JP4145210B2 - 導電性酸化物短繊維の製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、導電性を有する金属酸化物の短繊維、特にペロブスカイト型構造の酸化物からなる結晶性の導電性酸化物短繊維、並びにその導電性酸化物短繊維の簡単且つ安価な製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来から、酸化スズやインジウム−スズオキサイド(ITO)などの導電性を有する金属酸化物が知られているが、これらの導電性金属酸化物はバルクか又は膜の状態で提供されている。しかし、最近では、帯電防止用フィラーなどの導電性付与材料、電池用の電極活性物質充填材料などとして、繊維状の導電性酸化物の提供が要望されている。
【0003】
一般的に、酸化物繊維の製造方法としては、溶融法、ゾル−ゲル法、無機塩法などが知られている。溶融法は、高温の融液を圧縮空気やローターを利用して繊維化する方法であり、大量生産が可能である。ゾル−ゲル法は、金属アルコキシドを加水分解し、重縮合反応させて得たゾルを紡糸し、焼結して繊維とする。また、無機塩法では、会合しやすい金属塩と有機高分子の混合液を紡糸し、乾燥及び焼結して繊維化する。
【0004】
しかしながら、溶融法では、融液の粘度が小さい場合や、曳糸性が乏しい場合には、繊維化することが難しいという問題があった。ゾル−ゲル法は、金属アルコキシドを出発原料とするため、得られる繊維が非常に高価であるという欠点があった。また、無機塩法では、用いる金属の種類のよっては結合力が弱くなり、繊維の形状を保つことが難しいという問題があった。
【0005】
そのため、これらの問題がない酸化物繊維の製造方法について、種々の研究がなされている。例えば、特開平8−337928号公報には、アルミニウム、ゲルマニウム、チタン、ジルコニウム、マグネシウム、ホウ素から選ばれた少なくとも1種のアルコール可溶性化合物と、アルコール可溶性スズ化合物とを溶解したアルコール溶液を紡糸し、次いで熱処理することを特徴とする、導電性酸化スズ系繊維の製造方法が記載されている。
【0006】
また、特開2000−72439号公報には、メチルアルコールなどのアルコールと、塩化第一スズなどのスズ化合物と、周期律表第V族元素化合物を溶解した紡糸液を、相対湿度40%以下の雰囲気下で紡糸し、加熱処理することを特徴とする、導電性酸化スズ系繊維の製造方法が提案されている。
【0007】
しかし、これらの酸化スズ系繊維の製造方法は、いずれもアルコールを溶媒として用いるため、水に比べて取り扱いが難しくなり、コストも高くなるという問題があった。また、これらの方法により得られる酸化スズ系繊維は、主成分である酸化スズの融点が低いため耐熱性に劣り、高温で変質しやすいという問題があった。
【0008】
また、特開平9−306518号公報には、固体電解質型燃料電池の集電体用として、ランタンマンガナイトを主成分とするファイバー状導電性セラミックスをフエルト状に成形したものが提案されている。その製造方法については、原料の金属化合物粉末を所定組成に混合してスラリーとし、焼成した後粉砕してランタンマンガナイトの粉末を得、この粉末にバインダーを添加してファイバー状に押しだし成形し、焼成してファイバー状導電性セラミックスとする方法が記載されている。
【0009】
しかし、このファイバー状導電性セラミックスの製造方法は、まず原料である複数の金属化合物粉末を焼成して所定の導電性酸化物組成を有する粉末を製造した後、この粉末をファイバー状に押し出し成形して更に焼成する必要があるため、工程が煩雑であるうえ、エネルギー消費が大きく、コスト高であるという問題があった。
【0010】
【特許文献1】
特開平8−337928号公報
【特許文献2】
特開2000−72439号公報
【特許文献3】
特開平9−306518号公報
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、このような従来の事情に鑑み、溶媒として水を用い、エネルギー消費が少なく、簡単且つ安価に、導電性酸化物短繊維を製造する方法を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するため、本発明が提供する導電性酸化物短繊維の製造方法は、水に可溶性の1種又は2種以上の金属化合物を最終的な繊維組成が導電性酸化物組成となるように水に溶解し、その水溶液にオキシカルボン酸とポリオールを添加し、増粘剤を加えて紡糸液とした後、これを紡糸して繊維前駆体とし、得られた繊維前駆体を加熱処理することを特徴とする。
【0013】
上記本発明の導電性酸化物短繊維の製造方法において、前記金属化合物は、硝酸塩、酢酸塩、炭酸塩、硫酸塩、塩化物、水酸化物、又はアルコキシドであることが好ましい。また、前記オキシカルボン酸は、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸、又は酒石酸であることが好ましい。更に、前記ポリオールは、エチレングリコール又はプロピレングリコールであることが好ましい。
【0014】
【発明の実施の形態】
紡糸液の溶媒として水を用いる場合、硝酸塩や塩化物などの金属化合物と増粘剤を溶解して紡糸すると、金属化合物や増粘剤の種類によっては紡糸が可能であったとしても、加熱処理して焼成する際に粉化して、繊維の形状を維持することができない。
【0015】
そこで、本発明者は、水を溶媒とする紡糸液による酸化物繊維の製造について種々検討した結果、クエン酸とエチレングリコールを添加すれば容易に紡糸することができ、しかも加熱処理しても粉化せず、安定して酸化物繊維が得られることを見出し、本発明に至ったものである。
【0016】
即ち、本発明においては、溶媒である水に、金属化合物を溶解すると共に、クエン酸などのオキシカルボン酸と、エチレングリコールなどのポリオールを添加する。クエン酸などのオキシカルボン酸の添加により金属の錯体が形成され、更にエチレングリコールなどのポリオールの添加によりエステル重合が起るため、得られた紡糸液を紡糸して得た繊維前駆体を加熱処理しても粉化することが全くなく、安定して繊維形状を維持できるものと考えられる。
【0017】
本発明方法で製造する酸化物短繊維は、導電性を有する組成のものであれば特に制限はなく、例えば導電性酸化スズ系の短繊維などであってよい。特に、少なくとも異なる2種類の金属元素の金属化合物を同時に用いることにより、それらの金属元素を含むペロブスカイト型構造の酸化物からなる結晶質の短繊維を得ることができる。このペロブスカイト型酸化物の短繊維は、優れた導電性を有すると共に、耐熱性を備えるため高温でも変質することがない。
【0018】
原料の金属化合物としては、焼成により最終的に所望の導電性酸化物となる金属の化合物、例えば、硝酸塩、酢酸塩、炭酸塩、硫酸塩、塩化物、水酸化物、又はアルコキシドなどを用いることができる。ペロブスカイト型構造の酸化物とする場合には、例えば、ランタンやセリウムなどの希土類元素、ストロンチウム、マンガン、カルシウム、コバルト、チタン、タンタルなどから選択した少なくとも2種類の金属元素を用いることができる。
【0019】
オキシカルボン酸としては、クエン酸の外にも、リンゴ酸、コハク酸、酒石酸などを使用することができる。また、ポリオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコールなどが好ましい。更に、増粘剤は、紡糸液の粘度や曳糸性の調整のために通常用いられているものであれば良く、例えば、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコールなどを用いることができる。
【0020】
次に、本発明の導電性酸化物短繊維の製造方法について、ペロブスカイト型酸化物がLa . 85Sr . 15MnOである場合を例にして、好ましい具体例を説明する。まず、溶媒である水1リットルに、硝酸ランタン六水和物La(NO)・6HOを0.425〜1.275mol、硝酸ストロンチウムSr(NO)を20.075〜0.225mol、硝酸マンガン六水和物Mn(NO)・6HOを0.5〜1.5molの範囲で加え、撹拌して溶解する。
【0021】
次に、この水溶液に対してクエン酸を添加し、更にエチレングリコールを加えて撹拌する。クエン酸の添加量は、クエン酸/総金属イオンのモル比で2〜6の範囲が好ましい。クエン酸の添加量が少なすぎると濃縮時に沈殿が発生し、逆に多すぎると焼結時に有機分が残留するため、繊維の強度が低下しやすい。
【0022】
この水溶液を減圧しながら60〜80℃で濃縮し、粘性を有するゾルを得る。濃縮の際に、温度が低いと反応がうまく進まず、沈殿が発生しやすい。このゾルに対し、増粘剤としてポリエチレングリコール(分子量50万)の3%溶液を加え、撹拌して紡糸可能な粘度の紡糸液とする。増粘剤を添加しない場合には適度な曳糸性が得られず、逆に増粘剤の添加量が多すぎると紡糸したときに繊維が切れやすくなる。
【0023】
このようにして得られた紡糸液を、通常の方法により紡糸して、繊維前駆体を得る。その後、繊維前駆体を加熱処理することにより、酸化物繊維が得られると同時に導電性が付与される。加熱処理条件としては、例えば、105℃で一晩乾燥し、大気中にて2℃/minで200℃まで昇温して5時間保持した後、1℃/minで600℃まで昇温し、この温度で12時間保持する。このようにして、ペロブスカイト型酸化物La . 85Sr . 15MnOからなる導電性酸化物短繊維を得ることができる。
【0024】
このような本発明の方法によれば、沈殿が発生せず、各金属イオンが原子レベルで混合されるため、目的の組成の紡糸液が均質な状態で得られる。そのため、LaSrMnOだけでなく、LaCaMnO、La(Ca,Sr)CoO、CaCeMnOなど、均質な組成のペロブスカイト型酸化物から構成され、導電性及び耐熱性に優れた酸化物短繊維を得ることができる。また、一般的な導電性酸化物繊維である酸化スズ(SnO)系の酸化物短繊維も、簡単に製造することができる。
【0025】
このようにして得られる本発明の導電性酸化物短繊維は、マット状やボード状など種々の形状に成形することが可能である。従って、本発明の導電性酸化物短繊維は、帯電防止用フィラーなどの導電性付与材料や、電池用の電極活性物質充填材料などとして有用である。
【0026】
【実施例】
実施例1
硝酸ランタン184.2g、硝酸ストロンチウム15.9g、及び硝酸マンガン143.6gを、蒸留水1リットルに溶解させて均一な水溶液を得た。この水溶液にクエン酸500gとエチレングリコール125gを加え、撹拌して均一な水溶液を得た。この水溶液を80℃に保った温水中に保持して、アスピレーターにより減圧しながら濃縮し、粘性のあるゾルとした。このゾルに、増粘剤としてポリエチレングリコール(分子量50万)の3%溶液を5g添加することによって、曳糸性のある紡糸液を得た。
【0027】
次に、この紡糸液にガラス棒の先端を浸し、引き上げることによって長さ20cmのゲルファイバーを多数紡糸した。得られたゲルファイバーを、105℃で一晩乾燥した後、2℃/minの昇温速度で200℃まで昇温して5時間保持し、引き続き1℃/minの昇温速度で600℃まで昇温して12時間の加熱処理を行うことによって、酸化物繊維を得ることができた。得られた酸化物繊維は組成がLaSrMnOであり、直径が2〜10μm、長さが10〜100mmの導電性酸化物短繊維であった。
【0028】
実施例2
実施例1で用いたポリエチレングリコール5gの代りに、増粘剤としてポリビニルアルコール5gを用いた以外は実施例1と同様に実施したところ、実施例1と同じ導電性酸化物短繊維を得ることができた。
【0029】
比較例
クエン酸とエチレングリコールを添加しない以外は実施例1と同様に実施(ポリエチレングリコール5g添加)した場合、紡糸することができなかった。また、クエン酸とエチレングリコールを添加せず、且つポリエチレングリコール5gの代りにポリビニルアルコール30gを用いた以外は実施例1と同様に実施した場合、紡糸することは可能であったが、加熱処理の際に粉化してしまい、繊維を得ることができなかった。
【0030】
【発明の効果】
本発明によれば、溶媒として水を用い、少ないエネルギー消費で、簡単且つ安価に導電性酸化物短繊維を製造する方法を提供することができる。また、この方法により製造される導電性酸化物短繊維は、組成が均一であり、優れた導電性を有すると共に、ペロブスカイト型酸化物とすれば優れた耐熱性をも備えるため、帯電防止用フィラーなどの導電性付与材料や、電池用の電極活性物質充填材料などとして有用である。

Claims (4)

  1. 水に可溶性の1種又は2種以上の金属化合物を最終的な繊維組成が導電性酸化物組成となるように水に溶解し、その水溶液にオキシカルボン酸とエチレングリコール又はプロピレングリコールとを添加し、増粘剤を加えて紡糸液とした後、これを紡糸して繊維前駆体とし、得られた繊維前駆体を加熱処理することを特徴とする導電性酸化物短繊維の製造方法。
  2. 前記金属化合物が、硝酸塩、酢酸塩、炭酸塩、硫酸塩、塩化物、水酸化物、又はアルコキシドであることを特徴とする、請求項1に記載の導電性酸化物短繊維の製造方法。
  3. 前記オキシカルボン酸が、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸、又は酒石酸であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の導電性酸化物短繊維の製造方法。
  4. 前記導電性酸化物が、少なくとも異なる2種類の金属元素を含むペロブスカイト型酸化物であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の導電性酸化物短繊維の製造方法。
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