JP4144360B2 - 蓄圧式燃料噴射装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、内燃機関の各気筒内に高圧燃料を噴射供給する電磁式燃料噴射弁を備えた蓄圧式燃料噴射装置に関するもので、特に蓄圧式燃料噴射装置用の電磁式燃料噴射弁の温度の過上昇を抑制することが可能なインジェクタ駆動電流の制御方法に係わる。
【0002】
【従来の技術】
従来より、サプライポンプによって蓄圧容器内に高圧燃料を加圧圧送して蓄圧すると共に、その蓄圧容器内に蓄圧された高圧燃料を、内燃機関の各気筒毎に搭載された電磁式燃料噴射弁(インジェクタ)に分配供給し、各気筒のインジェクタから内燃機関の各気筒へ高圧燃料を所定のタイミングで噴射供給する蓄圧式燃料噴射システムが知られている。ここで、インジェクタは、ノズルボデーの弁座よりノズルニードルがリフトすることで内燃機関の各気筒に燃料噴射を行なう燃料噴射ノズルと、ノズルニードルを開弁方向(燃料噴射が成される側)に駆動するアクチュエータと、ノズルニードルを閉弁方向に付勢するスプリング等の付勢手段とから構成されている。また、アクチュエータとしては、ノズルニードルの背圧制御室内の圧力を制御する電磁式アクチュエータ、例えばソレノイドコイルに駆動電流が流れると背圧制御室内の圧力を低下させる側に作動する弁体を有する電磁弁が一般に採用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
なお、例えばインジェクタからのリーク燃料は、インジェクタ内の各摺動部および背圧制御室より電磁弁内、特にソレノイドコイル等の発熱部品を冷却するためにソレノイドコイル周囲を通って外部に排出され、燃料還流路を経て燃料タンクに還流している。また、インジェクタは、ゴムシールやメタルシール等のシール手段によって燃料がシステム外部へ漏れ出さないように構成されている。
【0004】
【特許文献1】
特開2000−282998号公報(第1−18頁、図1−図20)
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、蓄圧式燃料噴射システムの今後の動向として、図10のグラフに示したように、排気ガス規制の強化およびエンジン出力の更なる向上(出力アップ)に対する対応としてコモンレール圧の更なる高圧化が有る。しかし、このような高圧化に伴って、図11のグラフに示したように、燃料温度(サプライポンプの入口温度)の上昇によってインジェクタ温度(またはインジェクタリーク温度)が高温となり、インジェクタ内のゴムシールやソレノイドコイルの絶縁皮膜等の耐熱信頼性の確保が難しい。具体的には、エンジン出力点等で、且つ高コモンレール圧で連続運転した場合に、インジェクタ温度(またはインジェクタリーク温度)がゴム類許容温度を越える可能性がある。
【0006】
その際に、内燃機関の各気筒に噴射供給される燃料の噴射量を減少またはコモンレール圧を低下させて、燃料温度を下げ、インジェクタ温度(またはインジェクタリーク温度)を下げて、インジェクタ内のゴムシールやソレノイドコイルの絶縁皮膜等の耐熱信頼性を確保する方法が考えられるが、この場合には、事実上内燃機関の出力の低下を伴い、蓄圧式燃料噴射システムを搭載した車両のドライバビリティ(運転性能)が低下するという問題が生じている。
【0007】
また、コモンレール圧の更なる高圧化に伴い燃料温度を下げる目的で、燃料クーラを搭載することも考えられるが、この場合には、部品点数の増加によるコストアップとなる。また、インジェクタ内の耐熱信頼性を向上させる目的で、全てのシール箇所を耐熱シール化、つまりメタルシール化することも考えられるが、この場合には、ゴムシールに比較してメタルシールは極めて高精度に製品製造を行なう必要があり、製品自体がゴムシールと比べて非常に高コストのため、全てのシール箇所を耐熱シール化することは最適な手段とは言い難い。
【0008】
【発明の目的】
本発明の目的は、蓄圧容器内の圧力の高圧化に伴って上昇するインジェクタ温度またはインジェクタリーク温度の過上昇を抑制することで、噴射量の減少または内燃機関の出力の低下またはコストアップを招くことなく、蓄圧容器内の圧力の更なる高圧化を実現することのできる蓄圧式燃料噴射装置を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
請求項1に記載の発明によれば、温度検出手段によって検出または推定されたインジェクタ温度またはインジェクタリーク温度が所定値を越えた際に、通常時と比べてインジェクタの発熱量を抑制する側にインジェクタへの通電状態を補正することにより、蓄圧容器内の圧力の高圧化に伴って上昇するインジェクタ温度またはインジェクタリーク温度の過上昇を抑制できる。これにより、インジェクタの耐熱信頼性を確保することが可能な上限値以下にインジェクタ温度またはインジェクタリーク温度を抑えることができる。したがって、噴射量の減少または内燃機関の出力の低下またはコストアップを招くことなく、蓄圧容器内の圧力の更なる高圧化を実現することができる。
【0010】
また、請求項1に記載の発明によれば、温度検出手段によって検出または推定されたインジェクタ温度またはインジェクタリーク温度が所定値を越えた際に、通常時と比べてインジェクタに印加する駆動信号の電流値を下げることにより、インジェクタの発熱量を抑制することができるので、蓄圧容器内の圧力の高圧化に伴って上昇するインジェクタ温度またはインジェクタリーク温度の過上昇を抑制できる。また、通常時と比べて駆動信号の電流値を下げる場合には、圧力検出手段によって検出された蓄圧容器内の圧力が低圧時の下げ方と比べて高圧時は大きく下げることにより、蓄圧容器内の圧力が高い程、インジェクタ温度またはインジェクタリーク温度の過上昇を抑えることができる。
【0011】
請求項2に記載の発明によれば、インジェクタは、噴射孔を開閉するノズルニードル、このノズルニードルの動作制御を行なう圧力制御室、この圧力制御室内の圧力を減少することでノズルニードルを開弁方向に駆動するアクチュエータ、およびノズルニードルを閉弁方向に付勢する付勢手段を有していることを特徴としている。また、請求項3に記載の発明によれば、アクチュエータは、圧力制御室と燃料還流路との連通状態と遮断状態とを切り替える弁体、およびインジェクタを駆動するための駆動信号が印加されると弁体を吸引して圧力制御室と燃料還流路と連通させるソレノイドコイルを有している。そして、アクチュエータは、インジェクタからリークするリーク燃料が、インジェクタ内の各摺動部および圧力制御室からソレノイドコイル周囲を通って外部に排出され、燃料還流路を経て燃料タンクに還流するように構成されていることを特徴としている。
【0012】
請求項4に記載の発明によれば、駆動信号の電流値を下げる補正を実施し、且つ蓄圧容器内の圧力が所定値以下の低圧の時には、噴射時期算出手段によって設定された燃料噴射時期を進角方向へ補正する噴射時期補正手段を設けたことにより、各気筒のインジェクタから内燃機関の各気筒へ噴射供給される実際の噴射量を目標噴射量に近づけることができるので、内燃機関の出力低下を抑制することができる。また、請求項5に記載の発明によれば、前記駆動信号の電流値を下げる補正を実施した時には、前記噴射時期算出手段によって設定された燃料噴射時期を進角方向へ補正する噴射時期補正手段を設けたことにより、各気筒のインジェクタから内燃機関の各気筒へ噴射供給される実際の噴射量を目標噴射量に近づけることができるので、内燃機関の出力低下を抑制することができる。
【0013】
請求項6に記載の発明によれば、インジェクタにパルス状の駆動電流を印加する場合には、インジェクタを開弁する際に最高の電流値であるチャージ電流値にてソレノイドコイルを通電し、その後に所定時間が経過するまでの間、チャージ電流値よりも低い第1駆動電流値にてソレノイドコイルを通電し、所定時間経過後からインジェクタを閉弁するまでの間、第1駆動電流値よりも低い第2駆動電流値にてソレノイドコイルを通電することにより、チャージ電流値および第1駆動電流値によってインジェクタのノズルニードルを確実に開弁作動させ、第2駆動電流値によってインジェクタのノズルニードルの開弁状態を維持することができる。また、請求項7に記載の発明によれば、通常時と比べてパルス状の駆動電流の電流値を下げる場合には、第2駆動電流値よりも第1駆動電流値の方を通常時と比べて大きく下げることにより、インジェクタの開弁状態を保持する保持力が低下することを防止できる。
【0015】
【発明の実施の形態】
発明の実施の形態を実施例に基づき図面を参照して説明する。
[第1実施例の構成]
図1ないし図7は本発明の第1実施例を示すもので、図1はコモンレール式燃料噴射システムの全体構成を示した図で、図2は2方弁式電磁弁付きインジェクタを示した図である。
【0016】
本実施例のコモンレール式燃料噴射システムは、4気筒ディーゼルエンジン等の内燃機関(以下エンジンと言う)1により回転駆動されるサプライポンプ3と、このサプライポンプ3より吐出された高圧燃料を蓄圧するサージタンクの一種であるコモンレール4と、このコモンレール4に蓄圧された高圧燃料をエンジン1の各気筒の燃焼室内に噴射供給する複数個(本例では4個)の2方弁式電磁弁付きインジェクタ(以下インジェクタと略す)5と、サプライポンプ3および複数個のインジェクタ5を電子制御する電子制御ユニット(以下ECUと呼ぶ)10とを備えている。
【0017】
サプライポンプ3は、エンジン1のクランク軸(クランクシャフト)31の回転に伴ってポンプ駆動軸32が回転することで燃料タンク6内の燃料を汲み上げる周知のフィードポンプ(低圧供給ポンプ)と、フィードポンプにより吸い出された燃料が流入するポンプ室と、ポンプ駆動軸32により駆動されるプランジャ(図示せず)と、このプランジャの往復運動によりポンプ室から流入した燃料を加圧する加圧室(プランジャ室)とを有している。そして、サプライポンプ3は、燃料を加圧して吐出口からコモンレール4へ高圧燃料を吐出する高圧供給ポンプ(燃料供給ポンプ)である。このサプライポンプ3のポンプ室から加圧室への燃料流路には、その燃料流路を開閉する電磁式アクチュエータとしての吸入調量弁7が取り付けられている。
【0018】
吸入調量弁7は、図示しないポンプ駆動回路を介してECU10からのポンプ駆動信号によって電子制御されることにより、サプライポンプ3の加圧室内に吸入される燃料の吸入量を調整する吸入量調整用電磁弁で、各インジェクタ5からエンジン1へ噴射供給する噴射圧力、つまりコモンレール圧を変更する。その吸入調量弁7は、通電が停止されると弁状態が全開状態となるノーマリオープンタイプのポンプ流量制御弁である。
【0019】
コモンレール4には、連続的に燃料噴射圧力に相当する高い圧力(コモンレール圧)が蓄圧される必要があり、そのために燃料配管33を介して高圧燃料を吐出するサプライポンプ3の吐出口と接続されている。なお、内部に高圧燃料流路を形成する燃料配管33またはコモンレール4と内部に燃料還流路を形成するリリーフ配管35との間には、コモンレール圧が限界設定圧を越えると開弁するプレッシャリミッタ34が配設されてコモンレール圧が限界設定圧よりも高くなることを防止している。また、サプライポンプ3からのリーク燃料は、内部に燃料還流路(リーク燃料流路)を形成するリーク配管36を経て燃料タンク6にリターンされる。
【0020】
エンジン1の各気筒毎に搭載されたインジェクタ5は、コモンレール4より分岐する複数の分岐管(高圧燃料流路)39の下流端に接続され、エンジン1の各気筒の燃焼室内に高圧燃料を噴射供給する燃料噴射ノズル11と、この燃料噴射ノズル11内に収容されたノズルニードル13を開弁方向に駆動する電磁式アクチュエータとしての2方弁式電磁弁(以下電磁弁と略す)12と、ノズルニードル13を閉弁方向に付勢するリターンスプリング等の付勢手段(図示せず)とから構成されている。
燃料噴射ノズル11は、複数個の噴射孔16を開閉するノズルニードル13、このノズルニードル13に連動して動作するコマンドピストン14、およびこれらを収容するノズル本体15等から構成されている。ここで、17は常に高圧燃料が供給される燃料溜まり、18は燃料溜まり17および背圧制御室(圧力制御室)19に高圧燃料を供給するための燃料通路(高圧通路)、20、21は通過する燃料の流量を調節するための入口側、出口側オリフィス(固定絞り)である。
【0021】
電磁弁12は、車載電源22とインジェクタ駆動回路(EDU)に内蔵された常開型スイッチ23を介して電気的に接続されたソレノイドコイル24、このソレノイドコイル24の起磁力により図示上方へ吸引されるアーマチャ付きの弁体25、およびこの弁体25を閉弁方向に付勢するリターンスプリング26等から構成されている。なお、インジェクタ5から燃料タンク6へリークするリーク燃料は、インジェクタ5内の各摺動部および背圧制御室19からソレノイドコイル24の周囲を巡る燃料流路27を通って燃料出口28から外部に排出され、内部に燃料還流路(リーク燃料流路)を形成するリーク配管37を経て燃料タンク6に還流するように構成されている(図1および図2参照)。
【0022】
そして、各気筒のインジェクタ5からエンジン1への燃料の噴射は、電磁弁12を駆動するインジェクタ駆動回路(EDU)への電磁弁制御信号により電子制御される。そして、インジェクタ駆動回路(EDU)から各気筒毎のインジェクタ5の電磁弁12のソレノイドコイル24にインジェクタ駆動信号(以下インジェクタ噴射パルスと言う)が印加されて電磁弁12が開弁している間、ノズルニードル13が弁座よりリフト(離間)することにより、噴射孔16と燃料溜まり17とが連通する。これにより、コモンレール4に蓄圧された高圧燃料がエンジン1の各気筒の燃焼室内に噴射供給される。
【0023】
ECU10には、制御処理、演算処理を行うCPU、各種プログラムおよびデータを保存するROM、RAM等の記憶装置(メモリ)、入力回路、出力回路、電源回路、インジェクタ駆動回路(EDU)およびポンプ駆動回路等の機能を含んで構成される周知の構造のマイクロコンピュータが設けられている。そして、各種センサからのセンサ信号は、A/D変換器でA/D変換された後にマイクロコンピュータに入力されるように構成されている。
【0024】
そして、ECU10は、エンジン1の運転条件に応じた最適な燃料噴射圧力、つまりコモンレール圧を演算し、図示しないポンプ駆動回路を介してサプライポンプ3の吸入調量弁7を駆動する吐出量制御手段でもある。すなわち、ECU10は、回転速度センサ41によって検出されたエンジン回転数(NE)およびアクセル開度センサ42によって検出されたアクセル開度(ACCP)等のエンジン運転情報、更には冷却水温センサ43によって検出されたエンジン冷却水温(THW)および燃料温度センサ44によって検出された燃料温度(THL)の補正を加味して目標コモンレール圧(Pt)を算出し、コモンレール圧(PC)と目標コモンレール圧(Pt)との圧力差に応じた目標ポンプ圧送量に基づいてサプライポンプ3の吸入調量弁7にポンプ駆動信号を出力するように構成されている。
【0025】
さらに、より好ましくは、噴射量精度を向上させる目的で、各インジェクタ5からエンジン1へ噴射供給する燃料噴射圧力に相当するコモンレール圧(PC)を検出する圧力検出手段としてのコモンレール圧センサ45をコモンレール4に取り付けて、そのコモンレール圧センサ45によって検出されるコモンレール圧(PC)がエンジン1の運転条件によって決定される目標コモンレール圧(Pt)と略一致するように吸入調量弁7へのポンプ駆動信号(駆動電流)をフィードバック制御により行うことが望ましい。なお、吸入調量弁7への駆動電流は、デューティ(Duty)制御により行なうことが望ましい。すなわち、単位時間当たりのポンプ駆動信号のオン/オフの割合(通電時間割合・デューティ比)を調整して吸入調量弁7の弁開度または開弁時間割合を変化させるデューティ制御を用いることで、高精度なデジタル制御が可能になる。
【0026】
そして、ECU10は、エンジン1の運転条件に応じた最適な目標噴射量(Q)を算出する噴射量算出手段と、エンジン1の運転条件および目標噴射量(Q)に応じた最適な燃料噴射時期(T)を算出する噴射時期算出手段と、エンジン1の運転条件および目標噴射量(Q)に応じた噴射パルス時間(噴射期間、噴射パルス幅:Tq)を算出する噴射パルス算出手段(噴射期間算出手段)と、インジェクタ駆動回路(EDU)を介してインジェクタ5の電磁弁12に噴射パルス幅(Tq)のインジェクタ(INJ)噴射パルス(駆動電流)を印加するインジェクタ駆動手段とを備えている。
【0027】
すなわち、ECU10は、回転速度センサ41によって検出されたエンジン回転速度(以下エンジン回転数と言う:NE)およびアクセル開度センサ42によって検出されたアクセル開度(ACCP)等のエンジン運転情報に基づいて目標噴射量(基本噴射量:Q)を算出し、エンジン回転数(NE)および目標噴射量(Q)に基づいて燃料噴射時期(通電開始時期、噴射開始時期:T)を算出し、コモンレール圧(PC)および目標噴射量(Q)に応じて噴射パルス幅(Tq)を算出し、各気筒のインジェクタ5の電磁弁12にインジェクタ(INJ)噴射パルスを印加するように構成されている。これにより、エンジン1が運転される。
【0028】
本実施例のECU10は、インジェクタ温度(またはインジェクタリーク温度)を推定する温度検出手段(インジェクタ温度推定手段)と、この推定されたインジェクタ温度(またはインジェクタリーク温度)が、インジェクタ5のソレノイドコイル24の絶縁皮膜やゴムシール等の耐熱信頼性を確保することが可能な皮膜類許容温度やゴム類許容温度等の樹脂類許容温度(上限値:TLimit)を越えないように、予め設定した所定値(Tmax)以上となった場合に、通常時と比べてインジェクタ5の電磁弁12に印加するインジェクタ(INJ)噴射パルスの電流値を下げる通電状態補正手段(電流値補正手段)とを有している。なお、Tmax<TLimitである。
【0029】
また、通常時と比べてインジェクタ(INJ)噴射パルスの電流値を下げる場合には、図3のタイミングチャートに示したように、コモンレール圧センサ45によって検出されたコモンレール圧(PC)が低圧時の下げ方と比べて高圧時は大きく下げるようにしている。また、ECU10は、コモンレール圧センサ45によって検出されたコモンレール圧(PC)が所定値以下の低圧の時には、図4のタイミングチャートに示したように、上記の燃料噴射時期(通電開始時期:T)を噴射時期補正量(α)分だけ進角方向へ進角させる噴射時期補正手段を有している。
【0030】
ここで、本実施例では、エンジン1の運転条件を検出する運転条件検出手段として回転速度センサ41、アクセル開度センサ42を用いて目標噴射量(Q)、燃料噴射時期(T)を演算するようにしているが、運転条件検出手段としてのその他のセンサ類(例えば冷却水温センサ43、燃料温度センサ44、吸気温センサ、吸気圧センサ、気筒判別センサ、噴射時期センサ等)からの検出信号(エンジン運転情報)を加味して目標噴射量(Q)、燃料噴射時期(T)を補正するようにしても良い。
【0031】
[第1実施例の制御方法]
次に、本実施例のインジェクタ駆動電流の制御方法を図1ないし図7に基づいて簡単に説明する。ここで、図5はインジェクタの噴射量制御方法の概略を示したフローチャートである。
【0032】
先ず、エンジン回転数(NE)・アクセル開度(ACCP)・エンジン冷却水温(THW)・燃料温度(THL)等のエンジンパラメータを取り込む(ステップS1)。次に、上記のエンジンパラメータをベースに噴射量指令値(目標噴射量:Q)を算出する。具体的には、上記のステップS1で取り込んだエンジン回転数(NE)およびアクセル開度(ACCP)に基づいて目標噴射量(Q)を算出し、記憶装置(メモリ)等に記憶する(ステップS2)。なお、目標噴射量(Q)は、冷却水温センサ43によって検出されたエンジン冷却水温(THW)または燃料温度センサ44によって検出された燃料温度(THL)の補正を加味しても良い。次に、上記のエンジンパラメータをベースに燃料噴射時期(T)を算出する。具体的には、上記のステップS1で取り込んだエンジン回転数(NE)および上記のステップS2で設定された目標噴射量(Q)またはアクセル開度(ACCP)に基づいて燃料噴射時期(通電開始時期:T)を算出し、記憶装置(メモリ)等に記憶する(ステップS3)。
【0033】
次に、インジェクタ温度(またはインジェクタリーク温度)を認識する。具体的には、インジェクタ5にインジェクタ温度センサを取り付けて、インジェクタ温度センサによって実際のインジェクタ温度(またはインジェクタリーク温度)を検出する方法や、燃料温度センサ44によって検出された燃料温度(サプライポンプ3の入口温度:THL)、回転速度センサ41によって検出されたエンジン回転数(NE)、コモンレール圧センサ45によって検出されるコモンレール圧(PC)または目標コモンレール圧(Pt)、目標噴射量(Q)および高負荷運転時の持続時間(経時時間)からインジェクタ温度(またはインジェクタリーク温度)を推定する。ここでは、検出または推定したインジェクタ温度(またはインジェクタリーク温度)をT1とし、記憶装置(メモリ)等に記憶する(ステップS4)。
【0034】
次に、電流値補正処理の実行を判断する。すなわち、検出または推定したインジェクタ温度(またはインジェクタリーク温度)T1が、インジェクタ5のソレノイドコイル24の絶縁皮膜やゴムシール等の耐熱信頼性を確保することが可能な所定値(Tmax)を越えているか否かを判定する(ステップS5)。この判定結果がNOの場合には、コモンレール圧(PC)を認識する。つまり、コモンレール圧センサ45によって検出されるコモンレール圧(PC)を取り込む(ステップS6)。
【0035】
次に、上記のエンジンパラメータおよび上記の目標噴射量(Q)をベースにインジェクタ(INJ)噴射パルスの噴射パルス幅(噴射パルス時間、通電期間:Tq)を算出する。具体的には、上記のステップS6または後記するステップS22で取り込んだコモンレール圧(PC)および上記のステップS2で設定された目標噴射量(Q)に基づいてインジェクタ(INJ)噴射パルスの噴射パルス幅(Tq)を算出し、記憶装置(メモリ)等に記憶する(ステップS7)。次に、インジェクタ(INJ)噴射パルスをECU10の出力段にセットする(ステップS8)。その後に、最初のステップS1に戻り、上記の各演算処理や制御処理を繰り返す。
【0036】
ここで、図5のフローチャートでは説明していないが、コモンレール圧センサ45によって検出されるコモンレール圧(PC)が、上記の目標コモンレール圧(Pt)と略一致するように、サプライポンプ3よりコモンレール4へ吐出される燃料の吐出量をフィードバック制御している。具体的には、サプライポンプ3の吸入調量弁7の弁開度を、コモンレール圧(PC)と目標コモンレール圧(Pt)との圧力偏差値(ΔP=(Pt−PC))に応じて制御するために、吸入調量弁7の開度指令値(Di)を算出し、吸入調量弁7の開度指令値(Di)をECU10の出力段にセットする。
【0037】
また、ステップS5の判定結果がYESの場合、つまり検出または推定したインジェクタ温度(またはインジェクタリーク温度)T1が所定値(Tmax)を越えている場合には、図6のルーチンに示した電流値補正量算出の処理を行い(ステップS9)、続いて、図7のルーチンに示した噴射時期補正量算出の処理を行なう(ステップS10)。その後に、ステップS7に進み、インジェクタ(INJ)噴射パルスの噴射パルス幅(Tq)を算出し、ステップS8に進み、後述するステップS23で設定された電流補正係数(電流値補正量:Ik)を加味したインジェクタ(INJ)噴射パルスをECU10の出力段にセットする。その後に、最初のステップS1に戻り、上記の各演算処理や制御処理を繰り返す。
【0038】
ここで、図6は電流値補正量算出方法を示したフローチャートである。この図6のルーチンに入ると、インジェクタ温度(またはインジェクタリーク温度)T1と所定値(Tmax)との温度差(ΔT)を算出する(ステップS21)。次に、コモンレール圧(PC)を認識する。つまり、コモンレール圧センサ45によって検出されるコモンレール圧(PC)を取り込む(ステップS22)。
【0039】
次に、図6の特性図に基づいて電流補正係数(電流値補正量:Ik)を算出する。具体的には、上記のステップS21で設定された温度差(ΔT)およびステップS22で取り込んだコモンレール圧(PC)より電流補正係数(電流値補正量:Ik)を算出し、記憶装置(メモリ)等に記憶する(ステップS23)。その後に、図6のルーチンを抜けて、図7のルーチンに進む。
【0040】
この電流補正係数(Ik)の算出処理では、温度差(ΔT)が大きい程、予め記憶装置(メモリ)等に記憶された基本電流値(Ik=1.0)より電流補正係数(Ik)を大きく下げるように設定される。また、図3のタイミングチャートおよび図6の特性図に示したように、ステップS22で取り込んだコモンレール圧(PC)が低圧時(PC小時)の下げ方と比べて高圧時(PC大時)は電流補正係数(Ik)を通常時(Ik=1.0)より大きく下げるように設定される。
【0041】
ここで、図7は噴射時期補正量算出方法を示したフローチャートである。この図7のルーチンに入ると、先ず上記のステップS23で設定された電流補正係数(Ik)およびコモンレール圧(PC)を認識する。つまり、コモンレール圧センサ45によって検出されるコモンレール圧(PC)を取り込む(ステップS31)。次に、図7の特性図に基づいて噴射時期補正量(α)を算出する。具体的には、上記の電流補正係数(Ik)およびコモンレール圧(PC)より噴射時期補正量(α)を算出し、上記のステップS3で設定された燃料噴射時期(T)に噴射時期補正量(α)を加味した最終的な燃料噴射時期(T)を算出し、記憶装置(メモリ)等に記憶する(ステップS32)。その後に、図7のルーチンを抜ける。
【0042】
この噴射時期補正量(α)の算出処理では、電流補正係数(Ik)が小さい程、燃料噴射時期(T)を通常時よりも大きく進角させるように設定される。また、図4のタイミングチャートおよび図7の特性図に示したように、ステップS31で取り込んだコモンレール圧(PC)が高圧時(PC大時)と比べて低圧時(PC小時)は噴射時期補正量(α)を大きく進角させるように設定される。
【0043】
[第1実施例の作用]
次に、本実施例のコモンレール式燃料噴射システムの作用を図1ないし図7に基づいて簡単に説明する。ここで、図2(a)はエンジン1の特定気筒(例えば#1噴射気筒)のインジェクタ5の無噴射状態を示した図である。
【0044】
エンジン1の各気筒のインジェクタ5からエンジン1への燃料の噴射は、図2(b)に示したように、エンジン1の特定気筒への燃料噴射時期(T)がくると、特定気筒のインジェクタ5に対応したインジェクタ駆動回路(EDU)内の常開型スイッチ23が閉じられて、特定気筒のインジェクタ5の電磁弁12のソレノイドコイル24に、例えば図3の実線に示した電流波形を成すパルス状の駆動電流、つまりインジェクタ(INJ)噴射パルスが印加されると、電磁弁12の弁体25が開弁する。
【0045】
このとき、インジェクタ駆動回路(EDU)は、ECU10より特定気筒の電磁弁制御信号が印加されると、特定気筒のインジェクタ5の電磁弁12のソレノイドコイル24にインジェクタ噴射パルス(パルス状のインジェクタ駆動信号)を印加する。例えば図3のタイミングチャートに実線(通常時)で示したように、先ず特定気筒のインジェクタ5のノズルニードル13を開弁させるのに必要な最高の電流値(ピーク電流値)であるチャージ電流値(Io:例えば15〜20A)によってソレノイドコイル24が通電される。
【0046】
その後に所定時間が経過するまでの間、ノズルニードル13を開弁作動させるのに必要な第1駆動電流値(Ia:例えば10A)によってソレノイドコイル24が通電される。そして、所定時間経過後からノズルニードル13を閉弁するまでの間、ノズルニードル13の開弁状態を保持するのに必要な第2駆動電流値(Ib:例えば5A)によってソレノイドコイル24が通電される。但し、Io>Ia>Ibである。
【0047】
この電磁弁12のアーマチャ付きの弁体25が開弁している間は、背圧制御室19内の燃料が出口側オリフィス21を介して燃料流路27、燃料出口28を通り電磁弁12の外部へ排出された後に、リーク配管37を経て燃料タンク6に還流(リーク)されるので、図示しないリターンスプリングの付勢力に打ち勝ってノズルニードル13がノズル本体15を構成するノズルボデーの弁座よりリフト(離間)する。これにより、噴射孔16と燃料溜まり17とが連通するため、コモンレール4に蓄圧された高圧燃料がエンジン1の各気筒の燃焼室内に噴射供給される。
【0048】
その後に、インジェクタ(INJ)噴射パルスの出力を開始する燃料噴射時期(インジェクタ噴射パルス開始時期:T)から噴射パルス時間(噴射パルス幅:Tq)が経過してインジェクタ(INJ)噴射パルスの出力が終了するインジェクタ(INJ)噴射パルス終了時期になると、つまりインジェクタ駆動回路(EDU)の常開型スイッチ23が開かれると、図2(c)に示したように、電磁弁12の弁体25が閉弁する。
【0049】
この電磁弁12の弁体25が閉弁している間は、燃料通路(高圧通路)18から入口側オリフィス20を介して背圧制御室19内に高圧燃料が充満するため、リターンスプリングの付勢力によってノズルニードル13がノズル本体15を構成するノズルボデーの弁座に着座する。これにより、噴射孔16と燃料溜まり17との連通状態が遮断されるため、エンジン1の特定気筒の燃焼室内への燃料噴射が終了する。
【0050】
[第1実施例の特徴]
以上のように、本実施例のコモンレール式燃料噴射システムにおいては、検出または推定したインジェクタ温度(またはインジェクタリーク温度)T1が所定値(Tmax)を越えている場合には、インジェクタ温度(またはインジェクタリーク温度)T1と所定値(Tmax)との温度差(ΔT)を算出し、この算出した温度差(ΔT)、コモンレール圧(PC)および図6の特性図に基づいて、電流補正係数(電流値補正量:Ik)を算出している。
【0051】
このとき、図6の特性図に示したように、コモンレール圧(PC)が低圧時(PC小時)の下げ方と比べて高圧時(PC大時)は電流補正係数(Ik)を通常時(Ik=1.0)より大きく下げるように設定される。このため、コモンレール圧(PC)が低圧時(PC小時:B時)には、図3のタイミングチャートに一点鎖線で示したように、インジェクタ5の電磁弁12のソレノイドコイル24にインジェクタ(INJ)噴射パルスを印加する。具体的には、先ずチャージ電流値(Io:例えば15〜20A)によってソレノイドコイル24が通電され、その後に所定時間が経過するまでの間、第1駆動電流値(Ia×Ik:例えば8A)によってソレノイドコイル24が通電され、所定時間経過後からノズルニードル13を閉弁するまでの間、第2駆動電流値(Ib×Ik:例えば4A)によってソレノイドコイル24が通電される。但し、Io>Ia>Ibである。
【0052】
また、コモンレール圧(PC)が高圧時(PC大時:A時)には、図3のタイミングチャートに破線で示したように、インジェクタ5の電磁弁12のソレノイドコイル24にインジェクタ(INJ)噴射パルスを印加する。具体的には、先ずチャージ電流値(Io:例えば15〜20A)によってソレノイドコイル24が通電され、その後に所定時間が経過するまでの間、第1駆動電流値(Ia×Ik:例えば7A)によってソレノイドコイル24が通電され、所定時間経過後からノズルニードル13を閉弁するまでの間、第2駆動電流値(Ib×Ik:例えば3A)によってソレノイドコイル24が通電される。但し、Io>Ia>Ibである。
【0053】
したがって、コモンレール式燃料噴射システムの今後の動向として、図10のグラフに示したように、排気ガス規制の強化およびエンジン出力の更なる向上(出力アップ)に対する対応としてコモンレール圧(PC)の更なる高圧化を実施した場合に、図11のグラフに示したように、インジェクタ温度(またはインジェクタリーク温度)が高温となり、インジェクタ温度(またはインジェクタリーク温度)がインジェクタ5内のゴムシールやソレノイドコイル24の絶縁皮膜等のゴム類許容温度(TLimit)を越える場合がある。
【0054】
しかし、本実施例では、予め設定した所定値(Tmax)を越えた場合に、インジェクタ5の電磁弁12のソレノイドコイル24への駆動電流値をコモンレール圧(PC)に応じて下げることにより、インジェクタ5のソレノイドコイル24の発熱量を抑制することができる。よって、上記のコモンレール圧(PC)の高圧化に伴って上昇するインジェクタ温度(またはインジェクタリーク温度)の過上昇を抑制できる。これにより、インジェクタ5内のゴムシールやソレノイドコイル24の絶縁皮膜等の耐熱信頼性を確保することが可能な樹脂類許容温度(上限値:TLimit)以下にインジェクタ温度(またはインジェクタリーク温度)を抑えることができる。
【0055】
したがって、エンジン1の各気筒内への燃料の噴射量の減少を招くことなく、コモンレール圧(PC)の更なる高圧化を実現することができ、排気ガス規制の強化およびエンジン出力の更なる向上(出力アップ)に対応できる。本実施例の場合には、エンジン出力の低下を伴わないので、コモンレール式燃料噴射システムを搭載した車両のドライバビリティ(運転性能)の低下を防止できる。さらに、本実施例では、コモンレール圧(PC)の更なる高圧化に伴い燃料温度(THL)を下げる目的で、燃料クーラを搭載する必要もなく、また、インジェクタ5内の耐熱信頼性を向上させる目的で、全てのシール箇所を耐熱シール化(メタルシール化)する必要もないので、コストアップを招くこともない。
【0056】
ここで、背圧制御方式のインジェクタ5においては、背圧制御室の燃料がソレノイドコイル24の周囲を巡る流路を経由して流れる構成である。また、コモンレール圧の上昇に伴いリーク燃料が高温度化する傾向にある。このため、この高温度化したリーク燃料は、ソレノイドコイル24を含む周辺部材の耐熱限度温度以上に上昇させてしまう恐れがある。これに対し、上記の駆動電流値を下げる補正は背圧制御方式のインジェクタ5のソレノイドコイル24の発熱量を抑えるのに非常に好適な手段であると言える。また、背圧制御方式のインジェクタ5であると、高圧燃料が背圧制御室19より出口側オリフィス21、燃料流路27、燃料出口28、リーク配管37を経て燃料タンク6へ還流(リーク)されると、ノズルニードル13を図示上方へリフトさせる方向に力が作用する。
【0057】
すなわち、背圧制御室19よりノズルニードル13の閉弁方向に油圧力が働く高圧燃料が抜かれることにより、ノズルニードル13の開弁方向に力が働くので、コモンレール圧(PC)が所定値よりも高圧の場合には、インジェクタ5を駆動する電磁弁12のソレノイドコイル24に印加する駆動電流値を通常時と比べて下げても、所望の応答性にてノズルニードル13は開弁可能であり、図4のタイミングチャートに示したように、電磁弁12のソレノイドコイル24に印加する駆動電流値を通常時と比べて下げた時でも通常時と略同等の燃料噴射時期(T)を得ることが可能となる。
【0058】
しかるに、コモンレール圧(PC)が所定値以下の低圧の場合には、背圧制御室19内の圧力も当然の如く低くなるため、ノズルニードル13を図示上方にリフトさせる方向に作用する力も小さくなる。すると、電磁弁12のソレノイドコイル24に印加する駆動電流値の印加タイミングを通常時と同じ時期(燃料噴射時期)にしてしまうと、図4のタイミングチャートに破線(電流補正時・噴射時期補正なし)で示したように、実際の噴射量が目標噴射量(Q)よりも大幅に少なくなってしまい、エンジン出力の低下を招く場合がある。
【0059】
そこで、本実施例のコモンレール式燃料噴射システムにおいては、上述のように、電流補正係数(電流値補正量:Ik<1.0)を算出した場合には、図4のタイミングチャートに実線(通常時)および一点鎖線(電流補正時・噴射時期補正あり)で示したように、エンジン1の運転条件(エンジン回転数:NE)および目標噴射量(Q)に応じて設定された燃料噴射時期(T)を通常時よりも噴射時期補正量(α)分だけ進角方向へ進角させることにより、各気筒のインジェクタ5からエンジン1の各気筒へ噴射供給される実際の噴射量を目標噴射量(Q)に極めて近づけることができるので、エンジン出力の低下を抑制することができる。
【0060】
[参考例]
図8および図9は本発明の参考例を示すもので、図8はインジェクタの噴射量制御方法の概略を示したフローチャートである。
【0061】
ここで、図8のフローチャートのステップS1、S2、S3、S9、S10、S7、S8は、図5のフローチャートのステップS1、S2、S3、S9、S10、S7、S8に対応し、ステップS9の処理を除けば同様の処理を行うものである。このため、図8のフローチャートの各処理の説明は省略する。
【0062】
ここで、図9は電流値補正量算出方法を示したフローチャートである。この図9のルーチンに入ると、コモンレール圧(PC)を認識する。つまり、コモンレール圧センサ45によって検出されるコモンレール圧(PC)を取り込む(ステップS41)。次に、図9の特性図に基づいて電流補正係数(電流値補正量:Ik)を算出する。具体的には、上記のステップS41で取り込んだコモンレール圧(PC)より電流補正係数(電流値補正量:Ik)を算出し、記憶装置(メモリ)等に記憶する(ステップS42)。その後に、図9のルーチンを抜けて、第1実施例の図7のルーチンに進む。
【0063】
この電流補正係数(Ik)の算出処理では、コモンレ−ル圧(PC)が所定値(例えば100MPa:PA)以上の際には、予め記憶装置(メモリ)等に記憶された基本電流値、つまり通常時の電流値(I×Ik:但しIk=1.0)よりも電流補正係数(Ik)を下げるように設定される。また、図9の特性図に示したように、ステップS41で取り込んだコモンレール圧(PC)が所定値以上の時は、コモンレール圧(PC)が大きくなる程、電流補正係数(Ik)を通常時(Ik=1.0)より大きく下げるように設定される。なお、コモンレ−ル圧(PC)に加えて、燃料温度、外気温、エンジン回転数等を加味して、電流補正係数(電流値補正量:Ik)を補正しても良い。
【0064】
本参考例のコモンレール式燃料噴射システムにおいては、コモンレール圧(PC)が所定値(例えば100MPa:PA)以上に大きい場合には、インジェクタ5のノズルニードル13の開弁アシスト力が大きくなることを利用して、インジェクタ5の電磁弁12のソレノイドコイル24に印加する駆動電流値を下げるように補正している。すなわち、第1実施例で述べた通常時(インジェクタ温度またはインジェクタリーク温度が所定値(Tmax)以下の温度の場合)でも、コモンレール圧(PC)に応じてインジェクタ5の電磁弁12のソレノイドコイル24に印加する駆動電流値を補正するようにしている。
【0065】
[変形例]
本実施例では、エンジン1の各気筒に燃料を噴射供給するインジェクタの一例として、2方弁式電磁弁12付きのインジェクタ5を使用した例を説明したが、3方弁式電磁弁付きのインジェクタやその他のタイプのインジェクタを使用しても良い。また、本実施例では、回転速度センサ41、アクセル開度センサ42、冷却水温センサ43および燃料温度センサ44を用いて目標コモンレール圧(Pt)を演算するようにしているが、その他のセンサ類(例えば吸気温センサ、吸気圧センサ、気筒判別センサ、噴射時期センサ等)からの検出信号(エンジン運転情報)を加味して目標コモンレール圧(Pt)を補正するようにしても良い。
【0066】
本実施例では、コモンレール圧センサ45をコモンレール4に直接取り付けて、コモンレール4内に蓄圧される燃料圧力(コモンレール圧)を検出するようにしているが、圧力検出手段をサプライポンプ3のプランジャ室(加圧室)からインジェクタ5内の燃料通路までの間の燃料配管等に取り付けて、サプライポンプ3の加圧室より吐出された燃料圧力を検出するようにしても良い。
【0067】
本実施例では、サプライポンプ3のプランジャ室(加圧室)内に吸入される燃料の吸入量を変更(調整)する吸入調量弁7を設けた例を説明したが、サプライポンプ3のプランジャ室(加圧室)からコモンレール4への燃料の吐出量を変更(調整)する吐出調量弁を設けても良い。なお、吸入調量弁7または吐出調量弁の弁開度がその電磁弁への通電を停止した時に全開となるノーマリオープンタイプの電磁弁を用いても良いが、吸入調量弁7または吐出調量弁の弁開度がその電磁弁を通電した時に全開となるタイプの電磁弁を用いても良い。
【0068】
本実施例では、電流補正係数(電流値補正量:Ik<1.0)を算出した場合に、噴射時期補正量(α)を算出して、電流値補正および噴射時期補正を同時に実施したが、駆動信号の電流値を下げる補正を実施し、且つコモンレール圧(PC)が所定値以下の低圧の場合に、エンジン1の運転条件および目標噴射量(Q)に応じて設定された燃料噴射時期(T)を、コモンレール圧(PC)に対応した噴射時期補正量(α)分だけ進角方向へ進角させるようにしても良い。また、通常時と比べてインジェクタ(INJ)噴射パルス(駆動電流)の電流値を下げる補正を実施する場合には、第2駆動電流値よりも第1駆動電流値の方を通常時と比べて大きく下げるようにしても良い。また、第2駆動電流値は通常時と同じ電流値にしておき、第1駆動電流値のみを通常時と比べて下げるようにしても良い。この場合には、インジェクタ5の開弁状態を保持する保持力が低下することを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】コモンレール式燃料噴射システムの全体構成を示した概略図である(第1実施例)。
【図2】(a)〜(c)はインジェクタの作動状態を示した説明図である(第1実施例)。
【図3】インジェクタ噴射パルスの電流波形(例)を示したタイミングチャートである(第1実施例)。
【図4】インジェクタ噴射パルスの電流波形と噴射率波形を示したタイミングチャートである(第1実施例)。
【図5】インジェクタの噴射量制御方法を示したフローチャートである(第1実施例)。
【図6】電流値補正量算出方法を示したフローチャートである(第1実施例)。
【図7】噴射時期補正量算出方法を示したフローチャートである(第1実施例)。
【図8】 インジェクタの噴射量制御方法を示したフローチャートである(参考例)。
【図9】 電流値補正量算出方法を示したフローチャートである(参考例)。
【図10】エンジン回転数とコモンレール圧との関係を示したグラフである。
【図11】燃料温度とインジェクタ温度との関係を示したグラフである。
【符号の説明】
1 エンジン(内燃機関)
3 サプライポンプ(高圧供給ポンプ)
4 コモンレール
5 インジェクタ
6 燃料タンク
10 ECU(温度検出手段、通電状態補正手段)
12 電磁弁(アクチュエータ)
13 ノズルニードル
16 噴射孔
19 背圧制御室(圧力制御室)
24 ソレノイドコイル
25 弁体
26 リターンスプリング
27 燃料流路
37 リーク配管(燃料還流路)
44 燃料温度センサ(温度検出手段)
45 コモンレール圧センサ(圧力検出手段)
Claims (7)
- 高圧供給ポンプより加圧圧送された高圧燃料を蓄圧容器内に蓄圧すると共に、この蓄圧容器内に蓄圧された高圧燃料を内燃機関の各気筒毎に搭載されたインジェクタに分配供給し、前記インジェクタが通電されると前記インジェクタから前記内燃機関の各気筒へ高圧燃料を噴射供給する蓄圧式燃料噴射装置において、
(a)インジェクタ温度またはインジェクタリーク温度を検出または推定する温度検出手段と、
(b)この温度検出手段によって検出または推定された前記インジェクタ温度または前記インジェクタリーク温度が、所定値を越えた際に、通常時と比べて前記インジェクタの発熱量を抑制する側に前記インジェクタへの通電状態を補正する通電状態補正手段と
を備え、
前記通常時と比べて前記インジェクタの発熱量を抑制する側に前記インジェクタへの通電状態を補正するとは、前記通常時と比べて前記インジェクタに印加する駆動信号の電流値を下げる補正であり、
前記通電状態補正手段は、前記蓄圧容器内の圧力を検出する圧力検出手段を有し、
前記通常時と比べて前記駆動信号の電流値を下げる場合には、前記圧力検出手段によって検出された前記蓄圧容器内の圧力が低圧時の下げ方と比べて高圧時は大きく下げることを特徴とする蓄圧式燃料噴射装置。 - 請求項1に記載の蓄圧式燃料噴射装置において、
前記インジェクタは、噴射孔を開閉するノズルニードル、このノズルニードルの動作制御を行なう圧力制御室、この圧力制御室内の圧力を減少することで前記ノズルニードルを開弁方向に駆動するアクチュエータ、および前記ノズルニードルを閉弁方向に付勢する付勢手段を有していることを特徴とする蓄圧式燃料噴射装置。 - 請求項2に記載の蓄圧式燃料噴射装置において、
前記アクチュエータは、前記圧力制御室と燃料還流路との連通状態と遮断状態とを切り替える弁体、および前記駆動信号が印加されると前記弁体を吸引して前記圧力制御室と前記燃料還流路と連通させるソレノイドコイルを有し、
前記インジェクタからリークするリーク燃料が、前記インジェクタ内の各摺動部および前記圧力制御室から前記ソレノイドコイル周囲を通って外部に排出され、前記燃料還流路を経て燃料タンクに還流するように構成されていることを特徴とする蓄圧式燃料噴射装置。 - 請求項2または請求項3に記載の蓄圧式燃料噴射装置において、
前記内燃機関の運転条件に応じて目標噴射量を算出する噴射量算出手段と、
前記内燃機関の運転条件および前記噴射量算出手段によって設定された目標噴射量に応じて燃料噴射時期を算出する噴射時期算出手段と、
前記蓄圧容器内の圧力を検出する圧力検出手段と
を備え、
前記通電状態補正手段は、前記駆動信号の電流値を下げる補正を実施し、且つ前記圧力検出手段によって検出された前記蓄圧容器内の圧力が所定値以下の低圧の時には、前記噴射時期算出手段によって設定された燃料噴射時期を進角方向へ補正する噴射時期補正手段を有していることを特徴とする蓄圧式燃料噴射装置。 - 請求項2または請求項3に記載の蓄圧式燃料噴射装置において、
前記内燃機関の運転条件に応じて目標噴射量を算出する噴射量算出手段と、
前記内燃機関の運転条件および前記噴射量算出手段によって設定された目標噴射量に応じて燃料噴射時期を算出する噴射時期算出手段と
を備え、
前記通電状態補正手段は、前記駆動信号の電流値を下げる補正を実施した時には、前記噴射時期算出手段によって設定された燃料噴射時期を進角方向へ補正する噴射時期補正手段を有していることを特徴とする蓄圧式燃料噴射装置。 - 請求項3に記載の蓄圧式燃料噴射装置において、
前記駆動信号は、前記インジェクタに燃料噴射開始時期から噴射が終了するまで印加されるパルス状の駆動電流であり、
前記インジェクタに前記パルス状の駆動電流を印加する場合には、前記インジェクタを開弁する際に最高の電流値であるチャージ電流値にて前記ソレノイドコイルを通電し、その後に所定時間が経過するまでの間、前記チャージ電流値よりも低い第1駆動電流値にて前記ソレノイドコイルを通電し、前記所定時間経過後から前記インジェクタを閉弁するまでの間、前記第1駆動電流値よりも低い第2駆動電流値にて前記ソレノイドコイルを通電することを特徴とする蓄圧式燃料噴射装置。 - 請求項6に記載の蓄圧式燃料噴射装置において、
前記通常時と比べて前記パルス状の駆動電流の電流値を下げる場合には、前記第2駆動電流値よりも前記第1駆動電流値の方を前記通常時と比べて大きく下げることを特徴とする蓄圧式燃料噴射装置。
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