JP4179772B2 - 廃酸溶液の酸回収方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、鉄、鋼、ステンレス、アルミニュウム、金属シリコン、などの錆や酸化物などの表面処理などに用いられる酸溶液、例えば、金属酸洗液、エッチング液、又は、金属溶出液に関するもので、更に述べると、老化した酸溶液の酸を再利用するための酸回収方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
鉄鋼材料、ステンレスなどの金属材料は、化成処理後めっきなどの表面処理を行う前に該金属材料に付着している酸化物(錆、スケール)や異物(鉄、クロム、アルミニュウム)などを除去し、該金属材料の表面を清浄にしてから表面処理が行われる。この酸化物や異物を除去するために、硫酸、リン酸、硝酸、硝フツ酸などの酸溶液が用いられている。
【0003】
この酸溶液を用いて表面処理を行うと、該酸溶液中の遊離酸が消費されると同時に、該液中に前記酸化物質や異物が蓄積し、処理量が増すにつれて酸溶液が劣化してしまう。この劣化した酸溶液(以下、廃酸溶液、という。)は、錆、スケールなどの溶解力が低下し、使用不可能となるので、新しい酸溶液と交換しなければならない。
【0004】
そこで、交換後の廃酸溶液の処理が問題となるが、従来、この処理のために拡散透析法、イオン交換樹脂法、電気透析法、冷却式晶析法、又は、圧力透析法が用いられている。これらの方法は、廃酸溶液中の異物成分を除去することにより、酸溶液の回収を行い、再利用を図るものである。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
従来例の廃酸溶液の酸回収方法には次に様な問題がある。
(1)濃度差を駆動力にする拡散透析法は、金属除去率が良く、運転費用が比較的安価である反面、装置の設置面積が大きく、機械保守性も良くない。
(2)吸着力を駆動力にするイオン交換樹脂法は、金属除去率が良く、運転費用が比較的安価であり、設置面積も小さくて済む反面、建設費が高く操作も複雑で面倒である。
【0006】
(3)電位差を駆動力とする電気透析法は、金属除去率が良いが、その反面、メンテナンス性が良くない。即ち、この方法では、平らな荷電膜を0.5mm〜20mm間隔をおいて並列に何百枚も配設されているので、その中の1部の荷電膜に目詰まり等のトラブルが発生すると、装置全体の運転を止め、該膜を取り外して正常な膜と交換しなければならない。しかし、この交換作業は、装置の分解組立を伴うので面倒であり、長時間かかる。
【0007】
(4)圧力透析方法は、金属除去率が良く廃酸量を減らすことができるが、その反面、酸回収率が良くない。
【0008】
この発明は、上記事情に鑑み、酸回収率及び金属除去率を良くして廃酸量を低減させることを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
この発明は、圧力透析装置に濃縮循環槽の廃酸溶液を供給して透析し、酸溶液と金属分濃度を増大せしめた金属濃縮液とに分離する工程と、前記酸溶液を回収酸槽に供給すると共に、前記金属濃縮液をイオン交換樹脂装置、拡散透析装置、電気透析装置、又は冷却式晶析装置に供給し酸溶液と廃酸とに分離する工程と、前記イオン交換樹脂装置、拡散透析装置、電気透析装置、又は冷却式晶析装置から排出される酸溶液を前記濃縮循環槽に供給する工程とを備えていることを特徴とする。
【0010】
【発明の実施の形態】
前述のように、従来、廃酸溶液の酸回収率が良い装置、又は、これとは逆に廃酸溶液の金属除去率の良い装置、が存在しいているが、一台の装置で前記両方の特徴を兼ね備えたものは存在しない。そこで、本発明者は、廃酸溶液の酸回収率が良い装置と廃酸溶液の金属除去率の良い装置を連続して用いれば、前記両方の性能を得ることができると考え、研究実験を重ねた。
【0011】
その結果、次のことがわかった。
(1)金属除去を効率よく行うためには圧力透析装置が好適であり、又、酸回収を効率よく行うためにはイオン交換樹脂装置、拡散透過装置、電気透析装置、又は冷却式晶分装置が好適であること。
【0012】
(2)酸回収率と廃酸溶液の金属濃度とは相反する関係にあり、金属濃度が高い廃酸溶液の場合には酸回収率が低いこと。又、金属除去率と廃酸溶液の金属濃度とは正比例の関係にあり、金属濃度が高い廃酸溶液の場合には、金属除去量が高いこと。従って、圧力透析装置で酸回収をする時には、廃酸溶液の金属濃度を低くし、又、イオン交換樹脂装置、拡散透過装置、電気透析装置、又は冷却式晶分装置で金属除去を行う時には、廃酸溶液の金属濃度を高くすることが重要であること。本発明は、前記知見に基づいてなされたものである。
【0013】
【実施例】
この発明の第1実施例を図1、図2により説明する。酸洗槽Sに接続された廃酸槽1は、図示しないポンプを介して濾過器3に接続され、また、該濾過器3は、濃縮循環槽14に接続されている。該濃縮循環槽14は、図示しない高圧ポンプを介して圧力透析装置16の入口16aに接続されている。この圧力透析装置 1 は、カートリッジ式のスパイラル型荷電膜7を備えている。
【0014】
スパイラル型荷電膜7は、スペーサ8の両面に長方形状の荷電膜7a、7bを重ね合わせて三辺を、耐酸性に優れた接着剤を用いて接着することにより袋状膜を形成し、その袋状膜の開口部を、有孔中空管である回収管9に取り付け、該回収管9の外周面のスパイラル状に巻き付けることにより構成されている。
【0015】
この荷電膜7a、7bとして、例えば、ポリアミド酸荷電膜を用いるが、その表面に酸化物や異物成分を酸に溶解させて形成される、同極の荷電基をもたせると、酸化物などの阻止率(除去率)が向上し、かつ、膜表面上の酸化物などの付着によるファウリング(汚染)が起きにくい。
【0016】
前記接着剤は、強酸に耐えるものが用いられるが、該接着剤を用いる代わりに、両フィルタ膜7a、7bを溶着しても良い。前記回収管9は、酸溶液の出口16bに接続され、該出口16bは回収酸槽10に接続されている。濃縮液の出口16cは、イオン交換樹脂装置15を介して前記濃縮循環槽14に連結されている。
また、前記回収酸槽10を酸洗槽Sに接続すると、請求項 2 の発明となる。
【0017】
次に、本実施例の作動につき説明する。
ポンプを駆動し、廃酸槽1内の廃酸溶液Aを濾過器3に送って濾過した後、濃縮循環槽14に貯蔵する。高圧ポンプを駆動して前記濃縮循環槽14内の廃酸溶液Aを圧力透析装置16の入口16aに所定の圧力、即ち、透析圧で供給する。この廃酸溶液Aには、Fe、Ni、Cr、などの重金属やフッ硝酸などが含まれている。この透析圧は、例えば、10kg/cm2〜50kg/cm2であるが、必要に応じて適宜選択される。
【0018】
圧力透析装置16に圧送された廃酸溶液Aは、図1に示すように、スペーサ8内を流れる。そして、フッ硝酸液(回収液)Fは荷電膜7a、7bを通って回収管9に集められ、出口16bから回収酸槽10に流れ込む。廃酸溶液中の濃縮液Rは、荷電膜7a、7bを透過しないので、スペーサ8を通って出口16cに流れ、イオン交換樹脂装置15に流れ込む。
【0019】
この時、濃縮液Rは、金属濃度を増大された金属濃縮液の状態でイオン交換樹脂装置15に供給されるので、効率よく金属除去が行われ、該金属濃縮液は酸溶液Fと廃液Wとに分離される。前記酸溶液Fは、前記濃縮循環槽14に貯蔵され、又、廃液Wは、廃棄処理される。
【0020】
この圧力透析装置16は、カートリッジ式のスパイラル型荷電膜7a、7bを装着しているので、該荷電膜7a、7bに目詰まりなどのトラブルが発生したときには、簡単に新しいものに交換することができる。
【0021】
この実施例は、回収酸槽10と酸洗槽Sとを連結し、再生した酸溶液(回収液)Fを循環させる、所謂クローズドシステムである。
【0022
次に、このクローズドシステムについて説明するが、鉄鋼材料を洗浄する場合の硫酸洗液(酸溶液)の回収について述べる。
酸洗槽S内の硫酸濃度は、10%前後であるが、錆の成分は鉄の酸化物又は水酸化物などの鉄化合物であり、これらは容易に硫酸に溶解する。酸洗処理を行うに従い酸溶液中の鉄濃度は増加し、溶解能力が無くなった時点で、その酸溶液(廃酸溶液)Aを廃酸受槽1に供給する。
【0023】
この廃酸溶液Aには、Fe、Ni、Crなどの重金属や硝酸、リン酸などの鉱酸、が含まれている。前記廃酸受槽1内の廃酸溶液Aは、ポンプの駆動により一定量、例えば、1m3 /hrずつ排出され、濾過器3によりワークのかけら等の異物を除去された後、濃縮循環槽14に供給される。
【0024】
前記濃縮循環槽14内の廃酸溶液Aは、高圧ポンプの駆動により一定量ずつ、例えば、10m3 /hrづつ圧力透析装置16の入口16aに供給される。このとき、前記入口16aに送られる廃酸溶液Aには、所定の透析圧、例えば、3〜5MPaがかけられるが、この透析圧は0.1〜10MPaの範囲で適宜選択される。
【0025】
尚、ポンプは、制御手段により廃酸受槽1から濃縮循環槽14に送られる廃酸溶液Aと、該濃縮循環槽14から圧力透析装置16の入口16aに送り込まれる廃酸溶液Aと、が設計された割合(設計割合)となるように制御される。
【0026】
前記圧力透析装置16の入口16aに圧送された廃酸溶液Aは、スペーサ8内に流れる。硫酸、又は、リン酸等の鉱酸を含んだ酸溶液は、荷電膜7a、7bを通って前記回収管9に集水され回収酸槽10に貯留されるとともに、透過液出口10aから酸洗槽Sに送られる。
【0027】
廃酸溶液A中の濃縮液Rは、前記荷電膜7a、7bを透過しない。従って、濃縮液Rは、前記スペーサ8を通り、濃縮液出口16cからイオン交換樹脂装置15に流れ込む。
【0028】
この時、濃縮液Rは、硫酸溶液の濃度と同濃度以上、例えば、10倍程度まで濃縮されており、金属濃度を増大された金属濃縮液の状態でイオン交換樹脂装置15に供給されるので、効率よく金属除去が行われ、該金属濃縮液は酸溶液Fと廃液Wとに分離される。前記酸溶液Fは、濃縮循環槽14に流れ込み、該濃縮循環槽14内の酸濃度を高くする。そのため、圧力透析装置16の酸回収率が向上する。なお、廃液Wは、廃棄処理されるが、その量は従来に比べ少ない。
【0029】
ここで、前記循環液排出口14bから排出される廃酸溶液の量は、例えば、10m3 /hr〜12m3 /hrであり、これに対する回収液Fの量は、例えば、0.9m3 /hrである。
【0030】
この発明の実施例は、上記に限定されるものではなく、例えば、イオン交換樹脂装置の代わりに、拡散透析装置、電気透析装置、又は、冷却式晶析装置を用いても良い。
【0031】
次に、実験例1及び比較例について説明する。
比較例
1)遊離酸120(g/l)、全鉄14(g/l)を含むステンレス酸洗液を除鉄量が28(kg/hr)になるようにイオン交換樹脂装置で処理し次の結果を得た。
廃液量:2.9(m3/hr),遊離酸損失量:34.8(kg/hr)、回収酸濃度:108(g/l)
2)廃液量を少なくする目的で同様に圧力透析装置で処理し、廃液量は、0.5(m3/hr)に激減し、回収酸濃度は、126(g/l)に上昇するが、遊離酸損失量は57.2(kg/hr)に増加した。
【0032】
実験例1
一方、遊離酸損失量を極力減少させかつ廃液量の増大を防ぐ目的で、予め、圧力透析装置で鉄分濃度を増大させた液をイオン交換装置で処理し次の結果を得た。
【表1】
Figure 0004179772
【0033】
次に、実験例2及び比較例について説明する。
比較例:
遊離酸120(g/l)、全鉄14(g/l)を含むステンレス酸洗液を除鉄量が28(kg/hr)になるように拡散透析装置で処理し次の結果を得た。
廃液量:2.4(m3/hr),遊離酸損失量:54.0(kg/hr)、回収酸濃度:105(g/l)
【0034】
実験例2
一方、遊離酸損失量を極力減少させかつ廃液量の増大を防ぐ目的で、予め、圧力透析装置で鉄分濃度を増大させた液を、拡散透析装置で処理し次の結果を得た。
予め廃酸を2.4倍に濃縮した場合廃液量1.0(m3/hr)、 遊離酸損失量25.4(kg/hr)
【0035】
次に、実験例3及び比較例について説明する。
比較例:遊離酸120(g/l)、全鉄14(g/l)を含むステンレス酸洗液を除鉄量が28(kg/hr)になるように電気透析装置で処理し次の結果を得た。
廃液量:0.9(m3/hr),遊離酸損失量:60.3(kg/hr)、回収酸濃度:150(g/l)
【0036】
一方、遊離酸損失量を極力減少させかつ廃液量の増大を防ぐ目的で、予め、圧力透析装置で鉄分濃度を増大させた液を、電気透析装置で処理し次の結果を得た。
予め廃酸を2.4倍に濃縮した場合廃液量0.5(m3/hr)、 遊離酸損失量32.4(kg/hr)
【0037】
次に、実験例4及び比較例について説明する。
遊離酸180(g/l)、全鉄30(g/l)を含む鉄鋼材硫酸酸洗液を、除鉄量が28 (kg/hr)になるよう冷却式晶析装置を用いた場合、全く除鉄はできない。従って、回収酸も得られない。
【0038】
実験例4
一方、予め、圧力透析装置で鉄分濃度を増大させた液を、冷却晶析装置で処理し、次の結果を得た。
廃液量:0(m3/hr)、 遊離酸損失量:0(kg/hr)
【0039】
硫酸酸洗液の場合、冷却式晶析法を単独で用いる場合、液中の2価鉄分の濃度を、50%以上(70%以上が望ましい)必要であるが、この場合処理槽中でスラッジを生成し、周辺機器のメンテナンス性で多大な労力を必要とする。圧力透析法を用いると、常温まで酸液が冷えても、スラッジが発生せず、除鉄、酸回収が可能となる。
0040
【発明の効果】
この発明は、以上のように構成したので、廃酸溶液の酸回収率及び金属除去率が向上するとともに、廃棄される液の量も従来例に比べ少なくなる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例を示す荷電膜の斜視図である。
【図2】本発明の実施例のフローチャートである。
【符号の説明】
1 廃酸受槽
6 圧力透析装置
7 スパイラル型荷電膜
15 イオン交換樹脂装置
A 廃酸溶液
F 回収液
R 濃縮液

Claims (3)

  1. 圧力透析装置に、濃縮循環槽の廃酸溶液を供給して透析し、酸溶液と金属分濃度を増大せしめた金属濃縮液とに分離する工程と、前記酸溶液を回収酸槽に供給すると共に、前記金属濃縮液をイオン交換樹脂装置、拡散透析装置、電気透析装置、又は冷却式晶析装置に供給し酸溶液と廃酸とに分離する工程と、前記イオン交換樹脂装置、拡散透析装置、電気透析装置、又は冷却式晶析装置から排出される酸溶液を前記濃縮循環槽に供給する工程とを備えていることを特徴とする廃酸溶液の酸回収方法。
  2. 回収酸槽が、酸洗槽を介して廃酸槽に連結されたことを特徴とする、請求項1記載の廃酸溶液の酸回収方法。
  3. 圧力透析装置が、スパイラル型荷電膜を備えていることを特徴とする請求項1又は2記載の廃酸溶液の回収方法。
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