JP4047940B2 - ダイヤモンド被覆用セラミック基基材 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、被覆用セラミック基基材、より詳細には硬質被膜、特にダイヤモンド膜及びcBN(立方晶窒化ホウ素)膜等を被覆するためのセラミック基基材に関する。本発明のセラミック基基材にダイヤモンド又はcBN等の硬質被膜を被覆したものは、バイト、エンドミル、カッター若しくはドリル等の各種切削工具、各種耐摩耗部材又はヒートシンク等の電子用部材として用いることができる。
【0002】
【従来の技術】
基材にダイヤモンドを被覆して成るダイヤモンド被覆硬質材料は、基材へのダイヤモンド被覆層の付着強度が弱く、ダイヤモンド被覆層は基材から剥離しやすかった。そのため、基材へのダイヤモンド被覆層の付着強度を向上させることを目的とした種々の技術が知られている。それらのいくつかを示せば次のとおりである。
【0003】
特開平1−246361号公報には、特定組成の焼結合金の加熱処理面に特定の被覆膜を形成した焼結合金について開示されている。
【0004】
特開平4−231428号公報には、特定組成の超硬合金工具を特定条件で二次焼結し、さらに化学エッチングと超音波研磨を行なってダイヤモンド被覆層を形成する切削工具の製造法が開示されている。
【0005】
特開平4−263074号及び特開平4−263075号の各公報には、特定の凹凸を有する基材表面にダイヤモンド被覆層を形成して成る硬質材料が記載されている。
【0006】
これら以前の技術としては、特開昭54−87719号、特開昭58−126972号(特公昭62−7267号)の各公報に記載のものが知られている。
【0007】
なお、「粉体および粉末冶金」第29巻第5号の第159〜163頁は、WC−β−Co合金(β:WC−TiC固溶体)表面への硬質層形成について報告されており、前記合金を5.1kPa(5×10-2気圧)のN2中において1673Kで加熱すると凹凸の激しい硬質層が表面に形成される点、硬質層の形成はN2圧力が約0.7kPa(約7×10-3気圧)以上で見られる点、N2圧力を高くして長時間加熱を行う程WC−TiC−TiN固溶体(β(N))粒子が粗大化して表面部の凹凸が著しくなると共に表面部にCoプールが生じる点が記載されている
。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
上記従来の技術によっても、基材へのダイヤモンド被覆層の付着強度は、なお不十分であり、ダイヤモンド被覆層は基材から剥離しやすいので、耐久性が不十分であった。ダイヤモンド等の硬質被膜を被覆した場合に、例えば非常に厳しい条件で使用する切削工具(Si含有量の多いAl合金をフライス切削する工具など)にも応用できる、十分な密着性を実現できる被覆用基材が所望されている。しかし、従来は、密着性等の点で極めて不十分であった。
【0009】
また、前記「粉体および粉末冶金」に記載の方法は、そもそもダイヤモンド膜を被覆するための基材の製法として開示されたものではなく、ダイヤモンド膜を良好に被覆しうるか否かは不明であると共に、減圧下で加熱するので加熱条件の制御が困難で安定した量産が困難である。
【0010】
本発明は従来技術のかかる問題点を解消する被覆用基材、被覆基材を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明によれば、次の被覆用基材、被覆基材により上記目的を達成することができる。
【0012】
1 WCを主成分とし、Ti又はこれとTaと、Co及びNiの少なくとも1種を含有してなるWC基超硬合金であり、そのWC基超硬合金は、0.05〜5容量%のN 2 ガスを含有する0.5〜1.5気圧の雰囲気下、前記WC基超硬合金の液相が発生する温度以上焼結温度以下で熱処理され、そのWC基超硬合金の表面に、表面粗さ(Rz)2〜20μmのN含有基凹凸面を有する被覆用セラミック基基材。
【0013】
▲2▼ 上記被覆用セラミック基基材に硬質被膜(好ましくはダイヤモンドから成る)を被覆して成る被覆基材。
【0015】
上記被覆用セラミック基基材の基凹凸面は、好ましくは、最表面を構成する結晶粒子の大きさ程度(0.5〜10μm)の微小凹凸(より好ましくは、1〜5μmで且つ基凹凸面の粗さよりも小さい値の微小凹凸)を前記基凹凸面に対し有して成る二重凹凸面構造を有する。
【0016】
かかる微小凹凸の方向は、前記基凹凸面に対したて方向のみならず、ななめ方向、横方向のものもある。
好ましくは、基凹凸面は、嵌合比が1.2〜2.5であり、且つその凹凸の振れ巾が2〜20μmである。
また、基凹凸面は、好ましくは、周期25μm以下の凹凸成分の表面粗さ(Rz)が3〜10μmである。
【0017】
上記被覆用セラミック基基材が、ダイヤモンド被覆用であること、また、セラミック基基材本体と、前記基材本体を被覆する被覆層から成り、前記二重凹凸面構造を有する被覆層が最外層であることは、それぞれ好ましい。
【0019】
被覆層は、好ましくは、W−Ti−C−N固溶体及びW−Ti−Ta−C−N固溶体の少なくとも1種を主体として成る。
【0020】
上記被覆用セラミック基基材の製造方法において、好ましくは、表面粗さ(Rz)2〜20μmの基凹凸面を有するN含有凹凸表面層を前記WC基超硬合金の表面に形成する。
【0021】
より好ましくは、前記基凹凸面が、最表面を構成する結晶粒子の大きさ程度(0.5〜10μm)の微小凹凸(さらに好ましくは、1〜5μmで且つ基凹凸面の粗さよりも小さい値の微小凹凸)を前記基凹凸面に対し有して成る二重凹凸面構造を有するN含有凹凸表面層を、WC基超硬合金の表面に形成する。
【0022】
好ましくは、嵌合比が1.2〜2.5であり、且つその凹凸の振れ巾が2〜20μmである基凹凸面を有するN含有凹凸表面層を前記WC基超硬合金の表面に形成する。
【0023】
また、好ましくは、周期25μm以下の凹凸成分の表面粗さ(Rz)が3〜10μmである基凹凸面を有するN含有凹凸表面層を前記WC基超硬合金の表面に形成する。
【0024】
また、好ましくは、WC基超硬合金として、WCを主体とし、Ti又はこれとTaと、Co及びNiの少なくとも1種を含有してなる超硬合金を用いる。
【0025】
また、好ましくは、W−Ti−C−N固溶体及びW−Ti−Ta−C−N固溶体の少なくとも1種を主体として成るN含有凹凸表面層を形成する。
ここで、「嵌合比」とは、凹凸面の断面の距離(凹凸面の断面曲線の道のり)を凹凸面の断面の直線距離(凹凸面の断面曲線の両端を結ぶ直線の距離)で除した値をいう。また、「振れ巾」とは、凹凸面の断面曲線を内接して挟むことができる2本の平行線の間隔の最小値をいう。
【0026】
本発明の被覆用セラミック基基材において、基凹凸面の表面粗さ(Rz)が2μm未満では、付着性を高めることができず、20μmを越えると基材強度が低下する。また、基凹凸面に対する微小凹凸が0.5μm以上の場合には、ダイヤモンド等の硬質被膜被覆時の付着性をより一層高めることができるが、10μmを越えても10μm未満の場合の付着性を上まわる付着性は得られない。表面粗さ(Rz)は、JISB0601に規定する十点平均粗さである。
【0027】
嵌合比が1.2未満又は凹凸の振れ巾が2μm未満では密着性を高める効果が少なくなる傾向があり、逆に嵌合比が2.5を越えたり又は凹凸の振れ巾が20μmを越えると基材としての強度が低下する傾向があり、また、切削工具用とした場合には刃先形状を保ちにくくなる傾向がある。嵌合比は、より好ましくは、1.3〜2.0である。凹凸の振れ巾は、より好ましくは、5〜10μmである。
【0028】
基凹凸面に関し、周期25μm以下の凹凸成分の表面粗さ(Rz)が3μm未満では密着性を高める効果が少なくなる傾向があり、逆に10μmを越えると基材としての強度が低下する傾向があり、また切削工具用とした場合には刃先形状を保ちにくくなる傾向がある。前記表面粗さ(Rz)は、より好ましくは、5〜8μmである。
【0029】
ここで、周期が25μm以下の凹凸成分についての表面粗さ(Rz)としたのは、25μm以上の長い周期の凹凸成分は嵌合力の改善に対してさほど効果が大きくないためである。
【0030】
基凹凸面についての周期25μm以下の凹凸成分の表面粗さ(Rz)は、基凹凸面の表面粗度を非接触式三次元形状解析装置(例えば、有限会社電子光学研究所製RD−500形)を用いて測定し、測定された凹凸波形をフーリエ変換し、周期が25μm以上の成分をフィルターにより除去後、逆フーリエ変換して得られた凹凸波形について表面粗さ(Rz)を求める、という手順で求める。
【0031】
なお、通常用いられる接触式の表面粗度計では接触子の先端半径が5〜10μm程度であるため、比較的長い周期の凹凸成分しか測定されていないので、接触式の表面粗度計で得られたRzで表面状態を規定することにはあまり意味がない。
【0032】
常圧の熱処理雰囲気中のN 2 ガスが0.05容量%未満の場合には、雰囲気中のNの量が少ないのでN含有凹凸表面層の形成が困難であり、5容量%を越える場合にはWC基超硬合金に含まれる結合相(例えばCo)が表面に多量に析出し、ダイヤモンド被覆時の付着性を低下させる。
【0033】
熱処理温度がWC基超硬合金の液相生成温度未満の場合には、N含有凹凸表面層の凹凸が不十分であり、ダイヤモンド被覆時の付着性が不十分になり、焼成温度を越える場合には、前記超硬合金を構成する粒子が成長し、強度等の特性が低下する場合がある。熱処理を常圧下で行うので、バッチ炉だけでなくトンネル炉などの連続処理が可能となり、コスト、生産性の点において大きなメリットがある。
【0034】
被覆用基材にダイヤモンド等の硬質被膜を被覆したものは、硬質被膜とN含有凹凸表面層が嵌合しており、且つ、N含有凹凸表面層とWC基超硬合金も嵌合していて、これら両方の嵌合のアンカー効果によりより一層高い付着性が得られる。
【0035】
なお、本願明細書においてセラミック基基材とは、特に超硬質のセラミック質物質(炭化物、窒化物、ホウ化物及びこれらの複合化合物ないし酸化物との複合化合物、金属化合物等)を主成分とする硬質基材であり、基本的に焼結によって得られ、高融点金属の炭化物を主要成分とし金属相を結合相とする超硬合金やサーメット等も含まれる。なお、基材自体が被覆層を有する複合構造体であってもよい。また、基凹凸面は、JISB0601に規定する十点平均粗さが2〜20μmである面である。常圧とは 0.5〜1.5気圧のことをいう。
【0036】
【好適な実施態様】
(被覆用セラミック基基材)
本発明の被覆用セラミック基基材は、基材本体とこれを被覆する被覆層から成るものにすることができ、被覆層は1層以上設けることができる。基材本体と被覆層の間が嵌合したものは好ましい。
【0037】
基材本体は、好ましくは超硬合金等の硬質材料であり、例えば、TiC又はこれとTaCを含んだWC−Co系の超硬合金にすることができる。TaCを含む場合は、Taの一部ないし全部をV、Zr、Nb、Hfの少なくとも1種で置き換えてもよい。
【0038】
被覆層は、好ましくは、W−Ti−C−N固溶体及びW−Ti−Ta−C−N固溶体の少なくとも1種を主体とする。
【0039】
(被覆基材)
本発明の被覆基材は、本発明の被覆用セラミック基基材に硬質被膜を被覆して成るものであり、硬質被膜の材料としてダイヤモンド又はcBNを用いることができる。
【0040】
(ダイヤモンド被覆用基材の製造方法)
WC基超硬合金は、WCを主成分としたものであり、他の成分として好ましくは、Ti又はこれとTaと、結合相としてCo及びNiの少なくとも1種を含むものを用いることができる。この場合のWC基超硬合金の好ましい組成は、Ti又はこれとTaは、炭化物換算で0.2〜20重量%(好ましくは0.5〜10重量%、より好ましくは1〜5重量%)であり、Co及びNiの少なくとも1種は、2〜15重量%(好ましくは、3〜10重量%、より好ましくは4〜7重量%)であり、前記合金はW−Ti−C固溶体(β相)及びW−Ti−Ta−C固溶体(βt相)の少なくとも1種を有する。前記β相及びβt相の好ましい平均結晶粒径は、0.5〜10μm(より好ましくは1〜5μm)である。
【0041】
Tiが炭化物換算で0.2重量%未満の場合には、熱処理によってN含有凹凸表面層が形成しにくく、また、熱処理後の表面層自体が剥離しやすくなる。剥離しやすくなる理由は、熱処理によって、Ti成分のほとんどが表面に移動してW−Ti−C−N固溶体(β(N)相)が表面に形成されて、Ti成分と他の合金成分とが分離し嵌合状態が低下してしまうからである。またTiが炭化物換算で20重量%を越える場合には、熱処理前において既に脆く、また、熱膨張係数が大きくなるので、ダイヤモンドのそれとの差が大きくなり、ダイヤモンド被覆後の冷却中に基材とダイヤモンド膜界面にせん断応力が生じ膜剥離の原因となりやすい。
【0042】
Tiの他にTaを含有させた場合の好ましい上限値が20重量%である理由も上記と同様である。
【0043】
なお、前記熱処理に悪影響を与えない範囲でTaの一部ないし全部をV、Zr、Nb、Hfの少なくとも1種で置き換えることができる。また、WC、TiC、TaC、Co等の各粉末を粉末冶金法で緻密に焼結して得られるWC基超硬合金は、前記炭化物結晶相が焼結中に粒成長すると強度が低下するので、焼結中の粒成長を抑制するCr及びMoの少なくとも1種を通常は炭化物として、本発明における熱処理に悪影響を及ぼさない範囲で含有させることができる。
【0044】
結合相としてのCo及びNiの少なくとも1種の含有量が2重量%未満の場合には、WC基超硬合金製造の際の焼結による緻密化が困難であり、基材として要求される強度等の特性が不十分である。一方、15重量%を越える場合には、本発明における熱処理時やダイヤモンド被膜形成時にこれらの成分が基材表面に現われやすく、ダイヤモンド被膜形成に対して悪影響を及ぼす場合があり、また、ダイヤモンド被膜の熱膨張係数との差が大きくなり膜剥離の原因となることがある。
【0045】
β相又はβt相の平均粒径が0.5μm未満の場合には、熱処理後に形成されるN含有表面層の凹凸が小さくなったり、N含有表面層とWC基超硬合金内層との嵌合が十分に得られない場合があり、10μmを越えると前記嵌合が不十分になったり、熱処理前におけるWC基超硬合金としての強度が得られないことがある。
【0046】
なお、TiNやTiC−TiN固溶体等のNを含む粉末の添加による焼結、窒素原子を含む雰囲気中での焼結により、あらかじめβ(N)相を含有するN入り超硬合金やサーメットの場合には、本発明における熱処理によっても表面層に凹凸ができにくくなったり、熱処理雰囲気による凹凸状態の制御が困難あるいは不安定になる場合がある。
【0047】
WC基超硬合金の熱処理の雰囲気中のN2含有量を正確に制御するため、熱処理に使用する炉は、雰囲気中のN2含有量に影響を及ぼさない耐火物で構成し、BN等の耐火物からなる炉は用いない。
【0048】
WC基超硬合金の好ましい熱処理温度は1350〜1450℃であるが、合金中の炭素量やCoとNiの量比によって下限温度は異なる。
【0049】
熱処理時間は、N含有表面層の凹凸の度合に最も影響を及ぼす因子であり、これを調整することで任意の凹凸を有するN含有表面層を形成することができる。効率よく、安定的にN含有層を得るには、熱処理温度や雰囲気中のN2含有量を調整し、熱処理時間を好ましくは0.5〜5時間にする。
【0050】
熱処理時の雰囲気は、常圧においてN2を0.05〜5容量%含有するが、好ましくは0.5〜3容量%含有させ、残部はAr等の不活性ガスにする。
【0051】
本発明の被覆用基材の製造方法によって、N含有凹凸表面層を形成した後に、前記表面層の膜付着性を変化させない範囲でアルゴン等の不活性雰囲気中で再熱処理を行ない、前記表面層からNを放出してもよい。
【0052】
また、上記の再熱処理と同等の効果(最表面にNが含まれないようにする)を得る他の方法として、CVD、PVD等の周知の方法によりTiC等の硬質被膜を凹凸表面層の表面形状がさほど変化しない程度の厚みで被覆しても良い。
【0053】
ダイヤモンドを被覆する方法としては、炭素源ガスと水素ガスの混合ガスを励起したガスを基材に接触させる、いわゆるCVD法を用いることができる。なかでも、合成条件を精度よく制御できる手段としてマイクロ波プラズマCVD法が好ましい。
【0054】
ダイヤモンド膜の合成条件としては、基材の表面凹凸とダイヤモンドの嵌合を良好にするために、合成初期段階では表面凸部はもとより表面凹部の内部までなるべく多くの核が発生する条件とし、その後は膜の成長速度が高く、また良好な膜強度が得られる条件とすることが経済的にも好ましい。
【0055】
ダイヤモンドの被覆は2以上の工程にわけて行ない、2以上の被覆層を形成してもよい。
【0056】
【実施例】
(実施例A)
原料粉末として、平均粒径2μmのWC粉末、TiC−WC固溶体粉末、平均粒径1μmのTaC粉末及びCo粉末を用意し、これら原料粉末をWC、TiC、TaC、Coに換算して表1に示される割合となるように配合し、この混合粉末を湿式混合し、乾燥した後1.5ton/cm2の圧力で圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を真空中、1400〜1450℃で1時間焼結し、上記配合組成とほぼ同一の成分組成をもつ焼結体を製造した。これらの焼結体の表面を研削加工し、ISO規格SPGN120308の形状のチップに成形した。
【0057】
これらのチップをカーボンケースに入れ、ヒーター、断熱材など高温に曝される部分が全てカーボンからなる電気炉を用いて、表2に示される条件で熱処理を施し、表2〜3に示す特性の表面変質層を形成した。
【0058】
得られた表面変質層を有する基体(試料No.2〜40)及び熱処理を施していないチップ(試料No.1)を平均粒径10μmのダイヤモンド微粉末が浮遊分離している溶媒中に浸漬し超音波処理を施すことにより表面を活性化した。
【0059】
このようにして得られたチップを2.45GHzのマイクロ波プラズマCVD装置内に設置し、850℃に加熱し、全圧を50TorrとしたH2−2%CH4の混合プラズマ中にて10時間保持し、膜厚約10μmのダイヤモンド被覆切削チップを作製した。なお、本試験において、基体の表面に析出した被覆層はラマン分光分析法によってダイヤモンド被覆層であることを確認した。
【0060】
これらの切削チップを用いて、下記条件で切削テストを行なったところ、表2〜3に示したように、本発明のダイヤモンド被覆チップはダイヤモンド膜が剥離することなく被削材を良好な面精度で切削できる時間が長く、優れた特性を示すものであるのに対し、比較例ではダイヤモンド膜の密着強度が低いために剥離しやすく、また、被削材を良好な面精度で切削できる時間が短く、基体に欠損を生じることもあることが分かる。
【0061】
連続切削:旋削(直径約150mm、長さ約200mmの円筒被削材の外周を加工する。)
被削材:A1−18wt%Si合金
切削速度:800m/min
送り:0.15mm/rev
切込み:0.5mm
断続切削:フライス(約150×150mmで厚さ約50mmの角板被削材の表面を加工する。)
被削材:A1−18wt%Si合金
切削速度:600m/min
送り:0.1mm/tooth
切込み:0.5mm
【0062】
【表1】
【0063】
【表2】
【0064】
【表3】
【0065】
なお、表2〜3中のα、β、γは結晶相を示す記号であり、それぞれ次のものを示す。表5中のα、β、γも同様である。
α:WC
β:β相、βt相及びそれらにNが固溶したβ(N)相等の何れか
γ:Co及び/又はNiを主体とする結合相
また、表面変質層の有無については、電子線マイクロプローブ分析(EPMA)による基材の厚さ方向断面の元素分析により、表面近傍にTi及び/又はTa成分が偏析し且つCoを全く含有しない部分が観察されたものを表面変質層有り、Ti及び/又はTaを含有する粒子やCoを含有する結合相の分散状態が表面及び内部に於いて差が無く、比較的均一であるものを表面変質層なしと判断した。表5においても同様である。
【0066】
(電子線マイクロプローブ分析)
本発明の基材(試料No.11)と比較例の基材(試料No.1)の各々について、電子線マイクロプローブ分析(EPMA)による基材の厚さ方向断面の元素分析を行った。その結果、比較例の基材はTi及びTaを含有する粒子(βt相)やCoを含有する結合相が比較的均一に分散し、また、表面に変質層を有さない組織から成るものであることが分かった。これに対し本発明の基材は表面にTi及びTaを含有する表面変質層を有し、この変質層はCoを全く含有しないものであることが分かった。また、上記の表面変質層中には窒素(N)が含まれていることも確認した。これらの分析結果を図5及び図7に示す。
【0067】
(実施例B)
原料粉末として、平均粒径2μmのWC粉末、TiC−WC固溶体粉末、平均粒径1μmのTaC粉末及びCo粉末を用意し、これら原料粉末をWC、TiC、TaC、Coに換算して表4に示される割合となるように配合し、この混合粉末を湿式混合し、乾燥した後1.5ton/cm2の圧力で圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を真空中、1400〜1500℃で1時間焼結し、上記配合組成とほぼ同一の成分組成をもつ焼結体を製造した。これらの焼結体の表面を研削加工し、ISO規格SPGN120308の形状のチップに成形した。
【0068】
【表4】
【0069】
これらのチップをカーボンケースに入れ、ヒーター、断熱材など高温に曝される部分が全てカーボンからなる電気炉を用いて、表5に示される条件で熱処理を施し、表5に示す特性の表面変質層を形成した。
【0070】
【表5】
【0071】
嵌合比及び振れ巾は次のようにして求めた。
1) 凹凸面の断面の走査型電子顕微鏡写真の凹凸状態を株式会社ニレコ製LUZEXIII画像処理装置を用いて画像データとして取り込む(蛇行した曲線のデータ)。
2) 同処理装置により上記曲線の道のり(「凹凸面の断面の距離」と定義)と曲線の両端を結ぶ直線の曲線(「凹凸面の断面の直線距離」と定義)を測定する。得られた凹凸面の断面の距離を凹凸面の断面の直線距離で除した値を「嵌合比」とした。(このとき測定した長さは直線距離で約200μmである。)
3) 同処理装置により上記曲線を内接して挟むことができる2本の平行線の間隔の最小値を測定し、この値を「振れ巾」とした。
周期25μm以下の凹凸成分の表面粗さ(Rz)(非接触)の測定は次のようにして行った。
走査型電子顕微鏡(SEM)に三次元形状解析装置(有限会社電子光学研究所製RD−500形)を取り付け表面形状の測定を行った。本装置はSEMの反射電子検出器を4分割にして表面形状による電子線散乱方向の変化を測定し、コンピューターによるデータ解析を行うことで3次元形状測定を可能にするものであり、通常の表面粗度などの表面形状測定に用いられている接触子を用いた接触式では接触子の先端半径が5〜10μm程度あるため測定が困難な微小凹凸の測定を可能にするものである。
得られた表面形状のデータから断面の凹凸波形を求め、それをフーリェ変換し、周期が25μmを越える成分をフィルターにより除去後、逆フーリェ変換して得られた凹凸波形についてJISB0601に規定する十点平均粗さ(Rz)を求める。この方法により周期が25μm以下の凹凸成分についてのRzが得られる。
接触式の表面粗度は、接触式の表面粗度計(接触子の先端半径5μm)で測定した比較的長い周期の凹凸成分について上記十点平均粗さ(Rz)を求めた。
【0072】
得られた表面変質層を有する基体を平均粒径10μmのダイヤモンド微粉末が浮遊分散している溶媒中に浸漬し超音波処理を施すことにより表面を活性化した。
【0073】
このようにして得られたチップを2.45GHzのマイクロ波プラズマCVD装置内に設置し、850℃に加熱し、全圧を50TorrとしたH2−2%CH4の混合プラズマ中にて10時間保持し、膜厚約10μmのダイヤモンド被覆切削チップを作製した。なお、本試験において、基体の表面に析出した被覆層はラマン分光分析法によってダイヤモンド被覆層であることを確認した。
【0074】
これらの切削チップを用いて、下記条件で切削テストを行なったところ、表5に示したように、本発明のダイヤモンド被覆チップは厳しい切削条件下でもダイヤモンド膜が剥離することなく被削材の面精度を良好に切削できる時間が長く、優れた特性を示すものであるのに対し、比較例ではダイヤモンド膜の密着強度が不十分で被削材の面精度を良好に切削できる時間が短く、基体に欠損を生じることもあることが分かる。
【0075】
連続切削:旋削(直径約150mm、長さ約200mmの円筒被削材の外周を加工する。)
被削材:Al−18wt%Si合金
切削速度:1200m/min
送り:0.15mm/rev
切込み:0.5mm
断続切削:フライス(約150×150mmで厚さ約50mmの角板被削材の表面を加工する。)
被削材:Al−18wt%Si合金
切削速度:800m/min
送り:0.1mm/tooth
切込み:0.5mm
【0076】
【発明の効果】
本発明の被覆用セラミック基基材は、前記特定の基凹凸面を有するので、表面にダイヤモンド等の硬質被覆層を形成した場合に、被覆層が基材表面へ強力に付着し、剥離しにくい。
【0077】
覆用基材の製造方法は、(a)WCを主成分とするWC基超硬合金を、(b) 0.05 〜5容量%のN 2 ガスを含有する常圧雰囲気下、前記WC基超硬合金の液相が発生する温度以上焼成温度以下で熱処理し、(c)前記WC基超硬合金の表面にN含有凹凸表面層を形成するので、N含有凹凸表面層の表面にダイヤモンド等の硬質被覆層を形成した場合に、被覆層が前記表面層へ強力に付着し剥離しにくい被覆用基材を製造することができる。
【0078】
従って、本発明により、ダイヤモンド等の硬質被覆層が剥離しにくく耐用期間の長い各種切削工具、耐摩耗部材、電子用部材を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の基材(試料No.10)の表面の微細組織を示すセラミック材料の組織の写真。
【図2】本発明の基材(試料No.10)にダイヤモンドを被覆した後の断面の微細組織を示すセラミック材料の組織の写真。
【図3】本発明の基材(試料No.10)にダイヤモンドを被覆した後の刃先断面の微細組織を示すセラミック材料の組織の写真。
【図4】本発明の基材(試料No.10)にダイヤモンドを被覆した後の中央断面の微細組織を示すセラミック材料の組織の写真。
【図5】本発明の基材(試料No.11)の断面の微細組織(左側の上部)を示すセラミック材料の組織の写真と製図法に従って作図することが極めて困難な電子線マイクロプローブ分析(EPMA)による元素分析結果(左側の中央部はW、左側の下部はTa、右側の中央部はTi、右側の下部はCo)を示すX線写真。
【図6】試料No.1(比較例)の表面の微細組織を示すセラミック材料の組織の写真。
【図7】試料No.1(比較例)の断面の微細組織(左側の上部、中央の上部)を示すセラミック材料の組織の写真と製図法に従って作図することが極めて困難なEPMAによる元素分析結果(左側の中央部はW、左側の下部はTa、中央の中央部はTi、中央の下部はCo、右側の中央部はC、右側の下部はN)を示すX線写真(なお、各部の縮尺は同じ)。
【図8】ダイヤモンド膜を被覆した試料No.1(比較例)のダイヤモンド膜が一部剥離して露出した基材の表面(金属組織)を示す金属組織の写真。
【図9】試料No.2(比較例)の表面の微細組織を示すセラミック材料の組織の写真。
【図10】試料No.30(比較例)の表面の微細組織を示すセラミック材料の組織の写真。
【図11】試料No.32(比較例)の表面の微細組織を示すセラミック材料の組織の写真。
【図12】本発明の基材にダイヤモンドを被覆した後の断面の微細組織を示す模式図。
【図13】本発明の熱処理条件の概念図。
Claims (9)
- セラミック基基材は、WCを主成分とし、Ti又はこれとTaと、Co及びNiの少なくとも1種を含有してなるWC基超硬合金であり、そのWC基超硬合金は、0.05〜5容量%のN 2 ガスを含有する0.5〜1.5気圧の雰囲気下、前記WC基超硬合金の液相が発生する温度以上焼結温度以下で熱処理され、そのWC基超硬合金の表面に、表面粗さ(Rz)2〜20μmのN含有基凹凸面が形成された被覆用セラミック基基材。
- 前記基凹凸面は、最表面を構成する結晶粒子の大きさ程度である0.5〜10μmの微小凹凸を前記基凹凸面に対し有して成る二重凹凸面構造を有することを特徴とする請求項1記載の被覆用セラミック基基材。
- 前記基凹凸面は、嵌合比が1.2〜2.5であり、且つその凹凸の振れ巾が2〜20μmであり、
前記嵌合比は、凹凸面の断面曲線の道のりを凹凸面の断面曲線の両端を結ぶ直線の距離で除した値であり、
前記振れ巾は、凹凸面の断面曲線を内接して挟むことができる2本の平行線の間隔の最小値であることを特徴とする請求項1記載の被覆用セラミック基基材。 - 前記基凹凸面は、周期25μm以下の凹凸成分の表面粗さ(Rz)が3〜10μmであり、前記周期25μm以下の凹凸成分の表面粗さ(Rz)は、基凹凸面の表面粗度を非接触式三次元形状解析装置を用いて測定し、測定された凹凸波形をフーリエ変換し、周期が25μm以上の成分をフィルターにより除去後、逆フーリエ変換して得られた凹凸波形について求められた表面粗さ(Rz)であることを特徴とする請求項1記載の被覆用セラミック基基材。
- ダイヤモンド被覆用であることを特徴とする請求項1〜4の一に記載の被覆用セラミック基基材。
- セラミック基基材本体と、前記基材本体を被覆する被覆層から成り、前記基凹凸面を有する被覆層が最外層であることを特徴とする請求項1〜5の一に記載の被覆用セラミック基基材。
- 前記被覆層は、W−Ti−C−N固溶体及びW−Ti−Ta−C−N固溶体の少なくとも1種を主体として成ることを特徴とする請求項1〜6の一に記載の被覆用セラミック基基材。
- 請求項1〜7の一に記載の被覆用セラミック基基材に硬質被膜を被覆して成ることを特徴とする被覆基材。
- 前記硬質被膜がダイヤモンドから成ることを特徴とする請求項8に記載の被覆基材。
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