JP4141632B2 - 低電圧電池、それを用いた電子機器および電子制御式機械時計 - Google Patents

低電圧電池、それを用いた電子機器および電子制御式機械時計 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、低電圧電池、それを用いた電子機器および電子制御式機械時計に関する。
【0002】
【背景技術】
従来の電池は、マンガン乾電池が1.5V、酸化銀電池が1.6V、ニッカド電池が1.2V、リチウム電池が3.0Vといずれも1.0V以上の電圧を有している。また、これらの電池で駆動される電子機器側も、従来は、動作電圧として1.0V以上を必要としていた。
【0003】
一方、時計や携帯電話機、携帯型情報機器等の小型、携帯型の電子機器は、消費電力を低減し、持続時間を延ばすために、様々な改良が行われている。このような改良の一つとして、近年、電子機器に組み込まれる半導体として、SOI(Silicon On Insulator=絶縁層上シリコン薄膜)プロセスを用いて製造されたSOI−ICに代表されるように、0.5V程度の低電圧で動作するものも開発されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
このように電池で駆動される機器側の動作電圧は0.5V程度と低減されているのに対し、電池(一次電池や二次電池)側は、前記の通り、1.0V以上の電圧を有している。このため、電池の電圧を降圧して0.5Vの低電圧を作る必要があり、回路上複雑になるといった問題があった。
【0005】
また、1.0V以上の電池で駆動されるSOI−ICでは、耐電圧を確保するために、ゲート酸化膜の厚さを厚くしておかなければならず、スレショルド電圧(Vth)を下げられないという問題もあった。
【0006】
さらに、1.0V以上の高い電圧の電池は、寿命が短く、製造も難しいという問題があった。例えば、酸化銀電池は、電圧が高いとAgマイグレーションが電圧によって加速されるため、特殊な材料のセパレータを複数枚使用しなければならず、コストが高くなっていた。しかも、Agが一定量セパレータに吸収されると内部ショートをおこし、その時点で寿命が尽きるため、寿命が短かった。
【0007】
また、電解液として一般的なアルカリ電解液の耐漏液性能は、電圧が高くなると加速的に低減し、最高のシール技術をもってしても、例えば水酸化カリウム(KOH)電解液を用いた電池では、2.5年程度の漏液寿命しかないという問題があった。
さらに、シールを確実にするために、パッキン等のシール部材の寸法管理も厳しくする必要があり、製造が煩雑であった。
【0008】
本発明の目的は、回路を複雑にすることなく低電圧にでき、寿命も長く、製造も容易な低電圧電池と、この低電圧電池を備えた電子機器、電子制御式機械時計を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明の目的は、正極活物質と、負極活物質と、セパレータと、電解液とを備えて構成される電池において、前記正極活物質としてオキシ水酸化ニッケルまたは二酸化マンガンのいずれかを用い、前記負極活物質として銅を用い、電解液としてアルカリ系電解液を用いて前記電池の起電圧0.8V以下とることを特徴とするものである。
【0010】
本発明では、負極活物質として、水酸化基(アルカリ系電解液)との反応時の起電圧(単極電圧)が−0.29Vの銅を用いたので、同様の起電圧が−1.2V程度ある亜鉛などに比べて、各種の正極活物質、例えばオキシ水酸化ニッケル(単極電圧0.401V)、二酸化マンガン(単極電圧0.15V)等と組み合わせた際の電池電圧は約0.4V〜0.7V程度に押えることができる。
【0011】
従って、負極活物質として亜鉛を用いた電池(1.5V程度)に比べて、降圧回路等を設けずに電池の出力電圧を0.5V程度の低電圧とすることができ、回路を簡略化できる。さらに、本発明の低電圧電池でSOI−ICを駆動する場合には、ゲート酸化膜の厚さを薄くできるため、スレショルド電圧(Vth)を下げることができる。
さらに、電圧が低いため、例えば、正極活物質として酸化銀を用いてもAgマイグレーションが加速されることもなく、内部ショートも起こしにくくなり、寿命も長くすることができる。
また、アルカリ電解液の耐漏液性能も向上でき、漏液寿命もより延長することができるとともに、電池の製造も容易に行うことができる。
その上、電池の起電圧が低いと一般的に理論電気量が大きくなるので、電気容量を大きくすることができる。
【0012】
ここで、正極活物質としては、オキシ水酸化ニッケル(NiOOH)、二酸化マンガン(MnO2)のいずれかを用いることが好ましい。
オキシ水酸化ニッケルを用いた場合には、電池の起電圧を高くできる。また、二酸化マンガンを用いた場合には、安価に製造できる。
【0013】
ここで、前記銅は、粒状または網状に形成されていることが好ましい。粒状に形成する場合には、粒の大きさはさまざまな径を混在させることにより、充填率を上げるとともに、反応面積を増大させることができ、大電流にも対応できる。
【0014】
また、前記アルカリ系電解液には、酸化銅が溶解されていることが好ましい。水酸化カリウム水溶液(KOH)や、水酸化ナトリウム水溶液(NaOH)等からなるアルカリ系電解液に、酸化銅などを飽和状態あるいは飽和近くまで溶解しておけば、負極活物質である銅の電解液への溶解を押さえることができ、負極活物質の消耗を防止できて電池の寿命をより長くできる。
【0015】
本発明の電子機器は、前記低電圧電池と、この低電圧電池で駆動可能な集積回路とを備えることを特徴とするものである。
このような低電圧で駆動可能な集積回路としては、例えば、絶縁層上シリコン薄膜構造の集積回路(SOI−IC)等が利用できる。
【0016】
起電圧が0.8V以下の低電圧電池で駆動可能なSOI−IC等の集積回路を用いれば、低電圧電池の出力で十分に動作可能なため、低電圧、大電流化に適した回路構成の電子機器とすることができる。さらに、集積回路を駆動する際に、電気容量や、漏液性能、自己放電などの点で長期信頼性に優れている低電圧電池を利用できるので、長期間安定して駆動できる電子機器を構成できる。
【0017】
また、特に、SOI−ICは、最低動作電圧が0.4〜0.5V程度と低いため、低電圧電池が0.5V前後の起電圧でも、十分に動作可能にできる。従って、より低電圧、大電流化に適した回路構成の電子機器とすることができる。
【0018】
また、本発明の電子機器としては、前記低電圧電池からなる二次電池と、この二次電池を充電可能でかつ直列方向には1段のみに制限された太陽電池とを備えることを特徴とするものでもよい。
【0019】
このような本発明では、太陽電池が1段のみであるため、限られたスペースであってもソーラーセルの面積を大きくでき、発電電流量を大きくすることができる。また、1段のソーラーセルの起電圧は0.6〜0.7V程度であり、水の電気分解電圧の1.2Vに比べてはるかに低いため、アルカリ電解液を用いた低電圧電池に充電する場合でも、過充電保護回路を不要にでき、回路構成を簡略化できる。
【0020】
さらに、この電子回路には、前記低電圧電池で駆動可能な集積回路を備えることが好ましい。この集積回路は、絶縁層上シリコン薄膜構造の集積回路であることがより好ましい。
【0021】
1段の太陽電池と、低電圧電池からなる二次電池と、この低電圧電池で駆動可能なSOI−IC等の集積回路とを組み合わせた電子機器は、発電、充電、駆動時の電圧をすべて低い電圧で行えるため、過充電保護回路や降圧回路等を不要にでき、コンパクトでかつ、低電圧、大電流化に適した回路構成の電子機器とすることができる。このため、消費電力も小さくでき、携帯用の小型の電子機器であっても持続時間を延長することができる。その上、二次電池は、一般に充電電圧が高いと漏液特性が悪くなるが、本発明では、低電圧電池を用いており、その電圧も0.8V以下の低電圧で使用されるため、漏液特性を格段に向上でき、電気容量に優れ、自己放電も少なく、長期間利用可能な電子機器にできる。
【0022】
本発明の電子制御式機械時計は、機械的エネルギ貯蔵手段と、前記機械的エネルギ貯蔵手段によって駆動される時刻表示装置と、この時刻表示装置を調速する調速機と、この調速機を制御する調速制御手段と、この調速制御手段を駆動する前記低電圧電池と、を備えることを特徴とするものである。
この際、前記調速制御手段は、絶縁層上シリコン薄膜構造の集積回路(SOI−IC)で構成されていることが好ましい。
【0023】
このような電子制御式機械時計によれば、調速制御手段は調速機の制御のみを行っているので、SOI−IC等の低電圧で駆動可能な集積回路を利用でき、本発明の低電圧電池で十分に駆動できる。また、調速機は、調速のみを行えばよく、発電を行う必要がないため、コイル巻数も少なくでき、小型でかつ安価にできる。さらに、機械的エネルギ貯蔵手段から供給されるエネルギは、指針の駆動に利用され、発電に用いる必要がないため、省エネルギ化が図れ、駆動の長寿命化を実現できる。
【0024】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明を適用した電子機器である電子制御式機械時計1の概要を示すブロック図である。また、図2には、その要部を示す斜視図である。
【0025】
電子制御式機械時計1は、機械的エネルギ入力手段2、機械的エネルギ貯蔵手段3、増速輪列5、指針10、調速機20、調速制御手段30、低電圧電池50を備えて構成されている。
【0026】
機械的エネルギ貯蔵手段3は、ゼンマイ、ゴム、スプリング、重錘のいずれかであり、機械的エネルギを蓄えることができるもので構成されている。本実施形態では、図2に示す香箱車3a内に配置されたゼンマイで構成されている。
また、機械的エネルギ入力手段2は、この機械的エネルギ貯蔵手段3に機械的エネルギを入力するものであり、手巻き、位置エネルギ、気圧変化、風力、波力、水力、温度差等を利用したもので構成されている。本実施形態では、図示しない手巻き機構によって構成されている。
【0027】
ゼンマイの機械的エネルギは、香箱車3aの香箱歯車3bを介して、二番車6、三番車7、四番車8、五番車9からなる増速輪列5に伝達され、さらに調速機20のロータ21へ伝達される。ここで、二番車6には分針11が、四番車8には秒針12が、図示しない筒車には時針がそれぞれ固定され、これらの時針、分針11、秒針12で針表示によって時刻を指示する時刻表示装置としての指針10が構成されている。
【0028】
調速機20は、永久磁石を有するロータ21、ステータ(コア、磁心)22、コイル23を備えている。ステータ22は、同一形状の一対のコ字型ステータとされ、その磁心部分の外周に同一巻回数のコイル23を巻線し、両コイル23間は直列接続されている。
ステータ22の一端部には、半円状のステータ孔が形成され、ロータ21が配置されている。また、ステータ22の他端部は、その側端面が互いに密着されているとともに、各他端部に跨って連結板24が密着固定されている。
【0029】
なお、本実施形態では、調速機20は、発電機と同様の構成であるが、発電する必要がないため、コイル23の巻数は非常に少なくされている。具体的には、調速制御手段30を駆動する電力を発電機で発電する場合、コイルを6万巻きしなければならなかったが、本実施形態の場合には、コイルを2万巻き程度すればよい。この際、発電機では、巻数が6万にもなると厚くなるため、線径の細い(例えば13μm)のコイルを利用していたが、2万程度でよい調速機20の場合には、一般的な線径(20μm)のコイルを利用できる。
【0030】
調速制御手段30は、発振回路31、調速機20の速度検出回路32、調速機20の調速回路33を備えて構成され、SOI−ICで実現されている。
SOI−ICは、SOI(Silicon On Insulator=絶縁層上シリコン薄膜)プロセスを用いて製造されたICであり、例えば、DT−MOS(Dynamic Threshold Metal Oxide Semiconductor)型のIC等が知られている。
【0031】
より具体的には、図3(A)に示す回路および図3(B)に示す構造のDT−MOS型のIC121を用いている。
ここで、図3(A)の回路は、P型のDT−MOS型IC(トランジスタ)121Aと、N型のDT−MOS型IC(トランジスタ)121Bとを直列に接続し、共通接続したゲートと拡散層をそれぞれ入力端子、出力端子とした回路(インバータ)である。
【0032】
DT−MOS型IC121は、図3(B)に示すNチャンネル(N型)のDT−MOS型IC(トランジスタ)121Bを例に説明すると、シリコン基板122上に、SiO2からなる絶縁層123を設け、さらにP型半導体からなるボディ(基板)124、N型半導体からなるソース125、ドレイン126を絶縁層123上に配置し、ボディ124上にSiO2からなるゲート絶縁層127を介してゲート電極128を配置して構成されたものである。この際、一般的には、ボディ124とゲート電極128とは同電位にされている。
【0033】
このDT−MOS型IC121は、図3(A)に示すように、ボディ124とゲート電極128とを接続して同電位に制御しているため、スレショルド電圧(Vth)の制御が可能であり、トランジスタのOFF時にはVthを高く、ON時にはVthを低くすることができ、OFF時のリークを最小にできる利点がある。
但し、その構造上、電源電圧VDDが約0.7V(Vf:寄生ダイオード121Cの順方向電圧)よりも大きくなると、トランジスタの入力と出力とが寄生ダイオード121Cを介してショートするため、電源電圧が0.7Vを越えないようにして使用しなければならない制約がある。
【0034】
発振回路31は時間標準源である水晶振動子(図示せず)を用いて発振信号を出力し、この発振信号は適宜分周されて基準信号として調速回路33に入力される。
速度検出回路32は、調速機20の出力などに基づいてその回転を検出することなどで速度を検出し、速度検出信号を出力する。
【0035】
調速回路33は、速度検出回路32の速度検出信号および発振回路31からの基準信号を比較し、その差に応じて調速機20の速度を調整する信号を調速機20に出力している。この信号によって調速機20の調速機構が動作し、調速機20は基準信号に同期するように調速される。
【0036】
なお、調速機20の調速方法は、例えば、調速機20の各端子間を閉ループさせてショートブレーキを掛けてブレーキ制御したり、調速機20に可変抵抗等を接続して調速機20のコイルに流れる電流値を変えることでブレーキ制御するように構成されている。
【0037】
そして、調速機20が一定速度に調速されることで、調速機20(ロータ21)の回転に連動する増速輪列5に取り付けられた指針10が決められた速度で駆動され、時刻を表示するようにされている。
【0038】
この調速制御手段30を駆動している低電圧電池50は、図4に示すような構造で構成されている。
すなわち、本実施形態の電子制御式機械時計1は、腕時計として用いられるため、低電圧電池50もボタン形に形成されている。
【0039】
具体的には、低電圧電池50は、正極缶(正極ケース)51、正極リング52、負極キャップ(封口板)53、ガスケット54、セパレータ55、正極活物質56、負極活物質57およびアルカリ電解液を備えて構成されている。
【0040】
正極缶51は、鉄系材料で構成され、外表面には電気接触抵抗を下げるためにニッケルメッキが施されている。この正極缶51は、有底円筒状に形成され、開口側は他の部材を配置後にかしめること等で他の部材を保持している。また、その内周面側には、正極リング52が配置されている。
【0041】
負極キャップ53は、鉄系材料で構成され、内面側には負極キャップ53の缶材質である鉄との局部電池を避けるために、金箔クラッド構造(金箔との2層構造)とされている。クラッド構造としたのは、メッキではピンホールが有るために局部電池化に効果が無いからである。
また、負極キャップ53の外表面には、正極缶51と同様に、電気接触抵抗を下げるためにニッケルメッキ(クラッド材でも可)が施されている。
【0042】
セパレータ55は、セロファン系高分子セパレータや、耐アルカリ製不織布セパレータからなり、正極リング52の表面に貼られている。なお、セパレータ55の種類は、後述するように、使用する正極活物質56によって適宜選択される。
【0043】
アルカリ電解液は、セパレータ55やセパレータ55に隣接して配置される含浸材に含浸されて配置されている。
電解液は、数十%濃度(例えば35%前後)の水酸化カリウム水溶液(KOH)や、水酸化ナトリウム水溶液(NaOH)が利用される。水酸化カリウム水溶液は大電流用途に利用され、水酸化ナトリウム水溶液は小電流用で長期信頼性の要求される用途に利用される。
また、負極活物質57である銅の電解液への溶解を押さえるために、酸化銅を電解液に飽和近くまで溶解してある。
【0044】
負極活物質57は、銅で構成されている。この銅は、粒状または網状とされている。本実施形態では、粒状に形成されており、粒の大きさは様々な径を混在させることで、充填率を上げると共に、反応面積を増し、大電流にも対応できるように構成されている。なお、シート電池や薄型コイン型電池の場合には、製造効率の点でメッシュ状に形成するほうが好ましい。
また、銅の自己酸化を押さえるために、酸化抑制剤が混入されている。
【0045】
正極活物質56は、酸化銀(Ag2O)、オキシ水酸化ニッケル(NiOOH)、二酸化マンガン(MnO2)のいずれかが用いられている。これらの各正極活物質56には、導電性向上のため、炭素Cが数%混練されている。
なお、酸化銀が用いられた場合、Agマイグレーションの銀(Ag)をトラップするために、セロファン系高分子セパレータが用いられる。一方、二酸化マンガンやオキシ水酸化ニッケルの場合には、セロファン系高分子セパレータを用いてもよいが、耐アルカリ製不織布セパレータも利用できる。また、各セパレータ55は、1枚あるいは数枚を重ねて使用している。
【0046】
ガスケット(パッキン)54は、正極缶51と負極キャップ53とを絶縁すると共に、内部の活物質や電解液が漏れないようにシールしている。このガスケット54の材質は、適宜選択できるが、例えば、耐クリープ性能のよい、ナイロン66等を使用している。また、耐漏液性向上のため、ピッチ、タール等の液体シール剤も使用している。
【0047】
このような構成の低電圧電池50は、各正極活物質56の種類により、次のような反応式でそれぞれ電池として成立している。
まず、正極活物質56として酸化銀を用いた場合の正極および負極の各反応式は、次の数1、数2のようになる。
【0048】
【数1】
正極 Ag2O+H2O+2e- → 2Ag+2OH-
【0049】
【数2】
負極 Cu+2OH- → CuO+H2O+2e-
【0050】
また、正極活物質56としてオキシ水酸化ニッケルを用いた場合の正極および負極の各反応式は、次の数3、数4のようになる。
【0051】
【数3】
正極 NiOOH+H2O+e- → Ni(OH)2+OH-
【0052】
【数4】
負極 Cu+2OH- → CuO+H2O+2e-
【0053】
さらに、正極活物質56として二酸化マンガンを用いた場合の正極および負極の各反応式は、次の数5、数6のようになる。
【0054】
【数5】
正極 MnO2+H2O+e- → MnOOH+OH-
【0055】
【数6】
負極 Cu+2OH- → CuO+H2O+2e-
【0056】
ここで、数1の反応式の単極電位(電極電位)は0.34Vであり、数2の単極電位は−0.29Vである。このため、酸化銀(正極)と銅(負極)を用いた電池50の起電圧は、0.34V−(−0.29V)=0.63Vとなる。
同様に、数3の単極電位は0.401Vであり、数4の単極電位は−0.29Vである。このため、オキシ水酸化ニッケル(正極)と銅(負極)を用いた電池50の起電圧は、0.69Vとなる。
さらに、数5の単極電位は0.15Vであり、数6の単極電位は−0.29Vである。このため、二酸化マンガン(正極)と銅(負極)を用いた電池50の起電圧は、0.44Vとなる。
【0057】
このような本実施形態においては、指針10は、機械的エネルギ貯蔵手段3であるゼンマイから増速輪列5を介して伝達される機械的エネルギで駆動される。また、この機械的エネルギは、増速輪列5を介して調速機20のロータ21に伝達され、このロータ21の回転速度を調速制御手段30で制御して一定速度にすることで、指針10も一定速度で駆動される。
【0058】
このような本実施形態によれば、次のような効果が得られる。
(1) 低電圧電池50は、負極活物質57に銅を用いたので、起電圧を0.44〜0.69V、つまり0.8V以下と非常に低くすることができる。
このため、電池50のリーク電流を少なくでき、自己放電特性も向上することができる。また、一般に電池の起電圧が低くなると、理論電気量は増えるため、電気容量の大きな電池にすることができる。
【0059】
(2) アルカリ電解液は、一般に電圧が高いとマイナス電位に引っ張られるクリープ特性を持っているが、本実施形態では、電池50の電圧が低いため、クリープ特性が弱くなり、漏液特性も非常に向上できる。
このため、パッキン等のシール部材の寸法管理もそれほど厳しくする必要がなく、容易に製造することができる。
【0060】
(3) 電圧が低いため、例えば、正極活物質56として酸化銀を用いてもAgマイグレーションが加速されることもなく、内部ショートも起こしにくくなり、寿命も長くすることができる。また、Agマイグレーションが起こりにくいため、セパレータ55の寿命も長くすることができる。
さらに、セパレータ55を薄くできるため、高価なセロファン系高分子セパレータの使用枚数を少なくでき、その分、安価に提供できる。
【0061】
(4) 電池50の電圧が低いため、SOI−ICで構成された調速制御手段30のように、0.5V程度の低電圧で作動される集積回路を駆動する際に、電池の電圧を下げる降圧回路等を設ける必要がなく、回路を簡略化できる。従って、製造コストも低減できる。
【0062】
(5) さらに、調速制御手段30を構成するSOI−ICのゲート酸化膜の厚さを、例えば、リチウム電池等からなる2.1V電源を使用する場合に比べて、1/3の厚さにすることができる。これにより、スレショルド電圧(Vth)を下げることができ、スイッチング速度を早くできたり、動作電圧を低減することができ、より一層の低消費電力化を実現できる。
その上、前記実施形態では、SOIプロセスで製造されたICとして、DT−MOS型IC121を用いたので、スレショルド電圧(Vth)を制御でき、ON時(ゲート電圧印加時)にバックゲート効果で動作電圧Vthを最も低くできる。また、トランジスタのOFF時にはVthを高くでき、OFF時のリークを最小にできる。従って、DT−MOS型IC121を用いれば高速動作に最適な構成にできる。また、ボディ124への電荷蓄積も防止できる。
【0063】
(6) 本実施形態の電子制御式機械時計1では、調速機20のコイル巻き数を大幅に低減できるため、小型で安価にでき、かつゼンマイによる駆動を長寿命化でき、さらに、電子制御による高精度の時計1にすることができる。
すなわち、発電機の場合、コイル巻数が多いために、線径の細い高価なコイルを用いる必要があるが、発電しない調速機20では、一般的な安価なコイルを利用でき、電子制御式機械時計1を小型でかつ安価に構成できる。しかも、発電や整流機能が不要なため、シンプルな回路構成にでき、ICサイズや回路基板の小型化も可能であり、この点でも時計1をより一層小型、薄型化できる。
【0064】
(7) また、負極活物質57の銅を、粒状に形成したので、様々な大きさの粒を混在させて充填率を上げることができ、かつ反応面積を増大させることができる。このため、大電流にも十分に対応できる。
【0065】
(8) 起電圧が0.8V以下の低電圧電池50と、この低電圧電池50で駆動可能なSOI−IC等の集積回路とを組み合わせたので、低電圧、大電流化に適した回路構成の電子機器(電子制御式機械時計1)とすることができる。さらに、集積回路を駆動する際に、電気容量や、漏液性能、自己放電などの点で長期信頼性に優れている低電圧電池50を利用したので、長期間安定して駆動できる電子機器を構成することができる。
【0066】
(9) 機械的エネルギ貯蔵手段3であるゼンマイで発電する必要が無いため、ゼンマイの持続時間を延長することができ、長期間持続可能な時計1にすることができる。また、従来と同じ持続時間でよい場合には、必要となる機械的エネルギを削減できるため、ゼンマイつまりは時計1を小型、薄型化できる。
【0067】
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、電池のパッケージとしては、ボタン型に限らず、シリンダー型(円筒型)、扁平型(コイン型)、シート型、細型(ピン型)、角型など、用途に応じて自由に構成可能である。
【0068】
また、電池50の正極活物質56、セパレータ55、アルカリ電解液、ガスケット54、負極キャップ53、正極缶51等の具体的な材質は、前記実施形態で例示したものに限らない。特に、正極活物質56は、銅からなる負極活物質57と組み合わせた際に、起電圧が0.8V以下になるものであればよく、実施にあたって適宜選択すればよい。
【0069】
また、調速制御手段30を構成するICとしては、DT−MOS型IC121に限らず、図5に示すような他のSOIプロセスのICを用いてもよい。例えば、図5(A)に示すようなボディ124がゲート電極128と同電位とはされておらず、浮いているフローティングボディ(Floating−Body)タイプのIC181を用いてもよい。このIC181は、構造が簡単なために製造(プロセス)を簡単にでき、寄生容量も最小にできる。さらに、既存ライブラリの使用も可能である。但し、ボディ124に電荷が蓄積されてしまうデメリットもある。
【0070】
また、ICとしては、図5(B)に示すボディ124とソース125とが同電位のソースタイ(Source−Tie )タイプのIC182を用いてもよい。このIC182は、ボディ124のコントロールはしない。また、構造は従来のMOSトランジスタと同様だが、素子を絶縁層で分離しているので、従来のMOSトランジスタよりもスレショルド電圧を下げることができる。
さらに、ICとしては、図5(C)に示すボディ124に任意のバイアスを加えたボディ固定タイプのIC183を用いてもよい。このIC183は、すべてのボディ124を同時にコントロールする必要がある。また、既存ライブラリも使用可能である。
【0071】
さらに、ICとしては、SOI構造のものに限らず、通常のシリコン基板上にN型半導体やP型半導体を構成する構造のものを用いてもよい。但し、SOI構造のほうがより低電圧で駆動できる点で有利である。
【0072】
さらに、前記実施形態では、低電圧電池50は1次電池として利用していたが、別途、発電機構を設け、この発電機構で充電される2次電池として利用してもよい。
この際、発電機構としては、前記調速機20のコイル巻数を増やして発電機として兼用することで構成してもよいが、例えば、図6に示すように、1段のソーラーセル(太陽電池)80を用いることが好ましい。ソーラーセル80としては、単結晶シリコン、多結晶シリコン、アモルファスシリコン等のシリコン系の太陽電池を利用してもよいし、化合物半導体太陽電池を利用してもよい。特に、屋内で利用する場合には、アモルファスシリコン太陽電池や化合物半導体太陽電池が好ましく、屋外で利用する場合には、単結晶シリコン太陽電池や多結晶シリコン太陽電池が好ましい。
【0073】
1段のソーラーセル80は、起電圧は0.7V程度であり、水の電気分解電圧(1.2V)よりもはるかに低いため、本発明の低電圧電池50を充電する場合に、過充電保護回路を不要にでき、回路構成が簡易になってコストを削減できる点で適している。
なお、ソーラーセル80の充電回路における整流回路としては、通常のダイオード整流回路では、降下電圧ΔVが比較的小さいショットキーバリアダイオードでも0.3V程度あり、ソーラーセル80の起電圧(0.7V程度)に比べて大きいため、図6に示すように、トランジスタ(FET、電界効果型トランジスタ)81と、コンパレータ82とを用いたトランジスタ・コンパレータ整流回路を用いることが好ましい。なお、図6において、符号83は、トランジスタ81の寄生ダイオードである。
【0074】
また、発電機構としては、太陽電池に限らず、浮遊電波を電気エネルギに変換する浮遊電波発電装置や、温度差を電気エネルギに変換する熱発電素子、さらには回転錘等の機械的エネルギを電気エネルギに変換する発電装置、圧電素子等の各種発電装置を利用してもよい。
【0075】
また、前記実施形態では、機械的エネルギ貯蔵手段3として、ゼンマイを用いていたが、ゴム、重錘、スプリング(バネ)等の他の機械的エネルギ貯蔵手段を用いてもよい。
さらに、機械的エネルギ入力手段としても、手巻きによる入力に限らず、位置エネルギを利用したものや、気圧変化を利用したもの、さらには風力、波力、水力、温度差などを利用したものでもよく、これらは実施にあたって適宜設定すればよい。
【0076】
また、本発明の電子機器としては、前記電子制御式機械時計1に限らない。要するに、表示機能やモータ駆動機能がなく、制御機能のみのために低電圧で駆動可能な集積回路を備える各種の電子機器に利用できる。なお、電子機器自体に、表示機能やモータ駆動機能がある場合でも、それらの駆動用の集積回路が、制御用の集積回路と別に設けられていれば、本発明の低電圧電池50で制御用の集積回路を駆動し、他の電源で駆動用の集積回路を駆動することもできるため、本発明を適用することができる。
【0077】
従って、本発明の電子機器としては、アナログ時計やデジタル時計等でもよく、さらに、腕時計以外の置き時計、クロック等の各種時計に組み込んでもよい。また、本発明は、時計以外の携帯電話機、ページャ、電卓、携帯用パーソナルコンピュータ、携帯ラジオ、歩数計、ひげ剃り、携帯型血圧計、電子手帳、PDA(小型情報端末、「Personal Digital Assistant」)、玩具、ICカード、自動車や家屋用のキー等の各種の電子機器に適用できる。特に、本発明では、低電圧、大電流によって省エネルギ化が図れ、携帯用に小型化された各種電子機器に最適である。
さらに、本発明は、携帯用でない電子機器にも当然適用することができ、屋外等の商用電源からの電力を確保できない場所に設置される時計等の各種電子機器に適用できる。
【0078】
【発明の効果】
以上に述べたように、本発明の低電圧電池、電子機器、電子制御式機械時計によれば、回路を複雑にすることなく低電圧にでき、寿命も長く、容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態における電子制御式機械時計の構成を示すブロック図である。
【図2】本実施形態の電子制御式機械時計の要部を示す概略斜視図である。
【図3】図3(A)は本実施形態の絶縁層上シリコン薄膜(SOI)構造のトランジスタを用いた電子回路を示す回路図であり、図3(B)は絶縁層上シリコン薄膜構造の集積回路の構成を示す図である。
【図4】本実施形態の低電圧電池の構成を示す断面図である。
【図5】本発明における絶縁層上シリコン薄膜(SOI)構造の集積回路の変形例を示す回路図である。
【図6】本発明の変形例におけるソーラーセルと低電圧二次電池とを組み合わせた回路を示す回路図である。
【符号の説明】
1 電子制御式機械時計
2 機械的エネルギ入力手段
3 機械的エネルギ貯蔵手段
3a 香箱車
3b 香箱歯車
5 増速輪列
10 指針
11 分針
12 秒針
20 調速機
21 ロータ
22 ステータ
23 コイル
30 調速制御手段
31 発振回路
32 速度検出回路
33 調速回路
50 低電圧電池
51 正極缶
52 正極リング
53 負極キャップ
54 ガスケット
55 セパレータ
56 正極活物質
57 負極活物質
80 ソーラーセル
81 トランジスタ
82 コンパレータ
83 寄生ダイオード
121 DT−MOS型IC
121C 寄生ダイオード
122 シリコン基板
123 絶縁層
124 ボディ
125 ソース
126 ドレイン
127 ゲート絶縁層
128 ゲート電極

Claims (9)

  1. 正極活物質と、負極活物質と、セパレータと、電解液とを備えて構成される電池において、
    前記正極活物質としてオキシ水酸化ニッケルまたは二酸化マンガンのいずれかを用い、前記負極活物質として銅を用い、電解液としてアルカリ系電解液を用いて前記電池の起電圧を0.8V以下とることを特徴とする低電圧電池。
  2. 請求項1記載に記載の低電圧電池において、
    前記銅は、粒状または網状に形成されていることを特徴とする低電圧電池。
  3. 請求項項1または請求項2に記載の低電圧電池において、
    前記アルカリ系電解液には、酸化銅が溶解されていることを特徴とする低電圧電池。
  4. 請求項1〜3のいずれかに記載の低電圧電池と、該低電圧電池で駆動可能な集積回路とを備えることを特徴とする電子機器。
  5. 請求項1〜3のいずれかに記載の低電圧電池からなる二次電池と、該二次電池を充電可能でかつ直列方向に1段のみに制限された太陽電池とを備えることを特徴とする電子機器。
  6. 請求項5記載の電子機器において、
    前記低電圧電池で駆動可能な集積回路を備えることを特徴とする電子機器。
  7. 請求項4または請求項6に記載の電子機器において、
    前記集積回路は、絶縁層上シリコン薄膜構造の集積回路であることを特徴とする電子機器。
  8. 機械的エネルギ貯蔵手段と、前記機械的エネルギ貯蔵手段によって駆動される時刻表示装置と、前記時刻表示装置を調速する調速機と、前記調速機を制御する調速制御装置と、前記調速制御手段を駆動する請求項1〜3のいずれかに記載の低電圧電池と、を備えることを特徴とする電子制御式機械時計。
  9. 請求項8記載の電子制御式機械時計において、
    前記調速制御手段は、絶縁層上シリコン薄膜構造の集積回路で構成されていることを特徴とする電子制御式機械時計。
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