JP4178339B2 - スパッタ積層膜の作製方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、屈折率の異なる薄層が厚み方向に沿って積層、形成され、光学フィルター等として好適に用いられるスパッタ積層膜の作製方法に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
従来、ある屈折率を持つ透明膜を得るために酸化物皮膜が一般に用いられているが、酸化物皮膜は、酸素分率を変えても屈折率は大きく変化しない。このため、得られる屈折率の値が限られており、要求に応じて屈折率を任意に変えた積層膜を自由に得ることは難しい。
【0003】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、厚み方向に沿って任意に屈折率が変化するスパッタ積層膜を簡単かつ確実に作製する方法を提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段及び発明の実施の形態】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、炭化ケイ素(SiC)をスパッタリング法におけるターゲットとして用い、このターゲットに対する投入電力を変化させることにより、この投入電力に応じ、1.4〜2.8の屈折率範囲(測定温度:25℃)で任意の屈折率を有する薄膜を形成でき、またこの場合、更にスパッタリングを酸素ガスや窒素ガス等の反応性ガスの濃度を変化させて行うことにより、更に効果的に任意の屈折率を有するSiCを主体とする薄膜を形成できることを知見し、本発明をなすに至った。
【0005】
そして、そのようにスパッタリングを行う場合、上記ターゲットに対する投入電力を連続的に又は間欠的に変化させることにより、場合によっては更に反応性ガスの濃度を連続的に又は間欠的に変化させることにより、得られるスパッタ皮膜が、その厚み方向に沿って矩形波状、三角波状、サイン波状等の任意の波状形態で屈折率が変化し、従って、任意の帯域をパスできるフィルターとして用いられ、例えば、可視光反射防止膜等の反射防止膜として有用な積層膜を簡単に形成することができることを知見し、本発明をなすに至ったものである。
【0006】
即ち、本発明は、下記のスパッタ積層膜の作製方法を提供する。
請求項1:
炭化ケイ素をターゲットとしてターゲットへの投入電力を連続的に又は間欠的に変化させてスパッタリングを行うことにより、厚み方向に沿って屈折率の異なる薄膜を析出、形成することを特徴とするスパッタ積層膜の作製方法。
請求項2:
更に反応性ガス濃度を連続的に又は間欠的に変化させるようにした請求項1記載の方法。
請求項3:
炭化ケイ素ターゲットとして密度が2.9g/cm3以上であり、且つ炭化ケイ素粉末と非金属系焼結助剤とが均質に混合された混合物を焼結することにより得られた炭化ケイ素焼結体を用いた請求項1又は2記載の方法。
請求項4:
スパッタ積層膜が反射防止膜用である請求項1、2又は3記載の方法。
【0007】
以下、本発明につき更に詳しく説明する。
【0008】
本発明のスパッタ積層膜の作製方法は、炭化ケイ素をターゲットとして基材にスパッタリングを行うものである。
【0009】
この場合、スパッタリング法としては、使用するSiCターゲットの導電性によるが、導電性が低い場合は高周波スパッタリング、高周波マグネトロンスパッタリング等の方法が、導電性が高い場合はDCスパッタリング、DCマグネトロンスパッタリング等の方法が用いられるが、特に後述する炭化ケイ素焼結体を用いたSiCターゲット材は導電性があるため、DCスパッタリング、DCマグネトロンスパッタリングが好ましい。なお、基材としてはガラス、セラミックス等の無機材料、金属材料、PMMA、PET等の有機材料を用いることができる。
【0010】
ここで、炭化ケイ素としては、密度が2.9g/cm3以上であり、且つ炭化ケイ素粉末と非金属系焼結助剤とが均質に混合された混合物を焼結することにより得られた炭化ケイ素焼結体で形成されたものが好ましい。この場合、この炭化ケイ素焼結体に含まれる不純物元素の総含有量は1ppm以下であることが好ましい。なお、非金属系焼結助剤は、加熱により炭素を生成する有機化合物、例えばコールタールピッチ、フェノール樹脂、フラン樹脂、エポキシ樹脂やグルコース、蔗糖、セルロース、デンプンなどが挙げられ、特にフェノール樹脂であることが好ましい。また、上記非金属系焼結助剤は炭化ケイ素粉末表面を被覆していることがよい。上記炭化ケイ素焼結体は、上記混合物を非酸化性雰囲気下でホットプレスすることにより得ることができる。
【0011】
なお、この炭化ケイ素焼結体の製造に用いる炭化ケイ素粉末としては、少なくとも1種以上の液状のケイ素化合物を含むケイ素源と、加熱により炭素を生成する少なくとも1種以上の液状の有機化合物を含む炭素源と、重合又は架橋触媒とを混合して得られた混合物を固化して固形物を得る固化工程と、得られた固形物を非酸化性雰囲気下で加熱炭化した後、更に非酸化性雰囲気で焼成する焼成工程とを含む製造方法により得られたものであることが好ましい。
【0012】
この炭化ケイ素焼結体は、炭化ケイ素粉末を焼結するに当たり、焼結助剤としてホウ素、アルミニウム、ベリリウム等の金属やその化合物である金属系焼結助剤や、カーボンブラック、グラファイト等の炭素系焼結助剤等は用いずに、非金属系焼結助剤のみを用いるため、焼結体の純度が高く、また結晶粒界での異物が少なく、熱伝導性に優れ、且つ炭化ケイ素本来の性質として炭素材料に比し耐汚染性、耐摩耗性に優れた、各種電子デバイス部品の保護膜や機能性膜に適する薄膜、及び各種治工具等の耐久性を向上させるために有用な表面処理薄膜等を形成し得る。
【0013】
従って、本発明においては、上記炭化ケイ素焼結体をターゲットとして用いることが好ましい。
【0014】
ここで、炭化ケイ素をターゲットとしてスパッタリングを行う場合、本発明においては、このターゲットに対する投入電力を連続的に又は間欠的に変化させてスパッタリングを行うものである。
【0015】
この場合、投入電力としてはターゲットの大きさにより異なるが、100mmφの場合50〜2000W、ターゲット投入電力密度で表わすと0.5〜30W/cm2の範囲で選定することができる。
【0016】
上記スパッタリングは、アルゴン等の不活性ガス雰囲気で行うことができ、不活性ガス流量は、真空チャンバー、排気ポンプの容量等で異なるが、例えば5〜30ml/min、特に10〜25ml/minとすることができるが、本発明においては、更に反応性ガスを混入して行うことができ、反応性ガス濃度を連続的に又は間欠的に変化させてスパッタリングを行うことにより、薄膜の屈折率をより有利にコントロールすることができる。この場合、反応性ガスとしては不活性ガス以外では特に制限はないが、酸素を含む酸素ガス、一酸化炭素ガス、二酸化炭素ガスなどや、窒素を含む窒素ガス、一酸化窒素ガス、二酸化窒素ガス、アンモニアガスなどを用いることができる。これらのガスは単独でも、混合でも、また酸素を含むものと窒素を含むものを混合して用いてもかまわない。これらの反応性ガスのみを真空チャンバーに流す場合は真空チャンバー、排気ポンプの容量により異なるが、本発明で用いた装置では0〜100ml/minの範囲で濃度コントロールすることが望ましい。また、反応性ガスの不活性ガスに対する比率[反応性ガス流量/(反応性ガス流量+不活性ガス流量)×100]を0〜50%の範囲とすることが望ましい。
【0017】
なお、スパッタリングのその他の条件としては公知の通常の条件を採用し得る。
【0018】
この場合、ターゲットに対する投入電力量の変化、更に必要に応じて行われる上記反応性ガスの濃度(流量)変化は、連続的に行っても、適宜間隔毎に行ってもよく、要求する屈折率変動に応じてコントロールされ、屈折率が厚み方向に沿って矩形波状、三角波状、サイン波状等、任意の所望の波状に変動する屈折率変動皮膜を得ることができる。
【0019】
また、上記スパッタ皮膜の膜厚は適宜選定され、通常、1nm〜100μm、特に5nm〜10μmの膜厚に形成することができる。
【0020】
このようにして得られたスパッタ皮膜は、上記反応性ガスが酸素ガスの場合はSiCxy(x,yは任意の数)の単独膜、又はSiC、SiO、SiO2、SiCxyの混合物皮膜となり、窒素ガスの場合はSiCxy(x,yは任意の数)の単独膜、又はSiC、Si34、SiN、SiCxyの混合物皮膜となるが、これら反応性ガス濃度に応じ、炭素分率がコントロールされて、屈折率1.4〜2.8、特に1.46〜2.67の屈折率範囲で深さ方向に沿って任意の屈折率変動を有するSiCを主体とする薄膜である。
【0021】
この薄膜は、屈折率1.4〜2.8の間で屈折率が深さ方向に分布を有するため、ある波長範囲で透過率の高い又は反射率の高い光学フィルターを形成でき、SiC特有の強靱さも兼ね備えており、耐摩耗性、耐擦傷性に優れた固いハードコート膜を得ることができ、反射防止膜、各種光学フィルター、透明耐摩耗膜、ハーフミラー膜等として有効である。
【0022】
【実施例】
以下、実験例及び実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0023】
[実験例]
下記の条件でスパッタリングを行い、種々の屈折率を有する薄膜を形成した。結果を表1〜3に示す。
Figure 0004178339
【0024】
【表1】
Figure 0004178339
【0025】
【表2】
Figure 0004178339
【0026】
【表3】
Figure 0004178339
【0027】
上記実験例の結果より、ターゲットに対する投入電力をコントロールすることで、種々の屈折率の薄膜を形成でき、これに加えて反応性ガスの濃度(流量)をコントロールすることによって更に種々の屈折率を有する薄膜を形成し得ることが認められた。
【0028】
[実施例1]
上記実験例において、アルゴンガス(18ml/min)及び酸素ガス(5ml/min)を連続的に流しながら、ターゲットに対する供給電力を図1に示すように変化させてスパッタリングを行った。得られた皮膜の屈折率変化を図2に示す。
【0029】
[実施例2]
図3に示すように供給電力を変化させてスパッタリングを行った。得られた皮膜の屈折率変化を図4に示す。
【0030】
[実施例3]
図5に示すように供給電力を変化させてスパッタリングを行った。得られた皮膜の屈折率変化を図6に示す。
【0031】
【発明の効果】
本発明によれば、屈折率1.4〜2.8の範囲で厚さ方向に沿って任意の屈折率変化を有する積層膜を確実に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1において、投入電力の経時的な(膜厚の厚み方向に沿った)変化を示すグラフである。
【図2】同例において、得られた積層膜の厚み方向に沿った屈折率変化を示すグラフである。
【図3】実施例2において、投入電力の経時的な変化を示すグラフである。
【図4】同例において、得られた積層膜の厚み方向に沿った屈折率変化を示すグラフである。
【図5】実施例3において、投入電力の経時的な変化を示すグラフである。
【図6】同例において、得られた積層膜の厚み方向に沿った屈折率変化を示すグラフである。

Claims (4)

  1. 炭化ケイ素をターゲットとしてターゲットへの投入電力を連続的に又は間欠的に変化させてスパッタリングを行うことにより、厚み方向に沿って屈折率の異なる薄膜を析出、形成することを特徴とするスパッタ積層膜の作製方法。
  2. 更に反応性ガス濃度を連続的に又は間欠的に変化させるようにした請求項1記載の方法。
  3. 炭化ケイ素ターゲットとして密度が2.9g/cm3以上であり、且つ炭化ケイ素粉末と非金属系焼結助剤とが均質に混合された混合物を焼結することにより得られた炭化ケイ素焼結体を用いた請求項1又は2記載の方法。
  4. スパッタ積層膜が反射防止膜用である請求項1、2又は3記載の方法。
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