JP4184764B2 - エアフィルタ用濾材 - Google Patents

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、エアフィルタ用濾材、特に半導体、液晶、バイオ・食品工業関係のクリーンルーム、クリーンベンチ等あるいはビル空調用エアフィルタ、空気清浄機の用途などに使用されるエアフィルタ用濾材に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、空気中のサブミクロン、あるいはミクロン単位の粒子を効率的に捕集するために、エアフィルタ用濾材が用いられている。濾材はその捕集性能により、中性能フィルタ用、HEPAフィルタ用、ULPAフィルタ用に大別される。このうちHEPAフィルタ用については、米軍規格MIL-STDにおいて、有効面積100cm2の濾材に面風速5.3cm/秒で通風した時の0.3μm DOP捕集効率が99.97%以上と規定されている。ULPAフィルタ用については、明確な規定は無いが、IESのRP-21において、面風速2.5cm/秒で通風した時の0.1〜0.2μmの捕集効率が99.999%以上と定義づけされている。
【0003】
エアフィルタ用濾材においては、通常、主要構成物として、平均繊維径がコンマ数μm〜数十μmオーダーのガラス繊維が用いられている。
【0004】
しかし、ガラス繊維にはそれ自体、一般紙に用いられるパルプ繊維のような自己接着力が無く、このままでは後加工や実使用の際の実用強度が無い、あるいは、通風時にガラス繊維が飛散してしまうなどの問題が生じてしまう。従来、この問題を解決するためにガラス繊維基材に有機系のバインダーを付与する方法が用いられている。ここで使用されるバインダーとしては、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリビニルアルコール、ウレタン樹脂などがある。
【0005】
しかし、この方法で濾材強度を上げようとすると、バインダー付着量を増やす必要があるが、付着量を増やすと、ガラス繊維間にバインダーの水掻き状膜が増えるため、濾材の圧力損失が高くなり、しかも粒子捕集効率が低下するという問題が生じる。
【0006】
これを解決する手段として、シリコン樹脂を含有することでバインダーの表面張力を低下させ、バインダーの水掻き状膜を解消または減少させる方法が提案されている(特許文献1および2参照)。しかし近年、特に半導体分野においてシリコン樹脂に含有される微量の低分子シロキサンのクリーンルーム内への放散がLSIの生産歩留に影響を与えることが分かり、シリコン樹脂の使用自体が難しくなっている。
【0007】
本発明者らは、以前、濾材を構成するガラス繊維にバインダーと25℃純水中に添加した際の最低表面張力が20dyne/cm(=20mN/m)以下であるフッ素系界面活性剤を付着させたエアフィルタ用濾材を提案した(特許文献3参照)。この発明は、前記問題点を解決するものとして効果を上げた。しかし、フッ素系界面活性剤の付着にともない、バインダー樹脂表面の濡れ性をより高めてしまい、濾材の撥水性の低下を起こす問題があった。そこで本発明者らは撥水剤を併用することでこれを解決しようとした(特許文献3、特に実施例)。
【0008】
エアフィルタ用濾材の撥水性については、フィルタユニット加工時に使用されるシール剤やホットメルト等のしみ込みを防ぐことや、濾材面に水がかかったり、温度変化により水分が結露した場合でも、そのまま濾材を使用できるようにするために、通常、撥水性を付与させる必要がある。また、海塩粒子が多く存在するような環境下においては、捕集された塩分の潮解を防ぐために高撥水性を有する濾材が必要とされている。MIL規格においては、HEPA濾材の撥水性は、508mm(水柱高)以上と規定されている。実際は撥水性150mm(水柱高)以上あれば濾材の後加工では問題無いが、実使用時には前述の理由で撥水性は少なくとも300mm(水柱高)以上、できれば508mm(水柱高)以上が望ましい。
【0009】
従来のバインダー(アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリビニルアルコール、ウレタン系樹脂等)とフッ素系界面活性剤を付着させることにより低圧力損失化・高捕集効率化させた前記発明記載のエアフィルタ用濾材において、濾材に高い撥水性を付与させるためには、バインダーとは別にフッ素系、シリコン系、ワックス系等の撥水剤の添加が必要不可欠であり、その添加量も前記の理由で通常使用しているよりもさらに増量する必要がある。撥水剤の添加量を増量することは、製造コストの増大だけでなく、ほとんどの撥水剤がバインダー機能を有していないために、濾材の強度低下を引き起こす。さらには、撥水剤添加量を増量すると、撥水剤に由来する低分子有機物アウトガスも増加し、これがクリーンルーム内に放散された場合、シリコン樹脂の場合と同様に、LSIの生産歩留に影響を与える等の問題が生じる原因となってしまう。そのため、半導体製造工程で使用される濾材においては、撥水剤は使用しないか、もしくは、必要最小限の使用にとどめることが望まれている。
【0010】
濾材からの低分子有機物アウトガスを低減させ、かつ撥水性を有させる従来技術として、バインダーにソープフリーエマルジョンを使用する方法(特許文献4参照)、撥水剤に炭素数20以上のマイクロクリスタリンワックス、炭素数20以上のポリオレフィンワックス、炭素数18以上の高級アルコールを使う方法(特許文献5参照)、バーサティック酸ビニル重合物樹脂などをバインダーに用いる本発明者らが先願した方法(特許文献6参照)、乳化剤等の添加剤をほとんど含まない疎水性モノマーと親水性モノマーの共重合体からなるポリマーディスパージョンをバインダーとして用いる方法(特許文献7参照)が提案されていた。しかし、これらはいずれも濾材の低圧力損失・高捕集効率化を目指したものではなかった。
【0011】
以上のように、エアフィルタ用濾材の低圧力損失化・高捕集効率化を達成すると同時に、十分な撥水性と強度を付与し、さらには、低分子有機物アウトガスの発生量も少なく抑えることは非常に困難である。しかし、このような特性を全て満たす濾材への要求は非常に強く、それらを達成するための改良手段が必要となっていた。
【0012】
【特許文献1】
特開平2-41499号公報、第3頁
【0013】
【特許文献2】
特開平2-175997号公報、第3頁
【0014】
【特許文献3】
特開平10-156116号公報、第2頁および各実施例
【0015】
【特許文献4】
特開平10-244112号公報、第2〜3頁
【0016】
【特許文献5】
特許第3282113号公報、第4〜5頁
【0017】
【特許文献6】
特開2002-136815号公報、第2〜3頁
【0018】
【特許文献7】
WO00/37160、第6頁
【0019】
【発明が解決しようとする課題】
したがって本発明の課題は、第一に、撥水性および強度物性を維持したまま、低圧力損失化・高捕集効率化を達成し、第二に、第一の課題に加え、濾材から発生する低分子有機物アウトガス量を極力少なく抑えた、エアフィルタ用濾材とその製造方法を提供することである。
【0020】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、撥水性および強度物性を維持したまま、低圧力損失化・高捕集効率化を達成し、さらには、濾材から放散される低分子有機物アウトガス量を極力少なく抑えた高性能エアフィルタ用濾材を提供するため鋭意研究を行った結果、濾材を構成するガラス繊維に、平均粒子径が100nm以下であるポリマーディスパージョンと、25℃純水中に添加した際の最低表面張力が20mN/m以下であるフッ素系界面活性剤を付着させることにより、従来品と比較して極めて特徴的なエアフィルタ用濾材が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0021】
従って本発明の対象は、濾材中にポリマーディスパージョンからなるバインダーと対濾材当たり0.3重量%以下のフッ素系界面活性剤を含有し、濾過性能の指標であり下記数式1によって示されるPF値が14.5以上であり、濾材のMIL-STD-282に測定方法が規定される撥水性が300mm(水柱高)以上であることを特徴とする、エアフィルタ用濾材に関する:
【外2】
Figure 0004184764
※1 数式1中の圧力損失は、濾材に対し5.3cm/sの面風速で空気を通過させた際のもの(単位:Pa)。
【0022】
※2 数式1中の0.3μm換算捕集効率は、5.3cm/sの面風速で粒子径0.2〜0.3μm、および0.3〜0.4μmのDOP(ジオクチルフタレート)粒子を用いて各透過率を測定し、その相乗平均の透過率から求めたもの。(ここで、捕集効率(%)=100−透過率(%))
更に本発明は、濾材を構成するガラス繊維に、バインダーとして平均粒子径が100nm以下であるポリマーディスパージョンと、25℃純水中に添加した際の最低表面張力が20mN/m以下であるフッ素系界面活性剤を対濾材当たり0.3重量%以下付着させたことを特徴とするエアフィルタ濾材にも関する。
【0023】
本発明の有利な一つの実施態様は、濾材を80℃で加熱した際のアウトガス発生ガス速度が、1000ng/g・hr以下である場合である。
【0024】
また、ポリマーディスパージョンが、疎水性部と親水性部を有したポリマー構造からなる場合も本発明の実施態様の一つである。
【0025】
他の有利な実施態様の一つは、ポリマーディスパージョンが親水性部でアルカリ金属イオンあるいはアルカリ土類金属イオンあるいはアンモニウム化合物イオンで中和した塩の構造を取ったアイオノマーである場合である。ここでアンモニウム化合物にはアンモニア、アミンも含まれる。
【0026】
本発明の別の有利な一つの実施態様においては、濾材のMIL-STD-282に測定方法が規定される撥水性が508mm(水柱高)以上である。
【0027】
本発明のエアフィルタ用濾材は、濾材を構成するガラス繊維を分散させたスラリーを湿式抄紙することにより得られた湿紙に、平均粒子径が100nm以下であるポリマーディスパージョンに対して、バインダー液固形分濃度2%とした際の25℃での水溶液表面張力が45mN/m以下となるように、25℃純水中に添加した際の最低表面張力が20mN/m以下であるフッ素系界面活性剤を添加して得られた混合液を付着させることによって製造される。
【0028】
本発明のエアフィルタ用濾材で用いるバインダーは、ポリマーディスパージョンと呼ばれるものであり、ポリマー鎖に適当な量の親水性部を有することにより、乳化剤を使用しなくとも水に安定的に分散された状態となっている。一方、先願発明(特許文献3)に使用されるポリマーは、界面活性剤等乳化剤で水溶媒中に分散安定化させたポリマーエマルジョンであり、ポリマーディスパージョンとポリマーエマルジョンとは分散機構が明らかに異なるものである。ポリマー内の親水性部は通常、主鎖の一部に結合、あるいは側鎖の末端に結合した親水性基の形をとっており、親水性基としてはカルボキシル基、水酸基、スルホン酸基などが挙げられる。
【0029】
また、濾材に撥水性を付与するためには、ポリマーディスパージョンがある程度の疎水性部を有していることが必要である。例えば、でんぷんやポリビニルアルコール、ポリアクリルアミドなどは乾燥皮膜を形成させても皮膜の親水性が強すぎるため、十分に高い撥水性を付与させることができない。疎水性部としてはポリマー主鎖や側鎖に疎水性の強いポリオレフィン構造や芳香環が導入されていることが好ましい。
【0030】
本発明で使用されるポリマーディスパージョンとしては、ポリマー組成的に限定されるものではないが、例えばスチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、主構造に親水性基を結合させ変性したポリエステル樹脂、あるいはポリウレタン樹脂などが挙げられる。ポリマーディスパージョンは構造内の親水性部で水溶媒との親和性を保持しているが、さらに分散安定性を増すために、少量の界面活性剤や溶剤が添加されている場合がある。
【0031】
ポリマーディスパージョンとして本発明で使用されるアイオノマーとは、ポリマーの親水性基がNa、K、Mg、Caなどアルカリ金属、アルカリ土類金属、あるいはアンモニア、アミンを含めたアンモニウム化合物のカウンターイオンと中和して塩の構造を取ったものであり、分散安定性が非常に良好で、前述の添加剤を含まないので、アイオノマーのポリマーディスパージョンを使用することはより好ましいことである。
【0032】
また、本発明の撥水性300mm(水柱高)以上を達成するには、前記ポリマーディスパージョン単独で濾材に付与させた場合の撥水性が200mm(水柱高)以上のものを使用することが好ましい。
【0033】
本発明において用いられるポリマーディスパージョンは、その平均粒子径が100nm以下のものである。このように小粒子径のポリマーを用いた場合、ガラス繊維の表面をこれまでより均一でムラなく被覆することができる。親水性のガラス繊維表面に、より均一でムラのないポリマー皮膜を形成させることは、濾材に撥水性を付与するために非常に重要である。
【0034】
ただし、ポリマーディスパージョン単独をバインダーに使用しても、濾材に撥水性は付与できるものの、同時にバインダーの水掻き状膜も形成されてしまい、濾過性能は従来バインダーに比べ高圧力損失・低捕集効率へと低いものとなってしまう。
【0035】
本発明者らは、このような粒子径の小さいポリマーディスパージョンと少量のフッ素系界面活性剤を付与すると、エアフィルタ用濾材を低圧力損失・高捕集効率化すると同時に、撥水性を低下させずにむしろ撥水剤を併用せずとも撥水性を向上させることができることを見出した。また、低圧力損失・高捕集効率化の効果もよりいっそう高くなることを見出した。
【0036】
低圧力損失化・高捕集効率化の機構については、先願発明(特許文献3)に記載した通り、バインダー液の表面張力低下により濾材構成繊維への濡れ性が改善し、繊維1本1本の表面あるいは交絡部分にバインダー液が浸透して、ガラス繊維間の水掻き状バインダー膜が減少したためであると考えられる。元来、ポリマーディスパージョンは乳化剤をほとんど含有しないためバインダー液の表面張力が高く、これが単独使用時の濾過性能悪化の要因と予想されるが、フッ素系界面活性剤の付加による表面張力低下効果が大きいこと、ポリマーディスパージョンの粒径が非常に小さいため繊維への浸透効果がさらに良くなったことが原因と推測される。この結果、エアフィルタ用濾材の濾過性能は、前記数式1に示されるPF値が14.5以上と向上した。
【0037】
一方、撥水性の向上効果については驚くべき結果であり、従来のバインダーには全く見られなかった現象である。この機構は定かではないが、フッ素系界面活性剤の添加がポリマーディスパージョンのガラス表面に対する濡れ性を向上させ、ガラス繊維表面におけるポリマー被膜の均一性がいっそう増し、この結果濾材の撥水性が向上したものと推測される。
【0038】
ただし、ここでフッ素系界面活性剤を添加しすぎると、逆に撥水性の低下を引き起こす。これは、フッ素系界面活性剤の濡れ剤としての効果がポリマー皮膜の撥水機能を阻害した可能性がある。
【0039】
フッ素系界面活性剤の濾 材含有量と撥水性の関係について実験結果の一例を図1に示した。従来処方は先願発明(特許文献3)によるもので、アクリル樹脂エマルジョンバインダーおよびフッ素系界面活性剤の他に、撥水性を高めるためにバインダー液の重量を基準として0.15重量%のフッ素系撥水剤(商品名:ライトガード FRG-1,製造元:共栄社化学(株))を併用したものであるが、フッ素系界面活性剤の濾材含有量が増えるにしたがって、撥水剤に起因する高い撥水性が急激に低下してしまう。一方、本発明に従ってポリマーディスパージョンを用いた場合には、前述の如く、撥水剤を併用せずともフッ素系界面活性剤の最適濾材含有量で特異的に高撥水性が得られることが分かる。
【0040】
また、図2は同じ実験でフッ素系界面活性剤の濾材含有量とPF値の関係の結果である。上記従来処方、本発明処方ともにフッ素系界面活性剤の濾材含有量が増えるとPF値は上昇するが、本発明処方の方でその効果が顕著であることが分かる。
【0041】
濾材に対するフッ素系界面活性剤付着量は撥水性の点から重要であり、濾材中に含有されるフッ素系界面活性剤量として対濾材当たり0.3重量%以下にとどめることが望ましい。この範囲内であれば、撥水性の低下と強度物性の低下がほとんど無く、濾過特性の低圧力損失・高捕集効率化が実現でき、なおかつ低分子有機アウトガスを低レベルに抑えることができる。(ここで、低分子有機アウトガス目標レベルは、濾材80℃加熱時でアウトガス発生速度1000ng/g・hr以下とした。)この理由は、フッ素系界面活性剤が他の界面活性剤に比べ少量で効果を発揮でき、また発生する低分子有機物アウトガス量も少ないことによるものと考えられる。しかし、含有量が対濾材当たり0.3重量%より多いと、低圧力損失・高捕集効率化の濾材が得られたとしても、フッ素系界面活性剤の影響による撥水性、強度物性の低下が顕著になり、さらには低分子有機アウトガスが目標レベルを超えてしまうので、好ましくない。
【0042】
なお、濾材中のフッ素系界面活性剤含有量については、濾材中のバインダー量、バインダー液中のフッ素系界面活性剤量から推定可能である。また、例えば濾材をアルカリ融解法などの前処理をしてからランタン−アリザリンコンプレキソン吸光光度法でフッ素量を定量するなどの分析からフッ素系界面活性剤中のフッ素含有量が分かれば、濾材中のフッ素系界面活性剤含有量を求めることができる。ちなみに、フッ素系界面活性剤中のフッ素含有率はおおよそ40〜80重量%と見られる。
【0043】
フッ素系界面活性剤付与による撥水性の向上は、粒子径100nm以下のポリマーディスパージョンにおいてのみ見られる現象であり、粒子径が100nmを超える粒子径の大きいポリマーディスパージョンにおいては撥水性の向上は見られない。これは、ポリマーの粒子径が大きいため、もともとガラス表面を均一に被覆することが難しく、ここにフッ素系界面活性剤を付与しても不均一な状態は改善されないため、撥水性の向上が見られないものと推測される。
【0044】
なお、先述の先行技術のうち、特許文献4、5および6に記載の方法では、従来のバインダーと同様フッ素系界面活性剤の付与により撥水性と強度物性が大きく低下してしまう。また、特許文献7に使用されている乳化剤等の添加剤をほとんど含まない疎水性モノマーと親水性モノマーの共重合体からなるポリマーディスパージョンのバインダーは、疎水性部と親水性部を有したポリマー構造からなる、本発明で使用されるポリマーディスパージョンの範疇に含まれるものと推測される。しかし、先述の如く、このバインダーを単独使用してもバインダーの水掻き状膜が形成されて濾過性能が低下する問題点がある。さらに、この発明は有機物アウトガスの発生を抑制するため乳化剤(界面活性剤)やその他の添加物を極力バインダーに含有させない技術である一方、本発明はバインダーにあえてフッ素系の界面活性剤を対濾材当たり0.3重量%以下添加して目的を達成させている点で、全く異なった技術思想のものである。
【0045】
本発明のエアフィルタ用濾材で用いられるフッ素系界面活性剤はフッ素系撥水剤とは相違するものであり、好ましくは分子中にフルオロアルキル基(CF3−CF2−CF2−・・・)の疎水性基と親水性基を含有するものである。例として、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルトリメチルアンモニウム塩、パーフルオロアルキルベタイン、パーフルオロアルキルアミンオキサイド、パーフルオロエチレンオキシド付加物、パーフルオロアルキルアミノスルホン酸などが挙げられるが、25℃純水中に添加した際の最低表面張力が20mN/m以下であるもので本発明の目的を達成できるものであるならば、使用についてその種類を限定するものではない。ただし、撥水・撥油用途で使われるフッ素系樹脂は、ほとんどの場合分子中に親水性基が含有されていないので、ほぼ該当しない。
【0046】
バインダー液表面張力の低下方法については、分子中にフルオロアルキル基の疎水性基と親水性基を含有するフッ素系界面活性剤を液に添加することで効果が得られ、また十分に効果を得るためには、同フッ素系界面活性剤の中でも、25℃純水中に添加した際の最低表面張力が20mN/m以下でなければならない。これ以上では水掻き状膜の減少が少なく、圧力損失の低減と捕集効率の向上が期待し得ず、バインダー液への添加効果がほとんど無くなってしまう。
【0047】
フッ素系界面活性剤添加後のバインダー液の表面張力については、バインダーの組成・粘度・濃度などの条件で変わるため、絶対値として規定することは難しいが、バインダー液固形分濃度2%とした際の25℃の水溶液表面張力が45mN/m以下となるようにするのが目安となる。
【0048】
また、補助的に撥水性を付与する目的で、かつアウトガス発生速度が前述目標値以下ならば、先述のフッ素系、シリコン系、ワックス系等の撥水剤の併用は可能である。ただし、低アウトガスの目的からしてその使用は最小限にとどめるべきである。
【0049】
本発明で主体繊維として使用するガラス繊維は、必要とされる濾過性能やその他物性に応じて、種々の繊維径や繊維長を有する極細ガラス繊維やチョップドガラス繊維の中から自由に選ぶことが出来る。特に、極細ガラス繊維は火焔延伸法やロータリー法で製造されるウール状のガラス繊維であり、濾材の圧力損失を所定の値に保ち、適正な捕集効率とするための必須成分である。繊維径が細くなるほど捕集効率は高くなるため、高性能の濾材を得るためには平均繊維径の細かい極細ガラス繊維を配合する必要がある。ただし、繊維径が細くなると圧力損失が上昇しすぎる場合があるので、この範囲内で適正な繊維径のものを選択すべきである。なお、数種の繊維径のものをブレンドして配合しても構わない。また、半導体工程の汚染を防止する目的で、ローボロンガラス繊維やシリカガラス繊維を使用することも出来る。更に副資材として、天然繊維や有機合成繊維などをガラス繊維中に配合しても差し支えない。
【0050】
基材に対するバインダーの付与率は、1〜10重量%が望ましく、1重量%未満の添加では濾材加工、実使用に耐える濾材強度が出ず、10重量%以上ではバインダーが濾材の目詰まりを起すため、圧力損失の上昇が起こり濾過性能が低下してしまう。また、可燃物であるバインダー量が多いと濾材の難燃性を悪化させてしまう。
【0051】
本発明のエアフィルタ用濾材は以下の製造方法で得ることができる。すなわち、濾材を構成するガラス繊維をパルパーなどを用いて水中に分散させ、このスラリーを抄紙機で湿式抄紙して湿紙を得る。次にこの湿紙に前述のフッ素系界面活性剤とポリマーディスパージョンを添加したバインダー液を付着させ、その後乾燥させる方法である。また、湿紙を乾燥した後にバインダー液を付与してもその効果は変わらない。
【0052】
原料繊維の分散工程では分散性を良くするために、硫酸酸性でpH2〜4の範囲で調整する方法を取るが、pH中性で分散剤などの界面活性剤を使用しても良い。ポリマーディスパージョンとフッ素系界面活性剤は、それぞれ単独で付着させても効果は無く、これらを混合したバインダー液を付着させなければならない。また、撥水性や難燃性を付与するため、本発明の目的の範囲内でバインダー液に撥水剤や難燃剤を添加することも可能である。
【0053】
バインダー液の付与方法としては特に限定されるものではないが、湿紙又は乾紙を付着液に浸漬する方法、湿紙又は乾紙にスプレーで吹き付ける方法、ロールに付着液を付着させ湿紙又は乾紙に転写する方法が挙げられる。乾燥方法としては、熱風乾燥機、ロールドライヤーなどを利用し、110〜160℃で乾燥することが望ましい。
【0054】
【実施例】
次に、実施例および比較例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれにより何ら限定されるものではない。
【0055】
[実施例1]
平均繊維径0.65μmの極細ガラス繊維60重量%、平均繊維径2.70μmの極細ガラス繊維35重量%、平均繊維径6μmのチョップドガラス繊維5重量%を、離解濃度0.5%、硫酸酸性pH2.5の水でミキサーを用い離解した。次いで手抄装置を用いて抄紙して湿紙を得た。この湿紙に、バインダー液を基準として1.90重量%のアイオノマーポリマーディスパージョン(商品名:ザイクセンA、製造元:住友精化(株))、0.04重量%のフッ素系界面活性剤(商品名:メガファックF120、製造元:大日本インキ化学工業(株))を含有するバインダー液を湿紙に付与し、その後130℃の熱風ドライヤーで乾燥し、目付重量70g/m2、バインダー付着量5.5重量%の濾材を得た。
【0056】
[実施例2]
実施例1においてバインダー液組成のうち、フッ素系界面活性剤量を0.09重量%とした以外は実施例1と同様にして、目付重量70g/m2、バインダー付着量5.5重量%の濾材を得た。
【0057】
[実施例3]
実施例1においてバインダー液組成のうち、スチレン−アクリル酸系ポリマーディスパージョン1.85重量%(商品名:SS316、製造元:日本PMC(株))、フッ素系界面活性剤量0.04重量%とした以外は実施例1と同様にして、目付重量70g/m2、バインダー付着量5.5重量%の濾材を得た。
【0058】
[実施例4]
実施例1においてバインダー液組成のうち、変性ポリエステルポリマーディスパージョン2.00重量%(商品名:バイロナールMD−1245、製造元:東洋紡績(株))、フッ素系界面活性剤量0.04重量%とした以外は実施例1と同様にして、目付重量70g/m2、バインダー付着量5.5重量%の濾材を得た。
【0059】
実施例1〜4について、下記で詳述する試験の結果を含めて表1に総括掲載する。
【0060】
【表1】
Figure 0004184764
[比較例1]
実施例1においてバインダー液組成を、アクリル酸エステル系ポリマーエマルジョン1.70重量%(商品名:ボンコートAN−258、製造元:大日本インキ化学工業(株))、フッ素系撥水剤 (商品名:ライトガード FRG-1,製造元:共栄社化学(株))0.15重量%とした以外は実施例1と同様にして、目付重量70g/m2、バインダー付着量5.5重量%の濾材を得た。
【0061】
[比較例2]
比較例1においてバインダー液組成に対し、さらにフッ素系界面活性剤量0.04重量%を加えた以外は比較例1と同様にして、目付重量70g/m2、バインダー付着量5.5重量%の濾材を得た。
【0062】
[比較例3]
比較例2においてバインダー液組成のうち、フッ素系撥水剤量を0.35重量%とした以外は比較例2と同様にして、目付重量70g/m2、バインダー付着量5.5重量%の濾材を得た。
【0063】
[比較例4]
実施例1においてバインダー液組成を、ソープフリー系アクリル酸エステル系ポリマーエマルジョン2.00重量%(商品名:ヨドゾールAD−57、製造元:日本エヌエスシー(株))、フッ素系界面活性剤量0.05重量%とした以外は実施例1と同様にして、目付重量70g/m2、バインダー付着量5.5重量%の濾材を得た。
【0064】
[比較例5]
実施例1においてバインダー液組成を、アイオノマーポリマーディスパージョン1.90重量%のみとした以外は実施例1と同様にして、目付重量70g/m2、バインダー付着量5.5重量%の濾材を得た。
【0065】
[比較例6]
実施例1においてバインダー液組成のうち、フッ素系界面活性剤量を0.13重量%とした以外は実施例1と同様にして、目付重量70g/m2、バインダー付着量5.5重量%の濾材を得た。
【0066】
比較例1〜6について、下記で詳述する試験の結果を含めて表2に総括掲載する:
【0067】
【表2】
Figure 0004184764
実施例及び比較例の分析は下記の方法で行った。
(1)圧力損失
自製の装置を用いて、有効面積100cm2の濾紙に面風速5.3cm/secで通風した時の圧力損失を微差圧計で測定した。
(2)DOP捕集効率
ラスキンノズルで発生させた多分散DOP粒子を含む空気を、有効面積100cm2の濾紙に面風速5.3cm/secで通風した時のDOPの捕集効率をリオン(株)社製レーザーパーティクルカウンターを使用し測定した。なお、対象粒径は0.3μm換算とした。
(3)PF値
濾紙のフィルタ性能の指標となるPF値は、前記数式1より求めた。PF値が高いほど、同一圧力損失で高捕集効率を示す。
(4)撥水性
MIL−STD−282に準拠して測定した。
(5)引張強度
引張強度は、JIS P8113に準拠して測定した。
(6)アウトガス発生速度
いわゆるダイナミックヘッドスペース法を用いた。発生ガス濃縮導入装置(ジーエルサイエンス社製 MSTD−258)を用い、試料約0.2gを99.999%の不活性Heガス気流中(流量50ml/分)で、80℃、1時間加熱し、試料から発生したアウトガスを吸着剤(TENAX TA)で捕集濃縮し、270℃で再脱離させたガスをクライオフォーカスユニットでサンプルバンドを狭めた後、ガスクロマトグラフ質量分析計(島津製作所製GCMS-QP5050A)に導入して測定した。キャピラリーカラムは、TC-1(ジーエルサイエンス社製;0.25mm×60m、膜圧0.25μm)を用いた。質量分析計の装置のイオン化法は電子衝撃法(イオン化電圧70eV)である。このときの時間あたりのアウトガス発生量をアウトガス発生速度として、n−ヘキサデカン検量線によって相対評価した。
(7)表面張力
フッ素系界面活性剤を25℃純水中に添加した際の最低表面張力、およびバインダー液の表面張力を太平理化工業(株)製デニュイ氏表面張力測定器で測定した。
【0068】
【発明の効果】
本発明は上記の説明から判るように、濾材を構成するガラス繊維に平均粒子径が100nm以下であるポリマーディスパージョンと、25℃純水中に添加した際の最低表面張力が20mN/m以下であるフッ素系界面活性剤を付着させるようにしたので、これまで以上に低圧力損失・高捕集効率化が図られるとともに、高レベルの撥水性と強度物性が得られ、なおかつ濾材から放散される低分子有機物アウトガス量を極力少なく抑えることができる。そして、本発明の製造方法によれば、このエアフィルタ用濾材を容易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1はフッ素系界面活性剤の濾材含有量と撥水性の関係について本発明の処方の一例に従う実験結果と先願発明(特許文献3)に従う処方による実験結果を図示したものである。
【図2】図2は図1と同じ実験でフッ素系界面活性剤の濾材含有量とPF値の関係の結果を図示したものである。

Claims (4)

  1. 濾材中に、疎水性部と親水性部を有したポリマー構造からなるポリマーディスパージョンからなる撥水性を付与するバインダーと、25℃純水中に添加した際の最低表面張力が20mN/m以下である、対濾材当たり0.11〜0.3重量%のフッ素系界面活性剤を含有し、前記ポリマーディスパージョン以外に撥水性を付与する撥水剤を含有しておらず、濾過性能の指標であり下記数式1によって示されるPF値が14.5以上であり、濾材のMIL-STD-282に測定方法が規定される撥水性が300mm(水柱高)以上であることを特徴とする、エアフィルタ用濾材。
    【外1】
    Figure 0004184764
    ※1 数式1中の圧力損失は、濾材に対し5.3cm/sの面風速で空気を通過させた際のもの(単位:Pa)。
    ※2 数式1中の0.3μm換算捕集効率は、5.3cm/sの面風速で粒子径0.2〜0.3μm、および0.3〜0.4μmのDOP(ジオクチルフタレート)粒子を用いて各透過率を測定し、その相乗平均の透過率から求めたもの。(ここで、捕集効率(%)=100−透過率(%))
  2. 濾材を80℃で加熱した際のアウトガス発生ガス速度が、1000ng/g・hr以下である、請求項1に記載のエアフィルタ用濾材。
  3. ポリマーディスパージョンが親水性部でアルカリ金属イオンあるいはアルカリ土類金属イオンあるいはアンモニウム化合物イオンで中和した塩の構造を取ったアイオノマーである、請求項1又は2に記載のエアフィルタ用濾材。
  4. 濾材の撥水性が508mm(水柱高)以上である、請求項1〜3のいずれか一つに記載のエアフィルタ用濾材。
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