JP4168090B2 - はんだ接合部の疲労評価方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、回路基板上に実装される電子部品等のはんだ接合部の熱サイクルによる疲労等に対する信頼性や寿命を評価するためのはんだ接合部の疲労評価方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
【特許文献1】
特開2002−231773
【特許文献2】
特開2000−214160
近年回路基板への電子素子の実装は表面実装が主流となり、電子回路基板の信頼性は、回路基板表面の電子素子のはんだ接合部の熱疲労寿命に依存している。この熱疲労は、回路基板に表面実装された電子素子のはんだ接合部において、回路基板と電子素子の熱膨張の差により、経時的に繰り返される温度変動に伴って繰り返し加えられるせん断力に起因する。このときのはんだの変形形態はクリープ変形であり、はんだはクリープ変形による繰り返しの応力緩和の状態となる。この熱サイクルにより、はんだ接合部には疲労亀裂が発生し、最終的にはんだ接合部の破断や回路基板からの素子の脱落等により電子回路が断線し、電子機器の故障に至るものである。
【0003】
従って、この断線に至る疲労亀裂等の疲労損傷に対するはんだ接合部の強度評価が問題となっていた。従来、疲労強度の評価方法としては、特許文献1等に開示されているように、試験時間を短縮するため加速熱サイクル試験を行い、電子素子のはんだ接合部の亀裂等の欠陥の発生の有無を調べ、過去の経験を基に使用条件によりはんだ接合部の寿命を推定して評価するのが一般的であった。
【0004】
また特許文献2に開示されているように、劣化検出用のサンプル基板を備え、はんだ接合部の熱疲労等による劣化の状態をサンプル基板を検査することにより検出可能としたものも提案されている。このときの検査方法は、サンプル基板のサンプル片のはんだ接合部の組織の粗大化や表面形状、または抵抗値を測定して行うものである。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上記従来の技術の加速熱サイクル試験による方法では、1000サイクル程度の加速熱サイクル試験を行い、欠陥発生の有無を検査し、過去の使用実績と比較して、その信頼性を推定していた。従って、過去に使用実績のないはんだ、例えば非鉛はんだ等を用いる場合には、推定が困難になるという問題点がある。また、過去の使用実績から経験的に信頼性を評価するため、より安全な側の評価となり、はんだ接合部についてオーバースペックになりやすい問題点がある。また、上記特許文献2に開示されている方法によっても、経験的に変化を予測するものであり、定量的に正確な判断ができるものではない。
【0006】
この欠点を克服するため、有限要素法解析により、回路基板の使用条件での解析を行い、はんだ接合部のひずみを求め、Coffin-Manson則により評価する方法がある。この方法は、加速熱サイクル試験により、Coffin-Manson則に基づいた疲労亀裂寿命に関するマスターカーブを求めておき、有限要素法解析によって得られる回路基板はんだ接合部の非線形ひずみとマスターカーブから回路基板の信頼性を評価するものである。これにより、加速熱サイクル試験から経験的に寿命予測する場合よりは正確な評価が可能となったが、有限要素法解析を行える環境が整っていないと評価できないという問題点がある。さらに、はんだ接合部におけるひずみ分布の不均一の影響や、はんだ以外の部材の影響を考慮に入れていないので、長寿命側に過大評価されやすく、依然として疲労寿命の推定精度は低いものであった。
【0007】
また、近年の資源のリサイクル化の要請等により電子回路基板をリユースしようとする場合、その回路基板の過去の履歴を知る必要がある。しかしながら、簡単に過去の履歴を知ることはできず、回路基板の予測寿命を簡単に求めることができる有効な方法は提案されていない。
【0008】
この発明は、上記従来の技術の問題点について成されたもので、熱サイクルによるはんだ接合部の組織変化を評価パラメータとして利用して、高精度の寿命予測や信頼性評価を可能としたはんだ接合部の疲労評価方法を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
この発明は、Snを主成分とする非鉛はんだの接合部の疲労評価方法であって、このはんだ接合部の断面のSn相の相境界で区切られた相寸法を、複数個について測定し、この相寸法の平均値から得られる値を評価パラメータとして、この評価パラメータの変化の割合を基にして、上記はんだ接合部の疲労を評価するはんだ接合部の疲労評価方法である。
【0010】
さらに、上記はんだ接合部の切断面を電子顕微鏡により拡大して、その拡大画像を任意の直線で切り、この直線が横切る上記Sn相部分の長さを相寸法として複数箇所で測定し、この測定値の相寸法の平均値を4乗して相成長の評価パラメータとし、上記はんだ接合部のはんだに疲労亀裂が生じる相成長評価パラメータと熱疲労亀裂発生寿命から、この両者の関係式の係数を決定し、この評価パラメータの増加の変化率から上記はんだ接合部のはんだに疲労亀裂が生じるまでの寿命を予測するはんだ接合部の疲労評価方法である。
【0011】
またこの発明は、Snを主成分としAgを1〜7重量%(以下単に%と称す)含むSn-Ag系はんだの接合部の疲労評価方法であって、Sn相中に各々独立して散在するAg3Sn相の相寸法を複数個について測定し、この相寸法の平均値から得られる値を評価パラメータとして、この評価パラメータの変化の割合を基にして、上記はんだ接合部の疲労を評価するはんだ接合部の疲労評価方法である。
【0012】
さらに、上記はんだ接合部の切断面を拡大して上記Ag3Sn相の相寸法を測定し、この測定値の相寸法の平均値を4乗して相成長の評価パラメータとし、上記はんだ接合部のはんだに疲労亀裂が生じる相成長評価パラメータと熱疲労亀裂発生寿命から、この両者の関係式の係数を決定し、この評価パラメータの増加の変化率から上記はんだ接合部のはんだに疲労亀裂が生じるまでの寿命を予測するはんだ接合部の疲労評価方法である。
【0013】
上記Snを主成分とするはんだは、共晶はんだを含むものである。上記はんだ接合部は、例えば回路基板に実装された電子素子のはんだ接合部である。そして、上記回路基板は、上記はんだ接合部のSn相またはAg3Sn相の相寸法を測定する測定用はんだ付け部を備え、この回路基板のはんだ接合部のはんだの疲労亀裂が生じる寿命を予測する際に、上記測定用はんだ付け部のSn相またはAg3Sn相の相寸法を測定することにより上記はんだの疲労亀裂までの寿命予測を行うものである。
【0014】
ここで、上記相寸法の増大とは、はんだの金属結晶が熱力学的な平衡状態になろうとするために、金属原子の拡散によりはんだの金属結晶を構成する各固相の寸法が増加する現象である固相成長を意味する。この発明では単に相成長という。また、熱疲労亀裂発生寿命は、熱サイクルの回数で表されるが、時間に置き換える場合は、そのはんだ接合部の使用環境により1熱サイクルの周期をかければよい。
【0015】
【実施例】
以下、この発明の実施例について図面に基づいて説明する。この発明のはんだ接合部の疲労評価方法は、Snを主成分とするSn-Ag共晶はんだ等の非鉛はんだについてのもので、この実施例では、一例として電気・電子機器に搭載される回路基板に表面実装される電子素子のはんだ接合部の疲労評価方法について説明する。
【0016】
まず、疲労亀裂の発生とはんだ接合部の組織変化の対応を明らかにするため、図1に示すような試料を設けた。この試料は、ガラス繊維強化エポキシ基板等の回路基板10の表面に銅箔による回路パターン形成され、この回路パターンのパッド部12に表面実装型の抵抗チップ14がはんだ付けされたもので、異なる寸法で複数個作成した。抵抗チップ14の電極16は、回路基板10のパッド部12にはんだ付けされている。はんだ18は、Snを主成分とするSn-Ag系非鉛はんだであり、Snに3.5重量%のAgが混じったSn-3.5Agはんだである。
【0017】
この試料を図1に示す断面図のように切断し、a,b,cの各部分について走査型電子顕微鏡で組織観察を行った。はんだ付け当初の組織は、例えば図2に示す電子顕微鏡写真のスケッチのように、Sn相20に中に独立した島状にAg3Sn相22が散在し、その相寸法d0を複数箇所について測定し平均値を求めた。なお、図2,図3においては、Sn相の相境界は省略してある。
【0018】
図2において、相寸法d0は、Ag3Sn相の電子顕微鏡写真から各々の面積を測定し、円に換算したときの直径を相寸法d0とした。
【0019】
次に、同様にして作成したはんだ付け試料複数点について、熱サイクル負荷を加えた。この熱サイクルは、図4に示すように、−40℃〜125℃の間を30分ごとに繰り返すもので、1サイクル約1時間である。この熱サイクルを200サイクル課した試料のはんだ付け部の電子顕微鏡写真のスケッチを図3に示す。ここでも、Sn相20中のAg3Sn相22の相寸法dを、電子顕微鏡写真の画像中で複数箇所について求めた。相寸法dは、上記と同様にAg3Sn相22の面積を出しこれを円に換算してその直径を求めて、それらの直径の平均値を相寸法dとした。このようにして、複数の試料において、複数の熱サイクル回数について、はんだ接合部のa,b,cの各箇所の相寸法dを求めた。図2,図3からわかるように、Sn相20中の各Ag3Sn相22は、熱サイクルを受けることにより相成長し、全体的に相寸法dが増大する。
【0020】
この実験により得られた、各熱サイクルの回数Nと相寸法の4乗であるd4との関係を、図5に示す。図5に示すように、はんだ付け箇所a,b、cともに、相寸法dの4乗と熱サイクル数Nとの間にほぼリニアな相関関係があることがわかった。
【0021】
このようにして、本願発明者らは、この相寸法dの4乗が、はんだ付け接合部の熱サイクルの回数Nに相関すると言うことを見いだした。そこで、Snを主成分とするSn-Ag系非鉛はんだについて、熱疲労亀裂発生寿命を予測するための評価パラメータとして、相成長評価パラメータSをS=d4と定義し、疲労亀裂が発生するまでの熱サイクル数である熱疲労亀裂発生寿命Niと相成長評価パラメータSとの関係を求めた。ここで言う疲労亀裂とは、抵抗チップ14の電極16のaのはんだ付け箇所に10μm以上の長さの亀裂が発生した場合を疲労亀裂とした。
【0022】
先ず、図5に示されるように、熱サイクル負荷1回当りのその相成長評価パラメータSの増加量は、ほぼ一定である。また、本願発明者らの研究により、熱疲労亀裂発生寿命Niとその時の相成長評価パラメータSiとの間には、
Si=ANi α ・・・(式1)
A,αは、はんだの種類により特定される定数
の関係があることを見いだした。さらに、熱サイクル1回当りの相成長評価パラメータの増加量ΔSは近似的に一定である。従って、相成長評価パラメータの増加量ΔSと熱疲労亀裂発生寿命Niの間には上記式より、
ΔS=BNi −β ・・・(式2)
B,βは、はんだの種類により特定される定数
の関係がある。
よって、相成長評価パラメータの増加量ΔSを求めることにより、熱疲労亀裂発生寿命Niを求めることができる。
【0023】
ΔSの測定は、先ず、はんだ接合部の顕微鏡写真によりAg3Sn相の相寸法であるdを求める。相寸法dは、Ag3Sn相の顕微鏡写真からその画像の中の各Ag3Sn相の面積を測定し、各々円に換算したときの直径を求めその平均値をdとする。このdを4乗して得られる値を相成長評価パラメータSとする。
【0024】
ΔSの算出は、熱サイクル1回当りの相成長評価パラメータの増加量ΔSは近似的に一定であるので、
ΔS=(S1−S0)/N1=(S2−S1)/(N2−N1) ・・・(式3)
で求められる。ここで、S0ははんだ付け時の相成長評価パラメータ、N1,S1、N2,S2は任意の異なる熱サイクル数とその熱サイクル数での相成長評価パラメータの値。
【0025】
定数である係数A,B,α,βは、予め実験的に求められたものである。その算出は、同一成分のはんだについて、同一種類の複数のサンプルにより、熱疲労亀裂発生寿命Niでの相寸法dを各々複数個測定し、その平均相寸法から、熱疲労亀裂発生寿命Niでの相成長評価パラメータの値Siを求める。また、熱サイクルを異なるパターンにして複数の実験を行い、これらの複数のサンプルにより、疲労亀裂が発生する熱疲労亀裂発生寿命Niと相成長評価パラメータSiを求め、最小二乗法により各係数A,B,α,βを定める。各係数は、はんだの成分が同一であれば同じである。
【0026】
以下に、熱疲労亀裂発生寿命Niの実験値とこの発明の評価方法により求めた推定値の各実施例を示す。
【0027】
実施例1
この実施例は、図6に示すように、ガラス繊維強化エポキシ基板等の回路基板10の表面に銅箔による回路パターン形成され、この回路パターンのパッド部に表面実装型の抵抗チップ14がはんだ付けされたもので、表1に示す様に、各々異なる寸法で各々十数個〜数十個の抵抗チップ14をはんだ付けした試料を作成した。ここで用いたはんだ18は、Snを主成分とするSn-Ag共晶はんだの非鉛はんだであり、Snに3.5重量%のAgが混じったSn-3.5Agはんだである。
【0028】
この回路基板10に対して図4に示す熱サイクル試験を行い、Ag3Sn相の平均相寸法dを各々求めて相成長評価パラメータSを算出し、表2に示すように、式(3)よりこの発明の評価方法に使用する熱サイクル1回当りの相成長評価パラメータの増加量ΔSを求め、式(2)より熱疲労亀裂発生寿命Niを得た。
【0029】
【表1】
【0030】
【表2】
この結果をグラフにプロットしたものを図7の黒丸で示す。さらに、この試料について、上述のようにして得た式(1)、(2)に示す係数を表3に示す。
【0031】
【表3】
この発明の評価方法を用いて、表1に示す寸法と異なる抵抗チップを実装した回路基板の熱疲労亀裂発生寿命Niの推定値と、熱サイクル試験によって得られた亀裂発生寿命Niの実験値を表4と図7に白丸で示す。図7の直線は表3の係数による式(2)の線である。
【0032】
【表4】
表4及び図7に示すように、この発明の実施例1によるはんだ付け部の疲労評価方法により、高精度で熱疲労亀裂発生寿命の予測をすることができることがわかった。
【0033】
実施例2
この実施例では、他の成分のはんだにおける熱疲労亀裂発生寿命Niの実験値と、この発明の評価方法によりAg3Sn相の平均相寸法dから求めた熱疲労亀裂発生寿命Niの推定値の実施例を示す。この実施例は、図6に示すものと同様の回路基板に抵抗チップをはんだ付けしたもので、Snに3.0重量%のAgと0.5重量%のCuを含有したSn-3.0Ag-0.5Cuはんだを用いた回路基板を製作したものである。この回路基板について、表1の抵抗チップA,B,Cに対して図4に示す熱サイクル試験を行い、上記実施例と同様に、式(2)、(3)により表5に示すように、熱サイクル1回当りの相成長評価パラメータの増加量ΔSと熱疲労亀裂発生寿命Niを得た。
【0034】
【表5】
この結果をグラフにプロットしたものを図8の黒丸で示す。さらに、この試料について、上述のようにして得た式(1)、(2)に示す係数を表6に示す。
【0035】
【表6】
この発明の評価方法を用いて、表1に示す寸法と異なる抵抗チップを実装した回路基板の熱疲労亀裂発生寿命の推定値と熱サイクル試験によって得られた亀裂発生寿命の実験値を表7に示すとともに、図8に白丸で示す。図8の直線は表6の係数による式(2)の線である。
【0036】
【表7】
表7及び図8に示すように、この実施例によるはんだ付け部の疲労評価方法においても、高精度で熱疲労亀裂発生寿命の予測をすることができることがわかった。
【0037】
実施例3
この実施例では、Sn-3.5Agはんだにおける熱疲労亀裂発生寿命Niの実験値と、この発明の評価方法によりSn相の平均相寸法dから求めた熱疲労亀裂発生寿命Niの推定値の実施例を示す。この実施例は、図6に示すものと同様の回路基板に抵抗チップをはんだ付けしたもので、図9に示すように、はんだ接合部の切断面をエッチングし、電子顕微鏡により拡大して、その拡大画像を任意の直線で切り、この直線が横切るSn相部分の長さを相寸法として複数箇所で測定し、この測定値の相寸法の平均値を相寸法dとして4乗し、相成長の評価パラメータSとした。図9は、熱サイクル試験開始時のはんだ接合部の断面の電子顕微鏡写真のスケッチである。また、図10は、熱サイクル300回負荷後のはんだ接合部の断面の電子顕微鏡写真である。図示するように、Sn相も熱サイクルにより相成長し、その相寸法dを4乗して相成長評価パラメータSとすることができる。
【0038】
そして、上記実施例と同様に、はんだ接合部のはんだに疲労亀裂が生じる熱疲労亀裂発生寿命NiとSn相の相成長評価パラメータSiについて、複数の試料にを測定し、この両者の関係式の係数を決定し、この評価パラメータSの増加の変化率ΔSを基にして、はんだ接合部のはんだに疲労亀裂が生じるまでの寿命を予測した。
【0039】
実施例1の表1の抵抗チップA,B,CについてSn相の相寸法dを基に、上記実施例と同様に、式(2)、(3)により表8に示すように、熱サイクル1回当りの相成長評価パラメータの増加量ΔSと熱疲労亀裂発生寿命Niを得た。
【0040】
【表8】
この結果をグラフにプロットしたものを図11の黒丸で示す。さらに、この試料について、上述のようにして得た式(1)、(2)に示す係数を表9に示す。
【0041】
【表9】
この発明の評価方法を用いて、表1に示す寸法と異なる抵抗チップを実装した回路基板の熱疲労亀裂発生寿命の推定値と熱サイクル試験によって得られた亀裂発生寿命の実験値を表10に示すとともに、図11に白丸で示す。図11の直線は表9の係数による式(2)の線である。
【0042】
【表10】
表10及び図11に示すように、この実施例によるSn相をパラメータとしたはんだ付け部の疲労評価方法においても、高精度で熱疲労亀裂発生寿命の予測をすることができることがわかった。
【0043】
実施例4
この実施例ではSn-3.0Ag-0.5Cuはんだにおける熱疲労亀裂発生寿命Niの実験値と、この発明の評価方法によりSn相の平均相寸法dから求めた熱疲労亀裂発生寿命Niの推定値の実施例を示す。この実施例は、図6に示すものと同様の回路基板に抵抗チップをはんだ付けしたもので、実施例3と同様に、はんだ接合部の切断面をエッチングし、電子顕微鏡により拡大して、その拡大画像を任意の直線で切り、この直線が横切るSn相部分の長さを相寸法として複数箇所で測定し、この測定値の相寸法の平均値を相寸法dとして4乗し、相成長の評価パラメータSとした。
【0044】
そして、上記実施例と同様に、はんだ接合部のはんだに疲労亀裂が生じる熱疲労亀裂発生寿命NiとSn相の相成長評価パラメータSiについて、複数の試料にを測定し、この両者の関係式の係数を決定し、この評価パラメータSの増加の変化率ΔSを基にして、はんだ接合部のはんだに疲労亀裂が生じるまでの寿命を予測した。
【0045】
実施例1の表1の抵抗チップA,B,CについてSn相の相寸法dを基に、上記実施例と同様に、式(2)、(3)により表11に示すように、熱サイクル1回当りの相成長評価パラメータの増加量ΔSと熱疲労亀裂発生寿命Niを得た。
【0046】
【表11】
この結果をグラフにプロットしたものを図12の黒丸で示す。さらに、この試料について、上述のようにして得た式(1)、(2)に示す係数を表12に示す。
【0047】
【表12】
この発明の評価方法を用いて、表1に示す寸法と異なる抵抗チップを実装した回路基板の熱疲労亀裂発生寿命の推定値と熱サイクル試験によって得られた亀裂発生寿命の実験値を表13に示すとともに、図12に白丸で示す。図12の直線は表12の係数による式(2)の線である。
【0048】
【表13】
表13及び図12に示すように、この実施例によるSn相をパラメータとしたはんだ付け部の疲労評価方法においても、高精度で熱疲労亀裂発生寿命の予測をすることができることがわかった。
【0049】
なお、この発明のはんだ接合部の疲労評価方法を適用する場合に、回路基板の電子素子のはんだ接合部において、この回路基板にはんだ接合部のAg3Sn相やSn相の相寸法を測定するための測定用素子を付けた測定用はんだ付け部を設けたものでも良い。そして、この回路基板のはんだ接合部のはんだの疲労亀裂が生じる寿命を予測する際に、上記測定用はんだ付け部のAg3Sn相やSn相の相寸法を測定することにより上記はんだの疲労亀裂までの寿命予測を行う。これにより、回路基板の寿命予測等をより正確に行うことができ、回路基板のリユース等に際して正確な信頼性評価が可能となる。
【0050】
なお、この発明のはんだ接合部の疲労評価方法は、上記実施例に限定されるものではなく、Sn-Ag系非鉛はんだとしては、Sn-Ag-Cu、Sn-Ag-Cu-Bi、Sn-Ag-Cu-Bi-In等のはんだがあり、Snに添加される成分は適宜選択可能である。例えば、Sn-Ag系非鉛はんだ以外に、Sn-Zn系非鉛はんだにも上記と同様の評価方法を利用可能なものである。また、はんだは共晶はんだ以外の合金はんだにも利用可能なものである。
【0051】
さらに、この発明の評価方法の適用分野は、電子素子の回路基板以外にもはんだを用いて接合した箇所の熱疲労による亀裂を予測するものであればよい。
【0052】
【発明の効果】
この発明のはんだ接合部の疲労評価方法によれば、使用実績の少ない非鉛はんだにおいても、簡単な設備で高精度に熱疲労亀裂発生寿命を推定することができ、非鉛はんだの利用を促進し、電子機器等のはんだ付け部を高い信頼性で評価することができる。特に、回路基板に測定用はんだ付け部を設けることにより、回路基板の寿命を正確に予測することができ、リユースやリサイクルに際しても高い信頼性の下にその回路基板や電子機器の評価が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 この発明の一実施例の電子部品のはんだ付け部を示す縦断面図である。
【図2】 この発明の一実施例の電子部品のはんだ付け部の電子顕微鏡写真のスケッチである。
【図3】 この発明の一実施例の電子部品のはんだ付け部の熱疲労試験後の電子顕微鏡写真のスケッチである。
【図4】 この発明の一実施例の電子部品のはんだ付け部の熱疲労試験を示すグラフである。
【図5】 この発明の一実施例の電子部品のはんだ付け部の熱サイクル数とAg3Snの相寸法との相関を示すグラフである。
【図6】 この発明の一実施例の電子部品のはんだ付け部を示す正面図である。
【図7】 この発明の一実施例の電子部品のはんだ付け部の熱疲労亀裂が生じる熱サイクル数Niと、1サイクル当たりの評価パラメータSの増加量ΔSとの関係を示すグラフである。
【図8】 この発明の他の実施例の電子部品のはんだ付け部の熱疲労亀裂が生じる熱サイクル数Niと、1サイクル当たりの評価パラメータSの増加量ΔSとの関係を示すグラフである。
【図9】 この発明の他の実施例の、電子部品のはんだ付け部の電子顕微鏡写真のスケッチである。
【図10】 この発明の他の実施例の、電子部品のはんだ付け部の熱疲労試験後の電子顕微鏡写真のスケッチである。
【図11】 この発明の他の実施例の、電子部品のはんだ付け部の熱疲労亀裂が生じる熱サイクル数Niと、1サイクル当たりの評価パラメータSの増加量ΔSとの関係を示すグラフである。
【図12】 この発明のさらに他の実施例の、電子部品のはんだ付け部の熱疲労亀裂が生じる熱サイクル数Niと、1サイクル当たりの評価パラメータSの増加量ΔSとの関係を示すグラフである。
【符号の説明】
10 回路基板
12 パッド部
14 抵抗チップ
16 電極
18 はんだ
20 Sn相
22 Ag3Sn相
Claims (5)
- Snを主成分とする非鉛はんだの接合部の疲労評価方法において、上記はんだ接合部の切断面を拡大して、その拡大画像を任意の直線で切り、この直線が横切る上記 Sn 相の相境界で区切られた相部分の長さのみを相寸法として複数箇所で測定し、この測定値の相寸法の平均値から相成長の評価パラメータを求め、上記はんだ接合部のはんだに疲労亀裂が生じる相成長評価パラメータと熱疲労亀裂発生寿命から、この両者の関係式の係数を決定し、この評価パラメータの増加の変化率から上記はんだ接合部のはんだに疲労亀裂が生じるまでの寿命を予測することを特徴とするはんだ接合部の疲労評価方法。
- Snを主成分とするSn-Ag系はんだの接合部の疲労評価方法において、上記はんだ接合部の切断面を拡大して、Sn相中に各々独立して散在するAg 3 Sn 相の相寸法のみを複数箇所で測定し、この測定値の相寸法の平均値から相成長の評価パラメータを求め、上記はんだ接合部のはんだに疲労亀裂が生じる相成長評価パラメータと熱疲労亀裂発生寿命から、この両者の関係式の係数を決定し、この評価パラメータの増加の変化率から上記はんだ接合部のはんだに疲労亀裂が生じるまでの寿命を予測することを特徴とするはんだ接合部の疲労評価方法。
- 上記Snを主成分とするはんだは、共晶はんだであることを特徴とする請求項1または2記載のはんだ接合部の疲労評価方法。
- 上記はんだ接合部は、回路基板に実装された電子素子のはんだ接合部であることを特徴とする請求項1,2または3記載のはんだ接合部の疲労評価方法。
- 上記回路基板は、上記はんだ接合部のSn相またはAg3Sn相の相寸法を測定する測定用はんだ付け部を備え、この回路基板のはんだ接合部のはんだの疲労亀裂が生じる寿命を予測する際に、上記測定用はんだ付け部のSn相またはAg3Sn相の相寸法を測定することにより上記はんだの疲労亀裂までの寿命予測を行うことを特徴とする請求項4記載のはんだ接合部の疲労評価方法。
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