JP4202179B2 - 電気化学式ガスセンサ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、定電位電解式の電気化学式ガスセンサに関する。
【0002】
【従来の技術】
現在、例えば半導体製造工場などにおいて毒性ガスの検出を行うに際しては、目的とする検知対象ガスの選択性に優れ、高感度で、かつ、高い精度でガス濃度を検出することができるなどの理由から、電解反応を利用した電気化学式ガスセンサが広く利用されている(例えば、特許文献1〜2参照。)。
【0003】
このような電気化学式ガスセンサにおいては、ガス検知動作に必要とされる複数の電極が互いに電解液を介して導通状態とされていることが必要とされる。
而して、電解液は例えば温度や湿度などの環境条件によって蒸発してその量が減少し、各電極間の導通状態を維持して正常に動作させることが困難となる場合があることから、安定したガス検知を行うためには電解液量を蒸発による減少を考慮した量とする必要がある。また、蒸発しにくい特性を有する硫酸溶液よりなる電解液や、水分の蒸発を抑制するためにエチレングリコールを含有させた電解液は、高湿度の環境条件において、その量が初期値より増加する場合もある。
従って、電解液を収容する容器を、環境条件によって電解液量が増加することも考慮し、電解液量に対応した大きさとしなくてはならず、電気化学式センサの小型化を図ることが難しい、という問題がある。
【0004】
特に、ジボランガスを検知対象ガスとする電気化学式センサにおいては、これらのガスが加水分解を生じるという特性を有するものであることから、電解液として、通常、有機溶媒などの非水系溶液が用いられているが、当該電気化学式ガスセンサは、一般的な環境条件下において蒸発によって減少する電解液量が大きいため、定期的な電解液の補充が必要とされている。
【0005】
【特許文献1】
特開平7−55764号公報
【特許文献2】
特開2001−289816号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は以上のような事情に基づいてなされたものであって、その第1の目的は、長期間にわたって安定したガス検知を行うことのできる小型の電気化学式ガスセンサを提供することにある。
本発明の第2の目的は、検知対象ガスがジボランガスであっても、長期間にわたって信頼性の高いガス検知を行うことができる小型の電気化学式ガスセンサを提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明の電気化学式ガスセンサは、作用極および対極が電解液を介して導通状態とされてガス検知動作が可能となる定電位電解式の電気化学式ガスセンサにおいて、
電解液としてイオン性液体を用い、
検知対象ガスがジボランガス、一酸化炭素ガスおよびアルシンガスよりなる群から選ばれる少なくとも1種のガスであることを特徴とする。
【0008】
本発明の電気化学式ガスセンサにおいては、電解液が、エチルメチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート溶液よりなることが好ましい。
【0010】
【作用】
本発明の電気化学式ガスセンサによれば、電解液としてイオン性液体が用いられていることから、電解液が環境条件によって蒸発してその量が減少することが防止され、各電極間の良好な導通状態を保つことができるため、長期間にわたって安定したガス検知を行うことができると共に、蒸発による減少を考慮せずに電解液量を設定することができることから、電解液を収容するための容器の設計の自由度が大きくなり、小型化を図ることができる。
【0011】
また、本発明の電気化学式ガスセンサによれば、検知対象ガスがジボランガスであっても、ガス検知動作中において検知対象ガスが加水分解することなく、また、高温低湿条件下においても電解液を補充することなく長期間にわたって所望のガス検知性能によってガス検知を行うことができる。従って、検知対象ガスをジボランガスとした場合にも、長期間にわたって信頼性の高いガス検知を行うことができると共に、小型化を図ることができる。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は、本発明の電気化学式ガスセンサの構成の一例を示す説明図である。
電気化学式ガスセンサ10は、電解液を収容するための電解液収容空間11Aを形成し、互いに対向する位置に設けられた円状の第1のガス透過口12および円状の第2のガス透過口13を有する、例えばポリカーボネート、塩化ビニルなどよりなる電解液用セル11を備えており、当該電解液用セル11の第1のガス透過口12に適合する大きさを有し、この第1のガス透過口12を塞ぐよう設けられた、電解液を透過させない第1のガス透過膜15と、当該第1のガス透過膜15の電解液収容空間11Aに臨む表面に形成された、検知対象ガスを電気分解させるための作用極21と、第2のガス透過口13に適合する大きさを有し、この第2のガス透過口13を塞ぐよう設けられた、電解液を透過させない第2のガス透過膜16と、当該第2のガス透過膜16の電解液収容空間11Aに臨む表面に形成された、作用極21に対する対極23およびこの対極23と分離して設けられた作用極21の電位を制御するための参照極25とを備えてなるものである。
この図の例において、18は、第1のガス透過口12に対応する位置に、当該第1のガス透過口12に適合する大きさを有するガス透過用開口18Aが形成されている第1のガス透過膜15を固定するための第1の膜固定部材であり、19は、第2のガス透過口13に対応する位置に、当該第2のガス透過口13に適合する大きさを有するガス透過用開口19Aが形成されている第2のガス透過膜16を固定するための第2の膜固定部材である。
【0013】
この電気化学式ガスセンサ10においては、作用極21および対極23は、定電圧回路27に接続されており、この定電圧回路27には、参照極25も接続されている。
また、定電圧回路27と対極23との間に設けられている負荷抵抗29の両端には測定回路28が接続されており、この測定回路28によって作用極21と対極23とに流れる電解電流値が測定される。
【0014】
この電気化学式ガスセンサ10において、作用極21、対極23および参照極25としては、例えば白金、金、銀、銅、ルテニウム、酸化ルテニウムまたはそれらの混合物などの電極用材料金属よりなる、例えば50〜150μmの厚みを有する金属層よりなる電極を用いることができる。
第1のガス透過膜15および第2のガス透過膜16の各々としては、例えばポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE樹脂)製などの多孔質シートを用いることができる。
【0015】
そして、電解液としては、イオン性液体を用いることが必要とされる。
ここに、本明細書中において、「イオン性液体」とは、常温溶解塩とも呼ばれるものであり、全体が有機カチオン種とアニオン種とからなる塩であり、使用環境温度範囲(例えば−20〜50℃の範囲)において、蒸気圧がきわめて低く、実質上蒸気圧をもたないものを示す。
【0016】
具体的に、イオン性液体としては、例えばエチルメチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート溶液、エチルメチルイミダゾリウム溶液、ヘキサフルオロホスフェート溶液、エチルメチルイミダゾニウムトリフルオロメタンスリホン酸溶液などが挙げられる。
【0017】
電気化学式ガスセンサ10における電解液としては、例えばエチルメチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート溶液を好適に用いることができる。
【0018】
このような構成を有する電気化学式ガスセンサ10は、電解液用セル11の電解液収容空間11A内に、少なくとも作用極21、対極23および参照極25が浸された状態となる適宜の量の電解液が収容されることによって作用極21、対極23および参照極25が電解液を介して導通状態とされてガス検知動作が可能となるものであり、そのガス検知動作中においては定電圧回路27により作用極21と、参照極25との間の電位が一定の電位(設定電位)に保たれており、ガス透過用開口18Aを介して検査対象ガス(以下、「被検査ガス」ともいう。)が導入されると、この被検査ガス中の検知対象ガスが第1のガス透過膜12を透過することによって作用極21において電気分解され、この作用極21と、対極23とにおいて、各々、電気化学反応が起こることに起因して当該作用極21および対極23との間に流れる電解電流値を測定回路28において測定する。このようにして、電気化学式ガスセンサ10により電解反応を利用して検知対象ガスの検知が行われる。
【0019】
以上の電気化学式ガスセンサ10によれば、電解液としてイオン性液体が用いられていることから、電解液が環境条件によって蒸発してその量が減少することが防止され、作用極21、対極23および参照極25間において良好な導通状態を形成し、その状態を長期間にわたって保つことができるため、長期間にわたって安定したガス検知を行うことができる。また、蒸発による減少を考慮せずに電解液量を設定することができることから、電解液用セル11の設計の自由度が大きくなり、電気化学式ガスセンサ10自体の小型化を図ることができる。
実際上、電気化学式ガスセンサ10においては、当該電気化学式ガスセンサ10と同様の構造を有するガスセンサにおいて、硫酸溶液を電解液として用いる場合に必要とされる電解液量が3cm3 である場合であっても、その電解液量は1cm3 以下であってもよい。
【0020】
この電気化学式ガスセンサ10は、ジボランガス、アルシンガス、一酸化炭素ガスを検知対象ガスとするものであり、特に、例えばジボランガスなどの加水分解を生じる特性を有するガスを検知対象ガスとして好適に用いることができる。
【0021】
ジボランガスを検知対象ガスとする場合には、電気化学式ガスセンサ10のガス検知動作中において検知対象ガスが加水分解することなく、また、高温低湿条件下においても、電解液を補充することなく長期間にわたって所望のガス検知性能によってガス検知を行うことができる。
従って、電気化学式ガスセンサ10によれば、検知対象ガスがジボランガスであっても、長期間にわたって安定した信頼性の高いガス検知を行うことができる。
また、後述する実験例から明らかなように、検知対象ガス濃度に応じた大きさの電解電流値が得られることから、例えば検知対象ガス濃度が予め定めた一定レベル以上の濃度となったことを検知することができる。
【0022】
一酸化炭素ガスを検知対象ガスとする場合には、後述する実験例から明らかなように、一酸化炭素ガス濃度と、作用極21および対極23に生じる電気化学反応に起因して発生する電解電流値の大きさとが比例関係にあることから、この比例関係を利用して、電解電流値の大きさを測定することによって一酸化炭素ガス濃度を検知することができる。
【0023】
また、電気化学式ガスセンサ10は、例えば高温低湿条件などの過酷な環境条件下においても、弊害を伴うことなく長期間にわたって所期のガス検知を安定して行うことができることから、例えば半導体製造工場などにおける毒性ガスなどの特殊材料ガスを無害化する後処理装置にかかるガスセンサとして好適に用いることができる。
【0024】
以上において、本発明の電気化学式ガスセンサを具体的な一例を用いて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、電解液としてイオン性液体を用いてなるものであれば、その他の構成部材としては種々のものを用いることができる。
【0025】
以下、本発明の作用効果を確認するために行った実験について説明する。
【0026】
〔実験例1〕
図1の構成に従い、電気化学式ガスセンサ(以下、「電気化学式ガスセンサ(1)」ともいう。)を作製した。
この電気化学式ガスセンサ(1)においては、電解液として、1.0cm3 のエチルメチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート溶液を用いた。
また、第1のガス透過膜および第2のガス透過膜としては、各々、PTFE樹脂製の多孔質シートを用い、作用極としては、ガス透過膜用材料の表面にイオンプレーティング法によって形成された金層よりなる電極、対極および参照極としては、作用極と同様の方法によって得られた金層よりなる電極を用いた。
【0027】
この電気化学式ガスセンサ(1)に対して、作用極と参照極との間の設定電位を50mVとし、種々の濃度のジボランガスおよびジボランガスの校正用として用いられるホスフィンガスを、各々、3分間接触させることによってその応答を確認したところ、ジボランガス濃度に応じた電解電流値が得られることが確認されると共に、ホスフィンガス濃度に応じた電解電流値が得られ、このホスフィンガスに係る電解電流値がジボランガス濃度に応じた大きさを有することが確認された。
図2に、各々、濃度0.18ppmのジボランガス、濃度0.51ppmのホスフィンガス、濃度4.7ppmのジボランガスを接触させた場合に測定される電解電流値の出力パターンを示す。
【0028】
以上の結果から、電気化学式ガスセンサ(1)のガス検知動作中において検知対象ガスであるジボランガスが加水分解することなく、所期のガス検知を行うことができることが確認された。また、ホスフィンガスをジボランガスの校正用として用いることができることが確認された。
【0029】
〔実験例2〕
図1の構成に従い、一酸化炭素ガスを検知対象ガスとする電気化学式ガスセンサ(以下、「電気化学式ガスセンサ(2)」ともいう。)を作製した。
この電気化学式ガスセンサ(2)においては、電解液として、1.0cm3 のエチルメチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート溶液を用いた。
また、第1のガス透過膜および第2のガス透過膜としては、各々、PTFE樹脂製の多孔質シートを用い、作用極としては、白金粒子と、樹脂バインダーとしてフッ素樹脂とを混合した混合材料によってガス透過膜用材料の表面に厚膜印刷法によって混合材料層を形成し、この混合材料層を焼結処理することによって得られた白金黒電極、対極および参照極としては、作用極と同様の方法によって得られた白金黒電極を用いた。
【0030】
この電気化学式ガスセンサ(2)に対して、作用極と参照極との間の設定電位を0mVとし、濃度が100ppm、200ppm、300ppm、500ppmの一酸化炭素ガスを、各々、3分間接触させたときの電界電流値を測定した。結果を図3に示す。
【0031】
以上の結果から、一酸化炭素ガス濃度と、電解電流値の大きさとが比例関係にあることが確認された。
【0032】
【発明の効果】
本発明の電気化学式ガスセンサによれば、電解液としてイオン性液体が用いられていることから、電解液が環境条件によって蒸発してその量が減少することが防止され、各電極間の良好な導通状態を保つことができるため、長期間にわたって安定したガス検知を行うことができると共に、蒸発による減少を考慮せずに電解液量を設定することができることから、電解液を収容するための容器の設計の自由度が大きくなり、小型化を図ることができる。
【0033】
また、本発明の電気化学式ガスセンサによれば、検知対象ガスがジボランガスであっても、ガス検知動作中において検知対象ガスが加水分解することなく、また、高温低湿条件下においても電解液を補充することなく長期間にわたって所望のガス検知性能によってガス検知を行うことができる。従って、検知対象ガスをジボランガスとしても、長期間にわたって信頼性の高いガス検知を行うことができると共に、小型化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の電気化学式ガスセンサの構成の一例を示す説明図である。
【図2】(イ)は実験例1に係る濃度0.18ppmのジボランガスを接触させた場合の出力パターンを示し、(ロ)は実験例1に係る濃度0.51ppmのホスフィンガスを接触させた場合の出力パターンを示し、(ハ)は実験例1に係る濃度4.7ppmのジボランガスを接触させた場合の出力パターンを示す。
【図3】実験例2に係る検知対象ガスが一酸化炭素ガスである場合の一酸化炭素ガス濃度と測定される電解電流値との関係を示す図である。
【符号の説明】
10 電気化学式ガスセンサ
11 電解液用セル
11A 電解液収容空間
12 第1のガス透過口
13 第2のガス透過口
15 第1のガス透過膜
16 第2のガス透過膜
18 第1の膜固定部材
18A ガス透過用開口
19 第2の膜固定部材
19A ガス透過用開口
21 作用極
23 対極
25 参照極
27 定電圧回路
28 測定回路
29 負荷抵抗
Claims (2)
- 作用極および対極が電解液を介して導通状態とされてガス検知動作が可能となる定電位電解式の電気化学式ガスセンサにおいて、
電解液としてイオン性液体を用い、
検知対象ガスがジボランガス、一酸化炭素ガスおよびアルシンガスよりなる群から選ばれる少なくとも1種のガスであることを特徴とする電気化学式ガスセンサ。 - 電解液が、エチルメチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート溶液よりなることを特徴とする請求項1に記載の電気化学式ガスセンサ。
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