JP4162976B2 - 1次元フォトニック結晶を用いた光学素子 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、光通信システムや光ディスク用ピックアップ装置などにおいて、波長の異なる光を分離する分光素子に関し、とくに1次元フォトニック結晶するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、インターネットの普及により光ファイバ通信システムの大容量化、高速化が強く求められており、その手段として波長多重(WDM)通信の開発が急速に進められている。WDM通信では、異なる波長の光を一つの光導波路に合波して出力したり、一つの光導波路内の光を波長ごとに異なる光導波路に分けて出力する光合波器・光分波器が必要となる.
【0003】
光分波器に用いる分波素子には、従来からプリズム、波長フィルタ、回折格子等があるが、本発明者らは、1次元フォトニック結晶を利用した分波素子を提案してきた(例えば、特許文献1参照)。最も簡単な1次元フォトニック結晶としては、たとえば平行平面基板に屈折率の異なる2種類の薄膜(SiO2とTa25など)を交互に積層した周期的多層膜がある。
【0004】
図1は、1次元フォトニック結晶の基本構造である周期的多層膜層を模式的に示した斜視図である。多層膜1は、例えば厚さtAの物質A(屈折率nA)と厚さtBの物質B(屈折率nB)を交互に積み重ねた周期a=(tA+tB)の構造とする。このような周期的多層膜1は周期方向(Y方向)にフォトニックバンドギャップを有する。バンド計算の方法は、たとえば、非特許文献1あるいは非特許文献2などに詳しく述べられている。
【0005】
図2は、
屈折率1.45の層(厚さ0.7a)
屈折率2.10の層(厚さ0.3a)
の層を交互に重ねた周期aの多層膜についてのフォトニックバンドを、TE偏光について低次のものから3番目まで示したものである。ここで、TE偏光は電場の向きがX軸方向である偏光を表わす。なお、図2の曲線に対して示した数字は、
規格化周波数 ωa/2πc
である。ここで、ωは入射する光の角振動数、aは構造の周期、cは真空中での光速である。規格化周波数は、真空中の入射光波長λ0を用いて、a/λ0とも表わすことができるので、以下ではa/λ0と記述する。
【0006】
図2は、逆空間における1周期を表わすブリルアンゾーンであり、縦はY軸方向で上下の境界線は中心から±π/aの範囲を表わす。横はZ軸方向(X軸方向でも同じ)であり、周期性がない方向なので境界線は存在せず、図の両端は計算の範囲を示す便宜的なものである。ブリルアンゾーン内での位置は多層構造内での波数ベクトルを、曲線は入射光の波長a/λ0値に対応するバンドをそれぞれ意味する。
【0007】
この多層膜層の端面に略垂直に光を入射し、Z方向に伝搬させることにより、第1次(最低次)及び高次のフォトニックバンドによる伝搬光を発生させる。このうち、高次バンドによる伝搬光は入射光の波長変化に対して実効屈折率が大きく変化する(いわゆる、スーパープリズム効果)ため、多層膜層の表面から波長による角度差の極めて大きい屈折光が放出される。
【0008】
このようなフォトニック結晶によるスーパープリズム効果を利用した分光素子としては、3次元結晶を用いたもの(非特許文献3参照)や2次元結晶を用いた計算結果(非特許文献4参照)、1次元結晶によるもの(非特許文献5参照)等が発表されている。
【0009】
図3に周期的多層膜を用いた分光素子の一例を示す。基板2上に周期的多層膜層1を形成し、その一端面を多層膜層の層面に対して一定角度傾斜させる。多層膜層1の層面に対して傾斜した端面1xから真空中の波長がλAとλBの光を多重化した光束3を入射させ、表面(図では多層膜と基板の界面1b)から出射させると、スーパープリズム効果を得ることができる(光束の方向は逆でも良い)。すなわち、出射光15は波長λAとλBによってその方向が大きく変化する。このことは従来の分波素子を用いる場合より分波装置を大幅に小型化できることを意味する。
【0010】
【特許文献1】
特願2000−266533号公報
【非特許文献1】
アムノン・ヤリフ(Amnon Yariv),他1名著,「結晶中の光波(Optical Waves in Crystals)」,(米国),ジョン・ワイリー・アンド・サンズ(John Wiley & Sons),1984年,第6章
【非特許文献2】
M.プリハル(M.Plihal),他1名,「フィジカル・レビューB(Physical Review B)」,(米国),1991年,第44巻,第16号,p.8565−8571
【非特許文献3】
ヒデオ・コサカ(Hideo Kosaka),他6名,「フィジカル・レビューB(Physical Review B)」,(米国),1998年,第58巻,第16号,p.R10096−R10099
【非特許文献4】
馬場俊彦,他1名,「第49回応用物理学関係連合講演会予稿集」,応用物理学会,2002年3月,28p-ZF-17,p.1036
【非特許文献5】
D.N.チグリン(D.N.Chigrin),「テクニカル・ダイジェスト:インターナショナル・ワークショップ・オン・フォトニクス・アンド・エレクトロマグネティック・クリスタル・ストラクチャーズ(Technical Digest:International Workshop on Photonics and Electromagnetic Crystal Structures」,(日本),東北大学電気通信研究所,2000年3月,F1-3
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来のフォトニック結晶による分光素子にはいくつかの問題点がある。
素子内を伝搬する電磁波の幅、もしくは光束をあまり細く設定すると回折による広がりが生じるため、波長分解能が低下してしまう、という問題点が発生する。したがって、実際に高い波長分解能を発揮するためには光束をある程度太くする必要があり、素子のサイズや光路長もそれに応じて大きくなってしまう。
【0012】
現在作製されている2次元あるいは3次元のフォトニック結晶は大きさが1mm以下の小さい物が多く、また内部での吸収・散乱も大きいので、たとえば光束の幅1mm、フォトニック結晶内の光路長が数mmといった素子を実現することは極めて困難である。
【0013】
最も単純な1次元フォトニック結晶である周期的多層膜を利用する場合は、例えば図3に示すように、一表面から入射させた光束をその表面に対して傾斜した表面から出射させるとスーパープリズム効果を得ることができる(光束の方向は逆でも良い)。この場合、光入射面と光出射面が互いに平行であると、スーパープリズム効果を発揮することができない。
【0014】
しかし、実用的な多層膜層の厚さから考えると、斜め断面での光束幅はたかだか100μm程度が限度であり、前述した理由により波長分解能を高くすることが困難である。
【0015】
本発明は上記の問題点を解決するためになされたもので、小型でかつ高い波長分解能をもつフォトニック結晶を用いた分光素子を提供することを目的とする。
【0016】
【課題を解決するための手段】
本発明では、以下の手段により上記の課題を解決する。
本発明においては、1次元フォトニック結晶とみなせる周期的多層構造により構成される光学素子を採用する。この光学素子は、多層構造の層面に対して傾斜し互いに平行でない第1および第2の端面を有し、入射光束を層面に対して一方の側から第1の端面に入射させ、かつ出射光束を第2の端面から層面に対して同側に出射させるように構成する。
【0017】
上記のように多層構造に対して傾斜した端面を入出射面とすることにより、入出射面を実効的に拡大することができる。したがって入射光及び出射光のビーム径を大きくすることができるので、ビームの広がりが小さく、波長分解能を高くすることが可能となる。
【0018】
このとき入射光束が、周期的多層構造により形成される特定のフォトニックバンドと結合して伝搬し、その伝搬光エネルギーの進行方向が、多層構造の層面と略平行であるように構成する。またこの入射光束は、周期的多層構造により形成される最低次のフォトニックバンドのみと結合して伝搬させる。
このように構成することで、出射光を入射光が入射したのと多層構造に対して同じ側から出射させることができる。
【0019】
さらに、周期的多層構造を屈折率の異なる複数の薄膜を周期的に積層した多層膜によって構成し、第1および第2の端面が、その多層膜の少なくとも片側表面に形成した溝構造の側面であることが望ましく、この溝構造による第1の端面と第2の端面の対が平行に複数形成されていればより好ましい。
【0020】
多層膜の成膜とその表面への溝加工は既存の技術により可能であり、この構造により出射光を入射光が入射したのと多層膜に対して同じ側から出射させることができる。また溝構造を平行に複数形成することにより、入出射面を実効的に拡大することができ、したがって波長分解能を高くすることが可能となる。
【0021】
さらに、上記の凹凸溝構造の溝の方向に垂直な断面が略三角形状であり、この三角形状の一斜辺に相当する溝側面を入射面とし、他の一斜辺に相当する溝側面を出射面とすることが望ましく、さらに入射面と出射面がそれぞれ多層膜構造の層面に対して等しい角度をなし、前記凹凸構造の断面が略二等辺三角形であることが望ましい。
凹凸溝の断面を三角形状とすることで、もっとも有効に表面を光入射面と光出射面に利用できる。また、とくに二等辺三角形状の場合は実際に形成しやすい構造である。
【0022】
また周期的多層構造は、平板状均質物質に複数の平行な溝を、溝幅、溝間隔が互いに等しくなるように形成し、この溝に上記の均質物質とは屈折率の異なる均質物質を充填して構成してもよい。
このような多層構造の層面に対して傾斜し互いに平行でない第1および第2の端面を設けることにより、多層膜による場合と同様な機能を有する光学素子を実現することができる。
【0023】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について具体的に説明する。
上記の通り、光の波長程度もしくはそれ以下の厚さの薄膜から構成される周期的多層膜は、1次元フォトニック結晶とみなすことができ、そのフォトニック結晶中を伝搬する電磁波の波面やエネルギーの進行方向は、フォトニックバンドの構造によって決定される。
【0024】
本発明においては、図4(a)に示すように、周期的多層膜層1に対して斜め角度ψ1の断面を入射面1aとして設け、この面に対して入射角θ0の平面波(a/λ0=0.70、TE偏光)を入射光3として入射させた場合について、フォトニック結晶内の伝搬光4について考える。
【0025】
入出射光の方向とフォトニック結晶内での伝搬方向の関係は図2に示すようなバンド図を用いて作図により示すことができる。その方法は特許文献1に示されている。図4(b)において、入射光3に対応するバンド上の点Pがフォトニック結晶内での伝搬を表わし、波動エネルギーの進行方向はP点におけるバンドの法線(a/λ値の大きくなる向き)により示される。図4の場合、エネルギーの進行方向はほぼ水平になることがわかる。ただし、図4(b)のバンド図においてはTE偏光に対する第1バンドのみを、周期的ゾーン形式で示している。
【0026】
図5は、図4の構造にさらに斜め角度ψ2の出射面1bを加えたものである。この場合も出射面1bから自由空間に出射される出射光5の方向を同様な作図によって求めることができる。ただし、出射面1bには多層膜層1の周期構造が露出しているので、回折により出射光5の方向が複数となる場合もある。図5の場合においては、1次回折光5−1と2次回折光5−2が発生することが示されている。
【0027】
図5における入射光3に、わずかに異なる2種の波長λA、λBが含まれている場合は、図6に示すようにフォトニック結晶中での伝搬を表わす点PAとPBが異なったものとなる。ここで、点PA、PB近傍のフォトニックバンドは太線で示すように同心円状からかなりずれているので、PAとPBを結ぶ線分は出射面1bにほぼ平行となる。したがって出射光5の角度差は非常に大きいものとなり、スーパープリズム効果が発揮される(図6では簡単のために1次回折光のみ示している)。
【0028】
上記の概念を実際の分光素子として応用するため、本発明においては図7のような構造体を作製した。従来の1次元フォトニック結晶を用いた分光素子では図3に示したように、多層膜層1の層面に対して傾斜した端面を設け、入射光3を入射させる。この場合、多層膜の厚さは実際的には数100μmが限度である。したがって入射光のビーム径の最大値も数100μmとなる。
【0029】
これに対し、図7の場合は、入射光3を入射させる傾斜した入射面1aは多層膜層1の表面に複数形成されることになる。したがって入射光3のビーム径は多層膜層1の膜厚によって制限されなくなり、基板2を大面積化し多層膜層1を形成する面積を大きくすれば、入射光3のビーム径を大きくできる。これにより出射光5を複数の傾斜面1bから出射させることができる。したがって出射光5の回折による広がりが小さくなり、波長分解能を高くすることが可能となる。三角形状の溝深さと周期は、分光したい波長域について、各出射面からの出射光の位相ができるだけ一致するように調整すれば、より高い効率を得ることができる。
【0030】
上記多層膜の材料としては、使用波長域における透明性が確保できるものであれば特に限定はないが、一般的に光学多層膜の材料として用いられ、耐久性や成膜コストの点で優れたシリカ、シリコン、酸化チタン、酸化タンタル、酸化ニオブ、フッ化マグネシウム、窒化ケイ素などが適する材料である。ただし、材料間の屈折率差が小さいと変調作用が弱くなり、期待される作用が発揮されないこともあるので、屈折率差として0.1以上確保することが望ましい。材料を適切に選定すれば、本発明の作用は通常使用される200nm〜20μm程度の波長範囲で発揮される。
【0031】
本発明の構造は代表的には半導体微細加工技術を利用することで作製できる。多層膜の形成は従来技術である真空蒸着、スパッタ、イオンアシスト蒸着、CVD法などを利用することができる。真空蒸着によるシリカと金属酸化物(酸化チタン、酸化タンタル等)の交互多層膜は、一般的に光学多層膜として用いられており、成膜装置、コストの面からも好適である。また酸化金属膜の代わりにシリコンや窒化シリコンを用いることで、後述するエッチング微細加工における加工性を向上させることができる。
【0032】
断面が三角形状の溝構造を形成する工程をつぎに示す。3種類の工程を図8〜図10に基づいて説明する。
【0033】
(工程1)
図8に工程1の概要を示す。まず基板2上に形成した多層膜層1の表面にフォトレジスト8をコートする(図8(a))。
【0034】
つぎにこのフォトレジスト8に図8(b)に示すような断面が三角形状の溝を形成する。具体的な方法としてはレーザ光12により直接描画する方法を用いる。一定強度のレーザ光12をフォトレジスト8に照射しながら直線状に走査する。つぎにレーザ光強度を一定量増加(もしくは減少)させて、さきに露光した直線に近接した直線上を走査する。このようにレーザ光強度を徐々に変化させながら直線状の露光を繰り返す。
【0035】
フォトレジストがネガ型の場合、露光したフォトレジストを現像すると、もっとも露光量の少ない部分が三角形の頂点部分としてもっとも厚くフォトレジストが残り、もっとも露光量の多い部分はフォトレジストがもっとも除去され溝の最低部となる。ポジ型のフォトレジストの場合は露光量と加工される形状の関係は逆となる。いずれにしても以上により傾斜面が階段状であり、近似的には断面が三角形状の溝14が形成できる。当然レーザ光強度の変化幅を小さくし、階段の段数を多くすることで傾斜面の表面が滑らかな三角形状へと近づく。
【0036】
三角形状溝の形成には段階的に透過率が傾斜したマスク(グレースケールマスク)を用いてもよい。フォトレジストをこのようなマスクを介して露光することにより、一度の通常の露光により三角形状溝を作製できる。
【0037】
次に三角形状に加工したフォトレジスト18をマスクとして気相エッチングを行う。エッチングは選択比(=多層膜のエッチング速度/フォトレジストのエッチング速度)に従って進行するので、多層膜層1はフォトレジスト18が薄い部分ほど深くエッチングされる。これにより、フォトレジストの三角形状が多層膜層1の表面へと転写されることになる(図8(c))。
【0038】
この手法はフォトレジストの露光とエッチングという2段階の加工により構造を作製でき、比較的簡便であるという利点をもつ。しかし一方でフォトレジストの厚さと選択比により三角形状の溝深さが限定されてしまうという問題が発生する。一般にシリカ単層とフォトレジストの選択比は1程度であり、これではフォトレジストの厚さ以上の溝を形成することができない。
【0039】
(工程2)
図9に示す工程2によれば、工程1の問題点を改善することができる。まず工程1と同様に、基板2上に形成した多層膜層1の表面にフォトレジスト8をコートする(図9(a))。このフォトレジスト8の感光波長を有する放射光22により所望のラインパターンをもつマスク18を形成させる(図9(b))。具体的にはレーザによる直接描画、2光束干渉露光、ステッパ露光等を用いることができる。
【0040】
その後気相エッチングにより溝を形成する。通常ならば気相エッチングではその異方的性質からほぼ垂直な溝しか形成されない。そこで三角構造を得るために、フォトレジストの消耗を積極的に利用する。フォトレジストは気相エッチングにより損傷を受ける。厚みを調整したフォトレジストをマスクとして用いてエッチングを行うと、マスク28は消耗し、完全に除去されるとエッジ部の後退が起こる。そうしたエッジ後退が発生した後も引き続きエッチングを行うことで溝24は自然に三角形状になっていく(図9(c))。またプロセスガス種、流量、プラズマパワー、バイアスパワー、エッチング時間等のプロセス条件を制御することでこの三角形状を制御することも可能である。
【0041】
(工程3)
またそれでも溝深さが不足する場合には、フォトレジストのラインパターンの代わりに金属マスクパターンを用いることができる。金属のマスクパターンの形成方法は例えば、多層膜上に金属膜を成膜し、その上にフォトレジストを塗布する。このフォトレジストを上記同様にパターニングして、フォトレジストラインパターンを形成する。
【0042】
このラインパターンをマスクとして金属膜を金属をエッチング可能なエッチング液による液相エッチングか気相エッチングによりエッチングすることでラインパターンの金属パターンを形成することができる。一般的に金属膜の選択比(=多層膜のエッチング速度/金属マスクのエッチング速度)はフォトレジストに比較して数倍から数十倍大きく、より深い溝を持った三角形状を得ることができる。
【0043】
さらにエッチングのしにくい金属あるいは膜厚の厚い金属のマスクの形成法には図10に示すリフトオフ法がある。まず基板2上に形成した多層膜層1の表面にフォトレジスト8をコートする(図10(a))。このフォトレジストの感光波長を有する放射光により所望のラインパターン38を形成させる(図10(b))。
【0044】
このフォトレジストラインパターン38上に金属膜を成膜し、レジスト剥離液により金属膜の下層のフォトレジストを余分な金属膜ごと除去することで金属マスクパターン48を得ることもできる(図10(c))。この場合、選択比の大きい金属マスクをさらに厚く形成できるため、より深い三角形状の溝34を得ることができる。
【0045】
また上記手法以外の形成方法としては、精密スライサによるV溝加工や、パルスレーザを用いたレーザーアブレーション等も用いることができ、特に限定はされない。しかし三角溝の周期や加工断面の面精度、加工コスト等を考慮し、被加工材料に適した手法を用いるのが好ましい。
【0046】
また、本発明の光学素子は図11の構成とすることもできる。図11の構成における1次元フォトニック結晶は、例えば基板32上に形成した均質物質の層31を形成し、その表面にほぼ垂直な溝37を平行に一定周期で複数形成したものである。この溝37内には層31とは屈折率の異なる均質物質を充填する。つぎにこの溝37の方向に対して互いに異なる角度で傾斜した端面31a、31bを形成して光学素子とする。
【0047】
この端面31aに図のZ軸方向から入射光3を入射させると、この光はこの周期構造体中をほぼ溝の方向に伝搬し、Z軸に対して一定の角度をもった端面31bから出射される。
【0048】
なお、基板32上に均質物質の層31を形成せず、基板32そのものに溝を形成してもよい。また溝に充填する物質は固体に限らず、気体や液体であってもよい。固体材料の屈折率は1より大きいから屈折率1の空気はもっとも使用が容易な物質である。
【0049】
[計算例]
1次元フォトニック結晶中の電磁波の伝搬をFDTD(Finite Difference Time Domain)法により計算して評価した。計算の対象とした1次元フォトニック結晶は物質A、Bの2層からなる周期的多層膜で、これに断面が二等辺三角形状の溝を形成して入出射面とする。具体的な条件は以下の通りである。
【0050】
(多層膜構造)
周期 1000nm
A層 厚さ500nm 屈折率1.45
B層 厚さ500nm 屈折率1.00
ただし、自由空間の屈折率は1.00である。
(三角形状)
ψ1=45°
ψ2=45°
(入射光)
(a)a/λ1=0.50
(b)a/λ2=0.55
いずれもTE偏光
θ=0°
入射平面波の幅10μm
【0051】
(a)、(b)の波長による結果を図12に示す。両者の出射光5の角度差は、概略20°に達している。
【0052】
【発明の効果】
本発明によれば、1次元フォトニック結晶への入出射光束の径を実効的に大きくすることができるので、波長分解能の高い分光素子を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の基礎となる周期的多層膜の構造を示す模式図である。
【図2】 1次元フォトニック結晶のTE偏光におけるフォトニックバンドを示す図である。
【図3】 周期的多層膜の層面に対して傾斜した端面から入射した光束の分光作用を示す図である。
【図4】 周期的多層膜の斜め端面から入射した光束の伝搬を示す図である。
【図5】 三角形状の断面を有する周期的多層膜への入射光と出射光を示す図である。
【図6】 三角形状の断面を有する周期的多層膜による分光作用を示す図である。
【図7】 本発明の光学素子の基本構成を示す模式図である。
【図8】 本発明の三角形状溝構造の製造工程を示す図である。
【図9】 本発明の三角形状溝構造の他の製造工程を示す図である。
【図10】 本発明の三角形状溝構造のさらに他の製造工程を示す図である。
【図11】 周期的多層膜の斜め端面から光束を入射する構造体を示す斜視図である。
【図12】 本発明の三角形状溝構造による分光特性のシミュレーション結果を示す図である。
【符号の説明】
1 周期的多層膜層
1a、31a 光入射面
1b、31b 光出射面
2、32 基板
3 入射光
4 伝搬光
5 出射光

Claims (8)

  1. 1次元フォトニック結晶とみなせる周期的多層構造により構成される光学素子であって、前記層面に対して傾斜し互いに平行でない第1および第2の端面を有し、入射光束を前記層面に対して一方の側から前記第1の端面に入射させ、かつ出射光束を前記第2の端面から前記層面に対して同側に出射させることを特徴とする1次元フォトニック結晶を用いた光学素子。
  2. 前記入射光束が、前記周期的多層構造により形成される特定のフォトニックバンドと結合して伝搬し、その伝搬光エネルギーの進行方向が、前記多層構造の層面と略平行であること特徴とする請求項1に記載の1次元フォトニック結晶を用いた光学素子。
  3. 前記入射光束は、周期的多層構造により形成される最低次のフォトニックバンドのみと結合して伝搬すること特徴とする請求項2に記載の光学素子。
  4. 前記周期的多層構造が屈折率の異なる複数の薄膜を周期的に積層した多層膜からなり、前記第1および第2の端面が、該多層膜の少なくとも片側表面に形成した溝構造の側面であることを特徴とする請求項1に記載の1次元フォトニック結晶を用いた光学素子。
  5. 前記溝構造による第1の端面と第2の端面の対が平行に複数形成されていることを特徴とする請求項2に記載の1次元フォトニック結晶を用いた光学素子。
  6. 前記溝構造の溝の方向に垂直な断面が略三角形状であり、該三角形状の一斜辺に相当する溝側面を第1の端面とし、他の一斜辺に相当する溝側面を第2の端面とすることを特徴とする請求光4または5に記載の1次元フォトニック結晶を用いた光学素子。
  7. 前記溝の断面が略二等辺三角形であることを特徴とする請求項6に記載の1次元フォトニック結晶を用いた光学素子。
  8. 前記周期的多層構造が、平板状均質物質に複数の平行な溝を、溝幅、溝間隔が互いに等しくなるように形成し、該溝に前記均質物質とは屈折率の異なる均質物質を充填してなることを特徴とする請求項1に記載の1次元フォトニック結晶を用いた光学素子。
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