JP4154462B2 - ポリカーボネートの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ポリカーボネートの製造方法に関し、詳しくは電気・電子分野,自動車分野,光学部品分野,構造材料分野等における樹脂材料などとして有用なポリカーボネートを、芳香族二価ヒドロキシ化合物、一酸化炭素及び酸素から効率よく製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ポリカーボネートの製造方法としては、ビスフェノールA等の芳香族二価ヒドロキシ化合物とホスゲンとを直接反応させる方法(界面法)、あるいはビスフェノールA等の芳香族二価ヒドロキシ化合物とジフエニルカーボネート等の炭酸ジエステルをエステル交換反応させる方法(エステル交換法)等が知られている。
しかしながら、界面法は有毒なホスゲンを用いなければならないこと、副生する含塩素化合物により製造装置が腐食すること等の欠点がある。また、エステル交換法では、多大な熱エネルギー損失が生じる複雑な工程で原料の炭酸ジエステルを製造しなければならず、原料製造工程や副生物のリサイクル工程等を含めた製造工程全体としては、経済的とは言えない等の問題があった。
このような背景から簡便なポリカーボネートの製造法の開発が求められ、幾つかの提案がなされている。例えば、塩基及びセレン化合物の存在下に、芳香族二価ヒドロキシ化合物と一酸化炭素とを反応させるポリカーボネートの製造法(特開昭55−92731号公報)が開示されているが、セレンは猛毒である上、この反応は量論反応であるため大量のセレンが必要となる等の問題がある。また、パラジウム系触媒/レドックス系触媒(例えば、特開平11−292962号公報など)を用いる酸化的カルボニル化反応により芳香族二価ヒドロキシ化合物と一酸化炭素からポリカーボネートを得ようとしても、反応速度が不充分であること等が原因となり、重合度の低いオリゴカーボネートしか得られないという問題があった。
一方、酸化的カルボニル化反応を用いないポリカーボネートの製造方法としては、炭酸ジメチルと芳香族ヒドロキシ化合物とのエステル交換反応を用いた製造方法(特開平9−176094号公報)が提案されているが、この方法は、原料となる炭酸ジメチルの製造工程が必要となり、必ずしも経済的な方法とは言えない。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、前記のような従来技術の問題点を解消し、芳香族二価ヒドロキシ化合物から、一段でかつ高収率で、充分な分子量を有するポリカーボネートを効率よく製造する方法を提供することを目的とするものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】
そこで、本発明者らは、鋭意研究の結果、特定の成分の組合せから成る触媒を用いることにより、上記の目的を達成しうることを見出した。本発明はかかる知見に基づいて完成したものである。すなわち、本発明は、(a−1)パラジウム原子を金属中心として複数個有し、ホスフィン構造とピリジン構造とを含むヘテロ二座配位子により架橋された多核金属錯体化合物又は(a−2)環員窒素原子のα位炭素に水素を有さないビピリジル化合物を配位子として有するパラジウム錯体化合物と(b)レドックス触媒及び(c)ハロゲン化オニウム化合物からなる触媒の存在下で、芳香族二価ヒドロキシ化合物と一酸化炭素及び酸素を酸化的カルボニル化反応させることを特徴とするポリカーボネートの製造方法を提供するものである。
【0005】
【発明の実施の形態】
次に、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明の方法において、芳香族二価ヒドロキシ化合物としては、従来公知の種々のものを使用することができ、所望のポリカーボネートの種類により適宜選定することができる。
例えば、一般式(I)
HO−Ar−OH ・・・(I)
〔式中、Arはアリーレン基を示す。〕
で表される芳香族二価ヒドロキシ化合物(二価フェノール)が挙げられる。但し、ハイドロキノン、カテコール、レゾルシン、1,4−ジヒドロキシナフタレン、9,10−ジヒドロキシアントラセン、1,4−ジヒドロキシフェナントレン等の有機レドックス触媒として作用する化合物は除かれる。具体的には、1,5−ジヒドロキシナフタレン、2,6−ジヒドロキシナフタレン等の二価フェノール類が挙げられる。
また、一般式(II)
【0006】
【化1】
【0007】
〔式中、Rは、水素原子,ハロゲン原子(例えば、塩素,臭素,フッ素,ヨウ素),アルコキシ基,エステル基,カルボキシル基,水酸基,炭素数1〜8のアルキル基,あるいは全炭素数6〜20の環上に水素原子又はアルキル基を有する芳香族基であり、o−位,m−位のいずれに結合していてもよく、このRが複数の場合、それらは同一であってもよいし、異なっていてもよく、a及びbは、それぞれ1〜4の整数である。そしてXは単結合,炭素数1〜8のアルキレン基,炭素数2〜8のアルキリデン基,炭素数5〜15のシクロアルキレン基,炭素数5〜15のシクロアルキリデン基又は−S−,−SO−,−SO2 −,−O−,−CO−結合もしくは一般式(III)
【0008】
【化2】
【0009】
で表される結合を示す。]
で表される炭素数12〜27の芳香族二価ヒドロキシ化合物(ビスフェノール)が挙げられる。
【0010】
ここで、上記一般式(II)で表されるビスフェノールとしては、様々なものがあるが、特に2,2ービス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン[ビスフェノールA]が好ましい。ビスフェノールA以外のビスフェノールとしては、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、4,4’−ジヒドロキシジフェニル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロアルカン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン等のビスフェノールA以外のビス(4−ヒドロキシフェニル)化合物又はビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン等のハロゲン化ビスフェノール類等が挙げられる。これらのビスフェノール類が置換基としてアルキル基を有する場合には、該アルキル基としては、炭素数1〜6のアルキル基、特に炭素数1〜4のアルキル基が好ましい。
【0011】
上記芳香族二価ヒドロキシ化合物と反応させる一酸化炭素は、単体であってもよいが、不活性ガスで希釈されていても、水素との混合ガスであってもよい。
また、上記芳香族二価ヒドロキシ化合物と反応させる酸素は、純酸素であってもよいが、一般には不活性ガスで希釈されたもの、例えば空気等の酸素含有ガスであってもよい。
【0012】
本発明の方法の酸化的カルボニル化反応によるポリカーボネート製造の際には、芳香族二価ヒドロキシ化合物に加えて、芳香族一価ヒドロキシ化合物を、反応開始時より反応系に共存させて原料として用いても、反応中に反応系に添加して原料として用いてもよい。また、芳香族二価ヒドロキシ化合物のみで反応を充分に行った後に、さらに芳香族一価ヒドロキシ化合物のみを添加して、引き続き反応を行ってもよい。芳香族一価ヒドロキシ化合物としては、従来公知の種々のものが使用でき、具体例としては、フェノールの他に、p−メチルフェノール,m−メチルフェノール,o−メチルフェノール,p−エチルフェノール,m−エチルフェノール,o−エチルフェノール,p−tert−ブチルフェノール,p−tert−オクチルフェノール等のアルキルフェノール類、p−フエニルフェノール,m−フエニルフェノール,o−フエニルフェノール等のフエニルフェノール類、p−クミルフェノール,m−クミルフェノール,o−クミルフェノール等のクミルフェノール類、p−メトキシフェノール,m−メトキシフェノール,o−メトキシフェノール,p−エトキシフェノール,m−エトキシフェノール,o−エトキシフェノール等のアルコキシフェノール類、1−ナフトール,2−ナフトール等のナフトール類などが挙げられる。
【0013】
一方、本発明の方法において、触媒は、前述したように(a−1)成分又は(a−2)成分〔これらをまとめて(a)成分ということがある。〕と、(b)成分と(c)成分から構成されている。ここで、触媒の(a−1)成分としては、一つの多核金属錯体化合物中にパラジウム原子を金属中心として複数個有し、ホスフィン構造とピリジン構造とを含むヘテロ二座配位子により架橋されたものであればいかなる化合物であってもよい。ホスフィン構造とピリジン構造とを含む化合物の具体例としては、2−ジフェニルホスフィノピリジン,ジ(2−ピリジル)フェニルホスフィン,トリ(2−ピリジル)ホスフィン,2−ジフェニルホスフィノキノリン等が挙げられる。
【0014】
このようなパラジウム原子を金属中心として複数個有し、ヘテロ二座配位子により架橋された多核金属錯体化合物としては、具体的には、ジフルオロビス(2−ジフェニルホスフィノピリジン)ジパラジウム,ジクロロビス(2−ジフェニルホスフィノピリジン)ジパラジウム,ジブロモビス(2−ジフェニルホスフィノピリジン)ジパラジウム,ジヨードビス(2−ジフェニルホスフィノピリジン)ジパラジウム,ジナイトライトビス(2−ジフェニルホスフィノピリジン)ジパラジウム,ジアジドビス(2−ジフェニルホスフィノピリジン)ジパラジウム,ジイソチオシアナトビス(2−ジフェニルホスフィノピリジン)ジパラジウム,ジチオシアナトビス(2−ジフェニルホスフィノピリジン)ジパラジウム,ジシアナトビス(2−ジフェニルホスフィノピリジン)ジパラジウム,ジイソシアナトビス(2−ジフェニルホスフィノピリジン)ジパラジウム,ジフルオロビス(2−ジフェニルホスフィノキノリン)ジパラジウム,ジクロロビス(2−ジフェニルホスフィノキノリン)ジパラジウム,ジブロモビス(2−ジフェニルホスフィノキノリン)ジパラジウム,ジヨードビス(2−ジフェニルホスフィノキノリン)ジパラジウム,ジナイトライトビス(2−ジフェニルホスフィノキノリン)ジパラジウム,ジアジドビス(2−ジフェニルホスフィノキノリン)ジパラジウム,ジイソチオシアナトビス(2−ジフェニルホスフィノキノリン)ジパラジウム,ジチオシアナトビス(2−ジフェニルホスフィノキノリン)ジパラジウム,ジシアナトビス(2−ジフェニルホスフィノキノリン)ジパラジウム,ジイソシアナトビス(2−ジフェニルホスフィノキノリン)ジパラジウム,ジフルオロビス[ジ(2−ピリジル)フェニルホスフィン]ジパラジウム,ジクロロビス[ジ(2−ピリジル)フェニルホスフィン]ジパラジウム,ジブロモビス[ジ(2−ピリジル)フェニルホスフィン]ジパラジウム,ジヨードビス[ジ(2−ピリジル)フェニルホスフィン]ジパラジウム,ジナイトライトビス[ジ(2−ピリジル)フェニルホスフィン]ジパラジウム,ジアジドビス[ジ(2−ピリジル)フェニルホスフィン]ジパラジウム,ジイソチオシアナトビス[ジ(2−ピリジル)フェニルホスフィン]ジパラジウム,ジチオシアナトビス[ジ(2−ピリジル)フェニルホスフィン]ジパラジウム,ジシアナトビス[ジ(2−ピリジル)フェニルホスフィン]ジパラジウム,ジイソシアナトビス[ジ(2−ピリジル)フェニルホスフィン]ジパラジウム,ジフルオロビス[トリ(2−ピリジル)ホスフィン]ジパラジウム,ジクロロビス[トリ(2−ピリジル)ホスフィン]ジパラジウム,ジブロモビス[トリ(2−ピリジル)ホスフィン]ジパラジウム,ジヨードビス[トリ(2−ピリジル)ホスフィン]ジパラジウム,ジナイトライトビス[トリ(2−ピリジル)ホスフィン]ジパラジウム,ジアジドビス[トリ(2−ピリジル)ホスフィン]ジパラジウム,ジイソチオシアナトビス[トリ(2−ピリジル)ホスフィン]ジパラジウム,ジチオシアナトビス[トリ(2−ピリジル)ホスフィン]ジパラジウム,ジシアナトビス[トリ(2−ピリジル)ホスフィン]ジパラジウム,ジイソシアナトビス[トリ(2−ピリジル)ホスフィン]ジパラジウム等が挙げられる。また、これらの多核金属錯体化合物の合成前駆体となる、ヘテロ二座配位子とパラジウム原子を有する化合物をそれぞれ単独に用い、物理的に混合した形のものであってもよい。
【0015】
触媒の(a−2)成分としては、環員窒素原子のα位炭素に水素を有さないビピリジル化合物を配位子として有するパラジウム錯体化合物であればいかなる化合物であってもよい。このようなパラジウム錯体化合物としては、具体的には、一般式(IV)
【0016】
【化3】
【0017】
〔式中、R 1 とR 8 は、それぞれ独立に炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基又は全炭素数6〜20の環上に炭化水素基を有する芳香族基を示し、R 2 〜R 7 は、それぞれ独立に炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基、全炭素数6〜20の環上に炭化水素基を有する芳香族基又は水素原子を示す。A及びBは、それぞれ独立にハロゲン原子,ヒドロキシ基,芳香族アルコキシ基,脂肪族アルコキシ基又は炭素数1〜20の炭化水素基を示す。〕で表される錯体化合物を挙げることができる。
【0018】
上記一般式(IV)において、R1 〜R8 のうちの炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基としては、炭素数1〜20の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基又は炭素数3〜20のシクロアルキル基等が挙げられる。具体的にはメチル基,エチル基,n−プロピル基,イソプロピル基,n−ブチル基,イソブチル基,sec−ブチル基,tert−ブチル基,ペンチル基,へキシル基,オクチル基,デシル基,ドデシル基,テトラデシル基,ヘキサデシル基,オクタデシル基,シクロペンチル基,シクロヘキシル基,シクロオクチル基などが挙げられる。なお、シクロアルキル基の環上には低級アルキル基などの適当な置換基が導入されていてもよい。また、全炭素数6〜20の環上に炭化水素基を有する芳香族基としては、例えばフェニル基やナフチル基などの芳香族基や、フェニル基やナフチル基などの芳香族環上に、炭素数1〜10の直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基が1個以上導入された基などが挙げられる。
【0019】
また、このR1 〜R8 は互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。一方、A及びBのうちのハロゲン原子としては、塩素、臭素及びヨウ素原子等が挙げられる。A及びBのうちの芳香族アルコキシ基としては、上記一般式(I)及び(II)において説明した芳香族二価ヒドロキシ化合物,または、フェノール,アルキルフェノール,フェニルフェノール,クミルフェノール,アルコキシフェノール,ナフトール類等の芳香族一価ヒドロキシ化合物から誘導される芳香族アルコキシ基が挙げられる。A及びBのうちの脂肪族アルコキシ基としては、メトキシ基,エトキシ基,プロポキシ基等の炭素数20以下の脂肪族アルコキシ基が挙げられる。また、A及びBのうちの炭素数1〜20の炭化水素基は、上記R1 〜R8 における炭素数1〜20の炭化水素基について説明したとおりである。このA及びBとしては特に塩素原子,臭素原子,ヨウ素原子及び芳香族アルコキシ基が好ましい。また、AとBは、互いに同一であってもよく異なっていてもよい。さらに、上記ビピリジル構造中に、芳香族環,不飽和脂肪族環,アルキル基,アルキルカルボニル基,アルコキシカルボニル基等、本発明の反応に悪影響を与えない範囲内において置換基を適宜有していてもよい。
【0020】
上記一般式(IV)で表される錯体化合物の例としては、(6,6’−ジメチル−2,2’−ビピリジル)パラジウムジクロリド、(6,6’−ジフェニル−2,2’−ビピリジル)パラジウムジクロリド、(6,6’−ジ−tert−ブチル−2,2’−ビピリジル)パラジウムジクロリド、(6,6’−ジメチル−2,2’−ビピリジル)パラジウムジブロミド、(6,6’−ジフェニル−2,2’−ビピリジル)パラジウムジブロミド、(6,6’−ジ−t−ブチル−2,2’−ビピリジル)パラジウムジブロミド、(6,6’−ジメチル−2,2’−ビピリジル)パラジウムジヨーダイド、(6,6’−ジフェニル−2,2’−ビピリジル)パラジウムジヨーダイド、(6,6’−ジ−t−ブチル−2,2’−ビピリジル)パラジウムジヨーダイド等が挙げられる。また、これらのパラジウム錯体化合物の合成前駆体となる、環員窒素原子のα位炭素に水素を有さないビピリジル系化合物とパラジウム原子を有する化合物をそれぞれ単独に用い、物理的に混合した形のものであってもよい。
【0021】
本発明において、上記触媒の(a)成分の多核金属錯体化合物及びパラジウム錯体化合物は、それぞれ一種で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、これらの多核金属錯体化合物又はパラジウム錯体化合物の前駆体となり得る化合物をそれぞれ単独で用い、物理的に混合した形のものであってもよい。また、これら触媒の(a)成分には、反応に支障のない限り、適宜アルキルホスフィン,芳香族ホスフィン,亜リン酸エステル,リン酸エステル等の配位子やアセトニトリル等のニトリル配位子などを組み合わせてもよい。
【0022】
本発明の製造方法においては、(b)成分としてレドックス触媒を用いる。使用しうるレドックス触媒には、(b−1)金属レドックス触媒及び(b−2)有機レドックス触媒がある。このレドックス触媒のうち、(b−1)金属レドックス触媒としては、ランタノイド化合物,周期律表第V族遷移金属(新周期律表では第5族)化合物,第VI族遷移金属(新周期律表では第6族)化合物,第VII族遷移金属(新周期律表では第7族)化合物,鉄化合物,コバルト化合物,ニッケル化合物,銅化合物,鉛化合物が例示される。これらは、有機錯体、有機塩及び無機塩のいずれの形であってもよい。好ましい具体例としてはセリウム化合物,バナジウム化合物,クロム化合物,マンガン化合物,鉄化合物,コバルト化合物,銅化合物,鉛化合物などが挙げられる。また、レドックス触媒のうち、(b−2)有機レドックス触媒としては、キノン類,ハイドロキノン類などが挙げられる。好ましい具体例としては、1,4−ベンゾキノン,1,2−ベンゾキノン,1,4−ナフトキノン,アントラキノン,1,4−フェナントレンキノン,ハイドロキノン,カテコール,レゾルシン,1,4−ジヒドロキシナフタレン,9,10−ジヒドロキシアントラセン,1,4−ジヒドロキシフェナントレンなどが挙げられる。
(b)成分としては、上記(b−1)金属レドックス触媒と(b−2)有機レドックス触媒のいずれかの1種を単独で用いてもよいが、(b−1)金属レドックス触媒と(b−2)有機レドックス触媒との混合物を用いても、異なる二種類以上の(b−1)金属レドックス触媒の混合物を用いてもよい。
【0023】
本発明の方法においては、さらに(c)成分としてハロゲン化オニウム化合物を用いる。ハロゲン化オニウム化合物の例としては、次の一般式(V)で表される化合物が挙げられる。
R9 R10R11R12CD ・・・(V)
〔式中、Cは窒素原子又はリン原子を示し、Dはフッ素,塩素,臭素,ヨウ素等のハロゲン原子,ヒドロキシ基,アルコキシ基,アリールオキシ基,テトラフエニルボレート基又はテトラフルオロボレート基を示す。R9 〜R12は、それぞれ炭素数1〜8のアルキル基又は炭素数6〜12のアリール基であり、具体的には、メチル基,エチル基,プロピル基,ブチル基,ペンチル基,ヘキシル基,オクチル基,シクロヘキシル基,フェニル基,トリル基,キシリル基,ナフチル基などが挙げられる。R9 〜R12は各々同一でも、異なっていてもよい。また、R9 及びR10、R11及びR12はそれぞれ一緒になって−(CH2 )n −で表される2価の基であって、nが2〜7の整数であるものを形成してもよい。〕
さらに、ハロゲン化オニウム化合物として、上記式(V) で表される化合物以外のビス(トリフェニルホスホラニリデン)アンモニウムハライド類も使用できる。その具体例としてはテトラ−n−ブチルアンモニウムブロミド,テトラフェニルホスホニウムブロミド,ビス(トリフェニルホスホラニリデン)アンモニウムブロミド,ビス(トリフェニルホスホラニリデン)アンモニウムヒドロキシド,ビス(トリフェニルホスホラニリデン)アンモニウムフェノキシド等が挙げられる。
【0024】
本発明の方法においては、その反応に際しては水が副生するが、その副生量が反応を阻害するのに充分な量となる場合には、この副生水を反応系から連続的に除去するのが好ましい。反応系からの副生水を除去する方法としては、従来公知の各種の方法が使用できるが、上記(a)、(b)及び(c)成分の他に、(d)成分として脱水剤を添加することが好ましい。特に好ましい脱水剤の例としては、モレキュラーシーブ類(ゼオライト),塩化カルシウム,酸化カルシウム,五酸化二リン,水素化ナトリウム,無水水酸化ナトリウム等の無機脱水剤、アセトアルデヒドジメチルアセタール,アセトアルデヒドジフエニルアセタール,アセトンジメチルアセタール,アセトンジフエニルアセタール等の有機脱水剤などが挙げられる。
【0025】
本発明の製造方法において、触媒の使用量については特に制限はなく、通常の触媒量でよいが、例えば、(a)成分については、その使用量は原料である芳香族二価ヒドロキシ化合物1モルに対して、パラジウムとして1×10-8〜1.0モル、好ましくは1×10-6〜0.2モルである。上記使用量が1×10-8未満では、反応速度が遅く実用的でない場合がある。一方、1.0モルを超えても、それに相当する効果が認められず経済的に不利である。
また、(b)成分の使用量は、(a)成分のパラジウム1モルに対して通常0.1〜200モル、好ましくは0.5〜100モルである。上記使用量が0.1モル未満では、反応速度が遅い場合があり実用的でなく、200モルを超えると生成したポリカーボネートの(b)成分による酸化分解等の副反応が進行し経済的に不利である。
さらに、(c)成分の使用量は、(a)成分のパラジウム1モルに対して通常0.1〜200モル、好ましくは0.5〜100モルである。上記使用量が0.1モル未満では、反応速度が遅い場合があり実用的でなく、200モルを超えても、それに相当する効果が認められず経済的に不利である。
さらにまた、(d)成分の量は、反応系から副生水を除去するのに充分な量以上用いればよく、特に規定されない。
【0026】
本発明の製造方法においては、反応は無溶媒下でも、溶媒中でも進行する。一般に無溶媒下で本発明の方法を行なう方が経済的に有利ではあるが、ポリカーボネートの製造プロセス上の都合等で必要な場合は、溶媒中で行なってもよい。ここで、使用できる溶媒としては、例えば脂肪族炭化水素,環状脂肪族炭化水素,芳香族炭化水素,ハロゲン化炭化水素,含酸素溶媒,含窒素溶媒,含硫黄溶媒等が挙げられ、本発明の製造方法に用いる触媒の種類、組み合わせにより、適宜選択することができる。
【0027】
本発明においては、反応温度は特に制限はないが、通常は50〜200℃で、好ましくは70〜150℃の範囲である。上記範囲より高温では、分解反応等の副反応が多くなり、また上記範囲より低温では、反応速度が低下して実用的でない。また、反応圧力は、一酸化炭素や酸素等のガス状の原料を用いるため、加圧状態に設定することが一般的であり、一酸化炭素分圧は1×10-2〜40MPa、好ましくは1×10-2〜20MPaの範囲内で、酸素分圧は1×10-2〜20MPa、好ましくは1×10-2〜10MPaの範囲内であればよい。特に、酸素分圧は、反応系内のガス組成が爆発範囲を外れるように調節することが望ましく、上記反応圧力があまり低圧では反応速度が低下し、また高圧過ぎると反応装置が大型となり、建設費用が高く、経済的に不利である。不活性ガスや水素等を用いる際には、その分圧は特に規定されないが、適宜実用的な圧力範囲で用いればよい。
【0028】
反応方式は、回分,半連続,連続のいずれでも可能である。ここで反応系の状態は、液相状態の場合と、液相と気相の混合状態の場合と、気相と固相の混合状態の場合と、液相と固相の混合状態の場合と、液相と気相と固相の混合状態の場合のいずれかである。また、触媒の反応系における状態は、均一系であっても不均一系であってもよく、触媒を適宜選択することにより選ぶことができる。触媒は、必要に応じて適当な担体に担持した状態で用いてもよい。上記原料成分及び触媒は、必要に応じて希釈してもよく、希釈剤としては、液相では飽和炭化水素等の不活性溶媒が用いられ、気相では窒素,アルゴン,エタン,プロパン等の不活性ガスが用いられる。生成したポリカーボネートは、通常の方法により反応系から容易に分離精製することができる。
【0029】
本発明の製造方法は、芳香族二価ヒドロキシ化合物と、一酸化炭素及び酸素を原料として、これらを上記特定の触媒の存在下で反応させて、ポリカーボネートを製造するものである。この反応で得られる目的物であるポリカーボネートとしては、様々なものがあり、例えば、一般式(VI)
【0030】
【化4】
【0031】
〔式中、R、a、b及びXは、前記一般式(II)の場合と同じである。mはポリカーボネートにおいて充分な分子量として最低限必要な値である10以上の整数であり、生成物の分子量により異なる。なお、分子の末端構造は特に規定されない。〕
で表されるポリカーボネートが挙げられる。本発明で得られるポリカーボネートは、その末端基を介して他の化合物と反応させることができる。
【0032】
【実施例】
以下に、本発明を実施例及び比較例により、更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。また、以下の例で使用した触媒及び試薬は、それぞれ市販の製品又は文献記載の方法に従い調製したものである。
【0033】
実施例1
容量30ミリリットルのステンレス製オートクレーブに、ビスフェノールA(0.950g、4.16ミリモル)、ジナイトライトビス(2−ジフエニルホスフィノピリジン)ジパラシウム(5.2mg、6.25マイクロモル、Pdとして12.5マイクロモル)、Ce(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナート)4 (65.5mg、75.0マイクロモル)、ビス(トリフエニルホスホラニリデン)アンモニウムブロミド(0.232g、0.375ミリモル)、ハイドロキノン(41.3mg、0.375ミリモル)、モレキュラーシーブ3A(1g)及び塩化メチレン(5ml)を封入した。このオートクレーブ内を窒素ガスにより置換した後、一酸化炭素で加圧及び脱圧することにより一酸化炭素置換した。その後25℃換算で6.0MPaとなるように一酸化炭素を加圧し、さらに、全体の圧力が6.3MPaとなるように酸素を加圧した。
【0034】
この反応容器を磁気攪拌機付き油浴中において、100℃に加熱攪拌することにより24時間反応させた。反応後、冷却し、脱圧した後、内容物を塩化メチレン30ミリリットルで洗い出し、濾過した。この濾液の一部を分取し、GPC(ゲル透過型液体クロマトグラフ装置、溶離液:クロロホルム、カラム:Shodex K−804L、標準物質:ポリスチレン)にてポリマーが得られていることを確認した後、残りの濾液を減圧濃縮し、メタノール中に投入して沈殿物を得た。この沈殿物をメタノールで洗浄した後、3時間減圧乾燥し、粉末状生成物(ポリカーボネート)を得た。得られたポリカーボネートは、IR、NMR等の構造解析の結果、ビスフェノールAを原料とする市販のポリカーボネートと同じ主鎖構造を持つポリマーであることを確認した。さらに、得られたポリカーボネートの重量から、その中に含まれるビスフェノールA構造の総モル数を求め、仕込んだビスフェノールAのモル数を基準として、収率(82%)を算出するとともに、GPCを用い、その重量平均分子量(Mw=6.12×103 )、数平均分子量(Mn=3.20×103 )、分子量分布(Mw/Mn=1.91)を求めた。その結果を第1表に示す。
【0035】
参考例1
実施例1においてジナイトライトビス(2−ジフエニルホスフィノピリジン)ジパラシウムの代わりに(2,2’−ビキノリン)パラジウムジクロリド(5.4mg、12.5マイクロモル)、Ce(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナート)4 の代わりにMn(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナート)3 (45.4mg、75.0マイクロモル)を添加した以外は、実施例1と同様に実施した。その結果を第1表に示す。
【0036】
実施例2
参考例1において(2,2’−ビキノリン)パラジウムジクロリドの代わりに(6,6’−ジメチル−2,2’−ビピリジル)パラジウムジクロリド(4.5mg、12.5マイクロモル)を用いた以外は、参考例1と同様に実施した。その結果を第1表に示す。
【0037】
実施例3
実施例2においてビスフェノールAの仕込量を0.475g(2.08ミリモル)とした以外は、実施例2と同様に実施した。その結果を第1表に示す。
【0038】
比較例1
実施例1においてジナイトライトビス(2−ジフエニルホスフィノピリジン)ジパラシウムの代わりに臭化パラジウム(3.3mg、12.5マイクロモル)を、Ce(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナート)4 の代わりに酢酸セリウム・一水和物(25.1mg、75.0マイクロモル)を用いた以外は、実施例1と同様に実施した。その結果を第1表に示す。
【0039】
【0040】
なお、表中の記号は、下記のものを意味する。
Pd2 (Ph2PPy)2(NO2)2 :ジナイトライトビス(2−ジフエニルホスフィノピリジン)ジパラシウム
Pd(biqu) Cl2:(2,2’−ビキノリン)パラジウムジクロリド
Pd(6,6’−Me2−2,2’−bpy)Cl2:(6,6’−ジメチル−2,2’−ビピリジル)パラジウムジクロリド
Pd Br2 :臭化パラジウム
TMHD:2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナート
Ce(OAc)3 ・H2 O:酢酸セリウム・一水和物
【0041】
【発明の効果】
本発明によれば、芳香族二価ヒドロキシ化合物から、一段でかつ高収率で、実用的に充分な分子量を有するポリカーボネートを効率よく製造することができ、電気・電子分野、自動車分野、光学部品分野、構造材料分野等における樹脂材料などとして有用なポリカーボネートを効率よく製造できる方法として利用価値が高い。
Claims (6)
- (a−1)パラジウム原子を金属中心として複数個有し、ホスフィン構造とピリジン構造とを含むヘテロ二座配位子により架橋された多核金属錯体化合物と(b)レドックス触媒及び(c)ハロゲン化オニウム化合物からなる触媒の存在下で、芳香族二価ヒドロキシ化合物と一酸化炭素及び酸素を酸化的カルボニル化反応させることを特徴とするポリカーボネートの製造方法。
- (a−2)環員窒素原子のα位炭素に水素を有さないビピリジル化合物を配位子として有するパラジウム錯体化合物と(b)レドックス触媒及び(c)ハロゲン化オニウム化合物からなる触媒の存在下で、芳香族二価ヒドロキシ化合物と一酸化炭素及び酸素を酸化的カルボニル化反応させることを特徴とするポリカーボネートの製造方法。
- (b)レドックス触媒成分として、一種以上の(b−1)金属レドックス触媒と一種以上の(b−2)有機レドックス触媒とを用いる請求項1又は2に記載のポリカーボネートの製造方法。
- (b)レドックス触媒成分として、異なる二種類以上の(b−1)金属レドックス触媒を用いる請求項1又は2に記載のポリカーボネートの製造方法。
- さらに(d)脱水剤を添加する請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリカーボネートの製造方法。
- 酸化的カルボニル化反応を芳香族一価ヒドロキシ化合物の共存下で行う請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリカーボネートの製造方法。
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