JP4150793B2 - 光重合性脂質膜による膜内分子の水平拡散制御 - Google Patents

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本発明は、光重合性脂質膜による膜内分子の水平拡散制御技術に関し、詳しくはパターン化された疑似生体膜及びその製造方法に関する。
固体表面上に脂質膜を吸着もしくは結合し、それらを疑似生体膜としてバイオセンサーなどに用いる研究、開発は、これまでも盛んに行われている(非特許文献1)。 また、そ
のような疑似生体膜をパターン化する手法も開発されている(非特許文献2)。 しかし、重合性脂質分子をリソグラフィー技術を用いて光重合し、ポリマー脂質二分子膜と疑似生体膜をパターン化複合膜として活用する試みは、提案者を含むグループが2001年に報告したのが初めての例である(非特許文献3,4)
また、脂質二分子膜を重合性脂質で形成し、ラジカル反応開始剤もしくは光照射によって膜内で重合を行う試みは、主にリポソームを安定化させドラッグデリバリーなどに応用する目的で行われてきた。しかし、固体基板表面上に吸着した膜を重合する試みはこれまで世界的にも少数例しか行われていない(非特許文献5,6) 。
なお、リポソームを用いた脂質膜重合の研究では、脂質膜が重合することにより膜内分子の水平方向の拡散速度が大幅に抑制されることが示されている(非特許文献7)。
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本発明は蛋白質の移動性が異なる少なくとも2つの区画を有する疑似生体膜及びその製造方法を提供することを目的とする。
本発明は、以下の疑似生体膜及びその製造方法を提供するものである。
項1. 無ないし低度重合脂質から構成され生体高分子が移動可能な少なくとも2つの易
移動性区画及び高度重合脂質から構成され生体高分子の移動が制限された難移動性区画を有し、かつ、易移動性区画間の低分子物質移動を可能にする中程度移動性区画をさらに有するパターン化された疑似生体膜。
項2. 中程度移動性区画が中程度重合脂質からなる項1に記載の疑似生体膜。
項3. 生体高分子が蛋白質、多糖、糖タンパク、DNA及びRNAからなる群から選ばれる少なくとも1種である項1または2に記載の疑似生体膜。
項4. 易移動性区画が、非光重合性のリン脂質、スフィンゴ脂質、糖脂質、ステロイド及び膜タンパクからなる群から選ばれる物質から構成される項1または2に記載の疑似生体膜。
項5. (1)基板上に光重合可能な脂質膜を形成するステップ、(2)該脂質膜にパターン化された重合特性の異なる2種類の光を同時にまたは逐次的に基板に照射して難移動性区画、中程度移動性区画及び易移動性区画を形成するステップを包含する、パターン化された疑似生体膜の製造方法。
項6. さらに、(3)重合していないか重合度の低い膜部分を可溶化剤を用いて基板表面より除去し、該膜部分に流動性を持つ疑似生体膜を新たに導入するステップを含む、項5に記載の方法。
項7. 前記ステップ(1)において、脂質膜を10〜20℃の温度下に形成する項5に記載の方法。
光重合可能な脂質としては、光重合性基を少なくとも1つ有する脂質であれば特に限定されない。光重合性基としては、二重結合、三重結合、エポキシ基、α、β−不飽和カルボニルなどが例示され、好ましくは二重結合または三重結合である。光重合性基は、1つの脂質分子あたり好ましくは1〜10個、より好ましくは2〜6個含まれる。
重合性基及び重合性脂質の例を以下に示す。
Figure 0004150793
〔式中、R,R1,R2は、重合性脂質を構成する残りの基を示す。〕
Figure 0004150793
光重合可能な脂質としては、リン脂質が例示され、具体的にはホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルセリンの1または2のアシル基が光重合性基を少なくとも1個含む直鎖または分岐状で,通常C6〜C30好ましくはC6〜C24,より好ましくはC12〜C22の脂肪族のカルボン酸に由来する基であるのが好ましい。脂質は2つのアシル基を有するグリセロリン脂質が好ましいが
、リン脂質のアシル基の1つが加水分解された、アシル基(光重合性基を有する)が1つのリン脂質を併用することも可能である。
重合性脂質の基本構造の例を以下に示す。
Figure 0004150793
難移動性区画は、光重合可能な脂質に光を照射して高度に重合した脂質から構成され、蛋白質等の生体高分子が難移動性区画外に移動しないものである。また、分子量300程度以上の低分子量物質の移動においても移動速度が遅いか、ほとんど移動しないものである。
中程度移動性区画は光重合可能な脂質が重合した部分を有し、生体高分子の移動は制限されるが、分子量約1000以下の低分子物質は比較的速やかに拡散により易移動性区画間を移動し得る。
易移動性区画は、低分子物質だけでなく、生体高分子の移動が可能な区画である。易移動性区画は、非重合性であるか、太陽光や蛍光灯などの光により重合し難い脂質から構成されるのが好ましいが、脂質以外の物質で一部または全部が構成されていてもよい。易移動性区画は、蛋白質、受容体、イオンチャンネル、酵素、DNA、RNA、糖タンパクなどの各種の機能を有する物質を含み得る。
非重合性ないし難重合性脂質としては、リン脂質、スフィンゴ脂質、糖脂質、ステロイドなどの疑似生体脂質が例示される。
脂質膜を形成する基板としては特に限定されず、ガラス、金属、プラスチック、セラミックなどが例示される。
脂質膜は、通常二分子膜が使用されるが単分子膜を使用することもできる。
生体高分子としては、蛋白質、多糖、糖タンパク、DNA、RNAが例示される。
本発明における無ないし低度重合脂質とは、重合性脂質の1(無)又は2〜5個(低度)が光により重合した重合性脂質のモノマー又はオリゴマーを意味する。
重合の程度は照射する光の種類、エネルギー、照射時間、温度などを制御することにより所望の重合度に制御することが可能である。
パターン化疑似生体膜の製造方法の好適な実施形態の1つを図1に示す。
(1)固体基板上に重合性基を含む分子からなる脂質膜を吸着させる。脂質膜は、水中において安定な二分子膜構造を持つ。
(2)脂質膜の一部を光照射によって重合する。目的とするパターンは、膜の上に保護マスクを置くもしくはパターンを映写することで作製する。光照射は、高度に重合反応を進行させて難移動性区画を形成するための高エネルギーないし高強度の光照射と、中程度に重合反応を進行させて中程度移動性区画を形成するための適度な条件下(光強度、エネルギー、温度など)での光照射を同時にまたは逐次的に行う。
(3)光照射を受けずモノマーのままである膜部分(易移動性区画全体と中程度移動性区画における重合度の低い部分)は、界面活性剤、有機溶媒などの可溶化剤を用いて基板表面より取り除かれる。重合された難移動性区画の膜は、可溶化されず基板表面に二分子膜構造を保ったまま残る。
(4)モノマーが除かれた領域に流動性を持つ疑似生体膜(リン脂質、スフィンゴ脂質、糖脂質、ステロイド、膜タンパクなど)を新たに導入する。
上記(3)および(4)は好ましい実施形態で行われるが、必須ではない。
光重合に際して、光強度、波長、光量などを調節することで脂質膜の重合反応を次のように段階的に制御することが可能である:
(A)低重合度(モノマーもしくはオリゴマー);
(B)中重合度(比較的長い分子鎖、低重合度);
(C)高重合度(長い分子鎖、高重合度)。
例えば、光重合基としてジアセチレンを持つリン脂質(1,2-bis(10,12-tricosadiynoyl
)-sn-glycero-3-phosphocholine(以下23:2diynePC と略す))をガラス基板上において
重合する場合には、以下の条件が望ましい。
低重合度(モノマーもしくはオリゴマー)脂質の作製条件(室温):
光波長 250±20 nm、光強度 20-25 mW/cm2 (254 nm)、照射光量 0-0.5 J/cm2
中重合度(比較的長い分子鎖、低重合度)脂質の作製条件(室温):
光波長 250±20 nm、光強度 20-25 mW/cm2 (254 nm)、照射光量 0.5-1.2 J/cm2
高重合度(長い分子鎖、高重合度)脂質の作製条件(室温):
光波長 250±20 nm、光強度 20-25 mW/cm2 (254 nm)、照射光量 >1.2 J/cm2
その他の脂質分子、基板材料、重合方法、光源などを用いた場合には、それぞれの状況に応じて条件を適宜調節するものとする。
(A)の低重合度脂質膜(易移動性区画)は、可溶化されて基板より除去される。一方、(B)の中重合度脂質膜(中程度移動性区画)および(C)の高重合度脂質膜(難移動性区画)は、可溶化されずに基板上に二分子膜として残る。(C)の高重合度脂質膜においては、ポリマー化脂質膜が完全な二分子膜構造を保ちつつ基板上に存在する。それに対して(B)の中重合度脂質膜においては、二分子膜中に欠陥が部分的に存在している。したがって、パターン化されたポリマー脂質二分子膜の中に流動性疑似生体膜を導入したとき、(C)の高重合度脂質膜は、流動性疑似生体膜中の分子の拡散を完全に妨げる障壁として働き、それらの分子をパターンによって定められた区画中に隔離する働きをするが、(B)の中重合度脂質膜は、流動性疑似生体膜中の分子の拡散を完全には妨げることができず、流動性疑似生体膜中の分子やイオンが一部このポリマー脂質二分子膜領域を通過することが可能である。光重合に際してポリマー脂質膜領域の重合度及び重合度を調節することで、その膜領域内を水平拡散によって透過できる分子を分子量や電荷などその分子の持つ性質に応じて制限することが可能になる。すなわち、ポリマー脂質膜領域を水平方向における選択的半透過性膜として膜内における分子の移動を制御するために用いることが可能になる。
このような半透過性膜の応用の一例としては、次のようなものがある。図2に示されるようにパターン化疑似生体膜の区画1(易移動性区画)にある膜結合性蛋白Aを導入する。別の区画2(易移動性区画)にAとは異なる膜蛋白であるBを導入する。区画1と区画2はともにポリマー化脂質二分子膜(難移動性区画)によって囲まれ、膜内にある分子やイオンは区画内に隔離されている。ここで区画1と区画2とが一部半透過性のポリマー膜領域(中程度移動性区画)によって結ばれている。この半透過性ポリマー膜領域は、膜中に組み込まれ分子量の大きい蛋白AおよびBに対しては不透過性である。それに対して分子量の小さい分子及びイオンはこの領域を膜内水平拡散によって自由に透過することができる。いま区画1にある蛋白Aに薬物などが結合して刺激を与えるとする。蛋白Aはそれに反応してある種のメッセンジャー分子A1を発する。このメッセンジャー分子A1は、膜上あるいは膜内を水平拡散し、半透過性ポリマー膜領域を透過することによって区画2に達する。ここでメッセンジャー分子A1は蛋白Bに結合することによって新たな反応をひきおこす。蛋白Bの反応はさらなるメッセンジャー分子を生成するか、もしくは光、電気、あるいは化学的シグナルとして検出装置によって検出される。以上のような複数の膜結合性タンパク質分子をパターン化された疑似生体膜の異なる区画に配置しそれらを半透性の膜領域で結ぶことにより、現実に生体内で行われているであろう情報伝達や物質代謝などの機能を人工的なチップの上で再現、分析することが可能になる。このようなチップを構築することにより、単一種の生体分子を用いた分析によっては得られないような、実際に生体内で起こることにより近い反応挙動についての情報が得られる。これは従来の人工膜系においては実現不可能であったことであり、重合性脂質を用いたパターン化疑似生体膜および光重合の制御によって作り出される半透過性ポリマー膜を用いることにより初めて可能になる。
本発明のパターン化された疑似生体膜において、光照射前の光重合性脂質膜の形成温度が、膜の性質に大きな影響を与える。この温度は、通常5〜30℃程度、好ましくは10〜25℃程度、より好ましくは10〜20℃程度、さらに好ましくは13〜18℃程度、特に15℃前後である。成膜温度は高くても膜は形成できるが、均一性を高めるためには室温よりも低い温度で成膜するのが好ましい。
以下、本発明を実施例に基づきより詳細に説明する。
実施例1
(1)脂質質二分子膜光重合に用いられる紫外光照射量を変えることによる膜内水平拡散制御
光重合性脂質分子である1,2-bis(10,12-tricosadiynoyl)-sn-glycero-3-phosphocholine (以下23:2diynePC と略す)モノマー分子をLangmuir-Blodgett/ Langmuir-Schaefer
法によって基板(ガラススライド)上に二分子膜構造にて吸着させた。膜移し取りに用いられる表面圧は、35 mN/ m である。吸着された膜は、常に水溶液中に保たれた。光重合
を行うにあたり、溶液中の酸素を除くために不活性ガス(アルゴンもしくは窒素)をパージした水溶液をポンプにより循環した。充分に脱気が行われた後に紫外光照射を300 nm
以下の波長に強い輝線を持つ深紫外光露光ランプを用いて行った。その際、干渉フィルターもしくはレーザー用干渉ミラーを用いて光化学反応に最も有効である250 nm 付近の光
を選択的に照射した。また、特定のパターンを転写するためには、基板を脂質膜が上面になるようにして水平に置きその上にマスクをのせた。なお、この段階においても膜およびマスクは水溶液中にある。また、露光中は振動をできるだけ少なくするためにポンプを停止した。紫外光照射時間を変えることにより膜に照射される光量を制御した。

ポリマー化を完全に進行させた膜の作製条件
温度 : 室温
照射波長:深紫外用光源 USHIO SP-5 を用い、その光の中で248±20 nmの波長 域を全反射ミラーによって選択的に照射した。
照射光強度: 20-25 mW/cm2 (254 nm)
照射時間: 160 秒
照射光強度(照射光量): 照射光量 4.0 J/cm2

光重合を制限した膜の作製条件
温度 : 室温
照射波長:深紫外用光源 USHIO SP-5 を用い、その光の中で248±20 nmの波長域を全反射ミラーによって選択的に照射した。
照射光強度: 20-25 mW/cm2 (254 nm)
照射時間: 40 秒
照射光強度(照射光量): 照射光量 1.0 J/cm2

光照射後、基板は0.1 M sodium dodecylsulfate (SDS) 水溶液に25℃で30分間浸され、未反応のモノマー分子が除去された。このプロセスによりパターン化されたポリマー脂質二分子膜のみが基板上に残された。
モノマー除去によって作られた空間には、生体膜に類似する物性を持つ脂質二分子膜が組み込まれた。これはベシクル融合法という手法を用いて行われた。そのような脂質膜の例として卵黄から採取されたホスファチジルコリン(以下egg-PC と略号)が用いられた
。ベシクル融合法の概要は、以下の通りである。まずegg-PCをクロロホルムに溶かし約1モルパーセントの標識用脂溶性色素 (Texas Red-DHPE) と混合した後、クロロホルムを窒素および真空乾燥によって完全に除去した。乾燥された脂質膜にリン酸緩衝液 (phosphate 0.01 M, NaCl 0.15 M, pH 6.8)を加えた。この際に最終脂質濃度は、1 mg/ mL 程度で
あった。脂質膜を水溶液中で膨潤させた後に溶液を凍結・融解させることを5サイクル繰り返し、脂質膜を溶液中に均一に分散させた。この段階においてベシクルはサイズが不均一であるため、エクストルージョン (extrusion) 法を用いてサイズの均一化を図った。
最終的なベシクルの平均サイズは直径50 nm 程度であった。このようにして作製されたベシクル溶液をパターン化された基板と接触させることにより、ベシクルを基板上でポリマー脂質二分子膜に覆われていない部分に選択的に吸着、融合させ、流動性を持った平面脂質膜を形成した。
以上の過程によって、ポリマー化脂質二分子膜と流動性脂質二分子膜とが基板上でパターン化された単一のハイブリッド膜として形成された。23:2diynePC光重合の際に照射光
量を多くしポリマー化を完全に進行させた膜においては、流動性膜が定められた区画に閉じこめられ、ポリマー脂質二分子膜内への浸透は見られなかった(図4)。それに対して、照射光量を減らして光重合を制限した膜においては、流動性膜がポリマー膜内に浸透することが観察された(図5)。

パターン化された膜内での脂質分子の水平拡散速度は、蛍光消光回復(Fluorescence recovery after photobleaching: FRAP) 法によって定量的に測定された。この手法は、膜
の一部分に強い光照射を行いその部分の蛍光を消光した後、膜内分子水平拡散によって蛍光が回復する速度を定量するものである。図6に異なる紫外光照射量を用いて作製されたパターン化脂質二分子膜における蛍光回復挙動の比較を示す。(黒点:流動性区画内の挙動、白点:ポリマー化脂質二分子膜内の挙動)流動性区画内においては、紫外光照射量に関係なく蛍光の回復が見られた。それに対して、ポリマー化脂質二分子膜内においては、紫外光照射量の増加とともに蛍光回復速度が遅くなり、膜内の分子水平拡散が制限されることが示された。特に最も多くの紫外光を照射した実験例(c)においては、蛍光回復は全く観測されず、ポリマー膜が脂質分子の水平拡散を遮る障壁として機能していることが証明された。紫外光照射量とポリマー化脂質二分子膜内の分子拡散速度の関係をプロットしたのが図7である。水平拡散速度が紫外光照射量の増加とともに減少し、最終的にはゼロになることが確認された。

(2)光照射量を多段階に調節したパターン化脂質膜
23:2diynePC光重合の際に、図8に示すような100%、40%、0%の3段階の紫外
光透過率を持つマスクを用いてパターン化を行った。紫外光照射量100%の部位ではポリマー化が充分に進行し、界面活性剤に不溶なポリマー化脂質二分子膜が形成される。0%の部位ではモノマーが保護され、界面活性剤によるモノマー分子除去後新しい脂質二分子膜 (egg-PC) が導入される。一方、紫外光照射量40%の部位ではポリマー化反応が制限され、流動性脂質膜が浸透することが可能であるようなポリマー化脂質二分子膜が形成される。このような水平拡散の制限された部位が細長い流路を形成しており、ふたつの流動性脂質二分子膜区画を結合している。従って、図2に模式的に示される、様々な膜タンパクを含んだ人工膜区画をこのような流路によって接続し、複数の膜区画の協調的機能発現を実現することが可能になる。
(3)成膜温度のポリマー化膜形態への影響
本実施例において光重合性脂質23:2diynePC二分子膜は、モノマー分子をLangmuir-Blodgett/ Langmuir-Schaefer 法によって基板上に累積することによって作製される。その際の膜形成温度(表面に単分子膜(ラングミュアー単分子膜)が形成される水相の温度)が23:2diynePC分子を光重合して得られるポリマー脂質二分子膜の形態に大きな影響をもた
らすことが発見された。図9は、様々な水相温度を用いて作製された脂質二分子膜をパターン化光重合後に蛍光顕微鏡で観察したものである。15℃で作製された膜は重合後も均一な膜形態を保持しているが、19度においては膜の不均一性が観察され、21℃、25℃と温度が上昇するにつれて非常に不均一なポリマー化脂質二分子膜が形成されることが示された。このような顕著な温度効果のメカニズムは不明であるが、脂質二分子膜内の分
子パッキングの違いが重要な影響を与えていることが推測される。23:2diynePCのラング
ミュアー単分子膜は、15℃と25℃で顕著に異なる表面圧等温曲線を示す。従って、基板上に移し取られる膜の分子パッキングが大きく異なることが予想される。15℃においては、光重合によって構造が大きく変化しない分子パッキングが予想され、一方25℃においては、光重合の前後で分子パッキングが大きく変化するために膜に機械的ストレスが加わり膜の乱れを生じるものと考えられる。
本発明においては、ポリマー化脂質二分子膜と流動性脂質二分子膜のパターン化ハイブリッド膜を作製する事が目的であり、そのためには光重合で得られるポリマー化脂質膜が均一な二分子膜構造を持つことが望まれる。したがって、ジアセチレン光重合部位を持つ脂質(例23:2diynePC)を用いた膜パターン化のためには、モノマー分子の脂質二分子膜
をLangmuir-Blodgett/ Langmuir-Schaefer 法によって低温(望ましくは15℃以下)に
おいて作製することが好ましいことが分かった。
脂質分子の膜内光重合を用いた脂質二分子膜パターン化手法の概念図。(1)基板上に重合性脂質(モノマー)の二分子膜を吸着させる。(2)光重合。この際マスクなどを用いて膜に照射される光量を変化させ、(A) 完全遮光、(B) 部分遮光、(C) 完全露光の三段階に調節することにより、局所的な光重合反応を制御する。(3)光重合反応から保護されたモノマー分子を界面活性剤もしくは有機溶媒によって基板上から除去する。(A) 膜完全除去、(B) 膜部分除去、(C) ポリマー二分子膜が基板上に完全に残る。(4)新しい脂質二分子膜の導入。この膜は細胞膜を模した物性を有し、疑似細胞膜として用いられる。 パターン化疑似生体膜の区画に異なる種類の膜蛋白を組み込み、隣接する区画同士を半透過性脂質二分子膜によって接続した模式図。半透過性脂質二分子膜は、イオンや小分子を水平方向に透過させるが、膜蛋白などの分子量の大きな分子は透過させないため、膜蛋白(A,B)はそれぞれの区画内に閉じこめられている。膜蛋白Aに対して与えられたシグナルは、メッセンジャー分子(A1)を介して膜蛋白Bに伝達し、最終的には電気または光シグナルとして読みとられる。 パターン化疑似生体膜バリエーションの一例:高度重合脂質からなる難移動性区画によって囲まれ外部から隔離された流動性脂質二分子膜(易移動性区画)は、半透過性の中程度移動性区画によって細分化される。それぞれの易移動性区画には、異なる生体高分子(膜蛋白質など)が閉じこめられており、低分子、イオンのみが中程度移動性区画を通じて異なった易移動性区画の間を自由に移動できる。 ガラス基板上においてパターン化されたポリマー化脂質二分子膜と流動性脂質二分子膜(蛍光観察)。脂質二分子膜光重合は紫外光照射量4.4 J/ cm2 によってなされた。(A)ポリマー化された23:2diynePC脂質二分子膜(緑色蛍光)。(B)流動性のある脂質二分子膜 (egg-PC およびTexas-Red DHPE) (赤色蛍光)。(C)流動性膜の一部を強力な光照射によって消光した直後の蛍光観察。(D)局所的な蛍光消光の4分後。局所的に消光された区画における蛍光強度の均一化は、蛍光分子が水平方向に拡散していることを示唆する。また、周囲の区画の蛍光強度は変わっておらず、ポリマー化脂質二分子膜が分子拡散に対して障壁として働いていることを示す。白いスケールバーは、50ミクロンに相当する。 ガラス基板上においてパターン化されたポリマー化脂質二分子膜と流動性脂質二分子膜(蛍光観察)。脂質二分子膜光重合は紫外光照射量0.9 J/ cm2 によってなされた。(A)ポリマー化された23:2diynePC脂質二分子膜(緑色蛍光)。(B)流動性のある脂質二分子膜 (egg-PC およびTexas-Red DHPE) (赤色蛍光)。ポリマー化された格子状領域内にも流動性膜の赤色蛍光が観察される。(C)ポリマー化された格子状領域内において流動性膜を強力な光照射によって消光した直後の蛍光観察。(D)局所的な蛍光消光の6分後。局所的に消光された部分が不明瞭化しており、ポリマー化脂質二分子膜内においても蛍光分子が水平方向に拡散していることを示唆する。白いスケールバーは、50ミクロンに相当する。 パターン化脂質二分子膜内に組み込まれた脂溶性色素 (NBD-PE) をレーザー光で局所的に消光した後の蛍光回復曲線:ポリマー化脂質二分子膜は、異なる紫外光照射量によって重合された((a) 0.65 J/ cm2, (b) 0.98 J/ cm2, (c) 1.30 J/ cm2)。黒点:流動性区画内の蛍光回復挙動、白点:ポリマー化脂質二分子膜内の蛍光回復挙動。 脂質二分子膜光ポリマー化に用いられた紫外光照射量とポリマー化脂質二分子膜内におけるNBD-PE分子拡散速度の関係。拡散速度は、FRAP法の蛍光回復曲線を理論式にフィットすることによって得られた。 (A)100%、40%、0%の3段階の紫外光透過率を持つマスクの模式図。(B)上のマスクを用いて脂質二分子膜をパターン化した例:紫外光照射量100%の部位ではポリマー化が充分に進行し、界面活性剤に不溶なポリマー化脂質二分子膜が形成される(緑色蛍光)。0%の部位ではモノマーが保護され、界面活性剤によるモノマー分子除去後新しい脂質二分子膜 (egg-PC) が導入される(赤色蛍光)。一方、紫外光照射量40%の部位ではポリマー化反応が制限され、流動性脂質膜が浸透することが可能であるようなポリマー化脂質二分子膜が形成される。このような水平拡散の制限された部位が細長い流路を形成しており、ふたつの流動性脂質二分子膜区画を結合している。 パターン化脂質二分子膜作製に対するモノマー膜累積温度条件の影響:23:2diynePCモノマー脂質二分子膜を様々な水相温度において基板に累積し、パターン化光重合後に蛍光顕微鏡で観察、比較した。モノマー膜累積温度:(A)摂氏15度、(B)19度、(C)21度、(D)25度。摂氏15度で作製された膜は重合後も均一な膜形態を保持しているが、19度においては膜の不均一性が観察され、21度、25度と温度が上昇するにつれて非常に不均一なポリマー化脂質二分子膜が形成されることが示された。

Claims (7)

  1. 無ないし低度重合脂質から構成され生体高分子が移動可能な少なくとも2つの易移動性区画及び高度重合脂質から構成され生体高分子の移動が制限された難移動性区画を有し、かつ、易移動性区画間の低分子物質移動を可能にする中程度移動性区画をさらに有するパターン化された疑似生体膜。
  2. 中程度移動性区画が中程度重合脂質からなる請求項1に記載の疑似生体膜。
  3. 生体高分子が蛋白質、多糖、糖タンパク、DNA及びRNAからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1または2に記載の疑似生体膜。
  4. 易移動性区画が、非光重合性のリン脂質、スフィンゴ脂質、糖脂質、ステロイド及び膜タンパクからなる群から選ばれる物質から構成される請求項1または2に記載の疑似生体膜。
  5. (1)基板上に光重合可能な脂質膜を形成するステップ、(2)該脂質膜にパターン化された重合特性の異なる2種類の光を同時にまたは逐次的に基板に照射して難移動性区画、中程度移動性区画及び易移動性区画を形成するステップを包含する、パターン化された疑似生体膜の製造方法。
  6. さらに、(3)重合していないか重合度の低い膜部分を可溶化剤を用いて基板表面より除去し、該膜部分に流動性を持つ疑似生体膜を新たに導入するステップを含む、請求項5に記載の方法。
  7. 前記ステップ(1)において、脂質膜を10〜20℃の温度下に形成する請求項5に記載の方法。

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