JP4179265B2 - 光ファイバ母材及びその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は光ファイバ母材の製造方法および光ファイバ母材に関する。
大型石英ガラス管と光ファイバ用コアガラスロッドとをロッドインチューブ法で一体化して大型石英ガラスプリフォームを製造する方法が特許文献1および特許文献2に開示されている。特許文献1および特許文献2に開示されている大型石英管は、外径50〜300mmφ、外径と内径の比が1.1〜7、厚さ10mm以上、厚さ誤差2%以下、内表面粗さ20μm以下である。また、光ファイバ用コアガラスロッドは、コア部と光学的クラッド部からなり、光学的クラッド部の外径はコア部の外径の2倍は最低限必要であることが開示されている。
特開平7−109136号公報 特開平7−109141号公報
特許文献1および特許文献2に記載されているように、一般にはコアロッドには光学的クラッドが含まれており、コアとコアロッドとの直径比は2倍以上である。多くの場合は、3ないし5倍である。つまりコアロッドにはコアに対する体積比が少なくとも3倍以上、多くの場合は8ないし24倍の光学的クラッドが含まれている。一般にコア部分は精密に屈折率分布を制御する必要があり、光学的クラッドを含めてコアロッドの合成にはその周りにつけるクラッドの合成に比べてコストおよび製造時間がかかっていた。したがって、コアはクラッドよりも製造コストが大きいのであるが、従来の製法では、コアロッドに含まれる光学的クラッドにもコアと同じだけの製造コストがかかっていた。
かかる状況下で、本発明は、光ファイバ母材の製造コストを低減することを課題とする。
(1)本発明はコアロッドとガラスパイプとを熱源により加熱して一体化して、シングルモード光ファイバ用の光ファイバ母材を製造する方法に関する。前記コアロッドに含まれるコアの径をD、前記コアロッドの外径をDとしたとき、1≦D/D<2である。そして、前記ガラスパイプの外径をD、内径をdとしたとき、7<D/d≦30かつD≧90mmである。なお、通常の石英系のシングルモード光ファイバのコアの径に対する外径の比は7以上30以下である。シングルモード光ファイバ用の光ファイバ母材のコアの径に対する外径の比も同じ数値範囲である。シングルモード光ファイバ用の光ファイバ母材とはコアの径に対する外径の比が7以上30以下であるものをいう。
本発明の光ファイバ母材の製造方法では、従来はコアロッドに含まれていた光学的クラッドを無くすかまたは少なくし、光学的クラッドの大半をクラッドとなるガラスパイプに含める。そのために、コアロッドの径に対して肉厚が従来になく厚い大型のガラスパイプを材料としてロッドインコラプスにより光ファイバ母材を製造する。前記ガラスパイプは前記コアロッドよりも合成速度が大きく、製造コストが小さい。これにより、本発明は光ファイバ母材の製造コストを低減する。
本発明の光ファイバ母材の製造方法は、前記コアロッドを前記ガラスパイプに挿入する工程、前記コアロッドおよび前記ガラスパイプを450℃以下の温度に加熱する前段加熱工程と550℃よりも高温に前記コアロッドおよび前記ガラスパイプを加熱する後段加熱工程とからなる前記コアロッド外面および前記ガラスパイプの内面の水分を除去する水分除去工程、ならびに前記コアロッドと前記ガラスパイプとの隙間を乾燥気体雰囲気と連結しながらまたは減圧排気しながら前記コアロッドと前記ガラスパイプとを加熱して一体化する工程を有する。
本発明の光ファイバ母材の製造方法では、水分除去工程により、光ファイバ母材から製造される光ファイバのOH吸収による伝送損失を小さくできる。また、前記光ファイバ母材から光ファイバを製造するときに、水分に由来する気泡が発生することを防ぎ、前記気泡による前記光ファイバの強度の低下を防ぐこともできる。そして、水分除去工程を前段工程と後段工程の二工程行うことにより、水分の除去効率を上げることができる
(2)前記(1)に記載の光ファイバ母材の製造方法において、前記水分除去工程を、前記コアロッドと前記ガラスパイプとの隙間を乾燥気体雰囲気と連結しながらまたは減圧排気しながら行うことができる。
(3)前記(1)または(2)に記載の光ファイバ母材の製造方法において、前記コアロッドおよび前記ガラスパイプを加熱して前記コアロッド外面および前記ガラスパイプの内面の水分を除去しつつ前記コアロッドと前記ガラスパイプとを加熱して一体化する。
水分を除去することにより、光ファイバ母材から製造される光ファイバのOH吸収による伝送損失を小さくできる。また、前記光ファイバ母材から光ファイバを製造するときに、水分に由来する気泡が発生することを防ぎ、前記気泡による前記光ファイバの強度の低下を防ぐこともできる。
前記(3)に記載の光ファイバ母材の製造方法において、例えば、前記コアロッドと前記ガラスパイプとの隙間を乾燥気体雰囲気と連結しながらまたは減圧排気しながら前記コアロッド外面およびガラスパイプの内面の水分を除去することができる。
(4)厚肉のガラスパイプを材料とする前記の光ファイバ母材の製造方法において、前記熱源に対して前記ガラスパイプおよび前記コアロッドをそれらの長さ方向に移動させて一体化し、前記熱源に対する前記ガラスパイプの移動速度(mm/分)と前記熱源の長さ(mm)との比を所定の範囲の値とする。これにより、前記コアロッドと前記ガラスパイプとの界面の気泡の発生および前記ガラスパイプの潰し残しを抑制する。この比は5以上20以下とすることが好ましい。
(5)前記(4)に記載の光ファイバ母材の製造方法において、前記移動速度を調整することにより前記ガラスパイプが前記コアロッドと一体化する箇所(以降、融着位置ということがある)を前記熱源に向き合う範囲内に存在させる。
熱源に対するガラスパイプおよびコアロッドの移動速度が大きすぎると、前記コアロッドと前記ガラスパイプとが一体化する箇所が熱源に向き合う位置を通り過ぎたところに存在することになるが、それでは、前記コアロッドおよび前記ガラスパイプの加熱が不十分で十分に両者が一体化しない、いわゆる潰し残しが生じる。前記(5)に記載の方法では、前記ガラスパイプおよび前記コアロッドが十分に加熱され前記熱源に向かい合う範囲内で一体化するので、潰し残しが生じない。
(6)前記(5)に記載の光ファイバ母材の製造方法において、前記移動速度を調整することにより融着箇所を前記熱源の中心に向き合う位置よりも出口側、言い換えると前記ガラスパイプおよび前記コアロッドの前記熱源に対する進行方向先側、に存在させる。前記熱源の温度分布は中心が最高温度となるので、前記ガラスパイプと前記コアロッドとは前記最高温度にさらされた後に一体化する。
熱源に対するガラスロッドおよびコアロッドの移動速度が小さすぎると、前記コアロッドおよび前記ガラスパイプが熱源の中心に向き合う位置に到達する前に両者が十分に加熱されるので、両者が一体化する部分が長くなる。そうすると、前記コアロッドと前記ガラスパイプとが一体化するときに、その部分に気泡が閉じこめられることがある。この気泡が混入した光ファイバ母材から光ファイバを製造するときにこの気泡が原因で断線を生じることがある。製造された光ファイバに気泡が残れば伝送特性が悪くなる。
しかし、前記(6)に記載の方法では、前記融着位置を極短い範囲内に存在させることができ、気泡が光ファイバ母材に混入することがない。また、前記熱源に対する前記ガラスパイプおよび前記コアロッドの移動速度を不必要に小さくしないので、生産性もよい。
(7)前記(1)ないし(6)のいずれかに記載の光ファイバ母材の製造方法において、前記コアロッドが前記コアの周囲に第一クラッドを有し、前記第一クラッドに対する前記コアの比屈折率差が0.3%以上であり、前記ガラスパイプにおけるその内面からその厚さの十分の一までの部分の屈折率と前記第一クラッドの屈折率とを実質的に等しくする。
ここで、比屈折率差が実質的に等しい場合は、例えば、その比屈折率差が−0.1ないし0.1%である場合である。また、前記光ファイバは、第一クラッドに対するコアの比屈折率差を0.3%以上とするので外乱による伝送損失は実用上問題にならない。
(8)前記(1)ないし(7)のいずれかに記載の光ファイバ母材の製造方法において、1200℃における前記コアロッドの平均粘度を同温度における前記ガラスパイプの平均粘度以上とする。
これによりコアロッドとガラスパイプとを加熱して一体化するロッドインコラプス時には、ガラスパイプがコアよりも先に軟らかくなり、その表面張力にしたがって縮径してコアに付着していきコアロッドとガラスパイプとの一体化がなされる。このとき、コアは比較的粘度が高いので、変形して非円したり偏心することがない。
前記(8)に記載の光ファイバ母材の製造方法には、前記コアロッドが純石英ガラスまたは添加材を含んだ石英ガラスからなり、前記ガラスパイプがフッ素添加石英ガラスを主成分とするガラスからなる例を挙げることができる。
本発明の製造方法で製造される光ファイバ母材は、コアの径に対する外径の比が7以上30以下でシングルモード伝送可能な範囲の値であって、軸に垂直な断面においてロッドとパイプとが加熱一体化されて形成される界面を1つ有し、前記コアの半径をr 、前記コアの中心から前記界面までの距離をpとしたときに1≦p/r <2である。
そして、本発明の製造方法で製造される光ファイバ母材の径は90mm以上である。大型の光ファイバ母材を製造する場合は、クラッドとなるガラスパイプの肉厚が厚くなる。例えば、前記ガラスパイプの外径をD、内径をdとしたとき、7<D/d≦30かつD≧90mである。界面が1≦p/r<2の位置に一つだけあり、かつクラッドの厚さが7<D/d≦30かつD≧90mである光ファイバ母材は、本発明者が知る範囲で、日本国内において公然知られた物でない。
本発明の製造方法により、ロッドイン界面が一つだけ、1≦p/r<2の位置に見られ、かつコアの非円率が0.4%以下である光ファイバ母材が製造される。この光ファイバ母材から製造される光ファイバはPMDが小さい。
本発明の製造方法により、ロッドイン界面が一つだけ、1≦p/r<2の位置に見られ、かつコアの偏心率が0.3%以下である光ファイバ母材が製造される。この光ファイバ母材から製造される光ファイバは光ファイバ同士を接続したときにコア同士のずれが小さいので接続による損失が小さい。
前記(7)に記載の製造方法により製造される光ファイバ母材は、クラッドが複数の部分からなり、軸に垂直な断面において、コアのすぐ外側に第一クラッドを有し、前記第一クラッドに対する前記コアの比屈折率差が0.3%以上であり、前記ガラスパイプ由来のクラッドのうち、前記コアロッド由来の部分とクラッドとの界面から、前記クラッドの厚さの十分の一までの部分の屈折率と前記第一クラッドの屈折率とが実質的に等しい。
この光ファイバ母材はロッドイン界面を挟む部分の比屈折率差が実質的に等しいので、この光ファイバ母材から製造される光ファイバにおいて前記界面は光の伝搬に悪影響を及ぼさない。
前記(8)に記載の製造方法により製造される光ファイバ母材は、1200℃における前記コアの平均粘度が同温度における前記クラッドの平均粘度以上であり、コアの非円や偏心がない。
前記光ファイバ母材は、前記コアが純石英ガラスまたは添加材を含んだ石英ガラスからなり、前記クラッドがフッ素添加石英ガラスを主成分とするガラスからなる例を挙げることができる。
本発明の製造方法により製造される光ファイバ母材は、前記界面から前記光ファイバ母材の外周部にかけて径方向に1mmまでの部分のOH濃度が1重量ppm以下である。
この光ファイバ母材から製造される光ファイバはOH基の吸収による伝送損失が小さく、0.5dB/km以下とすることができる。この光ファイバ母材は、コアの径をD、前記コアロッドの外径をDとしたとき1≦D/D<2であるコアロッドと、外径をD、内径をdとしたとき7<D/d≦30かつD≧90mmであるガラスパイプとを1回だけロッドインコラプスして製造されるファイバ母材であって、ロッドイン界面は一つしかなく、ガラスパイプにさらにガラス微粒子を堆積させてそのガラス微粒子を透明化させた箇所の界面もない。このような大きさ及び構成の光ファイバ母材でOH基による伝送損失が0.5dB/km以下である光ファイバ母材は、本発明者が知る範囲で、日本国内において公然知られたものではない。
本発明により光ファイバ母材の製造コストが低下される。そして、従来にない低製造原価で光ファイバを製造することができる。
本発明の一形態によればコアの非円もしくは偏心または気泡のない光ファイバ母材が得られ、その光ファイバ母材から製造される光ファイバは、PMDが小さく長距離伝送が可能であり、接続時の損失が小さく、伝送損失が良好である。また、前記光ファイバはカットオフ波長や分散等の特性の長手方向の変動がない。
また、本発明の別の形態によれば、ロッドイン界面にOH基が殆どない光ファイバ母材が得られ、その光ファイバ母材から製造される光ファイバはOH基の吸収による伝送損失が殆どなく、ロッドインコラプスにより製造された光ファイバとしては従来にない光伝送特性の優れたものである。
<マルチモードファイバとの違い>
本発明の光ファイバ母材は、コアの径に対する外径の比がシングルモード伝送可能な範囲の値である。これは、本発明の光ファイバ母材からはシングルモード光ファイバが製造されることを意味する。一般にシングルモード光ファイバはコア径がクラッド径の10分の1程度である。一方、マルチモード光ファイバはコア径がクラッド径の2分の1程度である。光ファイバ母材の場合もコア径とクラッド径の比率は光ファイバと同じである。したがって、コアロッドとガラスパイプとをロッドインコラプスさせてシングルモード光ファイバ用の光ファイバ母材を製造する場合は、同様にしてマルチモード光ファイバ用の光ファイバ母材を製造する場合に比べて、コアロッドに対するガラスパイプの体積比が圧倒的に大きい。したがって、ロッドインコラプスによりシングルモード光ファイバ用の光ファイバ母材を製造する方法に、ロッドインコラプスによりマルチモード光ファイバ用の光ファイバ母材を製造する技術をそのまま流用するのではコアとクラッドとがうまく一体化せず良好な光ファイバ母材を得ることができない。
シングルモード光ファイバでは伝送される光のうち相当部分がクラッドにしみ出している。一方マルチモード光ファイバでは伝送される光の大部分がコアの中を伝搬する。シングルモード光ファイバではコアとクラッドとの界面の不純物や不整が伝送損失に大きな影響を与えるのに対し、マルチモード光ファイバでは影響が少ない。したがって、伝送損失の観点でもマルチモード光ファイバ用の光ファイバ母材をロッドインコラプスする技術をシングルモード光ファイバ用の光ファイバ母材を製造する方法に適用できるわけではない。
<使用するコアロッドおよびガラスパイプ>
本発明の光ファイバ母材の製造方法に使用されるコアロッドは、その外径をD、前記コアロッドに含まれるコアの径をDとしたとき、1≦D/D<2である。本発明の光ファイバ母材の製造方法に使用されるガラスパイプは、その外径をD、その内径をdとしたとき、7<D/d≦30かつD≧90mmである。
/D=1であるとき、コアロッドはコアのみを有し、ガラスパイプがクラッドとなる。
1<D/D<2であるとき、光学的クラッドの一部がコアロッドに含まれる。ガラスパイプは、クラッドとなる。以下、コアロッドに含まれる光学的クラッドを第一クラッドと呼ぶ。
光ファイバ母材または光ファイバをその軸に垂直な断面で切断した後、この断面をフッ化水素水溶液、またはフッ化アンモニウムを混合したバッファードフッ化水素酸溶液中に浸漬して化学エッチングし、この断面を電子顕微鏡により観察すると、ロッドイン界面では高低差にして1mm以下の段差が観察される。本発明に関する光ファイバ母材ではロッドイン界面が、コアの半径をr、前記コアの中心から前記ロッドイン界面までの距離をpとしたときに1≦p/r<2である位置pに観察される。1<p/r≦1.4の範囲であればコアロッドに含まれる光学的クラッドである第一クラッドはコアと同体積以下であり、生産性の面で一層低コスト化できる。
<減圧コラプス>
本発明の一実施形態では、コアロッドをガラスパイプに挿入して、前記コアロッドおよび前記ガラスパイプを加熱して一体化するときに、前記コアロッドと前記ガラスパイプとの隙間を減圧する。コアロッドとガラスパイプとを一体化するとき、図2に示すように、まずコアロッド1およびガラスパイプ2の一端を一体化する。それから他端へ向かって一体化していく。このとき通気管8cからガラスパイプ2内の気体を排気して、コアロッド1とガラスパイプ2との隙間を減圧する。例えば、1kPa以下まで減圧する。すると、常圧のときよりもガラスパイプ2の内面の表面張力に対してガラスパイプ2内の気体の抵抗が小さいので、ガラスパイプ2は常圧のときよりも低い温度で縮径してコアロッド1と一体化する。例えば、ガラスパイプ内の気圧が1kPaの場合は、約1250℃でコアロッドとガラスパイプとは一体化する。このとき、コアロッド、ガラスパイプとも粘度が比較的高く、軟らかくなり過ぎていないので、いずれも一体化のときに変形することがなく、コアの非円や偏心がない光ファイバ母材が得られる。そして、その光ファイバ母材から製造される光ファイバのPMDは小さい。
本実施形態の製造方法により製造される光ファイバ母材から製造される光ファイバのPMDは0.15ps/km1/2以下、さらには0.08ps/km1/2以下とすることができる。長さ方向の分散値変動の絶対値を2(ps/nm/km)/km以下、さらには0.5(ps/nm/km)/kmとすることができる。この光ファイバを用いて長距離伝送を行ってもPMDにより信号光が劣化することが少ない。
また、一体化のときの温度が低いので、コアロッドの表面またはガラスパイプの内面から気化するガスがほとんどない。仮に、気化ガスが生じても通気管8cから速やかに排気される。したがって、本実施形態の製造方法により製造される光ファイバ母材は、ロッドイン界面に気泡が存在しない。この光ファイバ母材から光ファイバを製造するときに、光ファイバ母材中の気泡が原因で断線することはない。製造される光ファイバの伝送特性は良好であり、ガラス微粒子堆積体を焼結することにより製造された光ファイバ母材から製造された光ファイバと比べても遜色がない。
本発明の別の実施形態では、前記コアロッドを前記ガラスパイプに挿入して、前記ガラスパイプの一端を封止し、さらに前記コアロッドと前記ガラスパイプとの隙間を1kPa以下の減圧雰囲気および/または露点が−70℃以下の乾燥雰囲気とし、前記ガラスパイプの他端を封止する。ガラスパイプの端部の封止のためには、ガラスパイプを部分的に加熱して縮径してコアロッドと接触させるまたはコアロッドと融着させる。こうして図12に示す両端が封止された光ファイバ母材が得られる。コアロッドとガラスパイプとの隙間はすでに減圧雰囲気とされるか、乾燥雰囲気とされるか、または減圧かつ乾燥雰囲気とされていて、そのままガラスパイプの端部が封止されるので、両端が封止された光ファイバ母材においてもその隙間は減圧雰囲気および/または乾燥雰囲気となっている。以後は前述の方法と同様にガラスパイプとコアロッドとを一体化させる。
図12に示す光ファイバ母材は、両端を封止することにより前記コアロッドと前記ガラスパイプとの相対位置が固定できている。その状態で一旦工程を切り、光ファイバ母材を別の場所で保管したり、別の装置で後の一体化のための操作を行うこともできる。一体化のときにコアロッドとガラスパイプの位置ずれが生じないので、コアロッドおよびガラスパイプを両者の相対位置がずれないようにそれぞれ固定する必要がなく、取り扱い容易である。
前記隙間のが1kPa以下の減圧雰囲気または露点が−70℃以下である乾燥雰囲気である光ファイバ母材について、さらに前記両端部分で挟まれる部分のコアロッドと前記ガラスパイプとを一体化した後、光ファイバを線引きすると、コアロッドであった部分とガラスパイプであった部分との界面のOH基濃度を低くすることができ、OH基による信号光(波長1.38μm)の伝送損失を0.5dB/km以下とすることができる。
<コアロッドの組成>
本発明のコアロッドは、純シリカからなるもの、純シリカにGeO、P5、AlやTiO、Cl等の屈折率を上昇させる添加材が添加されたものが挙げられる。
コアに前記添加材が添加された場合は、1<D/D<2として第一クラッドを設けると、前述のようにロッドインコラプス時に非円、偏心、気泡が生じることがなく好ましい。
コアにGeOが添加されている場合、コアを加熱するとコアからGeOが蒸発して気泡が発生し易い。したがってコアのみからなるコアロッドとガラスパイプとを加熱一体化させて光ファイバを製造すると、界面に気泡が発生して得られる光ファイバの伝送損失が大きくなりがちである。最も一般的な、コアにGeOが添加されクラッドが純シリカである光ファイバをロッドインコラプスにより製造する場合、コアの周囲にわずかに純シリカクラッドをつけておくことにより、コアからの気泡の発生を抑制することができ、得られる光ファイバの伝送特性を良好なものとすることができる。
コアが純シリカからなる場合は、D/D=1とすると、ロッドインコラプス時に非円、偏心、気泡が生じることがなく好ましい。
<ガラスパイプの組成>
ガラスパイプはコアとクラッドとの屈折率差を0.3%以上とする限り、純シリカそのもの、純シリカにフッ素やBの屈折率を下げる添加材を添加したもの、またはGeO、P5、AlやTiO、Cl等の屈折率を上昇させる添加材が添加されたものが挙げられる。
コアロッドが第一クラッドを有する場合、ガラスパイプの内面近傍の屈折率を前記第一クラッドの屈折率と実質的に等しくする。例えば、ガラスパイプの内面近傍に対する第一クラッドの比屈折率差を−0.1ないし0.1%とする。これにより、製造される光ファイバ母材の光学的クラッドの屈折率を均一にすることができる。この光ファイバ母材から製造される光ファイバのカットオフ波長や波長分散を設計通りの値とできる。ここで、内面近傍とは、例えば、ガラスパイプの内面からその厚さの十分の一までの部分である。前記ガラスパイプの内面の組成が第一クラッドと同じであれば、光学的クラッドの組成を均一にできるので、その光学的クラッドを有する光ファイバは外乱による伝送特性の悪化が小さく、さらに好ましい。
ロッドインコラプスにおいて、ガラスパイプが軟化して縮径するときにコアロッドが前記ガラスパイプよりも軟らかくなっていると、コアの非円や偏心が生じず好ましい。このためには、1200℃、常圧におけるコアロッドの平均粘度がガラスパイプの平均粘度以上とする。コアおよびクラッドに添加する添加材の種類や量を適宜選択することで、コアロッドおよびガラスパイプの粘度を調整可能である。ガラスに添加材を添加することによりガラスの粘度は低下するので、例えば、コアに添加材を添加せず純シリカコアとして、クラッドに屈折率を低下させる添加材(例えば、フッ素)を添加すると、コアロッドの粘度をガラスパイプよりも大きくすることができる。コアに微量のGeや塩素を添加して、クラッドに大量のフッ素を添加する例もある。ガラスの平均粘度は、測定により求めることができる。光ファイバ母材からコアとクラッドとを取り出す。コアのみ得るためにはクラッドを削除し、クラッドのみ得るにはコアを削除する。粘度の測定方法には、繊維伸長法(ファイバエロンゲーションメソッド)(例えば、作花済夫他編ガラスハンドブック(朝倉書店発行)650〜651ページ参照)があり、平均粘度をηとして、η=1/3(mgl/(dl/dt)・πr)として求められる。ここで、mは印加荷重、gは重力加速度、lは試料長、dl/dtは試料の伸び速度、rは試料の半径である。クラッドの場合は試料の内径をr、外径をrとして前記式のrをr −r とする。
コアロッドとガラスパイプとをロッドインコラプスする手順を、図1、2を例として下記に説明する。
まず、コアロッド1をガラスパイプ2に挿入して両者の中心軸を一致させた状態でコアロッド1を固定治具3で固定する。ガラスパイプの外側に配置した熱源4でガラスパイプ2およびコアロッド1の一端を加熱する。図2に示すように、ガラスパイプ2は加熱されて軟化すると表面張力およびガラスパイプ2の内外圧差により縮径しコアロッド1と一体化し、光ファイバ母材になる。熱源4をガラスパイプ2の一端から他端に向けて図2の矢印の向きに移動させると、ガラスパイプ2とコアロッド1とが一体化する箇所が熱源の移動につれて移動し、ガラスパイプ2とコアロッド1とは全長に亘って一体化されて光ファイバ母材となる。
ロッドインコラプスを行うと、得られた光ファイバ母材の軸方向に垂直な断面にはロッドとパイプとが加熱一体化されて形成される界面(以下ロッドイン界面ともいう)が形成される。
本発明の一形態では、径が大きく(90mm以上)、内径dに対する外径Dの比が大きなガラスパイプ、例えば7<D/d≦30である厚肉で大径のガラスパイプを加熱して軟化させ、内面の表面張力によりそれを潰して外径Dのコアロッドと一体化させることができる。ガラスパイプの外径/内径比が8≦D/d≦30の場合もそのガラスパイプを使用してロッドインコラプスにより光ファイバ母材を製造することができる。
熱源に対する前記ガラスパイプおよびコアロッドの移動速度と熱源の長さとの比が、そのロッドインコラプスにより得られる光ファイバ母材の品質に影響することを、本発明者は見つけた。特に、厚肉かつ大径のガラスパイプを使用するロッドインコラプスにおいては、前記移動速度と熱源の長さとの比を所定の範囲とすることが良品の光ファイバ母材を得るために有効な手段であることを本発明は見つけた。例えば、前記相対移動速度を前記熱源の長さにより決定する。あるいは、前記熱源を複数の発熱部位から構成し、実際に発熱する部位を切り替えることで発熱している熱源の長さを変更することにより、前記比が所定の範囲内の値になるようする。例えば、図3に示すようにコイルの長さをL(mm)、前記移動速度をv(mm/分)とすると、熱源が抵抗加熱式ヒータや誘導加熱式ヒータであれば5≦L/v≦20とする。これにより前記ガラスパイプが受ける熱量が必要十分となるので、ガラスパイプの潰し残しがなく、また、前記ガラスパイプと前記コアロッドとが一体化される箇所の幅がごく短くなるので気泡がロッドイン界面に混入しない。熱源が抵抗加熱型ヒータの場合、熱源の長さはそのヒータの幅であり、熱源が誘導加熱型ヒータの場合、熱源の長さはそのコイルの幅である。
図3に示すように、熱源を誘導加熱式ヒータ20とし、コイル21に通電することによりサセプター22を発熱させ、ガラスパイプ2およびコアロッド1を加熱する。この場合、コイル21の長さLが熱源の長さである。コアロッド1およびガラスパイプ2を図3において右から左へ移動させる。加熱されたガラスパイプ2は縮径し、融着位置Fでコアロッド1と一体化する。融着位置Fはガラスパイプ2の左端から右端へ移動していく。コアロッド1およびガラスパイプの移動速度v(mm/分)をL/vが5以上20以下の値となるように調整する。これにより融着位置Fが、図3で斜線を付した部分である熱源に向き合う範囲内に存在するようになる。ガラスパイプが熱源に向き合う範囲とは、図3に斜線で示したように、熱源のガラスパイプの外表面への正射影の範囲である。この方法は、厚肉で大径のガラスパイプを加熱して軟化させ内面の表面張力によりそれを潰してコアロッドと一体化させるときに有効な方法であるが、薄肉のガラスパイプについてももちろん適用可能である。
熱源の中心に向き合う位置Pよりも前記ガラスパイプおよび前記コアロッドが前記熱源に対して移動していく側、つまり出口側、図3においては位置Pよりも左側に融着位置Fが存在すると、融着位置Fの幅はガラスパイプ2の長さ方向に広がらず、融着位置Fはほぼ線(図3においては点)となる。この線状の融着位置Fがガラスパイプ2の左端から右端へ移動するので、コアロッド1とガラスパイプ2との界面に気泡が閉じこめられることがない。
さらに、本発明者は、Lをガラスパイプの径Dにより一定の範囲に収めることが厚肉のガラスパイプをロッドインコラプスして品質のよい光ファイバ母材を製造するために有効であることを見いだした。Dに対してLが短かすぎると、ガラスパイプに加えられる熱が不足し、一体化する前のガラスパイプとコアロッドに温度差が生じる。言い換えると、ガラスパイプとコアロッドとが一体化した時点でコアロッドが軟化されていないことが生じる。そうなると一体化時の融着性が不十分となり、つぶし残しが発生し易い。一方、Dに対してLが長すぎると、中心のガラスロッドの曲がりが顕著に生じやすく、偏心や偏肉が頻発するようになる。ロッドインコラプスの終了時点には長さLだけ一体化されていない部分が非有効部として残るので、非有効部長を短くするためにもLが長すぎないことが好ましい。
本発明者が考察するところではL/Dの好適範囲は0.6≦L/D≦2である。
厚肉パイプのコラプスには電気炉が有効である。パイプの周方向に均等に熱を加えることができ、非円や偏心を生じることがなく、コアロッドとガラスパイプとを一体化させることができる。
ここで、電気炉とは、誘導炉や抵抗炉のように外部から電力供給を受けて、それを熱エネルギーに変換する加熱炉を言う。
電気炉においては当該電気炉に投入する電力Wによりその発熱量が決まる。本発明者は、電気炉に投入する電力Wを、ガラスパイプの径Dと熱源とガラスパイプとの相対移動速度vに応じて、適当な範囲とすることが、厚肉のガラスパイプをロッドインコラプスして品質のよい光ファイバ母材を製造するために有効であることを見いだした。
ガラスパイプに加えられる熱量が少なすぎると一体化不良が発生する。例えば、ガラスパイプの加熱が不十分であるとつぶし残しが発生し、コアロッドの加熱が十分でないと界面が剥離する。逆に、熱量が過剰であるとガラスパイプまたはコアロッドが軟らかくなりすぎて変形し、非円や偏心が発生する。
ガラスパイプに加熱されるべき熱量は電気炉に投入される電力Wで表すことができ、加熱されるべきガラスパイプの体積はD ・vに比例する。ガラスパイプの体積あたりの電力が十分でないとガラスパイプの加熱が不十分となり、ガラスパイプの体積あたりの電力が過剰であるとガラスパイプに加えられる熱量が過剰となる。W/(D ・v)を一定範囲とするとガラスパイプに加えられる熱量が過不足なくなるので、厚肉のガラスパイプをロッドインコラプスして品質のよい光ファイバ母材を製造することができる。
本発明者が、考察するところではその範囲は、7.0×10−5≦W(kW)/(D (mm)・v(mm/分))≦7.0×10−4である。
<例1>
純シリカからなるコアロッドを全体にフッ素が添加されたガラスパイプに挿入して誘導炉により加熱してロッドインコラプスした。コアロッドの外径は10mm、ガラスパイプの内径は12mm、ガラスパイプの外径は140mmとした。ガラスパイプに添加したフッ素の量は、純シリカに対する前記ガラスパイプの比屈折率差が−0.30%となる量である。
予め誘導炉内に熱電対を挿入して炉の中心が1500℃程度になるように加熱して前記誘導炉の中心軸の温度を測定し、その温度分布を求めた。20点の温度の測定値から次式ガウシアン表記で前記誘導炉内の温度分布を近似して求めた。
T(z)=Tmax・exp(z/72404)…(近似式1)
ここで、zはガラスパイプの軸方向の座標であり、Tmaxは最高温度である。
熱源の長さLは122mmであった。
この誘導炉にかけた電力Wは150kWであり、ガラスパイプ表面の最高温度は1600℃であった。コアロッドおよびガラスパイプを誘導炉に対して20mm/分の速度vで移動させ、両者を加熱して一体化した。製造された光ファイバ母材の外径は139.8mmであった。
このときのL/vは6.1、L/Dは0.87、W/(D ・v)は3.8×10−4である。この条件にて製造された光ファイバ母材はコア径Dに対する外径Dの比(D/D)の変動、コア非円率およびコア偏心率は全長に亘って1%以下であった。
この光ファイバ母材を線引して光ファイバを製造した。線引き中の断線なく約1100kmの光ファイバ母材が製造された。この光ファイバは、波長1.55μmにおける伝送損失が0.17dB/kmであり、高品位な光ファイバであった。
<例2>
コアにGeOが添加され、コアの周囲に純シリカをつけたコアロッドを純シリカからなるガラスパイプに挿入して、誘導炉により加熱してロッドインコラプスした。コアの外径は8mm、コアロッドの外径は10mm、ガラスパイプの内径は12mm、ガラスパイプの外径は140mmとした。コアに添加したGeOの量は、純シリカガラスパイプに対する比屈折率差が0.35%となる量である。例1と同様に前記誘導炉内の温度分布を近似して求めた。
T(z)=Tmax・exp(z/226477)…(近似式2)
熱源の長さLは215mmであった。
この誘導炉にかけた電力Wは160kWであり、ガラスパイプ表面の最高温度は1950℃であった。コアロッドおよびガラスパイプを誘導炉に対して40mm/分の速度vで移動させ、両者を加熱して一体化した。製造された光ファイバ母材の外径は139.8mmであった。
このときのL/vは5.4、L/Dは1.5、W/(D ・v)は2.1×10−4である。この条件にて製造された光ファイバ母材はコア径Dに対する外径Dの比(D/D)の変動、コア非円およびコア偏心は全長に亘って1%以下であった。
この光ファイバ母材を線引して光ファイバを製造した。線引き中の断線なく約1150kmの光ファイバ母材が製造された。この光ファイバは、波長1.55μmにおける伝送損失が0.19dB/kmであり、高品位な光ファイバであった。
<比較例1>
前記例1同様のコアロッドおよびガラスパイプを使用して、電力Wを130kW、ガラスパイプ表面の最高温度を1800℃、移動速度vを40mm/分とした以外は例1と同様にして光ファイバ母材を製造した。製造された光ファイバ母材の外径は139.8mmであった。
このときのL/vは3.0、L/Dは0.87、W/(D ・v)は1.6×10−4である。この条件にて製造された光ファイバ母材はロッドイン界面に気泡が散在していた。Lに対してvが大きすぎ、コアロッドおよびガラスパイプに単位時間当たりに与えられた熱量が小さすぎたために一体化が十分行われなかったことが原因と考えられる。
<比較例2>
前記例2同様のコアロッドおよびガラスパイプを使用して、電力Wを170kW、ガラスパイプ表面の最高温度を2000℃、移動速度vを10mm/分とした以外は例2と同様にして光ファイバ母材を製造した。製造された光ファイバ母材の外径は139.8mmであった。
このときのL/vは21.6、L/Dは1.54、W/(D ・v)は8.5×10−4である。この条件にて製造された光ファイバ母材はコア非円およびコア偏心1%以上であった。vが小さく、コアロッドに単位時間当たりに与えられた熱量が大きすぎたためにコアロッドが変形したことが原因と考えられる。
ところで、光学的クラッドとして必要とされる領域は、一般的には、コア中心からの距離Rが、1≦R/r≦6を満たすの半径Rを持つ領域である。ここではコア半径をrとした。
本発明の光ファイバ母材では、ロッドイン界面のコア中心からの距離pが1≦p/r<2であるので、ロッドイン界面がコアと光学的クラッドとの界面であるか、または光学的クラッドの中に観察される。
界面が常に光ファイバ中を伝搬する光に対して影響を与えている状況下では、界面の状態、界面に存在する不純物、気泡の存在などは、伝搬する光の損失に影響を及ぼすことになる。したがって、伝送損失が良好な光ファイバが得られる光ファイバ母材を製造するためには、界面が形成される際の条件の調整には注意すべきである。本発明の一形態である以下の方法により、伝送損失を良好にすることができる。
本発明の一形態では、コアロッドをガラスパイプに挿入して前記コアロッドおよび前記ガラスパイプを加熱して前記コアロッド外面および前記ガラスパイプの内面の水分を除去する。以下この工程をベーキング工程という。ベーキング工程を行うと、ロッドインによる界面のOH基濃度を下げることができる。また、界面で気泡が発生することも抑制できる。したがって、製造される光ファイバの伝送特性を良好にできる。例えば、ベーキング工程により、光ファイバ母材の軸に垂直な断面においてロッドイン界面から光ファイバ母材の外周部にかけて半径方向に1mmまでの部分のOH濃度を1重量ppm以下とすることができる。この光ファイバ母材から製造される光ファイバの1.38μmの波長の光の伝送損失は0.50dB/km以下である。従来のロッドインコラプスにより製造された光ファイバ母材では、1.38μmの波長の光の伝送損失を0.50dB/km以下である光ファイバを得ることができなかったが、本発明のベーキング工程を行うことにより、ロッドインコラプスにより製造された光ファイバ母材を線引きして得られる光ファイバの1.38μmの波長の光の伝送損失を0.50dB/km以下とすることができる。
ベーキング工程の後にコアロッド表面やガラスパイプ内面に再度水分が付着しないように、前記コアロッドおよび前記ガラスパイプの隙間を乾燥気体雰囲気と連結して、または前記隙間の気体を排気して減圧雰囲気として前記コアロッドと前記ガラスパイプとを加熱して一体化する。
ベーキング工程では、コアロッドとガラスパイプとの隙間を乾燥気体雰囲気または減圧雰囲気とすることを例示できる。この場合、前記隙間に含まれる水分が少なく、前記コアロッド表面および前記ガラスパイプ内面に付着している水分が脱離し易いので、前記水分を効率的に除去できる。図4に示すように、ガラスパイプ2に把持用パイプ6を融着し、持用パイプの中に固定治具3を入れてコアロッド1をガラスパイプ2と同心となるように固定する。ここで、コアロッド1とガラスパイプ2の長さをほぼ等しくしてコアロッド1の両端に延長部材9を接続しておき、延長部材9が固定治具3に挟まれて固定されるようにする。こうしてコアロッド1とガラスパイプ2とをそれらの径方向に移動しないように固定すると、コアロッド1またはガラスパイプ2の一部を固定のために無駄にすることがない。
把持用パイプ6の端はコネクタ7で密閉し、通気管8をコネクタ7に取り付ける。通気管8を乾燥気体雰囲気と連結することで、コアロッドとガラスパイプとの隙間を乾燥気体雰囲気とする。一方の通気管8から乾燥ガスを供給し、他方の通気管8からパイプ内のガスを排出してガラスパイプ内にガスの流れを作る。ガスの流れの向きは左から右、右から左いずれでもよい。乾燥ガスは露点が−70℃以下であるのが望ましく、−75℃以下であるのがさらに望ましい。ガスの流量は1slm以上とするのが好ましい。
加熱温度は150℃ないし1000℃とする。加熱温度を350℃以上とすることが好ましい。コアロッドに添加材が多く含まれていて該ロッドが変形し易い場合は350ないし550℃の温度に加熱することが好ましく、350℃ないし550℃の温度に加熱することが特に好ましい。乾燥ガスには、窒素、酸素、ヘリウム、アルゴン等のガスを使用することができる。
熱源4にはヒータやバーナが使用可能である。水分をガラスパイプ外面に与えないという点でヒータやプラズマバーナが好ましい。
加熱範囲はガラスパイプ全長とする。ガラスパイプの両端につけた把持パイプまで加熱することが好ましい。図4に示すように、熱源4の長さがガラスパイプの長さよりも短い場合は、加熱源をガラスパイプおよびコアロッドに対して相対的に移動させるが、いずれを移動させてもよく、両方を速度を違えて移動させてもよい。
図9に示すようにガラスパイプ2とほぼ同じ長さの熱源12を使用して、加熱範囲全体を同時に加熱してもよい。
ベーキング工程では、ガラスパイプ2内を減圧雰囲気とするのが好ましい。ガラスパイプ2内のガスの排気量を乾燥ガスの供給量以上としてもよく、乾燥ガスを供給せず、少なくとも一方の配管8からガラスパイプ2内のガスを排気してもよい。ガラスパイプ2内の気圧を60kPa以下とするのが好ましい。ガラスパイプ内を排気することにより、ガラスパイプ内面やコアロッド外面から脱離させた水分がガラスパイプ内から除去されるので、水分の脱離効果が増す。また、一旦ガラスパイプやコアロッドから脱離した水分が前記パイプや前記ロッドに再度付着することもない。
水分除去を効率的に行うために、ベーキング工程は加熱温度を違えて2回行うのが好ましい。例えば、前段工程である1回目は、前記ガラスパイプ内面の温度および前記コアロッドの外面の温度を150℃以上550℃以下、好ましくは150℃以上450℃以下に加熱し、後段工程である2回目は、前記ガラスパイプ内面の温度および前記コアロッドの外面の温度を1回目よりも高くするように、すなわち550℃以上に加熱する。この場合、1回目のベーキングでコアロッド外面およびガラスパイプ内面に物理的に付着している水分が除去される。そして、2回目のベーキングでコアロッド外面およびガラスパイプ内面に化学的に結合している水分が除去される。1回目のベーキングでいきなり550℃を越える高温とすると、ロッド外面やパイプ内面に物理的に付着している水分がガラスと反応してコアロッドやガラスパイプに化学的に吸着し、あるいは、OH基となってガラスに結合してしまい、かえって水分除去が困難となることがある。1回目のベーキングではパイプ内面の温度を550℃以下とすると水がガラス表面に化学的に吸着しないので好ましい。
前段工程、後段工程とも前記隙間を乾燥気体雰囲気とすると水分除去がさらに効率的に行え、好ましい。前段工程と後段工程で同じ乾燥気体を使用してもよいが、2回目のベーキングでは、コアロッドとガラスパイプとの隙間を塩素等のハロゲンガスまたはハロゲン化合物ガスからなる乾燥気体雰囲気とするのが好ましい。例えば、塩素ガスや塩化チオニル(SOCl)等の脱遷移金属性ガスを前記パイプの一端から導入し他端から除去しつつ前記パイプ内を1000℃以上の温度とする。あるいは、ヘリウムやアルゴン等で脱遷移金属性ガスを希釈してもよい。加熱温度を1020℃以上とすると塩化ニッケルや塩化鉄の蒸気圧を1気圧以上とすることができ、水分の除去と同時にこれらの遷移金属をも蒸発させて除去できる。
例えば、1回目のベーキング工程では、ガラスパイプ内に乾燥窒素(露点−75℃)を流しながら60kPaに減圧して、加熱源を加熱してガラスパイプ内面全体を30分以上450℃以下に保つ。その後、2回目のベーキング工程ではガラスパイプ内に乾燥塩素(露点−75℃)を流しながら60kPaに減圧して、加熱源を加熱してガラスパイプ内面を30分以上1020℃に保つ。
前段工程、後段工程とも、乾燥気体雰囲気とする代わりにガラスパイプ内を減圧排気してもよい。この場合、10kPa以下とする水分の除去が効率的に行える。さらに、乾燥気体雰囲気としながら減圧排気するとなお水分除去の効果が大きい。
コアロッド表面とガラスパイプ内面を加熱して両者から水分除去を行うと同時に前記コアロッドと前記ガラスパイプとを一体化することもできる。例えば、図5(A)に示すように、第一熱源4aでガラスパイプ2の内面とコアロッド1の外面を加熱してそれぞれから水分を除去する。図5(A)で左から右に熱源4a、4bが移動し、図5(B)に示すようにすでに第一熱源4aによりガラスパイプ、コアロッッドのすでに水分が除去された部分23a、23bに第二熱源4bから熱が加えられ、この部分が軟化してコアロッド1とガラスパイプ2とが一体化し、光ファイバ母材5となる。ガラスパイプ2およびコアロッド1が図5で右から左に移動してもよい。第一熱源4aの温度を550℃以下、好ましくは450℃以下としてコアロッド表面、ガラスパイプ内面に物理的に付着している水分を除去し、第二熱源4bの温度をガラスパイプが縮径可能な温度、例えば1250℃以上としてコアロッド表面、ガラスパイプ内面に化学的に結合している水分と除去し、水分除去の直後にガラスパイプ2とコアロッド1とを一体化すると、水分除去の効率がよい。図5に例示する場合でも、ガラスパイプ2とコアロッド1との隙間を乾燥気体雰囲気または減圧雰囲気とするのが好ましいことは前述の通りである。
以下にコアロッドの製造、ガラスパイプの製造から本発明により光ファイバ母材を製造するまでを工程を追って説明する。
<コアロッドの製造>
本発明で使用するコアロッドは、コアロッドの径をD、コアの径をDとするとき、1≦D/D<2である。コアロッドはVAD法、OVD法等により製造可能である。
/D=1のときは、コアロッドが光学的クラッドを有さず、コアのみからなる。
1<D/D<2のときは、コアロッドが光学的クラッドの内側部分となる第一クラッドを有する。コアのみ合成した後、その周囲に光学的クラッドとなるガラス微粒子を堆積させる。VAD法ではコアの周囲に光学的クラッドの一部である第一クラッドを同時に合成することもできる。
VAD法、OVD法以外にも、ゾルゲル法、MCVD法、PCVD法またはその他公知の手段でコアロッドを製造することができる。
コアにGeOを添加し、光学的クラッドを純シリカとする場合は、D/dが1.2以下であれば、全体にGeを添加したガラス微粒子堆積体を製造し、それを脱水、透明化する際に、外周部分のGeを拡散あるいは揮散させて外周部分を光学的クラッドとすることもできる。
<コアロッド表面前処理>
透明化したコアロッドを必要に応じて公知の抵抗加熱炉や誘導加熱炉等の加熱手段を用いて所定の径に延伸する。例えば、3ないし30mmの外径に延伸する。約10mmの外径に延伸するのが好ましい。所定の径にされたコアロッドを、モル濃度が0.1重量%から50重量%のフッ化水素水溶液に1時間以上浸し表面の不純物汚染層を除去するのが好ましい。延伸やエッチングを行えば表面粗さを小さくでき、ロッドインコラプス時に気泡が発生することを低減できる。
<ガラスパイプの製造>
VAD法またはOVD法でガラスパイプを製造する。体積の大きなガラスパイプを製造する場合は、合成速度の大きなOVD法が好ましい。
VAD法でガラスパイプを作る場合は、まず、出発材の下にガラス微粒子堆積体を製造して、それを脱水および透明化して中実のガラスロッドを得て、前記ガラスロッドを穿孔してガラスパイプ母材を製造する。穿孔方法は、ドリル等で孔を開けるのでもよく、加熱して軟化させたガラスロッドに穿孔治具を押し込んで孔を開けるのでもよい。また、OVD法と同様に出発材の周囲にガラス微粒子を堆積させて出発材を抜き取って、パイプ状のガラス微粒子堆積体を脱水および焼結してガラスパイプ母材としてもよい。
その他、上述したVAD法、OVD法以外にも、ゾルゲル法、その他公知の技術により石英系ガラスを製造して、脱水処理して原材料として使用すればよい。
ガラスパイプ母材の内面または外面を研削またはホーニングして長さ方向に一定の内径および外径を有するガラスパイプにする。ホーニングすることにより表面粗さを小さくすることもできる。ガラスパイプ母材の内径および外径が長さ方向に一定である場合は、研削またはホーニングをせずに前記ガラスパイプ母材をガラスパイプとしてそのまま次工程に送ってもよい。また、ガラスパイプ母材またはガラスパイプを所定の外径となるように延伸してもよい。
<HF洗浄>
前記により製造したコアロッドおよびガラスパイプはフッ化水素水溶液に浸漬し、洗浄することが望ましい。使用するフッ化水素水溶液は、重量濃度が0.1重量%から50重量%の間であると取り扱いが容易である。浸漬時間は1時間以上とするのが好ましい。
<ロッドインコラプス>
前記で説明したコアロッドとガラスパイプとを加熱一体化して光ファイバ母材を製造する。
コアロッドのコアの非円率、ならびにガラスパイプの外径および内径の非円率がそれぞれ0.4%以下のものを使用するのが望ましい。さらに望ましくは0.3%以下、さらに望ましくは0.2%以下であるものを使用する。
コアロッドが第一クラッドを有する場合のコアロッドの偏心率およびガラスパイプの偏心率は0.3%以下であると好ましい。前記コアロッドの偏心率はコア中心と第一クラッド中心との距離をL、コアロッドの径をDとすると、L/Dで表される。ガラスパイプの偏心率は、ガラスパイプの内径中心と外径中心との距離をL、外径をDとしたとき、L/Dで表される。
非円率または偏心率が小さなコアロッドまたはガラスパイプをロッドインコラプスすることで、できあがった光ファイバ母材のコアの非円や複屈折率の悪化を抑制でき、その光ファイバ母材から製造される光ファイバのPMDを低減できる。また、コアロッドとガラスパイプを一体化する際に、半径方向(軸に垂直な方向)での溶融状態の不均一性が低減され、コアロッドとガラスパイプの一体化が均一に進み、気泡の発生を抑制することができる。したがって、得られる光ファイバの伝送特性を良好なものとすることができる。コアロッドおよびガラスパイプとも非円率および偏肉率の小さなものを組み合わせるとさらに効果が大きい。
コアロッドは外面のOH基濃度が10重量ppb以下のコアロッドを使用するのが望ましい。さらに望ましくは5重量ppb以下、さらに望ましくは0.5重量ppb以下のコアロッドを使用する。ガラスパイプは内面のOH基濃度が20重量ppb以下のコアロッドを使用するのが望ましい。さらに望ましくは10重量ppb以下、さらに望ましくは1重量ppb以下のガラスパイプを使用する。もともとOH基濃度が低いコアロッドおよびガラスパイプを使用することで、OH基が光を吸収することによる伝送損失が小さな光ファイバが得られる。
コアロッドとガラスパイプとの隙間が0.05mm以上6mm以下となるコアロッドとガラスパイプを組み合わせて使用することが好ましい。パイプの内径とロッドの外径との差でいうと0.1mm以上12mm以下である。ロッドをパイプに挿入するときにあまりに隙間が小さいロッドとパイプがこすれて傷がつくことがあるので、ロッドとパイプとの隙間が0.5mm以上であることが好ましい。
ガラスパイプの両端には把持用パイプを接続し、ガラスパイプを取扱うときはその把持用パイプを持つようにする。把持箇所は傷がつくおそれが大きいので、ガラスパイプの外部に把持箇所を設けることでガラスパイプに傷がつくおそれをなくすことができる。
<取り付け>
図6に示すように、ガラスパイプ2を把持用パイプ6に融着接続して、把持用パイプ6を把持手段10で把持する。こうしてガラスパイプ2を把持用パイプ6および把持手段10を介してコラプス装置(図示せず)に取りつける。
コアロッド1をガラスパイプ2内に挿入する。コアロッドを挿入する側と反対側の把持用パイプ6にはコネクタ7で通気管8を取り付ける。通気管8からガラスパイプ2内に乾燥ガスを流して、ガラスパイプ2内に大気が混入して大気中の水分がコアロッド1やガラスパイプ2に付着することを防止する。
コアロッド1は把持用パイプ6内にあらかじめ入れられた固定治具3にはさんで固定する。コアロッド1には両端に延長部材9を融着接続しておくのが好ましい。コアロッドに延長部材9を融着接続する場合は延長部材9を固定治具3ではさむ。
コアロッド1をガラスパイプ2に挿入し終えると、コアロッドを挿入する側、図6では左側の把持用パイプ6と延長部材9との間に固定治具を押し込んでコアロッド1をガラスパイプ2に対して固定することを完了する。固定治具3を使用することでコアロッド1をガラスパイプ2の中心に固定することができ、線引きした後の光ファイバの非円率または偏心率を小さくできる。
コアロッドの固定後、図6の左側の把持用パイプ6にもコネクタと通気管を取り付ける。コネクタ7で把持用パイプ6を密封するのが好ましい。
固定治具は例えば図7に示すような溝45を付けた環46がある。環46の外径を把持用パイプの内径よりやや大きめとし、環46の内径を延長部材9の外径よりもやや小さめとする。環46を弾性材で形成すれば、環46を把持用パイプ内に押し入れて延長部材を環46に押し込むことにより延長部材を環46を介して把持用パイプに固定できる。こうしてコアロッド1がガラスパイプ2内に固定される。コアロッドを固定した状態であっても乾燥ガスは溝45を通って環46の上下を流通できる。
コアロッド1およびガラスパイプ2を縦にする場合は、図8に示すように、上側の把持用パイプ6a内に固定治具3を入れ、ここに延長部材9aを押し込んでコアロッド1の上端を固定する。2カ所以上で延長部材9aを把持することが好ましい。延長部材9bの下端にはあらかじめ固定治具3をつけておき、固定治具3ごと下側の把持用パイプ6b内に押し込み、延長部材9bの下に支持棒11を置き、コネクタ7bを下側の把持用パイプ6bの下端に取り付ける。コアロッド1は把持用パイプ6a、6bに固定されてガラスパイプ2内に吊され、かつ支持棒11を介してコネクタ7bにより下端が支えられる。コネクタ7bにはガスの供給または排出が可能な配管8bを取り付ける。コネクタ7bで把持用パイプ6bを密封するのが好ましい。
コアロッドを挿入する以降、ロッドインコラプスが終了するまで、ガラスパイプ内部に大気中の水分または水素を含む化合物が混入しないようにコアロッドとガラスパイプとの隙間は常に乾燥気体雰囲気とするか、減圧雰囲気とするか、あるいは乾燥気体雰囲気としながら減圧雰囲気とする。
固定治具を用いる代わりに、図10に示すように、把持用パイプ6を加熱して縮径させてコアロッドまたは延長部材に接する縮径部24を形成してコアロッド1または延長部材9を把持するようにしてもよい。このとき、図11に示すように、縮径部24の前後をガスが流れることができる隙間25ができるように把持用パイプ6を縮径させる。把持用パイプ6の肉厚を薄くすると縮径し易く好ましい。
<乾燥ガス>
乾燥ガスは、水素および水素元素を含む化合物(例えば、HO、CHOH)の濃度が1重量ppm以下のガスとする。露点が−70℃以下のガスを使用するのが望ましい。より望ましくは−75℃以下のガスを使用する。ここで露点とは大気圧基準で測定したときのものである。ガス種としては、He、Ar等の不活性ガス、N2、O2ガス等が使用可能である。場合によってはCl、F等のハロゲンガス、SOCl、CHCl、SiF等のハロゲン原子を含むガスも使用可能である。コアロッドまたはガラスパイプ内に含まれる添加材によっては添加材に含まれる元素と同じ元素を含むSiCl、GeCl4、PCl3、POCl3、BCl3、BBr等も使用可能である。また、これらのガスは単独または2種以上からなる混合ガスを用いることも可能である。これによりコアロッドとガラスパイプの界面での不純物、特に水分の残留、混入を効果的に防止することが可能となる。
ガラスパイプ内部を乾燥気体で置換した後、密閉することが可能である。より望ましい方法としては、ガラスパイプ一端より継続的に乾燥気体を流入させつつ、他端側から排出させる方法がある。例えば、図4に示すように、一方の通気管8から乾燥ガスを供給し、他方の通気管8からガラスパイプ2内のガスを排出する。乾燥ガスを吹き流している状態ではコネクタ7は気密になるように把持用パイプ6に取り付ける必要はない。
<パイプ加熱>
前述の説明では、ガラスパイプの取り付け後すぐにコアロッドを挿入したが、コアロッドを挿入する前にガラスパイプ内に乾燥ガスを流してガラスパイプ内面を150ないし550℃に加熱することが望ましい。ガラスパイプ内面に物理的に付着している水分が除去される。ガラスパイプと同程度の長さの熱源で全体を加熱してもよく、ガラスパイプよりも短い熱源をガラスパイプに相対的に移動して加熱してもよい。
<気相エッチング>
コアロッド挿入前にガラスパイプ内に乾燥ガスを流して加熱した後、ガラスパイプの内面を気相エッチングするのが好ましい。エッチング処理によりパイプ内面に残留した不純物をより効果的に除去することができる。パイプ内面の異物が減って線引き時の断線や光ファイバの異常点が減少される。エッチングガスにはSF、NF、SiF、CF、C等のフッ素化合物ガスやFガス等が使用可能である。これらの化合物ガスに、ヘリウムやアルゴン等の不活性ガス、N、O、更に脱水効果や脱遷移金属効果をもつ化合物ガス、例えばCl原子を含む化合物ガス等をも含む混合ガスでもよい。気相エッチング時にはパイプ内面の温度を1000℃ないし2300℃に加熱する。これら化合物ガスが分解しガラスと反応することでパイプ内面がエッチングされる。エッチングの研削量は10μm以上とするのが好ましい。
前述したように、気相エッチングの前に150ないし550℃にガラスパイプ内面を加熱して物理的に付着している水分を除去しておくことでエッチング時に硫酸等の有毒物質が発生することを抑制できる。
<内面平滑化>
前記の気相エッチング後に、ガラスパイプ内に塩素ガス、酸素ガス、ヘリウムガスおよびそれらを2種以上含む混合ガスを流してガラスパイプ内面を1700℃ないし2300℃に加熱してパイプの内面を平滑化するのが好ましい。これによりガラスパイプを殆ど変形させずに、当該パイプ内面に残留する微小な傷、或いは凹凸部が溶融平滑化され、内面粗さを20μm以下にすることができる。塩素ガスを使用した場合は、ガラスパイプに化学的に付着している水分や当該パイプに残留する遷移金属系不純物を除去でき、気泡の発生防止に特に効果的である。
<ベーキング>
コアロッドをガラスパイプに挿入した後、コアロッド外面およびガラスパイプ内面を前述したベーキング工程で脱水することにより、その後にロッドインコラプスして得られた光ファイバ母材のロッドインによる界面のOH基濃度を1重量ppm以下とすることができる。これにより本発明に係る光ファイバ母材は、ロッドインコラプスにより得られた光ファイバ母材としては従来になくOH基による伝送損失が低い光ファイバを提供する。ロッドイン界面のOH基濃度を1重量ppm以下とすれば、1.38μmの光の伝送損失を0.50dB/km以下にすることができる。さらにロッドイン界面のOH基濃度を0.6重量ppm以下にすれば、1.38μmの光の伝送損失を0.35dB/km以下にすることができる。
<封止>
ベーキング工程によりコアロッドおよびガラスパイプ表面の水分を除去した後、図1に示すように、熱源4をガラスパイプ2の一端に向き合う位置に持ってくる。ガラスパイプ2を移動させてもよく、熱源4を移動させてもよい。熱源4を発熱させガラスパイプ2を1800℃ないし2400℃に加熱してその一部を縮径させ、図2に示すように、ガラスパイプの一端を封止する。ガラスパイプ2または把持用パイプ6が封止されるまで通気管8aから乾燥ガスをガラスパイプ2内に供給し、通気管8bからガラスパイプ2内のガスを排出する。乾燥ガスには酸素、窒素、アルゴン、ヘリウム、塩素またはそれらの2種以上からなる混合ガスを使用できる。通気管8aに流量計13や圧力計14を設置してガラスパイプ2内のガスの流量や圧力を測定する。その結果によりガラスパイプ2が完全に封止されたかどうか判断できる。ガラスパイプ2を右から左に流れるガスの流量がゼロになるか、ガラスパイプ2内の気圧の上昇が止まったら把持パイプが完全に封止されたと判断できる。ガラスパイプ2が封止されたときにガラスパイプ2内の気圧が急に高くなってガラスパイプ2が破裂することを防ぐためにバイパス配管16を設けておくのが好ましい。ガラスパイプ2の左端を封止しつつあるときはバイパス配管16に設置したバルブ17を開放し、ガラスパイプ2が完全に封止されても乾燥ガスがバイパス配管16を通るようにする。ガラスパイプ2の封止が終了すればバルブ17を閉じる。
<サイクルパージ>
ガラスパイプ2の一端を封止した後、ガラスパイプ2内のサイクルパージを実施することが好ましい。図2に示すように、通気管8aに設置したバルブ15を閉じて、通気管8cに設置したバルブ18を開き通気管8cからガラスパイプ2内を真空引きする。通気管8cに圧力計19を設置しておき、ガラスパイプ2内の気圧を測定する。ガラスパイプ内の気圧が10kPa以下となれば真空引きを停止し、バルブ18を閉じる。そして、バルブ15を開いてガラスパイプ2内に乾燥ガスを送り込み、ガラスパイプ2内の気圧が50kPa以上となるまで乾燥ガスで圧張りする。この真空引きと圧張りの操作を繰り返し、ガラスパイプ2内の雰囲気中に含まれる水素および水素元素を含む化合物の濃度が1重量ppm以下とすることができる。真空引きは1kPa以下となるまで行うことが好ましく、圧張りは100kPa以上となるまで行うことが好ましい。サイクルパージを行うことでベーキング時に除去し切れなかった水素や水素元素を含む化合物あるいはベーキング後にロッドまたはパイプに付着した水分等を除去できる。
<ロッドインコラプス>
ガラスパイプ2が封止されたら、封止された部分から中実化を開始する。コアロッド1およびガラスパイプ2または熱源4を、熱源4がガラスパイプ2に対して図2において左から右へ移動するように、移動させる。コアロッド表面を500ないし1300℃に加熱してコアロッド1とガラスパイプ2とを図2において左から右へ一体化していく。コアロッド1またはガラスパイプ2の端まで両者が一体化されて光ファイバ母材を得る。一体化のときにガラスパイプ2およびコアロッド1をその軸を中心に回転させると、回転によりガラスパイプの外周方向の均熱にすることができ、製造される光ファイバ母材の非円率、偏心率をさらに小さな値とすることができる。ガラスパイプ2およびコアロッド1を回転させる場合は、通気管8a、8b、8cをロータリージョイントを介して取り付ける。
熱源の加熱方式は火炎、抵抗加熱、誘導加熱いずれも可能である。ガラスパイプの周方向の温度分布を均一にすると製造される光ファイバ母材の非円や偏心を防ぐことができる。このためには、熱源が電気炉であることが好ましい。誘導加熱は熱源の温度を変化させるときの応答性にすぐれているので熱源の温度制御の目的には誘導加熱が好ましい。
ロッドインコラプス時に、コアロッド1とガラスパイプ2との隙間を通気管8aを介して乾燥気体雰囲気と連結する。例えば、ガラスパイプ2内に酸素、窒素、アルゴン、ヘリウム、塩素またはそれらの2種以上からなる乾燥ガスを通気管8aから供給する。乾燥ガスを供給することで大気中の水分を巻き込むことを防止してガラスパイプ2内を乾燥雰囲気に保つことができる。
ガラスパイプ2内に乾燥ガスを供給しながら、ガラスパイプ2内のガスを通気管8cから排気してガラスパイプ2内を減圧する。ガラスパイプ2内を減圧することでガラスパイプ10内のガスの量を減らし、水素ガスや水素原子を含むガスが混入していたとしてもその量を減らすことができる。例えば、ガラスパイプ2内の気圧を10kPa以下にする。更に望ましくは1kPa以下、さらに望ましくは0.1kPa以下とする。
ガラスパイプ内を減圧することで、コアロッドとガラスパイプとを低温で一体化することができる。また、コアに伝わる熱量を少なくできる。コアロッドの表面は前記したように500ないし1300℃に加熱し、ガラスパイプ外面は1300ないし1800℃に加熱する。この範囲の温度では、コアロッドやガラスパイプが軟化して自重で垂れて変形することがない。したがって得られる光ファイバ母材は偏心や非円がなく、コア外径に対するクラッド外径の比が長さ方向に一定に保たれる。これにより、この光ファイバ母材から製造される光ファイバは、カットオフ波長や分散等の特性の変動がない。また、コアにGeOが添加されている場合、コアに熱がかかることでGeが拡散してコアの屈折率分布が変化することがあるが、本発明ではコアに伝わる熱量を少なく、Geの拡散による屈折率分布の変化も防ぐことができる。
また、減圧排気することによりガラスパイプ内面の表面張力が周方向の各位置で均一に作用するので、コアロッドとガラスパイプとの一体化を均一に進行させることができ、溶着界面に気泡が残留することまたは気泡が発生することを効果的に防止できる。したがって、本発明に係る光ファイバ母材から光ファイバを線引きするときは、断線が気泡が原因となる断線がなく、得られる光ファイバの伝送損失は小さい。
本発明の一形態であるベーキング工程を行って得られた光ファイバ母材から製造された光ファイバは1.38μmの光の伝送損失を0.50dB/km以下、さらには0.35dB/km以下とすることができる。これらの値は1.38μmでのOH基吸収損失0.25dB/km以下、あるいは0.1dB/km以下に相当する。
ここまでは、主としてコアロッドとガラスパイプを横にしてロッドインコラプスする方法を説明したが、図8に示したように縦置きにしてロッドインコラプスすることもできる。
ガラスパイプ2の一端を封止した後、コアロッド1およびガラスパイプ2または熱源4を、図13のように、熱源4をガラスパイプ2の封止していない端に対向する位置へ移動させる。その位置で熱源4を発熱させガラスパイプ2の端または把持用パイプ6を1800℃ないし2400℃に加熱して縮径させ、その端でもガラスパイプ2を封止する。ガラスパイプ2が封止されるまで通気管8cからコアロッド1とガラスパイプ2との隙間のガスを排出して前記隙間を1kPa以下まで減圧する。あるいは、通気管8aから露点が−70℃以下、好ましくは−75℃以下の乾燥ガスを前記隙間に供給し、前記隙間を乾燥雰囲気とする。通気管8cから前記隙間のガスを排出すると同時に通気管8aから乾燥ガスを前記隙間に排気量よりも少ない量だけ供給して、前記隙間を減圧かつ乾燥雰囲気とする。乾燥ガスには酸素、窒素、アルゴン、ヘリウム、塩素またはそれらの2種以上からなる混合ガスを使用できる。こうして、コアロッド1とガラスパイプ2との隙間が減圧および/または乾燥雰囲気であって、ガラスパイプの両端でコアロッドとガラスパイプとが一体化された光ファイバ母材を得ることができる。
本発明のロッドインコラプスの一形態を示す図である。 本発明のロッドインコラプスの一形態を示す図である。 ガラスパイプの縮径部を示す図である。 本発明のロッドインコラプスの開始時期を示す図である。 本発明のロッドインコラプスの別の形態を示す図である。図5(A)はロッドインコラプス開始前の図であり、図5(B)はロッドインコラプスが進行中の図である。 コアロッドをガラスパイプに挿入する工程を示す図である。 コアロッドの固定治具の一形態を示す図である。 ロッドインコラプスの別の形態を示す図である。 ベーキング工程を示す図である。 コアロッド固定の一形態を示す図である。 ガラスパイプの縮径部を示す図である。 本発明の第二の形態の光ファイバ母材を示す図である。 本発明の第二の形態の光ファイバ母材の製造方法を示す図である。
符号の説明
1 コアロッド
2 ガラスパイプ
3 固定治具
4 熱源
5 光ファイバ母材
6 把持用パイプ
7 コネクタ
8 通気管
9 延長部材
10 把持部材
11 支持棒
12 熱源
13 流量計
14、19 流量計
15、17、18 バルブ
16 バイパス配管
20 誘導加熱式ヒータ
21 コイル
22 サセプター
23a、23b 水分が除去された部分
24 縮径部
25 隙間

Claims (6)

  1. コアロッドとガラスパイプとを熱源により加熱して一体化して、シングルモード光ファイバ用の光ファイバ母材を製造する方法であって、前記コアロッドに含まれるコアの径をD、前記コアロッドの外径をDとしたとき、1≦D/D<2であり、前記ガラスパイプの外径をD、その内径をdとしたとき、7<D/d≦30かつD≧90mmであり、前記コアロッドを前記ガラスパイプに挿入する工程、前記コアロッドおよび前記ガラスパイプを450℃以下の温度に加熱する前段加熱工程と550℃よりも高温に前記コアロッドおよび前記ガラスパイプを加熱する後段加熱工程とからなる前記コアロッド外面および前記ガラスパイプの内面の水分を除去する水分除去工程、ならびに前記コアロッドと前記ガラスパイプとの隙間を乾燥気体雰囲気と連結しながらまたは減圧排気しながら前記コアロッドと前記ガラスパイプとを加熱して一体化する工程を有する光ファイバ母材の製造方法。
  2. 前記水分除去工程を前記コアロッドと前記ガラスパイプとの隙間を乾燥気体雰囲気と連結しながらまたは減圧排気しながら行う請求項1に記載の光ファイバ母材の製造方法。
  3. 前記熱源に対して前記ガラスパイプおよび前記コアロッドをそれらの長さ方向に移動させて前記コアロッドと前記ガラスパイプとを一体化し、前記ガラスパイプの移動速度(mm/分)に対する前記熱源の長さ(mm)の比を5以上20以下とする請求項1または2に記載の光ファイバ母材の製造方法。
  4. 前記ガラスパイプが前記コアロッドと一体化する箇所が、前記熱源に向き合う範囲内であってかつ前記熱源の中心に向き合う位置よりも出口側に存在する請求項3に記載の光ファイバ母材の製造方法。
  5. 1200℃における前記コアロッドの平均粘度が同温度における前記ガラスパイプの平均粘度以上である請求項1ないし4のいずれか一項に記載の光ファイバ母材の製造方法。
  6. 前記コアロッドが純石英ガラスまたは添加材を含んだ石英ガラスからなり、前記ガラスパイプがフッ素添加石英ガラスを主成分とするガラスからなる請求項5に記載の光ファイバ母材の製造方法。
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