JP4197381B2 - 車両用の覚醒度推定装置および覚醒度推定方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、車両用の覚醒度推定装置および覚醒度推定方法に係り、特に車両の幅方向の変位を用いてドライバの覚醒度を推定する技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
ドライバの覚醒度の低下に起因した事故の発生を防止するための技術の開発は、安全性の観点から重要な研究課題の一つである。そのため、最近、覚醒度の低下を検出するための手法や警報技術に関する研究が盛んに行われている。ドライバの覚醒度が低下し居眠り状態になると、特に高速走行時に重大な事故を引き起しかねない。また、居眠り状態までは至らないぼんやりした状態であっても、走行状況の急激な変化に素早く反応できないため、事故を引き起こす可能性がある。
【0003】
特開平5−58192号公報には、車両の動作量の低周波成分に基づき居眠り運転を検出する技術が開示されている。すなわち、繰舵角や横変位等の車両動作量を継続的にモニタリングし、この動作量の周波数スペクトルにおける低周波成分を抽出する。平常運転時の動作量の周波数スペクトルにおける低周波数成分をサンプルとして記憶しておき、走行開始から所定時間経過後の低周波数成分をこのサンプルと比較する。そして、判定対象とサンプルとの差が所定値以上である場合、居眠り運転と判定する。
【0004】
この公報に記載された技術は、平常運転時における低周波数成分を予め記憶しておき、これを判断基準として判定対象である低周波数成分と比較している。しかしながら、判定時の走行環境(天候、路面状況、時間帯、或いは混雑度等)または車速が、サンプルを求めた時(平常運転時)の走行環境等と変わってしまっている場合、判定誤差が大きくなってしまう。すなわち、判定前に求めたサンプルを基準に判定を行う従来の技術では、走行環境や車速に大きな変化が生じると、正確な判定ができなくなってしまうといった問題がある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
このような従来技術の問題点に鑑み、本発明の目的は、走行環境や車速が変化した場合であっても、ドライバの覚醒の程度を比較的正確に判定することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
かかる課題を解決するために、本発明の第1の形態は、車両の動作量を連続して検出する検出手段と、動作量を周波数変換することにより、各周波数成分パワーを求めるパワー算出手段と、基準周波数を基準に周波数領域を低周波領域と高周波領域とに分けて、低周波領域における周波数成分パワーの第1の積分値を求め、高周波領域における周波数成分パワーの第2の積分値を求め、かつ、第1の積分値および第2の積分値を用いて評価値を算出する評価値算出手段と、算出された評価値に基づいて、ドライバの覚醒度を判断する判断手段とを有する車両用の覚醒度推定装置を提供する。
【0007】
ここで、周波数成分パワーは、平準化された周波数成分パワーであってもよい。この平準化された周波数成分パワーは、周波数成分パワーに各周波数のべき数nを乗じた値を、周波数成分パワーに掛けた値であってもよく、べき数nは、2.0以上で3.0以下の値であることが好ましい。
【0008】
また、評価値算出手段は、低周波領域における基準線の第3の積分値を求め、高周波領域における基準線の第4の積分値を求め、第1の積分値および第3の積分値の差と、第2の積分値および第4の積分値との差から評価値を算出してもよい。この場合、基準線は、周波数成分パワーの特性に基づく変化を打ち消すように設定されていることが好ましい。
【0009】
本発明の第2の形態は、車両の動作量を連続して検出する検出手段と、動作量を周波数変換することにより、各周波数成分パワーを求めるパワー算出手段と、基準周波数以下の低周波領域において、周波数成分パワーがしきい値以上になった場合に、ドライバの覚醒度が低下したと判断する判断手段とを有する車両用の覚醒度推定装置を提供する。
【0010】
ここで、第1および第2の形態において、低周波領域は、基準周波数以下の領域であって、カーブ走路の走行時に生じる極低周波数を除いた第1の周波数以上の領域であることが好ましい。
【0011】
また、第1の形態において、低周波領域は、基準周波数以下の領域であって、カーブ走路の走行時に生じる極低周波数を除いた第1の周波数以上の領域であり、かつ、高周波領域は、基準周波数以上で第2の周波数以下の領域であり、第2の周波数は、基準周波数と第1の周波数との差を基準周波数に加えた周波数であってもよい。
【0012】
また、基準周波数は、車速が増加するのにともない大きな値に設定することが好ましい。
【0013】
また、評価値は、前記第1の積分値と前記第2の積分値との比であることが好ましい。
【0014】
さらに、判断手段は、前記評価値と評価用のしきい値とを比較することによりドライバの覚醒度を判断してもよい。この評価用のしきい値は、車速に応じて異なる値を用いてもよい。また、評価用のしきい値は初期評価値に応じて設定してもよい。この初期評価値は、ドライバの覚醒度を判断すべき走行状況になった時点から一定時間が経過した時点を基準とした所定の期間内における動作量に基づいて算出される。
【0015】
さらに、本発明の第3の形態は、車両の動作量を連続して検出するステップと、動作量を周波数変換することにより、各周波数成分パワーを求めるステップと、基準周波数以下の低周波領域における周波数成分パワーの第1の積分値を求めるステップと、基準周波数以上の高周波領域における周波数成分パワーの第2の積分値を求めるステップと、第1の積分値および第2の積分値を用いて評価値を算出するステップと、算出された評価値に基づいて、ドライバの覚醒度を判断するステップとを有する覚醒度推定方法を提供する。
【0016】
【発明の実施の形態】
図1は、本実施例における覚醒度推定装置の構成を示したブロック図である。横変位検出部1は、車両の動作量としての幅方向の変位(横変位)を検出するためのものであり、例えばCCD(固体撮像素子)等を用いたステレオカメラや単眼カメラを用いることができる。画像情報処理部2は、横変位検出部1で得られた画像を処理して車両の変位量を求める。例えば、CCDで道路の左側車線を撮像しておき、撮像された1フレームデータを画像情報処理部2のメモリに記憶する。そして、画像認識技術を用いて左側車線を認識する。すなわち、左側車線に関するテンプレートを用いて、1フレームデータから左側車線に相当する領域を特定する。車線内における車両位置は、横方向における車両の中心から左側車線までの距離および道路幅から計算することができる。なお、横変位検出部1は、カメラ等の自立型検出装置の他にも、道路中に埋設された磁気ネイルに基づいた路車間通信、或いはGPSおよびナビゲーションシステムを車速と組み合わせることで横変位を検出することも可能である(ナビゲーションを用いたふらつき警報に関しては特開平9−99756号公報を参照)。さらに、操舵角により横変位を推定することが可能なので、横変位検出部1として操舵角センサを用いることも可能である。また、ヨーレートや横Gを検出することにより横変位を推定してもよい。車両の横方向のふらつき(変位量)は、例えば、分解能1cm、時間ステップ0.1秒で計測する。変位量に関するデータは、周波数成分パワーを求めるFFT信号処理部3におけるシフトレジスタ中に格納される。シフトレジスタには、経時的に算出された一連の変位量データが所定時間分だけ格納されている。シフトレジスタ中に格納されたデータは、新たな変位量データの算出に伴ない順次更新されていく。
【0017】
FFT信号処理部3、評価値算出部4および判断部5は、一般に、マイクロコンピュータユニット(マイコン)により実現される。マイコンは、CPU、RAM、ROM、および入出力回路等で構成されている。以下のフローチャートを実行するアプリケーションの制御下において、マイコンを構成する各ユニットが相互に作用することにより符号3から5に示した機能ブロックが実現される。なお、ROM中には、下記に述べる手順を実行するプログラム、基準周波数fth、評価用しきい値Hth等が記憶されている。
【0018】
(第1の実施例)
図2は、第1の実施例における覚醒度の推定手順を示したフローチャートであり、このフローチャートは所定の間隔で繰り返し実行されている。また、図3は、第1の実施例のアルゴリズムを説明するための図である。まず、ステップ101において、FFT信号処理部3中のシフトレジスタに格納された過去X秒間の変位量データがY秒(例えば90秒以下)ごとに読み出される。サンプル時間Xは、覚醒度を精度よく推定するため、ある程度長い時間(例えば50秒から80秒程度)を設定しておく。
【0019】
ステップ102において、FFT信号処理部3は、この変位量を高速フーリエ変換(FFT)等を用いて周波数変換して、周波数スペクトルにおける各周波数成分パワー(振幅)pを計算する。ここで、変位量と周波数成分パワーとの関係について説明する。図6は運転開始からの経過時間および横変位量の変化との関係を示した図である。これらは、比較的空いた自動車専用道を比較的単調な走行環境で走行した場合の測定結果である。走行約10分後は、本線に合流して交通の流れに乗って走行するようになった直後の状態であり、変位量も未だ小さい。約20分が経過すると、走行環境にも慣れリラックスした状態になり、走行開始直後よりも低周波成分の変化量が増加し、高周波成分が減少している。約50分を経過すると、運転が退屈であったり少し眠気を感じる状態になり,時々大きな変位量が生じる傾向が生じる。この場合、20分経過時と比べて、低周波成分の変位量が増加する傾向がさらに顕著になる。図7は、図6の各経過時間における変位量を周波数変換して、周波数成分およびそのパワーの関係を示した図である。同図において、点線は走行約10分後における周波数成分パワーp、破線は約20分後のパワーp、実線は約50分経過後のパワーpをそれぞれ示している。この図から、走行時間が長くなるほど、低周波領域の周波数成分パワーpが増加する傾向にあることがわかる。
【0020】
ステップ103において、周波数成分パワーpを下式にしたがって平準化して、補正された周波数成分パワーp’を求める。
【0021】
【数1】
p’=p・fn
(べき数n:2.0≦n≦3.0)
【0022】
車線内における車両のふらつきは、自然界に多く存在する揺らぎの一つであると考えた場合、その振幅は1/fであり、パワーは1/f2となる。したがって、数式1におけるべき数nは理論的には2.0でよいが、実験結果より、n=2.5が最も好ましいことが判明した。これは、車の諸元や運転に関するドライバの個人差、或いは走路の影響等によるものと思われる。ただし、2.0から3.0の範囲内の任意のべき数を用いてもドライバの覚醒度を判定することが可能である。以下の説明では、べき数nとして2.5を用いている。図8は、周波数成分および補正された周波数成分パワーp’の関係を示した図である。平準化された周波数成分パワーの分布より、全体的な特性を視覚的に容易に把握することができる。同図から、約50分後に低周波領域におけるパワーが大きく増加していることがわかる。
【0023】
ステップ104において、算出部4は、第1の周波数f1以上で基準周波数fth以下の周波数領域(以下、低周波領域という)における周波数成分パワーp’を積分することにより図8で示した面積A1を求める。そして、ステップ105において、基準周波数fth以上で第2の周波数f2以下の周波数領域(以下、高周波領域という)における周波数成分パワーp’を積分することにより面積A2を求める。この基準周波数fthは、覚醒度推定のための評価値を算出する基礎となる値であるから、適切に設定しておくことが重要である。発明者等の実験によると、実験データの平均値0.15Hzを基準周波数fthとして用いた場合に好ましい判定結果が得られることが判明した。
【0024】
なお、低周波領域における面積A1の算出において、第1の周波数f1(例えば0.03Hz)未満の周波数領域を考慮しない理由は、その領域のパワーはドライバの覚醒の程度とは直接関係がないからである。カーブ路走行時には0.03Hz以下の周波数領域におけるパワーが増大する傾向にある。したがって、これを無視することでカーブの影響を排除することができるため、覚醒度を適切に判定できる。また、高周波領域における面積A2の算出において、第2の周波数f2(例えば0.3Hz)より大きな周波数領域を考慮しない理由は、面積A2に与える影響の少ない領域のパワーを排することにより演算量を減らすためである。0.3Hz以上の領域のパワーは小さいため、それを無視しても面積A2はあまり変わらない。具体的には、第2の周波数f2を、[基準周波数fth+(基準周波数fth−第1の周波数f1)]より求めてもよい。このような第1および第2の周波数を設定することにより、演算対象となる周波数領域を適切に設定して判定の精度を高めることができる。このようにして求められた面積A1,A2から、下式にしたがって、評価値Hを求める。
【0025】
【数2】
H=A2/A1
【0026】
ステップ107において、判断部5は、評価値Hをしきい値Hthと比較する。そして、評価値Hがしきい値Hth以下の場合は、ドライバの覚醒度が低下していると判断し(ステップ108)、しきい値より大きい場合は、覚醒度が正常であると判断する(ステップ109)。面積A1,A2の比である評価値Hは、正常な覚醒状態では高周波領域の面積A2が大きいため大きな値を示しているが、低周波領域のパワーp’が増大するにつれて小さくなる。すなわち、評価値Hは、ドライバの覚醒度と大きな相関を有している。そこで、しきい値Hthを適切に設定しておけば、評価値Hからドライバの覚醒度の低下を検出することができる。発明者等の実験によると、走行から約10分経過後における評価値Hは1.6から3.2、約20分後の評価値Hは0.8から1.4、そして約50分後の評価値Hは0.5から0.8であった。この実験結果にしたがって、評価用のしきい値Hthを1.0に設定すれば、50分後における覚醒度の低下を適切に検出することができる。
【0027】
覚醒度が低下していると判断された場合、警報部6は、ドライバに覚醒を促すための警報処理を実行する。警報処理は、一例として追突警報を鳴らすことが挙げられる。この警報は、覚醒度が低下していると判断された場合、平常時よりも警報車間距離を長め(タイミングは早め)に設定する。また、警報部6は逸脱警報を鳴らしてもよい。例えば、車線を踏む瞬間に鳴らすようにしたタイミングを覚醒度の低下時に早く設定する。さらに、居眠り警報を鳴らしてもよい。例えば覚醒度の低下時に、ふらつき警報音と共に表示画面上に「ふらつき注意」と表示する。これらの警報処理は一例であって、警報部6はどのような警報を行ってもよい。
【0028】
このように本実施例では、平常運転時のサンプルを予め用意することなく、判定時のデータ(その直前のデータを含めて)に基づいて、ドライバの覚醒度を判定している。したがって、走行環境の変化に依存することなく覚醒度を適切に判定することができ、従来技術のような走行環境の変化に起因した誤判定の問題は存在しない。さらに、車速の影響をあまり受けることなく、適切な判定を行うことができるという効果もある。
【0029】
なお、上記実施例では、評価値Hとして面積A1,A2の比を用いているが、これらの差を用いても判定を行ってもよい。また、判定マップに基づいて判定することも可能である。例えば、面積A1,A2をマトリックス状に配置し、その交点に判定結果を記述したマップを予め用意しておく。そして、判定マップを参照して、算出された面積A1,A2に対応する判定結果(ドライバの覚醒度が低下しているか否か)を参照する。なお、判定用のしきい値Hthを用いた判定を行う場合、そのしきい値Hthを車速に応じて異なる値としてもよい。
【0030】
また、上記の実施例では、基準周波数fthを車速に拘わらず固定値(上記の例では0.15Hz)に設定している。これに対して、基準周波数fthを車速が増大するのにともない大きな値に設定してもよい。一般に、車速が増大するほど、単位時間当たりの横変位量が大きくなり、限られた車線幅の中での横方向へのふらつき周期は短くなるため、図8に示した周波数成分パワー特性が全体的に高周波側にシフトする傾向がある。そこで、このようなシフト特性を考慮して、基準周波数fthも車速に応じてシフトさせれば、高速走行時においてもドライバの覚醒度を精度よく判定することができる。なお、車速に応じて基準周波数fthの値を可変にすることは、後述する各実施例についても適用することができる。
【0031】
同様のことは、第1の周波数f1および第2の周波数f2についても該当し、これらの周波数f1,f2を車速の増大にともない大きな値に設定することが好ましい。一例として、各周波数f1,fth,f2は、下表に示したように、車速の増大にともない値が非線形的に大きくなるように設定している。
【0032】
【0033】
さらに、上述した実施例では車両の動作量を周波数変換し、その周波数成分パワーを直接用いてドライバの覚醒度を判断している。しかしながら、本発明は、評価する領域として周波数fを直接用いる場合のみならず、それに補正係数aを乗じることにより得られた正規化周波数f'を用いてもよい(下式参照)。
【0034】
【数3】
f’=f×a
【0035】
補正係数aは車速の増大にともない非線形的に増加するように設定されており、一例として、80km/h未満の範囲ではa=33.3、80km/h以上100km/h未満の範囲ではa=39.8、100km/h以上の範囲ではa=45.8としている。この場合、上述した第1の周波数f1、基準周波数fth、第2の周波数f2の初期値をそれぞれ0.03,0.15,0.30とすると、各車速域における正規化周波数f'1,f'th,f'2は、初期値に車速毎の補正係数aを乗じることで下表のようになる。
【0036】
【0037】
このように車速毎に設定された補正係数aを用いて、周波数成分パワーおよび周波数f1,fth,f2を正規化する。そして、この正規化された周波数により算出された周波数成分パワーに基づいて評価値Hを算出する。これにより、車速変化に拘わらず評価領域(周波数領域)を一元的に取り扱うことができる。
【0038】
(第2の実施例)
図4は、第2の実施例における覚醒度の推定手順を示したフローチャートである。本実施例では、第1の実施例のように周波数成分パワーを平準化することなく、周波数成分パワーおよび基準線で囲まれた領域の面積から評価値を算出している。まず、ステップ201およびステップ202により、周波数成分パワーpが算出された後、ステップ203において、予め設定されている基準線Bが導出される。この基準線Bは、例えば下式で表現され、図9において一点鎖線は基準線Bを示している。ここで、べき数nは上述したような理由により、2.0≦n≦3.0の範囲であればよく、本実施例ではn=2.5に設定している。
【0039】
【数4】
p=k・f-n+C
(べき数n、定数K、C)
【0040】
ステップ204では、低周波領域における周波数成分パワーpを積分した積分値から低周波領域における基準線Bを積分した積分値を引くことにより、面積A1を求める(図9で斜線で示した領域の面積A1)。また、高周波領域における周波数成分パワーpを積分した積分値から高周波領域における基準線Bを積分した積分値を引くことにより、面積A2を求める(図9で斜線で示した領域の面積A2)。そして、上述した数式2より評価値Hを求め(ステップ206)、第1の実施例におけるステップ107以降と同様の手順で、ドライバの覚醒度の低下を検出する(ステップ207から208(または209))。
【0041】
本実施例における面積A1,A2は、変位量に関する周波数成分パワーpにのみ依存して変化し、基準線B(変位量に依存しない)には依存していない。したがって、面積A1,A2の比である評価値Hは、高周波領域のパワーpが大きいほど増加し、低周波領域のパワーpが大きいほど減少する。このような周波数成分パワーpとの相関より、評価値Hからドライバの覚醒度の低下を検出することができる。
【0042】
本実施例では、第1の実施例と同様に、平常運転時のサンプルを用意することなく、判定時のデータ(その直前のデータも含めて)に基づきドライバの覚醒度を判定しているため、走行環境の変化に依存することなく覚醒度を適切に判定することができる。
【0043】
本実施例の面積の算出方法は、第1の実施例のように周波数成分パワーpを平準化した上で面積を算出する方法と本質的には相違しない。本実施例において、周波数成分パワーpおよび基準線B(数式3)の双方にf2.5を掛けた場合、周波数成分パワーpは第1の実施例における補正された周波数成分パワーp’に対応し、基準線Bはf-nが相殺されて横線と平行線になる(第1の実施例の図8の横軸に対応)。このことからわかるように、第1の実施例における平準化は、周波数成分パワーの本来的な変化を相殺することで横変位量に基づく周波数成分パワーのピークを顕在化させる処理であるということができる。
【0044】
なお、実施例のように基準線Bを用いることなく、単純に、低周波領域および高周波領域における周波数成分パワーpの積分値(面積)を求め、その比を評価値Hとしてもよい。この場合、周波数の増加に伴ないパワーpは減少するというパワー特性から車両の横変位に拘わらず、低周波領域の面積は高周波領域の面積よりも必然的に大きくなる。したがって、このような特性を見越した上で、評価用しきい値Hthを大きく設定しておけば、ドライバの覚醒度を適切に判定できるであろう。重要なことは、第1の実施例のような平準化処理を施すことや、第2の実施例のように基準線Bを適用することではなく、低周波領域および高周波領域における周波数成分パワーの積分値に基づいて、覚醒度を判断する評価値Hを算出することである。平準化処理や基準値を用いる理由は、パワー特性を取り除いた評価値Hを算出するために過ぎない点に留意されたい。発明の本質に鑑みれば、評価値Hの算出においてパワー特性を考慮することおよび評価用のしきい値Hthの設定においてパワー特性を考慮することの間には本質的な差異はない。
【0045】
(第3の実施例)
図5は、第3の実施例における覚醒度の推定手順を示したフローチャートである。第1および第2の実施例は、周波数成分パワーpの積分値に基づいて覚醒度を判定しているのに対して、本実施例は、周波数成分パワーpのピークに基づいて判定するものである。まず、ステップ301およびステップ302により、周波数成分パワーpが算出された後、ステップ303において、低周波領域において、しきい値Pth以上の周波数成分パワーpがあるか否かが判断される。図10は、第3の実施例における評価値の算出を説明するための図である。
【0046】
上述したように、ドライバの覚醒度が低下するほど、低周波領域における周波数成分パワーが増大する傾向にある。そこで、図10に示したように、判定用のパワーしきい値pthを予め設定しておき、低周波領域においてパワーpのピークがしきい値pthを以上になったならば、覚醒度が低下しているものと判断し、設定されている警報処理を行う(ステップ304)。一方、パワーpのピークがしきい値pth未満であれば、覚醒度が正常であると判断する(ステップ305)。
【0047】
本実施例によれば、判定時のデータのみに基づきドライバの覚醒度を判定でき、比較的少ない演算量で判定を行うことができる。
【0048】
なお、上述したように、周波数の増加に伴ない周波数成分パワーpが減少していくという特性より、低周波領域中における低周波数成分のパワーpは、比較的少ないピーク量でしきい値pthを超えてしまう反面、高周波数成分のパワーpは、比較的大きなピーク量でもしきい値pthを超えないという欠点がある。これを解決するために、本実施例はさらに以下のように変形してもよい。
【0049】
(1)平準化
第1の実施例で示した平準化処理と同様の手順で、補正された周波数成分パワーp’を算出する。このパワーp’はパワー特性が取り除かれているので(図8参照)、このパワーp’のピークをしきい値p’thと比較すれば、覚醒度の判定をより正確に行うことが可能となる。
【0050】
(2)複数のしきい値の設定
低周波領域を複数の領域にさらに分割して、領域ごとにしきい値pthを設定しておく。この際、低い周波数を有する領域のしきい値pth1の方を、高い周波数を有する領域のしきい値pth2より大きく設定しておく。これにより、低周波領域の全域に渡って同一しきい値pthを適用する場合よりも、覚醒度の判定精度を向上させることができる。
【0051】
(第4の実施例)
上記の第1から第3までの各実施例において、ドライバの覚醒度の推定判定(図2、図4および図5のフローチャートに示した手順)は、ドライバの覚醒度を判断すべき走行状況時(主として高速道路走行時を想定)のみ行うようにしてもよい。具体的には、例えば以下の条件の少なくとも一つに合致した場合、「ドライバの覚醒度を判断すべき走行状況」にあると判断される。
【0052】
(1)所定の車速以上になった場合
車速が変化していても、車速センサ等により検出された車速が予め設定された車速(例えば80km/h)以上になった場合、覚醒度判定を実行する。
(2)クルーズコントロールがセットされた場合
クルーズコントロールがセットされた状態ではドライバの覚醒度が低下しやすい傾向にあるため、クルーズコントロールがセットされた時点以降、覚醒度判定を実行する。
(3)エンジン回転数が所定回転数以上に維持されている場合
エンジン回転数センサにより検出されたエンジン回転数が1000rpm以下になっても、その状態が5秒以上持続しない場合に、覚醒度判定を実行する。
(4)走行路が「特定道路]の条件に合致する場合
ここで、「特定道路」とは以下のような道路をいう。
(4-1)一定道路長さ(例えば1km)以上で、かつ道路幅がほぼ一定であること
(4-2)車速が一定速以上で、かつ一定走行時間以上その速度状態が維持された場合
(4-3)ナビゲーションからの情報に基づき所定の条件を具備した場合
【0053】
この場合、ドライバの覚醒時における評価値Hの値やその推移に関して個人差がある点に鑑み、ドライバ毎に評価用しきい値Hthを個別に設定することが好ましい。この評価用のしきい値Hthは、ドライバが覚醒していると想定される「サンプル期間」内における車両の動作量に基づいて設定される。「サンプル期間」は、上述した「ドライバの覚醒度を判断すべき走行状況」になった時点を基準として5分から10分までの期間とする。サンプリングの開始時点を5分とした理由は、それ以前では走行状況(典型的には高速道路走行)にドライバが適応していない可能性があるので、それに慣れるための期間が必要だからである。また、サンプリングの終了時点は、必要なサンプル数を確保できるほど長く、かつ覚醒度の低下が生じにくいほど短い時間としては、10分程度が妥当であるからである。
【0054】
この「サンプル期間」において、過去X秒間(一例として50秒から80秒程度)の変位量データ毎に評価値H(サンプル)を算出する。そして、サンプル期間内において算出された複数の評価値Hの平均値を「初期評価値Hini」とする。評価用のしきい値Hthは、初期評価値Hiniの6割(一例)として設定することができる。例えば、サンプル期間当初から車両がふらつき気味である場合、初期評価値Hiniの値は小さくなる。したがって、そのドライバに関する評価用のしきい値Hthは小さな値に設定されるため、覚醒度の判定基準も一般的なドライバよりも緩和される。逆に、その期間における車両のふらつきが一般のドライバよりも小さい場合、評価用のしきい値Hthは大きな値に設定される。
【0055】
このように、運転特性の個人差を考慮してドライバ毎に個別に評価用のしきい値Hthを設定すれば、ドライバの覚醒度を一層精度よく推定することが可能となる。なお、しきい値Hthの算出は、サンプル期間内における車速が継続して所定速度(例えば80km/h)以上である場合のみ行うことが好ましい。自車両が先行車に追いついたケース等では車速が所定速度以下になる場合があるが、このような走行状況では特徴的なふらつきが生じなることが考えられる。そこで、この場合は、算出されたサンプルをキャンセルする。そして、サンプルの算出を再度最初から行うか、或いは、予め設定された値を用いるようにする。
【0056】
【発明の効果】
このように本発明では、車両の動作量に関する周波数成分パワーを用い、判定時における高周波数成分と低周波数成分とを比較することによって覚醒度を推定している。したがって、走行環境や車速が変わった場合においても比較的正確にドライバの覚醒度を判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】覚醒度推定装置の構成を示したブロック図
【図2】第1の実施例における覚醒度の推定手順を示したフローチャート
【図3】第1の実施例のアルゴリズムを説明するための図
【図4】第2の実施例における覚醒度の推定手順を示したフローチャート
【図5】第3の実施例における覚醒度の推定手順を示したフローチャート
【図6】運転開始からの経過時間および横変位量の変化との関係を示した図
【図7】各周波数成分パワーを示した図
【図8】第1の実施例における評価値の算出を説明するための図
【図9】第2の実施例における評価値の算出を説明するための図
【図10】第3の実施例における評価値の算出を説明するための図
【符号の説明】
1 横変位検出部、 2 画像情報処理部、
3 FFT信号処理部、 4 評価値算出部、
5 判断部、 6 警報部
Claims (11)
- 車両の動作量を連続して検出する検出手段と、
前記動作量を周波数変換することにより、各周波数成分パワーを求めるパワー算出手段と、
基準周波数を基準に周波数領域を低周波領域と高周波領域とに分けて、前記低周波領域における前記周波数成分パワーの第1の積分値を求め、前記高周波領域における前記周波数成分パワーの第2の積分値を求め、かつ、前記第1の積分値および前記第2の積分値を用いて評価値を算出する評価値算出手段と、
算出された前記評価値に基づいて、ドライバの覚醒度を判断する判断手段と
を有することを特徴とする車両用の覚醒度推定装置。 - 前記周波数成分パワーは、平準化された周波数成分パワーであることを特徴とする請求項1に記載された車両用の覚醒度推定装置。
- 前記平準化された周波数成分パワーは、前記周波数成分パワーに各周波数のべき数nを乗じた値を、前記周波数成分パワーに掛けた値であることを特徴とする請求項2に記載された車両用の覚醒度推定装置。
- 前記べき数nは、2.0以上で3.0以下の値であることを特徴とする請求項3に記載された車両用の覚醒度推定装置。
- 前記評価値算出手段は、前記低周波領域における基準線の第3の積分値を求め、前記高周波領域における前記基準線の第4の積分値を求め、
前記第1の積分値および前記第3の積分値の差と、前記第2の積分値および前記第4の積分値との差から評価値を算出し、
前記基準線は、周波数成分パワーの特性に基づく変化を打ち消すように設定されていることを特徴とする請求項1に記載された車両用の覚醒度推定装置。 - 前記低周波領域は、前記基準周波数以下の領域であって、カーブ走路の走行時に生じる極低周波数を除いた第1の周波数以上の領域であることを特徴とする請求項1に記載された車両用の覚醒度推定装置。
- 前記低周波領域は、前記基準周波数以下の領域であって、カーブ走路の走行時に生じる極低周波数を除いた第1の周波数以上の領域であり、かつ、
前記高周波領域は、前記基準周波数以上で第2の周波数以下の領域であり、前記第2の周波数は、前記基準周波数と前記第1の周波数との差を前記基準周波数に加えた周波数であることを特徴とする請求項1に記載された車両用の覚醒度推定装置。 - 前記基準周波数は、車速が増加するのにともない大きな値に設定されることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載された車両用の覚醒度推定装置。
- 前記評価値は、前記第1の積分値と前記第2の積分値との比であることを特徴とする請求項1に記載された車両用の覚醒度推定装置。
- 前記判断手段は、前記評価値と評価用のしきい値とを比較することによりドライバの覚醒度を判断することを特徴とする請求項1に記載された車両用の覚醒度推定装置。
- 車両の動作量を連続して検出するステップと、
前記動作量を周波数変換することにより、各周波数成分パワーを求めるステップと、
基準周波数以下の低周波領域における前記周波数成分パワーの第1の積分値を求めるステップと、
前記基準周波数以上の高周波領域における前記周波数成分パワーの第2の積分値を求めるステップと、
前記第1の積分値および前記第2の積分値を用いて評価値を算出するステップと、
算出された前記評価値に基づいて、ドライバの覚醒度を判断するステップと
を有することを特徴とする覚醒度推定方法。
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