JP4195546B2 - 歯科鋳造用石膏系埋没材 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、歯科鋳造用石膏系埋没材に関するものであって、より具体的には硬化膨張を早く終了させることが出来る歯科鋳造用石膏系埋没材に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に、歯科用の金属補填物を鋳造する際に用いられる歯科鋳造用石膏系埋没材(以下、単に「埋没材」とも呼ぶ。)には、結合材の石膏としてはα半水石膏及び又はβ半水石膏が、耐熱材としてはシリカ(以下、単に「石英」と呼ぶ。)及び石英の異性体であるクリストバライトが、硬化時間調整用の硬化促進剤としては二水石膏微粉末や食塩などの塩類が、硬化遅延剤としてはクエン酸ナトリウム等のカルボン酸塩が、そしてさらに流動性付与のための減水剤等が配合されている。また上述のα半水石膏及びβ半水石膏を主成分とした歯科用硬質石膏(以下、単に「石膏」とも呼ぶ。)は、例えばワックスパターン製作の際に使用される作業用模型(いわゆる「歯形」である。)等を製作する為の材料としても利用される。
【0003】
ところで通常、歯科用金属補綴物(以下、単に「金属補綴物」とも呼ぶ。)は、例えば次のように製作される。
まず、口腔内で採取した印象から、上述の歯科用硬質石膏により歯形を製作する。この歯形にワックスを注入することでワックスからなる鋳造用パターンを製作する。次いでこの鋳造用パターンを埋没材で埋没させる埋没工程を行う。この埋没工程の際に、上述の埋没材を用いる。そして埋没工程が終了すると、一定時間後に鋳造用パターンを燃焼工程による燃焼等の方法により除去し、鋳型を製作し、次いで鋳型の空洞部分に金属融液を流し込んで鋳込みを行う。そして鋳込みが終了すると、埋没材を除去して歯科用金属補綴物を取り出し、加工研磨を行って歯科用金属補綴物が完成する。
【0004】
上述の製作工程において、鋳造用パターンを燃焼除去する為に、ヒートショック法であれば、埋没工程終了20分ないし30分経過後に、予め700℃に加熱された電気炉に鋳型を入れて30分間加熱する。また通常法であれば、埋没工程終了1時間後に、室温の電気炉に鋳型を入れた後、700℃まで昇温させて30分間加熱する。
【0005】
このようにして歯科鋳造用石膏系埋没材は利用されるが、通常の金属補綴物製作工程においては、鋳型の膨張と、鋳造する金属補綴物の冷却時に生じる鋳造収縮とを予め考慮に入れ、最終的に完成した金属補綴物が実際の使用に際して歯の補綴部分に適合するものとなるように、即ち金属補綴物の適合性を高める必要がある。尚、この鋳型の膨張は埋没材の硬化膨張及び熱膨張によるが、埋没材の熱膨張は基本的にクリストバライトや石英の配合割合によって決まる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上述のヒートショック法又は通常法、いずれの方法であっても、従来の埋没材を利用した場合では、埋没材の硬化膨張が終了しないうちに鋳造用パターンの焼却工程が開始されてしまうため、埋没材の硬化膨張に左右されやすい金属補綴物の適合性は焼成開始時間の差の影響を受けていた。即ち、埋没工程終了後に鋳造用パターンの焼却工程を行うが、この間に埋没材の硬化膨張が進んでしまい、このため金属補綴物の適合性が一定しなかった。
【0007】
これをさらに説明する。従来の埋没材に利用されている従来の石膏は、歯科用石膏組成物としても利用されている平均粒径で20μmから40μmの石膏であるが、この従来の石膏では粒度の分布がかなり広く、また50μm以上の粗粒子を10%を超えて含んでいる。
【0008】
ところで埋没材の硬化時間は、JIS−T6601に規定された方法、即ち埋没材表面からビガー針がどれだけ侵入したか、その深さの値によって判定されるが、この方法に従って決定された硬化終了時間において埋没材を構成する石膏の水和反応が完全に終了したわけではなく、埋没材を構成する石膏に含まれる粗粒子の水和反応及びそれに伴う硬化膨張は判定された硬化終了時間の後も継続して生じているものである。つまり埋没材全体としては、硬化膨張は継続していることになる。そして、従来の石膏であれば、硬化時間調整剤を利用する等して硬化時間を可能な限り短くしても埋没材の硬化膨張は120分以上に亘って継続するため、ヒートショック法又は通常法、いずれの方法であっても、従来の埋没材を利用した場合では、埋没工程を終了後、硬化膨張が終了しないうちに鋳造パターンの焼却工程を開始することに、問題があった。即ち作業を行う度に埋没工程終了から焼却工程を開始するまでの時間が異なると、つまり鋳型の焼成開始時間が異なると埋没材の膨張の進行の度合いが作業を行う度に異なることになり、その結果作業を行う度に金属補綴物の適合性が変動してしまい、問題であった。
【0009】
さらに、従来の埋没材であれば、ヒートショック法を行った場合、鋳型に亀裂が入ってしまう確率が高く、やはり問題であった。尚、本発明においては、硬化開始から12時間経過した後に上述のJIS−T6601による測定を行って得られた測定値の95%に相当する値が得られた時間を硬化膨張終了時間である、と判断した。
【0010】
そこで本発明はこのような問題点に鑑みて為されたものであり、その目的は、石膏の硬化膨張を早期に終了させることができ、また完成した鋳型に亀裂が生じにくくすることのできる歯科鋳造用石膏系埋没材を提供することである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上記課題を達成するため、本発明の請求項1に記載の歯科鋳造用石膏系埋没材では、歯科鋳造用鋳型として使用する石膏を結合材とし、シリカ又はその異性体を耐熱剤とした歯科鋳造用石膏系埋没材において、前記石膏の平均粒径が3μm以上10μm以下であり、かつ前記石膏全体における粒径50μm以上の粒子の割合が10%以下であって、減水剤を添加したこと、を特徴とする。
【0012】
本発明の請求項2に記載の歯科鋳造用石膏系埋没材では、歯科鋳造用鋳型として使用する石膏を結合材とし、シリカ又はその異性体を耐熱剤とした歯科鋳造用石膏系埋没材において、前記石膏の平均粒径が3μm以上15μm以下であり、かつ前記石膏全体における粒径50μm以上の粒子の割合が10%以下であって、減水剤を添加したこと、を特徴とする。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について説明する。尚、ここで示す実施の形態はあくまでも一例であって、必ずしもこの実施の形態に限定されるものではない。
【0014】
(実施の形態1)
本発明に係る歯科鋳造用石膏系埋没材を第1の実施の形態として説明する。
本発明に係る歯科鋳造用石膏系埋没材は、歯科鋳造用鋳型として使用する石膏を結合材とし、シリカ又はその異性体を耐熱剤とした歯科鋳造用石膏系埋没材において、石膏の平均粒径が3μm以上10μm以下であり、かつ石膏全体における粒径50μm以上の粒子の割合が10%以下であって、歯科鋳造用石膏系埋没材に減水剤を添加したものである。
【0015】
尚、上記では、石膏の平均粒径が3μm以上10μm以下としたが、後述の通り、これは平均粒径が3μm以上15μm以下としても、ほぼ同様の効果を得られることが発明者の研究により明らかになっている。
【0016】
平均粒子が3μm未満である石膏では、石膏練和のための必要水量である混水量が大幅に大きくなってしまい、その結果多量の減水剤の添加量が必要となってしまうがこれは実用的でなく、また減水剤を使用しないまま練和水量を大きくすると強度、硬化膨張などが低下してしまって、必要な性能が得られない。
【0017】
また、例え石膏の平均粒径が3μm以上10μm以下(あるいは15μm以下)であっても粒子径全体の分布幅が広く、即ち小さな粒子径のものから大きな粒子径のものまで多種多様な粒子径が存在しており、特に50μm以上の粒子を石膏全体に対して10%を超えて含むような場合は、硬化膨張を早期に終了し安定化することが不可能である。
【0018】
このように、本発明に係る歯科鋳造用石膏系埋没材であれば、全ての石膏粒子の水和反応が早期に終了するため、これを鋳型として利用した場合、硬化膨張が早期に終了し安定化出来るので、ヒートショック法、通常法、いずれの方法においても、鋳型の焼成開始時間によって金属補綴物の適合性が変動することが少なくなる。また、埋没材の硬化膨張が早く終了するということは、鋳型の強度を早期に確保できるので、例えヒートショック法による作業であっても、鋳型の割れ、破損の発生割合を低下出来る。
【0019】
【実施例】
以下、実施例に基づき、本発明に係る歯科鋳造用石膏系埋没材を更に説明するが、本発明が以下に示す実施例により制限されないことは当然である。
【0020】
表1に示した実施例1、実施例2、比較例1の埋没材は、いずれも混水量33%になるように公知の減水剤が配合されている。またこれら3つの埋没材の硬化時間が10分になるように公知の硬化時間調整剤を利用している。
【0021】
使用した石膏は表1の実施例1、実施例2、比較例1に示すそれぞれの平均粒径を有するα石膏を用いた。そして石膏、クリストバライト(クリストバライトの平均粒径は8μmである。)及び石英(同じく12μmである。)を、表1に示す比率にて配合した。但し、本発明はこの配合比率や耐熱材の平均粒径に限定されるものではないことを断っておく。
【0022】
石膏の平均粒径は、日機装(株)社製マイクロトラックHRA粒度分析計を用いて測定したが、表1中の「50μm以上の石膏」とは、石膏全体に対して石膏の粒径が50μm以上である粒子の存在割合を示したものである。
【0023】
なお、配合される石膏の平均粒径が小さくなるに伴って、そのままでは練和に必要となる水の量が増大するため、メチロールメラミン縮合物塩系(昭和電工(株)製:メルメントF−10、など)、ポリアルキルアリルスルホン酸塩系(花王(株)製:マイティ−100、など)、ナフタリンスルフォン酸塩系(サンノプコ(株)製:LOMAR−D、など)、ナフタリンスルフォン酸ホルマリン縮合物塩系(第一工業製薬(株)製:セルフロー120、など)、等から選択された1種類以上の減水剤が埋没材粉末に適宜配合使用されるが、本実施例においてはナフタリンスルフォン酸塩系を用いた。
【0024】
これらの減水剤は、鋳型焼成時にワックスパターンと同様に燃焼焼失して、鋳造時に問題を発生させることはないものを選択するが、通常は上記いずれの減水剤を用いても問題はない。
【0025】
そして、表1に示した3つの埋没材を利用して、AMD規格No.2クラウン形態のワックスパターンを埋没して鋳型を作成した後、700℃ の電気炉に入れて30分加熱焼却後、金銀パラジウム合金を鋳造し、鋳造された金属補綴物の適合性を観察した。この工程については、従来の技術において説明した通りの工程を行っている。即ち、実施例1、実施例2、比較例1に示した埋没材による埋没工程を終了した後、焼却を開始する。ここでは埋没工程終了30分経過後、45分経過後、60分経過後、90分経過後、それぞれの時点で焼却を開始し、得られた鋳型を用いて金属補綴物を製作し、その適合性を調べた。
【表1】
【0026】
この表1から判るように、硬化膨張終了時間は、比較例1の120分と比較して、実施例1では45分、実施例2では60分にまで短縮されている。そして、実施例1では硬化膨張終了時間の前である30分経過後のものに関するデータ以降のデータにより明らかなように、また実施例2では45分経過後のものに関するデータ以降のデータにより明らかなように、電気炉に入れる時間の差、即ち埋没工程終了後焼却工程開始までの時間差による補綴物の適合差はほとんどなく、即ち適合性は安定するのに対して、通常の石膏を用いた比較例1では、30分、45分、60分、90分経過後に関するデータより明らかなように、適合状態には差がみられた。即ち、適合性が安定しなかった。尚、この硬化膨張率は、従来の技術で説明した方法により測定した。
【0027】
この結果より明らかなように、実施例1又は実施例2による埋没材であれば、硬化膨張時間を短縮でき、ひいては適合性の安定した金属補綴物を製作することが可能となる。
【0028】
【発明の効果】
以上の説明からも明らかなように、本発明の請求項1又は請求項2に記載の歯科鋳造用石膏系埋没材では、石膏の平均粒径が小さくなるに伴って硬化膨張終了時間が短くなることから、硬化膨張が早期に終了し安定化するため、歯科鋳造用石膏系埋没材では作成した鋳型を電気炉に入れる時間差があっても、金属補綴物の適合差がなくなることがわかった。さらに、このような埋没材は、ヒートショック法において、高温の電気炉に鋳型を入れても鋳型強度が早期に発揮されるため、ヒートショック法の問題点である鋳型の亀裂発生が抑制できる。
Claims (2)
- 歯科鋳造用鋳型として使用する石膏を結合材とし、シリカ又はその異性体を耐熱剤とした歯科鋳造用石膏系埋没材において、
前記石膏の平均粒径が3μm以上10μm以下であり、かつ前記石膏全体における粒径50μm以上の粒子の割合が10%以下であって、
減水剤を添加したこと、
を特徴とする歯科鋳造用石膏系埋没材。 - 歯科鋳造用鋳型として使用する石膏を結合材とし、シリカ又はその異性体を耐熱剤とした歯科鋳造用石膏系埋没材において、
前記石膏の平均粒径が3μm以上15μm以下であり、かつ前記石膏全体における粒径50μm以上の粒子の割合が10%以下であって、
減水剤を添加したこと、
を特徴とする歯科鋳造用石膏系埋没材。
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