JP4151223B2 - ピストンの冷却構造 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はピストンの冷却構造に係り、特に、熱負荷の高いディーゼルエンジン等に適用されるピストンの冷却構造に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、ディーゼルエンジンの分野では、年々厳しくなる排ガス規制や高出力化に対応するため、エンジンの筒内圧が益々増加傾向にある。このためピストンの強度アップが急務となっている。
【0003】
図3にディーゼルエンジンのピストンを示す。ピストン1には、その頂部に燃焼室の一部をなすキャビティ2が設けられ、ピストンピン(図示せず)を挿入するためのピストンピン穴3及びピストンピンボス4と、複数のピストンリング溝5とが設けられる。そしてピストン内部にはオイル冷却を行うためのクーリングチャンネル6が設けられる。クーリングチャンネル6は、ピストン全周に亘って一定高さ位置に設けられ、ピストン1に貫通形成されたオイル導入口10よりオイルジェットノズル9から噴出されたオイルを導入し、循環させ、ピストン1を内部から冷却するようになっている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、筒内圧増加に伴いx1,x2で示すような亀裂が問題となる。亀裂x1は、キャビティ2の入口部ないし頂部周縁部を区画するリップ7を破断するような亀裂で、ピストンピン方向に進行する。これを防止するため、リップ7のアールRを増やしてリップ7を厚肉にし、応力の分散化を図る方法がある。また材料の強度アップ、例えばアルミ合金(ex.AC8M)を繊維強化金属(FRM,ex.M142)に変更する方法がある。しかし、前者では、元々リップ7のアールRが燃焼時の最適Rになっているため、これを変えると燃焼形態に影響を与え、エミッションのチューニングが困難となり、例えばパティキュレートやハイドロカーボンが増加するという問題がある。また後者ではコスト高になるという問題がある。
【0005】
亀裂x1が大きくなり、クーリングチャンネル6にまで到達してしまうと、燃焼室からクーリングチャンネル6まで連通してしまって燃焼室のガスが漏れてしまい、圧縮圧力の低下や燃焼ガスの吹き抜け等を生じさせ、最悪運転不能となってしまう。
【0006】
亀裂x2は、ピストン内部側に位置するピストンピンボス4の端部を起点として進行するような亀裂である。この対応策としては、その端部付近に仮想線3aで示すようなテーパ角を設け応力の分散化を図る方法がある。またピストンピンの剛性を上げ、ピンの楕円変形からピストンピンボス4を押圧するモードを防ぐ方法がある。
【0007】
本発明は、主として上記亀裂x1,x2のうち前者の亀裂x1に対処するため創案されたもので、その目的は、ピストン頂部の亀裂が発生したとしてもピストンの延命を図り得るピストンの冷却構造を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明に係るピストンの冷却構造は、ピストン頂部に燃焼室をなすキャビティを凹設し、該キャビティに径方向内側に突出するリップを設け、上記キャビティの下方にピストンピンを挿入するためのピストンピン穴及びピストンピンボスを各々設け、それらピストンピン穴及びピストンピンボスの上方、かつ上記キャビティの径方向外側のピストン内部にその周方向に沿ってオイル等の冷却媒体が導入されるリング状のクーリングチャンネルを設けたピストンの冷却構造において、上記クーリングチャンネルを、上記ピストンピンボスの直上に位置する前F部および後R部と、それら前F部および後R部を繋ぐ他の箇所とで、高さ位置が異なるように設定し、上記他の箇所を上記ピストンの側面に形成されたトップリング溝と略等しい高さ位置に形成し、かつ上記前F部および後R部を上記他の箇所よりも高さ位置を下げて形成して上記前F部および後R部における頂壁を上記他の箇所よりも上記キャビティの上記リップから離したものである。
【0009】
ここで、上記クーリングチャンネルを下方に屈曲させることにより上記クーリングチャンネルの高さ位置を下げるようにしてもよい。
【0010】
また、上記クーリングチャンネルの頂壁の高さ位置を下げることにより上記クーリングチャンネルの高さ位置を下げるようにしてもよい。
【0011】
また、上記ピストンの側面における上記トップリング溝の下方にセカンドリング溝が形成されると共に、そのセカンドリング溝の下方にオイルリング溝が形成され、上記前F部および後R部が、上記セカンドリング溝と同じ高さに形成されたものでもよい。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0015】
図1に本発明に係るピストンの冷却構造を示す。なお図3に示した従来例と同様の部分については同一の符号を用いる。図示例のピストン1は図2を参照すると分かるように、ピストン中心Cを境に左半分がピストンピン軸Cpに直角な断面、右半分がピストンピン軸Cpに平行な断面である。言い換えれば、左半分がスラスト(T)・アンチスラスト(AT)方向に沿って切った断面、右半分がスラスト・アンチスラスト方向と直角な方向で且つピストンピン軸Cp上で切った断面である。スラスト・アンチスラスト方向と直角な方向はその一端側を前(F)、他端側を後(R)とする。従って右半分は前後に沿って切った断面ともいえる。もっとも、スラスト・アンチスラスト方向とこれと直角な方向とでは、それぞれ断面がピストン中心Cに対称である。
【0016】
このピストン1はディーゼルエンジン用で、その頂部には燃焼室の一部をなすキャビティ2が凹設されている。キャビティ2は所謂リエントラント形燃焼室をなすもので、ピストン1と同心に配置されると共に、その入口部ないし頂部周縁部を区画するリップ7が設けられる。リップ7はキャビティ2の入口を絞るように径方向内側に且つ断面アール状に突出されている。キャビティ2の底壁は断面山形状に隆起されている。ピストン1の前後側にはピストンピン(図示せず)を挿入するためのピストンピン穴3及びピストンピンボス4が設けられる。ここでピストンピン軸Cpの方向はエンジンのクランク軸方向と一致している。そしてピストン1の側面頂部付近には複数のピストンリング溝が設けられる。ピストンリング溝は上から順にトップリング溝5a、セカンドリング溝5b及びオイルリング溝5cの三本からなる。
【0017】
ピストン1を内部から積極的に冷却するため、ピストン内部にはクーリングチャンネル(冷却通路)6が設けられる。このクーリングチャンネル6には冷却媒体としてのオイルが流通ないし循環される。図示しない周方向箇所にオイルの導入口と排出口とが設けられ、さらには図示しないジェットノズルが導入口に指向されており、ジェットノズルから噴出されたオイルが導入口からクーリングチャンネル6内に導入され、クーリングチャンネル6内を循環された後、排出口からクランクケース内に排出されることで、ピストン1の熱を奪い去るようになっている。
【0018】
クーリングチャンネル6は、ピストン1と同心で且つピストン全周に亘るリング状に形成される。従来のクーリングチャンネル6は、図2(b)に示すように全周同一(一定)高さとなっていた。これに対し、本実施形態のクーリングチャンネル6は図2(c)に示すように全体で略蛇行形状とされ、各周方向箇所で高さ位置が異なっている。ここでクーリングチャンネル6の高さ位置とは通路断面の中心Ccの高さ位置をいう。
【0019】
即ち、従来のクーリングチャンネル6は図3に示すように全周トップリング溝5aと略同一高さに位置されている(これを基準高さといい、図2にH0で示す)。これに対し本実施形態のクーリングチャンネル6は、図1及び図2(c)に示すように、スラストT側とアンチスラストAT側との周方向箇所では基準高さH0に位置されるものの、これらと90°異なる周方向箇所である前F部と後R部とではクーリングチャンネル全体が下方に湾曲されることにより高さ位置がΔHだけ下げられている。なお前F部と後R部とではクーリングチャンネル6がセカンドリング溝5bと同一高さにある。
【0020】
こうすると、クーリングチャンネル6がリップ7から離れるため、リップ7の亀裂x1(図3参照)が発生したとしてもクーリングチャンネル6に到達し難くなり、リップ7の亀裂x1の進行に対してピストンを延命させることができる。即ち亀裂x1がクーリングチャンネル6に到達しなければ、燃焼室からクーリングチャンネル6への連通もなくなるので、燃焼室からのガス漏れ等が防止され、ピストンをとりあえず使用可能な状態に維持できるのである。そしてこの方法によればリップ7のアールRが変わらないため燃焼形態やエミッションに影響を与えることがない。また材料の変更も伴わないのでコスト高になることもない。
【0021】
ここで、本実施形態のクーリングチャンネル6の径方向位置としては、トップリング溝5aの内側且つキャビティ2の外側である。スラストT側とアンチスラストAT側とではクーリングチャンネル6がちょうどトップリング溝5aとキャビティ2とに挟まれた領域に位置される。本実施形態では全周箇所においてクーリングチャンネル6の径方向内側の側壁がキャビティ2の最外径位置より外側にある。
【0022】
基準高さをトップリング溝5aと略同一高さとするのは、トップリング溝5aの裏側を積極的に冷やし、トップリング(図示せず)のトップリング溝5aへの焼き付きを防止するためである。従ってクーリングチャンネル全体を下げるのは好ましくない。
【0023】
また前F部と後R部、言い換えればピストンピン軸Cp付近の周方向箇所或いはピストンピンボス4の存在する周方向箇所でクーリングチャンネル6を下げるようにしたのは、実機試験によりかかる周方向箇所でリップ7の亀裂x1が発生しやすいことが判明したからである
【0024】
本実施形態では、クーリングチャンネル6の通路面積及び通路形状は全周同じである。しかしながらこれらは所定の周方向箇所で変えるようにしても構わない。
【0025】
本実施形態では、前F部と後R部とでクーリングチャンネル6の底部が下方に窪んでいる。このためそこにオイルを溜めることができ、さらなる冷却効果を発揮できる。
【0026】
ここで、クーリングチャンネル6を下げたことでピストンピンボス4側の亀裂x2(図3参照)の到達が懸念されるが、クーリングチャンネル6を下げてもなお亀裂x2の発生箇所は遠く、この点は問題とならない。
【0027】
次に、他の実施形態について説明する。図2(d)に示すように、クーリングチャンネル6は、前F部と後R部とで頂壁8のみ高さ位置を下げることによって、クーリングチャンネル全体としての高さ位置を下げるようにしてもよい。この場合下げ量はΔH’であり、先のΔHより少ない。これは、スペース上等の理由でチャンネル全体を下げられないときに好適である。本実施形態の場合、単に頂壁8の位置を下げようとすると通路が絞られることになる。オイルの流通上問題なければよいが、問題あるようならチャンネル側壁を強度上問題ない範囲で径方向内側又は外側に膨出させ、同じ通路面積を確保するようにすればよい。
【0028】
以上、本発明の実施の形態は上述のものに限られない。例えば本発明はガソリンエンジン用にも適用できる。またクーリングチャンネル内に導入する冷却媒体はオイル以外のもの、例えばエア等が可能である。
【0029】
【発明の効果】
本発明は次の如き優れた効果を発揮する。
【0030】
ピストン頂部に亀裂が発生したとしても、亀裂がクーリングチャンネルに到達し難くなり、ピストンの延命効果を発揮できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態を示し、図2(a)のI−I線断面図である。
【図2】 (a)はピストンの各周方向箇所を示す概略平面図、(b),(c),(d)はクーリングチャンネルの展開図であり、(b)は従来、(c)は本発明の実施形態、(d)は本発明の他の実施形態である。
【図3】従来のピストンの冷却構造を示す縦断面図である。
【符号の説明】
1 ピストン
2 キャビティ
4 ピストンピンボス
5a トップリング溝
6 クーリングチャンネル
7 リップ
8 頂壁
Cp ピストンピン軸
H0 基準高さ
ΔH,ΔH’ 下げ量

Claims (4)

  1. ピストン頂部に燃焼室をなすキャビティを凹設し、該キャビティに径方向内側に突出するリップを設け、上記キャビティの下方にピストンピンを挿入するためのピストンピン穴及びピストンピンボスを各々設け、それらピストンピン穴及びピストンピンボスの上方、かつ上記キャビティの径方向外側のピストン内部にその周方向に沿ってオイル等の冷却媒体が導入されるリング状のクーリングチャンネルを設けたピストンの冷却構造において、
    上記クーリングチャンネルを、上記ピストンピンボスの直上に位置する前F部および後R部と、それら前F部および後R部を繋ぐ他の箇所とで、高さ位置が異なるように設定し、
    上記他の箇所を上記ピストンの側面に形成されたトップリング溝と略等しい高さ位置に形成し、かつ上記前F部および後R部を上記他の箇所よりも高さ位置を下げて形成して上記前F部および後R部における頂壁を上記他の箇所よりも上記キャビティの上記リップから離したことを特徴とするピストンの冷却構造。
  2. 上記クーリングチャンネルを下方に屈曲させることにより上記クーリングチャンネルの高さ位置を下げるようにした請求項1記載のピストンの冷却構造。
  3. 上記クーリングチャンネルの頂壁の高さ位置を下げることにより上記クーリングチャンネルの高さ位置を下げるようにした請求項1記載のピストンの冷却構造。
  4. 上記ピストンの側面における上記トップリング溝の下方にセカンドリング溝が形成されると共に、そのセカンドリング溝の下方にオイルリング溝が形成され、 上記前F部および後R部が、上記セカンドリング溝と同じ高さに形成された請求項1から3いずれかに記載のピストンの冷却構造。
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