JP4199813B2 - 炭素質あるいは黒鉛質粒子 - Google Patents

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Description

本発明は、炭素質あるいは黒鉛質粒子に関する。更に詳しくは、高容量で、良好な急速充放電性を有する非水系二次電池用電極等に利用できる炭素質あるいは黒鉛質粒子に関する。
近年、電子機器の小型化に伴い高容量の二次電池が必要となってきている。特にニッケル・カドミウム電池、ニッケル・水素電池に比べてエネルギー密度の高い、リチウム二次電池が注目されてきている。その負極材料として、はじめリチウム金属を用いることが試みられたが、充放電を繰り返す内に樹脂状(デンドライト状)にリチウムが析出し、セパレーターを貫通して正極まで達し、両極を短絡してしまう可能性があることが判明した。そのため、金属電極に変わってデンドライトの発生を防止できる炭素系の材料が着目されてきている。
炭素系材料を使用した非水電解液二次電池としては、結晶化度の低い難黒鉛性炭素材料を負極材料に採用した電池が、まず上市された。続いて結晶化度の高い黒鉛類を用いた電池が上市され、現在に至っている。黒鉛の電気容量は、372mAh/gと理論上最大であり、電解液の選択を適切に行えば、高い充放電容量の電池を得ることができる。さらに特許文献1に示されるような、複層構造を有する炭素質物を用いることも検討されている。これは、結晶性が高い黒鉛の長所(高容量かつ不可逆容量が小さい)と短所(プロピレンカーボネート系電解液を分解する)および結晶化度の低い炭素質物の長所(電解液との安定性に優れる)と短所(不可逆容量が大きい)を組み合わせ、互いの長所を生かしつつ、短所を補うという考えに基づく。
黒鉛類(黒鉛及び黒鉛を含む複層炭素質物)は、難黒鉛性炭素材料に比べて結晶性が高く、真密度が高い。従って、これら黒鉛類の炭素材料を用いて負極を構成すれば、高い電極充填性が得られ、電池の体積エネルギー密度を高めることができる。黒鉛系粉末で負極を構成する場合、粉末とバインダーを混合し、分散媒を加えたスラリーを作成し、これを集電体である金属箔に塗布し、その後、分散媒を乾燥する方法が一般的に用いられている。この際、粉末の集電体への圧着と電極の極板厚みの均一化、極板容量の向上を目的として、更に圧縮成型を掛ける工程を設けるのが一般的である。この圧縮工程により、負極の極板密度は向上し、電池の体積あたりのエネルギー密度は、更に向上する。
これらの問題に着目し、非水電解液二次電池に使用される黒鉛の形状を規定した発明も行われている。特許文献2は、鱗片状な粒子と比較的鱗片状でない粒子の比率等を規定した発明であり、特許文献3は、これとは逆により鱗片状な粒子が好ましいとしている。
特開平4−171677号公報 特開平8−180873号公報 特開平8−83610号公報
しかしながら、高結晶性であり、工業的にも入手可能な黒鉛材料は、一般的にその粒子形状が鱗片状、鱗状、板状である。これら黒鉛質粒子を上記極板製造工程を経て、極板化すると、極板密度は圧縮度に応じて上昇するが、一方で粒子間隙が十分に確保されないため、リチウムイオンの移動が妨げられ、電池としての急速充放電性が低下してしまうという問題があった。更に、板状の黒鉛質粒子を、電極として成形した場合、スラリーの塗布工程、極板の圧縮工程の影響により、粉体の板面は、高い確率で電極極板面と平行に配列される。従って、個々の粉体粒子を構成している黒鉛結晶子のエッジ面は、比較的高い確率で、電極面と垂直な位置関係に成形される。この様な極板状態で充放電を行うと、正負極間を移動し、黒鉛に挿入・脱離されるリチウムイオンは、一旦粉体表面を回り込む必要があり、電解液中でのイオンの移動効率という点で著しく不利であるという問題もあった。更に、成形後の電極に残された空隙は、粒子が板状の形状をしているため、電極外部に対し、閉ざされてしまうという問題もあった。すなわち、電極外部との電解液の自由な流通が妨げられる為、リチウムイオンの移動が妨げられるという問題があった。
一方、極板内でのリチウムイオンの移動に必要な空隙を確保する負極材料として、球状の形態を有するメソカーボンマイクロビーズの黒鉛化物が提案され、既に商品化されている。形態が球状であれば、上述の極板圧縮工程を経ても、個々の粉体粒子には、選択的な配列がおきず、エッジ面の等方向性が維持され、電極板中でのイオンの移動速度は、良好に維持される。更に電極内部に残存した空隙は、その粒子形状に由来して、電極外部とつながった状態であるため、リチウムイオンの移動は比較的自由であり、急速充放電にも対応可能な電極構造となる。しかしながら、メソカーボンマイクロビーズは、マクロな秩序構造が低いために、電気容量の限界が300mAh/gと低く、鱗片状、鱗状、板状な黒鉛に劣ることが既に広く知られている。
実用電池には、高い電気容量と急速充放電性を兼ね備えた電極が求められており、鱗片状、鱗状、板状の黒鉛質材料の急速充放電性の改善が望まれている。そこで、本発明は、材料の電極充填性が高く、高エネルギー密度であり、且つ急速充放電性に優れた、非水系二次電池用電極等に利用できる炭素質あるいは黒鉛質粒子を提供することを目的とする。
上述の目的を達成するために、本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、電極の性能を改善するためには、黒鉛材料の形状や充填性が重要であり、高電気化学容量を有する黒鉛質材料を、力学的エネルギーを用いて球状に処理して得られる球形化処理黒鉛および炭素質粒子を電極材料に用いることで、高容量で、急速充放電性、サイクル特性を併せ持つ、優れた電極が得られるとの知見を得るに至った。
本発明の炭素質あるいは黒鉛質粒子は、このような知見に基づいて、完成されたものであって、その要旨とするところは、処理前の炭素質あるいは黒鉛質粒子の結晶子サイズ(Lc)が100nm以上であり、処理前後の見かけ密度比を1.1以上、処理前後のメジアン径比が1以下となるように力学的エネルギーを用いた粒子の形状に丸みが導入される処理を行った炭素質あるいは黒鉛質粒子であって、処理後の炭素質あるいは黒鉛質粒子のメジアン径が、5〜50μmであり、見かけ密度が0.5g/cc以上である、非水系二次電池用電極に用いられる炭素質あるいは黒鉛質粒子に存する。また、処理前の黒鉛質粒子の層間距離(d002)が0.34nm以下、結晶子サイズ(Lc)が100nm以上、真密度が2.25g/cc以上であることを特徴とするものである。
また、本発明は、処理後の炭素質あるいは黒鉛質粒子のメジアン径が、5〜50μmであり、BET法比表面積が、25m2/g以下であることを特徴とする。また、本発明は、処理前後の見かけ密度比を1.1以上、処理前後のメジアン径比が1以下となるように力学的エネルギーを用いた球状処理を行った炭素質あるいは黒鉛質粒子を炭素前駆体となる有機化合物と混合した後に、該有機化合物を炭素化した複層構造炭素材料を特徴とするものである。
本発明の炭素質あるいは黒鉛質粒子より得られた負極と通常使用されるリチウムイオン電池用の金属カルコゲナイド系正極及びカーボネート系溶媒を主体とする有機電解液を組み合わせて構成した電池は、容量が大きく、初期サイクルに認められる不可逆容量が小さく、高温下での放置における電池の保存性および信頼性が高く、高効率放電特性および低温における放電特性に極めて優れたものとすることができる。
以下、詳細に本発明を説明する。本発明における炭素質あるいは黒鉛質粒子は、天然又は人造の黒鉛質粒子又は黒鉛前駆体である炭素質粉末である。これら処理前の炭素質、黒鉛質粉末は、層間距離(d002)が0.340nm以下、結晶子サイズ(Lc)が100nm以上、真密度が2.25g/cc以上であることが好ましい。更に層間距離(d002)が0.337nm以下の方がより好ましく、0.336nm以下が最も好ましい。結晶子サイズ(Lc)は、100nm以上である処理後の炭素質あるいは黒鉛質粒子のメジアン径が、5〜50μmであり、見かけ密度が0.5g/cc以上である。炭素質あるいは黒鉛質粒子の結晶性は、リチウムイオンを用いた電気化学的容量でも判別することができる、本発明に用いられる炭素質あるいは黒鉛質粒子は、充放電レートを0.2mA/cm2とした、半電池による電気容量にして、330mAh/g以上、より好ましくは350mAh/g以上であることが好ましい。すなわち、炭素六角網面構造がある程度発達した高結晶性炭素材料であって、金属イオンがインターカレーションした際に、C6Liと表現される組成、炭素6原子に対しリチウム1原子を収容するステージ1構造を形成できる材料であることが、特に好ましい。
結晶性が低く、面配向が高度に進んでいない、構造に乱れが残存している状態で、力学的エネルギー処理を行えば、その構造故に粉砕面が比較的等方的となり、丸みを帯びた処理物を得やすくなる。
炭素六角網面構造が発達した高結晶性炭素材料としては、六角網面を面配向的に大きく成長させた高配向黒鉛と、高配向の黒鉛粒子を等方向に集合させた等方性高密度黒鉛が挙げられる。高配向黒鉛としては、スリランカあるいはマダカスカル産の天然黒鉛や、溶融した鉄から過飽和の炭素として析出させたいわゆるキッシュグラファイト、一部の高黒鉛化度の人造黒鉛が好適に用いられる。
天然黒鉛は、(株)産業技術センターから昭和49年に刊行された成書、「粉粒体プロセス技術集成」の黒鉛の項、及びNoyes Publications刊行の「HANDBOOK OF CARBON,GRAPHITE,DIAMOND AND FULLERENES」に従えば、その性状によって、鱗片状黒鉛(Flake Graphite)、鱗状黒鉛(Crystalline(Vein) Graphite)、土壌黒鉛(Amorphous Graphite)に分けられる。黒鉛化度は、鱗状黒鉛が100%と最も高く、次いで鱗片状黒鉛の99.9%であり、土壌黒鉛は28%と低い。天然黒鉛の品質は、主な産地、鉱脈により定まるものであり、鱗片状黒鉛(Flake Graphite)は、マダガスカル、中国、ブラジル、ウクライナ、カナダ等に産し、鱗状黒鉛(Crystalline(Vein) Graphite)は、主にスリランカに産する。土壌黒鉛は、朝鮮半島、中国、メキシコ等を主な産地としている。これらの天然黒鉛の中で、最終的に本発明にてフィラーとして使用されるものとしては、土壌黒鉛は一般に粒径が小さい上、純度が低いため、その黒鉛化度、不純物量の低さ等により、鱗片状黒鉛、鱗状黒鉛から選択されることが好ましい。
人造黒鉛としては、石油コークス、あるいは石炭ピッチコークスを1500〜3000℃ の温度で、非酸化性雰囲気で加熱して製造されるもので、最終的な熱処理後の状態で、高配向、高電気化学容量を示すものであれば、いずれも用いることができる。処理前の粒子の大きさとしては、メジアン径で、10μm以上、好ましくは15μm以上、より好ましくは20μm以上、更に好ましくは30μm以上である。
処理前の粒子の大きさに上限は特にないが、メジアン径で、好ましくは1mm以下、より好ましくは500μm以下、更に好ましくは250μm以下、特に好ましくは200μm以下である。粉体粒子の充填構造は、粒子の大きさと形状、粒子間相互作用力の程度等に左右される。充填構造を定量的に議論する指標としては、見かけ密度や充填率が使用される。見かけ密度は、単位充填体積あたりの質量を示し、かさ密度とも呼ばれ、次の式で表される。
見かけ密度=充填粉体の質量/粉体の充填体積
本発明では、処理前後の見かけ密度比を1.1以上、処理前後のメジアン径比が1以下となるように力学的エネルギー処理を行う。この様に、力学的エネルギーを加え、炭素質あるいは黒鉛質粒子の充填性を改良するのは、充填性の高い炭素質あるいは黒鉛質粒子は、その粒子形状に丸みが導入されていると考えられるからである。
本発明でいう、処理前後の見かけ密度比とは、処理前のタップ密度を分母とし、処理後のタップ密度を分子とした、処理前後のタップ密度比のことである。タップ充填挙動を表す式としては、様々な式が提案されている。その一例として、次式、ρ−ρn=A・exp(−k・n)を挙げることができる。ここでρは充填の終局における見かけ密度、ρnはn回充填時の見かけ密度、k及びAは定数である。本発明の見かけ密度(タップ密度)とは、20ccセルへの1000回タップ充填時の見かけ密度(ρ1000)を終局の見かけ密度ρと見なしたものを指す。
また、処理前後のメジアン径比とは、レーザー式粒径分布測定機で測定した、処理前のメジアン径を分母とし、処理後のメジアン径を分子とした体積基準粒径分布のメジアン径比のことである。レーザー式粒径測定の測定原理は、形状に異方性のある粒子でも等方的に平均化し、実質的に球として換算した粒子径分布が得られる。
粉体粒子の充填性を高めるためには、粒子と粒子の間にできる空隙に内接する様により小さな粒子を充填すると良いことが知られている。そのため、炭素質あるいは黒鉛質粒子に対し、粉砕等の処理を行い、粒径を小さくすることが考えられるが、炭素質あるいは黒鉛質粒子の結晶構造のためか、粉砕処理後の炭素質粉末の充填性は低下する。一方、粉体粒子群の中の一つ粒子(着目粒子)に接触している粒子の個数(配位数n)が多いほど、充填層の空隙の占める割合は低下する。すなわち、充填率に影響を与える因子は、粒子の大きさの比率と組成比、すなわち、粒径分布が重要である。
しかし、これらの検討は、モデル的な球形粒子群で行われたものであり、本発明で取り扱われる処理前の炭素質あるいは黒鉛質粒子は、鱗片状、鱗状、板状であり、このまま、単に分級等だけで粒径分布を制御して、充填率を高めようと試みても、それほどの高充填状態を生み出すことはできない。一般的に、粒子径分布が全体的に小粒径側にシフトすれば、配位数が増加して、空隙率が低下、結果として充填性が向上することも期待できるはずである。しかし、現実の鱗片状、鱗状、板状の炭素質あるいは黒鉛質粒子の粒子径と充填性の関係を整理すると、粒子径が小さくなるほど充填性が悪化する傾向にある。すなわち、粒径が小さくなるほど、充填性は低下している。つまり、期待したほどの配位数の増加は起こらなかったことになる。これは、炭素質あるいは黒鉛質粒子の表面に「ささくれ」や「はがれかけ」、「折れ曲がり」とも呼べる、突起物状の微粉末が、ある程度の強度で接続されており、これらが、隣接粒子との接点を著しく減少させていると考えられる。
本発明者らの検討では、真密度がほぼ等しく、メジアン径もほぼ等しい炭素質あるいは黒鉛質粒子では、形状が球状であるほど、見かけ密度(タップ密度)が高い値を示すことが確認されている。すなわち、粒子の形状に丸みを帯びさせ、球状に近づけることが重要である。粒子形状が球状に近づけば、粉体の充填性も、同時に大きく向上する。なお、形状解析には、粒子状態あるいは成形体断面でのSEM観察、液中に分散させた数千個の粒子の画像を1個づつCCDカメラを用いて撮影し、その平均的な形状パラメータを算出することが可能なフロー式粒子像解析、液中での沈降速度、BET比表面積、粒子径分布から演算される球換算比表面積、及び両比表面積の比率などを用いた。
本発明では、以上の理由により、球形化度の指標に粉体の見かけ密度を採用している。処理後の粉粒体の充填性が処理前に比べ上昇している場合は、用いた処理方法により、粒子が球状化した結果と考えることができる。処理前後の見かけ密度比は、1.1以上、好ましくは1.3以上、より好ましくは、1.4以上、更に好ましくは1.7以上である。
処理後の見かけ密度は、0.5g/cc以上、2.0g/cc以下であることが好ましいが、メジアン径に応じてその好ましい値が異なる。メジアン径をB(μm)とすると、Bが40μm以下の場合は、下式により定められるA値に対し、測定された見かけ密度が、A値より大であることが好ましい。
A=−0.012+3.29×10-2×B−5.41×10-4×B2
Bが40μm以上の場合は、見かけ密度は、0.6g/cc以上のものが好ましい。特に全メジアン径領域において、0.65g/cc以上であることがより好ましく、0.7g/cc以上であることが特に好ましい。ここでいう見かけ密度は、測定手法により絶対値が若干異なるが、タップ法により求めたものであり、川北の式に基づくものである。
本発明でいう、力学的エネルギー処理とは、処理前後の粉末粒子のメジアン径比が1以下となるように粒子サイズを減ずると同時に、形状を制御するものであり、粉砕、分級、混合、造粒、表面改質、反応などの粒子設計に活用できる工学的単位操作の中では、粉砕処理に属するものである。粉砕とは、物質に力を加えて、その大きさを減少させ、物質の粒径や粒度分布、充填性を調節することを指す。粉砕処理は、物質へ加わる力の種類、処理形態により分類される。ここで、力の種類は、たたき割る力(衝撃力)、押しつぶす力(圧縮力)、すりつぶす力(摩砕力)、削りとる力(剪断力)の4つに大別される。一方、処理形態は、粒子内部に亀裂を発生、伝播させていく体積粉砕と粒子表面を削り取っていく表面粉砕の二つに大別される。体積粉砕は、衝撃力、圧縮力、剪断力により進行し、表面粉砕は、摩砕力、剪断力により進行する。粉砕とは、これら被粉砕物に加えられる力の種類、処理形態が、様々な比率で組合わされた処理のことである。
粉砕を行うには、爆破など化学的な反応や体積膨張を用いる場合もあるが、粉砕機など、機械装置を用いて処理するのが通常、一般的である。これら、力の加え方と処理形態の組み合わせで分類される粉砕処理は、その処理の目的に応じて、使い分けられている。本発明で用いられる粉砕処理とは、粉砕の進行途上での体積粉砕の有無に関わらず、最終的に表面処理の占める割合が高く行われる処理が好ましい。つまり、粉砕処理の初期段階では、メジアン径の減少がおきるが、その段階がある程度進行した後は、粒子径の変化率が小さくなり、逆に表面粉砕が進行し、被処理物の表面から、角がとれるようにして粉砕が進行する処理が好ましい。あるいは、弱い表面粉砕が進行し、粒子サイズはほぼ一定のまま、粒子形状が変化し、丸みを帯びた粉粒体の得られる処理が好ましい。
本発明者らの検討では、体積粉砕を積極的に行った場合は、充填性が向上せず、粒子形状も粒子サイズが減ずるのみで、形状に大きな変化を観察することはできなかった。これは、本発明で用いられる炭素質あるいは黒鉛質粒子が、鱗片状、鱗状、板状の形態を有する為と考えられる。工業的に入手し得る黒鉛材料は、多結晶体である。しかし、材料中の微結晶は、ある特定の方向に整列して存在しやすい為に、やはり各種の性質において、かなりの異方性を有する。力学的強度も異方性の現れる性質の一つであり、鱗片状、鱗状、板状の形態を有する炭素質あるいは黒鉛質粒子は、底面に平行に劈開しやすい性質を示す。従って、積極的に体積粉砕を行う処理では、劈開を伴いながら、粒子径を減じるため、粒子形状に丸みを導入することは難しい。
処理前後のメジアン径比は、1以下となることが好ましい。造粒がおきている場合はメジアン径比が1以上となり、かつ見かけ密度も上昇する。しかし、造粒された粉粒体は、最終的に成形する過程で元の処理前の状態に戻ることが十分予想され、好ましくない。炭素質あるいは黒鉛質粒子の角が取れて、粒子形状に丸みを導入するには、表面粉砕が行われることが重要であるが、この為には処理を行う装置種類の選定とその装置の持つ粉砕能力の見極めが重要である。前者は、被粉砕物に与える粉砕力の種類により、装置種類を選び出すことであり、後者は装置機種毎に存在する粉砕力の限界(粉砕限界)を利用することである。
装置種類の選定に関しては、剪断力により粉砕が進行する装置機種が有効であることが、本発明者らの検討で明らかとなっている。表面粉砕を進行させる装置としては、まず、ボールミルや振動ミル、媒体撹拌ミルなどの粉砕メディアを使用する装置が好ましい。これらの機種では、摩砕力と剪断力中心の粉砕を行われていると考えられ、角を取るような粉砕を行うことができる。湿式粉砕も乾式粉砕と同様に好ましい。具体的な装置名を一例として挙げるとすれば、中央化工機(株)社製の振動ミルやボールミル、岡田精工(株)社製のメカノミル、(株)栗本鉄工所社製の乾式・湿式両用の媒体撹拌ミルなどが挙げられる。次に表面粉砕を行うことができる装置として、回転する容器と容器内部に取り付けられたテーパーの間を、処理物が通過することで、回転する容器とテーパーとの速度差に起因する圧縮力と剪断力が、処理物に加えられる機種が好ましい。これらの装置は、元来、2種以上の粉体を複合化し、粉体の表面改質を行うための装置であるが、剪断力が強く加わる装置であるために、粉体の充填性の向上、すなわち粒子に丸みを帯びさせることができたものと考えられる。具体的な装置名を一例として挙げるとすれば、(株)徳寿工作所社製のシータ・コンポーサ、ホソカワミクロン(株)社製のメカノフュージョンシステムなどが挙げられる。
粉砕限界とは、粒子径の領域のことを指し、体積粉砕が進行する粒子径としては、最下限界領域のことである。すなわち、粒子径が小さくなり、衝突確率が低下し、粒子の自重も小さくなるため、衝突しても大きな応力を発生せず、体積粉砕が進行しなくなる粒子径領域のことである。この領域では、体積粉砕に代わり、表面粉砕が行われ、処理後の粉体の充填性は、メジアン径を大きく変えないままに、充填性のみを向上させる。この粉砕限界を利用するには、1回の粉砕処理でも行えるが、処理装置を通過した粉砕物を再び処理装置に投入することが好ましい。さらに分級機構を内蔵している装置も好ましい。分級機構を粉砕処理装置に接続して、処理物を循環させることは、複数回の粉砕を確実にすることから、更に好ましい。繰り返し処理回数は、1回以上で、3回以上でより好ましく、4回以上が特に好ましい。高速回転式ミルは、本来、衝撃力と圧縮力、剪断力を組み合わせることで体積粉砕を行う機械式粉砕器である。好ましい装置条件は、衝撃力を押さえ、剪断力を強める条件であるが、処理を繰り返すことで、処理物の粒子径領域は、装置固有の粉砕限界に到達し、表面粉砕が主に行われるようになる。あるいはバッチ式の処理装置を使用し、長時間処理を行っても、同様の効果を確実に得ることができ、これも更に好ましい。
鋭意検討の結果、本発明者らは、粉砕限界を利用しさえすれば、体積粉砕を進行させることを中心に設計された処理装置でも、表面粉砕を進行させることが可能であり、充填性の改良された処理物を得ることが可能なことを見いだした。このような処理としては、高速で回転するロータとその周囲に設けられたステータとから成り立っている高速回転式ミルを、使用することが好ましい。さらに衝撃力が大きく加わらないように、ロータの回転数を低く押さえて運転することがより好ましい。更にロータには板状のブレードを取り付けて使用し、ロータとステータの間隙には、衝撃粉砕が発生しにくい様に、一定以上の隙間を空けることが好ましい。具体的な装置名を一例として挙げるとすれば、日本ニューマチック工業(株)社製のファインミル、ターボ工業(株)社製のターボミルなどが挙げられる。
しかし、粉砕限界という概念を利用すれば、いかなる装置種を用いても、表面粉砕が進行し、角に丸みを帯びた、充填性の向上した処理物が得られるわけではない。(株)産業技術センターから昭和49年に刊行された成書、「粉粒体プロセス技術集成」の黒鉛の項によれば、摩擦粉砕型による処理を行えば、黒鉛は扁平になりやすく、流体エネルギー型の粉砕を行えば粒子同士の摩擦が増えるためか、粒子の角がとれた丸みのある形状のものが得られるとの記述がある。しかし、本発明者らの検討の結果、流体エネルギー型の粉砕機では、目的粒子径である10〜50μmの範囲では、充填性の高まった粉体を得ることはできなかった。これは、流体エネルギー型粉砕機が、音速に近い気流中で粒子に衝撃を与えることを粉砕原理としているため、粉砕力が強すぎた為と考えられる。
本発明者らは、更に検討を進めた結果、剪断力を被処理物に連続的に与え続けることができる装置として、特定の構造を有する混合装置が、表面粉砕装置として適当であることを見いだした。特定の構造を有する混合装置としては、内部に1本のシャフトとシャフトに固定された複数のすき状又は鋸歯状のパドルが、位相を変えて複数配置された処理室を有し、その内壁面はパドルの回転の最外線に沿った円筒型に形成されその隙間を最小限とし、パドルはシャフトの軸方向に複数枚配列され、更に装置内壁面には、高速で回転するスクリュー型解砕砕翼が、1段あるいは多段に1個あるいは複数個設置された構造の混合装置を挙げることができる。被処理物は、スクリュー型解砕機により剪断力を受けると同時に、パドルの回転により、壁面への圧縮力を受ける。剪断力と圧縮力を与える構造は、本来は混合機であるにも関わらず、本発明者らが好ましいと考える表面粉砕機構に合致した構造を有する。具体的な装置名を一例として挙げるとすれば、松坂技研(株)社製のレーディゲミキサー、太平洋機工(株)社製のプローシェアーミキサなどが挙げられる。
処理前の炭素質粉末の真密度が2.25未満で結晶性がそれほど高くない場合は、上述の力学的エネルギー処理後に、改めて結晶性を高める熱処理を行うことが好ましい。熱処理は好ましくは2000℃以上、より好ましくは2500℃以上、最も好ましくは2800℃以上で行うのがよい。
本発明の処理後の炭素質あるいは黒鉛質粒子のメジアン径は、5〜50μm、好ましくは、10〜50μm、更に好ましくは10〜35μm、特に15〜25μmの範囲にあることが好ましい。10μm以下の微粉量は、体積基準粒子径分布で、25%以下であり、好ましくは17%以下、更に好ましくは14%以下、より更に好ましくは12%以下である。処理後の黒鉛質粒子のBET法比表面積は、0.5m2/g以上25.0m2/g以下であり、好ましくは2.0m2/g以上10.0m2/g以下、より好ましくは3.0m2/g以上7.0m2/g以下、更に好ましくは3.5m2/g以上5.0m2/g以下である。粒粒子径とBET比表面積の両立を図る方法として、分級操作による比表面積の制御がある。分級操作による微粉除去を行うことで、比表面積を効果的に減少させることができる。また、アルゴンイオンレーザー光を用いたラマンスペクトル分析において1580〜1620cm-1の範囲にピークPA(ピーク強度IA)および1350〜1370cm-1の範囲にピークPB(ピーク強度IB)の強度比R=IB/IAが0.0以上0.5以下、1580〜1620cm-1の範囲のピークの半値幅が26cm-1以下であることが好ましい。また、ラマンスペクトルの強度比Rは0.4以下がより好ましく、0.3以下が最も好ましい。1580〜1620cm-1の範囲のピークの半値幅は25cm-1以下がより好ましく、24cm-1以下が最も好ましい。また、全粒子を対象とした平均円形度(粒子面積相当円の周囲長を分子とし、撮像された粒子投影像の周囲長を分母とした比率で、粒子像が真円に近いほど1となり、粒子像が細長いあるいはデコボコしているほど小さい値になる)は0.940以上となるものが好ましい。更に、円相当径による粒径分布に基づいて、メジアン径15μm以上の粒子のみを対象とするように制限を加えた15μm制限平均円形度が0.850以上であるものが、より好ましい。なお、円相当径とは、撮像した粒子像と同じ投影面積を持つ円(相当円)の直径であり、円形度とは、相当円の周囲長を分子とし、撮像された粒子投影像の周囲長を分母とした比率である。
なお、以下の説明において、「1580〜1620cm-1の範囲」を「1580cm-1付近」と、また「1350〜1370cm-1の範囲」を「1360cm-1付近」と略称することがある。
本発明における複層構造炭素材料は、前記処理後の炭素質あるいは黒鉛質粒子を焼成工程により炭素化する有機化合物と混合した後に、該有機化合物を焼成炭素化して得られる。炭素質あるいは黒鉛質粒子と混合される有機化合物としてはまず、液相で炭素化を進行させる有機物として、軟ピッチから硬ピッチまでのコールタールピッチ、石炭液化油等の石炭系重質油、アスファルテン等の直流系重質油、原油、ナフサなどの熱分解時に副生するナフサタール等分解系重質油等の石油系重質油、分解系重質油を熱処理することで得られる、エチレンタールピッチ、FCCデカントオイル、アシュランドピッチなど熱処理ピッチ等を用いることができる。さらにポリ塩化ビニル、ポリビニルアセテート、ポリビニルブチラール、ポリビニルアルコール等のビニル系高分子と3−メチルフェノールフォルムアルデヒド樹脂、3,5−ジメチルフェノールフォルムアルデヒド樹脂等の置換フェノール樹脂、アセナフチレン、デカシクレン、アントラセンなどの芳香族炭化水素、フェナジンやアクリジンなどの窒素環化合物、チオフェンなどのイオウ環化合物などの物質があげられる。また、固相で炭素化を進行させる有機物としては、セルロースなどの天然高分子、ポリ塩化ビニリデンやポリアクリロニトリルなどの鎖状ビニル樹脂、ポリフェニレン等の芳香族系ポリマー、フルフリルアルコール樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、イミド樹脂等熱硬化性樹脂やフルフリルアルコールのような熱硬化性樹脂原料などがあげられる。これらの有機物を必要に応じて、適宜溶媒を選択して溶解希釈することにより、粉末粒子の表面に付着させ、使用することができる。
本発明においては、通常、かかる炭素質あるいは黒鉛質粒子と有機化合物を混合したものを加熱し中間物質を得て、その後炭化焼成、粉砕することにより、最終的に粉末粒子の表面に炭素質物の表層を形成させた複層構造の炭素質粉末を得るが、複層構造の炭素質粉末中の有機化合物由来の炭素質物の割合は50重量%以下0.1重量%以上、好ましくは25重量%以下0.5重量%以上、更に好ましくは15重量%以下1重量%以上、特に好ましくは10重量%以下2重量%以上となるように調整する。
一方、本発明のかかる複層炭素質物を得るための製造工程は以下の4工程に分けられる。
第1工程
炭素質あるいは黒鉛質粒子と有機化合物を、必要に応じて溶媒とを種々の市販の混合機や混練機等を用いて混合し、混合物を得る工程。
第2工程
必要に応じ前記混合物を攪拌しながら加熱し、溶媒を除去した中間物質を得る工程。
第3工程
前記混合物又は中間物質を、窒素ガス、炭酸ガス、アルゴンガス不活性ガス雰囲気下、あるいは非酸化性雰囲気下で500℃以上3000℃以下に加熱し、炭素化物質を得る工程。
第4工程
前記炭素化物質を必要に応じて粉砕、解砕、分級処理など粉体加工する工程。これらの工程中第2工程及び第4工程は場合によっては省略可能であり、第4工程は第3工程の前に行ってもいい。
また、第3工程の加熱処理条件としては、熱履歴温度条件が重要である。その温度下限は有機化合物の種類、その熱履歴によっても若干異なるが通常500℃以上、好ましくは700℃以上、更に好ましくは900℃以上である。一方、上限温度は基本的に炭素質あるいは黒鉛質粒子の結晶構造を上回る構造秩序を有しない温度まで上げることができる。従って熱処理の上限温度としては、通常3000℃以下、好ましくは2800℃以下、更に好ましくは2500℃以下、特に好ましくは1500℃以下である。このような熱処理条件において、昇温速度、冷却速度、熱処理時間などは目的に応じて任意に設定する事ができる。また、比較的低温領域で熱処理した後、所定の温度に昇温する事もできる。なお、本工程に用いる反応機は回分式でも連続式でも又、一基でも複数基でもよい。
本発明の複層構造炭素材料は、体積基準メジアン径が5〜70μm、好ましくは10〜40μm、特に好ましくは15〜30μmである。本発明による複層構造炭素材料はのBET法を用いて測定した比表面積は好ましくは1〜10m2/g、更に好ましくは1〜4m2/g、特に好ましくは1〜3m2/gの範囲に入ることが好ましく、又、本発明の複層構造炭素質物は、波長514.5nmのアルゴンイオンレーザー光を用いたラマンスペクトル分析、CuKα線を線源としたX線広角回折の回折図において、核となる炭素質あるいは黒鉛質粒子の結晶化度を上回らないことが好ましい。 尚、特に断らない限りスペクトルおよびピークは下記条件によるラマンスペクトルである。すなわち、1580〜1620cm-1の範囲にピークPA(ピーク強度IA)および1350〜1370cm-1の範囲にピークPB(ピーク強度IB)である。具体的な数値としては、好ましくは0.01以上、1.0以下、より好ましくは0.05以上、0.8以下、更に好ましくは0.1以上、0.6以下である。また、見かけ密度は炭素被覆により使用した核黒鉛材料よりも更に向上するが、0.7〜1.2g/ccの範囲に制御することが望ましい。全粒子を対象とした平均円形度は複層構造化前の0.940より大きくなるものが好ましい。更に、円相当径による粒径分布に基づいて、メジアン径15μm以上の粒子のみを対象とするように制限を加えた15μm制限平均円形度も複層構造化前の0.850より大きくなるものがより好ましい。 複層構造化は、核となる力学的エネルギー処理物の見かけ密度を更に向上し、かつ、その形状に更なる丸みを導入する効果を有する。
本発明の非水系二次電池用電極は、処理後の炭素質あるいは黒鉛質粒子に結着剤、溶媒等を加えて、スラリー状とし、銅箔等の金属製の集電体の基板にスラリーを塗布・乾燥することで電極とする。また、該電極材料をそのままロール成形、圧縮成形等の方法で電極の形状に成形することもできる。上記の目的で使用できる結着剤としては、溶媒に対して安定な、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、芳香族ポリアミド、セルロース等の樹脂系高分子、スチレン・ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、エチレン・プロピレンゴム等のゴム状高分子、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体、その水素添加物、,スチレン・エチレン・ブタジエン・スチレン共重合体,スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体、その水素添加物等の熱可塑性エラストマー状高分子、シンジオタクチック12-ポリブタジエン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、プロピレン・α−オレフィン(炭素数2〜12)共重合体等の軟質樹脂状高分子、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン・エチレン共重合体等のフッ素系高分子、アルカリ金属イオン、特にリチウムイオンのイオン伝導性を有する高分子組成物が挙げられる。上記のイオン伝導性を有する高分子としては、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等のポリエーテル系高分子化合物、ポリエーテル化合物の架橋体高分子、ポリエピクロルヒドリン、ポリフォスファゼン、ポリシロキサン、ポリビニルピロリドン、ポリビニリデンカーボネート、ポリアクリロニトリル等の高分子化合物に、リチウム塩、またはリチウムを主体とするアルカリ金属塩を複合させた系、あるいはこれに炭酸プロピレン、炭酸エチレン、γ-ブチロラクトン等の高い誘電率を有する有機化合物と直鎖状カーボネート等低粘度の有機化合物を配合した系を用いることができる。この様な、イオン伝導性高分子組成物の室温におけるイオン導電率は、好ましくは10-5S/cm以上、より好ましくは10-3S/cm以上である。
本発明に用いる炭素質物と上記の結着剤との混合形式としては、各種の形態をとることができる。即ち、両者の粒子が混合した形態、繊維状の結着剤が炭素質物の粒子に絡み合う形で混合した形態、または結着剤の層が炭素質物の粒子表面に付着した形態などが挙げられる。炭素質物と上記結着剤との混合割合は、炭素質物に対し、好ましくは0.1〜30重量%、より好ましくは、0.5〜10重量%である。これ以上の量の結着剤を添加すると、電極の内部抵抗が大きくなり、好ましくなく、これ以下の量では集電体と炭素質粉体の結着性に劣る。
この時ロール成形、圧縮成形等の方法で成形された電極上の活物質層の密度(以下極板密度と呼ぶ)を1.2g/ccより大きく1.6g/cc以下とすることにより、より好ましくは1.3g/cc以上1.5g/cc以下とすることにより高効率放電や低温特性を損なうことなく電池の単位体積当たりの容量を最大引き出すことができるようになる。このようにして作成した負極と通常使用されるリチウムイオン電池用の金属カルコゲナイド系正極及びカーボネート系溶媒を主体とする有機電解液を組み合わせて構成した電池は、容量が大きく、初期サイクルに認められる不可逆容量が小さく、良好な急速充放電性など、特性に極めて優れたものとすることができる。ただし、正極、電解液等の電池構成上必要な部材の選択については何ら制約を設けるものではない。
次に実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
(測定法)
(1)体積基準平均粒径
界面活性剤にポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレートの2vol%水溶液を約1cc用い、これを予め炭素質粉末に混合し、しかる後にイオン交換水を分散媒として、堀場製作所社製レーザー回折式粒度分布計「LA−700」にて、体積基準平均粒径(メジアン径)を測定した。
(2)見かけ密度(タップ密度)
(株)セイシン企業社製粉体密度測定器「タップデンサー KYT−3000」を用い、サンプルが透過する篩には、目開き300μmの篩を使用し、20ccのタッピングセルに粉体を落下させ、セルが満杯に充填された後、ストローク長10mmのタッピングを1000回行って、その時の見かけ密度を測定した。
(3)BET比表面積測定
大倉理研社製AMS−8000を用い、予備乾燥として350℃ に加熱し、15分間窒素ガスを流した後、窒素ガス吸着によるBET1点法によって測定した。
(4)真密度測定
界面活性剤0.1%水溶液を使用し、ピクノメーターによる液相置換法によって測定した。
(5)X線回折
試料に対して約15%のX線標準高純度シリコン粉末を加えて混合し、試料セルに詰め、グラファイトモノクロメーターで単色化したCuKα線を線源とし、反射式ディフラクトメーター法によって、広角X線回折曲線を測定し、学振法を用いて層間距離(d002)及び結晶子サイズ(Lc)を求めた。
(6)ラマン測定
日本分光社製NR−1800を用い、波長514.5nmのアルゴンイオンレーザー光を用いたラマンスペクトル分析において、1580cm-1の付近のピークPAの強度IA、1360cm-1の付近のピークPBの強度IBを測定し、その強度の比R=IB/IAと1580cm-1の付近のピークの半値幅を測定した。試料の調製にあたっては、粉末状態のものを自然落下によりセルに充填し、セル内のサンプル表面にレーザー光を照射しながら、セルをレーザー光と垂直な面内で回転させて測定を行った。
(7)円形度の測定
東亜医用電子社製フロー式粒子像分析装置「FPIA−1000」を使用し、円相当径による粒径分布の測定および円形度の算出を行った。分散媒にはイオン交換水を使用し、界面活性剤には、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレートを使用した。まず、全粒子に対する平均円形度を求めた後、円相当径による粒径分布に基づいて、メジアン径15μm以上の粒子のみを対象とするように制限を加え、15μm制限平均円形度の算出を行った。なお、円相当径とは、撮像した粒子像と同じ投影面積を持つ円(相当円)の直径であり、円形度とは、相当円の周囲長を分子とし、撮像された粒子投影像の周囲長を分母とした比率である。
(8)半電池による電気容量測定
8−1)半電池の作成
電極材料サンプル5gに、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)のジメチルアセトアミド溶液を固形分換算で10重量%加えたものを攪拌し、スラリーを得た。このスラリーをドクターブレード法で銅箔上に塗布し、80℃で予備乾燥を行った。さらに極板密度が1.3g/cc前後となるように圧着させたのち、直径15.4mmの円盤状に打ち抜き、110℃で減圧乾燥をして電極とした。しかる後に、電解液を含浸させたセパレーターを中心に電極とリチウム金属電極とを対向させたコインセルを作成し、充放電試験を行った。電解液としては、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートを重量比1:1の比率で混合した溶媒に過塩素酸リチウムを1.5モル/リットルの割合で溶解させたものを使用した。
8−2)電気容量の測定
充放電試験は低充放電速度の電流値を0.2mA、高充放電速度の電流値を0.7mAとし、それぞれ両電極間の電位差が0Vになるまで充電を行い、1.5Vになるまで放電を行った。炭素質の結晶化度を比較する電気容量には、5サイクル目の放電容量を使用した。0.2mAでの容量を分母に、0.7mAでの容量を分子とした比を急速充放電性の指標とした。なお、結晶化度の比較には、未プレスの極板を使用し、力学的エネルギー処理後の評価には、プレス処理後の極板を使用した。
(処理前の原料の選択)X線回折測定、ラマン分光法、電気化学的容量により、粉砕前の原料の選択を行った。その結果、粒径の異なる石油系人造黒鉛2種と粒径の異なるスリランカ製の天然黒鉛2種を選択した。検討に使用した原料を表1に整理した。
(力学的エネルギー処理)
1)実施例1
中央化工機(株)社製の研究用ポットミルを使用し、3.6リットルの円筒型粉砕ポットに 粉砕メディアである直径5mmのステンレスボールと天然黒鉛粉Aを0.5kg投入し、80rpmで24時間、粉砕処理を行った。結果を表2と表3に示す。
2)実施例2
(株)栗本鐵工所社製のφ200型バッチ式乾式撹拌ミルを使用し、 粉砕メディアである直径2mmのアルミナボールと人造黒鉛粉B0.3kgを投入し、480rpmで25分間、粉砕処理を行った。ラマンスペクトル強度の比R値は0.19、1580cm-1の付近のピークの半値幅は22.2cm-1であった。その他の結果を表2と表3に示す。
3)実施例3
(株)ターボ工業社製のT−400型ターボミル(4J型)を使用し、ローターを3600rpmで回転させ、スクリューフィーダーにて処理物を150kg/hrで供給し、粉砕を行った。回収された粉砕物の粒径は、大きく変化していなかった。粉砕限界を利用した表面粉砕を行う目的で、粉砕物の再粉砕を行った。同一の処理物に対し、合計4回の処理を行った。結果を表2と表3に示す。
4)実施例4
(株)マツボー社製のM20型レーディゲミキサー(内容積20リットル)を使用し、天然黒鉛粉Bを4.0kg投入し、撹拌用のパドルを230rpm、解砕用のチョッパーを3000rpmで回転させ、150分間撹拌した。ラマンスペクトル強度の比R値は0.22、1580cm-1の付近のピークの半値幅は21.3cm-1であった。その他の結果を表2と表3に示す。
5)実施例5
(株)マツボー社製のFKM−130D型レーディゲミキサー(内容積130リットル)を使用し、人造黒鉛粉Bを50kg投入し、撹拌用のパドルを140rpm、解砕用のチョッパーを3600rpmで回転させ、30分間撹拌した。ラマンスペクトル強度の比R値は0.25、1580cm-1の付近のピークの半値幅は21.8cm-1であった。その他の結果を表2と表3に示す。
6)実施例6
実施例5と同じ装置条件、原料で60分間撹拌した。結果を表2と表3に示す。
7)実施例7
実施例5と同じ装置条件、原料で150分間撹拌した。ラマンスペクトル強度の比R値は0.29、1580cm-1の付近のピークの半値幅は22.4cm-1であった。その他の結果を表2と表3に示す。
8)実施例8
実施例5と同じ装置条件、原料で、実施例3で得られた処理物を90分間撹拌した。結果を表2と表3に示す。
9)実施例9
ホソカワミクロン(株)社製AM−80F型メカノフュージョンシステム(粉砕室の直径800mm)を使用し、人造黒鉛粉Aを7kg投入し、粉砕室を500rpmで回転させ、30分間運転した。ラマンスペクトル強度の比R値は0.35、1580cm-1の付近のピークの半値幅は23.5cm-1であった。その他の結果を表2と表3に示す。
10)実施例10
ホソカワミクロン(株)社製AM−80F型メカノフュージョンシステム(粉砕室の直径800mm)を使用し、人造黒鉛粉Aを7kg投入し、粉砕室を500rpmで回転させ、30分間運転した。ラマンスペクトル強度の比R値は0.27、1580cm-1の付近のピークの半値幅は22.3cm-1であった。その他の結果を表2と表3に示す。
11)実施例11
ホソカワミクロン(株)社製AM−20FS型メカノフュージョンシステム(粉砕室の直径200mm)を使用し、人造黒鉛粉Bを30gと直径0.5mmのセラミックボールを1kg投入し、粉砕室を450rpmで回転させ、30分間運転した。ラマンスペクトル強度の比R値は0.49、1580cm-1の付近のピークの半値幅は25.8cm-1であった。その他の結果を表2と表3に示す。
12)実施例12
(株)徳寿工作所社製製シータ・コンポーザ(内容積50L)を使用し、人造黒鉛Bを10kg投入し、ベッセルを20rpmで回転させ、ローターを400rpmで回転させ、30分間運転した。結果を表2と表3に示す。
13)実施例13
実施例2で得られた処理物4kgと石油系タール1kgとを、シグマ型ブレードを有するバッチ式ニーダーで混合した。続いて、窒素雰囲気にて700℃まで昇温し、脱タール処理を行い、しかる後に1200℃ まで熱処理を行った。得られた熱処理物を、ピンミルにて解砕し、粗粒子を除く目的で、分級処理を行い、最終的に複層構造炭素質物粒子を得た。結果を表4と表5に示す。
14)実施例14
実施例3で得られた処理物を用い、実施例13と同様の処理を行った。結果を表4と表5に示す。
15)実施例15
実施例4で得られた処理物を用い、実施例13と同様の処理を行った。結果を表4と表5に示す。
16)実施例16
実施例5で得られた処理物3kgと石油系タール7kgとを、シグマ型ブレードを有するバッチ式ニーダーで混合した。続いて、窒素雰囲気にて700℃まで昇温し、脱タール処理を行い、しかる後に1200℃ まで熱処理を行った。得られた熱処理物を、ピンミルにて解砕し、粗粒子を除く目的で、分級処理を行い、最終的に複層構造炭素質物粒子を得た。結果を表4と表5に示す。
17)比較例1
川崎重工業(株)社製KTM0Z型クリプトロンを使用し、人造黒鉛粉Aを17kg/hrで供給し、ローターを9000rpmで回転させ、運転した。結果を表2と表3に示す。
18)比較例2
日本ニューマチック工業社製FM−300S型ファインミルを使用し、人造黒鉛粉Aを40kg/hrで供給し、ローターを3000rpmで回転させ、運転した。結果を表2と表3に示す。
19)比較例3
(株)ターボ工業社製のT−400型ターボミル(4J型)を使用し、ローターを3600rpmで回転させ、スクリューフィーダーにて処理物を150kg/hrで供給し、粉砕を行った。結果を表2と表3に示す。
20)比較例4
ホソカワミクロン(株)社製ACMパルペライザ10型を使用し、人造黒鉛粉Bを50kg/hrで供給し、粉砕羽を7000rpmで回転させ、処理を行った。結果を表2と表3に示す。
21)比較例5
ホソカワミクロン(株)社製INM−30型イノマイザーを使用し、人造黒鉛粉Bを190kg/hrで供給し、粉砕羽を5000rpmで回転させ、処理を行った。結果を表2と表3に示す。
22)比較例6
日本ニューマチック工業社製IDS−2UR型衝突板式ジェットミルを使用し、人造黒鉛粉Bを30kg/hrで供給し、粉砕を行った。ラマンスペクトル強度の比R値は0.81、1580cm-1の付近のピークの半値幅は28.2cm-1であった。その他の結果を表2と表3に示す。
23)比較例7
ホソカワミクロン(株)社製カウンタージェットミル200AFG(流動層式、粉と粉の接触で粉砕)を使用し、人造黒鉛粉Aを75kg/hrで供給し、粉砕を行った。ラマンスペクトル強度の比R値は0.67、1580cm-1の付近のピークの半値幅は26.5cm-1であった。その他の結果を表2と表3に示す。
Figure 0004199813
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Claims (5)

  1. 処理前の炭素質あるいは黒鉛質粒子の結晶子サイズ(Lc)が100nm以上であり、処理前後の見かけ密度比を1.1以上、処理前後のメジアン径比が1以下となるように、力学的エネルギーを用いた粒子の形状に丸みが導入される処理を行った炭素質あるいは黒鉛質粒子であって、処理後の炭素質あるいは黒鉛質粒子のメジアン径が、5〜50μmであり、見かけ密度が0.5g/cc以上である、非水系二次電池用電極に用いられる炭素質あるいは黒鉛質粒子。
  2. 処理前の炭素質あるいは黒鉛質粒子の層間距離(d002)が0.34nm以下、真密度が2.25g/cc以上であることを特徴とする請求項1記載の炭素質あるいは黒鉛質粒子。
  3. 処理後の炭素質あるいは黒鉛質粒子のBET法比表面積が、25m2/g以下、アルゴンイオンレーザーラマンスペクトルにおける1580cm-1のピーク強度に対する1360cm-1のピーク強度比であるR値が0.5以下でかつ1580cm-1ピークの半値幅が26cm-1以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の炭素質あるいは黒鉛質粒子。
  4. 処理後の炭素質あるいは黒鉛質粒子の15μm制限平均円形度が0.850以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の炭素質あるいは黒鉛質粒子。
  5. 請求項1〜4のいずれかに記載の処理後の炭素質あるいは黒鉛質粒子を有機化合物と混合した後に、該有機化合物を炭素化した複層構造炭素材料を含むことを特徴とする炭素質あるいは黒鉛質粒子。
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