JP4145584B2 - ガスケット素材 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、車両等に搭載されるエンジンや変速機等に用いられるガスケットの素材に関し、特には、ゴムと補強繊維と充填材とを混練した原料をカレンダーロールで加圧積層および加硫して形成したジョイントシートからなるガスケット素材に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、車両等に搭載されるエンジンの周辺用のガスケットの素材としては、補強繊維としてのアスベストと、ニトリルゴムと、フェノール樹脂とを混練した原料を、ホットロールとコールドロールとの一対のロールを具えるカレンダーロールのホットロール上に積層して硬化させることで形成した、いわゆるアスベストジョイントシートが用いられていたが、昨今のアスベストの規制から、本願出願人等は、例えば1992年5月社団法人自動車技術会発行の学術講演会前刷集に本願出願人等が発表した論文「ノンアスベストガスケットの開発」に記したように、アスベストを使用せずに他の強化繊維を使用したジョイントシートの実用化を検討している。
【0003】
ところで、一般にジョイントシートは、カレンダーロールのホットロール上に付着した原料をホットロールとコールドロールで混練しつつ圧延してホットロール上に積層シートを形成し、その後、冷えたホットロール上から積層シートを剥ぎ取ることで形成する。このためジョイントシートの原料は、ホットロールには付着するがコールドロールには付着しにくく、かつ積層シートの剥ぎ取り時には冷えたホットロールからの離れが良いものである必要がある。
【0004】
それゆえ従来は、図6に示すように、ジョイントシート1を、ホットロールに付着するいわゆる皿材からなる表層1aと、コールドロールに付着しにくいいわゆる仕上げ材からなる裏層1bと、それらの間の充分な強度を持ったいわゆる中材からなる中間層1cとの三層構造で構成しており、その皿材のゴムには通常、中材と異なり天然ゴムを用いているが、天然ゴムは受熱環境における圧縮永久歪みが大きいという特性をもっている。
【0005】
この一方、例えば、エンジンと組み合わされた変速機のハウジングとそこに複数本のボルトで固定されるカバーとの間のガスケット挿入部のような、ボルト等のファスナーによる締結で構成する構造体のシール部分にガスケットを用いた場合、例えばボルト直下の部位ではガスケットに加わる面圧が高くなるが、ボルト同士を結ぶ直線に対してオフセットしたコーナー部やボルトスパン間の部位ではガスケットに加わる面圧が低くなって、面圧差が生ずることは周知であり、このような面圧差は、近年の構造体の軽量化のための低剛性化に伴って増大する傾向にある。また構造体の低剛性化は温度変化等でのシール間隙の変化も生じさせ、このことが面圧差をさらに増大させる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
これがため、上記従来のジョイントシート1から形成したガスケットをボルト等のファスナーによる締結で構成する構造体のシール部分に用いると、低面圧部でのシール性確保を前提としてボルト等の締付け力を設定するため、必然的にボルト等の直下の部位で高い面圧がガスケットに加わり、エンジン周辺部のような受熱環境では上記天然ゴムを用いた表層1aの圧縮永久歪みがその高い面圧で助長されて応力緩和が増大し、ボルトのトルクダウンが発生して潤滑油や作動油等のシール媒体の漏れを生ずる可能性があるという問題があった。
【0007】
【課題を解決するための手段およびその作用・効果】
この発明は、上記課題を有利に解決したガスケット素材を提供することを目的とするものであり、この発明のガスケット素材は、ゴムと補強繊維と充填材とを混練した原料をカレンダーロールで加圧積層および加硫して形成するジョイントシートからなるガスケット素材において、前記ジョイントシートが組成的に単層構造であり、前記原料の基本組成が、前記補強繊維としての15重量%以上のアラミド繊維と、前記ゴムとしての10重量%以上で30重量%以下のNBRと、前記充填材としての10重量%以上で20重量%以下のフェノール樹脂および残部の無機充填材と、からなることを特徴とするものである。
【0008】
かかるこの発明のガスケット素材によれば、ガスケット素材を構成するジョイントシートが、中材と組成の異なる、熱間時の圧縮永久歪み要素である天然ゴムを用いた皿材の表層を持たない単層構造であるので、エンジン周辺部のような受熱環境で大きな面圧差がある場合でも、応力緩和に起因するボルトのトルクダウン等による潤滑油や作動油等のシール媒体の漏れを防止することができる。しかも充填材としての10重量%以上で20重量%以下のフェノール樹脂が原料に、稼働中の高温のホットロールに対する適度な付着力と、低温のコールドロールや冷えたホットロールからの適度な離れ易さとを生じさせるので、カレンダーロールでのジョイントシートの形成も良好に行うことができる。
【0009】
なお、この発明のガスケット素材においては、前記フェノール樹脂はレゾールタイプのものであることが好ましい。原料中のフェノール樹脂の分散性が良いからである。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、この発明の実施の形態につき、図面に基づき詳細に説明する。ここに、図1は、この発明のガスケット素材の一実施形態を示す断面図であり、図中符号1は、上記実施形態の、ガスケット素材としてのジョイントシートを示す。この実施形態のジョイントシート1は組成的に単層構造のものである。
【0011】
この実施形態のジョイントシート1は、ゴムとしてのNBR(ニトリル・ブタジェン・ラバー)と、補強繊維としてのアラミド繊維と、充填材としてのフェノール樹脂その他とを混合した原料を、高温のホットロールと低温のコールドロールとの一対のロールを具えるカレンダーロールのホットロール上に供給して、それらのロールで混練しつつ加圧することでホットロール上に積層し、さらにその高温のホットロールの熱で加硫して硬化させて積層シートを形成した後、その積層シートをホットロール上から剥ぎ取ることで形成する。なお、詳細は例えば先の論文「ノンアスベストガスケットの開発」を参照されたい。
【0012】
ここで、上記原料にホットロールに対する適度な付着力を持たせるために、この実施形態においてはその原料の基本組成を、アラミド繊維が15重量%以上、NBRが10重量%以上で30重量%以下、フェノール樹脂が10重量%以上で20重量%以下、残部が無機充填材であるものとする。そして、そのフェノール樹脂は、レゾールタイプのフェノール樹脂(例えば住友ベークライト株式会社の製品名PR−217で固形分100重量%)とする。
【0013】
この実施形態のジョイントシート1によれば、そのジョイントシート1が、中材と組成の異なる、熱間時の圧縮永久歪み要素である天然ゴムを用いた皿材の表層を持たない単層構造であるので、エンジン周辺部のような受熱環境で大きな面圧差がある場合でも、応力緩和に起因するボルトのトルクダウン等による潤滑油や作動油等のシール媒体の漏れを防止することができる。しかも充填材としての10重量%以上で20重量%以下のフェノール樹脂が原料に、稼働中の高温のホットロールに対する適度な付着力と、低温のコールドロールや冷えたホットロールからの適度な離れ易さとを生じさせるので、カレンダーロールでのジョイントシートの形成も良好に行うことができる。
【0014】
しかも、この実施形態のジョイントシート1によれば、原料に使用するフェノール樹脂はレゾールタイプのものであるので、原料中のフェノール樹脂の分散性が良いことから、上記作用効果をムラなく発揮することができる。
【0015】
図2は、上記実施形態のジョイントシート1から形成したガスケット(図中曲線G1で示す)と、既存の三層構造のジョイントシート1から形成したガスケット(図中曲線G2で示す)とについて、それぞれ二枚の金属フランジで挟んで1本のボルトで締付け、金属フランジの締結面圧:150MPa、温度150℃と20℃との間の加熱と冷却の繰返しという条件で冷熱サイクル劣化試験を行ってボルト軸力の保持性を試験した結果を示しており、この図からも、上記実施形態のジョイントシート1から形成したガスケットは、ボルト軸力の保持率が高く、圧縮永久歪みによる応力緩和が小さいことがわかる。
【0016】
【実施例】
以下の表1は、上記実施形態のジョイントシート1において、アラミド繊維とフェノール樹脂とゴムとしてのNBRとの配合を種々異ならせた実施例1〜実施例のジョイントシートと、上記実施形態のジョイントシート1に準ずるがフェノール樹脂の配合を3重量%,8重量%,26重量%として上記実施形態の範囲から外した参考例1,2,3のジョイントシートと、上記実施形態のジョイントシート1に準ずるがフェノール樹脂の配合を0重量%,35重量%,40重量%として上記実施形態の範囲から外した比較例1,2,3のジョイントシートとについてそれぞれ、面圧:100MPa、温度100℃、時間:60分という条件でジョイントシート製造時の原料について高温のホットロールに対する付着性を試験した結果を示しており、図3は、その付着強度とフェノール樹脂の添加量との関係を示している。
【0017】
【表1】
Figure 0004145584
【0018】
これら表1および図3から、フェノール樹脂の添加量が2重量%以上で26重量%以下の場合に上記原料が適度な付着強度を持ち、2重量%未満では付着強度が大きすぎて、積層中は原料がコールドロールに取られ易く、また積層後はホットロールからの積層シートの剥ぎ取りが困難になり、26重量%を超えると付着強度が小さすぎて、ホットロール上での原料の積層が困難になるということがわかる。
そして特に、フェノール樹脂の添加量が10重量%以上で20重量%以下の場合に付着強度が比較的一定値をとるということがわかる。
【0019】
なお、上記実施例1〜6のジョイントシート1からなるガスケットについて、JIS K 6251に規定された条件で引っ張り試験を行うとともに、板状の二枚の治具で挟んだリング状試料に油圧プレスで所定面圧を加えた状態でその二枚の治具の一方をアクチュエータにより移動幅300μm、周波数1Hzで往復摺動させて3000サイクルで試料に繊維による毛羽立ちが発生するか否かを調べ、試料に毛羽立ちが発生する面圧を座屈疲労面圧とするという条件で座屈疲労試験を行い、加えてその座屈疲労が生じた試料に10MPaの面圧を加えた状態で試料内部に上記治具から窒素ガスを供給するとともに試料外周に石鹸液をつけて窒素ガスの漏れを調べ、漏れが発生するガス圧を限界シール圧力として測定した結果、何れも、25MPa以上の高い引張強度を有するとともに、80MPa以上の座屈疲労面圧を確保し、しかも2.0kgf/cm2 以上の限界シール圧力を有していた。
【0020】
以上、図示例に基づき説明したが、この発明は上述の例に限定されるものでなく、例えばフェノール樹脂はレゾールタイプ以外のものでも良い。そしてこの発明のガスケット素材は、変速機のハウジングとカバーとの間に挿入されるガスケット以外のエンジン周辺部のガスケットにも用い得ることはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【図1】 この発明のガスケット素材の一実施形態としてのジョイントシートを示す断面図である。
【図2】 上記実施形態のジョイントシートから形成したガスケットと既存のジョイントシートから形成したガスケットとについての冷熱サイクル数とボルト軸力保持率との関係を示す説明図である。
【図3】 上記実施形態のジョイントシートから形成したガスケットについてのフェノール樹脂の添加量とホットロールへの原料の付着強度との関係を示す説明図である。
【図4】 従来のジョイントシートを示す断面図である。
【符号の説明】
1 ジョイントシート
1a 表層
1b 裏層
1c 中間層

Claims (2)

  1. ゴムと補強繊維と充填材とを混練した原料をカレンダーロールで加圧積層および加硫して形成するジョイントシートからなるガスケット素材において、
    前記ジョイントシートが組成的に単層構造であり、
    前記原料の基本組成が、
    前記補強繊維としての15重量%以上のアラミド繊維と、
    前記ゴムとしての10重量%以上で30重量%以下のNBRと、
    前記充填材としての10重量%以上で20重量%以下のフェノール樹脂および残部の無機充填材と、
    からなることを特徴とする、ガスケット素材。
  2. 前記フェノール樹脂はレゾールタイプのものであることを特徴とする、請求項1記載のガスケット素材。
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