JP4152315B2 - 線維芽細胞増殖因子−8に対するヒト化抗体および該抗体断片 - Google Patents
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Description
本発明は、FGF−8に対する抗体、特にヒト化抗体および該抗体断片に関する。本発明はさらに、上記の抗体および該抗体断片をコードするDNA配列に関する。本発明は、該DNA配列を含んでなるベクターおよび該ベクターにより形質転換された宿主細胞に関する。本発明はさらに、該宿主細胞を用いた上記の抗体および該抗体断片の製造方法、ならびに該抗体および該抗体断片を用いる癌の治療薬および診断薬に関する。
背景技術
アンドロジェン誘導増殖因子(AIGF)は、1992年に性ホルモン依存的増殖を示すマウス乳癌細胞株SC−3(J.Steroid Biochem.,27,459,1987)の培養上清より単離された因子である。AIGFは、アンドロジェン刺激により誘導産生され、オートクライン的にSC−3細胞を増殖させる因子である(Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,89,8928,1992)。遺伝子クローニングの結果、線維芽細胞増殖因子(FGF)ファミリーとアミノ酸配列で30〜40%の相同性を有することが明らかとなり、FGF−8と命名された。その後、マウスFGF−8遺伝子をプローブとしてヒト胎盤ゲノムライブラリーよりヒトFGF−8遺伝子がクローン化され、マウスFGF−8と塩基配列で85%、アミノ酸配列で100%一致することが示された(FEBS Letters,363,226,1995)。従来より、前立腺癌や乳癌などの性ホルモン依存的増殖を示す癌においては、性ホルモン誘導性の増殖因子がオートクライン的に作用していると推測されてきたが、FGF−8の発見は、マウスの系ではあるものの、この仮説を初めて実証したものであった。ヒトにおいても同様の機構でFGF−8が癌の発生や増殖に関与していることが推測されたが、これまでのところ、証明されるに至っていない。しかし、FGF−8の添加により、ある種のヒト前立腺癌細胞株の増殖が促進されること(FEBS Letters,363,226,1995)、前立腺癌、乳癌、卵巣癌の各種ヒト癌細胞株でFGF−8のmRNAの発現が確認されていること(Cell growth & Differ.,7,1425,1996、Oncogene,18,1053,1999、Int.J.Cancer,88,718,2000)、前立腺癌、乳癌、卵巣癌のヒト癌組織で正常組織と比較してFGF−8が過剰発現していることが報告され(Cancer Res.,58,2053、Oncogene,18,2755,1999、Oncogene,18,1053,1999、Int.J.Cancer,88,718,2000)、ヒトにおいてもFGF−8が癌細胞の性ホルモン依存的増殖にオートクラインまたはパラクライン的に関与している可能性が指摘されている。一方で、ホルモン非依存性のヒトの各種前立腺癌細胞、前立腺癌組織、乳癌細胞(Cell growth & Differ.,7,1425,1996、Oncogene,18,2755,1999、Oncogene,18,1053,1999)おいてもFGF−8の高率な発現が認められることなどから、FGF−8が性ホルモンを介さない発現制御を受けている可能性も十分あると考えられる。さらに、FGF−8のアンチセンスがin vitro、in vivoでのホルモン非依存前立腺癌細胞株の増殖を抑制したとの報告もあり(Oncogene,16,1487,1998)、ホルモン依存性を消失した癌においてもFGF−8依存的な増殖機構の存在が示唆されている。
以上のような事実から、FGF−8に対する抗体は、癌細胞に対するFGF−8の生物学的機能の解析、さらには、前立腺癌および乳癌などの癌細胞の免疫学的検出法を用いた診断に有効である。さらに、FGF−8の機能を阻害する中和抗体であれば、FGF−8の生物学的機能の解析、さらには、前立腺癌および乳癌、卵巣癌などの癌の診断、性ホルモン依存癌および性ホルモン非依存癌の治療にも有効であることが期待される。そこで、本発明者らは、FGF−8に対する抗体の作製を行い、その結果、FGF−8に特異的に反応し、かつFGF−8の機能を阻害するマウスモノクローナル抗体KM1334を作製することに成功した(特開平9−271391)。
一方、マウス抗体などのヒト以外の動物の抗体をヒトに投与すると、異物として認識されることにより、ヒト体内にマウス抗体に対するヒト抗体(Human Anti Mouse Antibody:HAMA)が誘導されることが知られている。HAMAは投与されたマウス抗体と反応し、副作用を引き起こしたり(J.Clin.Oncol.,2,881,1984、Blood,65,1349,1985、J.Natl.Cancer Inst.,80,932,1988、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,82,1242,1985)、マウス抗体の体内からの消失を速め(J.Nucl.Med.,26,1011,1985、Blood,65,1349,1985、J.Natl.Cancer Inst.,80,937,1988)、マウス抗体の治療効果を減じてしまうことが知られている(J.Immunol.,135,1530,1985、Cancer Res.,46,6489,1986)。
これらの問題点を解決するため、遺伝子組換え技術を利用してヒト以外の動物の抗体をヒト型キメラ抗体あるいはヒト型CDR移植抗体などのヒト化抗体にすることが試みられている。
ヒト型キメラ抗体とは、抗体V領域がヒト以外の動物の抗体で、C領域がヒト抗体である抗体であり(Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,81,6851,1984)、ヒト型CDR移植抗体とは、ヒト以外の動物の抗体のV領域中のCDRのアミノ酸配列をヒト抗体の適切な位置に移植した抗体である(Nature,321,522,1986)。これらのヒト化抗体は、マウス抗体などのヒト以外の動物の抗体に比較してヒトへの臨床応用上、様々な利点を有している。例えば、免疫原性および血中での安定性に関しては、ヒト型キメラ抗体では、ヒトに投与した場合、マウス抗体に比べて血中半減期が約6倍伸びたことが報告されている(Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,86,4220,1989)。ヒト型CDR移植抗体においても、サルを用いた実験でマウス抗体に比べ免疫原性が低下し、血中半減期が延長したことが報告されている(Cancer Res.,56,1118,1996、Immunol.,85,668,1995)。すなわち、ヒト化抗体は、ヒト以外の動物の抗体に比べ、ヒトにおいて副作用が少なく、その治療効果が長期間持続することが期待される。
また、ヒト化抗体は、遺伝子組換え技術を利用して作製するため、様々な形態の分子として作製することができる。例えば、ヒト抗体のH鎖C領域(CH)として1サブクラスを使用すれば、抗体依存性細胞障害活性などのエフェクター機能の高いヒト化抗体を作製することができる(Cancer Res.,56,1118,1996)。エフェクター機能の高いヒト化抗体は、抗原が癌細胞などの細胞表面上に存在し、標的細胞の破壊が望まれる場合には、極めて有用である。一方、単に標的分子を中和する作用のみが必要とされる場合やエフェクター機能による標的細胞の破壊による副作用が懸念される場合には、ヒト抗体のCHとして4サブクラスを使用すれば、4サブクラスは一般的にエフェクター機能が低いため(J.Exp.Med.,166,1351,1987、J.Exp.Med.,168,1351,1988)、副作用を回避でき、かつ、マウス抗体に比べ血中半減期の延長が期待される(Immunol.,85,668,1995)。さらには、ヒト化抗体は、最近の蛋白質工学、遺伝子工学の進歩により、Fab、Fab’、F(ab’)2、scFv(Science,242,423,1988)、Diabody(Nature Biotechnol.,15,629,1997)、dsFv(Molecular Immunol.,32,249,1995)、CDRを含むペプチド(J.Biol.Chem.,271,2966,1996)などの、分子量の小さい抗体断片としても作製でき、これらの抗体断片は、完全な抗体分子に比べ、標的組織への移行性に優れている(Cancer Res.,52,3402,1992)。
以上の事実は、ヒトへの臨床応用に用いる抗体としては、マウス抗体などのヒトを除く動物の抗体よりもヒト化抗体の方が望ましいことを示している。
以上述べてきたように、FGF−8に対して特異的に反応し、かつ、FGF−8の機能を阻害するヒト化抗体または該抗体断片ができれば、FGF−8が関与する癌などの疾患のより効果的な診断薬、治療薬となり得ると考えられるが、これまでのところそのような抗体または該抗体断片は作製されていない。
発明の開示
本発明の目的は、前立腺癌、乳癌、卵巣癌などの増殖因子と考えられるFGF−8に特異的に反応し、さらにFGF−8の生物学的機能を阻害するヒト化抗体または該抗体断片を提供することにある。
本発明者らは、FGF−8に対するIgG1サブクラスのマウス抗体KM1334を生産するハイブリドーマKM1334(FERM BP−5451)より抗体H鎖cDNAおよびL鎖cDNAを取得し、それらのV領域およびCDRが新規なアミノ酸配列を有することを見出し、該新規V領域またはCDRからなるVHおよびVLをコードするcDNAをヒト抗体CHおよびヒト抗体L鎖C領域(CL)をコードするcDNAを有する動物細胞用発現ベクターにクローニングしてヒト化抗体発現ベクターを構築し、動物細胞へ導入することにより抗FGF−8ヒト型キメラ抗体および抗FGF−8ヒト型CDR移植抗体を発現、精製し、本発明を完成させた。
(1) 線維芽細胞増殖因子−8(FGF−8)に特異的に反応し、かつFGF−8の生物学的機能を阻害するヒト化抗体または該抗体断片。
(2) ヒト化抗体または該抗体断片が、それぞれ配列番号5、6、7で示されるアミノ酸配列からなる抗体重鎖(H鎖)可変領域(V領域)の相補性決定領域(CDR)1、CDR2、CDR3を含む上記(1)記載のヒト化抗体または該抗体断片。
(3) ヒト化抗体または該抗体断片が、それぞれ配列番号8、9、10で示されるアミノ酸配列からなる抗体軽鎖(L鎖)可変領域(V領域)の相補性決定領域(CDR)1、CDR2、CDR3を含む上記(1)記載のヒト化抗体または該抗体断片。
(4) ヒト化抗体または該抗体断片が、それぞれ配列番号5、6、7で示されるアミノ酸配列からなる抗体重鎖(H鎖)可変領域(V領域)の相補性決定領域CDR1、CDR2、CDR3、およびそれぞれ配列番号8、9、10で示されるアミノ酸配列からなる抗体軽鎖(L鎖)可変領域(V領域)の相補性決定領域CDR1、CDR2、CDR3を含む上記(1)〜(3)のいずれか1項に記載のヒト化抗体または該抗体断片。
(5) ヒト化抗体が、ヒト型キメラ抗体またはヒト型CDR移植抗体である上記(1)〜(4)のいずれか1項に記載の抗体または該抗体断片。
(6) ヒト型キメラ抗体が、FGF−8に対するモノクローナル抗体の重鎖(H鎖)可変領域(V領域)および軽鎖(L鎖)V領域を含む、上記(5)記載の抗体または該抗体断片。
(7) ヒト型キメラ抗体が、FGF−8に対するモノクローナル抗体のH鎖V領域(VH)およびL鎖V領域(VL)、ならびにヒト抗体のH鎖定常領域(C領域)およびL鎖C領域からなる、上記(5)または(6)記載の抗体または該抗体断片。
(8) 抗体のVHが配列番号40で示されるアミノ酸配列を含む、上記(5)〜(7)のいずれか1項に記載のヒト型キメラ抗体または該抗体断片。
(9) 抗体のVLが配列番号41で示されるアミノ酸配列を含む、上記(5)〜(7)のいずれか1項に記載のヒト型キメラ抗体または該抗体断片。
(10) 抗体のVHが配列番号40、VLが配列番号41で示されるアミノ酸配列を含む、上記(5)〜(7)のいずれか1項に記載のヒト型キメラ抗体または該抗体断片。
(11) 抗体のVHが配列番号40、VLが配列番号41で示されるアミノ酸配列を含む、上記(5)〜(7)のいずれか1項に記載のヒト型キメラ抗体KM3034およびKM3334または該抗体断片。
(12) ヒト型CDR移植抗体が、FGF−8に対するモノクローナル抗体のVHおよびVLのCDRを含む、上記(5)記載の抗体または該抗体断片。
(13) ヒト型CDR移植抗体が、FGF−8に対するモノクローナル抗体のVHおよびVLのCDRとヒト抗体のVHおよびVLのフレームワーク領域(FR)を含む、上記(5)または(12)記載の抗体または該抗体断片。
(14) ヒト型CDR移植抗体が、FGF−8に対するモノクローナル抗体のVHおよびVLのCDRとヒト抗体のVHおよびVLのFR、ならびにヒト抗体のH鎖C領域およびL鎖C領域からなる、上記(5)、(12)および(13)のいずれか1項に記載の抗体または該抗体断片。
(15) 抗体のVHのCDR1、CDR2およびCDR3が、それぞれ配列番号5、6および7で示されるアミノ酸配列を含む、上記(5)、(12)〜(14)のいずれか1項に記載のヒト型CDR移植抗体または該抗体断片。
(16) 抗体のVLのCDR1、CDR2およびCDR3が、それぞれ配列番号8、9および10で示されるアミノ酸配列を含む、上記(5)、(12)〜(14)のいずれか1項に記載のヒト型CDR移植抗体または該抗体断片。
(17) 抗体のVHのCDR1、CDR2およびCDR3が、それぞれ配列番号5、6および7、VLのCDR1、CDR2およびCDR3が、それぞれ配列番号8、9および10で示されるアミノ酸配列を含む、上記(5)、(12)〜(14)のいずれか1項に記載のヒト型CDR移植抗体または該抗体断片。
(18) 抗体のVHが、配列番号16で示されるアミノ酸配列のうち、12番目のLys、13番目のLys、40番目のAla、41番目のPro、48番目のMet、68番目のVal、70番目のIle、74番目のThr、76番目のThr、82番目のGlu、84番目のSer、87番目のArgおよび95番目のTyrから選ばれる少なくとも1つのアミノ酸残基が置換されたアミノ酸配列を含む、上記(5)、(12)〜(17)のいずれか1項に記載のヒト型CDR移植抗体または該抗体断片。
(19) 抗体のVLが、配列番号17で示されるアミノ酸配列のうち、2番目のIle、3番目のVal、14番目のThr、15番目のPro、50番目のGln、51番目のLeuおよび92番目のTyrから選ばれる少なくとも1つのアミノ酸残基が置換されたアミノ酸配列を含む、上記(5)、(12)〜(17)のいずれか1項に記載のヒト型CDR移植抗体または該抗体断片。
(20) 抗体のVHが、配列番号16で示されるアミノ酸配列のうち、12番目のLys、13番目のLys、40番目のAla、41番目のPro、48番目のMet、68番目のVal、70番目のIle、74番目のThr、76番目のThr、82番目のGlu、84番目のSer、87番目のArgおよび95番目のTyr、ならびに抗体のVLが、配列番号17で示されるアミノ酸配列のうち、2番目のIle、3番目のVal、14番目のThr、15番目のPro、50番目のGln、51番目のLeuおよび92番目のTyrから選ばれる少なくとも1つのアミノ酸残基が他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を含む、上記(5)、(12)〜(17)のいずれか1項に記載のヒト型CDR移植抗体または該抗体断片。
(21) 抗体のVHが配列番号16または18で示されるアミノ酸配列を含む、上記(5)および(12)〜(20)のいずれか1項に記載のヒト型CDR移植抗体または該抗体断片。
(22) 抗体のVLが配列番号17、19、38または39で示されるアミノ酸配列を含む、上記(5)および(12)〜(20)のいずれか1項に記載のヒト型CDR移植抗体または該抗体断片。
(23) 抗体のVHが配列番号16または18、VLが配列番号17、19、38または39で示されるアミノ酸配列を含む、上記(5)および(12)〜(20)のいずれか1項に記載のヒト型CDR移植抗体または該抗体断片。
(24) 抗体のVHが配列番号16、VLが配列番号19で示されるアミノ酸配列を含む、上記(5)および(12)〜(20)のいずれか1項に記載のヒト型CDR移植抗体または該抗体断片。
(25) 抗体のVHが配列番号16、VLが配列番号38で示されるアミノ酸配列を含む、上記(5)および(12)〜(20)のいずれか1項に記載のヒト型CDR移植抗体または該抗体断片。
(26) 抗体のVHが配列番号16、VLが配列番号39で示されるアミノ酸配列を含む、上記(5)および(12)〜(20)のいずれか1項に記載のヒト型CDR移植抗体または該抗体断片。
(27) 抗体断片が、Fab、Fab’、F(ab’)2、1本鎖抗体(scFv)、2量体化V領域断片(Diabody)、ジスルフィド安定化V領域断片(dsFv)および相補性決定領域(CDR)を含むペプチドから選ばれる抗体断片である上記(1)〜(26)のいずれか1項に記載の抗体断片。
(28) 上記(1)〜(27)のいずれか1項に記載のヒト化抗体または該抗体断片をコードするDNA。
(29) 上記(28)記載のDNAを含有する組換えベクター。
(30) 上記(29)記載の組換えベクターを宿主細胞に導入して得られる形質転換株。
(31) 上記(30)記載の形質転換株を培地に培養し、培養物中に上記(1)〜(27)のいずれか1項に記載のヒト化抗体または該抗体断片を生成蓄積させ、該培養物から該抗体または該抗体断片を採取することを特徴とする該抗体または該抗体断片の製造方法。
(32) 上記(1)〜(27)のいずれか1項に記載の抗体および該抗体断片から選ばれる少なくとも1種を有効成分として含有する医薬。
(33) 上記(1)〜(27)のいずれか1項に記載の抗体および該抗体断片から選ばれる少なくとも1種を有効成分として含有する癌の治療薬。
(34) 上記(1)〜(27)のいずれか1項に記載の抗体および該抗体断片から選ばれる少なくとも1種を有効成分として含有する癌の診断薬。
本発明はFGF−8に特異的に反応し、かつ、FGF−8の生物学的機能を阻害するヒト化抗体および該抗体断片に関する。
FGF−8の生物学的機能としては、前立腺癌、乳癌、卵巣癌などの各種癌細胞に対する性ホルモン依存的および非依存的な増殖促進活性(Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,89,8928,1992)、血管新生作用(Oncogene,20,2791,2001)、関節の発生における機能(Development,127,2471,2000、Nature Genet.,26,460,2000)などがあげられる。
ヒト化抗体としては、ヒト型キメラ抗体、ヒト型CDR移植抗体などがあげられる。
本発明のヒト型キメラ抗体は、ヒト以外の動物の抗体のVHおよびVLとヒト抗体のCHおよびCLとからなる抗体を意味する。ヒト以外の動物としては、マウス、ラット、ハムスター、ラビット等、ハイブリドーマを作製することが可能であれば、いかなるものも用いることができる。
本発明のヒト型キメラ抗体は、FGF−8に特異的に反応するモノクローナル抗体を生産するハイブリドーマより、VHおよびVLをコードするcDNAを取得し、ヒト抗体のCHおよびCLをコードするDNAを有する動物細胞用発現ベクターにそれぞれ挿入してヒト型キメラ抗体発現ベクターを構築し、動物細胞へ導入することにより発現させ、製造することができる。
ヒト型キメラ抗体のCHとしては、ヒトイムノグロブリン(hIg)に属すればいかなるものでもよいが、hIgGクラスのものが好適であり、さらにhIgGクラスに属するγ1、γ2、γ3、γ4といったサブクラスのいずれも用いることができる。また、ヒト型キメラ抗体のCLとしては、hIgに属すればいずれのものでもよく、κクラスあるいはλクラスのものを用いることができる。
FGF−8に特異的に反応するヒト型キメラ抗体(抗FGF−8キメラ抗体)としては、それぞれ配列番号5、6、7で示されるアミノ酸配列からなる抗体重鎖(H鎖)可変領域(V領域)の相補性決定領域(以下、CDRと略記する)1、CDR2、CDR3および/またはそれぞれ配列番号8、9、10で示されるアミノ酸配列からなる抗体軽鎖(L鎖)可変領域(V領域)のCDR1、CDR2、CDR3を含むヒト型キメラ抗体、好ましくはVHが配列番号40で示されるアミノ酸配列および/またはVLが配列番号41で示されるアミノ酸配列を含むヒト型キメラ抗体があげられる。具体的には、抗体のVHが配列番号40記載のアミノ酸配列、ヒト抗体のCHがγ1サブクラスのアミノ酸配列から成り、抗体のVLが配列番号41記載のアミノ酸配列、ヒト抗体のCLがκクラスのアミノ酸配列からなる抗体KM3034があげられる。
ヒト型CDR移植抗体は、ヒト以外の動物の抗体のVHおよびVLのCDRのアミノ酸配列をヒト抗体のVHおよびVLの適切な位置に移植した抗体を意味する。
本発明のヒト型CDR移植抗体は、FGF−8に特異的に反応するヒト以外の動物の抗体のVHおよびVLのCDRのアミノ酸配列を任意のヒト抗体のVHおよびVLのFRに移植したV領域をコードするcDNAを構築し、ヒト抗体のCHおよびCLをコードするDNAを有する動物細胞用発現ベクターにそれぞれ挿入してヒト型CDR移植抗体発現ベクターを構築し、動物細胞へ導入することにより発現させ、製造することができる。
ヒト型CDR移植抗体のCHとしては、hIgに属すればいかなるものでもよいが、hIgGクラスのものが好適であり、さらにhIgGクラスに属するγ1、γ2、γ3、γ4といったサブクラスのいずれも用いることができる。また、ヒト型CDR移植抗体のCLとしては、hIgに属すればいずれのものでもよく、κクラスあるいはλクラスのものを用いることができる。
FGF−8に特異的に反応するヒト型CDR移植抗体(抗FGF−8CDR移植抗体)としては、それぞれ配列番号5、6、7で示されるアミノ酸配列からなる抗体VHのCDR1、CDR2、CDR3および/またはそれぞれ配列番号8、9、10で示されるアミノ酸配列からなる抗体VLのCDR1、CDR2、CDR3を含むヒト型CDR移植抗体、好ましくは抗体のVHが配列番号16および/またはVLが配列番号17で示されるアミノ酸配列を含む、ヒト型CDR移植抗体、より好ましくはVHが、配列番号16で示されるアミノ酸配列のうち、12番目のLys、13番目のLys、40番目のAla、41番目のPro、48番目のMet、68番目のVal、70番目のIle、74番目のThr、76番目のThr、82番目のGlu、84番目のSer、87番目のArgおよび95番目のTyrから選ばれる少なくとも1つのアミノ酸残基が他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を含むヒト型CDR移植抗体、抗体のVLが、配列番号17で示されるアミノ酸配列のうち、2番目のIle、3番目のVal、14番目のThr、15番目のPro、50番目のGln、51番目のLeuおよび92番目のTyrから選ばれる少なくとも1つのアミノ酸残基が置換されたアミノ酸配列を含む、ヒト型CDR移植抗体、抗体のVHが、配列番号16で示されるアミノ酸配列のうち、12番目のLys、13番目のLys、40番目のAla、41番目のPro、48番目のMet、68番目のVal、70番目のIle、74番目のThr、76番目のThr、82番目のGlu、84番目のSer、87番目のArgおよび95番目のTyr、ならびに抗体のVLが、配列番号17で示されるアミノ酸配列のうち、2番目のIle、3番目のVal、14番目のThr、15番目のPro、50番目のGln、51番目のLeuおよび92番目のTyrから選ばれる少なくとも1つのアミノ酸残基が他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を含む、ヒト型CDR移植抗体などがあげられる。具体的に、VHとしては、配列番号16に示されるアミノ酸配列のうち、12番目のLys、13番目のLys、40番目のAla、41番目のPro、48番目のMet、95番目のTyrの6残基をそれぞれAla、Arg、Arg、Ser、Ile、Pheに改変した配列番号18に記載のアミノ酸配列があげられる。VLとしては、配列番号17で示されるアミノ酸配列のうち、2番目のIle、14番目のThr、15番目のPro、50番目のGln、51番目のLeu、92番目のTyrの6残基をそれぞれVal、Ser、Leu、Lys、Val、Pheに改変した配列番号19に記載のアミノ酸配列、14番目のThr、15番目のPro、51番目のLeu、92番目のTyrの4残基をそれぞれSer、Leu、Val、Pheに改変した配列番号38に記載のアミノ酸配列、2番目のIle、51番目のLeu、92番目のTyrの3残基をそれぞれVal、Val、Pheに改変した配列番号39記載のアミノ酸配列があげられる。
具体的には、抗体のVHが配列番号16または18で示されるアミノ酸配列を含む、ヒト型CDR移植抗体、抗体のVLが配列番号17、19、38または39で示されるアミノ酸配列を含む、ヒト型CDR移植抗体、抗体のVHが配列番号16または18、VLが配列番号17、19、38または39で示されるアミノ酸配列を含む、ヒト型CDR移植抗体などがあげられ、好ましくは抗体のVHが配列番号16、VLが配列番号19で示されるアミノ酸配列を含む、ヒト型CDR移植抗体、抗体のVHが配列番号16、VLが配列番号38で示されるアミノ酸配列を含む、ヒト型CDR移植抗体、抗体のVHが配列番号16、VLが配列番号39で示されるアミノ酸配列を含む、ヒト型CDR移植抗体があげられる。
本発明の抗体断片としては、Fab、Fab’、F(ab’)2、scFv、Diabody、dsFv、CDRを含むペプチドなどがあげられる。
Fabは、IgGを蛋白質分解酵素パパインで処理して得られる断片のうち(H鎖の224番目のアミノ酸残基で切断される)、H鎖のN末端側約半分とL鎖全体がジスルフィド結合(S−S結合)で結合した分子量約5万の抗原結合活性を有する抗体断片である。
本発明のFabは、FGF−8に特異的に反応する抗体を蛋白質分解酵素パパインで処理して得ることができる。または、該抗体のFabをコードするDNAを原核生物用発現ベクターあるいは真核生物用発現ベクターに挿入し、該ベクターを原核生物あるいは真核生物へ導入することにより発現させ、Fabを製造することができる。
F(ab’)2は、IgGを蛋白質分解酵素ペプシンで処理して得られる断片のうち(H鎖の234番目のアミノ酸残基で切断される)、Fabがヒンジ領域のS−S結合を介して結合されたものよりやや大きい、分子量約10万の抗原結合活性を有する抗体断片である。
本発明のF(ab’)2は、FGF−8に特異的に反応する抗体を蛋白質分解酵素ペプシンで処理して得ることができる。または、下記のFab’をチオエーテル結合あるいはS−S結合させ、作製することができる。
Fab’は、上記F(ab’)2のヒンジ領域のS−S結合を切断した分子量約5万の抗原結合活性を有する抗体断片である。
本発明のFab’は、FGF−8に特異的に反応するF(ab’)2を還元剤ジチオスレイトール処理して得ることができる。または、該抗体のFab’をコードするDNAを原核生物用発現ベクターあるいは真核生物用発現ベクターに挿入し、該ベクターを原核生物あるいは真核生物へ導入することにより発現させ、製造することができる。
scFvは、1本のVHと1本のVLとを12残基以上の適当なペプチドリンカー(P)を用いて連結した、VH−P−VLないしはVL−P−VHポリペプチドで、抗原結合活性を有する抗体断片である。
本発明のscFvは、FGF−8に特異的に反応する抗体のVHおよびVLをコードするcDNAを取得し、scFvをコードするDNAを構築し、該DNAを原核生物用発現ベクターあるいは真核生物用発現ベクターに挿入し、該発現ベクターを原核生物あるいは真核生物へ導入することにより発現させ、製造することができる。
Diabodyは、抗原結合特異性の同じまたは異なるscFvが2量体を形成した抗体断片で、同じ抗原に対する2価の抗原結合活性または異なる抗原に対する2特異的な抗原結合活性を有する抗体断片である。
本発明のDiabodyは、例えば、FGF−8に特異的に反応する2価のDiabodyは、抗体のVHおよびVLをコードするcDNAを取得し、3〜10残基のポリペプチドリンカーを有するscFvをコードするDNAを構築し、該DNAを原核生物用発現ベクターあるいは真核生物用発現ベクターに挿入し、該発現ベクターを原核生物あるいは真核生物へ導入することによりDiabodyを発現させ、製造することができる。
dsFvは、VHおよびVL中のそれぞれ1アミノ酸残基をシステイン残基に置換したポリペプチドを該システイン残基間のS−S結合を介して結合させたものである。システイン残基に置換するアミノ酸残基はReiterらにより示された方法(Protein Engineering,7,697,1994)に従って、抗体の立体構造予測に基づいて選択することができる。
本発明のdsFvは、FGF−8に特異的に反応する抗体のVHおよびVLをコードするcDNAを取得し、dsFvをコードするDNAを構築し、該DNAを原核生物用発現ベクターあるいは真核生物用発現ベクターに挿入し、該発現ベクターを原核生物あるいは真核生物へ導入することにより発現させ、製造することができる。
CDRを含むペプチドは、VHまたはVLのCDRの少なくとも1領域以上を含んで構成される。複数のCDRを含むペプチドは、直接または適当なペプチドリンカーを介して結合させることにより製造することができる。
本発明のCDRを含むペプチドは、FGF−8に特異的に反応する抗体のVHおよびVLのCDRをコードするcDNAを構築し、該cDNAを原核生物用発現ベクターあるいは真核生物用発現ベクターに挿入し、該発現ベクターを原核生物あるいは真核生物へ導入することにより発現させ、製造することができる。また、CDRを含むペプチドは、Fmoc法(フルオレニルメチルオキシカルボニル法)、tBoc法(t−ブチルオキシカルボニル法)などの化学合成法によって製造することもできる。
以下に、FGF−8に特異的に反応し、かつ、FGF−8の機能を阻害するヒト型キメラ抗体、ヒト型CDR移植抗体および抗体断片の作製方法、活性評価方法およびそれらの使用方法について説明する。
1.ヒト型キメラ抗体およびヒト型CDR移植抗体の作製
(1)ヒト化抗体発現用ベクターの構築
ヒト化抗体発現用ベクターとは、ヒト抗体のCHおよびCLをコードするDNAが組み込まれた動物細胞用発現ベクターであり、動物細胞用発現ベクターにヒト抗体のCHおよびCLをコードするDNAをそれぞれクローニングすることにより構築することができる。
ヒト抗体のC領域は任意のヒト抗体のCHおよびCLであることができ、例えば、ヒト抗体のγ1サブクラスのCHおよびκクラスのCLなどがあげられる。ヒト抗体のCHおよびCLをコードするDNAとしてはエキソンとイントロンからなる染色体DNAを用いることができ、また、cDNAを用いることもできる。動物細胞用発現ベクターとしては、ヒト抗体のC領域をコードする遺伝子を組込み発現できるものであればいかなるものでも用いることができる。例えば、pAGE107(Cytotechnol.,3,133,1990)、pAGE103(J.Biochem.,101,1307,1987)、pHSG274(Gene,27,223,1984)、pKCR(Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,78,1527,1981)、pSG1βd2−4(Cytotechnol.,4,173,1990)、pSE1UK1Sed1−3(Cytotechnol.,13,79,1993)などがあげられる。動物細胞用発現ベクターに用いるプロモーターとエンハンサーとしては、SV40の初期プロモーター(J.Biochem.,101,1307,1987)、モロニーマウス白血病ウイルスのLTR(Biochem.Biophys.Res.Commun.,149,960,1987)、免疫グロブリンH鎖のプロモーター(Cell,41,479,1985)とエンハンサー(Cell,33,717,1983)などがあげられる。
ヒト化抗体発現用ベクターは、抗体H鎖およびL鎖が別々のベクター上に存在するタイプあるいは同一のベクター上に存在するタイプ(タンデム型)のどちらでも用いることができるが、ヒト化抗体発現ベクターの構築の容易さ、動物細胞への導入の容易さ、動物細胞内での抗体H鎖およびL鎖の発現量のバランスが均衡するなどの点からタンデム型のヒト化抗体発現用ベクターの方が好ましい(J.Immunol.Methods,167,271,1994)。タンデム型のヒト化抗体発現用ベクターとしては、pKANTEX93(WO97/10354)、pEE18(Hybridoma,17,559,1998)などがあげられる。
構築したヒト化抗体発現用ベクターは、ヒト型キメラ抗体およびヒト型CDR移植抗体の動物細胞での発現に使用できる。
(2)ヒト以外の動物の抗体のV領域をコードするcDNAの取得およびアミノ酸配列の解析
ヒト以外の動物の抗体、例えば、マウス抗体のVHおよびVLをコードするcDNAは以下の様にして取得する。
マウス抗体などを産生するハイブリドーマよりmRNAを抽出し、cDNAを合成する。合成したcDNAをファージあるいはプラスミドなどのベクターにクローニングしてcDNAライブラリーを作製する。該ライブラリーより、マウス抗体のC領域あるいはV領域をコードするDNAをプローブとして用い、VHをコードするcDNAを有する組換えファージあるいは組換えプラスミドおよびVLをコードするcDNAを有する組換えファージあるいは組換えプラスミドをそれぞれ単離する。組換えファージあるいは組換えプラスミド上の目的とするマウス抗体のVHおよびVLの全塩基配列を決定し、塩基配列よりVHおよびVLの全アミノ酸配列を推定する。
ヒト以外の動物としては、マウス、ラット、ハムスター、ラビット等、ハイブリドーマを作製することが可能であれば、いかなるものも用いることができる。
ハイブリドーマから全RNAを調製する方法としては、チオシアン酸グアニジン−トリフルオロ酢酸セシウム法(Methods in Enzymol.,154,3,1987)、また、全RNAからmRNAを調製する方法としては、オリゴ(dT)固定化セルロースカラム法(Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Lab.Press New York,1989)などがあげられる。また、ハイブリドーマからmRNAを調製するキットとしては、Fast Track mRNA Isolation Kit(Invitrogen社製)、Quick Prep mRNA Purification Kit(Pharmacia社製)などがあげられる。
cDNAの合成およびcDNAライブラリー作製法としては、常法(Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Lab.Press New York,1989、Current Protocols in Molecular Biology,Supplement 1−34)、あるいは市販のキット、例えば、Super ScriptTM Plasmid System for cDNA Synthesis and Plasmid Cloning(GIBCO BRL社製)やZAP−cDNA Synthesis Kit(Stratagene社製)を用いる方法などがあげられる。
cDNAライブラリーの作製の際、ハイブリドーマから抽出したmRNAを鋳型として合成したcDNAを組み込むベクターは、該cDNAを組み込めるベクターであればいかなるものでも用いることができる。例えば、ZAP Express(Strategies,5,58,1992)、pBluescript II SK(+)(Nucleic Acids Research,17,9494,1989)、λzap II(Stratagene社製)、λgt10、λgt11(DNA Cloning:A Practical Approach,I,49,1985)、Lambda BlueMid(Clontech社製)、λExCell、pT7T318U(Pharmacia社製)、pcD2(Mol.Cell.Biol.,3,280,1983)およびpUC18(Gene,33,103,1985)などのファージあるいはプラスミドベクターが用いられる。
ファージあるいはプラスミドベクターにより構築されるcDNAライブラリーを導入する大腸菌としては該cDNAライブラリーを導入、発現および維持できるものであればいかなるものでも用いることができる。例えば、XL1−Blue MRF’(Strategies,5,81,1992)、C600(Genetics,39,440,1954)、Y1088、Y1090(Science,222,778,1983)、NM522(J.Mol.Biol.,166,1,1983)、K802(J.Mol.Biol.,16,118,1966)およびJM105.(Gene,38,275,1985)などが用いられる。
cDNAライブラリーからのヒト以外の動物の抗体のVHおよびVLをコードするcDNAクローンの選択法としては、アイソトープあるいは蛍光標識したプローブを用いたコロニー・ハイブリダイゼーション法あるいはプラーク・ハイブリダイゼーション法(Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Lab.Press New York,1989)により選択することができる。また、プライマーを調製し、mRNAから合成したcDNAあるいはcDNAライブラリーを鋳型として、Polymerase Chain Reaction(PCR;Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Lab.Press New York,1989、Current Protocols in Molecular Biology,Supplement 1−34)によりVHおよびVLをコードするcDNAを調製することもできる。
上記方法により選択されたcDNAを、適当な制限酵素等で切断後、pBluescript SK(−)(Stratagene社製)などのプラスミドにクローニングし、通常用いられる塩基配列解析方法、例えば、サンガー(Sanger,F.)らのジデオキシ法(Proc.Natl.Acad.Sci.,U.S.A.,74,5463,1977)などの反応を行い、塩基配列自動分析装置、例えば、ABI377(Appliedbiosystems社製)等を用いて解析することで該cDNAの塩基配列を決定することができる。
決定した塩基配列からVHおよびVLの全アミノ酸配列を推定し、既知の抗体のVHおよびVLの全アミノ酸配列(Sequences of Proteins of Immunological Interest,US Dept.Health and Human Services,1991)と比較することにより、取得したcDNAが分泌シグナル配列を含む抗体のVHおよびVLの完全なアミノ酸配列をコードしているかを確認することができる。分泌シグナル配列を含む抗体のVHおよびVLの完全なアミノ酸配列に関しては、既知の抗体のVHおよびVLの全アミノ酸配列(Sequences of Proteins of Immunological Interest,US Dept.Health and Human Services,1991)と比較することにより、分泌シグナル配列の長さおよびN末端アミノ酸配列を推定でき、さらにはそれらが属するサブグループを知ることができる。また、VHおよびVLの各CDRのアミノ酸配列を同定することができる。
さらに、VHおよびVLの完全なアミノ酸配列を用いて任意のデータベース、例えば、SWISS−PROTやPIR−Protein等に対してBLAST法(J.Mol.Biol.,215,403,1990)などの配列の相同性検索を行い、配列の新規性を検討することができる。
(3)ヒト型キメラ抗体発現ベクターの構築
本項1の(1)に記載のヒト化抗体発現用ベクターのヒト抗体のCHおよびCLをコードするDNAの上流に、ヒト以外の動物の抗体のVHおよびVLをコードするcDNAをクローニングし、ヒト型キメラ抗体発現ベクターを構築することができる。例えば、ヒト以外の動物の抗体のVHおよびVLをコードするcDNAを有するプラスミドを鋳型として、抗体のVHおよびVLを、適当な制限酵素の認識配列とV領域をコードする塩基配列よりなる5’末端側と3’末端側のプライマーを用いてPCR法により増幅し、それぞれの増幅産物をpBluescript SK(−)(Stratagene社製)などのプラスミドにクローニングし、本項1の(2)に記載の方法により、塩基配列を決定し、所望の抗体のVHおよびVLのアミノ酸配列をコードするDNA配列を有するプラスミドを取得する。得られたプラスミドより、抗体のVHおよびVLのアミノ酸配列をコードするcDNAを単離し、本項1の(1)に記載のヒト化抗体発現用ベクターのヒト抗体のH鎖およびL鎖C領域をコードする遺伝子の上流にそれらが適切な形で発現する様にクローニングし、ヒト型キメラ抗体発現ベクターを構築することができる。
(4)ヒト型CDR移植抗体のV領域をコードするcDNAの構築
ヒト型CDR移植抗体のVHおよびVLをコードするcDNAは、以下の様にして構築することができる。まず、目的のヒト以外の動物の抗体のVHおよびVLのCDRのアミノ酸配列を移植するヒト抗体のVHおよびVLのFRのアミノ酸配列を選択する。ヒト抗体のVHおよびVLのFRのアミノ酸配列としては、ヒト抗体由来のものであれば、いかなるものでも用いることができる。例えば、Protein Data Bankなどのデータベースに登録されているヒト抗体のVHおよびVLのFRのアミノ酸配列、ヒト抗体のVHおよびVLのFRの各サブグループの共通アミノ酸配列(Sequences of Proteins of Immunological Interest,US Dept.Health and Human Services,1991)などがあげられるが、それらの中でも、十分な活性を有するヒト型CDR移植抗体を作製するためには、目的のヒト以外の動物の抗体のVHおよびVLのFRのアミノ酸配列とできるだけ高い相同性(少なくとも60%以上)を有するアミノ酸配列を選択することが望ましい。
次に、選択したヒト抗体のVHおよびVLのFRのアミノ酸配列に目的のヒト以外の動物の抗体のVHおよびVLのCDRのアミノ酸配列を移植し、ヒト型CDR移植抗体のVHおよびVLのアミノ酸配列を設計する。設計したアミノ酸配列を抗体の遺伝子の塩基配列に見られるコドンの使用頻度(Sequences of Proteins of Immunological Interest,US Dept.Health and Human Services,1991)を考慮して塩基配列に変換し、ヒト型CDR移植抗体のVHおよびVLのアミノ酸配列をコードする塩基配列を設計する。設計した塩基配列に基づき、100塩基前後の長さからなる数本の合成DNAを合成し、それらを用いてPCR法を行う。この場合、PCRでの反応効率および合成可能なDNAの長さから、VH、VLとも6本の合成DNAを設計することが好ましい。また、両端に位置する合成DNAの5’末端に適当な制限酵素の認識配列を導入することで、本項1の(1)で構築したヒト化抗体発現用ベクターに容易にクローニングすることができる。PCR反応後、増幅産物をpBluescript SK(−)(Stratagene社製)などのプラスミドベクターにクローニングし、本項1の(2)に記載の方法により、塩基配列を決定し、所望のヒト型CDR移植抗体のVHおよびVLのアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するプラスミドを取得する。
(5)ヒト型CDR移植抗体のV領域のアミノ酸配列の改変
ヒト型CDR移植抗体は、目的のヒト以外の動物の抗体のVHおよびVLのCDRのみをヒト抗体のVHおよびVLのFRに移植しただけでは、その抗原結合活性は元のヒト以外の動物の抗体に比べて低下してしまうことが知られている(BIO/TECHNOLOGY,9,266,1991)。この原因としては、元のヒト以外の動物の抗体のVHおよびVLでは、CDRのみならず、FRのいくつかのアミノ酸残基が直接的あるいは間接的に抗原結合活性に関与しており、それらアミノ酸残基がCDRの移植に伴い、ヒト抗体のVHおよびVLのFRの異なるアミノ酸残基へと変化してしまうことが考えられている。この問題を解決するため、ヒト型CDR移植抗体では、ヒト抗体のVHおよびVLのFRのアミノ酸配列の中で、直接抗原との結合に関与しているアミノ酸残基やCDRのアミノ酸残基と相互作用したり、抗体の立体構造を維持し、間接的に抗原との結合に関与しているアミノ酸残基を同定し、それらを元のヒト以外の動物の抗体に見出されるアミノ酸残基に改変し、低下した抗原結合活性を上昇させることが行われている(BIO/TECHNOLOGY,9,266,1991)。ヒト型CDR移植抗体の作製においては、それら抗原結合活性に関わるFRのアミノ酸残基を如何に効率よく同定するかが、最も重要な点であり、そのためにX線結晶解析(J.Mol.Biol.,112,535,1977)あるいはコンピューターモデリング(Protein Engineering,7,1501,1994)などによる抗体の立体構造の構築および解析が行われている。これら抗体の立体構造の情報は、ヒト型CDR移植抗体の作製に多くの有益な情報をもたらして来たが、その一方、あらゆる抗体に適応可能なヒト型CDR移植抗体の作製法は未だ確立されておらず、現状ではそれぞれの抗体について数種の改変体を作製し、それぞれの抗原結合活性との相関を検討するなどの種々の試行錯誤が必要である。
ヒト抗体のVHおよびVLのFRのアミノ酸残基の改変は、改変用合成DNAをプライマーとして用いてPCR法を行うことにより、達成できる。PCR後の増幅産物について本項1の(2)に記載の方法により、塩基配列を決定し、目的の改変が施されたことを確認する。
(6)ヒト型CDR移植抗体発現ベクターの構築
本項1の(1)に記載のヒト化抗体発現用ベクターのヒト抗体のCHおよびCLをコードするDNAの上流に、本項1の(4)および(5)で構築したヒト型CDR移植抗体のVHおよびVLをコードするcDNAをクローニングし、ヒト型CDR移植抗体発現ベクターを構築することができる。例えば、本項1の(4)および(5)でヒト型CDR移植抗体のVHおよびVLを構築する際に用いる合成DNAのうち、両端に位置する合成DNAの5’末端に適当な制限酵素の認識配列を導入することで、本項1の(1)に記載のヒト化抗体発現用ベクターのヒト抗体のCHおよびCLをコードするDNAの上流にそれらが適切な形で発現する様にクローニングすることができる。
(7)ヒト化抗体の一過性発現
作製した多種類のヒト化抗体の抗原結合活性を効率的に評価するために、本項1の(3)および(6)に記載のヒト化抗体発現ベクター、あるいはそれらを改変した発現ベクターを用いてヒト化抗体の一過性発現を行うことができる。発現ベクターを導入する宿主細胞としては、ヒト化抗体を発現できる宿主細胞であれば、いかなる細胞でも用いることができるが、その発現量の高さから、COS−7細胞(ATCC CRL1651)が一般に用いられる(Methods in Nucleic Acids Res.,CRC press,283,1991)。COS−7細胞への発現ベクターの導入法としては、DEAE−デキストラン法(Methods in Nucleic Acids Res.,CRC press,283,1991)、リポフェクション法(Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,84,7413,1987)などがあげられる。
発現ベクターの導入後、培養上清中のヒト化抗体の発現量および抗原結合活性は酵素免疫抗体法(ELISA;Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,Chapter 14,1988、Monoclonal Antibodies:Principles and Practice,Academic Press Limited,1996)などにより測定できる。
(8)ヒト化抗体の安定発現
本項1の(3)および(6)に記載のヒト化抗体発現ベクターを適当な宿主細胞に導入することによりヒト化抗体を安定に発現する形質転換株を得ることができる。
宿主細胞への発現ベクターの導入法としては、エレクトロポレーション法(Cytotechnology,3,133,1990)などがあげられる。
ヒト化抗体発現ベクターを導入する宿主細胞としては、ヒト化抗体を発現させることができる宿主細胞であれば、いかなる細胞でも用いることができる。例えば、マウスSP2/0−Ag14細胞(ATCC CRL1581)、マウスP3X63−Ag8.653細胞(ATCC CRL1580)、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子(dhfr)が欠損したCHO細胞(Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,77,4216,1980)、ラットYB2/3HL.P2.G11.16Ag.20細胞(YB2/0細胞;ATCC CRL1662)などがあげられる。
発現ベクターの導入後、ヒト化抗体を安定に発現する形質転換株は、G418 sulfate(G418;SIGMA社製)などの薬剤を含む動物細胞培養用培地で培養することにより選択できる(J.Immunol.Methods,167,271,1994)。動物細胞培養用培地としては、RPMI1640培地(日水製薬社製)、GIT培地(日本製薬社製)、EX−CELL302培地(JRH社製)、IMDM培地(GIBCO BRL社製)、Hybridoma−SFM培地(GIBCO BRL社製)、またはこれら培地に牛胎児血清(FBS)などの各種添加物を添加した培地等を用いることができる。得られた形質転換株を培地中で培養することで培養上清中にヒト化抗体を発現蓄積させることができる。培養上清中のヒト化抗体の発現量および抗原結合活性はELISAなどにより測定できる。また、形質転換株は、dhfr増幅系などを利用してヒト化抗体の発現量を上昇させることができる(J.Immunol.Methods,167,271,1994)。
ヒト化抗体は、形質転換株の培養上清よりプロテインAカラムを用いて精製することができる(Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,Chapter 8,1988、Monoclonal Antibodies:Principles and Practice,Academic Press Limited,1996)。また、その他に通常、蛋白質の精製で用いられる精製方法を使用することができる。例えば、ゲル濾過、イオン交換クロマトグラフィーおよび限外濾過等を組み合わせて行い、精製することができる。精製したヒト化抗体のH鎖、L鎖あるいは抗体分子全体の分子量は、ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE;Nature,227,680,1970)やウエスタンブロッティング法(Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,Chapter 12,1988、Monoclonal Antibodies:Principles and Practice,Academic Press Limited,1996)などで測定することができる。
2.抗体断片の作製
抗体断片は、本項1に記載のヒト化抗体を元に遺伝子工学的手法あるいは蛋白質化学的手法により、作製することができる。抗体断片としては、Fab、F(ab’)2、Fab’、scFv、Diabody、dsFv、CDRを含むペプチドなどがあげられる。
(1)Fabの作製
Fabは、IgGを蛋白質分解酵素パパインで処理することにより、作製することができる。パパインの処理後は、元の抗体がプロテインA結合性を有するIgGサブクラスであれば、プロテインAカラムに通すことで、IgG分子やFc断片と分離し、均一なFabとして回収することができる(Monoclonal Antibodies:Principles and Practice,third edition,1995)。プロテインA結合性を持たないIgGサブクラスの抗体の場合は、イオン交換クロマトグラフィーにより、Fabは低塩濃度で溶出される画分中に回収することができる(Monoclonal Antibodies:Principles and Practice,third edition,1995)。また、Fabは、大腸菌を用いて遺伝子工学的に作製することもできる。例えば、本項1の(2)、(4)および(5)に記載の抗体のV領域をコードするDNAを、Fab発現用ベクターにクローニングし、Fab発現ベクターを作製することができる。Fab発現用ベクターとしては、Fab用のDNAを組み込み発現できるものであればいかなるものも用いることができる。例えば、pIT106(Science,240,1041,1988)などがあげられる。Fab発現ベクターを適当な大腸菌に導入し、封入体あるいはペリプラズマ層にFabを生成蓄積させることができる。封入体からは、通常蛋白質で用いられるリフォールディング法により、活性のあるFabとすることができ、また、ペリプラズマ層に発現させた場合は、培養上清中に活性を持ったFabが漏出する。リフォールディング後あるいは培養上清からは、抗原を結合させたカラムを用いることにより、均一なFabを精製することができる(Antibody Engineering,A Practical Guide,W.H.Freeman and Company,1992)。
(2)F(ab’)2の作製
F(ab’)2は、IgGを蛋白質分解酵素ペプシンで処理することにより、作製することができる。ペプシンの処理後は、Fabと同様の精製操作により、均一なF(ab’)2として回収することができる(Monoclonal Antibodies:Principles and Practice,third edition,Academic Press,1995)。また、本項2の(3)に記載のFab’をo−PDMやビスマレイミドヘキサン等のようなマレイミドで処理し、チオエーテル結合させる方法や、DTNBで処理し、S−S結合させる方法によっても作製することができる(Antibody Engineering,A Practical Approach,IRL PRESS,1996)。
(3)Fab’の作製
Fab’は、本項2の(2)に記載のF(ab’)2をジチオスレイトール等の還元剤で処理して得ることができる。また、Fab’は、大腸菌を用いて遺伝子工学的に作製することもできる。例えば、本項1の(2)、(4)および(5)に記載の抗体のV領域をコードするDNAを、Fab’発現用ベクターにクローニングし、Fab’発現ベクターを作製することができる。Fab’発現用ベクターとしては、Fab’用のDNAを組み込み発現できるものであればいかなるものも用いることができる。例えば、pAK19(Bio/Technology,10,163,1992)などがあげられる。Fab’発現ベクターを適当な大腸菌に導入し、封入体あるいはペリプラズマ層にFab’を生成蓄積させることができる。封入体からは、通常蛋白質で用いられるリフォールディング法により、活性のあるFab’とすることができ、また、ペリプラズマ層に発現させた場合は、リゾチームによる部分消化、浸透圧ショック、ソニケーション等の処理により菌を破砕し、菌体外へ回収させることができる。リフォールディング後あるいは菌の破砕液からは、プロテインGカラム等を用いることにより、均一なFab’を精製することができる(Antibody Engineering,A Practical Approach,IRL PRESS,1996)。
(4)scFvの作製
scFvは遺伝子工学的には、ファージまたは大腸菌を用いて作製することができる。例えば、本項1の(2)、(4)および(5)に記載の抗体のVHおよびVLをコードするDNAを、12残基以上のアミノ酸配列からなるポリペプチドリンカーをコードするDNAを介して連結し、scFvをコードするDNAを作製する。作製したDNAをscFv発現用ベクターにクローニングし、scFv発現ベクターを作製することができる。scFv発現用ベクターとしては、scFvのDNAを組み込み発現できるものであればいかなるものも用いることができる。例えば、pCANTAB5E(Pharmacia社製)、Phfa(Hum.Antibody Hybridoma,5,48,1994)などがあげられる。scFv発現ベクターを適当な大腸菌に導入し、ヘルパーファージを感染させることで、ファージ表面にscFvがファージ表面蛋白質と融合した形で発現するファージを得ることができる。また、scFv発現ベクターを導入した大腸菌の封入体あるいはペリプラズマ層にscFvを生成蓄積させることができる。封入体からは、通常蛋白質で用いられるリフォールディング法により、活性のあるscFvとすることができ、また、ペリプラズマ層に発現させた場合は、リゾチームによる部分消化、浸透圧ショック、ソニケーション等の処理により菌を破砕し、菌体外へ回収することができる。リフォールディング後あるいは菌の破砕液からは、陽イオン交換クロマトグラフィー等を用いることにより、均一なscFvを精製することができる(Antibody Engineering,A Practical Approach,IRL PRESS,1996)。
(5)Diabodyの作製
Diabodyは、上記のscFvを作製する際のポリペプチドリンカーを3〜10残基程度にすることで、作製することができる。1種類の抗体のVHおよびVLを用いた場合には、2価のDiabodyを、2種類の抗体のVHおよびVLを用いた場合は、2特異性を有するDiabodyを作製することができる(FEBS Letters,453,164,1999、Int.J.Cancer,77,763,1998)。
(6)dsFvの作製
dsFvは、大腸菌を用いて遺伝子工学的に作製することもできる。まず、本項1の(2)、(4)および(5)に記載の抗体のVHおよびVLをコードするDNAの適当な位置に変異を導入し、コードするアミノ酸残基がシステインに置換されたDNAを作製する。作製した各DNAをdsFv発現用ベクターにクローニングし、VHおよびVLの発現ベクターを作製することができる。dsFv発現用ベクターとしては、dsFv用のDNAを組み込み発現できるものであればいかなるものも用いることができる。例えば、pULI9(Protein Engineering,7,697,1994)などがあげられる。VHおよびVLの発現ベクターを適当な大腸菌に導入し、封入体あるいはペリプラズマ層にVHおよびVLを生成蓄積させることができる。封入体あるいはペリプラズマ層からVHおよびVLを得、混合し、通常蛋白質で用いられるリフォールディング法により、活性のあるdsFvとすることができる。リフォールディング後は、イオン交換クロマトグラフィーおよびゲル濾過等により、さらに精製することができる(Protein Engineering,7,697,1994)。
(7)CDRペプチドの作製
CDRを含むペプチドは、Fmoc法あるいはtBoc法等の化学合成法によって作製することができる。また、CDRを含むペプチドをコードするDNAを作製し、作製したDNAを適当な発現用ベクターにクローニングし、CDRペプチド発現ベクターを作製することができる。発現用ベクターとしては、CDRを含むペプチドをコードするDNAを組み込み発現できるものであればいかなるものも用いることができる。例えば、pLEX(Invitrogen社製)、pAX4a+(Invitrogen社製)などがあげられる。発現ベクターを適当な大腸菌に導入し、封入体あるいはペリプラズマ層にCDRを含むペプチドを生成蓄積させることができる。封入体あるいはペリプラズマ層からCDRを含むペプチドを得、イオン交換クロマトグラフィーおよびゲル濾過等により、精製することができる(Protein Engineering,7,697,1994)。
3.ヒト化抗体または抗体断片の活性評価
(1)抗原結合活性
作製したヒト化抗体または抗体断片のFGF−8に対する結合活性は、ELISAあるいは表面プラズモン共鳴(J.Immunol.Methods,145,229,1991)などにより測定できる。
(2)FGF−8の機能阻害活性
作製したヒト化抗体または抗体断片のFGF−8の機能阻害活性は、細胞株を用いた細胞増殖試験などにより測定できる。例えば、標的細胞としてマウス乳癌細胞株SC−3(Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,89,8928,1992)、マウス線維芽細胞株NIH3T3、あるいはヒト前立腺癌、乳癌、卵巣癌細胞株を、1〜100ng/mLのFGF−8あるいはテストステロンを含む培地にて培養する際、ヒト化抗体または抗体断片を最終濃度が0.001〜100μg/mLとなるように段階希釈して培地中に添加し、24〜72時間培養後、MTT[3−(4,5−ジメチル−2−チアゾニル)−2,5−ジフェニル−2H−テトラゾリウムブロマイド]溶液、セルカウンティングキット、WST−1キットなどを用いて生細胞数を測定することで、ヒト化抗体または抗体断片のFGF−8の機能阻害活性を測定することができる。また、ボルトン−ハンター法(Biochem.J.,133,527,1973)などで125I標識したFGF−8の上記の細胞株への結合測定系を用いて、ヒト化抗体または抗体断片のFGF−8の細胞表面上の受容体の結合阻害活性を測定することができる。
(3)in vivo抗腫瘍効果
作製したヒト化抗体または抗体断片のin vivo抗腫瘍効果は、例えば、以下に示すヌードマウスを用いた癌細胞移植系を用いて評価することができる。
a.初期癌モデルにおける抗腫瘍効果の評価
マウス乳癌細胞株SC−3の1×107cells/mLのPBS懸濁液を調製し、これを0.1mL/匹(1×106cells/匹)で6〜8週令のオスのヌードマウスの皮下に移植する。移植直後にヒト化抗体または抗体断片を10μg〜400μg/匹でマウス腹腔内または尾静脈に投与する。抗体は週1〜7回の頻度で合計1〜10回投与する。抗腫瘍効果は腫瘍移植後より14〜60日まで経時的に腫瘍体積を測定し、陰性対照抗体投与群または溶媒投与群と腫瘍体積を比較することにより評価できる。なお、腫瘍体積(V)は、ノギスを用いて長さ(L)、幅(W)、高さ(H)を測定し、下記の式により算出する。
(式)
V(mm3)=(L)×(W)×(H)×0.5236
b.進行癌モデルにおける抗腫瘍効果の評価
SC−3の1×107cells/mLのPBS懸濁液を調製し、これを0.1mL/匹(1×106cells/匹)で6〜8週令のオスのヌードマウスの皮下に移植する。腫瘍体積が約100〜300mm3となった時点より(腫瘍移植後14日目前後)、ヒト化抗体または抗体断片を10μg〜400μg/匹でマウス腹腔内または尾静脈に投与を開始する。抗体は週1〜7回の頻度で合計1〜10回投与する。抗腫瘍効果は、a.の初期癌モデルと同様にして評価することができる。
4.ヒト化抗体または抗体断片の使用方法
本発明のヒト化抗体または抗体断片は、性ホルモン依存性増殖を示すヒト癌細胞の増殖因子と考えられるFGF−8と特異的に結合し、かつFGF−8の機能を阻害するため、前立腺癌、乳癌、卵巣癌、精巣腫瘍などのヒト癌の診断、治療において有用であると考えられる。また、ヒト以外の動物の抗体に比べ、ヒト抗体のアミノ酸配列に由来する部分がほとんどであるため、ヒト体内において高い効果を示し、かつ、免疫原性が低く、その効果が長期間に渡り持続することが期待される。
本発明のヒト化抗体または抗体断片は、本発明の抗体断片は、単独で投与することも可能ではあるが、通常は薬理学的に許容される一つあるいはそれ以上の担体と一緒に混合し、製剤学の技術分野においてよく知られる任意の方法により製造した医薬製剤として提供するのが望ましい。
投与経路は、治療に際して最も効果的なものを使用するのが望ましく、経口投与、または口腔内、気道内、直腸内、皮下、筋肉内および静脈内などの非経口投与をあげることができ、抗体断片の場合、望ましくは静脈内投与をあげることができる。
投与形態としては、噴霧剤、カプセル剤、錠剤、顆粒剤、シロップ剤、乳剤、座剤、注射剤、軟膏、テープ剤などがあげられる。
経口投与に適当な製剤としては、乳剤、シロップ剤、カプセル剤、錠剤、散剤、顆粒剤などがあげられる。
乳剤およびシロップ剤のような液体調製物は、水、ショ糖、ソルビトール、果糖などの糖類、ポリエチレングリコール、プロピレングリコールなどのグリコール類、ごま油、オリーブ油、大豆油などの油類、p−ヒドロキシ安息香酸エステル類などの防腐剤、ストロベリーフレーバー、ペパーミントなどのフレーバー類等を添加剤として用いて製造できる。
カプセル剤、錠剤、散剤、顆粒剤等は、乳糖、ブドウ糖、ショ糖、マンニトールなどの賦形剤、デンプン、アルギン酸ナトリウムなどの崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、タルクなどの滑沢剤、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ゼラチンなどの結合剤、脂肪酸エステルなどの界面活性剤、グリセリンなどの可塑剤等を添加剤として用いて製造できる。
非経口投与に適当な製剤としては、注射剤、座剤、噴霧剤などがあげられる。
注射剤は、塩溶液、ブドウ糖溶液、あるいは両者の混合物からなる担体等を用いて調製される。
座剤はカカオ脂、水素化脂肪またはカルボン酸などの担体を用いて調製される。
また、噴霧剤は該抗体または抗体断片そのもの、ないしは受容者の口腔および気道粘膜を刺激せず、かつ該化合物を微細な粒子として分散させ吸収を容易にさせる担体等を用いて調製される。
担体として具体的には乳糖、グリセリンなどが例示される。抗体または抗体断片および用いる担体の性質により、エアロゾル、ドライパウダーなどの製剤が可能である。また、これらの非経口剤においても経口剤で添加剤として例示した成分を添加することもできる。
投与量または投与回数は、目的とする治療効果、投与方法、治療期間、年齢、体重等により異なるが、通常成人1日当たり0.01mg/kg〜20mg/kgである。
以下に、本発明の実施例を示すが、これにより本発明の範囲が限定されるものではない。
発明を実施するための最良の形態
実施例1 抗FGF−8キメラ抗体の作製
1.FGF−8に対するマウス抗体のV領域をコードするcDNAの単離、解析(1)FGF−8に対するマウス抗体生産ハイブリドーマ細胞からのmRNAの調製
FGF−8に対するマウス抗体(以下、抗FGF−8マウス抗体と称す)を生産するハイブリドーマKM1334(FERM BP−5451)の1×107細胞より、mRNAの調製キットであるFast Track mRNA Isolation Kit(Invitrogen社製)を用いて、添付の使用説明書に従い、mRNAを約8μg調製した。
(2)抗FGF−8マウス抗体のH鎖およびL鎖cDNAライブラリーの作製
実施例1の1項(1)で取得したKM1334のmRNAの5μgから、Time Saver cDNA Synthesis Kit(Amersham Pharmacia Biotech社製)を用いて、添付の使用説明書に従い、両端にEcoRI−NotIアダプターを有するcDNAを合成した。続いて、λZAPII Cloning Kit(Stratagene社製)を用いてcDNAライブラリーを作製した。まず、cDNA全量を20μlの滅菌水に溶解後、アガロースゲル電気泳動にて分画し、IgGクラスの抗体のH鎖に対応する約1.5kbのcDNA断片とκクラスのL鎖に対応する約1.0kbのcDNA断片をそれぞれ約0.1μg回収した。次に、各々の約1.5kbのcDNA断片0.1μgおよび約1.0kbのcDNA断片0.1μgと、制限酵素EcoRIで消化後Calf Intestine Alkaline Phosphataseで末端を脱リン酸化したλZAPIIベクター1μgとを、添付の使用説明書に従い連結した。
連結後の各々の反応液のうち4μlをGigapack II Packaging Extracts Gold(Stratagene社製)を用いて、添付の使用説明書に従い、λファージにパッケージングし、適当量を大腸菌株XL1−Blue(Biotechniques,5,376,1987)に感染させて、KM1334のH鎖cDNAライブラリーおよびL鎖cDNAライブラリーとしてそれぞれ約8.1×104個と、5.5×104個のファージクローンを取得した。次に各々のファージを常法(Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Lab.Press New York,1989)に従い、ナイロンメンブレン上に固定した。
(3)抗FGF−8マウス抗体のH鎖およびL鎖cDNAのクローニング
実施例1の1項(2)で作製したKM1334のH鎖cDNAライブラリーおよびL鎖cDNAライブリーのナイロンメンブレンを、ECL Direct Nucleic Acid Labelling and Detection Systems(Amersham Pharmacia Biotech社製)を用いて、添付の使用説明書に従い、マウス抗体のC領域のcDNA〔H鎖はマウスCγ1cDNAを含むDNA断片(J.Immunol.,146,2010,1991)、L鎖はマウスCκcDNAを含むDNA断片(Cell,22,197,1980)〕をプローブとして検出し、プローブに強く結合したファージクローンをH鎖、L鎖各10クローン取得した。次に、λZAPII Cloning Kit(Stratagene社製)の使用説明書に従い、in vivo excision法により各ファージクローンをプラスミドに変換した。こうして得られた各プラスミドに含まれるcDNAの塩基配列をBig Dye Terminator Kit ver.2(Appliedbiosystems社製)を用いてジデオキシ法(Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Lab.Press New York,1989)により決定した。その結果、cDNAの5’末端に開始コドンと推定されるATG配列が存在する完全長の機能的なH鎖cDNAを含むプラスミドpKM1334H7−1およびL鎖cDNAを含むプラスミドpKM1334L7−1を得た。
(4)抗FGF−8マウス抗体のV領域のアミノ酸配列の解析
配列番号1にプラスミドpKM1334H7−1に含まれていたVHの全塩基配列、配列番号2に推定された全アミノ酸配列、配列番号3にプラスミドpKM1334L7−1に含まれていたVLの全塩基配列、配列番号4に推定された全アミノ酸配列をそれぞれ示す。既知のマウス抗体の配列データ(Sequences of Proteins of Immunological Interest,US Dept.Health and Human Services,1991)との比較および精製した抗FGF−8マウス抗体KM1334のH鎖およびL鎖のN末端アミノ酸配列をプロテインシーケンサーPPSQ−10(島津製作所製)を用いて自動エドマン分解により解析した結果との比較から、単離した各々のcDNAは分泌シグナル配列を含む抗FGF−8マウス抗体KM1334をコードする完全長cDNAであり、H鎖については配列番号2に記載のアミノ酸配列の1から19番目が、L鎖については配列番号4に記載のアミノ酸配列の1から19番目が分泌シグナル配列であることが明らかとなった。なお、分泌シグナル配列を除いたアミノ酸配列で、VHを配列番号40に、VLを配列番号41にそれぞれ示した。
次に、抗FGF−8マウス抗体KM1334のVHおよびVLのアミノ酸配列の新規性について検討した。配列解析システムとしてGCG Package(version 9.1、Genetics Computer Group社製)を用い、既存の蛋白質のアミノ酸配列データベース(PIR−Protein(Release 56.0))をBLAST法(J.Mol.Biol.,215,403,1990)により検索した。その結果、H鎖、L鎖ともに完全に一致する配列は認められず、抗FGF−8マウス抗体KM1334のVHおよびVLは新規なアミノ酸配列であることが確認された。
また、抗FGF−8マウス抗体KM1334のVHおよびVLのCDRを、既知の抗体のアミノ酸配列と比較することにより同定した。抗FGF−8マウス抗体KM1334のVHのCDR1、2および3のアミノ酸配列をそれぞれ配列番号5、6および7に、VLのCDR1、2および3のアミノ酸配列をそれぞれ配列番号8、9および10に示した。
2.抗FGF−8キメラ抗体の動物細胞を用いた安定発現
(1)抗FGF−8キメラ抗体のVHcDNAを含むプラスミドの構築
実施例1の1項(3)で得られたプラスミドpKM1334H7−1の50ngを鋳型とし、配列番号11、12に記載の塩基配列を有する合成DNA(GENSET社製)をプライマーとして終濃度0.3μmol/Lol/Lとなるように加え、KOD plus polymerase(TOYOBO社製)に添付の使用説明書に従い、全量50μLでまず94℃で2分間加熱した後、94℃15秒間、57℃30秒間、68℃1分間の条件で30サイクルのPCR反応を行った。該反応液を精製した後、滅菌水に溶解し、10単位の制限酵素EcoRI(宝酒造社製)を用いて37℃で1時間反応させた。該反応液をアガロースゲル電気泳動にて分画し、約0.48kbのEcoRI断片(5’末端側がEcoRI、3’末端側は平滑末端)を約0.3μg回収した。
次に、プラスミドpBluescript SK(−)の3μgに、10単位の制限酵素EcoRI(宝酒造社製)及び10単位の制限酵素EcoRV(宝酒造社製)を37℃で1時間反応させた。該反応液をアガロースゲル電気泳動にて分画し、約2.95kbのEcoRI−EcoRV断片を約2μg回収した。
次に、上記で得られたVHcDNAのEcoRI断片0.1μgとプラスミドpBluescript SK(−)由来のEcoRI−EcoRV断片0.1μgとを全量10μlの滅菌水に加え、Ligation High(TOYOBO社製)を用いて連結した。この様にして得られた組換えプラスミドDNA溶液を用いて大腸菌XL1−Blue株を形質転換し、第1図に示した抗FGF−8キメラ抗体のVHcDNAを含むプラスミドpKM1334CH−H5を得た。
(2)抗FGF−8キメラ抗体のVLcDNAを含むプラスミドの構築
実施例1の1項(3)で得られたプラスミドpKM1334L7−1の50ngを鋳型とし、配列番号13、14に記載の塩基配列を有する合成DNA(GENSET社製)をプライマーとして終濃度0.3μmol/Lとなるように加え、KOD plus polymerase(TOYOBO社製)に添付の使用説明書に従い、全量50μLでまず94℃で2分間加熱した後、94℃15秒間、57℃30秒間、68℃1分間の条件で30サイクルのPCR反応を行った。該反応液を精製した後、滅菌水に溶解し、10単位の制限酵素EcoRI(宝酒造社製)を用いて37℃で1時間反応させた。該反応液をアガロースゲル電気泳動にて分画し、約0.45kbのEcoRI断片(5’末端側がEcoRI、3’末端側は平滑末端)を約0.3μg回収した。
次に、上記で得られたVLcDNAのEcoRI断片0.1μgとプラスミドpBluescript SK(−)由来のEcoRI−EcoRV断片0.1μgを全量10μlの滅菌水に加え、Ligation High(TOYOBO社製)を用いて連結した。この様にして得られた組換えプラスミドDNA溶液を用いて大腸菌XL1−Blue株を形質転換し、第2図に示した抗FGF−8キメラ抗体のVLcDNAを含むプラスミドpKM1334CH−L4を得た。
(3)抗FGF−8キメラ抗体発現ベクターpKANTEX1334の構築
WO97/10354に記載のヒト化抗体発現用ベクターpKANTEX93と実施例1の2項(1)および(2)で得られたプラスミドpKM1334CH−H5およびpKM1334CH−L4を用いて抗FGF−8キメラ抗体発現ベクターpKANTEX1334を以下の様にして構築した。
実施例1の2項(1)で得られたプラスミドpKM1334CH−H5の3μgに、10単位の制限酵素NotI(New England Biolabs社製)及び10単位の制限酵素ApaI(宝酒造社製)とを37℃で1時間反応させた。該反応液をアガロースゲル電気泳動にて分画し、約0.48kbのNotI−ApaI断片を約0.2μg回収した。
次に、ヒト化抗体発現用ベクターpKANTEX93の3μgに、10単位の制限酵素ApaI(宝酒造社製)および10単位の制限酵素NotI(New England Biolabs社製)とを37℃で1時間反応させた。該反応液をアガロースゲル電気泳動にて分画し、約12.8kbのApaI−NotI断片を約2μg回収した。
次に、上記で得られたプラスミドpKM1334CH−H5由来のNotI−ApaI断片0.1μgとプラスミドpKANTEX93由来のNotI−ApaI断片0.1μgとを全量10μLの滅菌水に加え、Ligation High(TOYOBO社製)を用いて連結した。この様にして得られた組換えプラスミドDNA溶液を用いて大腸菌XL1−Blue株を形質転換し、第3図に示したプラスミドpKANTEX1334Hを得た。
次に、実施例1の2項(2)で得られたプラスミドpKM1334CH−L4の3μgに、10単位の制限酵素EcoRI(宝酒造社製)及び10単位の制限酵素BsiWI(New England Biolabs社製)とを37℃で1時間反応させた。該反応液をアガロースゲル電気泳動にて分画し、約0.45kbのEcoRI−BsiWI断片を約0.2μg回収した。
次に、上記で得られたプラスミドpKANTEX1334Hの3μgに、10単位の制限酵素EcoRI(宝酒造社製)および制限酵素BsiWI(New England Biolabs社製)を用いて37℃で1時間反応させた。該反応液をアガロースゲル電気泳動にて分画し、約13.30kbのEcoRI−BsiWI断片を約2μg回収した。
次に、上記で得られたプラスミドpKM1334CH−L4由来のEcoRI−BsiWI断片0.1μgとをプラスミドpKANTEX1334H由来のEcoRI−BsiWI断片0.1μgを全量10μLの滅菌水に加え、Ligation High(TOYOBO社製)を用いて連結した。この様にして得られた組換えプラスミドDNA溶液を用いて大腸菌XL1−Blue株を形質転換し、第3図に示したプラスミドpKANTEX1334を得た。
得られたプラスミドの400ngを用い、Big Dye Terminator Kit ver.2(Appliedbiosystems社製)を用いてジデオキシ法(Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Lab.Press New York,1989)による塩基配列の解析を行った結果、目的のDNAがクローニングされたプラスミドが得られたことを確認した。
(4)抗FGF−8キメラ抗体のCHO/DG44細胞を用いた安定発現
上記実施例1の2項(3)で得られた抗FGF−8キメラ抗体発現ベクターpKANTEX1334を用いて抗FGF−8キメラ抗体のCHO/DG44細胞(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,77,4216,1980)での発現を以下の様にして行った。
プラスミドpKANTEX1334の10μgを1.6×106細胞のCHO/DG44細胞へエレクトロポレーション法(Cytotechnology,3,133,1990)により導入後、10〜30mLのIMDM−1×HT supplement−dFBS(10)[透析牛胎児血清(dFBS)を10%と1×HT supplementを含むIMDM培地(何れもGIBCO社製)]に懸濁し、96ウェルマイクロタイタープレート(IWAKI社製)に100μL/ウェルずつ分注した。5%CO2インキュベーター内で37℃、24時間培養した後、培養液をHT supplementのみを除いた培地IMDM−dFBS(10)と交換してさらに1〜2週間培養した。耐性コロニーが出現しコンフルエントになったウェルより培養上清を回収し、上清中の抗FGF−8キメラ抗体の抗原結合活性を実施例1の2項(6)に示すELISAにより測定した。
培養上清中に抗FGF−8キメラ抗体の発現が認められたウェルの形質転換株については24ウェルプレートに播種し、dhfr遺伝子増幅系を利用して抗体発現量を増加させる目的で、dhfr遺伝子産物のジヒドロ葉酸還元酵素の阻害剤であるメソトレキセート(MTX;SIGMA社製)を50nmol/L含むIMDM−dFBS(10)で2週間培養した。更にMTX濃度を200nmol/L、500nmol/Lと高くし、それぞれの段階で2週間ずつ培養を行い、500nmol/L MTX耐性を示す形質転換株を誘導した。形質転換株がウェルにコンフルエントになった時点で培養上清中の抗FGF−8キメラ抗体の抗原結合活性を実施例1の2項(6)に示すELISAにより測定した。最終的に、500nmol/LのMTXを含むIMDM−dFBS(10)培地で増殖可能かつ、抗FGF−8キメラ抗体を高発現する形質転換株を得た。得られた形質転換株については、限界希釈法による単一細胞化(クローン化)を行い、抗FGF−8キメラ抗体の発現の最も高い形質転換細胞クローンをKM3034と命名した。なお、KM3034は平成13年12月26日付けで独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(〒305−8566 日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)にFERM BP−7836として寄託されている。
(5)抗FGF−8キメラ抗体のYB2/0細胞を用いた安定発現
上記実施例1の2項(3)で得られた抗FGF−8キメラ抗体発現ベクターpKANTEX1334を用いて抗FGF−8キメラ抗体のラットハイブリドーマYB2/0細胞(ATCC CRL1662)での発現を以下の様にして行った。
プラスミドpKANTEX1334の10μgを4×106細胞のYB2/0細胞(ATCC CRL1662)へエレクトロポレーション法(Cytotechnology,3,133,1990)により導入後、40mLのHybridoma−SFM−FBS(5)[牛胎児血清(FBS;PAAラボラトリーズ社製)を5%含むHybridoma−SFM培地(Gibco社製)]に懸濁し、96ウェル培養用プレート(住友ベークライト社製)に200μL/ウェルずつ分注した。5%CO2インキュベーター内で37℃、24時間培養した後、G418を1mg/mLになるように添加して1〜2週間培養した。G418耐性を示す形質転換株のコロニーが出現し、増殖の認められたウェルより培養上清を回収し、上清中の抗FGF−8キメラ抗体の抗原結合活性を実施例1の2項(6)に示すELISAにより測定した。
培養上清中に抗FGF−8キメラ抗体の発現が認められたウェルの形質転換株については、dhfr遺伝子増幅系を利用して抗体発現量を増加させる目的で、G418を1mg/mL、MTX(SIGMA社製)を50nmol/L含むHybridoma−SFM−FBS(5)培地に1〜2×105細胞/mLになるように懸濁し、24ウェルプレート(Greiner社製)に1mLずつ分注した。5%CO2インキュベーター内で37℃で1〜2週間培養して、50nmol/L MTX耐性を示す形質転換株を誘導した。形質転換株の増殖が認められたウェルの培養上清中の抗FGF−8キメラ抗体の抗原結合活性を実施例1の2項(6)に示すELISAにより測定した。
培養上清中に抗FGF−8キメラ抗体の発現が認められたウェルの形質転換株については、上記と同様の方法により、MTX濃度を上昇させ、終濃度が1mg/mLのG418、200nmol/LのMTXを含むHybridoma−SFM−FBS(5)培地で増殖可能かつ、抗FGF−8キメラ抗体を高発現する形質転換株5−Dを得た。得られた形質転換株について、限界希釈法によるクローン化を行い、抗FGF−8キメラ抗体の発現の最も高い形質転換細胞株を得た。得られた形質転換細胞株をKM3334と命名した。
(6)抗体のFGF−8部分ペプチドに対する結合活性(ELISA)
抗FGF−8抗体が反応し得るヒトFGF−8ペプチドとして化合物1(配列番号15)を選択した。ELISA法による活性測定に用いるため、以下の方法で牛血清アルブミン(BSA;ナカライテスク社製)とのコンジュゲートを作製し、抗原として用いた。すなわち、10mgのBSAを含むPBS溶液900μLに、100μLの25mg/mL SMCC[4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボキシリックアシッドN−ヒドロキシサクシンイミドエステル](シグマ社製)−DMSO溶液を攪拌しながら滴下し、30分間ゆっくりと攪拌した。25mLのPBSで平衡化したNAP−10カラムなどのゲルろ過カラムに反応液1mLをアプライし、1.5mLのPBSで溶出させた溶出液をBSA−SMCC溶液とした。各画分のBSA濃度は280nmの吸光度で測定した。次に、1.0mgの化合物1に200μL DMSOを加え、次いで800μL PBSを加えて完全に溶解させた後、前述のBSA−SMCC溶液(BSA換算2.5mg)を攪拌下で添加して室温で3時間ゆっくり攪拌した。反応液をPBSに対して4℃、一晩透析し、最終濃度0.05%となるようにアジ化ナトリウムを添加して、0.22μmフィルターでろ過した後BSA−化合物1溶液とした。
96ウェルのELISA用プレート(グライナー社製)に、上述のように調製したコンジュゲートを0.5〜1.0μg/mLの濃度で50μL/ウェルで分注し、4℃で一晩放置して吸着させた。PBSで洗浄後、1%BSAを含むPBS(BSA−PBS)を100μL/ウェルで加え、室温で1時間反応させて残存する活性基をブロックした。各ウェルを0.05%Tweenを含むPBS(Tween−PBS)で洗浄後、形質転換株の培養上清あるいは精製抗体を50μL/ウェルで加え、室温で1時間反応させた。反応後、各ウェルをTween−PBSで洗浄後、BSA−PBSで3000−6000倍に希釈したペルオキシダーゼ標識ヤギ抗ヒトIgG(H&L)抗体溶液(American Qualex社製)を二次抗体溶液として、50μL/ウェルで加え、室温で1時間反応させた。反応後、Tween−PBSで洗浄後、ABTS基質液[2,2’−アジノ−ビス(3−エチルベンゾチアゾリン−6−スルホン酸)アンモニウムの0.55gを1Lの0.1Mクエン酸緩衝液(pH4.2)に溶解し、使用直前に過酸化水素水を1μL/mLで添加した溶液]を50μL/ウェルで加えて発色させ、5分後に5%SDS溶液を50μL/ウェル加えて反応を停止した。その後、415nmの吸光度(OD415)を測定した。
3.抗FGF−8キメラ抗体の精製
(1)CHO/DG44細胞由来の発現細胞の培養及び抗体の精製
実施例1の2項(4)で得られた抗FGF−8キメラ抗体を発現する形質転換細胞株KM3034を500nmol/L MTXを含むIMDM−dFBS(10)培地に1〜2×105細胞/mLとなるように懸濁し、175cm2フラスコ(Greiner社製)に40mLずつ分注した。5%CO2インキュベーター内で37℃で5〜7日間培養し、コンフルエントに達した時点で培養上清を除去し、20mLのPBSにて細胞を洗浄した。PBSを除去し、40mLのEXCELL301培地(JRH社製)を加え、5%CO2インキュベーター内で37℃にて7〜14日間培養後、培養上清を回収した。培養上清よりProsep−A(ミリポア社製)カラムを用いて、添付の説明書に従い、抗FGF−8キメラ抗体を精製した。得られた抗FGF−8キメラ抗体はKM3034と名付けた。
(2)YB2/0細胞由来の発現細胞の培養及び抗体の精製
実施例1の2項(5)で得られた抗FGF−8キメラ抗体を発現する形質転換細胞株KM3334を200nmol/L MTX、Daigo’s GF21(和光純薬社製)を5%の濃度で含むHybridoma−SFM(Gibco社製)培地中で、175cm2フラスコ(Greiner社製)にて5%CO2インキュベーター内で37℃にて培養した。8−10日間培養して回収した培養上清より、Prosep−A(ミリポア社製)カラムを用いて、添付の説明書に従い、抗FGF−8キメラ抗体を精製した。得られた抗FGF−8キメラ抗体はKM3334と名付けた。
4.精製した抗FGF−8キメラ抗体の解析
実施例1の3項で得られた各種動物細胞で発現、精製した2種類の抗FGF−8キメラ抗体KM3034およびKM3334の各4μgを公知の方法(Nature,227,680,1970)に従ってSDS−電気泳動にかけ、分子量及び精製度を解析した。精製した各抗FGF−8キメラ抗体は、いずれも非還元条件下では分子量が約150Kdの単一のバンドが、還元条件下では約50Kdと約25Kdの2本のバンドが認められた。これらの分子量は、抗体のH鎖及びL鎖のcDNAの塩基配列から推定される分子量(H鎖:約49Kd、L鎖:約23Kd、分子全体:約144Kd)とほぼ一致し、更に、IgG型の抗体は、非還元条件下では分子量は約150Kdであり、還元条件下では分子内のS−S結合が切断され、分子量約50KdのH鎖と約25KdのL鎖にそれぞれ分解されるという報告(Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,Chapter 14,1988;Monoclonal Antibodies:Principles and Practice,Academic Press Limited,1996)と一致し、これにより抗FGF−8キメラ抗体が正しい構造の抗体分子として発現され、かつ精製されたことが確認された。
5.精製した抗FGF−8キメラ抗体の活性評価
精製した抗FGF−8キメラ抗体のFGF−8中和活性の評価は、以下に示すマウス乳癌細胞株SC−3(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,89,8928,1992)のFGF−8依存性増殖抑制効果により測定した。即ち、SC−3細胞を3.0×104細胞/mLの濃度で活性炭処理をしたFBSを2%で含むDMEM:Ham’sF12(1:1)培地(Gibco社製)に懸濁し、150μL(4.5×103細胞)/ウェルずつ96ウェルプレートに播種した。5%CO2インキュベーター内で37℃、18時間培養後、100μL/ウェルの試験培地を用いて培地交換した。試験培地は、50ng/mLのFGF−8(R&D社製)及び各希釈濃度の抗FGF−8キメラ抗体を、BSAを0.1%で含むDMEM:Ham’sF12(1:1)培地に溶解することにより作製した。また、陰性対照の抗体としてWO01/64754に記載のヒトケモカインCCR4に対するキメラ抗体KM2760を用いた。5%CO2インキュベーター内で37℃、48時間培養後、新たに調製した試験培地と交換し、さらに48時間培養した。WST−1試薬(Roche社製)を10μL/ウェルずつ添加し、軽く攪拌して5%CO2インキュベーター内で37℃、1時間培養後OD450/650を測定した。第4図において、横軸は添加した抗体濃度、縦軸は50ng/mLのFGF−8のみの添加時の増殖に対する相対増殖(%)を示す。50ng/mLのFGF−8のみの添加時の増殖に対する相対増殖(%)は下記の式により算出された。
(式)
FGF−8添加時の増殖に対する相対増殖(%)={(FGF−8及び抗体添加時のOD値−FGF−8及び抗体未添加時のOD値)/(FGF−8のみ添加時のOD値−FGF−8及び抗体未添加時のOD値)}×100
第4図に示したように、抗FGF−8マウス抗体KM1334、抗FGF−8キメラ抗体KM3034およびKM3334は、いずれも同等のSC−3細胞増殖阻害活性を示し、キメラ抗体化による活性の低下は認められなかった。
実施例2 FGF−8に対するヒト型CDR移植抗体の作製
1.FGF−8に対するヒト型CDR移植抗体のVHおよびVLをコードするcDNAの構築
(1)FGF−8に対するヒト型CDR移植抗体のVHおよびVLのアミノ酸配列の設計
まず、FGF−8に対するヒト型CDR移植抗体(抗FGF−8CDR移植抗体)のVHのアミノ酸配列を以下の様にして設計した。実施例1の1項(4)で同定した抗FGF−8マウス抗体KM1334のVHのCDRのアミノ酸配列を移植するためのヒト抗体のVHのFRのアミノ酸配列を選択した。カバットらは、既知の様々なヒト抗体のVHをそのアミノ酸配列の相同性から3種類のサブグループ(HSG I〜III)に分類し、更に、それら各サブグループ毎に共通配列を報告している(Sequences of Proteins of Immunological Interest,US Dept.Health and Human Services,1991)。それら共通配列は、ヒトにおいてより免疫原性が低下する可能性が考えられることから、それら共通配列を基に抗FGF−8CDR移植抗体のVHのアミノ酸配列を設計することとした。より活性の高い抗FGF−8CDR移植抗体を作製するために、設計にあたってはヒト抗体のVHの3種類のサブグループの共通配列のFRのアミノ酸配列のうち、KM1334のVHのFRのアミノ酸配列と最も高い相同性を有するFRのアミノ酸配列を選択した。第1表には、相同性の検索結果を示した。第1表に示した様に、KM1334のVH領域のFRのアミノ酸配列はサブグループIと最も高い相同性を有していた。
以上の結果から、ヒト抗体のVHのサブグループIの共通配列のFRのアミノ酸配列の適切な位置に抗FGF−8マウス抗体KM1334のVHのCDRのアミノ酸配列を移植し、配列番号16に記載の抗FGF−8CDR移植抗体のVHのアミノ酸配列HV.0を設計した。
次に、抗FGF−8CDR移植抗体のVLのアミノ酸配列を以下の様にして設計した。実施例1の1項(4)で同定した抗FGF−8マウス抗体KM1334のVLのCDRのアミノ酸配列を移植するためのヒト抗体のVLのFRのアミノ酸配列を選択した。カバットらは、既知の様々なヒト抗体のVLをそのアミノ酸配列の相同性から4種類のサブグループ(HSG I〜IV)に分類し、更に、それら各サブグループ毎に共通配列を報告している(Sequences of Proteins of Immunological Interest,US Dept.Health and Human Services,1991)。そこでVHの場合と同様にして、ヒト抗体のVLの4種類のサブグループの共通配列のFRのアミノ酸配列のうち、KM1334のVLのFRのアミノ酸配列と最も高い相同性を有するFRのアミノ酸配列を選択した。
第2表には、相同性の検索結果を示した。第2表に示した様に、KM1334のVLのFRのアミノ酸配列はサブグループIIと最も高い相同性を有していた。
以上の結果から、ヒト抗体のVLのサブグループIIの共通配列のFRのアミノ酸配列の適切な位置に抗FGF−8マウス抗体KM1334のVLのCDRのアミノ酸配列を移植し、配列番号17に記載の抗FGF−8CDR移植抗体のVLのアミノ酸配列LV.0を設計した。
上記で設計した抗FGF−8CDR移植抗体のVHのアミノ酸配列HV.0およびVLのアミノ酸配列LV.0は、選択したヒト抗体のFRのアミノ酸配列に抗FGF−8マウス抗体KM1334のCDRのアミノ酸配列のみを移植した配列である。多くの場合、ヒト型CDR移植抗体では、マウス抗体のCDRのアミノ酸配列の移植のみでは結合活性が低下してしまう。それを回避するため、ヒト抗体とマウス抗体とのFRアミノ酸配列を比較し、異なっているFRのアミノ酸残基のうち、結合活性に影響を与えると考えられるアミノ酸残基をCDRのアミノ酸配列とともに移植することが行われている。そこで、本実施例においても、結合活性に影響を与えると考えられるFRのアミノ酸残基を同定することを検討した。
まず、上記で設計した抗FGF−8CDR移植抗体のVHのアミノ酸配列HV.0およびVLのアミノ酸配列LV.0よりなる抗体V領域(HV0LV0)の三次元構造をコンピューターモデリングの手法を用いて構築した。三次元構造座標作製に関してはソフトウェアAbM(Oxford Molecular社製)を、三次元構造の表示についてはソフトウェアPro−Explore(Oxford Molecular社製)あるいはRasMol(Glaxo社製)を用いてそれぞれ添付の使用説明書に従い、行った。また、抗FGF−8マウス抗体KM1334のV領域の三次元構造のコンピューターモデルも同様にして構築した。更に、HV0LV0のVHおよびVLのFRのアミノ酸配列において、抗FGF−8マウス抗体KM1334と異なっているアミノ酸残基について順次、抗FGF−8マウス抗体KM1334の相当する位置に見られるアミノ酸残基へ改変したアミノ酸配列からなる改変体のV領域三次元構造モデルを同様にして構築し、抗FGF−8マウス抗体KM1334、HV0LV0および改変体のV領域の三次元構造を比較した。その結果、HV0LV0のFRのアミノ酸残基の中で抗原結合部位の三次元構造を変化させ、抗体の活性に影響を与えると考えられる残基として、HV.0において12番目のLys、13番目のLys、40番目のAla、41番目のPro、48番目のMet、68番目のVal、70番目のIle、74番目のThr、76番目のThr、82番目のGlu、87番目のArg、95番目のTyrを、LV.0において2番目のIle、3番目のVal、14番目のThr、15番目のPro、50番目のGln、51番目のLeu、92番目のTyrを選択し、アミノ酸を改変することとした。これらの選択したアミノ酸残基のうち、少なくとも1つ以上をマウス抗体KM1334に見られるアミノ残基へ改変し、様々な改変を有するヒト型CDR移植抗体のVHおよびVLを以下のように設計した。
具体的には、VHとしては、12番目のLys、13番目のLys、40番目のAla、41番目のPro、48番目のMet、95番目のTyrの6残基をそれぞれマウス抗体KM1334に見られるアミノ酸残基であるAla、Arg、Arg、Ser、Ile、Pheに改変した配列番号18に記載のアミノ酸配列HV.6を設計した。VLとしては、2番目のIle、14番目のThr、15番目のPro、50番目のGln、51番目のLeu、92番目のTyrの6残基をそれぞれマウス抗体KM1334に見られるアミノ酸残基であるVal、Ser、Leu、Lys、Val、Pheに改変した配列番号19に記載のアミノ酸配列LV.6を設計した。
(2)抗FGF−8CDR移植抗体のVHをコードするcDNAの構築
実施例2の1項(1)で設計した抗FGF−8CDR移植抗体のVHのアミノ酸配列HV.0をコードするcDNAをPCR法を用いて以下の様にして構築した。
まず、設計したアミノ酸配列に配列番号2に記載の抗FGF−8マウス抗体KM1334のH鎖の分泌シグナル配列を繋げて完全な抗体アミノ酸配列とした。次に、該アミノ酸配列を遺伝子コドンに変換した。1つのアミノ酸残基に対して複数の遺伝子コドンが存在する場合は、抗体の遺伝子の塩基配列に見られる使用頻度(Sequences of Proteins of Immunological Interest,US Dept.Health and Human Services,1991)を考慮し、対応する遺伝子コドンを決定した。決定した遺伝子コドンを繋げて、完全な抗体V領域のアミノ酸配列をコードするcDNAの塩基配列を設計し、更に5’末端と3’末端にPCR反応時の増幅用プライマーの結合塩基配列(ヒト化抗体発現用ベクターへクローニングするための制限酵素認識配列も含む)を付加した。設計した塩基配列を5’末端側から141塩基ずつ区切り、区切った塩基の隣り合う塩基の約20塩基が重複する様にし、センス鎖、アンチセンス鎖の交互に作製した。具体的には、配列番号20から23の4本の合成オリゴヌクレオチドを合成した(GENSET社製)。
各オリゴヌクレオチドを最終濃度が0.1μmol/Lとなる様に50μLの反応液に加えて、0.5μmol/L M13 primer RV(宝酒造社製)、0.5μmol/L M13 primer M4(宝酒造社製)および2.5単位のKOD polymerase(TOYOBO社製)を用いて、KOD polymeraseに添付の使用説明書に従い、PCR反応を行った。反応条件は、94℃で5分間加熱した後、94℃30秒間、50℃30秒間、74℃60秒間のサイクルを25サイクル行い、さらに74℃で5分間加熱した。該反応液をエタノール沈殿した後、滅菌水に溶解し、10単位の制限酵素EcoRI(宝酒造社製)および10単位の制限酵素SpeI(宝酒造社製)を用いて37℃で1時間反応させた。該反応液をアガロースゲル電気泳動にて分画し、約0.47kbのEcoRI−SpeI断片を約0.3μg回収した。
次に、プラスミドpBluescript II SK(−)(Stratagene社製)の3μgに、10単位の制限酵素EcoRI(宝酒造社製)および10単位の制限酵素SpeI(宝酒造社製)を37℃で1時間反応させた。該反応液をアガロースゲル電気泳動にて分画し、約2.95kbのEcoRI−SpeI断片を約2.9μg回収した。
次に、上記で得られた抗FGF−8CDR移植抗体のVHのPCR産物のEcoRI−SpeI断片0.1μgとプラスミドpBluescript II SK(−)のEcoRI−SpeI断片0.1μgとを全量10μLの滅菌水に加え、Ligation High(TOYOBO社製)を用いて連結した。この様にして得られた組換えプラスミドDNA溶液を用いて大腸菌DH5α株(TOYOBO社製)を形質転換し、形質転換株の10個のクローンより各プラスミドDNAを調製し、Big Dye Terminator Kit ver.2(Appliedbiosystems社製)を用いてジデオキシ法(Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Lab.Press New York,1989)による塩基配列の解析を行った。塩基配列を解析した結果、目的の塩基配列を有する第5図に示したプラスミドpKM1334HV0を得た。
また、実施例2の1項(1)で設計した抗FGF−8CDR移植抗体のVHのアミノ酸配列HV.6をコードするcDNAは、合成DNAとして配列番号24から27の4本の合成オリゴヌクレオチド(GENSET社製)を用いて上記と同様にしてPCR法により構築した。その結果、HV.6をコードするcDNAを含むプラスミドpKM1334HV6を得た。
(3)抗FGF−8CDR移植抗体のVLをコードするcDNAの構築
実施例2の1項(1)で設計した抗FGF−8CDR移植抗体のVLのアミノ酸配列LV.0をコードするcDNAをVHと同様にPCR法により構築した。ただし、分泌シグナル配列としては、配列番号4に記載の抗FGF−8マウス抗体KM1334のL鎖の配列を用い、合成DNAとして配列番号28から31の4本の合成オリゴヌクレオチド(GENSET社製)を用いた。その結果、LV.0をコードするcDNAを含むプラスミドpKM1334LV0を得た。
また、実施例2の1項(1)で設計した抗FGF−8CDR移植抗体のVLのアミノ酸配列LV.6をコードするcDNAは、合成DNAとして配列番号32から35の4本の合成オリゴヌクレオチド(GENSET社製)を用いて上記と同様にしてPCR法により構築した。その結果、LV.6をコードするcDNAを含むプラスミドpKM1334LV6を得た。
2.抗FGF−8CDR移植抗体発現ベクターの構築
WO97/10354に記載のヒト化抗体発現用ベクターpKANTEX93と実施例2の1項(2)および(3)で得られたプラスミドpKM1334HV0およびpKM1334LV0とを用いて抗FGF−8CDR移植抗体発現ベクターpKANTEX1334HV0LV0を以下の様にして構築した。
実施例2の1項(2)で得られたプラスミドpKM1334HV0の3μgに、10単位の制限酵素ApaI(宝酒造社製)及び10単位の制限酵素NotI(宝酒造社製)を用いて37℃で1時間反応させた。該反応液をアガロースゲル電気泳動にて分画し、約0.47kbのApaI−NotI断片を約0.3μg回収した。
次に、ヒト化抗体発現用ベクターpKANTEX93の3μgに、10単位の制限酵素ApaI(宝酒造社製)及び10単位の制限酵素NotI(宝酒造社製)を37℃で1時間反応させた。該反応液をアガロースゲル電気泳動にて分画し、約12.8kbのApaI−NotI断片を約2μg回収した。
次に、上記で得られたpKM1334HV0由来のNotI−ApaI断片0.1μgとプラスミドpKANTEX93由来のNotI−ApaI断片0.1μgとを全量10μLの滅菌水に加え、Ligation High(TOYOBO社製)を用いて連結した。この様にして得られた組換えプラスミドDNA溶液を用いて大腸菌DH5α株を形質転換し、第6図に示したプラスミドpKANTEX1334HV0を得た。
次に、実施例2の1項(3)で得られたプラスミドpKM1334LV0の3μgに、10単位の制限酵素EcoRI(宝酒造社製)及び10単位の制限酵素BsiWI(New England Biolabs社製)を37℃で1時間反応させた。該反応液をアガロースゲル電気泳動にて分画し、約0.45kbのEcoRI−BsiWI断片を約0.3μg回収した。
次に、上記で得られたプラスミドpKANTEX1334HV0の3μgに、10単位の制限酵素EcoRI(宝酒造社製)及び制限酵素BsiWI(New England Biolabs社製)を37℃で1時間反応させた。該反応液をアガロースゲル電気泳動にて分画し、約13.30kbのEcoRI−BsiWI断片を約2μg回収した。
次に、上記で得られたpKM1334LV0由来のEcoRI−BsiWI断片0.1μgとプラスミドpKANTEX1334HV0由来のEcoRI−BsiWI断片0.1μgとを全量10μLの滅菌水に加え、Ligation High(TOYOBO社製)を用いて連結した。この様にして得られた組換えプラスミドDNA溶液を用いて大腸菌DH5α株を形質転換し、第6図に示した発現ベクターpKANTEX1334HV0LV0を得た。
得られたプラスミドの400ngに、Big Dye Terminator Kit ver.2(Appliedbiosystems社製)を用いてジデオキシ法(Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Lab.Press New York,1989)による塩基配列の解析を行った結果、目的のDNAがクローニングされたプラスミドが得られたことを確認した。
また、実施例2の1項(2)で得られたプラスミドpKM1334HV0および実施例2の1項(3)で得られたプラスミドpKM1334LV6を用いて上記と同様の方法により、発現ベクターpKANTEX1334HV0LV6を構築した。
また、実施例2の1項(2)で得られたプラスミドpKM1334HV6および実施例2の1項(3)で得られたプラスミドpKM1334LV6を用いて上記と同様の方法により、発現ベクターpKANTEX1334HV6LV6を構築した。
3.抗FGF−8CDR移植抗体のYB2/0細胞を用いた安定発現
実施例2の2項で得られた抗FGF−8CDR移植抗体発現ベクター
pKANTEX1334HV0LV0、pKANTEX1334HV0LV6、pKANTEX1334HV6LV6を用いて各種抗FGF−8CDR移植抗体のYB2/0細胞での安定発現を上記実施例1の2項(5)に記載の方法に従い、行った。
4.抗FGF−8CDR移植抗体の精製
実施例2の3項で得られた各種抗FGF−8CDR移植抗体を発現するYB2/0細胞由来の形質転換株の培養及び上清からの抗FGF−8CDR移植抗体の精製を上記実施例1の3項(2)に記載の方法に従い、行った。pKANTEX1334HV0LV0を導入した形質転換株由来の抗体をHV0LV0、pKANTEX1334HV0LV6を導入した形質転換株由来の抗体をHV0LV6、pKANTEX1334HV6LV6を導入した形質転換株由来の抗体をHV6LV6と名付けた。
5.精製した抗FGF−8CDR移植抗体の解析
実施例2の4項で得られた各種抗FGF−8CDR移植抗体のSDS−PAGEを上記実施例1の4項に記載の方法に従い、行った。その結果、いずれの抗体も正しい構造の抗体分子として発現され、かつ精製されたことが確認された。
6.抗FGF−8CDR移植抗体のFGF−8に対する結合活性の測定(ELISA)
実施例2の4項で得られた各種抗FGF−8CDR移植抗体のFGF−8に対する結合活性は、上記実施例1の2項(6)に記載のELISAにより測定した。陽性対照として、実施例1の3項(2)で得られたYB2/0細胞由来の抗FGF−8キメラ抗体KM3334を用いた。その結果を第7図に示した。第7図に示したように、いずれの抗FGF−8CDR移植抗体も、KM3334と同等のFGF−8結合活性を示し、CDR移植化による明らかな結合活性の低下は認められなかった。
7.抗FGF−8CDR移植抗体のFGF−8に対する結合活性の測定
実施例2の4項で得られた各種抗FGF−8CDR移植抗体のFGF−8に対する結合活性をより詳細に検討するため、BIAcore 2000(BIACORE社製)を用いて各種抗FGF−8CDR移植抗体のFGF−8に対する結合活性を以下のようにして測定、比較した。陽性対照として、実施例1の3項(2)で得られたYB2/0細胞由来の抗FGF−8キメラ抗体KM3334を用いた。
以下、サンプルの希釈および測定中の緩衝液としてはHBS−EP(BIACORE社製)を使用した。まず、センサーチップCM5(BIACORE社製)をセットし、10mmol/L酢酸緩衝液(pH4.0)を用いて31.25μg/mLに溶解したFGF−8(R&D社製)をアミンカップリング法によりセンサーチップ表面に固定化した。固定化量は4498RUであった。
FGF−8固定化フローセルに20μL/分の流速で、各種抗体溶液を60μL添加し、その後、3分間に渡り解離反応をモニターした。解離反応後、20μLの10mmol/L Glycine−塩酸溶液(pH1.5)を2回連続してフローセルに添加し、チップ表面を再生させた。このサイクルを各種濃度(50−0.068μg/mL)の抗体溶液について行い、各種濃度におけるセンサーグラムを得た。各々の抗体のセンサーグラムは、陰性対照としてGD3に対するキメラ抗体KM871(Cancer Immunol.Immunother.,36,373,1993)を用いて得られたセンサーグラムを差し引くことにより特異的な反応のセンサーグラムとした。第8図に50μg/mLの各種抗体のセンサーグラムを示した。センサーグラムから明らかなように、いずれの抗体も解離反応時にほとんど解離が認められず、正確な解離速度定数を求めることが困難であった。そこで、各種抗体の結合活性の比較は、結合反応時の結合[共鳴シグナル(RU)]の高さを比較することにより、行った。その結果、第8図に示したように、キメラ抗体KM3334が最も高い結合反応を示し、CDR移植抗体HV0LV6は、KM3334と同等の高い結合反応を示した。一方、CDR移植抗体HV0LV0およびHV6LV6は、KM3334およびHV0LV6と比較して若干低い結合反応を示した。以上の結果は、ELISAでは認められなかった抗体間の結合活性の比較がBIAcoreを用いることにより可能であること、そして、VLのFRの6アミノ酸残基の改変により、CDR移植抗体の結合活性がキメラ抗体と同等レベルに回復することを示している。また、VHのFRの6アミノ酸残基については、結合活性の回復に対する効果は認められなかった。
キメラ抗体KM3334と同等の高い結合反応を示したYB2/0細胞由来のCDR移植抗体HV0LV6をKM8037と命名し、また、KM8037を高発現するYB2/0細胞由来の形質転換細胞株も同様にKM8037と命名した。なお、形質転換細胞株KM8037は平成14年6月20日付けで独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(〒305−8566 日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)にFERM BP−8084として寄託されている。
実施例3 より免疫原性の低い抗FGF−8CDR移植抗体の作製(1)
実施例2の結果より、VLのFRにマウス抗体KM1334由来の6アミノ酸残基の改変を有する抗FGF−8CDR移植抗体は、キメラ抗体と同等の結合活性を示すことが明らかとなった。そこで、さらにこれら6残基の活性回復に対する効果を検討し、充分な活性を有し、かつマウス抗体由来のアミノ酸残基の少ない、より免疫原性の低下が期待される抗FGF−8CDR移植抗体の作製を以下のようにして行った。
1.VLのアミノ酸配列の設計
上記の6アミノ酸残基について、以下のような改変を有する6種類のVLのアミノ酸配列を設計した。いずれもLV.0のアミノ酸残基からの改変を示した。
LV.4−1では、2番目のIle、50番目のGln、51番目のLeu、92番目のTyrの4残基をそれぞれマウス抗体KM1334に見られるアミノ酸残基であるVal、Lys、Val、Pheに改変した。
LV.4−2では、2番目のIle、14番目のThr、15番目のPro、92番目のTyrの4残基をそれぞれマウス抗体KM1334に見られるアミノ酸残基であるVal、Ser、Leu、Pheに改変した。
LV.3−1では、2番目のIle、51番目のLeu、92番目のTyrの3残基をそれぞれマウス抗体KM1334に見られるアミノ酸残基であるVal、Val、Pheに改変した。
LV.3−2では、14番目のThr、15番目のPro、92番目のTyrの3残基をそれぞれマウス抗体KM1334に見られるアミノ酸残基であるSer、Leu、Pheに改変した。
LV.2−1では、51番目のLeu、92番目のTyrの2残基をそれぞれマウス抗体KM1334に見られるアミノ酸残基であるVal、Pheに改変した。
LV.2−2では、2番目のIle、92番目のTyrの2残基をそれぞれマウス抗体KM1334に見られるアミノ酸残基であるVal、Pheに改変した。
2.VLをコードするcDNAの構築
実施例3の1項で設計した抗FGF−8CDR移植抗体の各種VLのアミノ酸配列をコードするcDNAは以下のようにして構築した。
(1)LV.4−1をコードするcDNAの構築
LV.4−1をコードするcDNAは、合成DNAとして配列番号29、32、34、35の4本の合成オリゴヌクレオチド(GENSET社製)を用いて実施例2の1項(3)に記載の方法に従い、構築した。その結果、LV.4−1をコードするcDNAを含むプラスミドpKM1334LV4−1を得た。
(2)LV.3−1をコードするcDNAの構築
実施例2の1項(3)で得られたプラスミドpKM1334LV6の50ngを鋳型とし、M13 primer RV(宝酒造社製)および配列番号36に記載の塩基配列を有する合成DNA(GENSET社製)をプライマーとして終濃度0.3μmol/Lol/Lとなるように加え、KOD polymerase(TOYOBO社製)に添付の使用説明書に従い、全量50μLでまず94℃で2分間加熱した後、94℃15秒間、50℃30秒間、68℃1分間の条件で35サイクルのPCR反応を行った。該反応液を精製した後、滅菌水に溶解し、10単位の制限酵素KpnI(宝酒造社製)および10単位の制限酵素SpeI(宝酒造社製)を用いて37℃で1時間反応させた。該反応液をアガロースゲル電気泳動にて分画し、約0.22kbのKpnI−SpeI断片を約0.3μg回収した。
次に、実施例3の2項(1)で得られたプラスミドpKM1334LV4−1の3μgを10単位の制限酵素KpnI(宝酒造社製)を用いて37℃で1時間反応させた。該反応液をアガロースゲル電気泳動にて分画し、約0.21kbのKpnI−KpnI断片を約0.2μg回収した。
次に、プラスミドpBluescript II SK(−)の3μgに、10単位の制限酵素KpnI(宝酒造社製)および10単位の制限酵素SpeI(宝酒造社製)を37℃で1時間反応させた。該反応液をアガロースゲル電気泳動にて分画し、約2.95kbのKpnI−SpeI断片を約2μg回収した。
上記で得られたVLcDNAのKpnI−SpeI断片0.1μgとプラスミドpKM1334LV4−1由来のKpnI−KpnI断片0.1μgとをプラスミドpBluescript II SK(−)由来のKpnI−SpeI断片0.1μgを全量10μlの滅菌水に加え、Ligation High(TOYOBO社製)を用いて連結した。この様にして得られた組換えプラスミドDNA溶液を用いて大腸菌DH5α株を形質転換し、第9図に示したLV.3−1をコードするcDNAを含むプラスミドpKM1334LV3−1を得た。
(3)LV.2−1をコードするcDNAの構築
プラスミドpKM1334LV4−1の代わりに実施例2の1項(3)で得られたプラスミドpKM1334LV0を用いる以外は、実施例3の2項(1)に記載の方法と同様の方法で、LV.2−1をコードするcDNAを含むプラスミドpKM1334LV2−1を得た。
(4)LV.2−2をコードするcDNAの構築
プライマーとして配列番号36に記載の合成DNAの代わりに配列番号37に記載の合成DNAを用いる以外は、実施例3の2項(1)に記載の方法と同様の方法で、LV.2−2をコードするcDNAを含むプラスミドpKM1334LV2−2を得た。
(5)LV.4−2をコードするcDNAの構築
実施例3の2項(4)で得られたプラスミドpKM1334LV2−2の3μgを10単位の制限酵素KpnI(宝酒造社製)を用いて37℃で1時間反応させた。該反応液をアガロースゲル電気泳動にて分画し、約3.16kbのKpnI−KpnI断片を約2μg回収した。
次に、実施例2の1項(3)で得られたプラスミドpKM1334LV6の3μgを10単位の制限酵素KpnI(宝酒造社製)を用いて37℃で1時間反応させた。該反応液をアガロースゲル電気泳動にて分画し、約0.21kbのKpnI−KpnI断片を約0.2μg回収した。
上記で得られたプラスミドpKM1334LV2−2由来のKpnI−KpnI断片0.1μgとプラスミドpKM1334LV6由来のKpnI−KpnI断片0.1μgとを全量10μlの滅菌水に加え、Ligation High(TOYOBO社製)を用いて連結した。この様にして得られた組換えプラスミドDNA溶液を用いて大腸菌DH5α株を形質転換し、第10図に示したLV.4−2をコードするcDNAを含むプラスミドpKM1334LV4−2を得た。
(6)LV.3−2をコードするcDNAの構築
実施例3の2項(5)で得られたプラスミドpKM1334LV4−2の3μgに、10単位の制限酵素Tth111I(宝酒造社製)およびXmnI(New England Biolabs社製)を37℃で1時間反応させた。該反応液をアガロースゲル電気泳動にて分画し、約2.24kbのTth111I−XmnI断片を約2μg回収した。
次に、実施例2の1項(3)で得られたプラスミドpKM1334LV0の3μgに、10単位の制限酵素Tth111I(宝酒造社製)およびXmnI(New England Biolabs社製)を37℃で1時間反応させた。該反応液をアガロースゲル電気泳動にて分画し、約1.11kbのTth111I−XmnI断片を約1μg回収した。
上記で得られたプラスミドpKM1334LV4−2由来のTth111I−XmnI断片0.1μgとプラスミドpKM1334LV0由来のTth111I−XmnI断片0.1μgとを全量10μlの滅菌水に加え、Ligation High(TOYOBO社製)を用いて連結した。この様にして得られた組換えプラスミドDNA溶液を用いて大腸菌DH5α株を形質転換し、第11図に示したLV.3−2をコードするcDNAを含むプラスミドpKM1334LV3−2を得た。
3.抗FGF−8CDR移植抗体発現ベクターの構築
実施例2の2項で得られた発現ベクターpKANTEX1334HV0LV6のVLcDNAを含むEcoRI−BsiWI断片を実施例3の2項で構築した各種VLcDNAを含むEcoRI−BsiWI断片で置換することにより、各種VLcDNAを有する抗FGF−8CDR移植抗体発現ベクターを構築した。具体的には、pKANTEX1334HV0LV4−1、pKANTEX1334HV0LV4−2、pKANTEX1334HV0LV3−1、pKANTEX1334HV0LV3−2、pKANTEX1334HV0LV2−1、pKANTEX1334HV0LV2−2の6種類を構築した。
4.抗FGF−8CDR移植抗体のCHO/DG44細胞を用いた安定発現
実施例2の2項で得られた抗FGF−8CDR移植抗体発現ベクター
pKANTEX1334HV0LV0、pKANTEX1334HV0LV6、実施例3の3項で得られた各種抗FGF−8CDR移植抗体発現ベクターを用いて各種抗FGF−8CDR移植抗体のCHO/DG44細胞での安定発現を上記実施例1の2項(4)に記載の方法に従い、行った。
5.抗FGF−8CDR移植抗体の精製
実施例3の4項で得られた各種抗FGF−8CDR移植抗体を発現するCHO/DG44細胞由来の形質転換株の培養及び上清からの抗FGF−8CDR移植抗体の精製を上記実施例1の3項(1)に記載の方法に従い、行った。pKANTEX1334HV0LV0を導入した形質転換株由来の抗体をHV0LV0/CHO、pKANTEX1334HV0LV6を導入した形質転換株由来の抗体をHV0LV6/CHO、pKANTEX1334HV0LV4−1を導入した形質転換株由来の抗体をHV0LV4−1/CHO、pKANTEX1334HV0LV4−2を導入した形質転換株由来の抗体をHV0LV4−2/CHO、pKANTEX1334HV0LV3−1を導入した形質転換株由来の抗体をHV0LV3−1/CHO、pKANTEX1334HV0LV3−2を導入した形質転換株由来の抗体をHV0LV3−2/CHO、pKANTEX1334HV0LV2−1を導入した形質転換株由来の抗体をHV0LV2−1/CHO、pKANTEX1334HV0LV2−2を導入した形質転換株由来の抗体をHV0LV2−2/CHOと名付けた。
6.精製した抗FGF−8CDR移植抗体の解析
実施例3の5項で得られた各種抗FGF−8CDR移植抗体のSDS−PAGEを上記実施例1の4項に記載の方法に従い、行った。その結果、いずれの抗体も正しい構造の抗体分子として発現され、かつ精製されたことが確認された。
7.抗FGF−8CDR移植抗体のFGF−8に対する結合活性の測定(BIAcore biosensor)
実施例3の5項で得られた各種抗FGF−8CDR移植抗体のFGF−8に対する結合活性をより詳細に検討するため、BIAcore 2000(BIACORE社製)を用いて各種抗FGF−8CDR移植抗体のFGF−8に対する結合活性を以下のようにして測定、比較した。陽性対照として、実施例1の3項(1)で得られたCHO/DG44細胞由来の抗FGF−8キメラ抗体KM3034を用いた。
以下、サンプルの希釈および測定中の緩衝液としてはHBS−EP(Pharmacia社製)を使用した。まず、センサーチップSA(BIACORE社製)をセットし、5μL/minの流速で0.05μg/mLに調製したC末端ビオチン標識化合物1(FGF−8のN末端ペプチド;配列番号15)を5μL添加した。その後、5μLの10mmol/L Glycine−塩酸溶液(pH1.5)を2回連続して添加し、チップ表面を洗浄した。FGF−8ペプチドの固定化量は35RUであった。
FGF−8ペプチド固定化フローセルに20μL/分の流速で、各種抗体溶液を60μL添加し、その後、3分間に渡り解離反応をモニターした。解離反応後、20μLの10mmol/L Glycine−塩酸溶液(pH1.5)を2回連続して添加し、チップ表面を再生させた。このサイクルを各種濃度(50−1.85μg/mL)の抗体溶液について行い、各種濃度におけるセンサーグラムを得た。各々の抗体のセンサーグラムは、陰性対照としてGD3に対するキメラ抗体KM871(Cancer Immunol.Immunother.,36,373,1993)を用いて得られたセンサーグラムを差し引くことにより特異的な反応のセンサーグラムとした。
第12図に16.7μg/mLの各種抗体のセンサーグラムを示した。センサーグラムから明らかなように、いずれの抗体も解離反応時にほとんど解離が認められず、正確な解離速度定数を求めることが困難であった。そこで、各種抗体の結合活性の比較は、結合反応時の結合[共鳴シグナル(RU)]の高さを比較することにより、行った。
その結果、第12図に示したように、キメラ抗体KM3034およびHV0LV6/CHOが最も高い結合反応を示し、次いで、HV0LV3−1/CHO、HV0LV4−1/CHO、HV0LV2−1/CHOが高い結合反応を示した。一方、HV0LV3−2/CHO、HV0LV2−2/CHO、HV0LV4−2は、低い結合反応を示し、HV0LV0/CHOは、最も低い結合反応を示した。これらの結果は、実施例2の7項に記載のYB2/0細胞由来の抗FGF−8CDR移植抗体を用いた結果と一致していた。
8.抗FGF−8CDR移植抗体のFGF−8に対する中和活性の測定
実施例3の7項においてFGF−8に対する高い結合反応が確認された4種類の抗FGF−8CDR移植抗体HV0HV0LV6/CHO、HV0LV3−1/CHO、HV0LV4−1/CHO、HV0LV2−1/CHOのFGF−8中和活性の評価を実施例2の5項に記載の方法に従って、行った。陽性対照として、実施例1の3項(1)で得られたCHO/DG44細胞由来の抗FGF−8キメラ抗体KM3034を、陰性対照として、WO01/64754に記載のヒトケモカインCCR4に対するキメラ抗体KM2760を用いた。その結果を第13図に示した。第13図に示したように、HV0LV6/CHOは、キメラ抗体KM3034と同等のFGF−8中和活性を示し、次いで、HV0LV3−1/CHOが高いFGF−8中和活性を示した。HV0LV4−1/CHOは、HV0LV3−1/CHOに比べて若干低いFGF−8中和活性を示し、HV0LV2−1/CHOの中和活性が最も低かった。FGF−8中和活性の強さと、BIAcoreによる結合反応の強さとの間には相関が認められた。
実施例4 より免疫原性の低い抗FGF−8CDR移植抗体の作製(2)
実施例3の結果より、LV6の6アミノ酸残基の改変のうち、51番目の改変は活性回復に必須であることが明らかとなった。また、2番目の改変は、単独の改変では、活性回復に対する効果は小さいが51番目の改変との組合せにより、協調的に活性回復に寄与することが示唆された。14番目、15番目の改変についても、51番目の改変との組合せにより、協調的に活性回復に寄与することが示唆された。一方、50番目の改変の効果は小さいことが示唆された。そこで、2番目の改変と14番目、15番目の改変のどちらがより活性回復に対する効果が高いかを検討するため、また、92番目の改変の効果を検討するため、抗FGF−8CDR移植抗体の作製を再検討した。
1.VLのアミノ酸配列の再設計
以下のような改変を有する2種類のVLのアミノ酸配列を設計した。いずれもLV.0のアミノ酸残基からの改変を示した。
LV.4−3では、14番目のThr、15番目のPro、51番目のLeu、92番目のTyrの4残基をそれぞれマウス抗体KM1334に見られるアミノ酸残基であるSer、Leu、Val、Pheに改変した。
LV.3−3では、14番目のThr、15番目のPro、51番目のLeuの3残基をそれぞれマウス抗体KM1334に見られるアミノ酸残基であるSer、Leu、Valに改変した。
2.VLをコードするcDNAの構築
実施例4の1項で設計した抗FGF−8CDR移植抗体の各種VLのアミノ酸配列をコードするcDNAは以下のようにして構築した。
(1)LV.4−3をコードするcDNAの構築
実施例3の2項(5)に記載の方法に従い、構築した。ただし、プラスミドpKM1334LV2−2の代わりに実施例3の2項(3)で得られたプラスミドpKM1334LV2−1を用い、プラスミドpKM1334LV6の代わりに実施例3の2項(6)で得られたプラスミドpKM1334LV3−2を用いた。その結果、LV.4−3をコードするcDNAを含むプラスミドpKM1334LV4−3を得た。
(2)LV.3−3をコードするcDNAの構築実施例4の2項(1)で得られたプラスミドpKM1334LV4−3の3μgを10単位の制限酵素BamHI(宝酒造社製)及び10単位の制限酵素SpeI(宝酒造社製)を用いて37℃で1時間反応させた。該反応液をアガロースゲル電気泳動にて分画し、約3.23kbのBamHI−SpeI断片を約2.5μg回収した。
次に、実施例2の1項(3)で得られたプラスミドpKM1334LV0の3μgを10単位の制限酵素BamHI(宝酒造社製)及び10単位の制限酵素SpeI(宝酒造社製)を用いて37℃で1時間反応させた。該反応液をアガロースゲル電気泳動にて分画し、約0.13kbのBamHI−SpeI断片を約0.15μg回収した。
上記で得られたプラスミドpKM1334LV4−3由来のBamHI−SpeI断片0.1μgとプラスミドpKM1334LV0由来のBamHI−SpeI断片0.1μgを全量10μlの滅菌水に加え、Ligation High(TOYOBO社製)を用いて連結した。この様にして得られた組換えプラスミドDNA溶液を用いて大腸菌DH5α株を形質転換し、第14図に示したLV.3−3をコードするcDNAを含むプラスミドpKM1334LV3−3を得た。
3.抗FGF−8CDR移植抗体発現ベクターの構築
実施例2の2項で得られた発現ベクターpKANTEX1334HV0LV6のVLcDNAを含むEcoRI−BsiWI断片を実施例4の2項で構築した各種VLcDNAを含むEcoRI−BsiWI断片で置換することにより、各種VLcDNAを有する抗FGF−8CDR移植抗体発現ベクターを構築した。具体的には、pKANTEX1334HV0LV4−3、pKANTEX1334HV0LV3−3の2種類を構築した。
4.抗FGF−8CDR移植抗体のCHO/DG44細胞を用いた安定発現
実施例4の3項で得られた各種抗FGF−8CDR移植抗体発現ベクターを用いて各種抗FGF−8CDR移植抗体のCHO/DG44細胞での安定発現を上記実施例1の2項(4)に記載の方法に従い、行った。
5.抗FGF−8CDR移植抗体の精製
実施例4の4項で得られた各種抗FGF−8CDR移植抗体を発現するCHO/DG44細胞由来の形質転換株の培養及び上清からの抗FGF−8CDR移植抗体の精製を上記実施例1の3項(1)に記載の方法に従い、行った。pKANTEX1334HV0LV4−3を導入した形質転換株由来の抗体をHV0LV4−3/CHO、pKANTEX1334HV0LV3−3を導入した形質転換株由来の抗体をHV0LV3−3/CHOと名付けた。
6.精製した抗FGF−8CDR移植抗体の解析
実施例4の5項で得られた各種抗FGF−8CDR移植抗体のSDS−PAGEを上記実施例1の4項に記載の方法に従い、行った。その結果、いずれの抗体も正しい構造の抗体分子として発現され、かつ精製されたことが確認された。
7.抗FGF−8CDR移植抗体のFGF−8に対する結合活性の測定
実施例3の5項で得られた抗FGF−8CDR移植抗体HV0LV6/CHOおよびHV0LV3−1/CHO、実施例4の5項で得られた抗FGF−8CDR移植抗体HV0LV4−3/CHOおよびHV0LV3−3/CHOのFGF−8に対する結合活性を実施例3の7項に記載の方法に従い、測定した。陽性対照として、実施例1の3項(1)で得られたCHO/DG44細胞由来の抗FGF−8キメラ抗体KM3034を用いた。
第15図に16.7μg/mLの各種抗体のセンサーグラムを示した。センサーグラムから明らかなように、いずれの抗体も解離反応時にほとんど解離が認められず、正確な解離速度定数を求めることが困難であった。そこで、各種抗体の結合活性の比較は、結合反応時の結合[共鳴シグナル(RU)]の高さを比較することにより、行った。その結果、第15図に示したように、キメラ抗体KM3034が最も高い結合反応を示し、HV0LV4−3/CHOは、HV0LV3−1/CHOよりも高く、HV0LV6/CHOと同等の結合反応を示した。HV0LV3−3/CHOの結合反応は、HV0LV3−1よりも低かった。以上の結果より、結合反応の高さに関しては、2番目の改変よりも、14番目、15番目の改変の方がより協調的に働くこと、また、92番目の改変は、活性の回復に必須であることが示唆された。
8.抗FGF−8CDR移植抗体のFGF−8に対する中和活性の測定
実施例3の5項で得られた抗FGF−8CDR移植抗体HV0LV6/CHOおよびHV0LV3−1/CHO、実施例4の5項で得られた抗FGF−8CDR移植抗体HV0LV4−3/CHOおよびHV0LV3−3/CHOのFGF−8中和活性の評価を実施例2の5項に記載の方法に従って、行った。陽性対照として、実施例1の3項(1)で得られたCHO/DG44細胞由来の抗FGF−8キメラ抗体KM3034を、陰性対照として、WO01/64754に記載のヒトケモカインCCR4に対するキメラ抗体KM2760を用いた。その結果を第16図に示した。第16図に示したように、HV0LV6/CHOおよびHV0LV3−1/CHOは、キメラ抗体KM3034と同等のFGF−8中和活性を示した。一方、HV0LV4−3/CHOおよびHV0LV3−3/CHOは、同等の中和活性を示し、その活性はキメラ抗体KM3034に比べて1/2程度であった。HV0LV3−1/CHOとHV0LV4−3/CHOの中和活性は、BIAcoreでの結合反応の高さと相関せず、2番目のアミノ酸残基と14番目、15番目のアミノ酸残基は、FGF−8に対する結合活性と細胞に対するFGF−8中和活性において独立した影響を与えることが示唆された。
以上の各種評価結果より、キメラ抗体KM3034と同等の高い結合反応およびFGF−8中和活性を示したCHO/DG44細胞由来のCDR移植抗体HV0LV6/CHOをKM8034と命名し、また、KM8034を高発現するCHO/DG44細胞由来の形質転換細胞クローンも同様にKM8034と命名した。また、KM8034と同等の高い結合反応を示したCHO/DG44細胞由来のCDR移植抗体HV0LV4−3/CHOをKM8035と命名し、また、KM8035を高発現するCHO/DG44細胞由来の形質転換細胞株も同様にKM8035と命名した。KM8035のVLのアミノ酸配列LV.4−3を配列番号38に示した。なお、形質転換細胞株KM8035は平成14年6月20日付けで独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(〒305−8566 日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)にFERM BP−8082として寄託されている。また、KM8034と同等の高いFGF−8中和活性を示したCHO/DG44細胞由来のCDR移植抗体HV0LV3−1/CHOをKM8036と命名し、また、KM8036を高発現するCHO/DG44細胞由来の形質転換細胞株も同様にKM8036と命名した。KM8036のVLのアミノ酸配列LV.3−1を配列番号39に示した。なお、形質転換細胞株KM8036は平成14年6月20日付けで独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(〒305−8566 日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)にFERM BP−8083として寄託されている。
抗FGF−8CDR移植抗体KM8034は、キメラ抗体KM3034と同等の高い結合反応およびFGF−8中和活性を示し、かつ、ヒトにおける免疫原性がキメラ抗体よりも低下することから、キメラ抗体よりも高い治療効果が期待される。抗FGF−8CDR移植抗体KM8036およびKM8035では、KM8034に比べて、結合活性およびFGF−8中和活性が若干低下する可能性があるが、それぞれマウス抗体KM1334に由来するV領域FRのアミノ酸残基が3残基および4残基となることから、KM8034よりもさらに免疫原性が低下することが期待される。
産業上の利用可能性
本発明によれば、前立腺癌、乳癌、卵巣癌などの増殖因子と考えられるFGF−8に特異的に反応し、さらにFGF−8の機能を阻害するヒト化抗体または該抗体断片を提供することができる。
「配列表フリーテキスト」
配列番号11−人工配列の説明:合成DNA
配列番号12−人工配列の説明:合成DNA
配列番号13−人工配列の説明:合成DNA
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【配列表】
【図面の簡単な説明】
第1図は、プラスミドpKM1334CH−H5の造成工程を示した図である。
第2図は、プラスミドpKM1334CH−L4の造成工程を示した図である。
第3図は、プラスミドpKANTEX1334の造成工程を示した図である。
第4図は、抗FGF−8マウス抗体KM1334、抗FGF−8キメラ抗体KM3034およびKM3334のマウス乳癌細胞株SC−3細胞のFGF−8依存性増殖に対する中和活性を示した図である。横軸が抗体濃度(μg/mL)、縦軸がFGF−8のみを添加した場合の増殖を100%とした場合の相対増殖(%)を示す。○がKM1334、□がKM3034、△がKM3334、×が陰性対照であるKM2760の活性を示す。
第5図は、プラスミドpKM1334HV0の造成工程を示した図である。
第6図は、プラスミドpKANTEX1334HV0LV0の造成工程を示した図である。
第7図は、抗FGF−8キメラ抗体KM3334、抗FGF−8CDR移植抗体HV0LV0、HV0LV6、HV6LV6のFGF−8に対する結合活性をELISAにより測定した結果を示した図である。横軸が抗体濃度(μg/mL)、縦軸が結合活性(OD415)を示す。△がKM3334、○がHV0LV0、□がHV0LV6、×がHV6LV6の活性を示す。
第8図は、抗FGF−8キメラ抗体KM3334、抗FGF−8CDR移植抗体HV0LV0、HV0LV6、HV6LV6のFGF−8に対する結合活性をBIAcore 2000により測定した結果を示した図である。横軸が時間(秒)、縦軸が共鳴シグナル(RU)を示す。
第9図は、プラスミドpKM1334LV3−1の造成工程を示した図である。
第10図は、プラスミドpKM1334LV4−2の造成工程を示した図である。
第11図は、プラスミドpKM1334LV3−2の造成工程を示した図である。
第12図は、抗FGF−8キメラ抗体KM3034、抗FGF−8CDR移植抗体HV0LV0/CHO、HV0LV2−1/CHO、HV0LV2−2/CHO、HV0LV3−1/CHO、HV0LV3−2/CHO、HV0LV4−1/CHO、HV0LV4−2/CHO、HV0LV6/CHOのFGF−8に対する結合活性をBIAcore 2000により測定した結果を示した図である。横軸が時間(秒)、縦軸が共鳴シグナル(RU)を示す。
第13図は、抗FGF−8キメラ抗体KM3034、抗FGF−8CDR移植抗体HV0LV2−1/CHO、HV0LV3−1/CHO、HV0LV4−1/CHO、HV0LV6/CHOのマウス乳癌細胞株SC−3細胞のFGF−8依存性増殖に対する中和活性を示した図である。横軸が抗体濃度(μg/mL)、縦軸がFGF−8のみを添加した場合の増殖を100%とした場合の相対増殖(%)を示す。○がKM3034、□がHV0LV2−1/CHO、△がHV0LV3−1/CHO、◇がHV0LV4−1/CHO、●がHV0LV6/CHO、×が陰性対照であるKM2760の活性を示す。
第14図は、プラスミドpKM1334LV3−3の造成工程を示した図である。
第15図は、抗FGF−8キメラ抗体KM3034、抗FGF−8CDR移植抗体HV0LV3−1/CHO、HV0LV3−3/CHO、HV0LV4−3/CHO、HV0LV6/CHOのFGF−8に対する結合活性をBIAcore2000により測定した結果を示した図である。横軸が時間(秒)、縦軸が共鳴シグナル(RU)を示す。
第16図は、抗FGF−8キメラ抗体KM3034、抗FGF−8CDR移植抗体HV0LV3−1/CHO、HV0LV3−3/CHO、HV0LV4−3/CHO、HV0LV6/CHOのマウス乳癌細胞株SC−3細胞のFGF−8依存性増殖に対する中和活性を示した図である。横軸が抗体濃度(μg/mL)、縦軸がFGF−8のみを添加した場合の増殖を100%とした場合の相対増殖(%)を示す。○がKM3034、△がHV0LV3−1/CHO、■がHV0LV3−3/CHO、▲がHV0LV4−3/CHO、●がHV0LV6/CHO、×が陰性対照であるKM2760の活性を示す。
Claims (10)
- 抗体の重鎖可変領域(以下、VHと記す)が配列番号16で示されるアミノ酸配列、抗体の軽鎖可変領域(以下、VLと記す)が配列番号19で示されるアミノ酸配列を有し、かつ線維芽細胞増殖因子-8(FGF-8)に特異的に反応し、FGF-8の生物学的機能を阻害するヒト型CDR移植抗体または該抗体断片。
- 抗体のVHが配列番号16で示されるアミノ酸配列、抗体のVLが配列番号39で示されるアミノ酸配列を有し、かつ線維芽細胞増殖因子-8(FGF-8)に特異的に反応し、FGF-8の生物学的機能を阻害するヒト型CDR移植抗体または該抗体断片。
- 抗体断片が、Fab、Fab'、F(ab')2、1本鎖抗体(scFv)、2量体化V領域断片(Diabody)およびジスルフィド安定化V領域断片(dsFv)から選ばれる抗体断片である請求項1または2のいずれか1項に記載の抗体断片。
- 請求項1〜3のいずれか1項に記載のヒト型CDR移植抗体または該抗体断片をコードするDNA。
- 請求項4記載のDNAを含有する組換えベクター。
- 請求項5記載の組換えベクターを宿主細胞に導入して得られる形質転換株。
- 請求項6記載の形質転換株を培地に培養し、培養物中に請求項1〜3のいずれか1項に記載のヒト型CDR移植抗体または該抗体断片を生成蓄積させ、該培養物から該抗体または該抗体断片を採取することを特徴とする該抗体または該抗体断片の製造方法。
- 請求項 1 〜 3 のいずれか1項に記載の抗体および該抗体断片から選ばれる少なくとも 1 種を有効成分として含有する FGF-8 阻害剤。
- 請求項1〜3のいずれか1項に記載の抗体および該抗体断片から選ばれる少なくとも1種を有効成分として含有する癌の治療薬。
- 請求項1〜3のいずれか1項に記載の抗体および該抗体断片から選ばれる少なくとも1種を有効成分として含有する癌の診断薬。
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