JP4174694B2 - X線分光測定装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、X線のエネルギースペクトル(波長分布)を検出するためのX線分光測定装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、X線分光素子としては、例えばブラッグ結晶や回折格子が使用されている。ブラッグ結晶は、単結晶の格子面間隔がdである結晶面を反射面として利用することにより、
2d・sinΦ=nλ
(ここで、ΦはX線の入射角(正確には、入射角の余角である視射角),λはX線の波長,nは正の整数)
で示されるブラッグ条件に基づいて、入射角Φに対するX線の波長λを検出するようになっている。
この場合、X線のエネルギーをEとして、その変化をΔEとしたとき、エネルギー分解能、すなわち分光能力は、E/ΔEで表わされ、1000以上と非常に高い。
【0003】
また、回折格子は、一般にガラス等の光学部材の表面に互いに平行な回折溝が高密度に形成されており、これらの溝で回折されるX線を検出することにより、X線の波長分布を検出するようになっている。
この場合、かなり広い範囲のエネルギーバンド幅のX線を検出することが可能であり、特に1キロ電子ボルト付近のX線に対しては、分光能力E/ΔEは、100乃至1000程度と高い。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、このようなブラッグ結晶や回折格子においては、以下のような解決すべき課題がある。
ブラッグ結晶の場合には、本質的にX線を単色化して検出を行なうことになるため、ある程度のエネルギーバンド幅の測定を行なうためには、単結晶を回転させたり、湾曲した結晶を使用する等、入射角を変化させることが必要となる。
したがって、X線の光源からのX線のうち、測定に利用されないX線が多くなり、測定効率が悪い。
【0005】
また、回折格子の場合には、その回折溝の密度は、1万本/mm程度が限界であるため、X線の回折による分散角が小さくなってしまう。また、エネルギーの高いX線に関して高い反射率を得るためには、斜め入射で使用する必要があることから、0次光の散乱成分による非分散光の影響が大きくなってしまう。
したがって、特定の分散角のX線回折光を取り出すことが難しく、測定精度が低下してしまうという解決すべき課題があった。
【0006】
本発明は、以上の点に鑑み、高精度にかつ効率良くX線のエネルギースペクトルを検出することができるX線分光測定装置を提供することを目的とするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明では、X線発生装置と、フィルタと、スリットと、分光素子としての薄膜単結晶と、該薄膜単結晶を透過した回折光を検出するX線検出器と、を備え、薄膜単結晶が、上下方向に互いに平行に並んだ複数の結晶面を有し、薄膜単結晶の厚さが、X線発生装置からのX線の波長の数千倍からX線の波長と同程度までの範囲であり、X線発生装置からのX線をフィルタ及びスリットを介して薄膜単結晶に入射させ、薄膜単結晶の結晶面による回折光をX線検出器内のCCDカメラで検出して、X線の波長分布を得ることを特徴とする。
【0009】
上記構成によれば、層状の反射面、すなわち薄膜単結晶の層状の各結晶面に入射したX線は、これらの結晶面により反射されるが、その際各結晶面の厚さが入射したX線の回折が発生する範囲、例えば波長の数千倍から同程度までの範囲であることから、回折が発生する。この回折により、反射したX線の反射角はある程度の拡がりを有する。
したがって、反射条件は、ブラッグ結晶の場合のように入射角に等しい必要はなく、回折格子の場合と同様に、
d・sinΦ+d・sin(Φ+θ)=nλ
となるので、回折光の光量が十分である一定角度範囲においては、入射するX線が波長λの関数として分光され、波長分布を検出できる。つまり、ある程度のバンド幅で分光できる。その際、各結晶面での反射光及び回折光の干渉により、分光が行なわれることから、分光能力は、結晶面の層数をNとしたときほぼ1/Nとなり、ブラッグ結晶の場合と同じオーダーの分光能力が得られることになり、高精度の分光が可能になる。
ここで、上記厚さが特に入射したX線の波長の数千倍から同程度までの範囲では、回折光が比較的多くなるので、回折による波長分布の光量が増大して、より確実な分光が可能となる。
なお、各結晶面の厚さが大き過ぎると、X線が回折せずに反射してしまう。また、各結晶面の厚さがX線の波長と同程度より小さい場合にも、X線が回折せず結晶面を透過してしまう。
【0010】
このように、本発明のX線分光素子では従来のブラッグ結晶と同程度のエネルギー分解能を持つことができるとともに、ある程度のバンド幅を持って分光することができる。したがって、X線光源からのX線の利用効率が向上するとともに、測定精度も向上する。
また、本発明のX線分光素子をビームスプリッタとして使用する場合には、X線分光素子の反射条件を満たす波長のX線の一部は、結晶面で反射され、反射条件を満たさない波長のX線は、その大部分が結晶面を透過するので、X線分光素子を、例えばX線のビーム強度モニタのために、X線の一部を取り出すビームスプリッタとして利用することができる。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、図面に示した実施形態に基づいて、本発明を詳細に説明する。
図1は、本発明によるX線分光素子の一実施形態を示している。
図1において、X線分光素子10は層状反射面、すなわち上下方向に互いに平行に並んだ複数個の結晶面11を備えた薄膜単結晶からなっていて、層状の結晶面11の大きさ、つまり厚さbが、測定すべきX線の回折を発生させる範囲の厚さ、例えば入射するX線の波長の数千倍から同程度までの範囲内に形成されている。ここで、入射するX線は、X線分光素子10の各結晶面11に対して、視射角(入射角の余角)Φで入射する。
【0012】
ブラッグ結晶ではX線の波長に比べて大きな面で反射させるから、X線の入射角と出射角は等しい。
しかし、本発明にかかる好適な実施形態では各結晶面11の厚さbが例えば入射するX線の波長の数千倍から同程度までの範囲と小さいことから、各結晶面11でX線は反射(図1にて実線図示)されるとともに回折(図1にて点線図示)される。したがって、X線の出射角は一定とならず、回折により拡がる。
この回折により拡がる角度(反射のみの場合の出射角Φと回折による出射角の角度差)θは、ピーク(すなわち0次光)から一番目の極小までの角度で評価すると、
δθ=λ/(b・sinΦ)
で与えられる。ここで、λは入射X線の波長,bは層状反射面の厚さ,Φは視射角である。
【0013】
このように、X線分光素子10は、ブラッグ結晶と同様に作用することになるが、この場合、出射角は入射角に等しい必要がない。このため、X線分光素子10においては、通常のブラッグ条件(2d・sinΦ=nλ)に対して、回折格子と同様に、
d・sinΦ+d・sin(Φ+θ)=nλ
となる。
したがって、回折による拡がり角θは、入射するX線の波長λの関数で与えられることになるので、回折光の光量が十分である一定角度範囲においては、入射X線が波長の関数として分光されることになり、波長分布が検出できる。
【0014】
ここで、上述したX線のX線分光素子10による分光は、各結晶面11(各層)における反射光及び回折光の干渉の結果得られるものであるから、分光能力は、X線分光素子10の結晶面11の数(層数)をN(正の整数)とすると、ほぼ1/Nとなり、ブラッグ結晶の場合と同じオーダーの分光能力が得られる。
【0015】
図2は、上述したX線分光素子10の具体例を示している。
図2において、X線分光素子10はシリコン(Si)の薄膜単結晶により形成されており、図2の薄膜表面は、(100)面である。
ここで、Siの単結晶は、例えば直径2インチ(約5cm)で厚さ4μmのものが使用され、その一つの結晶面である(111)面は、上述した結晶面として層状に形成されており、その面の幅(厚さ)bは4μm程度であり、X線の波長の約1万5千倍程度になっている。
尚、上記結晶面の幅bは薄いほど回折の効果が大きく、理想的にはX線の波長と同程度であるが、薄くなると入射するX線の透過率が高くなる。したがって、使用目的に合わせて、結晶面の幅bは最適な値に選定される。
【0016】
図3は、上述した図2のX線分光素子10の分光測定のための実験装置を示している。
図3に示すように、実験装置20は、擬似平行光を実現するための例えば21mビームラインを利用しており、X線発生装置21と、フィルタ22と、スリット23と、X線分光素子としてのSi結晶24と、Si結晶24による回折光を検出するためのX線検出器25とを備えている。
【0017】
X線発生装置21は、チタン(Ti)を塗布した電子線のターゲットを使用することにより、Tiの特性X線を強くしてある。
また、フィルタ22は、Tiの20μmフィルタであって、これによりTiのKX線の割合を多くするようにしてある。
さらに、スリット23は、120μm幅のスリットであって、X線発生装置21から21mの位置付近に配設されている。
このような実験装置により、X線発生装置21からのX線は、スリット23を介してSi結晶24に入射するが、このときの入射ビームの大きさは、約1mm×1mmであって、角度分散は約10秒になっている。
【0018】
Si結晶24は4μm厚の薄膜単結晶であって、θ−2θ回転台26の回転軸上に配設されており、2θ回転軸の腕26a上にX線検出器25が取り付けられている。
ここで、θ−2θ回転台26の回転軸とX線発生装置21との距離L1は、例えば21mに設定されている。また、2θ回転軸の腕26aの長さ、すなわちθ−2θ回転台26の回転軸と2θ回転軸の腕26a上のX線検出器25との距離L2は、例えば135mmに設定されている。
上記X線検出器25は、例えば電荷結合素子を利用したCCDカメラが使用される。
【0019】
Si結晶24は、X線発生装置21からのX線、すなわちTiKα線が、Si結晶24の(111)面で反射され、X線検出器25に入射するように、θ−2θ回転台26のθ回転角とSi結晶24の(100)面が、垂直方向に回転され調整されるようになっている。
【0020】
尚、Si結晶24の格子面間隔dが2d=6.26Åであるとき、(111)面におけるTiKα1の波長は2.74851Å、ブラッグ条件を満足する入射角は26.044度であり、また、(111)面におけるTiKα2の波長は2.75216Å、ブラッグ条件を満足する反射角は26.084度である。したがって、両者の反射角の差は、268秒である。
さらに、Si結晶24の(111)面による回折パターンのピークと1番目の極小との角度は19秒である。
これにより、TiKα1及びTiKαに関して、双方の輝線を4番目までの回折パターンに入れることが可能となるので、双方の輝線を同時に検出することが可能となる。
ここで、上記角度差268秒は、X線検出器25では、例えばCCDカメラの14.6ピクセルに相当するので、この角度差は確実に検出され得る。
【0021】
図4は、図3の装置により測定された図2のX線分光素子の入射角とX線強度との関係を示す図であり、(a)は120μmのスリットを通過した直接X線のイメージを1次元に写影したものであり、(b)はSi結晶の(111)面で反射したX線のイメージを1次元に写影したものである。
これにより二つの輝線が同時に検出され、個々に分解されている。この場合、エネルギー分解能E/ΔEは約500となり、ブラッグ結晶とほぼ同程度の分解能が得られる。
従来は分解能が入射X線のビーム径によって決まるが、本発明によるSi結晶から成るX線分光素子10では、ブラッグ結晶と同程度の高い分光能力を有するとともに、ある程度のバンド幅を有することができる。
【0022】
ところで、上述したX線分光素子10は薄膜単結晶から構成されているので、以下に説明するように、ブラッグ結晶やビームスプリッタとして利用することが可能である。
先ず、X線分光素子10をブラッグ結晶として利用する場合を説明する。
図1において、X線分光素子10の結晶面11でのブラッグ条件を満たす波長のX線は、入射角に等しい反射角で反射される。
ここで、反射するバンド幅δλは、結晶のうち、反射面として有効に作用する層数をNとすると、
δλ=1/N
程度になる。したがって、薄膜を使用しない通常のブラッグ反射においては、Nは、X線が浸透できる範囲の層数で決まることになり、一般に、Nは10000程度以上と非常に大きくなる。これにより、ブラッグ反射が高い波長弁別能力を有すると共に、バンド幅δλが非常に小さくなってしまう。
【0023】
これに対して、薄膜単結晶から成るX線分光素子10を使用して、その層数Nを、X線の浸透する厚さより薄い1000程度以下にすると、バンド幅δλが広くなる。
このようにして、薄膜単結晶から成るX線分光素子10を使用することにより、バンド幅δλの広いブラッグ反射が得られるので、例えば2結晶分光器にてX線分光素子10の結晶の角度コントロールの精度が多少低くても、入射するX線はX線分光素子10によりブラッグ反射する。これにより、ブラッグ反射を行なう際のX線分光素子10の位置決めを容易に行なうことができる。
【0024】
次に、X線分光素子10をビームスプリッタとして利用する場合について説明する。
前述したように、反射条件を満たす波長のX線、すなわち所定のバンド幅δλのX線は、X線分光素子10により反射され、所定の反射角の方向に進行する。これに対して、反射条件を満たさない波長のX線は、X線分光素子10が薄膜単結晶であることから、その大部分がX線分光素子10を透過し、直進する。
これにより、所定のバンド幅δλのX線は所定の反射角で反射され、反射条件を満たさない波長のX線は、X線分光素子10を透過するので、入射するX線はその波長に基づいて、二方向に分離される。
このようにして、X線分光素子10は、例えばX線のビーム強度モニタのために、X線の一部を取り出すビームスプリッタとして利用できる。
【0025】
尚、上述した実施形態においては、X線分光素子の層状反射面として、Siの薄膜単結晶における結晶面すなわち(111)面を使用した場合について説明したが、これに限らず、他の結晶面、例えば(220)面や(100)面を使用することも可能である。
【0026】
また、上述した実施形態においては、X線分光素子として、Siの薄膜単結晶を使用した場合について説明したが、これに限らず、他の種類の薄膜単結晶、例えばGe,GaAs,LiF,SiO2 等の薄膜単結晶を使用することも可能である。
この場合、分光すべきX線の波長に対応して、適宜の種類の元素が選択され得るとともに、より重い元素の単結晶を使用することにより、より高い分光効率が得られることになる。
【0027】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明によれば、薄膜単結晶の層状の各結晶面に入射したX線はこの結晶面により反射及び回折され、X線の反射角は回折によりある程度の拡がりを有することになる。
これにより、反射条件は、ブラッグ結晶の場合のように入射角に等しい必要はなく、回折格子の場合と同様になるので、回折光の光量が十分である一定角度範囲においては、入射するX線が波長λの関数として分光される。その際、各結晶面での反射光及び回折光の干渉により分光が行なわれることから、分光能力は、結晶面の層数をNとしたとき、ほぼ1/Nとなり、ブラッグ結晶の場合と同じオーダーの分光能力が得られることになり、高精度の分光測定が可能になる。
【0028】
このように、本発明のX線分光素子では従来のブラッグ結晶と同程度のエネルギー分解能を持つことができるとともに、ある程度のバンド幅を持って分光することができるという効果を有する。
したがって、X線光源からのX線の利用効率が向上するとともに、測定精度も向上する。
さらに、本発明によるX線分光素子は、ブラッグ結晶またはビームスプリッタとしても利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明によるX線分光素子の一実施形態の構成を示す概略図である。
【図2】本発明によるX線分光素子の具体的な実施形態であるSi薄膜単結晶の(100)面を示す概略図である。
【図3】図2のX線分光素子の分光測定を行なうための装置の構成を示す概略斜視図である。
【図4】図3の装置により測定された図2のX線分光素子の入射角とX線強度との関係を示す図であり、(a)は120μmのスリットを通過した直接X線のイメージを1次元に写影したものであり、(b)はSi結晶の(111)面で反射したX線のイメージを1次元に写影したものである。
【符号の説明】
10 X線分光素子
11 結晶面
20 実験装置
21 X線発生装置
22 フィルタ
23 スリット
24 Si結晶
25 X線検出器(CCDカメラ)
26 θ−2θ回転台
26a 2θ回転腕
Claims (1)
- X線発生装置と、フィルタと、スリットと、分光素子としての薄膜単結晶と、該薄膜単結晶を透過した回折光を検出するX線検出器と、を備え、
上記薄膜単結晶が、上下方向に互いに平行に並んだ複数の結晶面を有し、
上記薄膜単結晶の厚さが、上記X線発生装置からのX線の波長の数千倍から該X線の波長と同程度までの範囲であり、
上記X線発生装置からのX線を上記フィルタ及び上記スリットを介して上記薄膜単結晶に入射させ、該薄膜単結晶の上記結晶面による回折光を上記X線検出器内のCCDカメラで検出して、X線の波長分布を得る、X線分光測定装置。
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