JP4165946B2 - マイクロ波プラズマ処理装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、大口径半導体基板、大型液晶ディスプレイ用ガラス基板等に、プラズマを用いたエッチング、アッシング、CVD(化学蒸着)等の処理を施すための利用に好適なマイクロ波プラズマ処理装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
LSI(大規模集積回路)、LCD(液晶ディスプレイ)などを製造するプロセスにおいて、反応ガスに外部からエネルギーを与えた際に発生するプラズマが、広く用いられている。特に、プラズマを用いたドライエッチング技術は、これらのプロセスにおいて、不可欠の基本技術となっている。
【0003】
一般に、プラズマを発生させるための励起手段としては、2.45 GHzのマイクロ波を用いる場合と、13.56 MHzのRF(高周波:Radio Frequency)を用いる場合とが知られている。マイクロ波を用いる場合には、RFを用いる場合に比べて、高密度のプラズマが得られるとともに、プラズマを発生させるのに電極を必要としないため、電極からのコンタミネーションを防ぐことができるなどの利点がある。
【0004】
しかしながら、マイクロ波を用いた従来のプラズマ処理装置では、プラズマ領域面積が広く、かつプラズマ密度が均一になるようにプラズマを発生させることが困難であった。したがって、大口径の半導体基板(半導体ウェハ)、または、大型のLCD用ガラス基板の処理等において、マイクロ波を用いたドライエッチング処理を採用するのは困難であった。
【0005】
この点に関し、大面積に均一にマイクロ波プラズマを発生させることが可能なプラズマ処理装置として、表面波電界励起プラズマを利用する方式が提案されており、例えば、特開昭62-5600号公報、特開昭62-99481号公報において開示されている。このプラズマ処理装置は、処理容器の上部壁をマイクロ波の透過が可能な耐熱性板で封止し、その上方にはマイクロ波導波管に接続された誘電体線路を配置している。そして誘電体線路の表面から漏れ出た表面波電界により、プラズマが発生する。
【0006】
図7は前者のプラズマ処理装置の側断面図であり、図8は図7に示したプラズマ処理装置の平面図である。この従来装置150では、金属製導体により構成された処理容器81の上部に、封止板84が設けられ、これらによって処理室82は気密状態に封止されている。更に処理容器81には、処理容器81及び封止板84の上部を覆うカバー部材90が連結されており、カバー部材90とマイクロ波発振器70との間には、導波管71が連結されている。そして、カバー部材90内の天井部分には、封止板84との間にエアギャップ93を確保しつつ、誘電体線路91が取り付けられている。この誘電体線路91は、導波管71の幅から処理容器81を覆う程度の幅まで広がるテーパ部91aを有する平面視略5角形に形成されている。
【0007】
処理容器81内には封止板84とは対向する位置に、試料基板Wを載置するための試料台83が配設されており、これにはマッチング回路86を介してRFバイアス回路87が接続されている。また処理容器81の下部壁には図示しない排気装置に接続される排気口88が形成され、処理容器81の一側壁には所要の反応ガスを供給するためのガス供給管85が接続されている。
【0008】
このように構成されたマイクロ波プラズマ処理装置150を用いて、試料台83の上に載置された試料基板Wに、所定の処理を施す場合には、まず、排気口88から排気を行って処理室82内を所要の真空度に設定した後、ガス供給管85から反応ガスを供給する。次いで、マイクロ波発振器70においてマイクロ波を発生させ、導波管71を介して、マイクロ波を拡げるためのテーパ部91aを含む誘電体線路91へと導入する。
【0009】
すると、誘電体線路91の下方に電界が形成され、形成された電界が、エアギャップ93および封止板84を透過して、処理室82へ供給される。これによって、処理室82にプラズマが生成され、試料基板Wの表面に対して、例えばエッチング等の処理がなされる。この際、必要に応じて試料台83には、RFバイアス回路87によって、RFバイアスが印加される。RFバイアスによって処理室82内に形成されるバイアス電位によって、プラズマ中のイオンが加速され、試料基板Wへと導かれ、それによって、試料基板Wの表面に、例えば、異方性エッチングを施すことが可能となる。
【0010】
従来装置150では、大口径の試料基板Wを処理すべく、処理室82の幅を大きく設定しても、封止板84の直下に、均一に電界が形成され、その結果、均一なプラズマを得ることができる。したがって、大口径の試料基板Wに、所定の処理を施すことが可能である。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、従来装置150では、誘電体線路91にマイクロ波を均一に拡大するために、封止板84および処理容器81の縁部から水平方向へ突出させたテーパ部91aが設けられている。そのため、装置150を設置する場合には、処理容器81の縁部から突出したテーパ部91aを格納するために、水平方向に余分のスペースを確保することが必要とされていた。
【0012】
近年における試料基板Wの大口径化にともなって、処理室82の幅がより大きいマイクロ波プラズマ処理装置が要求されるようになっている。しかも、半導体素子等の製造現場では、装置の設置場所を新たに確保する必要がないこと、すなわち、できるだけ狭いスペースに装置を設置し得ることが求められている。
【0013】
しかしながら、従来装置150では、テーパ部91aの寸法は、誘電体線路91の面積に応じて、言い換えると、処理室82の幅に応じて定まる。このため、大口径の試料基板Wの処理を行うためには、大きなテーパ部91aを収納し得るよう、より大きなスペースを確保することが必要とされていた。このように、従来装置150では、大口径の試料基板Wを処理するという要求と、装置の設置スペースをできるだけ狭くしたいという要求とを、同時に満足することができないという問題点があった。
【0014】
また、従来装置150では、その構造上、試料台83に対向する面、すなわち、封止板84の下面は接地できないので、処理容器81の側壁などが、接地されることによって、RFバイアスに対する実効的な対向電極として機能していた。その結果、処理容器81の側壁などが、イオン衝突によって、損傷を受けるという問題点があった。さらに、実効的な対向電極が、試料基板Wに対向しない方向、例えば、斜め上方に位置するために、試料基板Wに入射するイオンの指向性が悪く、エッチングの異方性等のプロセス上の性能が低いという問題点があった。
【0015】
この発明は、従来の装置における上記した問題点を解消するためになされたもので、大口径の試料の処理を可能にすると同時に、省スペース化、および、入射イオンの指向性の向上とを、実現するマイクロ波プラズマ処理装置を提供することを目的とし、特に、処理の均一性を高めることのできるマイクロ波プラズマ処理装置を得ることを目的とする。
【0016】
【課題を解決するための手段】
この発明の装置は、処理対象である試料を載置する試料台を格納した処理室へマイクロ波を導入し、当該マイクロ波によりプラズマを生成し、当該プラズマを用いて前記試料に処理を行うためのマイクロ波プラズマ処理装置であって、前記試料台に対向した第1導電体と、当該第1導電体の外周に配設された環状平板のマイクロ波導入板と、当該マイクロ波導入板の外周に沿って配置された第2導電体と、前記マイクロ波導入板の上に配設され、マイクロ波を該マイクロ波導入板に導く空洞を内部に規定する導電性の管状部材と、を備え、前記管状部材の前記マイクロ波導入板に対向する部分に前記空洞と連続する開口部が開設されており、前記第1導電体の外周と前記第2導電体の内周との間の、前記処理室へと露出する前記マイクロ波導入板の表面に沿った方向での光学的幅が、前記マイクロ波の真空中での波長の1/2倍以上に設定されている。
【0017】
【発明の実施の形態】
<1.装置の基本構成>
図1は、実施の形態のマイクロ波プラズマ処理装置の側断面図であり、図2は図1に示した装置の平面図である。また、図1は、図2のA−A切断線に沿った断面図に相当する。この装置101では、有底円筒状の処理容器1の上端部に、内周面に溝が設けられたリング部材10が取り付けられている。処理容器1は、例えばアルミニウム等の金属で構成されており、リング部材10も金属で構成されている。
【0018】
さらに、環状のマイクロ波導入板4が、その外周縁部がリング部材10の溝に嵌合されることにより、リング部材10に支持されている。この環状マイクロ波導入板4の材料としては、耐熱性及びマイクロ波透過性、並びに小さな誘電損失が要求され、そのために、例えば、石英ガラス又はアルミナ等の誘電体が採用される。
【0019】
リング部材10の上面には、該リング部材10の外直径と略同じ外直径を有し、前述したマイクロ波導入板4の内直径と略同じ内直径を有する略円筒状のブロック部材25が、リング部材10にねじ止めされている。このブロック部材25は、アルミニウム等の金属で形成されている。ブロック部材25の底部には、同じくアルミニウム等の金属で構成された環状の板部材16が嵌合している。板部材16には、複数のスリット15が、周方向に所定の距離を隔てて開設されている。
【0020】
ブロック部材25と板部材16とによって、断面が矩形の環状の空洞47が形成されている。ブロック部材25の外周壁には、環状の空洞47に連通する断面矩形の溝が開設されている。この溝は、リング部材10の上面で覆われることにより、矩形孔48を形成している。環状の空洞47および矩形孔48には、誘電体14が内嵌されている。誘電体14の材料として、例えば、テフロン(登録商標)などのフッ素樹脂、ポリエチレン樹脂、又は、ポリスチレン樹脂が採用され、好ましくは、フッ素樹脂が用いられる。
【0021】
ブロック部材25と板部材16とで構成され、環状の空洞47を内部に規定する管状部材と、空洞47に充填されている誘電体14の部分とによって、環状導波管型アンテナ部12aが形成されている。また、矩形孔48を内部に規定するブロック部材25の部分とリング部材10の部分、並びに、矩形孔48に充填されている誘電体14の部分によって、導入部12bが形成されている。環状導波管型アンテナ部12aおよび導入部12bは、双方でアンテナ13を構成する。
【0022】
管状部材の外周壁部に開設された導入口49を通じて、管状部材に規定される環状の空洞47と、導入部12bに規定される矩形孔48とが連通している。導入部12bには、導波管21の一端が接続され、導波管21の他端には、マイクロ波発振器20が接続されている。したがって、マイクロ波発振器20が生成するマイクロ波(例えば、300 MHz〜30 GHzの周波数を有する電磁波)は、導波管21の内部、および、導入部12bの矩形孔48を通じて、環状導波管型アンテナ部12aの空洞47へと導入される。
【0023】
環状導波管型アンテナ部12aの空洞47の周方向の長さを適切に、例えば、伝搬するマイクロ波の波長の略整数倍に設定することにより、空洞47内に定在波を生起することができる。具体的には、環状導波管型アンテナ部12aを互いに逆方向へ進行する2つの進行波が、導入部12bに対向する位置で衝突して定在波が生成される。この壁面定在波によって、環状導波管型アンテナ部12aの内面、すなわち、空洞47の壁面に、所定の間隔で極大値を示す壁面電流が流れる。
【0024】
誘電体14として、例えば、比誘電率ε=2.1のテフロンが採用されているときには、環状導波管型アンテナ部12a内を伝播するマイクロ波のモードを、基本伝播モードである矩形TE10にするには、マイクロ波の周波数が2.45 GHzである場合、環状導波管型アンテナ部12aの内側、すなわち、空洞47の径方向に沿った断面の寸法を、高さ27 mm、幅66.2 mmに設定するとよい。矩形TE10のマイクロ波は、環状導波管型アンテナ部12aの内部を、ほとんど損失なく、しかも、均一に伝搬する。
【0025】
さらに、外径が380 mm、内径が180〜200 mm、厚さが20 mmのマイクロ波導入板4が用いられる場合には、環状導波管型アンテナ部12aの中心から、環状導波管型アンテナ部12aの幅方向の中央までの距離は、141 mmに設定することができる。この場合、環状導波管型アンテナ部12aの幅方向の中央を結ぶ円の周方向の長さ(略886 mm)は、該環状導波管型アンテナ部12a内を伝播するマイクロ波の波長(略110 mm)の略整数倍となる。
【0026】
そのため、マイクロ波は環状導波管型アンテナ部12a内で共振し、前述した定在波は、その腹の位置で高電圧・低電流、節の位置で低電圧・高電流となり、アンテナ13のQ値が向上する。この定在波は、スリット15から封止板4を介して、処理室2へ電界を生成する。したがって、スリット15は、定在波の腹の位置に配置されるのが望ましい。
【0027】
ブロック部材25にはアルミニウムを円柱状に成形してなる加熱ブロック26が、その下面がマイクロ波導入板4の下面より少し高い位置になるように、シート状の絶縁体31を介して、着脱自在に内嵌されている。絶縁体31の材料には、例えば、石英、セラミックが用いられる。加熱ブロック26には、加熱源であるヒータ28が埋設されている。
【0028】
また、加熱ブロック26の下面中央には円筒状の凹部が設けられている。この凹部は、導体又は半導体などの導電性の材料、すなわち導電体(本明細書では、半導体も含めて「導電体」と称する)を円板状に成形して成る上部電極18で、閉塞されることにより、ガス拡散室30を形成している。上部電極18と加熱ブロック26とによって、導電体45が構成されている。
【0029】
ガス拡散室30は、加熱ブロック26を貫通するガス供給管5と連通しており、上部電極18には複数の貫通孔(図示を略する)が開設されているので、ガス供給管5から反応ガスを供給することによって、処理室2へと反応ガスを、均一に導入することができる。上部電極18は、例えば、シリコン系材料で構成される。
【0030】
なお、処理容器1、リング部材10、環状マイクロ波導入板4、ブロック部材25及び加熱ブロック26が互いに接合する部分には、それらを気密状態に封止するために、耐熱性のO(オー)リング17が介挿されている。
【0031】
処理容器1の底部中央には、試料基板Wを載置する試料台3が昇降自在に設けられている。そして、試料台3には、マッチング回路6を介して、RFバイアス回路7が接続されている。また、処理容器1の側壁には排気口81が開設されており、図示されない排気機構によって、処理室2の内気が排出可能となっている。
【0032】
図1では、上部電極18は、配線を通じて電気的に接地された例を示しているが、RFバイアス回路7とは別のRFバイアス回路、および、マッチング回路6とは別のマッチング回路が、試料台3と同様に接続されても良い。あるいは、試料台3を接地し、上部電極18にのみ、マッチング回路およびRFバイアス回路を接続しても良い。なお、上部電極18が接地される場合には、絶縁体31は設けられなくても良い。
【0033】
装置101は、以上のように構成されるので、処理室2に電界が形成され、この電界によって、処理室2にプラズマが生成される。このプラズマによって、試料台3に載置された試料基板Wに、プラズマ処理が施される。処理室2内の電界は、試料台3に対向する導電体45の周囲を囲むように、環状に設けられた環状導波管型アンテナ部12aに、マイクロ波の定在波が形成され、この定在波からマイクロ波が処理室2へと伝搬することによって生成される。
【0034】
したがって、生成されるプラズマの均一性が比較的良好であり、大口径の試料基板Wに対して、プラズマ処理を施すことが可能となる。しかも、従来装置150とは異なり、テーパ部91aを必要とせず、導入部12bを通じて環状導波管型アンテナ部12aへと、マイクロ波を直接に入射することができるので、処理容器1の周囲に、余分な設置スペースを必要としない。
【0035】
さらに、試料台3と、これに対向する上部電極18との間に、RFバイアスが印加されるので、試料基板Wへ入射するイオンの指向性が高い。したがって、異方性のよいプラズマエッチングも可能となり、高いアスペクト比を持った微細加工を試料基板Wに施すことが可能となる。しかも、処理容器1の側壁等を、実効的な対向電極とする必要がないので、イオン衝突による側壁等の損耗が抑制され、処理容器1等の寿命が高められる。
【0036】
<2.マイクロ波導入窓の幅の最適化>
導電体45の外周とリング部材10の内周との間に挟まれて処理室2へと露出する領域は、マイクロ波が環状導波管型アンテナ部12aから処理室2へと導入される際にマイクロ波が通過するマイクロ波導入窓として機能する。このマイクロ波導入窓の径方向の幅D(すなわち、導電体45の外周とリング部材10の内周との間のマイクロ波導入板4の表面に沿った方向での距離)には、ある最適な範囲が存在する。そして、装置101では、この最適な範囲を満たすように、幅Dが設定されている。
【0037】
図3は、図1のB−B切断線に沿った装置101の断面図である。また、図4は、図2のC−C切断線に沿った装置101の部分拡大断面図である。処理室2の上部には、周囲から中心へと順に、環状のリング部材10、幅D1の環状のマイクロ波導入板4、幅D2の環状の絶縁体31、および、直径Lの円形の上部電極18(導電体45)が露出している。環状のマイクロ波導入窓の幅Dは、幅D1と幅D2の和で与えられる。
【0038】
幅Dにおける最適な範囲とは、後述するデータが示すように、実験を通じて見出されたものであり、つぎのように表現される。すなわち、幅D(言い換えると、位置Pと位置Pbの間の距離)に対応する光学的幅が、マイクロ波の真空中での波長λの1/2倍以上に設定されるのが望ましい。光学的幅とは、実幅に媒質の比誘電率の二乗根を乗じて得られる幅、すなわち、真空媒質に換算された幅を意味する。
【0039】
この最適条件は、絶縁体31が存在しない場合には、実幅Dが、マイクロ波導入板4を伝わるマイクロ波の波長の1/2倍以上であることと等価である。すなわち、絶縁体31が存在しない場合の最適条件は、つぎの数式1:
D≧1/2・λ1 ・・・(数式1)
で表現される。ここで、λ1は、マイクロ波導入板4の中でのマイクロ波の波長である。
【0040】
絶縁体31が存在する場合には、最適条件は、つぎの数式2:
D1・(ε1)1/2+D2・(ε2)1/2≧1/2・λ ・・・(数式2)
で表現される。ここで、ε1は、マイクロ波導入板4の比誘電率であり、ε2は、絶縁体31の比誘電率である。
【0041】
また、マイクロ波の真空中での波長λは、つぎの数式3:
λ=2πc/ω ・・・(数式3)
で与えられる。ここで、cは、真空中の光速であり、ωは、マイクロ波発振器20で生成されるマイクロ波の角周波数である。
【0042】
図4が示すように、マイクロ波導入板4には、環状導波管型アンテナ部12aからスリット15を通じて、マイクロ波が伝搬する。このマイクロ波は、環状導波管型アンテナ部12aを伝搬する進行波がもれ出たものであり、その真空中での波長は、数式3で与えられる。
【0043】
マイクロ波導入板4へ漏れ出たマイクロ波の中で、進行波Q1として、導電体45へと向かう成分が存在する。この進行波Q1は、導電体45の外周表面で反射され、その結果、マイクロ波導入板4(および絶縁体31)の中には、さらに、反射波Q2が伝搬する。そして、これら両者が合成されることによって、導電体45の外周表面付近には、定在波Q3が形成される。この定在波Q3の真空中での波長も、数式3で与えられる。
【0044】
したがって、上記した最適条件は、導電体45の外周表面付近に形成される定在波Q3の節(一般には複数)の中で、導電体45の外周表面上の節を除いて、導電体45に最も近い節の位置Paに関して、導電体45から見て、リング部材10の内周の位置Pを、節の位置Pa以遠に設定することと等価である。言い換えると、上記の最適条件は、節の位置Paと導電体45の外周の位置Pbとの間の実幅Daに関して、実幅Dを実幅Da以上に設定することと同等である。すなわち、最適条件は、つぎの数式4:
D≧Da ・・・(数式4)
で表現することも可能である。実幅Daに対応する光学的幅は、マイクロ波の真空中での波長λの1/2倍に相当する。また、絶縁体31がなければ、実幅Daは、マイクロ波導入板4の中でのマイクロ波の半波長、すなわち、1/2・λ1に一致する。
【0045】
<3.実証データ>
つぎに、上記の最適条件を裏付ける実験結果について、説明する。実験では、装置101の構成および動作に関する条件は、つぎのように設定された。まず、マイクロ波発振器20が出力するマイクロ波の周波数は、2.45 GHzに設定された。また、上部電極18は、電気的に接地された。このため、絶縁体31は設けられず、マイクロ波導入板4の内周は、導電体45の外周に当接している。したがって、幅Dは幅D1と一致し、幅Dに関する最適条件は、数式1で表現される。また、マイクロ波導入板4には、石英板(比誘電率ε1=4.0)が用いられ、上部電極18にはシリコン系材料が用いられた。
【0046】
数式3で与えられる波長λは、λ= 122.4 mmである。したがって、石英の比誘電率ε1 = 4.0を用いて、つぎの数式5:
Da・(ε1)1/2=1/2・λ ・・・(数式5)
にもとづいて、幅Daを算出すると、Da=1/2・λ1=61 mmが得られる。
【0047】
実験が開始されると、まず、処理室2がプロセスガス(C4F8,CO,O2,Arの混合ガス)で所定の圧力へ設定された後、マイクロ波発振器20が起動され、それにより、マイクロ波が、アンテナ13へと投入された。生成されたマイクロ波は、環状導波管型アンテナ部12aから、スリット15およびマイクロ波導入板4を通じて、処理室2へ導入される。その結果、プロセスガスによるプラズマが生成される。
【0048】
それと略同時に、RFバイアス回路7が起動されることにより、高周波が試料台3へ印加された。試料台3の上に載置される被処理基板Wには、8インチ口径の半導体基板が用いられた。また、試料基板Wの表面には酸化膜が成膜されており、酸化膜に対するプラズマエッチング処理が行われた。処理容器1およびリング部材10は、所定の温度に加熱された。
【0049】
以上の条件の下で、上部電極18(導電体45)の直径Lを様々に変えて、試料基板Wの表面内での、エッチングレートの分布が測定された。直径Lの1/2倍と幅Dとの和に相当するリング部材10の内周半径は、一定であるため、直径Lが変わるのにともなって、幅Dも変わる。
【0050】
図5は、代表的な3通りの幅D(直径L)に対する実験の結果を示す分布図である。符号(a) は、上部電極18が存在せず、直径Lがゼロであり、幅Dがリング部材10の内周半径に相当する140 mmに設定されたときの実験結果を表している。また、符号(b) は、直径L=156 mmであり、幅Dが、マイクロ波導入板4の中でのマイクロ波の半波長:1/2・λ1 = 61 mmよりも、わずかに大きい62 mmに設定されたときの実験結果を表している。さらに、符号(c)は、直径L=164 mmであり、幅Dが、1/2・λ1 = 61 mmよりも、わずかに小さい58 mmに設定されたときの実験結果を表している。なお、図5において、「マイクロ波入射方向」とは、導波管21を通じてマイクロ波がアンテナ13へと入射される方向を意味する。
【0051】
エッチングレートは、試料基板Wの表面内の25点にわたって計測された。符号(a)〜(c)の実験結果のそれぞれにおいて、太線は、25点の計測値の平均値に相当するエッチングレートを示す等高線であり、細線で表される各等高線は、エッチング深さが、平均値から20 nm変化するごとに描かれている。また、記号「+」は、平均値よりも高いエッチングレートを表し、記号「−」は、平均値よりも低いエッチングレートを表している。記号「+」および「−」が付された位置は、計測点に相当する。
【0052】
符号(a)〜(c)の3通りの実験結果の間で、それぞれの平均値は、互いに約同一の値となった。また、符号(c)の実験結果が示すように、幅Dが1/2・λ1 = 61 mmよりも小さい場合には、エッチングレートは、マイクロ波の入射側に近いほど高く、逆に遠ざかるほど低くなる。すなわち、エッチングレートは、マイクロ波の入射側に偏った分布を示す。
【0053】
これに対して、幅Dが1/2・λ1 = 61 mmよりも大きい場合に相当する符号(a)および(b)の実験結果では、エッチングレートの分布とマイクロ波の入射方向との間の相関関係は弱く、しかも、等高線の間隔が、符号(c)の結果に比べて広くなっている。すなわち、符号(a)および(b)の結果では、符号(c)の結果に比べて、エッチングレートの均一性が良好である。
【0054】
エッチングレートの均一性を定量的に評価するために、「エッチングレート不均一性」を、つぎの数式6:
不均一性(%)={(M−m)/(M+m)}×100 ・・(数式6)
で定義する。ここで、Mは、25点にわたる計測値の中での最大値であり、mは最小値である。
【0055】
数式6の定義にもとづいて、エッチングレート不均一性は、符号(a)の実験結果では±4.0 %、符号(b)では±3.6 %、そして、符号(c) では±31 %と算出された。すなわち、定量的な評価は、幅Dが1/2・λ1 = 61 mmよりも大きいときには、小さいときに比べて、エッチングレートの均一性が、飛躍的に向上することを、明瞭に示している。
【0056】
図6は、幅Dをより細かい間隔で変化させて行われた実験結果にもとづいて、エッチングレート不均一性を算出した結果を示すグラフである。図6が示すように、エッチングレート不均一性は、幅Dが1/2・λ1 = 61 mmよりも短い領域では、比較的高く、幅Dが1/2・λ1 = 61 mmよりも長い領域では、低くなる。しかも、幅Dが61 mmを超えて増加するのにともなって、エッチングレート不均一性は、劇的に減少する。
【0057】
このことは、幅Dが1/2・λ1 = 61 mmを境として変化するのにともない、処理室2に生成されるプラズマの密度の均一性が、劇的に変化することを示している。すなわち、幅Dが1/2・λ1 = 61 mm以上に設定されるときには、それ未満に設定されるときに比べて、プラズマ密度の均一性が、飛躍的に向上する。
【0058】
このことは、さらに、幅Dが、数式1,2,4で示される最適条件を満たすときには、マイクロ波の処理室2への導入の効率が飛躍的に増大することをも意味している。この現象は、数式1,2,4が満たされるときには、図4に示した定在波Q3の強度が、飛躍的に増大するという機構によって説明することができる。
【0059】
以上のように、処理室2に生成されるプラズマの密度における均一性の上で、幅Dには選択性があって、しかも、幅Daが臨界値として意味を持つことが、実験によって実証された。なお、図5の分布図および図6のグラフから解るように、幅Dが幅Da未満に設定された装置においても、プラズマ密度の不均一性は、試料基板Wを処理する上で、実用性を損なうほどではない。しかしながら、試料基板Wへの処理の均一性をさらに向上させる上で、数式1,2,4に表現される最適条件を満たすように、装置101を設定することが、より望ましい。
【0060】
<4.変形例>
(1) 環状導波管型アンテナ部12aを構成する管状部材の底部に開設された開口部は、マイクロ波の処理室2への伝搬効率を高める上で、図2が示したように、周方向に所定の間隔で開設されたスリット15として形成されるのが望ましい。しかしながら、開口部の形状は、一般に、この例に限られず、多様な形状を採ることが可能である。例えば、開口部を、周方向に沿って一定幅で連続したスリットとして形成することも可能である。
【0061】
(2) 環状の管状部材を備える環状導波管型アンテナ部12aの代わりに、上部電極18の周囲に、平面視「C」字型、あるいは、渦巻き型に配設され、その内部に形成された空洞の一端(これが「導入口」に相当する)が、導波管21へ連通し、他端が閉塞するように構成された管状部材を備えるアンテナが採用されても良い。
【0062】
(3) 図1に示す装置101では、マイクロ波導入板4の外周近傍の底面を、リング部材10が覆っており、そのために、リング部材10の処理室2に露出する内周が、幅Dのマイクロ波導入窓の外周側の端部に相当した。これに対して、この発明のマイクロ波プラズマ処理装置として、リング部材10がマイクロ波導入板4の外周近傍の底面を覆わない形態、例えば、マイクロ波導入板4が処理容器1の上端部の上に直接に設置される形態を、採用することも可能である。
【0063】
この例では、処理容器1の上端部の内周が、幅Dのマイクロ波導入窓の外周側の端部に相当する。すなわち、この発明における「第2導電体」には、リング部材10に限られることなく、装置の形態に応じて、装置の様々な部材(例えば、処理容器1)が該当し得る。
【0064】
【発明の効果】
この発明の装置では、試料台に対向して配置された第1導電体の周囲に環状に配設されたマイクロ波導入板の上に設けられた管状部材に、マイクロ波が導入され、さらに、開口部およびマイクロ波導入板を通じて処理室へとマイクロ波が導入されることによって、処理室にプラズマが形成され、形成されたプラズマによって、試料に処理が行われる。このため、大口径の試料に対して、処理を行うことが可能である。
【0065】
しかも、従来装置とは異なり、テーパ部を必要とせず、管状部材へとマイクロ波を直接に入射することができるので、処理容器の周囲に、余分な設置スペースを必要としない。さらに、試料台に対向する第1導電体が設置されるので、試料台と第1導電体との間に、RFバイアスを印加することによって、試料へ入射するイオンの指向性を高めることが可能となる。また、処理室の壁面等を、実効的な対向電極とする必要がないので、イオン衝突による壁面等の損耗が抑制され、装置の寿命が向上する。
【0066】
さらに、第1導電体の外周と第2導電体の内周との間に挟まれて処理室へと露出する領域、すなわち、マイクロ波導入窓の、マイクロ波導入板の表面に沿った方向での光学的幅が、マイクロ波の真空中での波長の1/2倍以上に設定されているので、マイクロ波の処理室への導入効率が高く、処理室におけるプラズマ密度の均一性が向上する。したがって、試料へ施されるプラズマ処理の均一性が高められる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施の形態の装置の側断面図である。
【図2】 実施の形態の装置の平面図である。
【図3】 図1のB−B切断線に沿った断面図である。
【図4】 図2のC−C切断線に沿った部分拡大断面図である。
【図5】 試料基板のエッチングレートの分布図である。
【図6】 エッチングレート不均一性のマイクロ波導入窓の幅への依存性を示すグラフである。
【図7】 従来の装置の側断面図である。
【図8】 従来の装置の平面図である。
【符号の説明】
2 処理室
3 試料台
4 マイクロ波導入板
10 リング部材(第2導電体)
15 スリット(開口部)
16 板部材(管状部材)
18 上部電極(第1導電体)
25 ブロック部材(管状部材)
26 加熱ブロック(第1導電体)
45 導電体
47 空洞
W 試料基板(試料)
Claims (1)
- 処理対象である試料を載置する試料台を格納した処理室へマイクロ波を導入し、当該マイクロ波によりプラズマを生成し、当該プラズマを用いて前記試料に処理を行うためのマイクロ波プラズマ処理装置であって、
前記試料台に対向した第1導電体と、
当該第1導電体の外周に配設された環状平板のマイクロ波導入板と、
当該マイクロ波導入板の外周に沿って配置された第2導電体と、
前記マイクロ波導入板の上に配設され、マイクロ波を該マイクロ波導入板に導く空洞を内部に規定する導電性の管状部材と、を備え、
前記管状部材の前記マイクロ波導入板に対向する部分に前記空洞と連続する開口部が開設されており、
前記第1導電体の外周と前記第2導電体の内周との間の、前記処理室へと露出する前記マイクロ波導入板の表面に沿った方向での光学的幅が、前記マイクロ波の真空中での波長の1/2倍以上に設定されているマイクロ波プラズマ処理装置。
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