JP4157367B2 - 植物の照明装置および照明方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、植物の照明装置および照明方法に関し、特に、太陽光が得にくい場所であっても好適に植物の育成が可能な植物の照明装置および照明方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、天候変化に影響を受けない植物の栽培、室内など太陽光が得にくい場所での植物の栽培、または太陽光が得にくい冷蔵庫での植物の保存の長期化が検討されている。例えば、太陽光の代わりに、白熱灯、蛍光灯、水銀灯、またはメタルハライドランプ、高圧ナトリウムランプなどの人工光源を利用して、植物の栽培が行われている。
【0003】
人工光源を使用して太陽光と同等以上の光量を得るためには、人工光源の光強度を相当大きくする必要がある。ところが、人工光源の光強度を大きくしすぎると、人工光源から発生する熱により植物の生育が阻害されるばかりではなく、光強度を大きくするためのコストが高くなるという問題が生じる。
【0004】
そこで、この問題を解決するために、人工光源と植物との距離を近づけて照射する照明装置が開発されている。
【0005】
例えば、特開2001−251959号公報(公開日:平成13年9月18日)には、複数の人工光源と多段式植物設置棚とが設けられた、多段式の植物栽培装置が開示されている。具体的には、図5に示されるように、上記公報に記載の植物栽培装置15は、複数の人工光源としての蛍光灯12、調光器13、および多段式の植物設置棚14を備えている。多段式の植物設置棚14の各段には植物が設置され、各段に備えられた複数の光源から植物に光が照射される。このときの光の照射量は、調光器13により制御されている。このようにして、植物設置棚14の各段に照射される光の照射量を調節している。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、上記公報に記載の植物育成装置は、人工光源として光強度の小さい蛍光灯を使用しているため、各段毎に多くの蛍光灯を備え、蛍光灯と植物との距離を近づける必要がある。したがって、たとえ光強度が小さくても、蛍光灯から発生する熱が植物に伝わりやすい。このため、植物の生育が悪くなったり、植物が熱により障害を受ける可能性があるという問題点を有している。また、蛍光灯の照射範囲は狭いため、多数の蛍光灯を備える必要があるという問題点を有している。さらに、略閉空間の植物設置棚に複数の光源が備えられているため、各段のスペースが狭く、手がいれにくい。したがって、作業スペースが確保できていないため、植物の搬入・搬出が行いにくいという問題点を有している。このように、上記公報に記載の植物育成装置は、作業効率が悪い。
【0007】
本発明は、上記の課題に鑑みなされたものであって、その目的は、人工光源から発生する熱が植物の生育に影響を与えることなく均等に植物に光を照射し、かつ、作業スペースが確保された植物の照明装置および照明方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、均等に植物に光を照射できる植物の照明装置について鋭意検討した。その結果、光源と植物との相対的な位置を経時的に変化させれば、光源の光強度を大きくした場合でも、植物が光源から発生する熱による影響を避けることができることを見出した。さらに、光源の移動を制御すれば、光源と植物とが接近した場合でも、光源から発生する熱が植物の生育を阻害することなく、植物を栽培できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明にかかる植物の照明装置は、上記の課題を解決するために、植物育成室の植物に人工光源の光を照射する植物の照明装置において、植物に光を照射する人工光源と、複数の段を有し、植物を設置する多段式植物設置手段と、上記植物と上記人工光源との相対的な位置を経時的に変化させる位置制御手段とを、植物育成室内に備えていることを特徴としている。
【0010】
上記の発明によれば、多段式植物設置手段に設置された植物と、人工光源との相対的な位置が、経時的に変化する。このため、多段式植物に設置された特定の領域の植物にのみ、人工光源からの光が照射される虞はない。すなわち、人工光源からの光を均等に植物に照射することができる。また、人工光源により植物に対して強い光を照射するときに人工光源から熱が発生したとしても、植物と人工光源との相対位置は変化するので、当該発生した熱が継続的に特定の植物に加わることはないから、熱により植物の生育が阻害されるのを防止できる。
【0011】
上記位置制御手段は、上記人工光源を鉛直方向または水平方向に移動させることが好ましい。
【0012】
これにより、植物育成室内の多段式植物設置手段が設けられていない空間、すなわち植物育成室のスペースを有効に利用して、複数の段それぞれに設置されている植物に対して均等に光を照射できる。
【0013】
なお、本発明において「鉛直方向」とは、鉛直線の方向そのものに限られず略鉛直方向をも含む。同様に、上記「水平方向」とは、水平線の方向そのものに限られず略水平方向をも含む。また、位置制御手段は、人工光源を鉛直下向きと鉛直上向きのいずれの方向、水平方向のいずれの方向に移動させるものであってもよい。さらに、位置制御手段は、鉛直方向に移動させることに加えて、人工光源を略水平方向にも移動させるものであってもよい。つまり、上記複数の段それぞれに設置されている植物に対して光を照射するために、位置制御手段は、鉛直方向の移動の前後あるいは途中に、人工光源を水平方向に移動させるものであってもよい。
【0014】
上記植物の照明装置において、上記位置制御手段は、上記植物育成室内の環境調整を補助する環境制御補助手段を、上記人工光源に付加して当該人工光源と同時に移動させてもよい。
【0015】
すなわち、上記植物の照明装置は、上記位置制御手段により、上記植物育成室内の環境調整を補助する環境制御補助手段、例えば、加温機、冷却機、送風機、加湿機、などを、上記人工光源に付加して同時に移動させてもよい。
【0016】
これにより、植物育成室内のより正確かつ斉一な環境制御が行えるとともに、上記人工光源から発生する熱の植物に対する影響をさらに抑制することができる。
【0017】
なお、本発明にかかる植物の照明装置は、以下の構成であってもよい。
【0018】
上記人工光源と上記植物とが最も接近した時点における、上記人工光源から上記植物に照射される照度は、100ルックス以上であってもよい。
【0019】
これにより、植物の育成に必要な量の光を確実に植物に照射できる。なお、「上記人工光源から上記植物に照射される照度」とは、多段式植物設置手段の人工光源に最も遠い植物において測定される照度をいう。換言すれば、最も人工光源からの光に恵まれない植物において測定される照度をいう。
【0020】
上記位置制御手段は、上記人工光源を3cm/分以上100m/分以下の速度で移動させてもよい。
【0021】
これにより、移動によって人工光源の損傷が生じることなく、また、人工光源からの熱が植物に影響することなく、均等に植物に光を照射できる。
【0022】
上記人工光源は、メタルハライドランプまたは高圧ナトリウムランプであってもよい。
【0023】
メタルハライドランプおよび高圧ナトリウムランプは、小型であるが光量が大きく、照射範囲も広い。したがって、植物育成室内に備え付けるランプの数を少なくできる。これにより、植物育成室の作業スペースが一層確保できる。
【0024】
また、本発明にかかる植物の照明方法は、上記の課題を解決するために、人工光源の光を照射して植物を育成する植物の照明方法において、人工光源と、複数の段を有する多段式植物設置棚に設置された植物との相対位置が経時的に変化するように、人工光源の光を照射することを特徴としている。
【0025】
上記の発明によれば、多段式植物設置手段に設置された植物と、人工光源との相対的な位置が、経時的に変化する。このため、多段式植物に設置された特定の領域の植物にのみ、人工光源からの光が照射される虞はない。すなわち、人工光源からの光を均等に植物に照射することができる。また、人工光源から熱が発生したとしても、植物と人工光源との相対位置は変化するので、熱により植物の生育が阻害されるのを防止できる。
【0026】
本発明にかかる植物の育成装置は、上記の課題を解決するために、上記したいずれか植物の照明装置を備えていることを特徴としている。
【0027】
上記の発明によれば、光源から発生する熱に影響されることなく均等に植物に光を照射し、かつ、作業スペースが確保された植物の育成装置を提供することができる。なお、上記「育成」には、単に植物を育成するのみではなく、例えば植物を低温で保存するなど、植物を保存することなども含むものである。
【0028】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の一形態について、図1ないし図7に基づいて説明すれば以下の通りである。なお、本発明はこれに限定されるものではない。
【0029】
本発明にかかる植物の照明装置は、植物育成室に備えられた多段式の棚に設置された植物体1個体ないし複数個体に対して、太陽光の代わり人工光源からの光を均等に照射して植物を育成するものである。
【0030】
図1に示されるように、本発明の植物の照明装置1は、人工光源2と、昇降装置(位置制御手段)3と、植物5が備えられた多段式植物設置棚(多段式植物設置手段)4とが植物育成室内6に備えられている。
【0031】
人工光源2は、植物5に光を照射して、植物5に光を供給するものである。
【0032】
人工光源2は、例えば、白熱灯、蛍光灯、水銀灯、メタルハライドランプ、高圧ナトリウムランプなどを使用することができる。太陽光の代わりに人工光源を用いる場合、人工光源の光質および光量が太陽光の光質および光量に近いほど、太陽光の場合に近い条件で植物を生育できる。また、室内のスペースを効率的に利用して植物を生育する場合には、人工光源が小型であることが好ましい。したがって、上記人工光源としては、小型であり、しかも、太陽光に近い光質および光量(すなわち太陽光に近い波長分布の光)を大量に得ることのできる、メタルハライドランプ、高圧ナトリウムランプが好ましい。また、メタルハライドランプおよび高圧ナトリウムランプは、小型であるが、光量が大きいため、すなわち照射範囲が広いため、ランプ数を少なくできるため好ましい。
【0033】
人工光源2の照度は、植物5が正常に生育できれば特に限定されるものではない。また、育成する植物の種類、植物の配置状態、人工光源の種類などに応じて適宜設定すればよい。具体的には、人工光源2から最も遠い位置にある植物における照度(図1の場合では植物5c、5f、または5iにおける照度)は、100ルックス(lx)以上とすればよく、好ましくは500ルックスであり、より好ましくは1000ルックス以上である。これにより光の照射量を十分にできる。すなわち、植物が生育するのに最低限必要な照度で光を照射できる。
【0034】
また、植物に照射する時間についても、植物の生育が悪影響を受けなければされなければ特に限定されるものではなく、適宜設定することが可能である。ただし、植物の生育が悪影響を受けない範囲で照射時間を短縮すれば、省エネルギーにもつながる。さらに、人工光源2への負担が軽減され、昇降装置3の駆動に要するコストも低減できる。
【0035】
本実施の形態の植物の照明装置1は、人工光源2が、植物設置棚4と植物設置棚4との間に位置しており、当該間を昇降装置3により移動することにより植物5の各々に光を照射するものであるから、植物設置棚4の各棚に光源のためのスペースを設ける必要がない。すなわち、従来の植物の照明装置(図5参照)のように、植物設置棚14の各棚のそれぞれに蛍光灯12が設けられているものに比べて、植物設置棚4への植物5の設置作業等のためのスペースを容易に確保できるから、作業性を向上させることができる。
【0036】
昇降装置3は、図中矢印で示すように、人工光源2を鉛直方向に移動させる。これにより、経時的に人工光源2と植物5との距離が変化する。その結果、人工光源2からの光は、植物5に均等に照射される。すなわち、人工光源2の移動に伴い、各植物5a、5b、5c・・・のそれぞれに光を照射することになり、各植物5a、5b、5c・・・に対して均等に光を照射することができる。
【0037】
昇降装置3は、人工光源2と植物5との距離を経時的に変化させることができる装置を備えている。例えば、人工光源2を移動させる場合、昇降装置3は、図示しない電動モータなどの駆動部(動力源)を備えた装置、スプロケットとチェーンの組み合わせ、または、プーリーとベルトの組み合わせなどの伝動部を備えた装置等が挙げられるが、昇降装置3の構成は特に限定されるものではない。
【0038】
昇降装置3により人工光源2を移動させる場合の移動速度は、植物5に均等に光を照射でき、人工光源2から発生する熱により植物5の生育に影響しなければ特に限定されるものではない。また、植物の配置状態、植物設置棚の種類、人工光源の種類に応じて適宜設定すればよい。具体的には、人工光源2を移動させる場合の移動速度は、3cm/分以上100m/分以上とすればよく、好ましくは10cm/分以上3m/分以下であり、より好ましくは30cm/分以上1m以下である。人工光源2の移動速度が遅すぎると、人工光源2から発生した熱が継続的に特定の植物(例えば植物5a)に加わり、熱により植物の生育が阻害される場合がある。また、人工光源2の移動速度が速すぎると、人工光源2が損傷する場合がある。しかし、人工光源2の移動速度を上記の範囲とすれば、これらを防止することができる。
【0039】
また、人工光源2を移動させる場合の移動方向は、特に限定されるものではない。例えば、図1に示されるように、鉛直方向に移動させる他にも、水平方向に移動させたり、ループ形状(環状)に移動させたり、種々の方向に移動させることができる。また、冷蔵庫などの植物育成室6内のレイアウト、植物の形態(例えば、高さや幅)、植物5の配置状態、植物設置棚4の種類や配置状態に応じて適宜設定すればよい。人工光源2を移動させる場合、移動途中に人工光源2が植物5にできる限り接近すれば、効率よく光を照射できるため好ましい。この場合、人工光源2からの熱により植物5に傷害を与える可能性があるため、植物5に人工光源2が接触しない方がよい。
【0040】
このように、本発明植物の照明装置によれば、植物と人工光源との距離が経時的に変化するので、人工光源からの光を均等に植物に照射することができる。さらに、メタルハライドランプや高圧ナトリウムランプといった、光強度が大きい人工光源を用いても、人工光源から発生する熱により植物の生育を阻害することなく、均等に植物に光を照射できる。また、多段式の植物設置棚の外部に人工光源を備えているため、植物の搬入・搬出が行いやすい。加えて、人工光源としてメタルハライドランプや高圧ナトリウムランプを用いる場合、当該メタルハライドランプや高圧ナトリウムランプは小型であるため、植物を育成する作業スペースを十分に確保できる。このため、人工光源としては、メタルハライドランプや高圧ナトリウムランプを用いることが好ましい。
【0041】
ところで、植物育成室は、制御する温度域にもよるが、通常、加温機、冷却機、加湿機などにより植物育成室内の環境を制御する仕組みとなっている。この場合、例えば、冷却機に近いところは冷えやすく、逆に冷却機から遠いところは冷えにくいという、温度ムラが生じやすい。このため、本発明の位置制御手段は、この温度ムラなどの環境のムラを解消するために、植物育成室内の環境調整を補助する環境制御補助手段、例えば、送風機、加湿機、加温機、冷却機、などを人工光源に付加して同時に移動させてもよい。
【0042】
本発明の植物の育成装置は、植物育成室6内の温度を低温に保つために、図示しない温度制御部を備えていてもよい。また、温度制御部は、さらに、植物育成室6内の湿度などの室内環境を、植物の種類に応じて生育しやすいように設定できるようなものでもよい。これにより、効率的に植物を育成することができる。
【0043】
なお、本発明にかかる植物の照明装置は、以下のような構成であってもよい。
【0044】
例えば、本発明の植物の照明装置は、人工光源に送風するための送風部を備えていてもよい。これにより、たとえ人工光源から熱が発生したとしても、その熱を冷却することができる。したがって、熱による植物への影響を防止できる。さらに、多段式の植物設置棚の位置による、温度ムラ、湿度ムラを解消することができ、植物をムラなく斉一に育成できる。
【0045】
また、図2に示されるように、植物の照明装置7は、植物育成室6に、階段状の植物設置棚(多段式植物設置手段)8を備えていてもよい。この場合も、人工光源2が、植物設置棚8と植物設置棚8との間に位置しており、当該間を昇降装置3により移動することにより各々の植物5に光を照射している。また、植物5に植物設置棚8の影ができない。したがって、人工光源2の光が植物5に均等にかつ効率よく照射される。
【0046】
また、図3に示されるように、植物の照明装置9は、植物育成室6内の中央に多段式の植物設置棚4を備えていてもよい。この場合、昇降装置3は、人工光源2が植物設置棚4の周囲を循環するように制御している。すなわち、人工光源2が、植物設置棚4の周囲に位置しており、当該周囲を昇降装置3により移動しながら、前述のように人工光源2が鉛直方向に昇降して移動することにより、各々の植物5に光を照射している。したがって、人工光源2の光が植物5に均等にかつ効率よく照射される。
【0047】
また、図4に示されるように、本発明にかかる植物の照明装置10は、植物育成室6内に、複数の人工光源2と、点灯制御部11(位置制御手段)とを備えていてもよい。この場合、人工光源2が、植物設置棚4と植物設置棚4との間に位置しており、人工光源2を移動させることなく、各々の植物5に対して均等に光を照射できる。なお、点灯制御部11は、例えば、人工光源2を順次点灯させる;一定期間人工光源2aを点灯させ期間終了後消灯し、順次2b→2c→2d→2a→・・・と点灯・消灯を繰り返す;などのように設定すればよい。
【0048】
また、図4に示される植物の照明装置10は、点灯制御部11により人工光源2a〜2dを全て点灯させた上で、植物設置棚4の棚間を水平方向に移動させる構成であってもよい。特に、植物育成室6が大きく、水平方向に長い植物設置棚4を備えた植物照明装置10の場合、人工光源2a〜2dを水平方向に移動させることが好ましい。水平方向に移動させた場合、人工光源2a〜2dは、植物育成室6内における植物設置棚4の棚間を水平に移動しながら植物5に光を照射することになる。これに対して、図2に示した植物の照明装置7における人工光源2を鉛直方向に移動させた場合、植物設置棚8が水平方向に長いと、多くの人工光源2を備えなければ、全植物5に均等に光を照射できない。すなわち、人工光源2を水平方向に移動させれば、鉛直方向に移動させる場合よりも、人工光源2の量を少なくでき、さらに全植物5に効率よく光を照射できる。
【0049】
また、以上の説明では、昇降装置3および点灯制御部11が、それぞれの人工光源2の位置および点灯状況を制御していたが、例えば、植物設置棚4が人工光源2の周囲を移動してもよい。この場合も前述と同様に、経時的に人工光源2と植物5との相対位置が変化するので、人工光源2から発生する熱が植物5の生育を阻害することなく、均等に植物に光を照射できる。
【0050】
また、本発明は多段式の植物設置棚のみではなく、地面に植物を設置した場合にも適用可能である。ただし、多段式植物設置棚は、育成室内のスペースを効率的に利用でき、多くの植物を設置できるので好ましい。また植物育成室に多段式設置棚を複数備え、その棚間を人工光源が移動するような植物の照明装置は、育成室内のスペースを最大限に利用し、また多くの植物を育成できるため好ましい。
【0051】
また、上記のような植物の照明装置は、植物を育成するための植物の育成装置、にも適用可能である。
【0052】
植物を育成する環境条件、特に温度は、植物の種類、生育ステージなどによって、最適条件が異なる。例えば、熱帯原産のものは高温、寒帯原産のものは低温で管理する必要がある。ところで、宿根草の仲間には、冬を経て春にならないと開花しないもの、すなわち、一定期間の低温に遭遇しないと開花しないものが数多く存在する。例えば、日本で主に切花用として広く利用されている園芸植物スターチス(学名Limonium)は、シアヌータ(L.sinuatum)、アルタイカ(L.altaica)、カスピア(L.caspia)、デュモーサ(L.dumosum)、ペレジー(L.perezii)、ラティフォリア(L.latifolium)、シネンシス(L.chinennsis)などの種類が知られている。スターチスの仲間も、一定期間の低温に遭遇しないと開花しないものが多く、促成栽培では、冷涼な標高の高いところ育苗した苗、あるいは育苗後冷蔵庫で一定期間低温処理した苗を本圃に定植し、開花させる方法が用いられている。前者の方法では、苗の輸送のためのコストが高くつく上、地球温暖化の影響で、より標高の高いアクセスの不便なところで育苗する必要がでてきた。また、後者の方法では、低温処理中に苗が障害を受け、最悪の場合には枯死する事故が後を立たない。本発明の照明装置を用いた照明方法によれば、苗を安定して低温処理できる上に、人工光源から発生する熱によって低温処理の効果が十分にならないといった問題も解消できる。
【0053】
本発明は上述した実施形態の構成に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態の構成にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0054】
【実施例】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明する。なお、本発明はこれに限定されるものではない。なお、以下の実施例において測定した照度は、各植物の茎葉の上端付近、すなわち草冠で測定した。
【0055】
〔実施例1〕
10℃に設定された育成室(幅3.6m×長さ4.5m×高さ2.4m)に、4段の棚(幅1m×長さ4m×高さ1.6m、棚板間50cm)2台を、棚間が1mとなるように設置した。この棚に、9cmのポットに植えたパンジー(本葉6〜9枚)をポット用トレイ(24ポット入り、36cm×54cm)に詰め、10トレイずつ棚の各段に並べた。光源として1kWのメタルハライドランプ(東芝ライテック社製、最大径18cm×長さ39cm)を使用した。この照明装置を電動昇降装置(東芝ライテック社製)に設置し、光源が棚間を鉛直移動できるようにした。本実施例では、光源が棚間を鉛直方向に循環移動可能とし、光源の移動は、光源の下端から床面までの距離の最小値が10cmとなるように設定した。また、人工光源が鉛直方向に循環移動する振幅は1.7m、移動速度は30cm/分とした。さらに、光源と植物とが最も近づいた時の照度、具体的には各々のポットにおける照度の最大値は、約1000ルックス〜10000ルックスの範囲であった。このような条件で照明し、必要に応じて潅水を行い、植物を育成した。上記のようにして30日間育成したところ、棚の奥にある照明から遠い植物の葉色が若干薄くなる傾向が見られたが、植物に障害などは見られなかった。
【0056】
〔実施例2〕
2℃に設定された冷蔵庫(幅3.6m×長さ4.5m×高さ2.4m)に、4段の棚(幅1m×長さ4m×高さ1.6m)2台を棚間が1mとなるように設置した。この棚に、直径7.5cmのプラスティックポットに植えたスターチス(本葉3〜4枚)をポット用トレイ(40ポット入り、36cm×54cm)に詰め、10トレイずつ棚の各段に並べた。人工光源として1kWのメタルハライドランプ(東芝ラティクク社製、最大径18cm×長さ39cm)を使用した。この人工光源を電動昇降装置(東芝ライテック社製)に設置し、人工光源が棚間を鉛直移動できるようにした。人工光源の下端から床面までの距離の最小値が10cmとなるように設置した。本実施例では、人工光源が棚間を鉛直方向に循環移動可能とし、鉛直方向に循環移動する振幅は1.7m、移動速度は30cm/分とした。人工光源と植物とが最も近づいた時の照度、具体的には、各々のポットにおける照度の最大値は、約1000〜10000ルックスの範囲であった。このような条件で人工光源から植物に光を照射し、必要に応じて潅水を行い、植物を冷蔵保存した。上記のようにして植物を60日間冷蔵保存したところ、葉色が赤みを帯びる傾向が認められたが、植物に障害などは認められなかった。
【0057】
〔実施例3〕
2℃に設定された冷蔵庫(幅3.6m×長さ4.5m×高さ2.4m)に、4段の棚(幅1m×長さ4m×高さ1.6m)2台を棚間が1mとなるように設置した。この棚に、直径7.5cmのプラスティックポットに植えたスターチス(本葉3〜4枚)をポット用トレイ(40ポット入り、36cm×54cm)に詰め、10トレイずつ棚の各段に並べた。人工光源として1kWのメタルハライドランプ(東芝ラティクク社製、最大径18cm×長さ39cm)2灯を使用し、ランプ間隔が15cmとなるように上下に連ねたものとした。この人工光源を電動モノレール装置(三和サービス社製)に設置し、人工光源が棚間を移動できるようにした。人工光源の下端から床面までの距離が10cmとなるように設置した。本実施例では、人工光源が棚間を水平方向に直線循環移動可能とし、直線循環移動の振幅は4m、移動速度は50cm/分とした。人工光源と植物とが最も近づいた時の照度、具体的には、各々のポットにおける照度の最大値は、約2000〜10000ルックスの範囲であった。このような条件で人工光源から植物に光を照射し、必要に応じて潅水を行い、植物を冷蔵保存した。上記のようにして植物を60日間冷蔵保存したところ、葉色が赤みを帯びる傾向が認められたが、植物に障害などは認められなかった。
【0058】
〔実施例4〕
2℃に設定された冷蔵庫(幅3.6m×長さ5.4m×高さ2.4m)に、4段の棚(幅1m×長さ4m×高さ1.6m)2台を長辺を接触させて冷蔵庫の中央に設置した。この棚に、直径7.5cmのプラスティックポットに植えたスターチス(本葉3〜4枚)をポット用トレイ(40ポット入り、36cm×54cm)に詰め、10トレイずつ棚の各段に並べた。人工光源として400Wの高圧ナトリウムランプ(東芝ラティクク社製、最大径11.6cm×長さ29cm)3灯を使用し、ランプ間隔が10cmとなるように上下に連ねたものとした。この人工光源を電動モノレール装置(三和サービス社製)に設置し、人工光源が棚の周囲を水平に周回移動できるようにした。人工光源の下端から床面までの距離が10cmとなるように設置した。本実施例では、周回移動における1周の移動距離は14m、移動速度は1m/分とした。人工光源と植物とが最も近づいた時の照度、具体的には、各々のポットにおける照度の最大値は、約2000〜7000ルックスの範囲であった。このような条件で人工光源から植物に光を照射し、必要に応じて潅水を行い、植物を冷蔵保存した。上記のようにして植物を60日間保存したところ、葉色が赤みを帯びる傾向が認められたが、植物に障害などは認められなかった。
【0059】
〔比較例1〕
人工光源の下端から育成室の床面の距離が60cmとなるように、人工光源を固定する以外は実施例1と同条件で、30日間パンジーを育成した。その結果、各々のポットにおける照度の最大値は、約30〜10000ルックスの範囲であった。人工光源からの光が届きにくいところにあるポットでは黄化徒長し、人工光源の近傍の植物個体はすべて熱傷を示し、枯死したものも見られた。
【0060】
〔比較例2〕
人工光源の下端から育成室の床面の距離が60cmとなるように、人工光源を固定する以外は実施例2と同条件で、60日間スターチスを育成した。各々のポットにおける照度の最大値は、約30〜10000ルックスの範囲であった。その結果、人工光源からの光が届きにくいところにあるポットでは黄化徒長し、人工光源の近傍の植物個体はすべて熱傷を示し、枯死したものも見られた。
【0061】
〔比較例3〕
人工光源として1kWのメタルハライドランプ2灯を上下に連ねたものを1組とし、その2組を1m間隔で棚間に固定する以外は実施例2と同条件で、スターチスを60日間育成した。各々のポットにおける照度の最大値は、約500〜7000ルックスの範囲であった。その結果、人工光源の近傍の触撃つ個体はすべて熱傷を示し、枯死したものもあった。
【0062】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば、多段式植物設置手段に設置された植物と、人工光源との相対的な位置が経時的に変化するので、光源から発生する熱に影響されることなく均等に植物に光を照射し、かつ、植物育成室の作業スペースが確保できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の一形態にかかる植物の照明装置の概略図である。
【図2】本発明の別の実施の一形態にかかる植物の照明装置の概略図である。
【図3】本発明のさらに別の実施の一形態にかかる植物の照明装置の概略図である。
【図4】本発明のさらに別の実施の一形態にかかる植物の照明装置の斜視図である。
【図5】従来の植物の育成装置の概略図である。
【符号の説明】
1 植物の照明装置
2 人工光源
3 昇降装置(位置制御手段)
4 植物設置棚(多段式植物設置手段)
5 植物
6 植物育成室
7 植物の照明装置
8 植物設置部(多段式植物設置手段)
9 植物の照明装置
10 植物の照明装置
11 点灯制御部(位置制御手段)

Claims (7)

  1. 植物育成室内に設けられた複数の段を有する多段式植物設置手段に設置された植物に光を照射する植物の照明装置において、
    植物に光を照射する人工光源と、
    人工光源を移動させることにより、上記植物と上記人工光源との相対的な位置を経時的に変化させる位置制御手段とを備え、
    上記位置制御手段は、植物の育成中に、人工光源を鉛直方向および/または水平方向に循環移動させるようになっていることを特徴とする植物の照明装置。
  2. 上記位置制御手段は、人工光源が、多段式植物設置手段の周囲を循環するように制御することを特徴とする請求項1に記載の植物の照明装置。
  3. 上記位置制御手段は、人工光源が、互いに対向する多段式植物設置手段の間を移動するように制御することを特徴とする請求項1に記載の植物の照明装置。
  4. 上記人工光源は、鉛直方向に複数配置されており、
    上記位置制御手段は、植物の育成中に、人工光源を全点灯させた状態で、互いに対向する多段式植物設置手段の間を水平方向に移動させることを特徴とする請求項1に記載の植物の照明装置。
  5. 植物育成室内に設けられた複数の段を有する多段式植物設置手段に設置された植物に光を照射する植物の照明方法において、
    植物に光を照射する人工光源を移動させることにより、上記植物と上記人工光源との相対的な位置を経時的に変化させる位置制御工程を含み、
    上記位置制御工程は、人工光源を鉛直方向および/または水平方向に循環移動させることを特徴とする植物の照明方法。
  6. 植物育成室内に設けられ、複数の段に植物が設置された多段式植物設置手段と、
    請求項1〜4のいずれか1項に記載の照明装置とを備えていることを特徴とする植物の育成装置。
  7. 植物育成室内の環境調整を補助する環境制御補助手段を備え、
    上記環境制御補助手段は、人工光源に付加されており、
    上記位置制御手段は、上記環境制御補助手段を、上記人工光源と同時に移動させることを特徴とする請求項6に記載の植物の育成装置。
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