JP4148347B2 - 超柔軟系要素の駆動方法、自由関節マニピュレータの駆動方法及びマニピュレータ - Google Patents
超柔軟系要素の駆動方法、自由関節マニピュレータの駆動方法及びマニピュレータ Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、長手方向にフレキシブルな超柔軟系要素の駆動方法及び多関節からなる自由関節マニピュレータの駆動方法に関するものであり、より詳細には、ひも・ロープ・ワイヤーなどのような非常に柔軟でかつ多自由度なもの(超柔軟系要素と呼ぶ)のマニピュレーションを考えること、あるいは超柔軟系要素に近似した運動をする多関節マニピュレータに振動エネルギや回転エネルギを与えることにより、重力に抗して所望のポテンシャル力を発生させる自由関節マニピュレータの駆動方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、ソフトマシン、ソフトメカニクスなど、柔軟性を重視した研究への気運が高まりを見せており、例えば蛇やタコ・イカの足など、自然界に見られる柔軟で多自由度な構造から発想を得たマニピュレータシステムの提案が盛んに行われている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、超多自由度系(例えば、非常に多数の関節を持つマニピュレータや指など)に関する研究による知見から、そのような高い柔軟性を持ち多自由度なシステムをハードウェア的に実現するには、これまで考えられてきたようなフルアクチュエート(自由度と同数のアクチュエータを用いて駆動すること)を前提としてでは非常に困難であり、アンダーアクチュエート(劣駆動;系の持つ自由度より少ない数のアクチュエータを用いて全体を駆動すること)が可能なシステムであることが不可欠であるとの考えに至っている。
【0004】
一方で、これまで非ホロノミック系・劣駆動系といった非線形力学構造を持つマニピュレータシステム、特に自由関節を持つマニピュレータアームについて、その動的挙動解析と制御に関する研究を行ってきた過程において、自由関節で連結された剛体リンク系が、ひも・ロープや布などのような非常に柔軟な構造物(超柔軟系要素と呼んでいる)の一つのモデルとして考えられ、そこから従来は弾性の存在の仮定なくしては考えられなかった柔軟系要素の制御に対して、全く新たな視点からの動力学解析と制御の可能性があるのではないかとの着想を得るに至った。
【0005】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、 ひも・ロープ・ワイヤーなどの超柔軟系要素について、劣駆動系としての観点から運動の性質を明らかにすることで、そのマニピュレーションを可能とすること、および、この超柔軟系要素に近似する多関節構造体のリンク系の根元の軸に対して所望の振動あるいは回転を与えることにより、リンク先端の位置決めをしたり、リンク先端にポテンシャルエネルギを与えたりすることができる自由関節マニピュレータの駆動方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するため、本発明における超柔軟系要素の駆動方法は、長手方向にフレキシブルな超柔軟系要素の一端に所望の振動エネルギを印加することにより、超柔軟系要素の長手方向に対して、例えば重力や外力に抗したポテンシャル力を発生させることを特徴とする。
【0007】
また、前記超柔軟系要素の駆動方法に近似した自由関節マニピュレータの駆動方法は、複数のリンクの各々が駆動自在な関節で接続された自由関節マニピュレータの駆動方法において、複数のリンクの末端を保持する保持部材に接続された関節根元に所望の振動エネルギを印加する手順と、複数のリンクの各々の姿勢角が、振動エネルギによって複数のリンクに発生させたポテンシャル力あるいはこれを重力または外力との合力により、所望の角度を保持する手順とを含むことを特徴とする。
【0008】
また、本発明における自由関節マニピュレータの駆動方法は、複数のリンクは2個のリンクであり、関節根元に振幅ε、角加速度ωの振動エネルギを印加したとき、関節根元に接続される第1リンクの姿勢角θ1及び第1リンクに接続される第2リンクの姿勢角θ2は、式(14)に従う角度に保持されることを特徴とする。
【0009】
また、本発明における自由関節マニピュレータの駆動方法は、アームの一部に負荷または外乱が加わったとき、印加される振動の振幅変調を行うことにより各リンクの姿勢角の過渡変動における応答時間を短縮させることを特徴とする。
【0010】
また、本発明のマニピュレータは、長手方向にフレキシブルな超柔軟系要素の一端をアクチュエータに連結し、所望の振動エネルギを印加することにより、前記超柔軟系要素の長手方向に対して、所定の大きさのポテンシャル力を発生させることを特徴とする。
【0011】
また、本発明のマニピュレータは、超柔軟系要素または多関節を有するアームを備えたマニピュレータにおいて、超柔軟系要素またはアーム全体の根元の関節に所望の振動エネルギまたは回転エネルギを印加することにより、超柔軟系要素の各部や前記アームを構成する各リンクがなす角度を所定の値に保持させることを特徴とする。さらに、超柔軟系要素、あるいは、多関節を有するリンク全体のばね定数、振動減衰係数を所定の値に保持させて、超柔軟系要素やリンク全体を所望の硬さないしは柔らかさにすることを特徴とする。
【0012】
【発明の実施の形態】
従来技術において、柔軟系要素の動力学モデルについては弾性の存在を前提とした上で、研究されてきた。柔軟系要素のモデルは本来無限次元連続系として表されるべきである。
しかし、ロボットアーム(マニピュレータ)のように先端の手先における位置のみが主たる関心の対象となるような時など、実用上においてはそのように高次元の変数を考える必要性は少ない。よって有限個のリンクが関節で連結された系として分割し、柔軟系要素全体の粘弾性を各リンクや関節に集中させた離散モデルがよく用いられ、(弾性のある)柔軟系要素の動力学モデルとして一般的に考えられている。(例えば、坂和,松野:「フレキシブルアームのモデリングと制御」,
計測と制御, 25-1, pp.64-70 (1986))
一方で、弾性をほとんど、あるいは全く持たないような、より柔軟な系を考える際は、従来は、形状の変化のみを記述する幾何モデルや、その時間変化、または運動の軌跡のみを記述する運動学モデル、応力と形状変化の静的な関係を記述する静力学モデルまでが考えられているのみであり、内力・外力とその結果として起こる運動の相関関係まで記述する動力学モデルは提示されていない。
本発明では、このような弾性さえ持たない、より柔軟な要素を「超柔軟系要素」と呼び、その動力学モデルとして複数のリンクが自由関節で連結された多リンク系(自由関節マニピュレータ)としてその制御方法を提示する。
この超柔軟系要素の例としては、ひも、糸、ロープ、ワイヤー、テザーなどのような1次元幾何形状のもの、その他には布や紙など2次元以上の幾何形状を持つものが考えられる。
【0013】
以下、自由関節マニピュレータの駆動方法の実施の形態を詳細に説明する。本発明では、第1関節のみが駆動される自由関節マニピュレータの駆動方法の研究において、第1関節へ周期的に振動を入力することによって、振動方向を平衡とする一種の人工的なポテンシャルが生成されることに着目して、多関節における自由関節マニピュレータの駆動方法を展開している。つまり、本発明では、振動によって生じる人工ポテンシャル力を利用し、この人工ポテンシャル力と重力との合力によって垂直方向以外の方向に対しても動的安定性が得られる方法を実現している。さらに、自由関節マニピュレータの動作状態におけるインピーダンス特性を明らかにして、インピーダンス制御によって外力に対する力制御を行うことができるようにしている。
このようにして、本発明の自由関節マニピュレータにおいては、リンク系の先端やリンク途中に外力が加わった際にも安定的に動作させるような補償や、自由関節マニピュレータに負荷がかかっても安定的に動作を行うような作業モードの実現を図ることができる。さらには、本発明においては、自由関節マニピュレータをより多関節に拡張することによって、ひもや鞭や布などのような超柔軟系要素を持つマニピュレータなど、新しい自由関節マニピュレータのシステムについて実用的応用の道を開拓して行くことを目指している。
【0014】
本発明における自由関節マニピュレータの駆動方法について具体的に説明すると、たとえば、ひも、糸、縄、ワイヤ、鞭などのような超柔軟系要素に対して、その根元の部分に適切な大きさの振動を加えると、それらの超柔軟系要素が振動に対して所定の方向に揃って向くように一種の力が働く性質がある。例えば、鞭を適当な早さで振れば先端を所望の位置に持って行くことができる。このような性質を利用して超柔軟系要素を所望の硬さにしたり柔らかい状態に戻したりすることが自由にできる。超柔軟系要素のこのような性質によって、例えば、振動を加えたひもを重力に抗して斜めに立てることもできるし、そのひもに外力を加えたときに一時的に湾曲しても元の状態に復元して外力に対して抵抗することもできる。よって、このような技術を応用することにより、位置決めをしたり、柔らかさ/硬さを自在に変えることのできる要素を備えた製品を実現することができる。
【0015】
次に、本発明における自由関節マニピュレータの駆動方法を理論的に説明するが、先ず、重力下にある自由関節マニピュレータについて解析する。平面自由関節マニピュレータについては、リンク系の根元へ振動エネルギを入力することによって一種のポテンシャル力が生成され、リンク系が摂動方向に沿って並ぶような形状においてポテンシャル力が極小となることが解析的に示されている。そこで、さらに自由関節マニピュレータが重力下におかれた場合についてその性質を利用し、リンク系の根元へ振動を入力したときに生じる人工ポテンシャル力と重力との合力による平衡点へ安定化させることによって、重力の方向以外の方向へ安定化させる制御を行う。ただし、本発明における自由関節マニピュレータでは、継続的にリンク系の根元へ振動エネルギを入力する必要があるためあくまで静的ではなく動的な安定化となっている。
【0016】
重力場中で第1関節が固定され、自由関節を持つシリアルマニピュレータの動力学的方程式は一般に次の式(1)で表わされる。
【数2】
【0017】
ここで、第1関節のみが駆動関節であり、且つ第1関節へ周期的に振動を与えると、平均化系の方程式は次の式(2)によって表わすことができる。(J.A.Sanders and F.Verhulst. Averaging Methods Nonlinear Dynamical Systems.Springer−Velag,1985.による)
【数3】
つまり、式(2)が、一駆動関節のみを持つ多関節の自由関節マニピュレータの振動周期入力に対する平均化系の一般式である。
【0018】
また、式(2)で求められた多関節自由関節マニピュレータの平均化系における平均化エネルギEは次の式(3)によって定義される。
【数4】
【0019】
尚、上記の式(3)のうち、運動エネルギ項Ekは次の式(4)によって表わされる。
【数5】
式(4)から明らかなように、運動エネルギ項Ekは自由関節に対応するリンクの総運動エネルギとして比較的簡単に求められる。
【0020】
また、上記の式(3)のうち、ポテンシャルエネルギ項Epは次の式(5)によって表わされる。
【数6】
式(5)の第一項は重力によるポテンシャルエネルギ、第二項以降は第1関節への振動の周期入力によるポテンシャルエネルギであり、これは水平面内など重力項のない場合における平均化エネルギのポテンシャル項と一致する。
【0021】
また、式(5)における平衡点は次の式(6)を満たす姿勢角の角度θの点である。
【数7】
【0022】
式(2)、(4)および式(5)より、平均化エネルギEの微分値は次の式(7)で表わされる。
【数8】
式(7)から明らかなように、自由関節において摩擦が存在する場合は、通常の摩擦では摩擦項Fは常に関節の角速度に対して負方向に働くことから、平均化エネルギEの微分値は負である。すなわち、上記の平均化エネルギEが散逸し、平衡点に収束することが示される。
【0023】
次に、重力下にある2関節(2R)の自由関節マニピュレータについて解析する。最初に、重力下にある2R自由関節マニピュレータの平均化系について説明する。ここでは説明を簡単にするため、第1関節が駆動関節であり第2関節が自由関節である2Rマニピュレータを考える。入力uを第1関節の角速度として、重力・摩擦項を含めた部分線形化式は次の式(8)のようになる。
【数9】
第1関節への振幅の入力を、θ1=θ10+εfT(t)のような振幅をε、角周波数をω=2π/Tとする周期入力とする。
【0024】
このとき、上記の式(8)における平均化系は、角速度uの平均値が0であることにより、次の式(9)のように求まる。
【数10】
ここで、KはfT(t)の波形による係数であり、正弦波の場合はK=1/2である。尚、水平面の場合は式(9)の第2項の重力項を除けばよい。
【0025】
次に、2R自由関節マニピュレータへ振動を入力したときの動的安定平衡点について説明する。図1は、重力下の2R自由関節マニピュレータに振動入力したときのシミュレーション結果による動的安定平衡点を示す非線形動作特性図である。横軸に第2リンクの姿勢角〔rad〕を示し、縦軸に第2関節の姿勢角の角速度〔rad/sec〕を示している。つまり、図1は、2R自由関節マニピュレータの平均化系について、第1リンクのリンク角θ1=π/4〔rad〕のまわりに振幅0.2〔rad〕、角速度32π〔rad/sec〕の正弦波振動を加えたときのシミュレーション結果の特性である。図1の特性は第2リンクの位相平面で表されており、第2関節の原点は水平方向としているため、垂直方向は図中の×印で表されたθ2=±π/2の点である。図1に示すように、重力方向とは異なる場所に平衡点が形成され、関節の摩擦によってその平衡点に収束していることが分かる。
【0026】
上記の平衡点は平均化系から解析的に求めることができる。前述の式(9)より平均化エネルギEのうち運動エネルギ項Ekは次の式(10)によって求められ、ポテンシャルエネルギ項Epは次の式(11)によって求められる。
【数11】
【数12】
【0027】
また、上記の式(10)、式(11)の平均化エネルギの平衡点は、第2リンクの姿勢角θ2の角速度が0のとき、及び次の式(12)を満たす点(θ1,θ2)となる。
【数13】
式(12)より、θ2=±π/2(重力方向)およびθ2=θ1+kπ/2が特異点となることが分かる。但し、k=0,±1,±2…である。
【0028】
前者のθ2=±π/2となる重力方向については振動入力を必要とせずに平衡となることを意味し、後者のθ2=θ1+kπ/2における平衡点は、厳密には、振動入力を無限大にしない限り重力が存在するために達成できない点である。また、式(12)におけるsin2(θ2−θ1)とcosθ2の符号が異なる場合には、その平衡点を実現できるような振幅および周波数は存在しない。例えば、0≦θ1≦π/2のとき、実現可能な目標点は−π/2≦θ2≦(θ1−π/2)、およびθ1≦θ2≦π/2、および(θ1+π/2)≦θ2≦(θ1+π)となる。しかし、それ以外の形状については目標点に応じて入力振幅や周波数を求めることにより動的安定を実現することができる。
【0029】
振動の入力uは、正弦波入力u=εωsinωtにおいては、σ2=ε2ω2/2となることから、目標形状を(θ1d,θ2d)とすると、入力振幅と周波数は次の式(13)を満たすように求めればよい。
【数14】
【0030】
以上述べたように、第1関節と第2関節によって構成される2関節の自由関節マニピュレータの平衡点においては、前述の式(13)によって釣り合いが保たれる。式(13)では、所定の振幅εと角周波数ωとを決定することにより、第1関節の姿勢角θ1と第2関節の姿勢角θ2とが所定の関係を維持して、リンクの姿勢を所望の形状に保つことができる。
【0031】
図2は2関節の自由関節マニピュレータの構成図である。図において、X軸のθ=0の方向が水平面方向であり、Y軸のθ=±π/2の方向が重力方向である。XY軸の原点に2関節マニピュレータ1の関節根元が置かれ、ここに振動を入力する。第1リンクの長さはl1、関節根元から重心までの距離はa1、質量はm1、重心まわりの慣性モーメントはI1となっている。また、第1リンクの先端に接続されている第2リンクの長さはl2、第1リンクと第2リンクの関節部から重心までの距離はa2、質量はm2、重心まわりの慣性モーメントはI2となっている。さらに、第1リンクと第2リンクの関節部の摩擦係数はγ2となっている。
【0032】
関節根元に振幅εで角周波数ωの振動を加えると、関節根元にはu=εωsinωtの正弦波振動が入力される。これによって、第2リンクは慣性モーメントI2、質量m2、リンク長l2、重心までの距離a2との関係に加え、摩擦係数γ2による影響を受けて姿勢角θ2となる。このとき、第1リンクの姿勢角θ1と第2リンクの姿勢角θ2は、前述の式(13)によって釣り合いが保たれて平衡状態となる。このようにして、所定の振幅εと角周波数ωとを決定して関節根元に入力することにより、2関節の自由関節マニピュレータの平衡点においては、第1リンクの姿勢角θ1と第2リンクの姿勢角θ2とが式(13)にしたがって所定の関係を維持し、リンクの姿勢を所望の形状に保つことができる。つまり、ある振幅εと角周波数ωとによって第1リンクの姿勢角θ1と第2リンクの姿勢角θ2を所定の値とすることができ、結果的にアームの先端を所定位置に位置決めすることができる。
【0033】
図3は多関節の自由関節マニピュレータの構成図である。この図の例では、多関節マニピュレータ2は複数個のリンクが接続された構成となっている。X軸(水平面方向)、Y軸(重力方向)に対する多関節マニピュレータ2の配置は図2の場合と同じである。前述と同様に第1リンク、第2リンク…と順次に接続され、第i番目のリンクとして接続されている第iリンクの長さはli、関節部から重心までの距離はai、質量はmi、重心まわりの慣性モーメントはIiとなっている。さらに、第iリンクの関節に関する摩擦係数はγiとなっている。関節根元に振幅ε、角周波数ωの振動を入力する。
【0034】
このとき、各リンクの姿勢角θは、前述の式(6)によって釣り合いが保たれて平衡状態となる。このようにして、所定の振幅εと角周波数ωと波形とを決定して関節根元に入力することにより、多関節の自由関節マニピュレータにおいても、各リンクの姿勢角θは式(6)にしたがって平衡点が保たれて所定の関係を維持し、リンクの姿勢を所望の形状に保つことができる。
【0035】
尚、式(6)は一般的な平衡安定点を求める式であって、各関節が平衡点となる姿勢角θは明示的には示されていないが、各項の定義は前述の式(1)および(2)で示した通りであり、多関節における平衡点を求める一般式としては式(6)を用いる必要がある。しかし、式(6)のような一般式を用いて多関節の平衡点を具体化することは困難であるので、多関節の自由関節マニピュレータを具体的な数値に置換えて各関節の平衡点を求める場合は、式(6)に基づいて個別の式を導き出す必要がある。つまり、平衡点を定性的に説明する場合は、式(6)を用いて、重力や弾性などのポテンシャル力に対抗して、式(6)の第2項に示される振動によってポテンシャル力が釣り合うような姿勢角θを求めるが、多関節における各関節の平衡点を定量的に求める場合は式(6)より個別の式に展開する必要がある。
【0036】
次に、インピーダンス制御を用いた力制御について説明するが、先ず、動的安定状態におけるインピーダンス特性について述べる。上述したように、自由関節マニピュレータでも重力に抗して目標点における安定化が可能なことから、さらにアーム先端やアーム途中に負荷や外乱が加わった場合でも、それらの外力に抗して目標状態(目標角度)を維持するような力制御を行うことが可能であると考えられる。
【0037】
ここでは、第2関節に外力により生じるモーメントτeが付加された場合を考慮すると、式(9)は次の式(14)に書き直すことができる。
【数15】
【0038】
式(14)において、例えば、リンク先端に外力Fが絶対角φの方向に加えられた場合には、モーメントτeは次の式(15)にようになる。
【数16】
【0039】
振動入力の中心を前述と同様にθ1=π/2とし、式(14)をインピーダンス制御を意識して次の式(16)のように書き直す。
【数17】
【0040】
式(16)より、この系は、弾性項(ζ+σ2μ2sinθ2)cosθ2と減衰係数γの受動インピーダンスを持つことが分かる。特に、動的安定化状態においては、次の式(17)が成立する
【数18】
【0041】
したがって、式(17)より目標点近傍においては次の式(18)が成立する。
【数19】
また、式(18)より、弾性係数kpは次の式(19)となることが分かる。
【数20】
【0042】
このように、動的安定化状態にある系が受動インピーダンスを有していることが示されたが、さらに振幅や周波数を誤差に応じて変調することで、目標のインピーダンス特性を得るコンプライアントな制御方法を構築することができる。
【0043】
次に、振幅変調によるインピーダンス制御について説明する。振動入力の二乗平均をσ=kσσdとおく。ここで、kσは、θ2=θ2dの時にkσ=1となる係数であり、目標点からの誤差に応じて変わる変数ゲインである。このとき、前述の式(16)は次の式(20)のように書き換えられる。
【数21】
【0044】
ここで、望ましいインピーダンス特性をkd,γdとおくと、次の式(21)が成立する。
【数22】
したがって、式(21)より式(22)が求められる。
【数23】
【0045】
上記の式(22)より目標とするインピーダンス特性を得ることができる。ただし、当然ながら、式(22)における根号内が正となる範囲内のみでインピーダンスは設計できることになる。また、このような振幅変調によるインピーダンス制御は、1周期毎に入力の振幅および周波数を変調するものであるため、あくまで離散的な平均化系の上において実現しているものであるが、重力下における自由関節マニピュレータの解析で示したように、周波数を高くして振幅を小さく設定すれば、周期間での振れ幅を小さくすることができ、近似性をより高めることができる。
【0046】
図4は受動インピーダンスの外乱による第2姿勢角の応答特性を示す図である。横軸に応答時間〔sec〕、縦軸に第2関節の姿勢角〔rad〕を示す。図5はインピーダンス制御を行ったときの、外乱による第2姿勢角の応答特性を示す図である。横軸に時間〔sec〕、縦軸に第2関節の姿勢角〔rad〕を示す。つまり、図4、図5は、第2関節の姿勢角θ2dを、θ2d=−π/6において動的安定化を行った後に、t=1〔sec〕からt=2〔sec〕の間に、τe=10.0〔rad/sec2〕のモーメントを第2関節の正方向に加えた結果の応答特性である。尚、この外力モーメントτeは、リンク長l2=0.2〔m〕、慣性モーメントL22=0.0302〔kg・m2〕の第二リンクの先端にFe=1.6〔N〕の外力を加えたことに相当する。
【0047】
つまり、図4、図5は外力を加えたときの第2リンクの応答特性を表わし、図4はインピーダンス制御を用いずに、動的安定化状態における受動インピーダンスのみによる応答特性結果を表しており、図5はインピーダンス制御を用いて、目標インピーダンス特性をkd=400〔sec-2〕、γd=7.0〔sec-1〕とした時の応答特性結果である。元々の受動インピーダンス特性だけでもおよそ十分な応答特性が得られているが、本発明の制御方法により、外力に対する応答がさらに改善されていることが分かる。
【0048】
次に、自由関節マニピュレータの根元に振動を入力して動的安定平衡点を得る具体的な実施例の幾つかを説明する。図6は自由関節マニピュレータをクレーンに応用した実施例を示す模式図である。クレーン11に取り付けられた吊り具用のバイブレータ12を振動させると、ワイヤ13は重力に抗してポテンシャルフォースFの方向へ力が働く。したがって、ワイヤ13の先端に保持された被吊り上げ物体14をポテンシャルフォースFによって所望の方向へへ移動させることができる。また、通常のクレーンの機能として、ワイヤ13によって被吊し上げ物体14を昇降させることができる。
【0049】
図7は超柔軟系要素マニピュレータによる物体移動の応用例を示す模式図である。ロボット21のアーム22を適当な周波数で振動させると、アーム22の先端に結ばれている鞭や紐などの超柔軟系要素マニピュレータ23を重力に抗して所望の形状に変化させることで物体24に巻き付けて捕獲することができる。同様に、アーム22を適当な周波数で振動させることにより、超柔軟系要素マニピュレータ23へ重力に抗して所定方向への力を作用させ、物体24を所望の位置に移動させることができる。
【0050】
図8は上述の自由関節マニピュレータの駆動関節をリニアアクチュエータに代えた例の模式図である。この例では、自由関節マニピュレータ30の根本に設けられたリニアアクチュエータ31を所定方向に振動させれば重力gに抗してリンク32を所定方向へ動かすこともできる。この場合、駆動源として回転モータを使わなくても、リニアアクチュエータ31を使って駆動関節を所定方向に往復動させれば、リンク32に回転力を与え、重力やその他の外力との合力により安定する方向ヘリンク32の先端を位置決めすることができる。なお、超柔軟系要素の根本を往復動させる場合にも、同様にその先端を所望の位置へ移動させることができる。
【0051】
以上説明したように、本発明においては、重力下にある自由関節マニピュレータの平均化解析を行い、リンク系の根元への周期摂動入力により垂直方向以外の方向への動的安定化が行えることを示した。また、飽和付きスライディングモード制御を用いて目標点へのより早い収束安定化方法を示した。さらに、リンク先端やリンク途中に外力が働く場合を考慮して、入力振幅や周波数変調により目標のインピーダンス特性を得る力制御方法についても示した。
【0052】
以上述べた実施の形態は本発明を説明するための一例であり、本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではなく、発明の要旨の範囲で種々の変形を加えた対応が必要である。例えば、上記の実施の形態は近似された平均化系に基づいて展開したが、マニピュレータなどにおける実際の制御では近似誤差などを補正した制御を行う必要がある。また、力制御については、動的安定化状態において入力振動による周期間の振れ幅を考慮する必要がある。そのためにはできるだけ高周波で小振幅な周期駆動ができるアクチュエータを用いる必要がある。また、無重力空間における使用においては、重力項との釣り合いを考慮する必要がないのはもちろんである。
【0053】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明における自由関節マニピュレータの駆動方法によれば、重力下にある自由関節マニピュレータに対してほほ任意の目標点について動的安定化が可能であり、しかも、外力等が働いた際にもインピーダンス的に力制御を行うことができる。上記の実施の形態では2関節の場合の制御方法を説明したが、この制御方法を3関節以上の多関節の場合でも適用することができる。
【0054】
また、自由関節系がひもや鞭や布などのような超柔軟系要素をモデルとした場合の制御にも応用することができる。例えば、クレーン等の制御や微小重力場におけるテザー衛星や長尺構造物の展開にも応用することができる。さらには、ひもや布のような超柔軟な要素を動的にマニピュレーションすることで、家庭用ロボットや各種のサービスロボットにおける作業をより効率的に行うなどにも応用することができる。また、ひも状の物体の先端にハンドがつながれていて、このハンドを投射することによって遠隔位置の対象物を掴む機能を持つキャスティングマニピュレータのようなシステムについて本発明の超柔軟要素の制御方法を用いることで従来にない新しいマニピュレータシステムを考えることもできる。
【0055】
さらには、超柔軟系要素をモデルとした制御において、インピーダンス特性を変化させることによって、所望の柔らかさ/硬さが得られる製品に応用することも考えられる。例えば、通常は糸や紐を小さく丸めて持ち運び、必要なときにスイッチを入れて振動させ、これらの糸や紐を棒状にして、例えばマジックハンドのようにして使うような製品など、従来ある道具を軽量化して持ち運びを容易にするような用途も考えられる。また、この技術は、必ずしも紐のような連続的に柔らかい物体だけでなく、ベアリングなどで自由に動く関節で連結された構造物に対しても応用することができる。例えば、宇宙衛星の太陽電池パネルやパラボラアンテナなどの展開に応用して、打ち上げ時には折り畳まれていた構造物に振動を適切に与えることで、構造物の展開を助けるような用途も考えられる。
【0056】
さらに、本発明の超柔軟系要素のマニピュレーションの応用として、例えば災害時に通常の機械システムでは到達し得ないような所にいる被災者を救出する、海中でのサルベージを行うなどのレスキュー等の分野での応用や、宇宙空間での衛星の捕獲回収や放出など、様々な極限的環境をも含むフィールドで、通常のシステムではなし得ないような作業への応用が考えられる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 重力下の2R自由関節マニピュレータに振動を入力したときの、シミュレーション結果による動的安定平衡点を示す非線形動作特性図である。
【図2】 2関節の自由関節マニピュレータの構成図である。
【図3】 多関節の自由関節マニピュレータの構成図である。
【図4】 受動インピーダンスの外乱による第2関節角の応答特性を示す図である。
【図5】 インピーダンス制御を行ったときの、外乱による第2関節角の応答特性を示す図である。
【図6】 超柔軟系要素の駆動方法をクレーンに応用した実施例を示す模式図である。
【図7】 超柔軟系要素マニピュレータによる物体の捕獲および移動への応用例を示す模式図である。
【図8】 自由関節マニピュレータの駆動関節をリニアアクチュエータにより駆動する場合を示す模式図である。
【符号の説明】
1…2関節マニピュレータ、2…多関節マニピュレータ、11…クレーン、12…バイブレータ、13…ワイヤ、14…被吊り上げ物体、21…腕振りアクチュエータ(ロボット)、22…アーム、23…超柔軟系要素マニピュレータ、24…物体、30…自由関節マニピュレータ、31…リニアアクチュエータ、32…リンク
Claims (3)
- 複数のリンクの各々が駆動自在な関節で接続された自由関節マニピュレータの駆動方法において、前記複数のリンクの末端を保持する保持部材に接続された関節根元に所望の振動エネルギを印加する手順と、前記複数のリンクの姿勢角を、前記振動エネルギによって該複数のリンクに発生させたポテンシャル力により、所望の角度に保持する手順とを含み、
前記ポテンシャル力と重力または外力との合力によって前記姿勢角が所定角度に保持され、
前記複数のリンクは2個のリンクであり、前記関節根元に振幅ε、角加速度ωの振動エネルギを印加したとき、該関節根元に接続される第1リンクの所望の姿勢角θ 1d 及び該第1リンクに接続される第2リンクの所望の姿勢角θ 2d は、
- 複数のリンクの少なくとも一部に負荷または外乱が加わったとき、印加される振動の振幅変調を行うことにより、各リンクの姿勢角の過渡変動における応答時間を短縮させることを特徴とする請求項1に記載の自由関節マニピュレータの駆動方法。
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