JP4190897B2 - 触媒の劣化検知方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、触媒が劣化したか否かを判定する劣化検知方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
触媒技術の発達により、触媒は各種産業においてその目的に応じて広く利用されている。
例えば、近年、環境汚染物質の排出が極めて少ないクリーンなエネルギー源として燃料電池が注目されており、自動車産業においても、車載した燃料電池で発生させた電力でモータを回転し車両を駆動する燃料電池自動車が開発されている。
【0003】
この種の燃料電池には、固体高分子電解質膜の両側にアノードとカソードとを備え、アノードに水素リッチな燃料ガスを供給し、カソードに酸化剤ガス(例えば酸素あるいは空気)を供給して、これらガスの酸化還元反応にかかる化学エネルギを直接電気エネルギとして抽出するようにしたものがある。この燃料電池では、アノード側で水素ガスがイオン化して固体高分子電解質中を移動し、電子は、外部負荷を通ってカソード側に移動し、酸素と反応して水を生成する一連の電気化学反応による電気エネルギを取り出すことができるようになっている。
【0004】
この燃料電池への燃料ガスの供給方法として、メタノールやガソリンなどの炭化水素を含む原料ガスを、水蒸気改質により水素リッチなガス(以下、水素リッチガスと略す)に改質し、これを燃料電池の燃料ガスとして供給する場合がある。この時、前記原料ガスを水素リッチガスに改質するのに、改質触媒が利用されている(例えば、特許文献1参照)。
さらに、改質触媒で改質された水素リッチガス中の一酸化炭素(CO)濃度が高いと、燃料電池のアノードがCOで被毒(以下、CO被毒という)され出力低下を招くので、一般に、燃料電池に供給する前に水素リッチガス中のCOを除去しているが、このCO除去手段としてCO除去触媒が利用されており、触媒反応によりCOを二酸化炭素(CO)に変化させている。
そのほか、自動車産業では、内燃機関から排出される排気ガスを浄化する手段としても、触媒が利用されている。
【0005】
ところで、一般にこれら触媒は、熱や被毒等により経時的に劣化して性能が低下する性質がある。例えば、改質触媒が劣化すると、処理ガスである水素リッチガス中の水素濃度が低下し水素リッチガス中の炭化水素(HC)やCOの濃度が高くなる。また、CO除去触媒が劣化すると、処理ガス中のCO濃度が高くなる。そのため、これら改質触媒やCO除去触媒を用いた燃料電池の燃料ガス供給システムにおいて触媒が劣化すると、燃料ガス中の水素濃度が低下する結果、燃料電池の発電性能が低下するだけでなく、燃料ガス中のCO濃度が上昇することにより、燃料電池におけるアノードのCO被毒が加速されて燃料電池の性能低下をさらに加速する虞がある。
【0006】
したがって、触媒の劣化を検知することは極めて重要である。従来の一般的な触媒劣化検知方法は、触媒反応により濃度低下あるいは濃度上昇する組成の濃度を濃度センサで測定し、該組成の濃度が所定の閾値を越えた場合に、触媒が劣化したと判定している。
例えば、上述した触媒例であれば、改質触媒の場合には改質触媒の下流でガス中のCO濃度あるいはHC濃度をCOセンサあるいはHCセンサで検出し、検出されたそれら濃度が所定の閾値以上である場合に触媒が劣化したと判定したり、CO除去触媒の場合には、CO除去触媒の下流でガス中のCO濃度をCOセンサで検出し、その濃度が所定の閾値以上である場合に触媒が劣化したと判定している。
【0007】
また、これら改質触媒やCO除去触媒を用いた燃料電池の燃料ガス供給システムにおいては、CO除去触媒の下流で水素リッチガスの一部を分流し、分流した水素リッチガスをメインの燃料電池とは別に設けた微小容量の燃料電池(以下、ミニ燃料電池という)に供給して発電させ、その出力電圧の大きさに基づいて改質触媒およびCO除去触媒の劣化を判定している。
【0008】
【特許文献1】
特開2000−63101号公報
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来の触媒の劣化検知方法においては、現存するCOセンサやHCセンサでは性能や耐久性の点で満足するものがなく、特に、使用環境が過酷な車載用となるとなおさらであった。
また、ミニ燃料電池を用いた劣化検知方法では、改質触媒が劣化したのかCO除去触媒が劣化したのかが区別できなかった。
そこで、この発明は、簡単に精度よく触媒の劣化を検知することができ、且つ、車載用触媒に対しても好適な触媒の劣化検知方法を提供するものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は前記課題を解決するために、以下の手段を採用した。すなわち、この発明に係る触媒の劣化検知方法は、触媒層(例えば、後述する実施の形態における触媒層19)における複数箇所で触媒温度を検出し、検出された触媒温度の最大値と最小値とを比較し、その比較値に基づいて前記触媒層の触媒が劣化したか否かを判定する触媒の劣化検知方法であって、全ての触媒温度検出箇所における検出位置は、触媒層の上流側端面(例えば、後述する実施の形態における上流側端面19a)からの距離がほぼ同じであることを特徴とする。劣化した触媒(以下、劣化触媒という)と劣化していない触媒(以下、正常触媒という)を比較すると、劣化触媒は正常触媒に対し、改質反応(吸熱反応)が低下する。しかし、酸化反応(発熱反応)は正常触媒、劣化触媒とも大差はないため、触媒が劣化するにしたがって触媒温度は上昇する。すなわち、正常触媒では経時変化に対し温度上昇は少ないが、劣化触媒は経時変化に対し温度上昇が大きくなり、触媒温度に差が生じる。また、同じ劣化触媒を比較した場合にも劣化の進行程度が相違するほど触媒温度の差が大きくなる。したがって、触媒層における複数箇所で触媒温度を検出し、検出された触媒温度の最大値と最小値との比較値(例えば、両者の温度差、あるいは両者の温度比)を求めれば、その比較値の大きさに基づいて、前記触媒層の触媒が劣化したか否かを判定することが可能となる。しかも、全ての触媒温度検出箇所における検出位置は、触媒層の上流側端面からの距離がほぼ同じであるので、触媒層の上流側端面からの距離の相違に起因する温度差測定の誤差をなくすことが可能になる。なお、「触媒層の上流側端面からの距離がほぼ同じ」とは、温度差測定の誤差が触媒の劣化判定上許容される範囲となる触媒層上流側端面からの検出位置の距離相違範囲をいうものである。
また、この発明に係る触媒の劣化検知方法は、触媒層(例えば、後述する実施の形態における触媒層19)における複数箇所で触媒温度を検出し、検出された触媒温度の最大値と最小値とを比較し、その比較値に基づいて前記触媒層の触媒が劣化したか否かを判定する触媒の劣化検知方法であって、全ての触媒温度検出箇所における検出位置は、触媒層の上流側端面近傍であることを特徴とする。劣化した触媒(以下、劣化触媒という)と劣化していない触媒(以下、正常触媒という)を比較すると、劣化触媒は正常触媒に対し、改質反応(吸熱反応)が低下する。しかし、酸化反応(発熱反応)は正常触媒、劣化触媒とも大差はないため、触媒が劣化するにしたがって触媒温度は上昇する。すなわち、正常触媒では経時変化に対し温度上昇は少ないが、劣化触媒は経時変化に対し温度上昇が大きくなり、触媒温度に差が生じる。また、同じ劣化触媒を比較した場合にも劣化の進行程度が相違するほど触媒温度の差が大きくなる。したがって、触媒層における複数箇所で触媒温度を検出し、検出された触媒温度の最大値と最小値との比較値(例えば、両者の温度差、あるいは両者の温度比)を求めれば、その比較値の大きさに基づいて、前記触媒層の触媒が劣化したか否かを判定することが可能となる。しかも、全ての触媒温度検出箇所における検出位置は、触媒層の上流側端面近傍であるので、触媒層の上流側端面からの距離の相違に起因する温度差測定の誤差をなくすことが可能になるだけでなく、触媒温度の最大値と最小値の比較値が一番大きく出易くなる。
【0011】
また、この発明に係る触媒の劣化検知方法において、前記比較値は前記触媒温度の最大値と最小値の温度差であり、該温度差が所定値以上である場合に触媒が劣化したと判定するようにした場合には、劣化判定が容易にできるようになる。
【0012】
さらに、この発明に係る触媒の劣化検知方法において、前記所定値は、触媒層を流れる流体流量に応じて設定されるようにした場合には、流体流量の相違に起因する温度差測定の誤差をなくすことができる。これは、触媒の劣化度合いが同じであっても流体流量が相違すると触媒温度が相違し、これにより前記温度差も相違することによる。
【0015】
この発明に係る触媒の劣化検知方法において、前記触媒層が所定温度以上に達した後に、前記触媒温度の検出を行って劣化判定を実行するようにした場合には、触媒反応が安定した状態になってから劣化判定を実行することが可能になる。
【0016】
この発明に係る触媒の劣化検知方法において、前記触媒層の触媒は、炭化水素を含む原料ガスを水素リッチなガスに改質する改質触媒であるとした場合には、改質触媒温度の最大値と最小値との比較値に基づいて、改質触媒の劣化を判定することが可能となる。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、この発明に係る触媒の劣化検知方法の実施の形態を図1から図10の図面を参照して説明する。
この実施の形態における触媒は、燃料電池自動車に搭載されたエネルギー発生装置としての燃料電池に供給される燃料ガスを生成する改質触媒としての態様であり、この場合、改質触媒は、前述したように、メタノールまたはガソリンなどの炭化水素を含む原料ガスを、水蒸気改質により水素リッチガスに改質する。
【0018】
図1は燃料電池自動車に搭載された燃料電池システムの概略構成図であり、この燃料電池システムにおける燃料電池1は固体高分子電解質膜型の燃料電池であり、固体高分子電解質膜の両側にアノードとカソードとを備え、アノードに燃料ガスとして水素リッチガスを供給し、カソードに酸化剤ガスとして空気を供給すると、アノードで水素ガスがイオン化して固体高分子電解質中を移動し、電子は、外部負荷を通ってカソードに移動し、酸素と反応して水を生成する一連の電気化学反応により電気エネルギが取り出される。
【0019】
この実施の形態において、燃料電池1のアノードに供給される水素リッチガスは、原燃料として例えばメタノールを改質して生成される。詳述すると、原燃料であるメタノールは改質用空気とともに、水蒸気を発生させる蒸発器2に供給され、蒸発器2においてメタノールと改質用空気と水蒸気は混合されて原料ガスとされ、改質器3に供給される。なお、原燃料はメタノールに限るものではなく、ガソリンやメタン等を用いることができる。改質器3は、改質触媒を備えたオートサーマル式の改質器であり、改質器3において部分酸化と水蒸気改質が行われて原料ガスから水素リッチガスが生成される。改質器3で生成された水素リッチガスは、熱交換器4によって冷却された後にCO除去器5に供給される。CO除去器5はCO除去触媒を備えた触媒反応器であり、CO除去器5において水素リッチガス中のCOは酸化されてCOに変化せしめられ、除去される。このようにしてCOを除去された水素リッチガスが燃料ガスとして燃料電池1のアノードに供給される。
【0020】
図2は、改質器3の縦断面であり、この改質器3は、軸線方向両端部に反応ガス入口11と反応ガス出口12が設けられた円筒状のケーシング13を備え、反応ガス入口11に連なる分配管14がケーシング13の軸中心上に内蔵され、この分配管14の外側に円盤状をなす複数の反応部15が軸線方向に所定間隔で並列的に配設されて構成されている。各反応部15は、反応ガス供給室16を画成するバックプレート17と、反応ガス供給室16に対して反応ガス出口12側に配置された整流板18と、整流板18に対してさらに反応ガス出口12側に配置された触媒層19とから構成されている。分配管14には各反応部15の反応ガス供給室16に連通する連通孔14aが設けられている。そして、触媒層19はハニカム状の担体に改質触媒(例えば、Pt,Pd等の貴金属触媒、またはCuZn触媒)を担持して形成されている。
【0021】
また、改質器3において最下流側に位置する反応部15(すなわち、第4段目の反応部15)の触媒層19には、図3および図4に示すように、整流板18に面する上流側端面19aの近傍に、6つの温度センサ20が分散配置されている。各温度センサ20は、上流側端面19aにおいて径方向略中央に配置されるとともに、周方向に等間隔に配置されている。換言すれば、上流側端面19aを6分割した一つ々々に温度センサ20が一つずつ配置されている。これら温度センサ20の出力は図示しない制御装置(ECU)に入力される。なお、温度センサ20は、サーミスタや熱電対で構成することが可能である。
【0022】
この改質器3におけるガスの流れは次のようになる。反応ガス入口11に供給されたガスは、反応ガス入口11から分配管14に流入し、分配管14から各連通孔14aを介して各反応部15の反応ガス供給室16に流入し、反応ガス供給室16から整流板18を介して各触媒層19に流入する際に整流板18で整流され、各触媒層19を通過して各反応部15とケーシング13の間に流出し、その後、反応ガス出口12を通って排出される。
【0023】
また、改質器3の各反応部15における改質反応は、発熱反応である部分酸化と吸熱反応である水蒸気改質が同時並行的に行われる、いわゆるオートサーマルとなる。
反応部15におけるオートサーマルについて概念的に説明すると、前記原料ガスが触媒層19を通過する際に、まず、触媒層19の上流側端面19aに近い浅層部に担持された改質触媒において、メタノールと酸素が酸化反応(部分酸化)を起こし発熱する。この酸化反応は次式のように表される。
CHOH + 3/2O → CO + 2H
【0024】
そして、前記酸化反応により発生した熱を吸熱して、その周囲あるいは前記浅層部よりも下流側に位置する深層部に担持された改質触媒おいて、メタノールと水が吸熱反応である改質反応を起こし、原料ガスを水素リッチガスに改質する。この改質反応は次式のように表される。
CHOH + HO → CO + 3H
【0025】
すなわち、オートサーマルでは、部分酸化により発生した熱で改質反応に必要な熱を賄い、改質触媒を改質活性温度(以下、改質温度と略す)に維持させている。
ところで、触媒の一般的な性質として経時劣化することは既に述べたとおりであるが、改質触媒もその例外ではない。そして、改質器3のように装置化した場合、同じ反応部15に担持された改質触媒であっても劣化の度合いにバラツキが生じる。その原因は、次のように推定される。
(1)触媒層19に供給される原料ガスの組成比率(メタノール、水蒸気、空気中の酸素の混合比)が、触媒層19の上流側端面19aの全面において完全均一にはなり得ない。つまり、原料ガスに混合ムラがある。
(2)触媒層19の担体に担持されている改質触媒の担持量を完全に均一にするのは製造上困難であり、担持ムラがある。
(3)触媒層19の上流側端面19aの全面において原料ガスが完全に均一なガス流れとなり得ず、流れのムラができて、触媒層19では周囲と負荷程度が異なる場所ができてしまう。
【0026】
このような理由から、全ての改質触媒において完全同一条件で触媒反応が起こることは殆どなく、改質触媒に対する負荷にバラツキが生じる。その結果、一部の改質触媒では劣化の進行が速くなり、他の一部の改質触媒では劣化の進行が遅くなる。これにより、同じ触媒層19の改質触媒といえども、担持されている場所によって改質触媒の劣化度合いにバラツキが生じる。そして、劣化の度合いのバラツキが一旦生じると、原料ガスの積算処理量(換言すれば積算処理時間)の増大にしたがって、劣化度合いの差も漸次大きくなっていくことは、容易に推測することができる。
【0027】
また、改質触媒が劣化すると、水蒸気改質反応である吸熱反応が低下し、発熱反応である部分酸化反応だけが起こる傾向があり、その結果、劣化した改質触媒においては触媒温度が上昇することが、実験的に確認されている。
これらのことから、劣化度合いの小さい改質触媒(以下、正常触媒と称す)における触媒温度と、劣化度合いの大きい改質触媒(以下、劣化触媒と称す)における触媒温度との間には、温度差が生じることが推測される。しかも、積算処理時間の増大により改質触媒の劣化度合いの差が大きくなっていくと、それに伴って、正常触媒と劣化触媒の触媒温度差も大きくなっていくことが推測される。
【0028】
このような推測に基づき、前述した構成の燃料電池システムを安定した一定の定常運転状態に保持し、改質器3を安定した改質反応状態に保持して、改質器3における第4段目の反応部15に設置した6つの温度センサ20で触媒層19の各部の触媒温度を検出し、改質器3の改質率を検出して、これらを積算処理時間との関係を実験的に求めたところ、図5に示す実験結果が得られた。なお、ここで、改質率とは、{改質ガス中の(CO+CO量)/投入したカーボン分子量}をいう。
【0029】
この実験結果から、触媒温度の最大値と最小値の温度差は、当初はΔt1であったものが、積算処理時間の増大にしたがって、Δt2、Δt3と徐々に大きくなっていくことが確認でき、改質率も積算処理時間の増大にしたがって徐々に低下していくことが確認できる。改質触媒の劣化度合いの増大は改質触媒の改質率低下を招くことから、実験結果における改質器3の改質率の低下は、前記反応部15における触媒層19全体の劣化度合いの増大を意味することとなる。
【0030】
したがって、改質器3に設けた6つの温度センサ20により触媒層19における6箇所の触媒温度を検出し、その最大値と最小値の温度差を算出し、この温度差が所定の閾値以上である場合に、触媒層19の改質触媒が劣化したと判定することが可能となる。つまり、従来のようにHCセンサやCOセンサを用いることなく、簡単に精度よく改質触媒の劣化を検知することができる。
【0031】
特に、この実施の形態では、6つの温度センサ20の全てが触媒層19の上流側端面19aの近傍に設置されており、全ての触媒温度検出箇所における検出位置が、触媒層19の上流側端面19aからの距離をほぼ同じにしているので、触媒層19の上流側端面19aからの距離の相違に起因する温度差測定の誤差をなくすことができる。しかも、触媒層19の上流側端面19a近傍において多くの部分酸化が生じるので、上流側端面19aから離れた深層部よりも上流側端面19a近傍において触媒温度は高くなる。したがって、正常触媒の触媒温度と劣化触媒の触媒温度の温度差が明確に出易くなり、触媒温度の最大値と最小値の温度差が一番大きく出易くなる。したがって、6つの温度センサ20の全てを触媒層19の上流側端面19aの近傍に設置したこの実施の形態によれば、改質触媒の劣化判定精度が非常に高くなる。
【0032】
なお、温度センサ20は必ずしも触媒層19の上流側端面19aの近傍に設置しなければならないわけではなく、上流側端面19aから下流側へ所定寸法離間した位置に設置することも可能である。その場合にも、上流側端面19aから各温度センサ20までの距離はほぼ同じにするのが好ましい。そのようにすると、全ての触媒温度検出箇所における検出位置が、上流側端面19aからの距離をほぼ同じすることができ、その結果、上流側端面19aからの距離の相違に起因する温度差測定の誤差をなくすことができて、改質触媒の劣化判定精度を高めることができるからである。
【0033】
また、温度センサ20を設置する触媒層19は第4段目の反応部15に限るものではない。前述したように4つの反応部15はガスの流れに対して互いに並列に配置されているので、いずれの反応部15を代表としてもよく、該反応部15の触媒層19に温度センサ20を設置することができる。
【0034】
次に、この実施の形態における触媒劣化検知処理について、図6のフローチャートに従って説明する。
図6に示すフローチャートは、触媒劣化検知制御ルーチンを示すものであり、この制御ルーチンは、ECUによって燃料電池システムの運転開始時に実行される。
【0035】
燃料電池システムの運転開始により、システムの暖機運転が実行される(ステップS101)。ステップS102において、システム暖機が完了したか否か判定し、判定結果が「NO」(暖機未完了)である場合は暖機運転を続行する。
ステップS102の判定結果が「YES」(暖機完了)である場合は、ステップS103に進んで、6つの温度センサ20によって触媒層19における6箇所の触媒温度を検出し、ステップS104において、全ての温度センサ20で検出した触媒温度が所定温度以上か否か判定する。この所定温度は、改質温度の下限値以上の適宜温度に設定する。
【0036】
ステップS104における判定結果が「NO」(所定温度未満)である場合はステップS103に戻り、判定結果が「YES」(所定温度以上)である場合はステップS105に進む。触媒温度が改質温度よりも低い状態では改質触媒の触媒反応が不安定で触媒温度が不安定になり、そのような状態で以後のステップの処理を実行しても触媒の劣化判定の信頼性が低くなる。そこで、この実施の形態では、触媒温度が改質温度の下限値以上となって改質反応が安定したことを確認してから、以後のステップの処理を実行することにより、誤判定を未然に防止して、触媒の劣化判定精度を高め、信頼性の高い判定結果が得られるようにした。
【0037】
ステップS105では、燃料電池システムの運転状態が安定したか判定し、判定結果が「NO」(安定していない)である場合は安定するまで待ち、判定結果が「YES」(安定した)である場合は、ステップS106に進む。なお、燃料電池システムが安定したか否かの判定は、例えば、燃料電池1の出力変化率が所定範囲以内に収まっている時に安定したと判定するようにしてもよい。
燃料電池システムの運転状態が過渡状態では、改質触媒の触媒反応が不安定で触媒温度が不安定になり、そのような状態で以後のステップの処理を実行しても触媒の劣化判定の信頼性が低くなる。そこで、この実施の形態では、燃料電池システムの運転状態が安定して触媒反応が安定したことを確認してから、以後のステップの処理を実行することにより、誤判定を未然に防止して、触媒の劣化判定精度を高め、信頼性の高い判定結果が得られるようにした。
【0038】
ステップS106において、図7に示す温度差閾値マップ(以下、ΔTマップという)を参照して、現在の改質器3の出力(原料ガス流量)に応じた温度差閾値ΔTを算出する。改質器3を流れる原料ガスの流量が相違すると、部分酸化反応によって生じる発熱量が相違するとともに水蒸気改質反応で吸熱される熱量が相違し、その結果、原料ガス流量によって触媒温度が相違する。したがって、劣化判定精度を上げるためには、触媒の劣化判定基準である温度差閾値ΔTも原料ガス流量に応じて設定すべきだからである。なお、図7に示すΔTマップは、予め実験的に求められたものであり、ECUのROMに記憶されている。
【0039】
次に、ステップS107に進み、6つの温度センサ20によって触媒層19における6箇所の触媒温度を検出し、さらに、ステップS108に進み、検出した6箇所の触媒温度からその最大値と最小値の実温度差Δtを算出する。次に、ステップS109に進み、実温度差Δtが、ステップS106で算出した温度差閾値ΔT以上か否か判定する。
ステップS109における判定結果が「YES」(Δt≧ΔT)である場合は、触媒層19の改質触媒が所定の劣化度合いに達しているので、「劣化」の判断が下されて、本ルーチンの実行を終了する。
一方、ステップS109における判定結果が「NO」(Δt<ΔT)である場合は、触媒層19の改質触媒が未だ所定の劣化度合いに達していないので、「正常」の判断が下されて、本ルーチンの実行を終了する。
【0040】
以上のように、この改質触媒の劣化検知方法によれば、従来のようにHCセンサやCOセンサを用いることなく、簡単に、精度良く改質触媒の劣化を検知することができ、改質器3を交換するなどの処置を施すことにより、燃料電池1の発電性能の低下や、燃料電池1のアノードのCO被毒の進行を防止することができる。
【0041】
〔他の実施の形態〕
尚、この発明は前述した実施の形態に限られるものではない。
例えば、触媒層19において触媒温度の検出箇所は6箇所に限るものではなく、満足できる劣化検知精度を得ることができるのであれば、6箇所より少なくても、あるいは多くしてもよい。
図8は触媒温度の検出箇所を2箇所にした例であり、正面視円形の触媒層19を二分割し、分割されたそれぞれの領域に温度センサ20を設置して触媒温度を検出するようにしてもよい。
【0042】
また、図9および図10は、触媒層19の正面視形状が正方形である場合の触媒温度検出位置の例を示している。図9は触媒温度を2箇所で検出する場合であり、図10は触媒温度を3箇所で検出する場合であるが、いずれの場合も、触媒層19において温度センサ20を可能な限り均等に分散させて設置し触媒温度を検出するのが、検出精度の向上を図る上で好ましい。
なお、触媒層の触媒温度について最小値あるいは最大値が生じ易い場所が実験的に特定することができる場合には、その特定された位置で触媒温度を検出するのが好ましい。
【0043】
前述した実施の形態では、触媒温度の最大値と最小値の比較値として両者の温度差を用いたが、触媒温度の最小値を最大値で除して得た商を比較値とし、この比較値に基づいて触媒の劣化判定を行うことも可能である。
前述した実施の形態では、触媒の劣化検知処理を燃料電池システムの運転開始時に実行するようにしたが、触媒の劣化検知処理の実行タイミングはこれに限るものではなく、例えば、所定の処理時間毎に実行したり、原料ガスの処理量が所定量になる毎に実行することも可能である。
また、この発明の触媒の劣化検知方法を、CO除去器5に適用することも可能である。さらに、燃料電池システムの原料ガスの改質以外に使用される触媒の劣化検知に対して、この発明の触媒の劣化検知方法を適用することも可能である。
【0044】
【発明の効果】
以上説明するように、この発明に係る触媒の劣化検知方法によれば、触媒層における複数箇所で触媒温度を検出し、検出された触媒温度の最大値と最小値とを比較し、その比較値に基づいて前記触媒層の触媒が劣化したか否かを判定するようにしたことにより、濃度センサを用いることなく、簡単に精度よく触媒の劣化を検知することができるという優れた効果が奏される。
特に、請求項1に係る発明は、全ての触媒温度検出箇所における検出位置が、触媒層の上流側端面からの距離をほぼ同じとしているので、劣化判定精度が向上するという効果がある。
また、請求項2に係る発明は、全ての触媒温度検出箇所における検出位置が、触媒層の上流側端面近傍であるので、劣化判定精度が向上するという効果がある。
また、この発明において、比較値を前記触媒温度の最大値と最小値の温度差とし、該温度差が所定値以上である場合に触媒が劣化したと判定するようにした場合には、劣化判定が容易にできるようになるという効果がある。この発明において、前記所定値が、触媒層を流れる流体流量に応じて設定されるようにした場合には、劣化判定精度が向上するという効果がある。
【0046】
この発明において、触媒層が所定温度以上に達した後に、前記触媒温度の検出を行って劣化判定を実行するようにした場合には、誤判定の未然防止が可能となり、劣化判定精度が向上するという効果がある。
この発明において、前記触媒層の触媒は、炭化水素を含む原料ガスを水素リッチなガスに改質する改質触媒であるとした場合には、濃度センサを用いることなく、簡単に精度よく改質触媒の劣化を検知することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】 この発明に係る触媒の劣化検知方法が実施される改質触媒を備えた燃料電池システムの概略構成図である。
【図2】 前記改質触媒を備えた改質器の縦断面図である。
【図3】 前記改質器における触媒層の縦断面図である。
【図4】 前記触媒層の正面図である。
【図5】 触媒温度と改質率の時間的変化を示す図である。
【図6】 触媒劣化検知制御の一例を示すフローチャートである。
【図7】 ΔTマップの一例を示す図である。
【図8】 触媒温度の検出箇所を2箇所とした場合の温度センサ配置例である。
【図9】 平面視正方形の触媒層の場合であって、触媒温度の検出箇所を2箇所とした場合の温度センサ配置例である。
【図10】 平面視正方形の触媒層の場合であって、触媒温度の検出箇所を3箇所とした場合の温度センサ配置例である。
【符号の説明】
3 改質器
19 触媒層
19a 上流側端面

Claims (6)

  1. 触媒層における複数箇所で触媒温度を検出し、検出された触媒温度の最大値と最小値とを比較し、その比較値に基づいて前記触媒層の触媒が劣化したか否かを判定する触媒の劣化検知方法であって、
    全ての触媒温度検出箇所における検出位置は、触媒層の上流側端面からの距離がほぼ同じであることを特徴とする触媒の劣化検知方法。
  2. 触媒層における複数箇所で触媒温度を検出し、検出された触媒温度の最大値と最小値とを比較し、その比較値に基づいて前記触媒層の触媒が劣化したか否かを判定する触媒の劣化検知方法であって、
    全ての触媒温度検出箇所における検出位置は、触媒層の上流側端面近傍であることを特徴とする触媒の劣化検知方法。
  3. 前記比較値は前記触媒温度の最大値と最小値の温度差であり、該温度差が所定値以上である場合に触媒が劣化したと判定することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の触媒の劣化検知方法。
  4. 前記所定値は、触媒層を流れる流体流量に応じて設定されることを特徴とする請求項3に記載の触媒の劣化検知方法。
  5. 前記触媒層が所定温度以上に達した後に、前記触媒温度の検出を行って劣化判定を実行することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の触媒の劣化検知方法。
  6. 前記触媒層の触媒は、炭化水素を含む原料ガスを水素リッチなガスに改質する改質触媒であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の触媒の劣化検知方法。
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