JP4161619B2 - 水素吸蔵用合金貯蔵タンク - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車の水素エンジンおよび燃料電池等に使用される水素を吸蔵する水素吸蔵用合金貯蔵タンクに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、例えば特開平6−201098号公報に示されるように、水素吸蔵用合金を貯蔵するための貯蔵タンクにおいて、タンク本体の壁部を、内壁と、この内壁の外側に空間をあけて配設された外壁とからなる内外2重構造とし、上記内壁と外壁との間の空間部に、水素吸蔵用合金の酸化を抑制する酸化抑制剤を設け、タンク本体の壁部が破損した場合に、上記水素吸蔵用合金を酸化抑制剤に触れさせることにより、水素吸蔵用合金が外部に飛散して急激な酸化反応が起こるという事態の発生を抑制できるようにしたものが知られている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
上記のようにタンク本体の壁部を二重構造とし、壁部の破損時等に水素吸蔵用合金の酸化を抑制する酸化抑制剤を設けた構造とした場合には、衝突事故の発生時等に、水素吸蔵用合金が外部に飛散して空気中の酸素に触れても、急激な酸化反応が起こるのを抑制できるという利点を有する反面、タンク本体の壁部を二重構造とすることにより構造が複雑になるとともに、タンク全体の容量に比べて貯蔵可能な合金量が制限されるという問題がある。
【0004】
また、高圧ガスボンベ等においては、ボンベ内の圧力が許容値以上に上昇することに起因したタンクの損傷を防止することを目的として、ボンベ内の圧力が所定値以上に上昇した場合に開弁するばね式開閉弁からなる圧力感応式のリリーフ弁を設け、ボンベ内の圧力が許容値以上に上昇する前に、上記リリーフ弁を開弁状態としてタンク本体内の圧力を外部に逃がすことにより、ボンベ内の圧力が許容値以上に上昇するのを防止することが行われている。
【0005】
上記圧力感応式のリリーフ弁を水素吸蔵用合金貯蔵タンクに設けた場合には、何らかの原因でタンク本体内の圧力が上昇した場合に、上記リリーフ弁が開弁状態となってタンク本体内の圧力を外部に逃がすことにより、この圧力上昇に起因したタンク本体の損傷を防止することが可能である。しかし、上記圧力感応式のリリーフ弁が開弁状態となってタンク本体内の圧力が低下すると、ばねの付勢力に応じてリリーフ弁が再び閉弁状態となり、その閉弁圧力に相当した圧力がタンク本体内に残存することになる。このため、火災発生時等に、タンク本体の壁面が加熱されて壁面強度が低下した場合には、上記残存圧力に応じて水素吸蔵用合金貯蔵タンクのタンク本体が破損する可能性があり、このような事態の発生を防止し得るようにすることが望まれていた。
【0006】
また、自動車用の天然ガスタンク等において、はんだ合金からなる栓材が所定温度で溶融してリリーフ通路を開弁状態とするように構成されたいわゆる溶栓を設けることにより、タンク本体が加熱された場合に、その内部圧力が過度に上昇することに起因したタンク本体の損傷を防止することが行われている。上記溶栓を水素吸蔵用合金貯蔵タンクに設けることも考えられるが、水素吸蔵用合金貯蔵タンクの内部には、水素を吸蔵した合金が貯蔵されており、この合金が加熱されると、吸蔵された水素が放出されてタンク本体内の圧力が急上昇する傾向がある。したがって、火災発生時等に、上記溶栓が所定温度に加熱されて開弁状態となる前に、タンク本体内の圧力が許容応力以上に上昇するのを防止するには、上記栓材の溶融温度をかなり低い温度、例えば40°C程度に設定する必要があり、何らかの原因で雰囲気温度が上昇した場合に、上記溶栓が開放される誤作動が生じ易いという問題がある。
【0007】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、必要時にタンク本体内の圧力を容易かつ適正に低下させることができる水素吸蔵用合金貯蔵タンクを提供することを目的としている。
【0008】
【課題を解決するための手段】
請求項1に係る発明は、水素吸蔵用合金を貯蔵する水素吸蔵用合金貯蔵タンクにおいて、タンク本体内の圧力上昇により開弁してタンク本体内の圧力を外部に逃がす圧力感応式のリリーフ弁を備え、この圧力感応式リリーフ弁が開弁状態となった場合に、その開弁状態を保持する保持機構を上記リリーフ弁に設けたものである。
【0009】
上記構成によれば、タンク本体が加熱されて水素が放出される等によりタンク本体内の圧力が上昇すると、圧力感応式のリリーフ弁が開弁状態となってタンク本体内の圧力が外部に逃がされるとともに、上記リリーフ弁が保持機構によって開弁状態に保持されるため、タンク本体内に圧力が残存することが防止されることになる。
【0018】
【発明の実施の形態】
図1および図2は、本発明に係る水素吸蔵用合金貯蔵タンクの実施形態を示している。この水素吸蔵用合金貯蔵タンクは、アルミニウム合金等からなるタンク本体1と、その長手方向の両端部近傍に配設された一対の隔壁板2a,2bと、その内方側に配設された焼結金属板またはメッシュ材等の通気性を有する素材からなる一対のフィルター板3a,3bとを有し、これらのフィルター板3a,3bによって区画された中央貯蔵部4内に、粉末状のマグネシウム系金属材等からなる水素吸蔵用合金5が収容されている。
【0019】
上記タンク本体1の長手方向両端部を被覆する端板1a,1bには、上記フィルター板3a,3bを通して中央貯蔵部4内に水素を供給するための一対の水素供給管6a,6bがそれぞれ上記隔壁板2a,2bを貫通した状態で設置されている。また、上記両端板1a,1bの一方(図1の左側に位置する端板1a)には、温水または冷水等からなる温度調節用の流体をタンク本体1の一端部側に供給する流体供給管7が接続されるとともに、上記両端板1a,1bの他方(図1の右側に位置する端板1b)には、上記流体をタンク本体1の他端部側から外部に導出するため流体導出管8が接続されている。さらに、上記タンク本体1内には、上記流体供給管7から一方の端板1aと隔壁板2aの間に供給された流体を、他方の端板1bと隔壁板2bとの間に向けて流動させるための複数本の連通管10が上記中央貯蔵部4を貫通するように所定間隔で配設されている。
【0020】
上記タンク本体1の長手方向の一端部には、タンク本体1内の圧力上昇により開弁してタンク本体1内の圧力を外部に逃がす圧力感応式の第1リリーフ弁11を備えた第1リリーフ通路12が、上記端板1bおよび隔壁板2bを貫通した状態で接続されている。また、上記タンク本体1の両端部には、雰囲気温度の上昇により開弁してタンク本体1内の圧力を外部に逃がす温度感応式の第2リリーフ弁13を備えた第2リリーフ通路14が、上記第1リリーフ通路12とは独立した位置において上記両端板1a,1bおよび隔壁板2a,2bを貫通した状態で接続されている。
【0021】
上記圧力感応式の第1リリーフ弁11は、図3に示すように、連通路を有する弁ケース15と、この弁ケース15の上流側の開口部、つまりタンク本体1側に位置する開口部を開閉する弁体16と、この弁体16を閉止方向に付勢する圧縮コイルばね17とを有するばね式開閉弁からなっている。そして、上記第1リリーフ弁11の上流側部に位置する第1リリーフ通路12a内の圧力が所定値以上になると、上記弁体16が圧縮コイルばね17の付勢力に抗して後退する(図3の矢印に示す方向に移動する)ことにより、上記第1リリーフ弁11が開弁状態となり、上記第1リリーフ弁11の上流側部の圧力が所定値未満になると、上記弁体16が圧縮コイルばね17の付勢力に応じて前進することにより、上記第1リリーフ弁11が閉弁状態となるように構成されている。
【0022】
上記第1リリーフ弁11の開弁圧力は、タンク本体1の強度に対応して設定され、タンク本体1内の圧力が上昇してタンク本体1の壁面が破断に至る前に、上記第1リリーフ弁11が開弁状態となってタンク本体1内の圧力を外部に逃がすようになっている。具体的には、タンク本体1内の圧力が1.4MPaを超えて上昇するのを防止するため、上記第1リリーフ弁11の開弁圧力が1.4MPa程度に設定されている。なお、図3において、18は、上記弁ケース15の上流側部をシールするためのOリングである。
【0023】
また、温度感応式の第2リリーフ弁13は、図4に示すように、連通路を有する弁ケース19と、この弁ケース19の連通路内に充填されたはんだ合金等からなる栓材20と、上記弁ケース19の下流側端部、つまりタンク本体1側と反対側に位置する部位を被覆するように設置された被覆材21とを有する溶栓からなっている。そして、上記弁ケース19および栓材20が所定温度に加熱されると、栓材20が溶融状態となるとともに、第2リリーフ弁13の上流側部に位置する第2リーフ通路14aに作用するガス圧等に応じて上記被覆板21が突き破られることにより、図4の仮想線で示すように、上記第2リリーフ弁13の下流側に位置する第2リリーフ通路14bに設けられた栓材溜まり22内に栓材20が流入し、上記第2リリーフ弁13の連通路が開放されて第2リリーフ通路14が連通状態となるように構成されている。
【0024】
上記第2リリーフ弁13の開弁温度(栓材20の溶融温度)は、タンク本体1を構成するアルミニウム合金の強度が温度上昇に応じて顕著に低下する温度に基づいて設定されている。具体的には、タンク本体1を構成するアルミニウム合金は、その温度が150°C以上になると、強度が顕著に低下する傾向があるため、上記栓材20の溶融温度が105°C程度に設定されている。これにより、タンク本体1の温度が150°C以上となってその強度が低下する前に、上記第2リリーフ弁13が開弁してタンク本体1内の圧力が第2リリーフ通路14から外部に逃がされるようになっている。
【0025】
上記水素吸蔵用合金貯蔵タンクは、車両等に搭載されるとともに、上記両水素供給管6a,6bには、図5に示すように、コントロールユニット24により開閉制御される電磁弁25a,25bがそれぞれ設けられている。また、上記電磁弁25a,25bの設置部の下流側部において両水素供給管6a,6bが合流するとともに、この合流部の下流側部にカプラ26が設けられている。さらに、上記水素吸蔵用合金貯蔵タンクの流体供給管7および冷却水導出管8には、それぞれカプラ27,28が設けられている。
【0026】
そして、水素供給スタンド29に設けられた水素供給ホース30を、上記カプラ26に接続して水素供給管6a,6bに連結するとともに、冷却水供給ホース31および冷却水排出ホース32を、上記カプラ27,28に接続して流体供給管7および冷却水導出管8にそれぞれ連結する。この状態で、上記冷却水供給ホース31および流体供給管7を介してタンク本体1内の連通管10に冷却水を供給するとともに、この冷却水を上記流体導出管8および冷却水排出ホース32を介して循環させることにより、タンク本体1の内部を冷却しつつ、上記水素供給ホース30から供給された水素を、タンク本体1の両端部から中央貯蔵部4内に交互に供給して水素吸蔵用合金5に吸蔵させる。
【0027】
すなわち、コントロールユニット29から出力される制御信号に応じ、上記両水素供給管6a,6bにそれぞれ設けられた電磁弁25a,25bの一方を開弁状態とするとともに他方を閉弁状態とし、かつ開弁される電磁弁25a,25bを順次変化させる制御を実行することにより、タンク本体1の両側から交互に水素を供給して水素吸蔵用合金5に吸蔵させるようにする。
【0028】
上記水素吸蔵用合金タンクに吸蔵された水素を燃料として水素エンジン等を駆動する場合には、上記水素供給管6a,6bの合流部を、水素エンジンの燃料供給通路に接続して上記電磁弁25a,25bを開放するとともに、上記流体供給管7および冷却水導出管8に温水供給ホース31および温水排出ホース32をそれぞれ連結した状態で、タンク本体1の中央貯蔵部4内に温水を流動させて上記水素吸蔵用合金5を加熱することにより、この水素吸蔵用合金5から水素を放出させて上記水素エンジン等に供給する。
【0029】
上記のように水素吸蔵用合金貯蔵タンクに、それぞれ独立してタンク本体1の内部に連通する第1リリーフ通路12と第2リリーフ通路14とを設け、この第1リリーフ通路12に、タンク本体1内の圧力上昇により開弁してタンク本体1内の圧力を外部に逃がす圧力感応式の第1リリーフ弁11を設けるとともに、上記第2リリーフ通路14に、雰囲気温度の上昇により開弁してタンク本体1内の圧力を外部に逃がす温度感応式の第2リリーフ弁13を設けたため、必要時にタンク本体1内の圧力を容易かつ適正に低下させることにより、タンク本体1の損傷を効果的に防止することができる。
【0030】
すなわち、火災発生時等に、タンク本体1が加熱されて水素吸蔵用合金5から水素が放出されることによりタンク本体1内の圧力が所定圧力以上に上昇すると、上記圧縮コイルばね17の付勢力に抗して弁体16が後退することにより、圧力感応式の第1リリーフ弁11が開弁状態となるため、タンク本体1内の圧力が外部に逃がされることになる。したがって、タンク本体1内の圧力が上記第1リリーフ弁11の開弁圧力以上に上昇するのを防止することができる。
【0031】
また、上記第1リリーフ弁11が開弁状態となってタンク本体1内の圧力が低下すると、上記第1リリーフ弁11が圧縮コイルばね17の付勢力に応じて再び閉弁状態となり、その閉弁圧力に相当した圧力がタンク本体1内に残存することになる。この状態で、上記タンク本体1がさらに加熱されると、上記栓材20が溶融することにより温度感応式の第2リリーフ弁13が開弁するため、上記残存圧力が外部に逃がされることになる。したがって、タンク本体1が所定温度に加熱されることにより壁面強度が低下した場合においても、上記残存圧力に起因してタンク本体1が破損する等の事態が発生するのを効果的に防止できるという利点がある。
【0032】
上記のように構成された本発明例に係る水素吸蔵用合金貯蔵タンクと、上記温度感応式の第2リリーフ弁13および第2リリーフ通路14を省略した点のみが上記タンクと相違する比較例に係る水素吸蔵用合金貯蔵タンクとを、実験室内で加熱して徐々に昇温させた場合におけるタンク内温度と、タンク内圧力の上昇状態等を観測する実験を行ったところ、図6(a),(b)および図7に示すようなデータが得られた。図6(a)は、本発明例に係る水素吸蔵用合金貯蔵タンクに満杯量の水素を吸蔵させた場合のデータを示し、第6図(b)は、本発明例に係る水素吸蔵用合金貯蔵タンクに満杯量の1/5だけ水素を吸蔵させた場合のデータを示している。また、図7は、比較例に係る水素吸蔵用合金貯蔵タンクに満杯量の水素を吸蔵させた場合のデータを示している。
【0033】
上記図6(a)に示すように、本発明例に係る水素吸蔵用合金貯蔵タンクに満杯の水素を吸蔵させた場合には、加熱開始直後に水素吸蔵用合金から多量の水素が放出されることによりタンク内圧力が急上昇し、実験開始後の1.3分が経過した時点で、圧力感応式の第1リリーフ弁11が開弁状態となってタンク内圧力が外部に逃がされた後、第1リリーフ弁11が閉弁状態となった。そして、実験開始後の3.7分が経過した時点で、温度感応式の第2リリーフ弁13が開放し始めてタンク内圧力が徐々に低下した。なお、上記第2リリーフ弁13が開放し始めた時点では、タンク内温度は100°C以下であり、上記第2リリーフ弁13を構成する栓材20の溶融温度(105°C)よりも低い温度である。これは加熱が開始されて上記水素吸蔵用合金5から水素が放出される際に多量の熱が奪われるために、タンク内温度の上昇度合いが上記第2リリーフ弁13の設置部に比べて低くなるためであると考えられる。
【0034】
また、図6(b)に示すように、本発明例に係る水素吸蔵用合金貯蔵タンクに満杯量の1/5だけ水素を吸蔵させた場合には、加熱開始直後に放出される水素量が比較的少ないため、タンク内圧力が徐々に上昇して実験開始後の3.1分が経過した時点で、圧力感応式の第1リリーフ弁11が開弁状態となってタンク内圧力が外部に逃がされた後、第1リリーフ弁11が閉弁状態となった。そして、実験開始後の6.7分が経過した時点で、温度感応式の第2リリーフ弁13が開弁状態となってタンク内圧力が急激に低下し始めた。
【0035】
これに対して図7に示すように、第2リリーフ弁13のない比較例に係る水素吸蔵用合金貯蔵タンクでは、実験開始後の1.3分が経過した時点で、圧力感応式の第1リリーフ弁11が開弁状態となってタンク内圧力が外部に逃がされた後、圧縮コイルばね17の付勢力に応じて第1リリーフ弁11が閉弁し、1.4MPa前後の内部圧力が残留した状態で、タンク内温度が時間の経過とともに徐々に上昇し、実験開始後の34分が経過した時点で、タンク本体1が破裂した。
【0036】
上記実験データから、温度感応式の第2リリーフ弁13がなく、圧力感応式の第1リリーフ弁11のみを有する比較例に係る水素吸蔵用合金貯蔵タンクでは、タンク本体1内に所定圧の内部圧力が残留することに起因してタンク本体1が損傷するのを防止することができないことが確認された。また、上記水素吸蔵用合金貯蔵タンクを加熱すると、水素吸蔵用合金5から水素が放出されることにより、加熱開始直後からタンク本体1内の圧力が急上昇する傾向があるため、上記圧力感応式の第1リリーフ弁11がない場合には、加熱直後の早い段階でタンク本体1が破裂する可能性が高いことがわかる。
【0037】
これに対して圧力感応式の第1リリーフ弁11と温度感応式の第2リリーフ弁13との両方を有する本発明に係る水素吸蔵用合金貯蔵タンクでは、加熱開始後の早い段階で第1リリーフ弁11が開放状態となるとともに、第1リリーフ弁11が閉弁した後に、上記第2リリーフ弁13が開放状態となることにより、タンク本体1内に残留した内部圧力が外部に逃がされることにより、タンク本体1の損傷を効果的に防止できることが確認された。
【0038】
なお、上記溶栓からなる第2リリーフ弁13に代え、バイメタルを備えた温度感応式の開閉弁を使用することもできるが、上記溶栓からなる第2リリーフ弁13を設けた場合には、この溶栓の栓材20を溶融させて連通路を開放することにより、簡単な構成でタンク1内の内部圧力を外部圧力と等しくなるまで低下させることができるとともに、上記栓材20の材質を変更させることにより、第2リリーフ弁13の開弁温度を容易かつ適正に変化させることができるという利点がある。
【0039】
また、上記実施形態に示すように、アルミニウム合金によりタンク本体1を形成した場合には、タンク本体1を容易かつ任意の形状に形成することができるとともに、その重量を軽量化することができる。上記アルミニウム合金は、温度が150°C以上になると、その強度が顕著に低下する傾向にあるので、この強度が顕著に低下する温度よりも低い温度で第2リリーフ弁13が開弁状態となるように、この第2リリーフ弁13の開弁温度を設定することにより、タンク本体1が加熱されてその強度が低下する前に、上記タンク本体1内の圧力を低下させ得るように構成することが望ましい。
【0040】
上記溶材20の溶融温度が177°Cに設定された溶栓からなる第2リリーフ弁13を備えた水素吸蔵用合金貯蔵タンクに満杯量の水素を吸蔵させた状態で、このタンクを実験室内で加熱して徐々に昇温させた場合におけるタンク内温度と、タンク内圧力の上昇状態等を観測する実験を行ったところ図8に示すようなデータが得られた。このデータから、タンク本体1を構成する材料の強度が顕著に低下する温度よりも高い温度に設定した場合においても、タンク本体1の破裂現象が発生することはないことが確認された。しかし、加熱開始後に17.5分が経過するまで上記第2リリーフ弁13が閉弁状態に維持され、その間はタンク本体1内に所定の残留圧力が保持されるため、上記タンク本体1を構成する材料の強度が顕著に低下する温度よりも低い温度で、第2リリーフ弁13を開弁させるように構成することが望ましい。
【0041】
また、上記実施形態では、タンク本体1の長手方向両側部に、第2リリーフ弁13を有する第2リリーフ通路14をそれぞれ配設したため、タンク本体1の長手方向両側部の何れか一方のみが加熱された場合においても、その部分に設けられた温度感応式の第2リリーフ弁13を開弁状態とすることにより、タンク本体1内の圧力を確実に低下させてタンク本体1の損傷を防止できるという利点がある。
【0042】
さらに、図4に示すように、上記第2リリーフ弁13の設置部の下流側に位置する第2リリーフ通路14bに栓材溜まり22を設け、この栓材溜まり22内に、溶融状態となった栓材20を流入させるように構成した場合には、第2リリーフ弁13が開弁状態となった後、上記栓材20により弁ケース19の連通路が再び覆われて第2リリーフ通路14が閉塞状態となるという事態の発生を効果的に防止し、上記第2リリーフ弁13の開弁状態を維持できるという利点がある。
【0043】
特に、図1に示すように、第2リリーフ通路14の下流側端部を上方に向けて設置することにより、第2リリーフ弁13が開放状態となって外部に導出された水素を車体等の上方側に逃がすように構成した場合には、上記水素を安全に排出することができるとともに、第2リリーフ通路14の下流側部が、上記溶融した栓材20により閉塞されるという事態の発生を効果的に防止することができる。
【0044】
また、上記実施形態では、タンク本体1の長手方向両端部に水素供給管6a,6bを設け、タンク本体1の両端部から中央貯蔵部4内に水素を交互に供給して水素吸蔵用合金5に吸蔵させるように構成したため、上記水素供給時にタンク本体1が変形するという事態の発生を効果的に防止することができる。すなわち、上記タンク本体1の一端部側からのみ水素を供給するように構成した場合には、その供給圧力に応じて水素吸蔵用合金5がタンク本体1の他端部側に押しやられるとともに、水素の吸蔵に応じて上記合金5の体積が増大することにより、タンク本体1の他端部側の径が増大し易い傾向がある。これに対して上記のようにタンク本体1の両端部から中央貯蔵部4内に水素を交互に供給するように構成した場合には、水素の供給圧力に応じて水素吸蔵用合金5がタンク本体1の他端部側に押しやられるという事態の発生を防止できるため、タンク本体1の変形を効果的に抑制することができる。
【0045】
上記構成に代え、タンク本体1の一端部側に水素供給管を設けるとともに、図9に示すように、タンク本体1内の他端部側に仕切り板33をタンク本体1の長手方向に沿ってスライド可能に設置し、かつ上記仕切り板33とタンク本体1の端板1bとの間に、金属製の多孔質体34を設け、この多孔質体34を上記水素の供給圧力に応じて変形させて、この供給圧力を吸収することにより、水素吸蔵用合金5がタンク本体1の他端部側に押しやられることに起因したタンク本体1の変形を抑制するようにしてもよい。
【0046】
また、図10に示すように、タンク本体1の内部を、その長手方向に区画する複数の区画壁板35を固定し、この区画壁板35によってタンク本体1の一端部側から供給された水素の圧力に応じて水素吸蔵用合金がタンク本体1の他端部側に押しやられるのを規制するようにした構造としてもよい。
【0047】
図11に示すように、複数のタンク本体1が並列に配設された構造において、各タンク本体1にそれぞれ温度感応タイプの第2リリーフ弁13を有する第2リリーフ通路14を配設するとともに、各タンク本体1に接続された第1リリーフ通路12の合流部に単一の第1リリーフ弁11を設け、各タンク本体1のいずれかの内部圧力が上記第1リリーフ弁11の開弁圧力以上となった場合に、この第1リリーフ弁11を開弁状態として内部圧力を外部に逃がすように構成してもよい。
【0048】
また、図12に示すように、各タンク本体1にそれぞれ接続された第2リリーフ通路14を、銅管またはアルミニウム管等の熱良導体からなる導出通路36に接続するとともに、この導出通路36を各タンク本体1の上面に沿って配設し、かつ上記導出通路36の端末部に単一の第2リリーフ弁13を設けた構造としてもよい。この構成によると、タンク本体1が加熱されてその熱が上記第2リリーフ通路14を介して第2リリーフ弁13に伝達されると、この第2リリーフ弁13が開弁状態となってタンク本体1内の圧力が外部に逃がされるため、タンク本体1が損傷するのを防止できるという利点がある。
【0049】
図13(a),(b)に示すように構成された圧力感応式のリリーフ弁37を水素吸蔵用合金貯蔵タンクに設けるとともに、上記リリーフ弁37に、その開弁状態を保持する保持機構38を設けた本発明の実施形態を示している。この保持機構38は、リリーフ弁37の弁ケース15に支持された係合ピン39と、この係合ピン39を弁体16に向けて圧縮コイルばねからなる付勢部材40とを有し、タンク本体1内の圧力が上昇することにより、弁体16が圧縮コイルばね17の付勢力に抗して後退した場合に、図13(b)に示すように、上記係合ピン39の先端部を弁体16に形成された係合孔41内に嵌入させることにより、上記リリーフ弁37を開弁状態に保持するように構成されている。
【0050】
上記構成によれば、タンク本体1が加熱されて水素が放出される等によりタンク本体1内の圧力が上昇すると、圧力感応式のリリーフ弁37を開弁状態としてタンク本体1内の圧力を外部に逃がすとともに、上記保持機構38によってリリーフ弁37を開弁状態に保持することができるため、上記温度感応式の第2リリーフ弁13を設けることなく、タンク本体1内に残存圧力に起因してタンク本体1が損傷するという事態の発生を効果的に防止することができる。
【0051】
また、図14に示すように、タンク本体1の一部に脆弱部42を設けるとともに、この脆弱部42の設置部を覆うカバー部材43を設け、タンク本体1内の圧力が上昇した場合に、上記脆弱部42を破断させるように構成してもよい。この構成によれば、タンク本体1内の圧力が上昇した場合に、上記脆弱部42を破断させてタンク本体1内の圧力を外部に逃がすとともに、この破断部から流出した水素吸蔵用合金が外部に飛び散るのを上記カバー部材43によって防止することができる。
【0052】
さらに、図15に示すように、タンク本体1の内面全体をネット材44によって被覆し、タンク本体1の破断時に内部に収容された水素吸蔵合金が外部に飛散するのを、上記ネット材44によって防止するようにしてもよい。
【0053】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明は、水素吸蔵用合金を貯蔵する水素吸蔵用合金貯蔵タンクにおいて、タンク本体内の圧力上昇により開弁してタンク本体内の圧力を外部に逃がす圧力感応式のリリーフ弁を備え、この圧力感応式リリーフ弁が開弁状態となった場合に、その開弁状態を保持する保持機構を上記リリーフ弁に設けたため、タンク本体が加熱されて水素が放出される等によりタンク本体内の圧力が上昇すると、圧力感応式のリリーフ弁を開弁状態としてタンク本体内の圧力を外部に逃がすとともに、上記保持機構によってリリーフ弁を開弁状態に保持することができるため、タンク本体内の残存圧力に起因してタンク本体が損傷するという事態の発生を効果的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る水素吸蔵用合金貯蔵タンクの実施形態を示す正面断面図である。
【図2】上記水素吸蔵用合金貯蔵タンクの側面断面図である。
【図3】第1リリーフ弁の具体的構成を示す断面図である。
【図4】第2リリーフ弁の具体的構成を示す断面図である。
【図5】上記水素吸蔵用合金貯蔵タンクに対する水素の供給状態を示す説明図である。
【図6】本発明例に係る水素吸蔵用合金貯蔵タンクを加熱した場合のタンク内圧力及びタンク内温度の変化状態を示すグラフである。
【図7】比較例に係る水素吸蔵用合金貯蔵タンクを加熱した場合のタンク内圧力及びタンク内温度の変化状態を示すグラフである。
【図8】参考例に係る水素吸蔵用合金貯蔵タンクを加熱した場合のタンク内圧力及びタンク内温度の変化状態を示すグラフである。
【図9】本発明に係る水素吸蔵用合金貯蔵タンクの別の実施形態を示す部分断面図である。
【図10】本発明に係る水素吸蔵用合金貯蔵タンクのさらに別の実施形態を示す部分断面図である。
【図11】本発明に係る水素吸蔵用合金貯蔵タンクのさらに別の実施形態を示す斜視図である。
【図12】本発明に係る水素吸蔵用合金貯蔵タンクのさらに別の実施形態を示す斜視図である。
【図13】リリーフ弁の具体的構成を示す断面図である。
【図14】タンク本体に脆弱部およびカバー部材を設けた例を示す正面断面図である。
【図15】タンク本体にネット材を設けた例を示す正面断面図である。
【符号の説明】
1 タンク本体
5 水素吸蔵用合金
11 第1リリーフ弁
12 第1リリーフ通路
13 第2リリーフ弁
14 第2リリーフ通路
20 栓材
37 圧力感応式のリリーフ弁
38 保持機構
Claims (1)
- 水素吸蔵用合金を貯蔵する水素吸蔵用合金貯蔵タンクにおいて、タンク本体内の圧力上昇により開弁してタンク本体内の圧力を外部に逃がす圧力感応式のリリーフ弁を備え、この圧力感応式リリーフ弁が開弁状態となった場合に、その開弁状態を保持する保持機構を上記リリーフ弁に設けたことを特徴とする水素吸蔵用合金貯蔵タンク。
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