JP4170421B2 - 増殖性臓器疾患治療・改善剤 - Google Patents

増殖性臓器疾患治療・改善剤 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、増殖性臓器疾患治療・改善剤に関する。
本発明により、癌腫、肉腫、筋腫などの増殖性臓器疾患に対し優れた効果を有する治療及び/又は改善剤が提供される。
【0002】
【従来の技術】
従来、組織又は臓器における癌及び増殖性病変等の増殖性臓器疾患に対する治療手段として、外科的切除、放射線照射、抗癌剤投与、またはそれらを併用する方法が用いられている。しかし、癌の診断技術の格段の進歩と比較すれば、癌そのものの生物学的特徴についての基礎的で詳細な研究は遅れをとっている。そのため、抜本的治療手段は確立していないのが現状である。
【0003】
エリスロポエチンは、血球の増殖と分化に関与し、他のサイトカインとは異なり血球では産生されず、腎臓又は肝臓で産生され血液中に放出される。エリスロポエチンは赤血球前駆細胞のうち赤芽球バースト形成細胞(BFU-E) と赤芽コロニー形成細胞(CFU-E) に作用し、その分化と増殖を促進し、赤血球の産生を誘導していると考えられている(Krantz S.B., Blood, Vol.77, pp419-434 (1991))。エリスロポエチンが前駆細胞の細胞膜に存在するエリスロポエチン受容体と結合すると、シグナルが細胞核内に伝達され、赤血球の分化、即ちグロビンmRNAの細胞内集積、ヘモグロビンの産生、赤血球の分化が起こるとされている(D'Andrea A.D. et al., Cell, Vol.57, pp277-285 (1989))。しかし、そのメカニズムの詳細についてはまだ解明されておらず、今後解決すべき点が多い。
【0004】
エリスロポエチンが赤芽球に関する部位以外の組織でその遺伝子を発現している部位として、着床直後の胚体(Yasuda Y. et al., Develop. Growth Differ., Vol.35, pp711-722 (1993))、ヒト、サル、及びマウスの脳(Marti H.H. et al., Eur.J.Neu.Sci., Vol.8, pp666-676 (1996))が知られている。又、本発明者らは、エリスロポエチン受容体遺伝子が赤芽球系以外にマウス脱落膜に発現していることを見出した(Yasuda Y. et al., Develop. Growth Differ., Vol.35, pp711-722 (1993))。これらの血球系以外の部位におけるエリスロポエチンあるいはエリスロポエチン受容体遺伝子の機能については、明らかにされていないのが現状である。
【0005】
脱落膜は、子宮内膜に胚が着床すると着床部位の内膜が脱落膜変化を起こし、胚を取り囲む。脱落膜にエリスロポエチン受容体遺伝子が発現し、エリスロポエチンは発現していないことより、エリスロポエチン受容体は脱落膜で産生され、血流中のエリスロポエチンと結合してエリスロポエチンシグナルを伝達していると考えられる。正常なヒト子宮内膜について検索したところ、エリスロポエチン遺伝子の発現は認められなかった。しかし、エリスロポエチン及びエリスロポエチン受容体の蛋白質レベルでの発現が認められた。従って、ヒト正常子宮内膜では、脱落膜と同様にエリスロポエチンは血液中から取り込まれ、子宮の正常生理機能に関与していることが考えられる。一方、子宮頸部癌、体部癌、子宮筋腫、卵巣癌、卵巣嚢腫にはエリスロポエチンmRNAが発現していることをRT-PCR及びサザンブロット法で認めた。これらの組織検索で癌細胞にエリスロポエチン及びエリスロポエチン受容体蛋白質、さらに増殖性核抗原が存在していることが明らかになった。従って、エリスロポエチンは癌細胞の増殖に係わっていることが推測された。
【0006】
エリスロポエチンは遺伝子組換えによって製造され、貧血治療、特に腎透析患者の貧血治療や外科手術の際の自己血輸血の準備にも有効に使用されている。エリスロポエチン受容体については、貧血症に対するアゴニスト又は赤血球増加症などのアンタゴニストとしての用途が期待されており(WO90/08822号公報)、エリスロポエチン過剰症、高エリスロポエチン血症に利用され得るとの記載があるが、その組織及び臓器における癌の治療効果については、全く知られていない。
【0007】
【発明の解決しようとする課題】
本発明者らは、上述の事実より患部病巣より摘出した癌組織片において癌組織より産生されるエリスロポエチンとエリスロポエチン受容体の結合を遮断することができれば癌細胞は消滅するとの推測のもとに鋭意研究の結果、エリスロポエチン拮抗作用を有する可溶性エリスロポエチン受容体(細胞膜外ドメイン)を癌組織に注入しその反応を見たところ、癌組織の増殖性核抗原の消失及び癌細胞のアポトーシスによる死亡を認め、本発明を完成するに至った。即ち本発明は、エリスロポエチン拮抗物質を有効成分として含有する増殖性臓器疾患治療・改善剤を提供することを課題とする。詳しくは、抗エリスロポエチン抗体又はエリスロポエチン受容体蛋白質を有効成分として含有する、増殖性臓器疾患治療・改善剤を提供することを課題とする。さらに詳しくは、可溶性エリスロポエチン受容体蛋白質を有効成分として含有する、増殖性臓器疾患治療・改善剤を提供することを課題とする。
【0008】
【発明を解決する手段】
本発明は、エリスロポエチン拮抗物質を有効成分として含有する、増殖性臓器疾患治療・改善剤に関する。詳しくは、抗エリスロポエチン抗体又はエリスロポエチン受容体蛋白質を有効成分として含有する、増殖性臓器疾患治療・改善剤に関する。さらに詳しくは、可溶性エリスロポエチン受容体蛋白質を有効成分として含有する、増殖性臓器疾患治療・改善剤に関する。本発明により癌腫、肉腫、筋腫などの増殖性臓器疾患に対し優れた効果を有する治療及び/又は改善剤が提供される。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明の増殖性臓器疾患治療・改善剤の有効成分には上記のようにエリスロポエチン拮抗物質が用いられる。このようなエリスロポエチン拮抗物質には、抗エリスロポエチン抗体、エリスロポエチン受容体蛋白質などがある。エリスロポエチン受容体蛋白質は、公知の方法(WO90/08822号公報、特開平 6-38787号公報、化学と生物,31(4) ,270-274 頁 (1993) 、米国特許第52926545号明細書など)により製造することができる。エリスロポエチン受容体蛋白質のなかで、特に好ましくは可溶性エリスロポエチン受容体蛋白質が用いられる。このエリスロポエチン受容体蛋白質は特開平 6-38787号公報に記載されている。又、抗エリスロポエチン抗体は、常法により得られるモノクローナル又はポリクローナル抗体が用いられる。これらのエリスロポエチン受容体蛋白質も抗エリスロポエチン抗体も臓器あるいは組織内でエリスロポエチンと結合し、エリスロポエチンとエリスロポエチン受容体との結合を遮断する作用を有し、機能的に同等な物質であると考える。
【0010】
上記のようにエリスロポエチン受容体蛋白質は公知の蛋白質であり、また上述の特許公報あるいはその他の文献にそのDNA配列及びアミノ酸配列が記載されている。本発明におけるエリスロポエチン受容体蛋白質は、ヒトエリスロポエチンに結合性を有し、エリスロポエチンのオートクライン(自己分泌)の産生を抑制するもの、即ちエリスロポエチンのアンタゴニストであればよい。従って、ヒトエリスロポエチン受容体蛋白質若しくはエリスロポエチン親和性フラグメント、ヒトエリスロポエチン受容体蛋白質と相同性の高いマウスエリスロポエチン受容体蛋白質やそのフラグメント、あるいはこれらの類縁体でもよい。また、抗エリスロポエチン抗体には、常法で得られる抗エリスロポエチンポリ若しくはモノクローナル抗体が用いられる。
【0011】
本発明の増殖性臓器疾患治療・改善剤は、癌腫、肉腫、筋腫等の増殖性臓器疾患の治療あるいは疾患の改善に用いられる。具体的には子宮癌、子宮筋腫、皮膚癌等が挙げられ、その他直腸、肺前立線などの腺癌、胃癌、骨芽細胞腫、平滑筋肉腫、脂肪肉腫、骨肉腫、軟骨肉腫、癌性の中皮腫瘍などあらゆる癌性腫瘍の治療、改善に用いることができる。この増殖性臓器疾患治療改善剤を、癌化したあるいは腫瘍化している組織あるいは臓器に、注射剤等の液剤の形態として局所的に直接投与することが好ましい。投与量は病巣の浸潤の程度により異なるが、癌病巣が局在している場合、小指頭大(約1g)の癌に対し、1回に30〜50μg 程度投与すれば良い。又、浸潤が広範囲に及んでいる場合や転移癌に対しては、20〜50μg を静脈あるいは腹腔内に1日3〜5回投与し、投与を数日間継続すれば良い。このようにすると、癌病巣の縮少あるいは消失が認められる。
【0012】
以下の実施例をもって本発明をより詳細に説明するが、これらは単に例示したのみであり、これらによって本発明は何ら限定されるものではない。
【0013】
【実施例1】
可溶性エリスロポエチン受容体蛋白質の生産
特開平 6-38787号公報の方法に従った。すなわち、特開平 6-38787号公報の実施例2の方法に従って、sEPO-R発現ベクターpcmEPR sol・dhfrを構築し(以下、可溶性エリスロポエチンレセプターを sEPO-R ということがある) 、この遺伝子を大腸菌 MC1061/P3にトランスフェクションした。この菌株を微工研 (現工業技術院生命工学工業技術研究所) に微工研菌寄第 12814号として寄託した。
また、同様に実施例3の方法に従って sEPO-R 発現ベクター pcmEPR Msol・dhfrを構築し、この遺伝子を大腸菌 MC1061/P3にトランスフェクションした。この菌株を微工研に微工研菌寄第 12813号として寄託した。
本発明では、これらの大腸菌から前記プラスミドを取り出して、CHO・dhfr細胞にトランスフェクションした。即ち、sEPO-R発現ベクター pcmEPRsol・dhfr、pcmEPRMsol・dhfrをリン酸カルシウム法によりCHO(dhfr)細胞に導入し、可溶性エリスロポエチン受容体蛋白質(sEPO-R)生産細胞を選出した。メトトレキセート(MTX) によるsEPO-R遺伝子の増幅を行い、sEPO-Rの高生産細胞株N14.2 を得た。得られた細胞株を、核酸非含有α−MEN合成培地に透析ウシ胎児血清10%、MTX を100nM 添加した培養液中で増殖させた後、0.5 %透析ウシ胎児血清を含むOPTI-MEMI 培地(ギブコ製)に交換し、sEPO-Rの生産を行った。得られた培養液200ml に6ml のEPO 固定化CH- セファロース 4B(15mg EPO/ml gel)を加え、4 ℃で一晩穏やかに接触させた後、固定化担体を10倍量のPBS で洗浄後、担体に吸着したsEPO-Rを 1.5M MgCl2 を含むPBS で溶出した。溶出液を限外濾過法で濃縮およびPBS に溶媒置換した後、TSKgel G3000SW (東ソー製) を使用したHPLCにより分子量分画を行い、部分精製sEPO-R(0.6mg) を得た。得られたsEPO-RはSDS-PAGEおよびセファデックスG-75ゲル濾過法を用いて分子量測定を行ったところ約33kDa を示した。
【0014】
【実施例2】
注射剤の製造
実施例1で得られたエリスロポエチン受容体蛋白質を生理的食塩水に溶解し、 200μg/mlの溶液とした。これを濾過し、滅菌ミクロチューブに 200μl づつ分注し、凍結保存した。これをエリスロポエチン受容体蛋白質注射剤とした。使用時には、これを生理食塩水で溶解して使用する。
【0015】
【実施例3】
可溶性エリスロポエチン受容体蛋白質の癌細胞増殖抑制効果
1.投与液及び癌組織片の調製
実施例2で製造したエリスロポエチン受容体蛋白質注射剤を融解し、0.5 %エバンスブルー(クロマ社)を含む生理的食塩水を2.5 %の割合で混和し着色して、投与液とした。又、対照としてエリスロポエチン受容体蛋白質を含まないものを同様に着色し、対照液とした。
癌組織片は、手術により摘出されたヒト子宮頸部扁平上皮癌組織片をリン酸緩衝化生理食塩水で洗浄し、4〜8℃で保存したものを用いた。
【0016】
2.投与液の癌組織片への注入
実施例3−1で調製した癌組織片を、100IU/mlペニシリン及び80μg/mlストレプトマイシンを添加したα-MEM培地(ギブコ社)で洗浄した。この組織片の重量を測定し、10〜100mg の大きさに分割し、12片の試験用癌組織片を作製した。この組織片のうち4片については無処置片として観察後 Zamboni液で固定した。残りの8片を4片づつ投与群及び対照群とし、実施例3−1で調製した投与液または対照液をそれぞれ0.45〜0.8 μl/mg組織の用量で注入した。注入はミクロメーターシリンジ(80701、ハミルトン社)と32Gの注射針(90131、ハミルトン社)を用い、約5μlづつ組織片の数ヶ所に行った。注入の状態は、組織片の青着色と注入液の流出によって確認した。投与液及び対照液を注入したのち37℃、5% CO2下で90分間培養し、2回目の注入として初回と同じ注入液を同量注入した。さらに同条件で60分間培養した後、3回目の注入として初回と同じ注入液を同量注入した。3回目の注入後同条件で60分間培養し、各群4組織片のうち2片について観察後、Zamboni 液(Zamboni L.and De Martino C., J. Cell Biol., Vol.35,p148A(1967))で固定した(投与群:3SEPOR-210、対照群:3Sal-210とした)。これらの組織を以下の実施例3−3で示す方法に従い組織標本とした。投与群の組織の状態を図1に、対照群の組織の状態を図2にそれぞれ示す。
【0017】
残りの各群2片については、さらに4回目の注入を行い(初回と同じ注入液を同量)、10%仔牛血清(フロー社)を含むα-MEM培地の培養液を入れたマイクロプレートにメッシュ(organ culture grid #3014、ファルコン社;三角形を折り曲げて六角形の台の様に加工したものを使用)を置き、その上に孔径0.45μm のフィルター(JH、ミリポア社)をのせたものの上に1片づつ置いた。この時、培養液は各組織片がほぼ半分浸る程度の量とし、同条件で8.5 時間培養した後観察し、Zamboni 液で固定した(投与群:4SEPOR-12H、対照群:3Sal-12Hとした)。これらの組織を以下の実施例3−3で示す方法に従い組織標本とした。投与群の組織の状態を図3に、対照群の組織の状態を図4にそれぞれ示す。
【0018】
3.組織切片の作製及び検鏡
実施例3−2で得られた試料をそれぞれ凍結し、組織切片を作製した。組織切片はクリオスタット(ライカ社)で連続7μm の切片とし、 175μm 離れた部位の連続5切片を一組としてスライドグラス2枚にのせ、免疫染色に供した。即ち、組織片における癌細胞増殖を見るために、抗PCNA・マウスモノクローナル抗体PC-10 (DAKO-PCNA、Proliferating Cell Nuclear Antigen; PC-10)で染色し、核の状態を見るためにDelafield-ヘマトキシリン液(メルク社)で核染色した。このように作製した染色組織切片について、癌浸潤巣のみを対照として一定面積 (56×10-4mm2)を1標本につき任意に 120区画選び、PC-10 陽性細胞数、核の変性(主にアポトーシス様変性)数、及び退行変性した細胞数を計数した。結果を表1に示す。
【0019】
【表1】
Figure 0004170421
【0020】
3回注入した投与群(3SEPOR-210)では、対照群及び無処置群と比較して、PC-10 陽性細胞数については減少、変性核数及び退行変性細胞については増加が観察された。これに対し、3回注入した対照群(3Sal-210)では、無処置群と比較してPC-10 陽性細胞数、変性核数、及び退行変性細胞のどれとも有意な差が観察されなかった。
4回注入した投与群(4SEPOR-12H)と対照群(4Sal-12H)では、免疫染色の結果、前者では癌胞部位の消滅が顕著に観察された(淡染性)のに対し、後者では殆ど見られなかった。
これらの結果より、エリスロポエチン可溶性蛋白質は、短時間で癌細胞の増殖を抑制し、癌細胞を消失、死滅させる効果を有していることが確認された。
【0021】
【実施例4】
可溶性エリスロポエチンレセプター又はエリスロポエチン抗体の in vivo での癌細胞増殖抑制効果
in vitroで認められた可溶性エリスロポエチンレセプターの癌細胞抑制効果を、ヌードマウスに患者より摘出した組織片を移植して、移植後の造腫瘍性を示した腫瘍に対して可溶性エリスロポエチンレセプター又はエリスロポエチン抗体(以下、R2 ということがある)を注入し、造腫瘍性の減少、消失効果の確認試験を行った。
【0022】
即ち、5週齢のヌードマウス(雄、BALC/C jcl-nu )をSPF条件下で飼育し、滅菌水および滅菌飼料を自由に与えたものを、6週齢で移植に使用した。
移植片は、子宮頸癌(扁平上皮癌:非角化型1例、腺癌1例)2例、および子宮体癌(腺癌)2例を用いた。手術後、無菌的に採取した癌組織片をリン酸緩衝液にて洗浄し、移植開始まで冷リン酸緩衝液(4〜8℃)に保存した。移植開始時に100U/ml ペニシリン及び80μg/mlストレプトマイシンを添加したMEM培養液(ギブコ社)を用い、液中で洗浄した。ついで、癌組織片を5×5×5mm3 に細切したものを移植に用いた。
【0023】
準備した移植片を、マウス1匹に対し1移植の場合はマウスの背部(両肩甲骨間)に、マウス1匹に対し2移植片の場合は背部及び後頭下部に、それぞれ切開を入れ移植片を皮下に挿入し、切開部をノバクタンスプレー(アストラ社)で接着した。移植後、移植片の成長(長径及び短径)を経時的(3回/週)に計測した。
移植片が移植時の3倍の大きさに成長した7日目以降に、sEPO-R又はR2 を注入した。又、対照群として、生理食塩水を同量注入した。これらの注入量及び注入方法について、表2に示す。この結果を図5に腫瘍成長曲線として示す。この図に示されるように、全ての群において腫瘍増殖に対し抑制することが確認された。
表中、sEPO-R注入はSで示され、生理食塩水注入は生食で示されている。刺針は針のみの刺入処置を示す。
【0024】
【表2】
Figure 0004170421
【0025】
2 処置及び対象群の3群(1及び2,3及び4,5及び6)について、腫瘍の増殖抑制の用量効果を調べた。抑制度は、以下の式に基づき算出した。
抑制度=(R2 注入による腫瘍減少量の平均値/(生食注入による腫瘍減少量の平均値)
【0026】
図6にR2 3回連続処置による増殖抑制の用量効果を示す。この図において、特に実験群5及び6においては、顕著な抑制度(5.84)が確認された。又、これらについて増殖抑制度の有意差検定を行ったところ、全ての実験群において、処置群及び対照群の間に、有意な差が認められた(表3)。
【0027】
【表3】
Figure 0004170421
【0028】
次に、これらの実験群から摘出した腫瘍の外表観察を行った。結果を図7に示す。この結果、摘出腫瘍全例は被膜に包まれ(図7a,b)、sEPO-R及びR2 処置群には腫瘍組織と被膜との間に広い間隙ないしは空間(図7a)、及び対照群には腫瘍組織と被膜との間に狭い間隙ないしは空間(図7b)が認められた。又、腫瘍組織の壊死が処置群で全例に認められ、非壊死部が壊死部に比べ小さい範囲で存在しないのに対し、対照群では80%の例において壊死部の存在を認めたものの、非壊死部が腫瘍組織のより広い範囲を占めていた。又、腫瘍組織における血管新生は、処置群の87.5%の例で主に被膜部に認められたのに対し、対照群では腫瘍組織内での存在(図7b)が80%の例で認められた。
【0029】
さらに、これらの全て例について、摘出標本の免疫染色を種々の抗体を用いて行い、さらにヘマトキシリン液で核染色を行った。これらの切片を用いて組織の構築の変化、エリスロポエチン発現細胞の変化、およびアポトーシスの検定を行った。結果を図8及び図9に示す。この結果、sEPO-R及びR2 によって、腫瘍組織の広汎な部位でエリスロポエチン陽性細胞が死に至らしめられ、無構造な組織に変換しているのが認められた。即ちこの部位は、腫瘍細胞の核の断片化によるアポトーシス死により生じたことが明らかとなった。又、アポトーシス死と共に、組織の構築が破壊され欠損部位が生じ、多くの大小の穴ができた。さらに、非壊死部位の腫瘍組織もアポトーシス死を示した。一方、対照群によっても、腫瘍組織の壊死像とアポトーシス死は局所的に認められたが、非壊死の腫瘍組織は活発に増殖していた。又、針のみの刺入処置では、腫瘍組織は殆ど変化を受けなかった。
又、R2 の濃度にかからず、R2 処置により腫瘍組織は腺構造を含めて壊死像を示し、結果として多数の巣状壊死による組織欠損を示した。腫瘍中心部位の広範囲な無構造様壊死部位は、核の断片と核濃縮を示す核が散在していた。この部位にはアポトーシス小体が無数に集積していた。腫瘍辺縁部の非壊死部位では、腺細胞がアポトーシス小体と好中球に囲まれ、壊死進行像を示した。一方、対照群や針による刺入処置では、殆どの腫瘍組織において変化が認められなかった。
【0030】
本発明により癌腫、肉腫、筋腫などの増殖性臓器疾患に対し優れた効果を有する治療及び/又は改善剤が提供される。
【図面の簡単な説明】
【図1】a図:実施例3における、エリスロポエチン受容体蛋白質投与液3回処理後、1時間で固定した投与群の組織の免疫染色像を示す。
【符号の説明】
*:死亡変性細胞集団部位
b図:a標本の中拡大像を示す。
【符号の説明】
←:アポトーシス死細胞
c図:a標本の強拡大像を示す。
【符号の説明】
矢尻:核断片
【図2】a図:実施例3における、対照液3回処理後、1時間で固定した対照群の組織の免疫染色像を示す。
【符号の説明】
*:癌浸潤部位
b図:a標本の矢印の部位の中拡大像を示す。
【符号の説明】
←:核濃縮の存在
c図:a標本の癌浸潤巣の強拡大像を示す。
【符号の説明】
←(大):細胞質の膨化
←(小):核の淡染性
【図3】a図:実施例3における、エリスロポエチン受容体蛋白質4回処理後、8.5 時間で固定した組織の免疫染色像を示す。
【符号の説明】
*:PC-10 陽性細胞の消失部位
b図:a標本のPC-10 細胞消失部位(*)の強拡大像を示す。
【図4】a図:実施例3における、エリスロポエチン受容体蛋白質4回処理後、8.5 時間で固定した組織の免疫染色像を示す。
【符号の説明】
*:癌浸潤部位
b図:a標本の癌浸潤巣(*)の強拡大像を示す。
【符号の説明】
←:PC-10 陽性細胞と退行変性細胞
なお、図中、a 標本は倍率58.4を、b 標本は倍率292 を、C 標本は倍率 584をそれぞれ示す。
【図5】実施例4の腫瘍成長曲線を示す。
【符号の説明】
↓:経皮注入時
【図6】実施例の4のR2 3回連続処置による増殖抑制の用量効果を示す。
【図7】a図:実施例4における、実験群7(sEPO-R処置群)のマクロ組織像(×14) の一例を示す。
【符号の説明】
←(大):間離部
← (小):壊死部
矢尻:非壊死部
*:被膜
b図:実施例4における、実験群8(生理食塩水注入群)のマクロ組織像(×12)の一例を示す。
【符号の説明】
←:壊死部
矢尻:血管
*:被膜
c図:図7aの組織切片を抗エリスロポエチン抗体で染色したもの(×32)を示す。
【符号の説明】
←:壊死部の腫瘍組織欠損
d図:図7bの組織切片をR2 で染色したもの(×80) を示す。。
【符号の説明】
←:壊死細胞をもつ腺構造の腫瘍
矢尻:エリスロポエチン陽性細胞
【図8】a図:実施例4における、実験群5(R2 16mg処置群) の組織像の一例 (×32) を示す。
【符号の説明】
←:壊死による組織破壊
矢尻:壊死部の死亡した細胞の核集積像
b図:図8aの非壊死部の四角で囲んだ部位の拡大像(×320)を示す。
【符号の説明】
←:核の断片
矢尻:死亡した核の融合
c図:図8aの非壊死部のアポトーシス陽性像(×320)を示す。
【符号の説明】
←:壊死進行中の核集積部に集合したアポトーシス小体
d図:実施例4における、実験群6(生理食塩水注入群)の抗CD34染色による組織像の一例(×32) を示す。。
【符号の説明】
←:分断した腫瘍
矢尻:非壊死部の腫瘍組織
e図:図8dの腫瘍組織の拡大像(×320)を示す。
【符号の説明】
←:分裂中の細胞
【図9】a図:実施例4における、実験群3(R2 8mg 処置) の組織像の一例(×20) を示す。
【符号の説明】
←:腫瘍組織の壊死による組織欠損
矢尻:壊死細胞の集積
b図:実施例4における、実験群3(R2 16mg処置) の組織像の一例(×20) を示す。
【符号の説明】
←:腫瘍組織の壊死による組織欠損
矢尻:腺上皮の壊死
*:無構造部位
c図:図9bの抗エリスロポエチン抗体による染色の拡大像(×200)を示す。
【符号の説明】
*:無構造部位(エリスロポエチン陽性細胞の減少)
←:核の断片
d図:図9bの部位のアポトーシス陽性反応(×200)を示す。
【符号の説明】
←:アポトーシス小体
矢尻:核濃像
e図:実施例4における、実験群4(生食注入群)の抗エリスロポエチン抗体染色による組織像の一例(×20) を示す。
【符号の説明】
←:上皮様細胞の増殖部
f図:図9eの増殖部の抗エリスロポエチン抗体染色による組織像の一例(×160)を示す。
【符号の説明】
←:好中球の進入
矢尻:血管新生像
g図:実施例4における、実験群4(刺針群)の抗エリスロポエチン抗体染色による組織像の一例(×20) を示す。
【符号の説明】
←:腺癌
h図:図9gの拡大像(×160)を示す。。
【符号の説明】
矢尻:血管新生像

Claims (2)

  1. 抗エリスロポエチン抗体またはエリスロポエチン受容体蛋白質を有効成分として含有する、子宮癌、子宮筋腫、皮膚癌または肺癌の治療・改善剤。
  2. エリスロポエチン受容体蛋白質が可溶性エリスロポエチン受容体蛋白質である請求項1記載の療・改善剤。
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