JP4145525B2 - メッキ被覆用組成物 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、亜鉛メッキ表面を有する金属部材に、潤滑性、耐磨耗性を付与するメッキ被覆用組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
亜鉛メッキは、主に鉄の防錆被膜として、自動車部品、家庭電気部品、雑貨などに広く使用されている。亜鉛メッキのメリットとしては、亜鉛が鉄表面を物理的に被覆し、鉄の腐食の要因となる水と酸素を鉄表面から遮断するだけでなく、鉄に比較しイオン化傾向が大きいため、メッキ被膜にピンホールがあっても電気化学的に鉄を防錆することと、亜鉛メッキ上にクロメート被膜を処理することにより、クロメートの優れた耐食性と美観が得られることが挙げられる。クロメート被膜は、かかる理由から、亜鉛メッキ処理の多くに採用され、自動車部品、家庭電気部品等の精密機器部品においてはその傾向が顕著である。
【0003】
自動車を始めとする精密機器部品においては、摺動する部品に亜鉛メッキ処理が施されるケースがある。多くの場合グリースやペーストなどの油系潤滑剤により摩擦の悪影響を緩和している。しかしながら、油系潤滑剤は、平滑面で潤滑効果を発揮するため、金属部品が必然的に有する微細な表面の凹凸については、摩擦初期段階でその凹凸を平滑に磨耗させて初めて安定した潤滑性能が得られることとなるが、当然のことながら亜鉛メッキ表面の初期の部分磨耗は否めない。また、気温による粘度変化や元来の液状であるという形態から摺動面に存在し続けることができなくなる。このため、時に、必要とする摩擦係数が得られず、作動不良を起こすことがあるなど、潤滑耐久性に問題を抱えている。
【0004】
例えば、自動車のドアロック装置のストライカーを保持するラッチとその噛み合い相手であるポール(ラチェットあるいはフックとも言う)においては、それぞれ防錆処理として亜鉛メッキ処理が施されている。その噛み合い面にはドア全体のウェザーストリップの反力が常時かかっており、ドアロック解除時にその噛み合いが外れる方向にラッチあるいはポールが動くことにより、その移動に伴って噛み合い面の接触面積が小さくなる。このため、ドアロック解除時には、大きな摩擦抵抗が生じ、ドアハンドルの操作性に悪影響を及ぼすことになる。それゆえ、多くの場合、その抵抗を抑制するために、噛み合い面にグリースを塗布している。しかしながら、噛み合い面は微細な凹凸があるため、凸部にグリースが供給されにくく、時に摩擦抵抗が増大し、ドアハンドルの操作フィーリングが低下する。また、グリースを使用する場合、グリース自体の経時劣化、温度変化や雨水による噛み合い面からの脱落などがあり、耐久性に不安があった。
【0005】
また、自動車のウィンドレギュレーター装置においても、ドアガラスを保持し、上下動させる機構にある、ガラスガイド、ブラケットなどは防錆を目的に亜鉛メッキ処理がされ、前記ラッチとポールの噛み合い面同様、グリース塗布により摩擦抵抗を低減する方法が採られているが、同様に、温度変化や雨水による問題を抱えている。
【0006】
一方、潤滑を目的とした固体潤滑剤含有の塗料で表面を被覆し、潤滑効果を得るという一般的な手法がある。通常、潤滑性を付与する塗料は、分子量の高いエポキシ樹脂とその硬化剤であるフェノール樹脂、アミノ樹脂、ブロックイソシアネート樹脂などを組み合わせたバインダーやフェノール樹脂、ポリアミドイミド樹脂などをバインダーとしているため、焼付温度が120〜230℃と高く、クロメート処理の耐熱性を越えることによりクラック等の発生のおそれがあり、亜鉛メッキ本来の性能を損ねる可能性があるために使用できなかった。
クロメートは加熱されると80℃をやや越えたところから90℃にかけて程度は低いもののクラックが発生し、その耐食性の効果が失われ始め、90℃を越え、100℃に達すると急激にクラックを多く発生するため、一般的な耐熱温度として80℃が目安となっている。
また、アクリル樹脂やウレタン樹脂の様なバインダーを使用し、80℃近傍で焼き付けるものを塗布することや、前記高温焼付温度の材料を80℃近傍で焼き付け、不完全硬化状態で使用することもあるが、被膜の耐磨耗性、耐薬品性に乏しかった。
さらに、クロメート被膜を有する亜鉛メッキ表面に対しては、塗膜が密着しにくいという問題があった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明は、亜鉛メッキ被膜を維持して本来の防錆あるいは耐食性能を維持しながら、潤滑性能を付与することのできる亜鉛メッキ被覆用組成物を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、低温焼付けによっても潤滑性と強度とを発揮して、亜鉛メッキあるいはさらにクロメートなどの耐食性被膜表面を保護し潤滑性を長期にわたって付与できる塗料組成物を見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明によれば、以下の組成物が提供される。
(1)以下の(a)〜(c):(a)数平均分子量が1000未満、(b)22℃〜27℃の温度下で液状あるいは半固形である、及び(c)樹脂固形分40wt%ブチルカルビトール溶液のガードナーホルツ法による粘度(25℃)がK以下である、のうち(a)及び(b)、又は(a)及び(c)を満たすエポキシ樹脂と、
硬化剤と、固体潤滑剤としてポリテトラフロオロエチレンと二硫化モリブデン及び/又はグラファイトと、補強剤とを含有し、
前記ポリテトラフロオロエチレンの配合割合が、前記エポキシ樹脂及びその硬化剤の総量100重量部に対し10重量部以上60重量部以下であり、前記二硫化モリブデンの配合割合が、前記エポキシ樹脂及びその硬化剤の総量100重量部に対し20重量部以上50重量部以下、及び/又は前記グラファイトの配合割合が、前記エポキシ樹脂及びその硬化剤の総量100重量部に対し10重量部以上100重量部以下であり、かつ前記固体潤滑材全体の配合割合が、前記エポキシ樹脂及びその硬化剤の総量100重量部に対し60重量部以上150重量部以下であり、前記補強剤の配合割合が、前記エポキシ樹脂及びその硬化剤の総量100重量部に対して、10重量部以上100重量部以下である、亜鉛メッキ被覆用組成物。
(2)以下の(a)〜(c):(a)数平均分子量が1000未満、(b)22℃〜27℃の温度下で液状あるいは半固形である、及び(c)樹脂固形分40wt%ブチルカルビトール溶液のガードナーホルツ法による粘度(25℃)がK以下である、のうち(a)及び(b)、又は(a)及び(c)を満たすエポキシ樹脂と、
硬化剤と、固体潤滑剤として二硫化モリブデン及びグラファイトと、補強剤とを含有し、
前記二硫化モリブデンの配合割合が、前記エポキシ樹脂及びその硬化剤の総量100重量部に対し90重量部以上200重量部以下、前記グラファイトの配合割合が、前記エポキシ樹脂及びその硬化剤の総量100重量部に対し20重量部以上50重量部以下であり
、かつ前記二硫化モリブデンとグラファイトとを合わせた配合割合が、前記エポキシ樹脂及びその硬化剤の総量100重量部に対し110重量部以上250重量部以下であり、前記補強剤の配合割合が、前記エポキシ樹脂及びその硬化剤の総量100重量部に対して20重量部である、亜鉛メッキ被覆用組成物。
(3)前記硬化剤は、脂肪族アミン、脂環族アミン、環状アミン、芳香族アミン、ポリアミノアミド、エポキシ化合物付加ポリアミド、マイケル付加ポリアミン、マンニッヒ付加ポリアミン、及び第三アミン化合物からなる群から選択されるアミン系硬化剤である、(1)又は(2)に記載の組成物。
(4)前記エポキシ樹脂が、キレート変性エポキシ樹脂である、(1)〜(3)のいずれかに記載の組成物。
(5)前記エポキシ系樹脂は、エポキシ当量が700未満である、(1)〜(4)のいずれかに記載の組成物。
(6)亜鉛メッキのクロメート層とその表層側の樹脂膜とを備える亜鉛メッキ部材の製造方法であって、この樹脂膜を以下の工程;
前記亜鉛メッキのクロメート層を有する表層側に、以下の(a)〜(c):(a)数平均分子量が1000未満、(b)22℃〜27℃の温度下で液状あるいは半固形である、及び(c)樹脂固形分40wt%ブチルカルビトール溶液のガードナーホルツ法による粘度(25℃)がK以下である、のうち(a)及び(b)、又は(a)及び(c)を満たすエポキシ樹脂と、その硬化剤と、固体潤滑剤としてポリテトラフロオロエチレンと二硫化モリブデン及び/又はグラファイトと、補強剤とを供給する工程と、
前記エポキシ樹脂と硬化剤とを、前記クロメート層を破壊しない80℃以下の温度で反応させて硬化させる工程、とによって形成し、
前記ポリテトラフロオロエチレンの配合割合が、前記エポキシ樹脂及びその硬化剤の総量100重量部に対し10重量部以上60重量部以下であり、前記二硫化モリブデンの配合割合が、前記エポキシ樹脂及びその硬化剤の総量100重量部に対し20重量部以上50重量部以下、及び/又は前記グラファイトの配合割合が、前記エポキシ樹脂及びその硬化剤の総量100重量部に対し10重量部以上100重量部以下であり、かつ前記固体潤滑材全体の配合割合が、前記エポキシ樹脂及びその硬化剤の総量100重量部に対し60重量部以上150重量部以下であり、前記補強剤の配合割合が、前記エポキシ樹脂及びその硬化剤の総量100重量部に対して、10重量部以上100重量部以下である、方法。
(7)亜鉛メッキのクロメート層とその表層側の樹脂膜とを備える亜鉛メッキ部材の製造方法であって、この樹脂膜を以下の工程;
前記亜鉛メッキのクロメート層を有する表層側に、以下の(a)〜(c):(a)数平均分子量が1000未満、(b)22℃〜27℃の温度下で液状あるいは半固形である、及び(c)樹脂固形分40wt%ブチルカルビトール溶液のガードナーホルツ法による粘度(25℃)がK以下である、のうち(a)及び(b)、又は(a)及び(c)を満たすエポキシ樹脂と、その硬化剤と、固体潤滑剤として二硫化モリブデン及びグラファイトと、補強剤とを供給する工程と、
前記エポキシ樹脂と硬化剤とを、前記クロメート層を破壊しない80℃以下の温度で反応させて硬化させる工程、とによって形成し、
前記二硫化モリブデンの配合割合が、前記エポキシ樹脂及びその硬化剤の総量100重量部に対し90重量部以上200重量部以下、前記グラファイトの配合割合が、前記エポキシ樹脂及びその硬化剤の総量100重量部に対し20重量部以上50重量部以下であり
、かつ両者を合わせて前記エポキシ樹脂及びその硬化剤の総量100重量部に対し110重量部以上250重量部以下であり、前記補強剤の配合割合が、前記エポキシ樹脂及びその硬化剤の総量100重量部に対して20重量部である、方法。
これらの発明によれば、上記条件を満たすエポキシ樹脂と硬化剤と固体潤滑剤を使用することにより、密着性、膜強度、及び潤滑性に優れる硬化膜が亜鉛メッキ表面に形成される。摩擦を伴う被膜としては、被膜が強靱である必要があり、数平均分子量1000未満のエポキシ樹脂は硬く脆いという欠点から従来摩擦を伴う被膜としては使用がし難いと考えられていた。しかし、固体潤滑剤を含有させた場合、粘度が低いため、固体潤滑剤への濡れ性が高く、固体潤滑剤を有効に保持することで、被膜にかかる応力を逃がし、且つ摩擦に耐えることができるようになった。さらに、補強剤で含めることにより、摩擦に対し十分な強度を発現できることがわかった。これは、当該エポキシ樹脂が、密着性及び低温反応性に優れることによるものであることが推測されるが、当該推論は本発明を拘束するものではない。このため、これらの発明によれば、亜鉛メッキ層及び/又はクロメート被膜を損なうことなく、表面に潤滑性と強度とに優れた被膜を形成できる。この被膜は、荷重負荷時にも十分な潤滑性能を発揮できる。これにより、亜鉛メッキ層やクロメート被膜の防錆性及び耐食性とともに、潤滑性を兼ね備える、改質された表面層を得ることができる。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明の亜鉛メッキ被覆用組成物は、エポキシ系樹脂と、エポキシ系樹脂の硬化剤と、固体潤滑剤とを含有している。
本発明の組成物によれば、エポキシ系樹脂とその硬化剤とが、混合、反応、硬化することにより、亜鉛メッキ層あるいはクロメート層との接着性を確保し、且つ、亜鉛メッキ表面を被覆する被膜を形成する。
本発明におけるエポキシ樹脂は、従来公知の各種エポキシ樹脂を使用することができる。具体的には、グリシジルエーテルタイプであるビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ノボラック型、臭素化型や、ダイマー酸グリシジルエステルなどのグリシジルエステルタイプ、線状脂肪族エポキサイドタイプ、脂環族エポキサイドタイプなどや、その変性物でウレタン変性エポキシ樹脂、ゴム変性エポキシ樹脂、キレート変性エポキシ樹脂などが挙げられる。本発明においては、これらのエポキシ樹脂を1種あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。好ましくは、キレート変性エポキシ樹脂である。
【0010】
エポキシ樹脂の数平均分子量は1000未満であることが好ましい。1000以上であると、低温域での反応性が低下しすぎ、クロメート被膜に悪影響を与えない範囲での硬化反応が困難となるからである。また、粘度が高くなりすぎて、成膜時に密着性を得にくくなるからである。より好ましくは、700以下である。なお、エポキシ樹脂の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー等の公知の方法によって測定することができる。
また、エポキシ樹脂は、22℃〜27℃(好ましくは25℃)で、液状あるいは半固形であることが好ましい。ここで液状あるいは半固形とは、流動性を有する状態を意味し、この温度下で固化するエポキシ樹脂を排除する趣旨である。あるいは、樹脂固形分40wt%ブチルカルビトール溶液のガードナーホルツ法での粘度(25℃)がK以下となることが好ましい。
このような性状を有するエポキシ樹脂は、エポキシ樹脂の数平均分子量が約1000未満であり低温域における反応性が良好であるとともに、成膜時に密着性を確保できるからである。なお、ガードナーホルツ法における測定溶液の樹脂固形分は40wt%を超えていてもよい。40wt%のブチルカルビトール溶液でK以下となるのであれば、40wt%を超える高い樹脂固形分濃度で粘度を測定することができる。
なお、ガードナーホルツ法は、JIS K5400 4.5 粘度の項のガードナー型泡粘度計法、ASTM D1545−98に記載されている。好ましくは、JIS K5400 に記載される方法を使用する。
また、エポキシ当量は700未満であることが好ましい。エポキシ当量が700以上であると、低温域での硬化反応性が低くなりすぎて、強靱な硬化物が得られず、耐薬品性を得られ難いからである。より好ましくは、500以下である。
ゴム変性またはウレタン変性エポキシ樹脂は低分子量エポキシ樹脂の強靱性を高めるために有用であり、また、クロメートを有する亜鉛メッキ層に対しては、キレート変性エポキシ樹脂が最も密着性に優れるため好ましい。
商業的に入手できるものとしては、商品名エピコート825、827、828、834、1001、1002、806、152、154、1031S、604、871、191P、YX310(以上、ジャパンエポキシレジン株式会社)、エポトートYD−115、YD−128、YD−134、YDCN−701、YD−171、YD−172、YR−450、YR−207(以上、東都化成株式会社製)、エポミックR114、R130、R139、R140、R301、R302、SR35、VSR3531、TECHMOREVG3101(以上、三井化学株式会社製)、エピクロン840、850、855、860、1050(大日本インキ化学工業株式会社製)、アデカレジンEP−4100、EP−4400、EP−4000、EP−4004、EPU−6、EPU−73、EPU−78−11、EPU−1348、EPU−1395、EPR−4023、EPR−4026、EPR−1309、EPR1415−1、EPR−1508、EPR−21、EPU−11、EPU−15、EP−49−10、EP−49−20、EP−49−55C、EP−6075、EP−6076、EP−777、EP−880、EP−9002、EP−9003(以上、旭電化工業株式会社製)、アラルダイトAER250、AER260、AER280、AER6041(旭チバ株式会社製)等が挙げられる。
【0011】
この本発明における、エポキシ樹脂の硬化剤としては、脂肪族アミン、脂環及び環状アミン、芳香族アミン、ポリアミノアミド、変性ポリアミンであるエポキシ化合物付加ポリアミン、マイケル付加ポリアミン、マンニッヒ付加ポリアミンなど、酸無水物、ポリフェノール、ポリメルカプタン、第三アミン化合物、イミダゾール化合物、イソシアネート化合物などの従来公知のエポキシ樹脂の各種硬化剤を使用することができる。好ましくは、亜鉛メッキ層のクロメート被膜にクラックを生じにくい硬化温度で硬化可能な硬化剤を使用する。具体的には、80℃以下の温度で硬化反応を完了できる硬化剤である。例えば、脂肪族アミン、脂環族アミン、環状アミン、芳香族アミン、ポリアミノアミド、エポキシ化合物付加ポリアミド、マイケル付加ポリアミン、マンニッヒ付加ポリアミン、及び第三アミン化合物から選択されるアミン系硬化剤や、イソシアネート化合物を使用することができるが、アミン系硬化剤が好ましく、エポキシ樹脂の種類にもよるが、脂肪族アミン、脂環族アミン、変性芳香族アミン、ポリアミノアミドを使用することが好ましい。より好ましくは、ポリアミノアミド、脂肪族ポリアミンである。なお、ウレタン変性やゴム変性のアミンを使用し、耐屈曲性、密着性を改善することもできる。
具体的には、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ジエチルアミノプロピルアミン、ポリアミノアミド、メンセンジアミン、イソホロンジアミン、N−アミノエチルピペラジン、3,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカンアダクト、ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、メタキシレンジアミン、ジアミノフェニルメタン、ジアミノジフェニルブタン、m−フェニレンジアミンなどを使用できる。この中でも、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ジエチルアミノプロピルアミン、ポリアミノアミド、N−アミノエチルピペラジン、3,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカンアダクト、ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタン、メタキシレンジアミンが好ましい。
商業的に入手できるものとしては、商品名エポメートB002、RX2、RX221、RX3、エピキュアU、3549(以上、ジャパンエポキシレジン株式会社製)、グッドマイドG−725、G−412、トートアミンTH−431、TH−451、TH−432、TH−452、KXH−429(以上、東都化成株式会社製)、エポミックQ610、Q612、Q636、Q640、Q654(以上、三井化学株式会社製)、エピクロンB−3150、B−3260(以上、大日本インキ化学工業株式会社製)、アデカハードナーEH455、EH−253−9、EH−404、EH3932、EH3995、EH−3136、EH−549、グランマイド625、640、645、650、656、660、665、671、675(以上、旭電化工業株式会社製)、HY847、HY848、HY943、HT9624、HT9624、XJ9002(旭チバ株式会社製)、フジキュアー5420、ZS−4、FXK−830、4025、トーマイド#210、#215−X、#245、#2500、#423、#437(以上、富士化成工業株式会社製)等が挙げられる。
【0012】
エポキシ樹脂に対する硬化剤の添加量は、エポキシ樹脂のエポキシ当量と硬化剤の活性水素当量から算出し、適正な添加量を添加する。この場合の適正添加量は、エポキシ当量/活性水素当量が0.5〜2.0の範囲が好ましい。また、この適正添加量には制限を受けないが、エポキシ樹脂100重量部に対し10〜200重量部とすることが好ましい。10重量部未満の場合反応率が低下し、橋かけ密度が低くなるため、耐熱性が低下するなどの物性低下を生み、200重量部を超える場合は、耐薬品性、耐熱性の低下を生むことがある。
【0013】
固体潤滑剤としては、二硫化モリブデンや二硫化タングステンといった硫化物、黒鉛やフッ化黒鉛、窒化硼素、マイカなどの層状鱗片状物質、鉛、亜鉛、銅などの軟質金属、ポリテトラフロオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)などのフッ素樹脂、メラミンシアヌレートなどが挙げられる。二硫化モリブデン、グラファイト、ポリテトラフルオロエチレンが好ましい。本発明においては、これらのうち1種あるいは2種以上を使用することができる。
これら固体潤滑剤の粒径は平均粒径で0.1μmから40μmが好ましく、0.5〜20μmが特に好ましい。
また、配合割合はエポキシ樹脂及びその硬化剤の総量100重量部に対し、10重量部以上300重量部以下が好ましい。10重量部より低い場合、要求される摩擦抵抗低減効果が低く、また、滑り特性の低下に伴って摩擦時の塗膜破断荷重が低下するおそれがある。300重量部を越えると塗膜の凝集力が低下し、耐久性が得られず、それに伴い、滑り特性が低下するおそれがある。より好ましくは、25重量部以上250重量部以下である。
【0014】
補強剤としては、カーボンブラックや、酸化チタン、酸化鉄、酸化クロム、酸化コバルト、酸化亜鉛などの金属酸化物、水酸化アルミニウム、タルク、ウォラストナイト、チタン酸カリウム、硫酸バリウム、塩基性硫酸マグネシウム、セピオライト、ゾノトライト、ホウ酸アルミニウムなどを使用できる。これらを1種あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。特に、塗膜硬度を上げ、耐磨耗性を向上させることができる各種金属酸化物や水酸化アルミニウムが好ましい。より好ましくは、酸化チタン、酸化コバルト、酸化鉄、水酸化アルミニウムである。
粒径が大きいと補強効果が小さいため、粒径は0.01μm〜10μmが好ましく、0.01〜3μmがより好ましい。
補強剤の配合比は樹脂全体を100重量部とした場合、0.5重量部以上100重量部以下が好ましい。補強剤の量が多い場合、摩擦係数が増大する傾向がある。より好ましくは、0.5重量部以上50重量部以下である。
【0015】
本発明においては、上記の成分の他、一般的な改質剤により改質することができる。この改質剤としては、流動性をコントロールする反応性希釈剤などの減粘剤、チクソトロピック特性をコントロールする増粘剤、表面張力をコントロールするレベリング剤や界面活性剤、接着性や補強剤であるフィラーへの親和性の向上や接着性向上を補助するシランカップリング剤、固体潤滑剤やフィラーの分散を助ける分散剤などが挙げられる。
【0016】
本組成物においては、エポキシ樹脂とその硬化剤に固体潤滑剤、補強剤等が分散状態で存在しているか、あるいは、エポキシ樹脂とその硬化剤が有機溶剤や水などの溶媒に溶解または分散させておき、この中に固体潤滑剤、補強剤を分散させることもできる。
なお、本組成物は、比較的低温域で硬化反応性を有するものである。このため、使用直前にエポキシ樹脂に対して硬化剤を配合するようにすることもできる。
【0017】
次に、本組成物によって、亜鉛メッキ部材の亜鉛メッキ層に樹脂膜を形成する方法について説明する。
エポキシ樹脂に固体潤滑剤及び補強剤を分散した溶液に硬化剤を混合して調製した本組成物を、亜鉛メッキ層の表面に塗布する。塗布方法は刷毛塗り、浸漬、スプレー、スクリーン印刷、フローコーター、ロールコーター、バレルコーター等、従来公知の各種方法を採用することができる。
なお、本組成物は、亜鉛メッキされた部材の亜鉛メッキ層の上層部分として付与するものであるが、クロメートなどの被膜が形成されていない亜鉛メッキ層であってもよいが、好ましくは、亜鉛メッキ層にクロメートなどの耐食性皮膜が施された表面に対して付与する。なお、クロメート被膜は、各種クロム、すなわち、6価クロムの他、3価のクロムなど各種価数のクロムによるクロメートを含有することができる。また、被膜は、耐食性被膜に限定するものでなく、他の機能や良好な外観(色彩など)を備える被膜とすることもできる。
焼成条件は、先ず、第一に亜鉛メッキのクロメート層を破壊しない条件を選択する。エポキシ樹脂とその硬化剤の種類にもよるが、常温〜80℃で10分〜1週間が好ましく、60℃〜80℃で10分〜2時間がより好ましい。60℃未満の場合、作業効率が低く、量産性が乏しくなり、80℃を超えるとクロメート被膜にクラックが生じるからである。
焼成後の塗膜厚は3μm以上40μm以下が好ましく、5μm以上30μm以下が特に好ましい。
【0018】
このようにして得られる本組成物の硬化膜は、エポキシ樹脂を使用しているため良好な塗膜密着性を有している。したがって、剥離等による硬化膜の欠落等のおそれが回避されている。
また、分子量が1000未満および/またはエポキシ当量が700未満のエポキシ樹脂を使用している場合には、特に、80℃以下において十分な硬化反応を達成可能であるために、クロメート被膜に対してクラック等を生じさせることもない。したがって、メッキ層およびクロメート被膜が損なわれることなく、樹脂膜が密着性よく形成されている。
また、特に、エポキシ樹脂の硬化膜は、それ自体十分な耐磨耗性を備えているために、硬化膜形成後も長期にわたって安定してメッキ層および/またはクロメート被膜を保護して、本来の防錆性や耐食性を発揮させることができる。
また、分子量が1000未満の流動性に富んだエポキシ樹脂を使用した場合には、メッキ部材の形状に由来する凹部や凸部の他、表層の微細な凹凸に対しても、良好に密着し、任意の形状に追従した硬化膜を形成することができる。したがって、どのような形状や表層形態であっても、メッキ層を保護するとともに潤滑性を付与することができるとともに、結果として耐久性に優れた被膜を形成することができる。
【0019】
さらに、本硬化塗膜には、固体潤滑剤を含有しているために、良好な潤滑性を備えている。特に、分子量が1000未満のより低粘度のエポキシ樹脂に固体潤滑剤が分散された状態の膜を形成しているために、固体潤滑剤を湿潤させやすく、樹脂マトリックスに固体潤滑剤が十分に保持されており、長期にわたって安定した潤滑性能を発揮できる。固体潤滑剤は通常、それ自体が有する剪断性や、へき壊性により潤滑効果を発揮するが、エポキシ樹脂に分散されることにより、固体潤滑剤の潤滑性能を維持して潤滑膜としての耐久性を付与することができる。
【0020】
本硬化塗膜に、補強剤を含有している場合には、塗膜の耐久性がより向上されている。また、塗膜の耐久性が向上される結果、潤滑性をより安定して発揮できるようになっている。数平均分子量が1000未満のエポキシ樹脂は、補強剤に対しても好ましい樹脂マトリックスであり、エポキシ樹脂硬化膜中に均一にかつ良好に補強剤を良好に保持することができる。
【0021】
本組成物の適用対象としては、自動車ではドアロック機構の噛み合い面のラッチ及びポール、ウィンドレギュレーターのブラケット、ガラスガイド、ドアストッパーのメール及びフィメール、ドアチェック機構のチェックリンク、チェックカバー、スライドドア機構のコントロールレバー、ヒンジピン、バネ、ワッシャー、シート機構のリクライニングピン、リンク、ラチェット、ルーフ機構のルーフガイドピン、レバーなどが挙げられ、その他の精密機器部品では、バネ、ワッシャー、軸受け、リンク、ピン、スライドレールなどが挙げられるが、表面にクロメートを有する亜鉛メッキ層が形成された部品に全てとすることができる。
したがって、本発明によれば、本組成物をこれらの部材の亜鉛メッキ層の表面に適用して硬化膜を形成して、樹脂膜を備える亜鉛メッキ部材の製造方法が提供される。また、本発明によれば、本組成物によって得られる硬化膜を亜鉛メッキ層の表面に備える、これらの亜鉛メッキ部材も提供される。
【0022】
本組成物は、好ましくは、相互に嵌め合い、噛み合い、係止、螺合、スライド等の相対運動する対の亜鉛メッキ部材の相互に接触する部位に適用して本組成物による塗膜を備えるようにすることで、より高い耐久性を発揮することができる。相対する一方だけでも効果はあるが、亜鉛メッキがあるとはいえ金属同士の接触であるため、本組成物による荷重や摩擦抵抗の緩衝効果をより有効に活用するために双方に適用することが好ましい。が、どちらか一方に適用する場合、硬度の高い一方に適用することが有効である。
なお、本発明の組成物による硬化膜を自動車等の部品に使用する際、鉱油系、合成油系のグリース、ペーストなどの油系潤滑剤を併用することができる。併用することにより、摩擦係数が更に低くなり、耐久寿命が延びることが多々ある。
したがって、本発明によれば、相互に嵌め合い、噛み合い、係止、螺合、スライド等の相対運動する亜鉛メッキ部材の各メッキ部材の相互接触部位に、本発明の組成物を硬化して得られた硬化膜と、液状あるいは流動体状の潤滑剤、とが付与されている、相互に接触して相対運動する構造部材が提供される。当該構造部材は、上記した本組成物の適用対象を包含している。
【0023】
以上説明したように、本発明によれば、亜鉛メッキ層やクロメートなどの被膜を損なうことなく、潤滑性能及び耐磨耗性能に優れた硬化膜を付与することができる。このため、結果として、亜鉛メッキ層の表層に耐久性に優れた潤滑効果を付与することができる。特に、固体潤滑剤や補強剤を併用することにより、容易にかつ自在に潤滑性能や耐磨耗性を調整することができるため、所望の性能の硬化膜を得ることができる。さらに、グリースやオイル等の液状ないしは流動体状の潤滑剤を併用することにより更なる低摩擦係数と耐久性を提供することができる。
【0024】
【実施例】
以下、本発明を具体例をあげて説明するが、これらの具体例は、本発明の理解のために記載するものであって、本発明を限定するものではない。表1及び表2に示す組成に従って、エポキシ樹脂、硬化剤、固体潤滑剤、補強剤、溶剤を配合して、実施例1〜13及び比較例1〜7の組成物を調製した。調製した組成物の摩擦特性について評価した。以下に、実施例1の調製操作を記載する。実施例2〜13及び比較例1〜7は、表1及び表2の組成に従い、かつ実施例1の操作に準じて操作を行い、それぞれの組成物を調製した。なお、実施例1〜13及び比較例1〜7の各エポキシ樹脂と硬化剤との配合割合は、エポキシ樹脂のエポキシ当量と硬化剤の活性水素当量の当量比が1.0となる割合とした。また、実施例1と同様の方法によって摩擦特性について評価した。全ての実施例及び比較例1〜7の組成物の摩擦特性評価結果を表1及び表2に示す。なお、表1及び表2には、使用した樹脂の25℃における粘度(ポイズ)又はガードナー粘度とをそれぞれ示す。
【0025】
(実施例1)
ビスフェノールAジグリシジルエーテル(エポキシ当量190、数平均分子量380、粘度135ポイズ/25℃)61重量部をメチルエチルケトン及びトルエンの混合溶液(混合比(重量)1:1)200重量部に溶解し、その中にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)20重量部を分散した混合液にポリアミノアミド(アミン価360)39重量部を添加し、均一に攪拌して実施例1の組成物を調製した。この組成物を、試験片であるクロメートを有した亜鉛メッキが約10ミクロン処理された鋼板(SPCC−SB)塗膜厚が20μmになる様に塗布し、80℃で30分加熱し、塗膜を硬化させた。
この試験片を荷重変動型摩擦磨耗試験機(ヘイドン29P新東科学株式会社製)に取り付け、相手材が鋼球(寸法:φ3mm、材質:SUJ−2)である場合の塗膜破断荷重(臨界荷重)と荷重200gf時点での摩擦係数を測定した。塗膜破断荷重は塗膜が破断し、下地の亜鉛メッキ層が破壊され、鋼材の素地に達する荷重である。測定条件は荷重0〜1000gf、速度13mm/sec、サイクル数200サイクル、である。この試験片の塗膜破断荷重は280gfであり、摩擦係数が0.098であった。
【0026】
なお、実施例1、7、12、15と同一の組成物については、グリース(ダウ・コーニングアジア製YM−102)を併用した摩擦特性評価も行った(それぞれ実施例17〜20に対応する。)。
【0027】
(比較例8〜10
実施例1の操作に準じて操作を行い、比較例8〜10の組成物を調製した。また、実施例1と同様の方法によって摩擦特性について評価した。この比較例8〜10の組成物の組成と摩擦特性評価結果を表3に示す。
【0028】
比較例の各態様(比較例11:被膜なし潤滑剤なし、比較例1213:被膜なし、グリースあり、比較例1420:他の組成物)、焼成条件及び摩擦特性の評価結果を表4に示す。なお、摩擦特性評価も実施例1と同様の方法によって実施した。なお、表3及び表4には、使用した樹脂の25℃における粘度(ポイズ)あるいはガードナー粘度とをそれぞれ示す。
【0029】
(比較例1113
比較例11は、被膜を形成しない試験片を潤滑剤なしで亜鉛メッキ板の摩擦特性を評価した結果である。また、比較例12及び13は、被膜を形成しない試験片に、合成油を基油とし固体潤滑剤を分散させた油系潤滑剤Eペースト、YM−102(それぞれダウ・コーニングアジア製)を試験面に均一に塗布し、試験した結果である。
【0030】
(比較例14
アクリルポリオール(水酸基価30)(不揮発分50%)164.8重量部(樹脂固形分82.4重量部)を、メチルエチルケトン及びトルエンの混合溶液(混合比(重量)1:1)100重量部に溶解し、その中にPTFE30重量部を分散した混合液に硬化剤であるヘキサメチレンジイソシアネート(イソシアネート含有量21%)17.6重量部を混合し、均一に攪拌して比較例7の組成物を調製した。この組成物を、試験片であるクロメートを有した亜鉛メッキが約10ミクロン処理された鋼板(SPCC−SB)に塗膜厚が20μmになる様に塗布し、80℃で30分加熱し、硬化させた。塗膜について摩擦特性を評価した。
【0031】
(比較例15及び16
表4に示す配合及び焼き付け条件を採用する以外は、比較例14の操作に従って各組成物を調製し、塗膜を得た。得られた塗膜について摩擦特性を評価した。
【0032】
(比較例17
オイルフリーポリエステル樹脂(ソルベッソ100及びブチルセロソルブ溶解品、不揮発分60%、ガードナー粘度X、酸価5〜8)116.7重量部(樹脂固形分70重量部)にイミノ基型混合エーテル化メラミン(Nブタノール溶解品、不揮発分80%、重合度2.3)37.5重量部(樹脂固形分30重量部)を混合し、シクロヘキサノンとメチルエチルケトンの混合溶液(混合比(重量)1:1)150重量部で希釈した混合液に二硫化モリブデン90重量部、グラファイト20重量部、酸化コバルト20重量部を分散して比較例17の組成物を調製した。この組成物を、比較例14と同様にして塗膜を形成し、摩擦特性を評価した。
【0033】
(比較例18
表4に示す配合及び焼き付け条件を採用する以外は、比較例14の操作に従って各組成物を調製し、塗膜を得た。得られた塗膜について摩擦特性を評価した。
【0034】
(比較例19
ビスフェノールAジグリシジルエーテル(平均エポキシ当量925、粘度ガードナーホルツ法ブチルカルビトール40%(樹脂)溶液での溶解粘度Q〜U)80重量部をシクロヘキサノンとメチルエチルケトンの混合溶液(混合比1:1)200重量部に溶解し、更にイミノ基型混合エーテル化メラミン(n−ブタノール溶解品、不揮発分80%、重合度2.3)25重量部(樹脂固形分20重量部)を混合、その中に二硫化モリブデン90重量部、グラファイト20重量部、酸化コバルト20重量部を分散して比較例19の組成物を調整した。この組成物を、比較例14と同様にして塗膜を形成し、摩擦特性を評価した。
【0035】
(比較例20
表4に示す配合及び焼き付け条件を採用する以外は、比較例14の操作に従って各組成物を調製し、塗膜を得た。得られた塗膜について摩擦特性を評価した。
【0036】
【表1】
Figure 0004145525
【表2】
Figure 0004145525
【表3】
Figure 0004145525
【表4】
Figure 0004145525
表1〜表4に示すように、比較例1〜6において、臨界荷重が280gfを上回り、実施例においては、300gfを超えた。すなわち、いずれの実施例組成物から得られた塗膜についても良好な摩擦時の膜強度を有していることがわかった。また、エポキシ樹脂としては、キレート変性エポキシ樹脂を用いた場合に、高い臨界荷重が得られていた。また、補強剤を含有することにより臨界荷重が上昇する傾向にあった。これに対して、比較例8〜20は、臨界荷重が200gfを下回っていた。
【0037】
また、実施例1〜10においては、グリースを使用しなくても、十分な摩擦係数が得られていた。また、固体潤滑剤が多いと、摩擦係数は明らかに小さくなる傾向にあった。さらに、グリースを併用することにより、摩擦係数が従来の摩擦係数の約50%程度となり、且つ高い臨界荷重が得られ、相乗効果が認められた。これに対して、グリースを使用しない比較例1420では、臨界荷重が200gf未満であり、塗膜が破壊され、不充分な摩擦係数しか得られなかった。
【0038】
詳しく実施例と比較例とを対比すると、同じ硬化焼き付け条件(80℃×30分)であるにもかかわらず、実施例群の硬化膜の強度は飛躍的に高かった。すなわち、比較例1420では、エポキシ樹脂(固体潤滑剤不使用)、アクリルポリオール、ヘキサメチレンジイソシアネート、オイルフリーポリエステル、ビスフェノールAグリシジンエーテル、及びイミノ基型混合エーテルメラミンを使用したが、実施例でもっとも低い臨界荷重値310gfには全く及ばない結果しか得られなかった。
【0039】
以上のことから、エポキシ樹脂をバインダー樹脂として使用し、ポリアミノアミド、あるいは脂肪族アミン等のアミン系硬化剤を使用して得られた硬化膜は、低温焼成であっても、高い強度と低い摩擦係数を兼ね備えていることがわかった。
すなわち、▲1▼所定のエポキシ樹脂を使用することにより密着性が高くかつ耐磨耗性に優れた塗膜が得られたこと、▲2▼固体潤滑剤の含有により塗膜の摩擦係数を低減できたこととの相乗効果によって、摩擦時の荷重に対する強度が向上されるとともに、荷重負荷時の摩擦係数が低下したことが明らかである。
【0040】
【発明の効果】
本発明によれば、潤滑性と強度とを有し、荷重負荷時にも十分な潤滑性能を発揮できる硬化膜を亜鉛メッキ表層側に形成することができる。このため、亜鉛メッキ被膜を維持して本来の防錆あるいは耐食性能を維持しながら、潤滑性能を付与することができる。

Claims (7)

  1. 以下の(a)〜(c):
    (a)数平均分子量が1000未満、
    (b)22℃〜27℃の温度下で液状あるいは半固形である、及び
    (c)樹脂固形分40wt%ブチルカルビトール溶液のガードナーホルツ法による粘度(25℃)がK以下である、
    のうち(a)及び(b)、又は(a)及び(c)を満たすエポキシ樹脂と、
    硬化剤と、
    固体潤滑剤としてポリテトラフロオロエチレンと二硫化モリブデン及び/又はグラファイトと、
    補強剤とを含有し、
    前記ポリテトラフロオロエチレンの配合割合が、前記エポキシ樹脂及びその硬化剤の総量100重量部に対し10重量部以上60重量部以下であり、
    前記二硫化モリブデンの配合割合が、前記エポキシ樹脂及びその硬化剤の総量100重量部に対し20重量部以上50重量部以下、及び/又は前記グラファイトの配合割合が、前記エポキシ樹脂及びその硬化剤の総量100重量部に対し10重量部以上100重量部以下であり、
    かつ前記固体潤滑材全体の配合割合が、前記エポキシ樹脂及びその硬化剤の総量100重量部に対し60重量部以上150重量部以下であり、
    前記補強剤の配合割合が、前記エポキシ樹脂及びその硬化剤の総量100重量部に対して、10重量部以上100重量部以下である、亜鉛メッキ被覆用組成物。
  2. 以下の(a)〜(c):
    (a)数平均分子量が1000未満、
    (b)22℃〜27℃の温度下で液状あるいは半固形である、及び
    (c)樹脂固形分40wt%ブチルカルビトール溶液のガードナーホルツ法による粘度(25℃)がK以下である、
    のうち(a)及び(b)、又は(a)及び(c)を満たすエポキシ樹脂と、
    硬化剤と、
    固体潤滑剤として二硫化モリブデン及びグラファイトと、
    補強剤とを含有し、
    前記二硫化モリブデンの配合割合が、前記エポキシ樹脂及びその硬化剤の総量100重量部に対し90重量部以上200重量部以下、前記グラファイトの配合割合が、前記エポキシ樹脂及びその硬化剤の総量100重量部に対し20重量部以上50重量部以下であり

    かつ前記二硫化モリブデンとグラファイトとを合わせた配合割合が、前記エポキシ樹脂及びその硬化剤の総量100重量部に対し110重量部以上250重量部以下であり、
    前記補強剤の配合割合が、前記エポキシ樹脂及びその硬化剤の総量100重量部に対して20重量部である、亜鉛メッキ被覆用組成物。
  3. 前記硬化剤は、脂肪族アミン、脂環族アミン、環状アミン、芳香族アミン、ポリアミノアミド、エポキシ化合物付加ポリアミド、マイケル付加ポリアミン、マンニッヒ付加ポリアミン、及び第三アミン化合物からなる群から選択されるアミン系硬化剤である、請求項1又は2に記載の組成物。
  4. 前記エポキシ樹脂が、キレート変性エポキシ樹脂である、請求項1〜3のいずれかに記載の組成物。
  5. 前記エポキシ系樹脂は、エポキシ当量が700未満である、請求項1〜4のいずれかに記載の組成物。
  6. 亜鉛メッキのクロメート層とその表層側の樹脂膜とを備える亜鉛メッキ部材の製造方法であって、この樹脂膜を以下の工程;
    前記亜鉛メッキのクロメート層を有する表層側に、以下の(a)〜(c):
    (a)数平均分子量が1000未満、
    (b)22℃〜27℃の温度下で液状あるいは半固形である、及び
    (c)樹脂固形分40wt%ブチルカルビトール溶液のガードナーホルツ法による粘度(25℃)がK以下である、
    のうち(a)及び(b)、又は(a)及び(c)を満たすエポキシ樹脂と、その硬化剤と、固体潤滑剤としてポリテトラフロオロエチレンと二硫化モリブデン及び/又はグラファイトと、補強剤とを供給する工程と、
    前記エポキシ樹脂と硬化剤とを、前記クロメート層を破壊しない80℃以下の温度で反応させて硬化させる工程、とによって形成し、
    前記ポリテトラフロオロエチレンの配合割合が、前記エポキシ樹脂及びその硬化剤の総量100重量部に対し10重量部以上60重量部以下であり、前記二硫化モリブデンの配合割合が、前記エポキシ樹脂及びその硬化剤の総量100重量部に対し20重量部以上50重量部以下、及び/又は前記グラファイトの配合割合が、前記エポキシ樹脂及びその硬化剤の総量100重量部に対し10重量部以上100重量部以下であり、かつ前記固体潤滑材全体の配合割合が、前記エポキシ樹脂及びその硬化剤の総量100重量部に対し60重量部以上150重量部以下であり、前記補強剤の配合割合が、前記エポキシ樹脂及びその硬化剤の総量100重量部に対して、10重量部以上100重量部以下である、方法。
  7. 亜鉛メッキのクロメート層とその表層側の樹脂膜とを備える亜鉛メッキ部材の製造方法であって、この樹脂膜を以下の工程;
    前記亜鉛メッキのクロメート層を有する表層側に、以下の(a)〜(c):
    (a)数平均分子量が1000未満、
    (b)22℃〜27℃の温度下で液状あるいは半固形である、及び
    (c)樹脂固形分40wt%ブチルカルビトール溶液のガードナーホルツ法による粘度(25℃)がK以下である、
    のうち(a)及び(b)、又は(a)及び(c)を満たすエポキシ樹脂と、その硬化剤と、固体潤滑剤として二硫化モリブデン及びグラファイトと、補強剤とを供給する工程と、
    前記エポキシ樹脂と硬化剤とを、前記クロメート層を破壊しない80℃以下の温度で反応させて硬化させる工程、とによって形成し、
    前記二硫化モリブデンの配合割合が、前記エポキシ樹脂及びその硬化剤の総量100重量部に対し90重量部以上200重量部以下、前記グラファイトの配合割合が、前記エポキシ樹脂及びその硬化剤の総量100重量部に対し20重量部以上50重量部以下であり、かつ両者を合わせて前記エポキシ樹脂及びその硬化剤の総量100重量部に対し110重量部以上250重量部以下であり、前記補強剤の配合割合が、前記エポキシ樹脂及びその硬化剤の総量100重量部に対して20重量部である、方法。
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