JP4162520B2 - 乳蛋白を主窒素源とする液状栄養組成キット - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、従来の育児用粉乳、スキムミルク、フォローアップミルク等の調製粉乳使用時の煩雑な溶解作業を避け、しかも長期間保存中にその品質を保持することのできる、乳蛋白を主窒素源とする液状栄養組成キットに関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に、蛋白質、脂質、糖質を含む栄養組成物は、液体保存の状態では、無菌殺菌しても、化学反応や乳化状態の変化がおこり、その品質が劣化する。この品質劣化を抑制するために、脱水(濃縮・乾燥)、脱酸素、凍結等の処理を行い、保存安定をはかっていた。例えば、育児用粉乳、スキムミルク、フォローアップミルク等は、調製粉乳の状態で保存しており、使用時には温湯による煩雑な溶解作業を避けることができなかった。
【0003】
一方、近年、牛乳、発酵乳、育児用ミルク、コンデンスミルク、乳飲料等の液状乳製品は、レトルト技術、無菌充填技術の進歩、容器包装技術の発達から、これら乳成分を半永久的に腐敗させずに保存できるようになった。しかしながら、これらの豊富な栄養成分を含有する液状乳製品は滅菌処理や長期保存により、乳化安定性の低下による脂肪分離、乳成分中の糖質がアミノ基と反応し褐変化するメイラード反応(アミノカルボニル反応)、ビタミンの劣化が著しく進行するために、国内では液状乳製品の保存期間は最長3ヶ月程度であり、それ以上の長期保存方法は加糖濃縮、あるいは缶詰めによるレトルト殺菌があるのみであった。また、一部レトルト殺菌による液状乳も製品化されているがメイラード反応による褐変化やビタミン等の栄養成分の劣化は、避けられないのが現状である。そこで、液状のままでも色調、風味、性状、栄養成分等の品質劣化がなく、長期間保存可能であり、煩雑な調整も必要のない、おいしい牛乳等、蛋白質を窒素源とする栄養組成物の提供が望まれている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、このような要望を満たす蛋白質を主窒素源とする栄養組成物を提供することを目的としてなされたものである。すなわち、本発明の課題は、液状のまま室温で長期間保存することができ、保存中、色調、風味、性状、栄養成分等の品質の劣化がなく、使用時には、温湯による煩雑な溶解作業を行わなくとも液状成分を単に混合するだけで直ちにおいしい牛乳その他の蛋白質を窒素源とする飲料を得ることのできる、乳蛋白を主窒素源とする、液状栄養組成キットを提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は、乳栄養組成物を液状形態で滅菌処理及び長期保管をするに際して、その品質を安定に保持するために、上記共存下で品質劣化をともなう成分を分別して、2液あるいはそれ以上の液状のキットとなしたものを滅菌処理して、使用時に混合して用いようとするものである。
【0006】
上記栄養組成キットの組成成分を分別して溶液となすには、次のような分別が好ましい。すなわち、乳蛋白と糖類とは、共存下で褐変現象を起こすので分別し、ビタミンCと糖類との共存は滅菌保存時にビタミンCの劣化を招き、ビタミンB1は、蛋白質の共存下で劣化が著しいのでそれぞれ分別する。また、脂肪とミネラルが共存すると脂肪と他の成分との乳化が困難になるので、それぞれ分別する。ただし、脂肪とミネラルとの共存の場合、不溶性カルシウムやマグネシウム塩であれば、乳化に影響を及ぼすことは少なく、共存は可能となる。不溶性カルシウム及びマグネシウム塩は、さらにスラリー状に微細化され、乳化剤等でコーティングされたものであれば、製剤保存時に沈殿することなく、均質性を保持できる。
【0007】
このように、各成分の共存下における劣化や変化を考慮して、本発明では、例えば、乳蛋白質、脂肪、ビタミン類を含むA溶液と、糖質、ミネラル、ビタミンB1を含むB溶液から構成する。
【0008】
すなわち、本発明は、乳蛋白質を主窒素源とし、脂肪、糖質及びミネラル、ビタミン類を含む液状滅菌タイプの栄養組成物であって、その組成成分を2液以上の複数のキットとし、それぞれのキット中の組成物が互いに反応せず、保存中組成成分の安定性を保持できるように組み合わせて分別してなる複数液から構成される液状栄養組成キットに関する。
【0009】
この分別する栄養組成成分としては、窒素源と糖類、糖類とビタミンC、窒素源とビタミンB1、糖類とパントテン酸カルシウム、脂肪及びビタミンAとミネラル類とがある。これらは、それぞれ単独で分別してもよいし、複数の栄養組成成分を合わせてキットに分別してもよい。
また、乳蛋白質等の窒素源を溶解する場合に、炭酸カリウム等の溶解補助剤を用いることがある。このようなときは、窒素源、溶解補助剤、油脂、脂溶性ビタミン、不溶性カルシウム及びマグネシウム塩類、水溶性ビタミンをひとつのキットとし、糖質、カリウム、カルシウム、マグネシウム以外のミネラル類、不溶性ビタミン類を他のキットとしてもよい。
【0010】
【発明の実施の形態】
上述のように分別して調製した各液は、滅菌及び冷却し、キットとして製品とする。得られる製品は長期保存下で品質が安定しているので、滅菌液状の状態で室温保存が可能で、使用時に混合することにより、直ちに良質な液状栄養組成物を提供することができる。
【0011】
本発明における乳蛋白質を主窒素源とする成分は、乳カゼイン、乳ホエー蛋白質、ミルクプロティンアイソレート等が用いられる。
また脂肪としては、乳脂肪、コーン油、魚油、パーム油、シソ油等が、糖質としては乳糖、デキストリン、デンプン、ショ糖、グルコース等が、ビタミン類には、ビタミンB群、ビタミンC、パントテン酸などの水溶性ビタミンとビタミンA、ビタミンD、ビタミンEなどの脂溶性ビタミンが用いられる。またミネラル類としては塩化ナトリウム、リン酸水素カリウム、塩化マグネシウム等の水溶性ミネラル類、あるいは炭酸カルシウム、ドロマイト、ピロリン酸鉄等の非水溶性ミネラル類が用いられる。その他、溶液または乳化液の安定性を高めたりあるいは呈味性を向上させるために、乳化剤、香料、甘味料等を加えても良い。
【0012】
これらの成分を前記したように共存した場合に反応し、製品を劣化させる成分を互いに分別し、水を加え溶解あるいは乳化して液状とし、容器に充填し、滅菌し、冷却し、この処理の前後にキットにして製品とする。
容器としては、ビン、ポリエチレン製袋、ポリプロピレン製袋、ポリエチレンテレフタレート製ボトルなどが例示される。
滅菌は通常、加圧下で加熱殺菌することによって行われるが、それ以外に知られている滅菌手段であれば、製品の品質を損なわない限り利用することができる。
【0013】
本発明では、安定な各栄養組成液を滅菌保存し、これを混合して用いるため、従来の粉末形態の栄養組成物を溶解する場合に見られる不溶物の分離、沈殿、目詰まり、溶解のための熱湯の準備、溶解操作などの煩わしさがない。
【0014】
本発明にかかる栄養組成キットを構成する複数液、例えば2液の調製にあたっては、それらの液を使用時に混合した場合に、固形分組成が窒素源としての蛋白質が10-30重量%、脂肪が5-25重量%及び糖類40-70重量%となるように配合量を調製することが好ましい。
【0015】
【実施例】
以下実施例、参考例を示して本発明及びその効果を具体的に説明する。しかし本発明は実施例に限定して解釈されるべきではない。
[参考例1]
表1に示される栄養成分を用い、その配合量に従ってA液及びB液の2種の液を分別して調製した。
【0016】
【表1】
【0017】
A液及びB液の調製:
▲1▼ A液
上記配合量の糖質、油脂、ビタミンB1、ビタミンA及びその他の脂溶性ビタミンを適量の水と混合し、均質機にて500MPaで2回繰返し均質化を行った後、50Lに定容した。次いで得られた溶液を窒素気流中でその1/1000量ずつガラス容器に充填した。
【0018】
▲2▼ B液
上記配合量の乳たん白質、ミネラル類、ビタミンC、パントテン酸及びその他の水溶性ビタミンを適量の水に溶解し50Lに定容した。次いで得られた溶液を窒素気流中でその1/1000量ずつガラス容器に充填した。
【0019】
上述のようにして得られたA液並びにB液を121℃の温度で、5分間レトルト滅菌を行い、冷却を行って液状栄養組成キットを得た。
【0020】
得られた液状栄養組成キットを、滅菌後及び40℃の温度に6ヶ月間保存した後、各ビタミンの残存量、A液の乳化状態、各液の色調変化等を調べた。また、比較対照として前記配合量の成分を全て水100Lに溶かし、均質機にて500MPaで2回繰返し均質化を行い、窒素気流中でその1/1000量ずつガラス容器に充填して一液となし、121℃の温度に15分間レトルト滅菌を行い及び冷却を行った。得られた対照について同様に滅菌後及び40℃の温度に6ヶ月間保存した後の各ビタミンの残存量、乳化状態、色調変化を調べた。
【0021】
結果を表2に示した。
表2にみられるとおり、育児ミルクの組成成分を、A液とB液に分別して2液としてレトルト滅菌して保存した場合には、水溶性ビタミン及び脂溶性ビタミンの劣化が少なく、脂肪の乳化性が良好である。これに対し、最初から一液とした対照では両ビタミンの劣化が著しく、また保存により乳化クリーム層の分離がみられ、一部オイルオフが認められた。更に、液の色調も滅菌並びに保存により変化した。
【0022】
【表2】
【0023】
【実施例1】
参考例1表1に示した栄養成分を、次に示す組合せにより分別して2種類の液を調製した。
(1)A液の調製
上記配合量の乳蛋白質を溶解補助剤(炭酸カリウム)22gで溶解後、油脂、ビタミンA及びその他脂溶性ビタミン、不溶性カルシウム及びマグネシウム塩類、ビタミンC、パントテン酸及びその他の水溶性ビタミン(ビタミンB1以外)を適量の水と混合し、均質機にて500MPaで2回繰返し均質化を行った後、50Lに定容した。次いで得られた溶液を窒素気流中でその1/1000量ずつガラス容器に充填した。
【0024】
▲2▼ B液の調製
上記配合量の糖質、カリウム、カルシウム、マグネシウム以外のミネラル類、ビタミンB1を適量の水に溶解し50Lに定容した。次いで得られた溶液を窒素気流中でその1/1000量ずつガラス容器に充填した。
【0025】
上述のようにして得られたA液及びB液を121℃の温度に15分間レトルト滅菌を行って本発明の液状栄養組成キットを得た。この製品の滅菌後及び40℃の温度に6ヶ月間保存した後の各ビタミンの残存量、A液の乳化状態、各液の色調変化等を調べた。また、比較対照として前記配合量の成分を全て水100Lに溶かし、均質機にて500MPaで2回繰返し均質化を行い、窒素気流中でその1/1000量ずつガラス容器に充填して一液となし、121℃の温度に15分間レトルト滅菌を行い、この対照の同様に滅菌後及び40℃の温度に6ヶ月間保存した後の各ビタミンの残存量、乳化状態、色調変化を調べた。
【0026】
結果は表3に示すとおりである。
表3にみられるとおり、参考例1と比較して、乳蛋白質(溶解補助剤を含む)、不溶性カルシウム及びマグネシウム塩類、ビタミンC、パントテン酸及びその他の水溶性ビタミン(ビタミンB1以外)をB液に配合する代わりにA液に配合し、糖質及びビタミンB1をA液に配合する代わりにB液に配合して調製した場合も、本発明に従ってA液とB液に分別してレトルト滅菌して保存してもビタミン類の劣化は少なく、脂肪の乳化性も良好であり、かつ各液の色調変化も認められない。これに対し、最初から一液とした対照では、ビタミン類の劣化が著しく、また保存により乳化クリーム層の分離がみられ、一部オイルオフも認められた。また、液の色調にも変化がみられた。
【0027】
【表3】
【0028】
【発明の効果】
本発明の特徴は、乳蛋白質を主窒素源として用い、その他の栄養成分と配合して液状栄養剤を調製するにあたり相互に反応する成分を分別しそれぞれキットの形にしたので常温下においてもメイラード反応の進行や乳化安定性の低下等の品質劣化を抑制し、液状のまま長期安定に保管することができ、使用時に、この2液を混合するだけの簡便な操作で、色調、風味、性状、栄養成分等の品質劣化のないおいしい栄養飲料を提供することができる。この結果、保存期間が3ヶ月程度であった従来の無菌調整乳を1年間以上安定に保存することができる。また、品質管理の行き届いた工場で完全無菌包装するため、室温のまま保存でき、使用時キットの液を混合するだけで煩雑な調製作業や汚染水の使用がなくなるため、地域にかかわらず、品質の安定した栄養飲料を提供することができ、食品衛生管理上の利点も大きい。
Claims (4)
- 乳蛋白質を主窒素源とし、脂肪、糖質及びミネラル、ビタミン類とを含む液状滅菌タイプの栄養組成物であって、乳蛋白質を主窒素源とする窒素源及び脂肪と糖類とを別々のキットに分別して液状とした2液から構成される、それぞれのキット中の組成物が互いに反応せず、保存中組成成分の安定性を保持しうるように組み合わせて分別してなる複数液から構成される長期保存安定性に優れた液状栄養組成キット。
- 乳蛋白質を主窒素源とする窒素源と糖類とを別々のキットに分別し、脂肪と糖類とを別々のキットに分別して液状とした2液から構成される請求項1に記載の液状栄養組成キット。
- 糖質、カリウム、カルシウム、マグネシウム以外のミネラル類、ビタミンB1に水を加えて溶解した溶液と、乳蛋白質、乳蛋白質溶解補助剤、油脂、脂溶性ビタミン、不溶性ミネラル、水溶性ビタミンに水を加えて均質化した均質液とを、それぞれ容器に充填し、滅菌冷却し、両者を組み合わせてなる長期保存安定性に優れた液状栄養組成キット。
- 液状栄養組成が乳組成である請求項1〜3のいずれかに記載の液状栄養組成キット。
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