ、この組成物は直ちに固体とゲルの2相に分離し、軟膏は得られなかった。
【0043】
比較例5
ゲル化炭化水素4.0g及びトリアセチン0.5gの混合物を100℃に加熱し、ポリ乳酸(分子量:10000)3gを添加し、均一化した。この混合物を50℃まで冷却し、ドキシサイクリン塩酸塩1.0gをゲル化炭化水素1.5gに均一分散したものを添加したところ、この組成物は軟膏にならず固体になった。
【0044】
比較例6
ゲル化炭化水素2.5g及びトリアセチン3gの混合物を100℃に加熱し、ポリ乳酸(分子量:10000)2gを添加し、均一化した。この混合物を50℃まで冷却し、ミノサイクリン塩酸塩1.0gをゲル化炭化水素1.5gに均一分散したものを添加し、軟膏を得た。さらに、この軟膏を歯周ポケット投与用シリンジに封入し、歯周病治療用キットを得た。
【0045】
試験例1〔シリンジ使用試験〕
実施例1及び比較例1、2、6で得られた歯周病治療用キットを用い、シリンジのロットを押すことにより、投与の容易さを確認し、以下の評価基準により評価した。結果を表1に示す。
【0046】
〔評価基準〕
○:シリンジでの投与が可能
×:シリンジでの投与が不可能
【0047】
試験例2〔固化試験〕
実施例1及び比較例1、2、6で得られた軟膏各100mgを、直径5mmの両側が開放されたガラスの円筒に入れ、1分間、水中にしずめた後、水からとり出し、円筒を除去した後の成形性を以下の評価基準に従って評価した。結果を表1に示す。
【0048】
〔評価基準〕
+ :1時間以上、円筒形を維持
± :10秒以上1時間未満、円筒形を維持
− :円筒形にならない、又は円筒形を維持できる時間が10秒未満
【0049】
試験例3〔抗生物質安定性試験(目視評価)〕
実施例1及び比較例1、2、6で得られた軟膏を、40℃で2週間放置後、目視により軟膏の色状を初期と比較、以下の評価基準に従って評価した。結果を表1に示す。
【0050】
〔評価基準〕
+:初期と変化なし
−:やや黄変
−−:黄変
【0051】
試験例4〔抗生物質安定性試験(定量試験)〕
実施例1及び比較例1、2、6で得られた軟膏を、40℃で2週間放置後、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で抗生物質を定量し、初期値に対する抗生物質の量(重量%)を求めた。結果を表1に示す。
【0052】
試験例5〔徐放性試験〕
実施例1及び比較例1、2、6で得られた軟膏各100mgを透析チューブ(三光純薬社製、分画分子量:12000〜14000)に封入したものを、100mLのPBSに入れ、外液を1日ごとに交換し、外液中の抗生物質の量を分光光度計により経時的に測定して7日目の抗生物質の放出量(重量%)を求めた。結果を表1に示す。
【0053】
試験例6〔歯周ポケット投与試験〕
市販されている歯周病治療用軟膏をこれまでに犬歯周ポケットに投与した経験のある3名が、実施例1及び比較例1、2、6で得られた歯周病治療用キットを用い、リガチャーモデルにより作成した犬歯周ポケットにそれぞれ3回ずつ軟膏を投与し、投与後のポケット内の軟膏の残存性を目視により実施し、全ポケット数における投与成功数を比較した。結果を表1に示す。
【0054】
試験例7〔歯周ポケット内固化試験〕
実施例1及び比較例1、2、6で得られた歯周病治療用キットを用い、リガチャーモデルにより作成した犬歯周ポケットに軟膏を投与し、投与後の固化性を以下の評価基準に従って評価した。結果を表1に示す。
【0055】
〔評価基準〕
++:10秒未満で固化する。
+:10秒以上10分未満で固化する。
−:10分後に固化していない。
【0056】
試験例8〔歯周ポケット内滞留試験〕
市販されている歯周病治療用軟膏をこれまでに犬歯周ポケットに投与した経験のある3名が、実施例1及び比較例1、2、6で得られた歯周病治療用キットを用い、リガチャーモデルにより作成した犬歯周ポケットにそれぞれ3回ずつ軟膏を投与し、1週間後の歯周ポケット内におけるミノサイクリンの滞留性を評価した。評価は1週間後にろ紙(2mm×10mm)を用いてポケット内の滲出液を採取し、ミノサイクリンをHPLCで検出することにより、全ポケット数におけるミノサイクリンの残存ポケット数で比較した。結果を表1に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
以上の結果より、比較例1、2、6で得られた軟膏と対比して、実施例1の軟膏は、即時固化性及び徐放性に優れ、シリンジを用いて、歯周病治療剤として好適に用いられ得ることが分かる。
【0059】
【発明の効果】
本発明により、シリンジによる投与に適した性状を有し、投与後は水と接触すると即時的に固化し得るとともに、テトラサイクリン系抗生物質のような不安定な生物活性薬物であっても安定に配合し得る徐放性軟膏及びその製造方法を提供することができる。さらに、本発明の徐放性軟膏をシリンジに封入した歯周病治療キットにより、シリンジにより該徐放性軟膏を歯周ポケットに容易に投与することができる。
Claims (10)
- 生分解性ポリマー、ポリエチレングリコール及び生物活性薬物を含有してなり、該ポリエチレングリコールの含有量が20重量%以上である局所投与型徐放性軟膏であって、前記ポリエチレングリコールが25℃、1気圧下において液体と固体の混合物であり、液体のポリエチレングリコールと固体のポリエチレングリコールの重量比(液体/固体)が1/10〜10/1である、水と接触すると即時的に固化する性質を有する局所投与型徐放性軟膏。
- さらに、20℃、1気圧下における、水への溶解度が30重量%以下の有機溶媒を含有してなる請求項1記載の徐放性軟膏。
- 生分解性ポリマーの含有量が5〜50重量%、有機溶媒の含有量が0.1〜20重量%である請求項2記載の徐放性軟膏。
- 液体のポリエチレングリコールと固体のポリエチレングリコールの重量比(液体/固体)が1/2〜5/1である請求項1〜3いずれか記載の徐放性軟膏。
- 生分解性ポリマーがポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリブチロラクトン、ポリプロピオラクトン、ポリトリメチレンカーボネイト、ポリアミノ酸、ポリコハク酸イミド及びそれらの2種以上の共重合体からなる群より選ばれた少なくとも1種である請求項1〜4いずれか記載の徐放性軟膏。
- 有機溶媒がトリアセチン、クエン酸トリエチル及び炭酸プロピレンからなる群より選ばれた少なくとも1種である請求項2〜5いずれか記載の徐放性軟膏。
- 生物活性薬物としてテトラサイクリン系抗生物質を含有してなる請求項1〜6いずれか記載の徐放性軟膏。
- テトラサイクリン系抗生物質がミノサイクリン又はその塩である請求項7記載の徐放性軟膏。
- 生分解性ポリマーとポリエチレングリコールとを70〜120℃の温度に加熱し、液状化により混合、均一化する工程を有する請求項1〜8いずれか記載の徐放性軟膏の製造方法。
- 請求項1〜8いずれか記載の徐放性軟膏を歯周ポケット投与用のシリンジに封入してなる歯周病治療キット。
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