JP4168623B2 - オリゴペプチド - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、毛成長促進作用を有する修飾オリゴペプチド、及び該修飾オリゴペプチドを有効成分として含む医薬に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
上皮組織の正常な形態形成は上皮組織の周りに存在する間充織細胞由来の因子による制御を受けていることが示唆されており、また、上皮組織の形態形成異常に起因する疾患の多くが間充織細胞の異常を原因としていることから、間充織細胞が上皮組織の形態形成を制御するメカニズムの解明に興味がもたれている。しかしながら、上皮組織の形態形成の制御に関与する物質群は複雑な系の中で時間的及び空間的な制御を受けて発現されており、それらの物質を単離して機能を解析することは極めて困難であること、また、上皮組織の形態形成を単純化したモデル実験系の構築も難しいことなどの理由から、この分野の研究には今日まで大きな進展が見られていない。上皮組織の形態形成に起因する疾患の発症機序の解明やそれらの疾患の治療方法の確立などのために、上皮組織における形態形成の制御メカニズムの解析が切望されていた。
【0003】
このような状況下にあって、上皮組織の形態形成の制御に関与するエピモルフィン (epimorphin) が分離・精製された(特開平6-25295 号公報)。この物質は277 ないし 289個のアミノ酸からなる蛋白質をコア・蛋白質とする生理活性物質であり、主として間充織細胞により生合成されていることが明らかにされた。また、エピモルフィンは、上皮細胞に作用して上皮組織の形態形成を促進する作用を有していること、並びにエピモルフィンが機能しない場合には正常な組織形成が行われないことも明らかにされた。
【0004】
エピモルフィンの構造については、エピモルフィン分子が構造上大きく4個のフラグメントに分けられることが見いだされている(欧州特許公開第0698666 号)。すなわち、エピモルフィンの全長を構成するポリペプチドは、N末端側より、コイルドコイル領域(1)、機能ドメイン(2)、コイルドコイル領域(3)、及びC末端の疎水性領域に分けることができる。これらのフラグメントのうち、機能ドメイン(ヒト・エピモルフィンではN末端より104 番目から187 番目のアミノ酸により特定される領域)については、この領域が細胞接着に関与しており、エピモルフィンの生理活性の発現に密接にかかわっていることが示唆されている(上掲欧州特許公開)。
【0005】
エピモルフィンが正常な形態形成を促進する作用を有することから、この物質は、形態形成の異常に起因する疾患などの予防や治療のための医薬や、又は育毛剤などの医薬の有効成分として有用であることが期待される。しかしながら、哺乳類動物から得られた天然型エピモルフィンは生理食塩水などの水性媒体に難溶であり、医薬として実用に供することが困難であった。このため、天然型エピモルフィンの形態形成促進作用を実質的に保持しつつ、溶解性に優れたエピモルフィン誘導体を創製する試みがなされている。例えば、C末端部の疎水性領域を除去した改変体(フラグメント123)などが知られている(特開平6-25295 号公報)。
エピモルフィンの部分構造を有するポリペプチドが上皮細胞に作用して上皮組織の形態形成を促進することが知られている(国際公開WO98/22505号)。このポリペプチドは生理食塩水などの水性媒体に溶解可能なポリペプチドであり、上記刊行物には、該ポリペプチドが毛成長促進作用を有することが教示されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、毛成長促進作用を有する修飾オリゴペプチドを提供することにある。また、本発明の別の課題は、上記の修飾オリゴペプチドを有効成分として含む医薬を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者は上記の課題を解決すべく鋭意努力した結果、エピモルフィンの部分構造であるオリゴペプチド又は該オリゴペプチドのアミノ酸残基の位置を改変したオリゴペプチド中のCys残基またはLys残基を修飾することにより得たオリゴペプチドが、優れた毛成長促進作用を有していることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明によれば、以下の(1)から(3)の何れかに記載のオリゴペプチドが提供される。
(1)下記のアミノ酸配列(I)、(II)、(III)又は(IV)の何れかを含む8から20アミノ酸残基から成るオリゴペプチドであって、毛成長促進作用を有するオリゴペプチド:
(式中、Xaaは、反応性物質が結合しているCysまたは反応性物質が結合しているLysを示す。)
(2)上記のアミノ酸配列(I)、(II)、(III)又は(IV)においてXaaを除く1〜数個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は挿入されたアミノ酸配列を含む8から20アミノ酸残基から成るオリゴペプチドであって、上記(1)に記載のオリゴペプチドと同様の毛成長促進作用を有するオリゴペプチド;
(3)上記の(1)又は(2)に記載のオリゴペプチドの修飾オリゴペプチドであって、上記の(1)又は(2)のオリゴペプチドと同様の毛成長促進作用を有する修飾オリゴペプチド:
【0009】
好ましくは、反応性物質は架橋剤である。
本発明の別の側面によれば、上記の何れかのオリゴペプチド又は生理学的に許容されるそれらの塩を有効成分として含む医薬(例えば、毛成長促進剤)が提供される。
【0010】
本発明のさらに別の側面によれば、上記の医薬(例えば、毛成長促進剤)の製造のための上記のオリゴペプチド又は生理学的に許容されるその塩の使用;及び毛の成長促進方法であって、上記のオリゴペプチド又は生理学的に許容されるその塩の有効量をヒトを含む哺乳類動物に投与する工程を含む方法が提供される。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明のオリゴペプチドの第1の実施態様は、下記のアミノ酸配列(I)、(II)、(III)又は(IV)の何れかを含む8から20アミノ酸残基から成るオリゴペプチドであって、毛成長促進作用を有するオリゴペプチドである。
(式中、Xaaは、反応性物質が結合しているCysまたは反応性物質が結合しているLysを示す。)
【0012】
上記のアミノ酸配列(I)、(II)、(III)又は(IV)は、国際公開WO98/22505号に開示されたポリペプチド(II)のC-末端から11個のアミノ酸残基において、N-末端から1個のアミノ酸残基(Lys)およびC-末端から2個のアミノ酸残基(Asp-Glu)を除いたアミノ酸配列、または該アミノ酸配列においてさらにシステイン残基(Cys)の位置を変更したアミノ酸配列であって、Cys残基を、反応性物質が結合しているCysまたは反応性物質が結合しているLysに置き換えたものである。上記アミノ酸配列(I)、(II)、(III)又は(IV)を含むオリゴペプチドは、下記の実施例に具体的に示すように優れた毛成長促進作用を有している。
【0013】
アミノ酸配列(I)、(II)、(III)又は(IV)において、Xaaは、反応性物質が結合しているCysまたは反応性物質が結合しているLysを示す。反応性物質としては、例えば、−SH基や−NH2基などの官能基と反応して結合することができる物質が好ましく、架橋剤であることが特に好ましい。
【0014】
本発明で用いる架橋剤として特に好ましいものは、オリゴペプチド中のシステイン残基のスルフヒドリル基を活性化して、他のオリゴペプチド中のシステイン残基のスルフヒドリル基またはリジン残基のアミノ基と共有結合を形成することができる二官能性架橋剤、並びにオリゴペプチド中のリジン残基のアミノ基を活性化して、他のオリゴペプチド中のリジン残基のアミノ基またはシステイン残基のスルフヒドリル基と共有結合を形成することができる二官能性架橋剤を挙げることができる。
【0015】
システイン残基のスルフヒドリル基を活性化する二官能性架橋剤の具体例としては、ビスマレイミド化合物が挙げられ、例えば、水酸基などの置換基を有していてもよい低級アルキル基(例えば、炭素数1から10、より好ましくは炭素数1から8のアルキル基)の両末端にマレイミド基のN原子が結合している化合物を挙げることができる。ビスマレイミド化合物の具体例としては、1,4−ビスマレイミジル−2,3−ジヒドロキシブタン、1,6−ビスマレイミドヘキサン、ビスマレイミドエタン、及び1,4−ビスマレイミドブタンなどが挙げられる。
【0016】
また、リジン残基のアミノ基を活性化する二官能性架橋剤の具体例としては、DSG(disuccinimidyl glutarate)などが挙げられる。
【0017】
本発明のオリゴペプチドはアミノ酸配列(I)、(II)、(III)又は(IV)を含む8から20アミノ酸残基から成るオリゴペプチドであり、アミノ酸残基の数は、毛成長促進作用を示す限り、8から20の範囲内の任意の数とすることができる。アミノ酸残基の数は好ましくは8から15であり、より好ましくは8から12であり、特に好ましくは8から10の範囲内である。
【0018】
本発明のオリゴペプチドの第2の態様は、上記のアミノ酸配列(I)、(II)、(III)又は(IV)においてXaaを除く1〜数個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は挿入されたアミノ酸配列を含む8から20アミノ酸残基から成るオリゴペプチドであって、上記(1)に記載のオリゴペプチドと同様の毛成長促進作用を有するオリゴペプチドである(以下、このオリゴペプチドを「本発明の改変オリゴペプチド」と呼ぶ場合がある。)。
【0019】
本発明のオリゴペプチドの第3の態様は、上記のアミノ酸配列(I)、(II)、(III)又は(IV)を含む8から20アミノ酸残基から成るオリゴペプチドであって毛成長促進作用を有するオリゴペプチド又は上記した本発明の改変オリゴペプチドの修飾オリゴペプチドであって、上記した本発明のオリゴペプチド又は改変オリゴペプチドと同様の毛成長促進作用を有する修飾オリゴペプチドである。
【0020】
上記の改変オリゴペプチド又は修飾オリゴペプチドが、上記のアミノ酸配列(I)、(II)、(III)又は(IV)を含む8から20アミノ酸残基から成るオリゴペプチドと同様の毛成長促進作用を有することは、本明細書の実施例に詳細かつ具体的に記載した試験方法によって、又は上記試験方法に適宜の改変や修飾を加えることにより、当業者が容易に確認可能である。
このような方法の具体例としては、以下の方法が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0021】
(1)C3HやC57BL/6マウスは生後45日から95日前後まで約50日間休止期が続くことが知られている。また、休止期ではピンク、成長期ではグレー又はクロと皮膚の色が変化するため、毛周期の判定が容易である。このマウスを使用し、被験物質の投与により、成長期への移行が促進されるか否か評価することにより、育毛活性を評価することが可能である。
【0022】
(2)上皮性の新生毛包に存在する抗原(例えば、約220kDaの抗原が挙げられる)を特異的に認識するモノクローナル抗体(例えば、受託番号FERM P−18578を有するハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体)またはその断片を用いて育毛活性を評価することができる。より具体的には、生体由来の皮膚組織を被験物質の存在下で培養し、該皮膚組織片を回収し、上記のモノクローナル抗体またはその断片と反応させ、皮膚組織片と反応した該モノクローナル抗体またはその断片を検出または測定することにより、上皮性の新生毛包に存在する抗原の発現量を測定し、育毛活性を評価することができる。あるいは、皮膚を切断して被験物質の存在下で培養し、その培養物中の蛋白質と前記モノクローナル抗体を反応させた結果により、育毛活性を評価することができる。
【0023】
上記改変オリゴペプチドにおいて、挿入又は置換されるアミノ酸の種類は特に限定されないが、L-アミノ酸であることが好ましい。挿入又は置換されるアミノ酸の個数及び位置も特に限定されない。例えば、挿入されるアミノ酸の個数は1〜5個、好ましくは1〜3個、より好ましくは1〜2個である。N-末端又はC-末端に1〜数個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個程度のアミノ酸が付加されていてもよい。
また、置換されるアミノ酸の個数は好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個、特に好ましくは1〜2個である。
【0024】
あるアミノ酸を別のアミノ酸で置換して得られる改変オリゴペプチドが置換前のオリゴペプチドと同様の毛成長促進作用を有するためには、置換されるアミノ酸同士は互いに類似した性質を有するアミノ酸であることが好ましい場合がある。具体的には、上記のアミノ酸配列(I)、(II)又は(III)においては、Cys残基以外のSer(2箇所)、Ile、Glu、Gln(2箇所)、及びAspの5種(合計7箇所)のアミノ酸残基が置換の対象となりうる。このうち、Ser(セリン)は、ヒドロキシアミノ酸に属するThr(トレオニン)に置換することが可能であり、Ile(イソロイシン)は、脂肪族アミノ酸であるGly(グリシン)、Ala(アラニン)、Val(バリン)またはLeu(ロイシン)に置換することが可能であり、Glu(グルタミン酸)は、酸性アミノ酸であるAsp(アスパラギン酸)に置換することが可能であり、Gln(グルタミン)は、アミドであるAsn(アスパラギン)に置換することが可能であり、そしてAsp(アスパラギン酸)は、酸性アミノ酸であるGlu(グルタミン酸)に置換することが可能である。但し、これらは置換の好ましい具体例を例示したものにすぎず、毛成長促進作用を維持する限りは他のアミノ酸で置換することも可能である。
【0025】
上記の修飾オリゴペプチドにおいて、「修飾」という用語は、化学的修飾及び生物学的修飾を含めて最も広義に解釈しなければならない。修飾の例としては、例えば、アルキル化、エステル化、ハロゲン化、又はアミノ化などの官能基導入、酸化、還元、付加、又は脱離などによる官能基変換、糖化合物(単糖、二糖、オリゴ糖、若しくは多糖)又は脂質化合物などの導入、リン酸化、あるいはビオチン化などを挙げることができるが、これらに限定されることはない。
【0026】
好ましい修飾オリゴペプチドとしては、ビオチン化されたオリゴペプチドを挙げることができ、より好ましくは修飾オリゴペプチドとして、スペーサを介して又はスペーサーを介さずにビオチンがN-末端に結合したオリゴペプチドを挙げることができる。上記の修飾オリゴペプチドにおいて、ビオチンには所望の生理活性を損なわない限りにおいて適宜の化学的修飾が施されていてもよい。ビオチン化されたオリゴペプチドの製造方法は、本明細書の実施例に具体的に示されている。適宜の長さのスペーサーを介してビオチンをオリゴペプチドのN-末端に導入するためには、例えば、NHS-Biotin又はNHS-LC-Biotin(いずれピアース社から入手できる)などを用いることができる。
【0027】
上記した各種のオリゴペプチド(改変オリゴペプチドや修飾オリゴペプチドも含む)は遊離形態であってもよいが、酸付加塩又は塩基付加塩として提供されてもよい。酸付加塩としては、例えば、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩などの鉱酸塩;又は、p-トルエンスルホン酸塩、メタンスルホン酸塩、クエン酸塩、蓚酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩などの有機酸塩を挙げることができる。塩基付加塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などの金属塩;アンモニウム塩;メチルアンモニウム塩、トリエチルアンモニウム塩などの有機アンモニウム塩を挙げることができる。グリシンなどのアミノ酸と塩を形成する場合もあり、また、分子内で対イオンを形成することもある。
【0028】
さらに、これらのオリゴペプチド又はその塩は、水和物又は溶媒和物として存在する場合がある。上記オリゴペプチドは複数の不斉炭素を有している。各不斉炭素の立体は特に限定されないが、アミノ酸残基はL-アミノ酸であることが望ましい。これらの不斉炭素に基づく光学活性体、ジアステレオ異性体などの立体異性体、立体異性体の任意の混合物、ラセミ体などはいずれも本発明の範囲に包含される。
【0029】
本発明のオリゴペプチドは、ペプチド合成に通常用いられる固相法および液相法などの化学的手法により合成することができる。ペプチド合成におけるアミノ基等の保護基および縮合反応の縮合剤については種々の成書があり、それらを参照することができる。固相法では市販の各種ペプチド合成装置を利用することができる。必要に応じて、官能基の保護及び脱保護を行うことにより効率的に合成を行うことができる。保護基の導入及び脱離方法については、例えば、プロテクティブ・グループス・イン・オーガニック・シンセシス(Protective Groups in Organic Synthesis)、グリーン(T. W. Greene)著、ジョン・ワイリー・アンド・サンズ・インコーポレイテッド(John Wiley & Sons, Inc.)(1981年)などを参照することができる。
【0030】
また、通常の遺伝子発現操作等の生物学的手法に従って、上記オリゴペプチドをコードするDNA 配列を含む組み換えベクターを製造した後、該ベクターにより形質転換された微生物(形質転換体)を調製し、該形質転換体を培養した培養物から所望のオリゴペプチドを分離・精製することができる。もっとも、上記オリゴペプチドの製造方法はこれらの化学的方法及び生物学的方法に限定されることはない。また、化学的修飾又は生物学的修飾などを含めて修飾オリゴペプチドの製造方法は当業者に周知されており、いかなる方法を用いてもよい。
【0031】
本発明のオリゴペプチドは、医薬の有効成分として有用である。本明細書における医薬という用語は、ヒトを含む哺乳類の病気の予防又は治療のほか、医薬部外品として分類される場合がある毛成長促進剤などを含めて最も広義に用いる。
【0032】
本発明の医薬の投与対象、薬効、並びに本発明の医薬による治療の対象疾患の具体例を以下に列挙する。
(1)本発明のオリゴペプチドは、血管再生作用、再生促進作用、心臓血管再生作用、血管内皮細胞誘導作用などを示し、慢性閉塞性動脈硬化症、バージャー病、重症狭心症、動脈硬化症などの治療及び予防に有用である(Exp Cell Res 1996 Jan 10, 222(1):189-98)
(2)本発明のオリゴペプチドは、膵臓上皮の形態形成に関与し、糖尿病などの治療および予防に有用である(J Cell Biol 2001, Mar 5;152(5):911-22)。
【0033】
(3)本発明のオリゴペプチドは、肝臓の形成(再生)に関与し、肝代謝障害の治療および予防に有用である(Biochem Biophys Res Commun 1998 Sep 18; 250(2):486-90)。
(4)本発明のオリゴペプチドは、骨や歯の形成に関与し、歯周病、骨折、骨腫瘍、骨欠損、骨粗しょう症の治療および予防に有用である(Arch Oral Biol 1995 Feb;40(2):161-4)。
【0034】
(5)本発明のオリゴペプチドは、肺分岐の形態形成や肺線維症に関与し、肺疾患の治療および予防に有用である(Biochem Biophys Res Commun 1997 May 19; 234(2):522-5;及びAm J Respir Cell Mol Biol 2000 Aug;23(2):168-74)。
(6)本発明のオリゴペプチドは、腸ひだの形成に関与し、腸疾患の治療および予防に有用である(Am J Physiol 1998 Jul; 275(1 Pt1):G114-24)。
【0035】
(7)本発明のオリゴペプチドは、筋肉の構造に維持に関与し、例えば、筋ジストロフィー症の治療および予防に有用である(Histochem J 1998 Dec;30(12):903-8)。
(8)本発明のオリゴペプチドは、胆嚢上皮の形成に関与し、胆嚢疾患の治療および予防に有用である(Cell Tissue Res 2000 May; 300(2):331-44)
(9)本発明のオリゴペプチドは、乳上皮の形態形成に関与し、乳疾患の治療および予防に有用である(J Cell Biol 2001 May 14; 153(4):785-94)
【0036】
これらの中でも最も好ましくは、毛成長促進剤として使用することができる。本明細書において用いられる「毛成長促進」という用語は、育毛促進、発毛促進、及び脱毛予防などを含めて最も広義に解釈すべきであり、いかなる意味においても限定的に解釈してはならない。
【0037】
本発明の医薬としては、上記のオリゴペプチド又は生理学的に許容されるその塩から選ばれる1又は2種以上の物質をそのまま用いてもよいが、通常は、製剤学的に許容しうる1又は2種以上の製剤用添加物を用いて上記物質の1又は2種以上を有効成分として含む医薬組成物を製造して投与することが好ましい。上記のオリゴペプチドの1種又は2種以上を有効成分として含む毛成長促進剤は、クリーム剤、噴霧剤、塗布用の溶液剤、又は貼付剤などとして外用剤として適用できるが、注射剤として患部に直接投与してもよく、毛成長促進剤としての使用目的に好適な形態の製剤として提供することが可能である。
【0038】
例えば、シャンプーやリンスに有効成分である上記のオリゴペプチドを配合してもよく、上記のオリゴペプチドをリポソームなどに封入して製剤を調製してもよい。このような形態の組成物も本発明の医薬に包含される。皮膚のケラチン層を通して有効成分であるオリゴペプチドを効率的に経皮吸収させるために、適宜の界面活性剤や脂溶性物質などをクリーム剤などに配合することも好適である。上記の毛成長促進剤の投与量は使用目的、製剤形態、有効成分の種類などに応じて適宜選択可能であるが、例えば、本明細書の実施例に具体的に示した投与量を参考にして選択することが可能である。例えば、成人一日当たり有効成分の投与量としては、1μg/kg/日〜10mg/kg/日、好ましくは10μg/kg/日〜1mg/kg/日程度の範囲内である。
【0039】
【実施例】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は以下の実施例に限定されることはない。
実施例1:修飾オリゴペプチドの作製
下記のアミノ酸配列で表されるオリゴペプチドをFmocを用いた固相法により合成した。
Ser-Ile-Glu-Gln-Ser-Cys-Asp-Gln-Asp-Glu (配列番号5)
【0040】
次に、合成したオリゴペプチドと架橋剤(ビスマレイミドヘキサン、品名BMH、ピアス社製)とを、同架橋剤の使用説明書に従って反応させた。反応は、オリゴペプチドと架橋剤との比率を変えて行った。反応産物をゲル濾過カラム(アマシャムファルマシア社製、SuperdexTM peptide PC 3.2/30、展開液には250mMのNaCl、20mMのNa−リン酸緩衝液(pH7.2)を使用した)を用いて解析した結果を図1に示す。
【0041】
図1の上段の図(A)は、オリゴペプチドとビスマレイミドヘキサンとを7:3の比率で反応させ、液体クロマトグラフィ(アマシャムファルマシア社、Smart system)で分離した結果を示す。ピーク(a)はペプチド二量体を示し、ピーク(b)は反応性マレイミドを有するペプチド単量体を示す。ピーク(a)は1.2ml溶出した時点であり、ピーク(b)は1.4ml溶出した時点である。
【0042】
図1の中段の図(B)は、オリゴペプチドとビスマレイミドヘキサンとを2:5の比率で反応させた結果を示す。ピーク(a)はペプチド二量体を示し、ピーク(b)は反応性マレイミドを有するペプチド単量体を示す。ビスマレイミドヘキサンが過剰に存在するため、ペプチド二量体(a)よりも反応性マレイミドを有するペプチド単量体(b)が多量に形成されている。
【0043】
図1の下段の図(C)は、上記(B)のサンプル(即ち、オリゴペプチドとビスマレイミドヘキサンとを2:5の比率で反応させた反応産物)に未修飾のオリゴペプチドSer-Ile-Glu-Gln-Ser-Cys-Asp-Gln-Asp-Gluを過剰に加えたサンプルの結果を示す。ピーク(b)が減少し、ピーク(a)が増加していることにより、添加した(c)の一部は(b)と反応し、二量体(a)を形成していることが分かる。
【0044】
実施例2:新生毛包に特異的なモノクローナル抗体の作製
B57BLマウスの成長期(48から50日目)の皮膚から毛を切り取り、8M尿素、2%SDS、100mMのDTTを含むPBS中で37℃で一晩インキュベートし、タンパク質を抽出した。また、B57BLマウスのヒゲの毛包(毛球部に色素がついているもの;成長期)を実体顕微鏡で採取し、PBS中にホモジナイズした。上記2種類の試料(タンパク質量として0.5mg)を混合し、等量のコンプリートアジュバンドと混合してミセルを作製した。
上記で得たミセル(0.2mg)をラット(Wister)の皮下(3箇所)に分けて投与して免疫した。初回免疫の1ヵ月後に上記と同様に追加免疫を行なった。さらに2週間後に上記と同様に2回目の追加免疫を行なった。2回目の追加免疫の3日後に、免疫ラットから脾臓を取り出し、メッシュにて血球成分を回収した。この血球成分の中には抗体産生細胞が含まれている。上記で回収した血球成分(全量)とマウスミエローマP3U1とをポリエチレングリコール1500を用いて混合し、ダルベッコ/ハムF12混合培地中に懸濁し、96ウエルプレートに各ウエル100μlずつ播いた。翌日、等量(100μl)のHAT培地(シグマ社)を各ウエルに添加した。2日後に各ウエルから150μlずつを吸引廃棄し、150μlの新培地を各ウエルに添加した。96ウエルプレートを37℃のCO2インキュベーター内に静置した。
【0045】
成長期のB57BLマウスのヒゲの毛包を8M尿素中に超音波粉砕機を用いて溶解した。この溶液にニトロセルロースメンブレンを5分間浸し、PBSで十分に洗浄したものをBioradドットブロッターに装着したものを用いて、上記の96ウエルプレートの各ウエルから回収したハイブリドーマ上清を一次スクリーニングした。先ず、上記で作製したニトロセルロースメンブレンを5%スキムミルクを溶解したトリスバッファー(TBST)でブロッキングした後、当該ニトロセルロースメンブレンを底とする各ウエルにハイブリドーマ上清100μlを添加した。1時間インキュベートした後、トリスバッファーで洗浄し、二次抗体であるホースラディッシュパーオキシダーゼ標識抗ラットIgG(1μg/mlTBST)を添加した。発色基質であるECL試薬(アマシャムファルマシア社製)を添加して、発色の有無により成長期のヒゲの毛包と反応する抗体(全部で50種類)を選出した(一次スクリーニング)。
【0046】
上記の一次スクリーニングで選出した抗体(50種類)について、成長期ヒゲ毛包の凍結切片(10μm)を用いて特異的に反応にするものを選出した(二次スクリーニング)。具体的には、スライドガラス上に成長期ヒゲ毛包の凍結切片を置き、一次スクリーニングで選出されたハイブリドーマ上清を添加し、二次抗体で発色させた。具体的には、クライオスダト(ブライト社)で作成した成長期ヒゲ毛包の凍結切片を−20℃メタノールで処理し、TBSTで1時間ブロッキングを行った後、ハイブリドーマ上清を1時間反応させた。トリスバッファーで洗浄後、FITC標識抗ラットIgG(TBSTに100μg/mlで溶解したもの)を反応させた。トリスバッファーで洗浄後、カバーガラスをかけて、蛍光顕微鏡にて観察を行った。
【0047】
二次スクリーニングの結果、全部で8種類の抗体を選出した。これらの抗体は表皮とは反応せず、毛包に特異的に反応するものであった。これら8種類の抗体を限界希釈法でクローニングした。
【0048】
これら8種類の抗体について、成長期ヒゲ毛包又は休止期ヒゲ毛包をサンプルとしたウエスタンブロットで反応性を調べ、さらに毛包が形成されている14日齢マウス胎児皮膚の切片試料を用いて反応性を調べた。その結果、成長期ヒゲ毛包及び形成途中毛包(新生毛包)と特異的に反応し、休止期ヒゲ毛包とは反応しないモノクローナル抗体としてmAb27を取得した。モノクローナル抗体mAb27を産生するハイブリドーマは、受託番号FERM P−18578として平成13年11月2日付けで独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東一丁目1番地1 中央第6)に寄託されている。
【0049】
実施例3:各種オリゴペプチドの毛成長促進作用の評価
(1)各種オリゴペプチドの調製
下記のアミノ酸配列で表されるオリゴペプチド(A)及び(B)をFmocを用いた固相法により合成した(以下、これを未修飾オリゴペプチドとも言う)。
【0050】
合成したオリゴペプチド(A)と架橋剤(ビスマレイミドヘキサン、品名BMH、ピアス社製)とを、同架橋剤の使用説明書に従って反応させた。また、合成したオリゴペプチド(B)と架橋剤DSG(disuccinimidyl glutarate)とを反応させた。フラクションコレクターを使って、架橋剤が結合している単量体を分取した。以下、これらを修飾オリゴペプチドとも言う。
【0051】
(2)毛成長促進作用の評価
12日目のICRマウス胎児の上アゴ皮膚組織を実体顕微鏡で採取し、左と右に分けて5頭分を回収した。回収した5頭分の皮膚を左(コントロール用)と右(被験オリゴペプチド用)を別々に5個ずつ一枚のヌクレポアメンブレン(孔径8μm、直径13mm)の上に載せ、実体顕微鏡で観察して外側が上になるようにした。1%BSAを含むダルベッコMEM/ハムF12培地500μlを24ウエルディッシュの2ウエルに添加し、片方には被験オリゴペプチド溶液(溶媒はPBS)を最終濃度20μMとなるように添加し、他方には溶媒(PBS)を対照として同量入れた。被験オリゴペプチドとしては、上記(1)で作製した未修飾オリゴペプチド及び修飾オリゴペプチドを使用した。
【0052】
皮膚組織を載せたメンブレン1枚ずつを上記のウエル中の溶液に浮かべ、37℃で6日間培養した。メンブレンから5個の組織片をSDSサンプルバッファ(SDS 0.02g/ml、グリセロール 0.2g/ml、pH6.8)100μl中に回収し、超音波粉砕器により溶解した。対照も同様に処理した。上記処理で得た溶液をSDS−PAGE(アクリルアミド4〜20%)にて電気泳動後(35mA、1.5時間)、PVDF膜にトランスファーし、5%スキムミルクを含むトリス緩衝液(TBST)中で1時間インキュベートした。実施例2で取得したmAb27(TBST中10μg/ml)と1時間反応後、TBSにて十分に洗浄し、ペルオキシダーゼ標識抗ラットIgG(アマシャム社)をTBSTで1/1000に希釈したものを二次抗体として反応させ、十分に洗浄後、ECLキット(アマシャム社)を用いてmAb27の反応の強さを調べた。
【0053】
得られた結果を図2に示す。
図2における各レーンの被験オリゴペプチドは以下の通りである。
左から1番目:未修飾オリゴペプチド(A)
左から2番目:BMH修飾オリゴペプチド(A)
左から3番目:未修飾オリゴペプチド(B)
左から4番目:DSG修飾オリゴペプチド(B)
【0054】
図2の結果から分かるように、左から2番目及び4番目のレーン(修飾オリゴペプチド)のバンドはそれぞれ左から1番目及び3番目のレーン(未修飾オリゴペプチド)のバンドよりも濃かった。これらの結果は、修飾オリゴペプチドは発毛活性を有すること、特に、対応する未修飾オリゴペプチドよりも強い発毛活性を有することを実証するものである。
【0055】
さらに、アミノ酸配列を変更したオリゴペプチド及び各種の架橋剤を用いて、上記と同様に毛成長促進作用を評価した。
その結果、Ser-Ile-Glu-Gln-Ser-Cys-Asp-Gln-Asp-Glu (オリゴペプチド(A);配列番号5)、Ser-Ile-Cys-Glu-Gln-Ser-Asp-Gln-Asp-Glu(配列番号7)、及びSer-Ile-Glu-Gln-Ser-Cys-Asp-Gln(配列番号8)をビスマレイミドヘキサン(BMH)、1,4−ビスマレイミドブタン(BMB)、またはビスマレイミドエタン(BMOE)で修飾した修飾オリゴペプチドは何れも、毛成長促進作用を示すことが実証された。
【0056】
【発明の効果】
本発明の修飾オリゴペプチドは毛成長促進作用を有しており、毛成長促進剤などの医薬の有効成分として有用である。
【0057】
【配列表】
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
【0063】
【0064】
【0065】
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、オリゴペプチドと架橋剤との反応産物をゲル濾過カラムを用いて解析した結果を示す。
【図2】図2は、修飾又は未修飾のオリゴペプチドの毛成長促進作用を評価した結果を示す。
Claims (3)
- 下記のアミノ酸配列(I)又は(IV)の何れかを含む8から20アミノ酸残基から成るオリゴペプチドであって、毛成長促進作用を有するオリゴペプチド:
Ser-Ile-Glu-Gln-Ser-Xaa-Asp-Gln (I)
Ser-Ile-Xaa-Glu-Gln-Ser-Asp-Gln (IV)
(式中、Xaaは、架橋剤が結合しているCysまたは架橋剤が結合しているLysを示す。) - 請求項1に記載のオリゴペプチド又は生理学的に許容されるそれらの塩を有効成分として含む医薬。
- 毛成長促進剤である、請求項2に記載の医薬。
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