JP4184816B2 - 銅エッチング廃液の処理方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、硫酸、過酸化水素及び有機化合物からなる過酸化水素安定剤を含有する銅エッチング廃液の処理方法に関する。より詳しくは、多層プリント配線板の製造工程における銅箔の不要部分の溶解等に使用され、劣化したエッチング液、すなわち硫酸、過酸化水素及び有機化合物からなる過酸化水素安定剤を含有する銅エッチング廃液の処理方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
多層プリント配線板の製造工程においては、銅箔を表面に有する、いわゆる銅張り基板が用いられている。その銅箔に所望の回路を形成するための不要部分の除去あるいは密着性向上のための粗面化等のために、硫酸、過酸化水素及び有機化合物からなる過酸化水素安定剤を含有するエッチング液が使用されるが、そのエッチング液は、次第に銅濃度が上昇して性能が低減する。
【0003】
そのエッチング液は、銅濃度が所定値を越えた場合には、エッチング能力が低下し処理の継続が不適切となるので、新しいエッチング液と交換される。その際劣化したエッチング液はエッチング廃液として排出され、従来専門の廃液処理業者が引き取り産業廃棄物として処分していた。その廃液には、銅以外に高濃度の過酸化水素が残留し、また過酸化水素の自己分解を抑制するために添加されている有機化合物等の各種有害化合物も含有されている。
【0004】
このようなことから、この廃棄物を中和処理のみで河川等に廃棄処分することは各種有害化合物を河川等に排出することになるし、かつ排水処理に関する法規制上からも不可能である。そのため複数の多量の薬剤を添加して含有する銅等の各種有害物を沈降分離し、発生したスラッジを埋め立て処分していたのが実情であり、業者の引き取り処分には多大の処理コストを要していた。
【0005】
先のエッチング廃液の処理では、銅はスラッジとなることから、過酸化水素及び過酸化水素安定剤等の他の有害物と混在することになるが、銅を単独の化合物として分離回収する方法も既に提案されている(特開平6−49665号公報)。この方法は、硫酸銅の温度による溶解度の差異を利用して、銅をCuSO4・5H2Oの結晶として分離するものである。
【0006】
この方法では、銅濃度が高濃度となると硫酸銅が結晶化し易くなり、そのため結晶化処理の際に硫酸銅の結晶により結晶化装置に付設された配管が閉塞し、取り扱いが難しくなるという問題がある。また、硫酸銅分離後の母液中には過酸化水素が残留するが、この母液中には過酸化水素安定剤である有機化合物も残留しており、この母液中に残留した過酸化水素も簡単には分解し難い。
【0007】
本発明者らは、これらの問題を解消するために、最近前記エッチング廃液を電気分解して、過酸化水素を分解すると共に銅を金属銅として回収する方法を開発し既に特許出願した(特願2001−196621)。この方法では、前記のとおり過酸化水素の分解と、金属銅の回収とが電気分解という一つの処理で合わせて行えるものの、陰極における過酸化水素の分解は、銅の析出より先に起こり、銅の析出はその後になるため銅析出の電流効率を極めて低下させることとなった。
【0008】
それ以外にも次のような問題がある。
すなわち、エッチング廃液中の過酸化水素濃度が特に高い場合、例えば15g/L以上の場合には一度析出した銅の再溶解が起こるほか、陰極材料に銅を選定した場合には陰極材料の銅が溶解して消失したり陰極板の脱落が生じたりするため実操業や装置設計上の不都合を生じる。
【0009】
その電流効率の低下を回避することを可能とした、エッチング廃液を電気分解する方法も本発明者は既に開発に成功し特許出願した(特願2001−261620)。この方法は、電解室を隔膜により陽極を備える陽極室と、陰極を備える陰極室とに区分し、陽極室には過酸化水素と硫酸銅とを含有するエッチング廃液を供給し、陰極室には陽極室で電気分解した後の過酸化水素を含有しないエッチング廃液を供給するものである。
【0010】
このようにすることにより、陽極室における過酸化水素の電気分解と、陰極室における銅の析出とを同時に行うことができ、本出願人の先の出願における銅析出の電流効率を改善し極めて向上させることができた。前記のとおり、本出願人による後の出願の方法は、銅析出の電流効率を本出願人が開発した先願の方法に比し極めて向上させることができるものではあるが、この方法により前記エッチング廃液の処理を工業的に行った場合には、新たな別の問題が生ずることが判明した。
【0011】
その問題は、次の(1)〜(4)であり、その(1)は、次のとおりである。
(1)エッチング廃液の排出は、劣化したエッチング液と、新しいエッチング液との交換時に行われるものであるから、不連続で不定期に行われるものであり、排出されるエッチング廃液ごとに、その廃液中に残存する銅及び過酸化水素は、濃度の変動が大きく、そのため両者の組成比の変動による電流効率の変動も大きく、装置能力を必要以上に過大にせざるを得ないことである。
【0012】
それ以外の(2)〜(4)は以下のとおりである。
(2)この析出した銅が電極から脱落するため、電解槽を頻繁に清掃する必要が生じた。
(3)また、この析出銅を硫酸にて溶解したところ不溶解成分が含有されていることがわかった。そのため純度が低く溶解して再利用するには不適切なものであった。
(4)過酸化水素を含む陽極液が隔膜を通して銅の析出を行う陰極室側に拡散浸透することを完全に抑制することはできず、陰極室における過酸化水素の分解を完全回避することは不可能であり、銅析出の電気効率の低下は避けられない。
また、この拡散を抑制するために隔膜の気密性を向上させると電圧が上昇し、消費電力を増加させることになる。
【0013】
これらの問題点のうち、特に(2)(3)に関し、更に検討したところ以下のとおりの事実が判明した。
▲1▼析出した銅表面は、銅特有の鮮明な赤色ではなく、黒色となっている。
▲2▼エッチング廃液電気分解時には、銅以外の成分も銅と共に析出し銅の純度を低下させている。
▲3▼銅に含有される不溶解成分が高いほど析出した銅が脱落し易い。
【0014】
本発明者は、これらの問題点を解消すべく鋭意研究開発に努めた。その際電気分解前に銅エッチング廃液中の過酸化水素を予め除去すべく、まず市販の過酸化水素分解剤(カタラーゼ酵素)を用いて分解を試みたが失敗に終わった。そこで、銅エッチング廃液の過酸化水素の加熱分解について更に検討すべく加熱温度を色々と変えて試みたところ、意外にも60〜80℃に加熱し同温度範囲に所定時間維持することにより、過酸化水素安定剤が存在するにもかかわらず分解できることが判明した。
【0015】
以上のことにより(1)及び(4)の問題点の解消については見通しが立ったので、この知見に基づいて銅エッチング廃液中の過酸化水素を予め除去した後、電気分解を行った。その結果電気分解は推測通り順調に行うことができ、本発明者による特願2001−261620号の発明よりも銅析出の電流効率及び消費電力は更に改善された。しかしながら、析出した銅はやはり電極から脱離し、純度の低いものであり、予想通り前記(2)(3)の問題点及び前記▲1▼▲2▼▲3▼の事実は解消できないことも確認できた。
【0016】
そこで、これらの問題点及び事実を解消すべく更に検討を重ねた。まず銅と共に陰極に析出し、銅の純度を低下させる銅エッチング廃液中に含有する成分に着目した。この廃液中に含有される成分としては銅を除けば、硫酸、過酸化水素及び過酸化水素安定剤であり、過酸化水素は予め殆ど除去されており、かつ水素と酸素から形成される物質であるから、電気分解の結果黒色の物質が生成されるとは考えにくい。
【0017】
また、硫酸は、電解により陰極に気体の水素を発生させることは予測できるが、前記の場合と同様に黒色の物質を生成させるとは考えにくい。このようなことから、この黒色物質の生成には、有機化合物からなる過酸化水素安定剤の存在が何らか影響しているのではと推測した。以上のようなことから、この有機化合物の存在に注目した。
【0018】
このように過酸化水素安定剤をなす有機化合物に注目したものの、それに含有されている化合物名及びその含有量等を特定することは大変なことから、まず含有される有機化合物の全体量を知るべくCODを測定することにした。その結果、エッチング廃液は、新規なエッチング液と交換される度に排出される銅エッチング廃液ごとに該廃液中のCODは異なり、その値は析出した銅が電極から脱離し、黒色の物質が形成される場合には2000mg/L程度又はそれ以上であることが判明した。
【0019】
このCOD成分は、高濃度の硫酸中に存在し、溶解していて濾過等の固液分離で除去できるものではないから、これを電解前に予め除去する方法など思い当たらないので、過酸化水素除去後のエッチング廃液について取りあえずCOD成分を希釈し濃度を低下させた後、電解してみることにした。その希釈に当たっては、エッチング廃液中に多量の硫酸が存在するので、まず不純物の存在しない硫酸を用いることにした。
【0020】
この硫酸で希釈したCOD成分の濃度の低下した過酸化水素が除去されたエッチング廃液について、同様に電気分解したところ表面の黒色が薄くなることがわかった。そこで、このエッチング廃液についてCOD成分の濃度の異なる複数種のものを作り電気分解したところ、COD成分の濃度が低いほど、析出した銅表面の色の黒が薄くなることがわかった。さらに、COD成分の濃度が低いほど、析出した銅の脱離が少なくしっかりと電極表面に固着していることも判明した。これらのことから、前記(1)(2)(3)(4)の問題点及び前記▲1▼▲2▼▲3▼の事実についても解消する見通しが立った。
【0021】
前記のとおりであるから、本発明では銅エッチング廃液を電解槽に供給する前に過酸化水素を分解することができ、電解槽、特に陰極において、銅の析出と共に過酸化水素が分解されることがないから、本出願人が開発した前記エッチング廃液処理において、過酸化水素の分解によって発生する電気量浪費に伴う電流効率の低下及び装置能力を必要以上に過大にせざるを得ない等の前記した問題点はいずれも解消することができる。また、本発明では、銅エッチング廃液の処理は、電解により銅の回収が行われており、従来行われている専門の廃液処理業者が引き取って処分する場合の前記した問題も勿論解消することができる。
【0022】
【発明が解決しようとする課題】
したがって、本発明は、従来の銅エッチング廃液処理の際の問題点及び本発明者が最近提案した銅エッチング廃液の処理の際に発生した問題点を解消する銅エッチング廃液の処理方法を提供することを発明の解決すべき課題とするものである。また、本発明では電解により析出する銅を高純度で回収することができる銅エッチング廃液処理技術を提供することをも目的とするものである。
【0023】
本発明の解決すべき課題は、具体的には以下のとおりである。
▲1▼従来の場合のように埋め立て処分を必要とするスラッジの発生がなく、それに伴う多大の処理コストを低減することができること、
▲2▼本発明者が最近開発した電解槽内で銅の回収と過酸化水素の分解と共に行うことのできる技術の問題点である銅の析出に先だって陰極において発生する過酸化水素の分解を回避できること、
▲3▼この技術を改良した銅の析出と過酸化水素の分解を電解槽内で同時に行う技術の問題点である、隔膜を通して陰極側に拡散浸透した過酸化水素の分解に伴う電力の浪費及び隔膜の使用による消費電力の上昇が回避できること、
▲4▼さらに、この改良技術の問題点である、前記した装置能力を必要以上に過大にせざるを得ないことを回避できること、
また、本願の第二の発明では電解により析出する銅を高純度で回収することができる銅エッチング廃液処理技術を提供することをも課題とするものである。
【0024】
【課題を解決するための手段】
本発明が前記課題を解決するために採用した手段である銅エッチング廃液の処理方法は、硫酸、過酸化水素及び有機化合物からなる過酸化水素安定剤を含有する銅エッチング廃液を60〜80℃に加熱し同温度範囲に0.5〜10時間維持して過酸化水素を分解した後、電気分解して銅成分を金属銅として回収することを特徴とするものである。
また、本願の第二の発明である銅エッチング廃液の処理方法において高純度の銅を回収する際には、電気分解前に硫酸等の無機酸又は無機塩水溶液を混合してCODを低下させることになる。
【0025】
そして、本発明では、エッチング廃液中の過酸化水素は電解槽に導入される前に予め加熱除去されており、電解槽内では過酸化水素を電解により除去する必要がない。そのため電解槽においては過酸化水素の分解のために電力を消費することもないので、それに伴って発生する電気量の浪費がなく電流効率がよい。また銅及び過酸化水素の組成比の変動による電流効率の変動を配慮する必要がなく、該変動を考慮して装置能力を過大にする必要もない。
【0026】
さらに、本発明の銅エッチング廃液の処理では電解により銅の回収が行われており、電解槽から排出される処理廃液にはスラッジ発生原因となる銅が残留しないので、従来のように専門の廃液処理業者による処分の問題も勿論ない。なお、該処理廃液には、前記したとおり銅が存在しないので中和処理を行うことで放出可能であるし、場合によってはアルカリ排水中和用の酸として活用することも可能である。
【0027】
本発明において、このように電解槽における過酸化水素の電解による除去を回避できるのは、銅エッチング廃液を60〜80℃に加熱し同温度範囲に所定時間維持することにより、過酸化水素の分解を抑制する安定化剤を含有する場合においても加熱分解できることを本発明者が見出したことに基づくものであり、これにより予め過酸化水素を分解除去できるからである。
また、本発明で高純度の銅を回収できるのも、銅エッチング廃液中のCOD成分を希釈することにより析出した銅の純度が向上することを本発明者が同様に見出したことに基づくものである。
【0028】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の実施の形態について詳述する。
本発明の銅エッチング廃液の処理方法は、硫酸、過酸化水素及び有機化合物からなる過酸化水素安定剤を含有する銅エッチング廃液を60〜80℃に加熱し同温度範囲に0.5〜10時間維持して過酸化水素を分解した後、電気分解して銅成分を金属銅として回収することを特徴とするものである。
【0029】
本発明の処理対象である銅エッチング廃液は、多層プリント配線板の製造工程において、銅張り基板上の銅箔に回路を形成する際に不要部分を溶解除去するために使用されるエッチング液、いわゆるソフトエッチング液の性能が劣化した廃液が代表的なものであり、このエッチング廃液中には、勿論溶解された銅が高濃度で含有されている。
【0030】
そして、この廃液中には銅エッチング用の成分である硫酸及び過酸化水素が勿論含まれており、かつ過酸化水素の分解を抑制するための過酸化水素安定剤である有機化合物も含有されている。本発明の処理対象となる銅エッチング廃液としては、前記したいわゆるソフトエッチング液の性能が劣化した廃液に限定されるものではなく、エッチングにより溶解した銅を含有し、かつ硫酸、過酸化水素及び過酸化水素安定剤を含有するエッチング廃液であれば、特に制限されることなく使用可能である。
【0031】
本発明では、銅エッチング廃液は60〜80℃に加熱し同温度範囲に0.5〜10時間維持して過酸化水素を分解した後に電気分解されるが、60〜80℃に加熱し、同範囲の温度に所定時間維持するのは、過酸化水素を効率的に加熱分解するためである。60℃以上に加熱保持するのは60℃が過酸化水素を経済的に分解し得る最低温度のためであり、逆に80℃以下に加熱保持するのは安価かつ簡便な設備にすると共に運転操作の安全性を考慮したためである。加熱分解後の銅エッチング廃液中の過酸化水素濃度は、1.0g/L以下がよい。このように過酸化水素濃度が低い方がよいのは電解処理の電流効率が良くなるためである。
【0032】
銅エッチング廃液中に含有される過酸化水素安定剤については、特に制限はなく、各種の有機化合物からなる過酸化水素安定剤を含有する銅エッチング廃液を本発明の方法により処理可能である。その安定剤には、例えばプロパノール、シクロヘキシルアミン、アジピン酸あるいはブチルジグリコール等があるが、本発明では、それらの1又は2以上を含有する銅エッチング廃液を適切に処理することが可能である。
【0033】
この廃液中に含有される過酸化水素安定剤である有機化合物の濃度については、特に制限されることはなく、エッチング処理後の濃度のまま電解処理してもよいが、希釈した後電解処理するのが好ましい。その理由は、希釈により該有機化合物濃度を低減させることができ、無希釈のまま電解した場合に比し、希釈して電解した場合の方が析出する銅の純度が向上することが判明したからである。
【0034】
このエッチング液は、所定のエッチング性能が発現する限り継続使用され、劣化した場合に廃棄されるものであるが、過酸化水素は、過酸化水素安定剤が含有されているとはいえ、分解を完全に抑制することは不可能であり、該安定剤は逐次追加されるので、エッチング液中の過酸化水素安定剤である有機化合物の濃度は時間の経過と共に上昇する。
【0035】
そのエッチング液が所定の能力を発揮しなくなると、性能の劣化したエッチング液は廃棄され、新しいエッチングと交換されることになるが、その廃棄されたエッチング廃液の有機化合物の濃度に関し、CODを測定したところ2000mg/L以上にも上昇しているものがあることが判明した。この廃液をバレル電解槽でそのまま電気分解した場合には、エッチング廃液中の銅はバレル中に収納された銅パイプに析出するものの、まもなく脱離して銅パイプはほとんど成長しないことも判明した。
【0036】
また、その銅パイプ表面には黒い膜が形成されたような状態になり、電解槽内には、銅パイプから脱落した多数のフレーク状の銅片が蓄積し、その取り出しには手間がかかるし、銅純度も低いものであることもわかった。前記したとおりCODを電解前に予め除去する手段など思い浮かばないので、とりあえず、エッチング廃液を硫酸で3倍に希釈して電解したところ銅パイプは成長し、取扱の簡便なものとなることがわかった。その表面は銅特有の赤色を有し、純度の高いものであることも判明した。そのときのCODは、約600mg/Lであった。
【0037】
そこで、CODと析出した銅との関係に関し更に検討したところ、約1500mg/Lでバレル電解槽で電解を行うと、電極である銅パイプから脱離することのない状態で銅が析出し、表面の黒色も薄くなり、1000mg/L以下にすると、析出した銅は銅パイプにしっかり固着している。その結果フレーク状となって脱離することもなく、かつその表面は銅特有の赤色を有し、純度の高いものが得られることがわかった。
【0038】
このような事実から、電解時にはエッチング廃液中のCODは1500mg/L以下がよく、好ましくは1000mg/L以下がよい。特に500mg/L以下にすると品質のよい高純度の銅が得られる。このエッチング廃液の希釈には、硫酸以外の他の無機酸又は無機塩水溶液も使用できることを確認しており、硝酸、塩酸、硫酸ナトリウム、塩化カリウム等が例示できるが、該廃液中に多量に存在する硫酸が好ましく使用できる。
【0039】
以上のことから、高純度の取扱い易い銅を析出させることができるかどうかの判断基準として、CODが有効であることが判明した。さらに、前記したとおりエッチング廃液電解時には、CODが1500mg/L以下がよく、好ましくは1000mg/L以下がよいことも判明した。なお、廃液を希釈した際に銅も有機化合物と同様に希釈されることから、銅濃度の変化がCOD成分の変化の目安になることもわかる。
【0040】
次いで、本発明の実施の形態について、図面に基づいて更に詳述する。
図1は、本発明の銅エッチング廃液の処理を行う装置の基本的な構成を図示するものである。この図の装置はは、加熱装置1、保温槽2及び電解槽3からなる単純な構造のものであり、銅エッチング廃液は加熱装置1にまず供給して60〜80℃に加熱され、その後保温槽2に導入されて同温度範囲に0.5〜10時間保持し過酸化水素を分解する。この廃液は過酸化水素が加熱分解された後に電解槽3に供給され、電気分解されて金属銅が析出され銅が回収されることになる。なお、この装置による銅の回収はバッチ処理で行うのがよい。
【0041】
この装置における加熱装置1、保温槽2及び電解槽3については特に制限されることはなく、それぞれの機能を有するものであれば、各種のものが使用可能である。加熱装置については 容器に銅エッチング廃液を加熱する機器を具備するものが好ましく、加熱機器としては耐食性のある各種ヒータ、熱交換器等が例示できるが、耐食性の点で石英管ヒータが好ましい。
【0042】
また、この容器に加熱機器を具備した加熱装置においては該装置内の液の攪拌を行うのがよく、そのために液の一部を外部に取りだし循環を行うのが好ましい。なお、この銅エッチング廃液の加熱及び加熱温度維持については、この加熱装置1のみで行うことも可能である。以上のとおりではあるが、保温槽2を設置することにより、加熱と保温を別体化することにより加熱装置の加熱性能を小能力のものとすることがきるので、保温槽3を設置することが望ましい。
【0043】
その保温槽については、加熱装置で60〜80℃に加熱された銅エッチング廃液をその温度範囲に維持することができるものであれば、各種の容器が特に制限されることなく使用可能であるが、容器を各種保温材で覆ったものが好ましく使用できる。なお、保温槽2の内容積は加熱装置1の数倍以上のものが必要である。また発生したミストの吸引を行うのがよく、そのため負圧に耐えられる容器が好ましい。
【0044】
電解槽3については バレル式、平板式等があり、それらはいずれも使用可能であるが、回収される銅の取扱容易性、並びに設備の簡便及び安価な点でバレル電解槽が好ましい。このバレル電解槽には、筒型のバレル本体が水平方向に回転するように軸支され、このバレル本体内には直径数十mm、長さ数十mmの多数の銅パイプが収納されている。このバレル電解槽3を用いて電気分解を行った場合には、銅エッチング廃液中に溶解している銅は、銅パイプ外表面上に析出し銅パイプは成長して太くなり、外径が次第に大きくなる。なお、電解終了後の処理廃液は、銅がほぼ全量除去されているので、これをアルカリ廃液の中和に利用することもできる。
【0045】
【実施例】
以下に、本発明に関し実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は、この実施例によって何等限定されるものではなく、特許請求の範囲によって特定されるものであることはいうまでもない。
この実施例では、図1に図示される基本的な構成を有する装置を用いて銅エッチング廃液の処理を行った。加熱装置1は容器(内容積300L)に石英管ヒーターを設置したもの、保温槽2は容器(内容積4000L)をグラスウールで保温したもの、電解槽3はバレル電解槽を用いた。
【0046】
電解に使用した銅エッチング廃液は、銅38g/L、過酸化水素15g/L、硫酸根105g/Lを含有し、かつ過酸化酸素安定剤としてプロパノール及びシクロヘキシルアミンを含有し、CODは1980mg/Lであった。この廃液を加熱装置1に毎回200L供給して80℃に加熱し、加熱後保温槽2に送液して貯留した。加熱は繰り返し10回行い加熱後の廃液は全て保温槽2に送液した。
【0047】
10回の送液後全量で2000Lとなった銅エッチング廃液を7時間貯留し、この貯留時に過酸化水素の分解を行った。その後電気分解を行うべくバレル電解槽3に送液した。また、この電解槽3には、硫酸(濃度10重量%)も2000L供給した。その結果電解槽3中で銅エッチング廃液と硫酸は混合され、銅エッチング廃液中の硫酸を除く各成分は希釈され、希釈後の各成分の濃度は、銅18.8g/L、過酸化水素70mg/L、硫酸根106g/L、CODは987mg/Lであった。
【0048】
電解槽では、直流500Aを38時間通電し、定電流電解を行った。この電解によりバレル電解槽内の銅は還元され、同槽内の陰極をなす銅パイプ外表面に析出し、銅パイプは使用した電気量に伴って外径が太くなり成長した。電解終了後の廃液の組成は、銅100mg/L、過酸化水素0mg/L、硫酸根108g/Lであった。銅パイプ外表面に析出した銅の重量は、74.5kg、純度は99.7%で高純度のものであった。
【0049】
この電解においては、得られた銅は、99.7%の高純度のものであり、外観的にも基材の銅パイプにしっかりと固着し、また銅特有の鮮明な赤色のものであった。なお、この実施例の場合のように硫酸等の無機酸で混合希釈することなく電解を行った場合には、析出した銅は析出後しばらくすると脱離し、電解槽内に堆積し取扱がやっかいなものとなった。
【0050】
【発明の効果】
本発明の銅エッチング廃液の処理方法においては、エッチング廃液中の過酸化水素は電解槽に導入される前に予め加熱除去されており、また電解槽においてはエッチング廃液中に溶解された銅が電気分解によりほぼ完全に回収される。したがって、廃棄物処理業者に依頼して処理する従来の場合のよう埋め立て処分を必要とするスラッジの発生がなく、それに伴う多大の処理コストを低減することができる。
【0051】
そして、電気分解の前には、前記したとおり過酸化水素が加熱分解により予め除去されており、本発明者が最近開発した銅の回収と過酸化水素の分解とを電解槽内で合わせて行うことのできる銅エッチング廃液処理技術の問題点である銅の析出に先だつ電解槽内の陰極において発生する過酸化水素の分解を避けることができ、その分解に伴う電力の浪費が回避できる。
【0052】
また、本発明者は、その後この電力浪費を回避できる銅析出のための電流効率を極めて向上させることできる技術も開発したものの、この技術においてもエッチング廃液中に残存する銅及び過酸化水素は、バッチ処理であることから、各処理後のそれらの濃度の変動が大きく、そのため両者の組成比の変動による電流効率の変動も大きくなり、装置能力を必要以上に過大にせざるを得ないという新たな問題があることが判明しており、本発明においては、過酸化水素を予め除去していることから、この問題も解消できる優れたものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の銅エッチング廃液の処理を行う装置の基本的な構成を示す。

Claims (4)

  1. 硫酸、過酸化水素及び有機化合物からなる過酸化水素安定剤を含有する銅エッチング廃液を60〜80℃に加熱し同温度範囲に0.5〜10時間維持して過酸化水素を分解した後、電気分解して銅成分を金属銅として回収する銅エッチング廃液の処理方法であって、電気分解前に無機酸又は無機塩水溶液を混合してCODを低下させることを特徴とする銅エッチング廃液の処理方法。
  2. 無機酸又は無機塩水溶液の混合が、過酸化水素分解前又は分解後である請求項1に記載の銅エッチング廃液の処理方法。
  3. CODを1500mg/L以下に低下させた後に電気分解する請求項1又は2に記載の銅エッチング廃液の処理方法。
  4. 過酸化水素を分解した後の残留過酸化水素濃度が2.0g/L以下である請求項1ないし3のいずれか1項に記載の銅エッチング廃液の処理方法。
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