JP4140786B2 - バルブガイド - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、焼結合金製のエンジン用バルブガイドに係り、特に、耐摩耗性に優れ、しかもバルブステムのスカッフィングの発生を防止することができるバルブガイドに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、自動車などのエンジンのバルブガイドとしては、焼結合金で製造されたものが多く提供されている。このバルブガイドには、耐摩耗性を付与するため何らかの硬質相が含まれており、例えば、本出願人が特公昭55−34858号公報や特公平1−52463号公報等で開示したバルブガイドでは、硬質相としてFe−P−C共晶化合物(ステダイト)を含んでいる。このような焼結合金製のバルブガイドは、圧粉体を焼結した後、エンジンのシリンダヘッドに圧入し、次いでリーマ加工によって内径の仕上げを行って完成される。このバルブガイドには、エンジンに設けられた給油装置から潤滑油が供給され、潤滑油はバルブガイド内部の気孔を通ってバルブステムとの摺動面に浸み出す。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、バルブガイドの摺接面に浸み出す潤滑油の量が少ないと、バルブステムの表面が焼き付くスカッフィングと呼ばれる現象が生じる。一方、バルブガイドの内部を潤滑油が通り易いと、潤滑油が負圧によってエンジン内に漏れ出して排気ガスに白煙が含まれるようになる。したがって、バルブガイドには、適度な量の潤滑油を通過させる性質が要求される。さらに、バルブガイドには耐摩耗性は勿論のこと、被削性も重要な性能の一つとして要求されるが、焼結合金製のバルブガイドは上述のように硬質相を分散させているため加工しにくくなっている。このため、本出願人は、上述の特公昭55−34858号公報のバルブガイドの耐摩耗性を維持したまま被削性を改善した特開平4−57140号公報のバルブガイド等を提案してきたが、なお一層の被削性の改善が望まれている。
このように、バルブガイドには種々の性能が高いレベルで求められており、本発明はそのような要求に充分応えることができるバルブガイドおよびその製造方法を提供することを目的としている。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、バルブステムのスカッフィングが生じる原因について検討した結果、バルブガイドの内周面を機械加工する際に、内周面に露出している気孔が閉塞されることが要因であることを見い出した。そこで、機械加工後の内周面に露出している気孔とスカッフィングの発生状況との関係を調査したところ、まず、気孔径の大きさが所定以上必要であることが判った。これは、内周面に露出している気孔であっても気孔径が小さいと、内部の気孔と連通していないことが多く、また、機械加工により閉塞され易いからである。ただし、ここで言う気孔径とは、測定した気孔の面積を同じ面積の真円に置き換えたときの円の直径をいう。また、気孔径の大きな気孔であってもバルブガイドの内周面に偏在していたのでは、内周面に潤滑されない部分が生じる。さらに、気孔の内周面における面積率は、内周面に充分な潤滑油を供給するための重要なファクターである。
【0005】
本発明のバルブガイドは、このような知見から各種実験を行った結果に基づいてなされたもので、バルブステムと摺接する内周面に機械加工による仕上げを行った焼結合金からなるバルブガイドであって、機械加工後の内周面に露出している気孔の面積率を2.7〜10.7%とし、内周面の1mm2当たりに気孔径が80μm以上の気孔を1個以上露出させたことを特徴としている。以下、上記数値限定の根拠について本発明の作用とともに説明する。
【0006】
本発明者等の実験によれば、機械加工後の内周面に露出している気孔の面積率が3.0%の場合にはバルブステムにスカッフィングが発生せず、面積率が2.5%のときにスカッフィングが発生した。スカッフィングが発生するか否かの臨界条件は、これら2つの数値の平均値付近に存すると推認することができるので面積率の下限値を2.7%とした。なお、より確実にスカッフィングを防止するためには、面積率を3.0%以上にすることが好ましく、4.0%以上にするとさらに良好な結果を得ることができる。
【0007】
また、本発明者等は、面積率と潤滑油の漏出の関係を調査した。この調査ではバルブガイドの一端部を真空タンクから突出させ、突出した端部に潤滑油を供給するとともに、真空タンクをエンジンの吸気時と同等の負圧に減圧し、真空タンク内に潤滑油が漏出するか否かを観察した。実験によれば、面積率が11.4%の場合に潤滑油の漏出が発生し、面積率が10.0%の場合に漏出は生じなかった。そこで、面積率の上限値としてこれら2つの数値の平均値である10.7%を設定した。なお、潤滑油の漏出をより確実に防止するためには、面積率を10.0%以下にすることが望ましい。
よって、以上の知見により、本発明では、内周面に露出している気孔の面積率を2.7〜10.0%、3.0〜10.0%、4.0〜10.0%、3.0〜10.7%、4.0〜10.7%のいずれかの範囲にすることもできる。
【0008】
また、本発明者等は、気孔径と気孔の分布について検討したところ、面積率が本発明の範囲内であっても、気孔径が80μm以上の気孔が少なくとも1mm2当たりに1個存在していない場合には、スカッフィングが発生することも見い出した。よって、本発明では、上記数値限定の範囲を設定した。
なお、気孔の個数と気孔径は、本発明の面積率を10.7%(好ましい上限値は10.0%)以下としていることから自ずから制限される。また、内周面の機械加工の手段としては、エンドミル、ドリル、グラインダ、バニッシャなどを用いることができるが、簡便で精度が高いことを考慮するとリーマが最も適している。
【0009】
本発明のバルブガイドの成分組成は、重量比でCu:1.0〜10.0%、C:0.6〜1.2%、残部がFeおよび不可避不純物からなり、基地組織が主としてパーライトまたはパーライトとベイナイトの混合組織であって、ステダイトを含まない焼結合金で構成する。また、上記成分にNi:3%以下を加えることができる。ここで、基地組織は、全てパーライトまたはパーライトとベイナイトの混合組織で構成するが、一部にフェライトやマルテンサイトが含まれていても良い。また、Niを含有するか否かは任意であり、含有しない場合にはFe−Cu−C系焼結合金、含有する場合にはFe−Cu−Ni−C系焼結合金となる。
本発明のバルブガイドでは、内周面が潤滑油によって適度に潤滑されるので、ステダイト(Fe−P−C共晶化合物)のような硬質成分を含有していなくても耐摩耗性を向上させることができる。そして、基地組織が主としてパーライト、またはパーライトとベイナイトの混合組織であって硬質成分が含まれていないため、被削性も向上させることができる。以下、上記成分組成の数値限定の根拠について説明する。
【0010】
Cu:焼結合金の基地を強化するために添加される元素であり、1.0%を下回ると必要な圧環強さが得られなくなる。一方、10.0%を越えて含有すると、基地中に固溶しきれないCuの残留が多くなるため、かえって強度が低下する。また、マルテンサイトが基地中に分散するようになり、被削性の低下も生じる。
C:焼結合金にパーライトを形成することにより、基地の強化と耐摩耗性を向上させるために添加される元素である。ただし、含有量が0.6%を下回るとパーライトの量が乏しく、かかる効果が期待できなくなる一方、1.2%を越えて含有すると、結晶粒界に脆いセメンタイトが網目状に析出し、強度および被削性の低下を来す。
Ni:焼結合金の基地に拡散して基地硬さを向上させ、基地を強化するために添加する元素であり、基地を強化することによって、内周面の機械加工を行う際の基地の塑性流動を少なくして気孔を内周面に残留させることができる。ただし、3.0%を越えて含有すると、基地の一部が硬いマルテンサイトに変態するため被削性が低下するとともに、相手部品であるバルブの摩耗を早めたりする。また、Niの拡散の遅い部分はオーステナイトとして残留するが、残留オーステナイトを切削加工すると工具刃先に構成刃先が生じ易く、これも被削性低下の一因となる。
【0011】
次に、本発明では、上記成分に加え、重量比でBN(六方晶窒化ほう素):0.01〜0.5%およびMgSiO3(例えばエンスタタイト):0.05〜1.0%の少なくとも一方を含有することも可能である。これら添加成分は固体潤滑剤として作用するとともに、機械加工で生成する切粉を分断し易くして被削性をさらに向上させること(チップブレーカ作用)ができる。また、被削性が向上することにより、内周面を機械加工する際の工具が基地に与える負荷が小さくなり、基地の塑性流動を小さく抑えることができる。上記数値限定の下限値は、かかる効果を発揮するために最小限必要とする含有量である。また、過度に含有すると焼結の進行を阻害して基地の強度が低下するので上記上限値を設定した。
なお、BNを添加するに際しては、Fe粉末にBNを固着させた複合粉末(特開平3−79701号等)を用いると、BNが均一に分散するのでより効果的である。
さらに、焼結を促進し基地を強化する元素として、Pを0.2重量%以下添加することもできる。0.2重量%以下としたのは、これを越えて添加するとステダイトが析出して被削性が低下するからである。
なお、本発明のバルブガイドにおいて、気孔の面積率と所定の気孔径の気孔の数を上述した範囲に設定する手段は任意である。たとえば、機械加工の切削条件を適宜選定することによっても可能であり、その際には、Niを3重量%以下添加することにより、機械加工による素地の塑性流動が防止されて面積率を高めることができる。また、下記のように、粗い粉末を用いることによっても本発明のバルブガイドを製造することができる。以下、本発明のバルブガイドの好ましい製造方法の例について説明する。
【0012】
従来のバルブガイドの製造に際して用いるFe粉の粒度分布は、重量比で105〜177μm未満が約20%、44〜105μm未満が約55%、44μm未満が約25%程度となっていた。従来のバルブガイドはこのようなFe粉で製造されていたため、加工後の内周面に露出している気孔の量が不十分となり、摺接面の潤滑が不充分でスカッフィングが生じ易くなっていた。
本発明者等は、Fe粉末の粒度分布とスカッフィングの発生との関係を調査した結果、潤滑油を摺接面に適度に供給することができる関係を見い出した。本発明のバルブガイドの好ましい製造方法の例は、そのような知見に基づいてなされたもので、粒径が74〜250μmのFe粉末を85重量%以上含む粉末を成形後に焼結し、内周面を機械加工することを特徴としている。
【0013】
本発明の好ましい製造方法の例では、上記のように粗粒の粉末を用いることにより、圧粉体を成形したときに粉末どうしの間の隙間が大きいことは勿論のこと、粉末どうしが互いに支持し合ってブリッジングに似た現象が生じるため大きな空間が形成される。よって、このような圧粉体を焼結すると大きな気孔が形成される。そして、バルブガイドの内周面を機械加工すると、内周面に露出しているいくつかの気孔は基地の塑性流動により閉塞するが、それでもスカッフィングの発生を防止するのに充分な大きさおよび量の気孔が残される。本発明者等の実験によれば、上記粒径のFe粉を80%含有させた場合にスカッフィングが発生したが、90%含有させた場合にはスカッフィングが発生せず、95%以上にしたときに極めて良好な結果が得られた。
よって、粒径が74μm以上(200メッシュ篩上)から250μm以下(60メッシュ篩下)のFe粉末を85重量%以上含む粉末を使用することが好ましく、より好ましい範囲として90%以上、さらに好ましい範囲としては95%以上である。なお、Fe粉末の好ましい粒度の範囲は105μm以上(145メッシュ篩上)から250μm以下である。
なお、本発明のバルブガイドの好適な製造方法は、上述した製造方法の例に限定されるものではないが、上記粒度分布のFe粉末を成形後に焼結し、次いで、内周面に残存している気孔の面積率が上記した範囲となり、かつ、気孔径が80μm以上の気孔が内周面1mm2当たりに1個以上露出するように機械加工を行うこともできる。
【0014】
ところで、Fe粉の粒度は焼結合金のマトリックスの粒子径にほぼ対応するが、焼結合金の断面の顕微鏡組織では、切断面が粒子の中心付近を通らないものでは径が小さく観察される。本発明者等の調査によれば、74μm未満の粉末が5%含有されている場合には、74μm以下の粒子の面積はマトリックスの面積のほぼ10%であり、74μm未満の粉末が10%含有されている場合には、74μm以下の粒子の面積はマトリックスの面積のほぼ15%である。
【0015】
また、本発明の請求項3に記載のバルブガイドの製造方法の例としては、粒径が74〜250μmのCu粉末をCu粉末全体に対して25重量%以上含む粉末を成形後に焼結し、内周面を機械加工する方法が挙げられる。
Cu粉末は焼結により基地中に固溶して強化する元素であるが、Cuが拡散したあとに気孔が形成され(カーケンダール効果)、その気孔の大きさはCu粉末の粒度に依存する。本発明者等の実験によれば、上記粒径のCu粉末が20%の場合にはスカッフィングが発生し、30%の場合に発生しないことが確認された。よって、Cu粉末の含有量の下限値は25%が好ましく、より好ましい範囲は30%以上である。
なお、Cu粉末の含有量は、全体の成分組成中の1.0〜10.0重量%と少ないため、例えば、粒径が74〜250μmのCu粉末を100重量%用いても、潤滑油の漏洩は生じない。
ここで、上述した2つの製造方法で粒径の上限値を設定したのは、潤滑油の漏洩を防止する観点からである。また、これら製造方法において、粉末にNiを3重量%以下添加することにより、内周面の機械加工を行う際に素地の塑性流動を防止して気孔の面積率を高めることができる。
【0016】
【発明の実施の形態】
A.第1実施例
以下、本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の説明において配合比および組成は重量基準とする。
[試料の作製]
各種の粒度分布を有するFe粉に、Cu粉5%と黒鉛粉1%を混合し、6.8g/cm3の成形密度で円筒状に圧粉成形した。次いで、圧粉体を還元性ガス中で温度1130゜Cにして60分間焼結し、その後、各試料の孔にリーマ加工を施した。使用したリーマは直径8mmの超硬合金製で、切削速度は950rpm、送り量は0.4mm/revとした。
【0017】
[摺接面の評価]
各試料に潤滑油を含浸させた後、縦型バルブガイド摩耗試験機に取り付けてバルブステムの摩耗試験を行った。摩耗試験機は、軸線を上下方向に向けたピストンの下端部にバルブステムを取り付け、ピストンに横加重を加えながら試料に挿通させたバルブを往復動させる構造のものを使用した。この摩耗試験でのバルブのストローク数は3000回/分で、ストローク長は8mmとした。また、ピストンに加える横加重は3kgfとし、200゜Cの排気ガス雰囲気で30時間行った。この摩耗試験後のバルブステムの状態を観察し、スカッフィングの有無とその評価を表1に記載した。なお、表1では、バルブステムに通常の摩耗が生じている場合を「良好」、摩耗は生じているが表面が平滑で極めて良好な状態の場合を「最も良好」と記載した。
【0018】
[オイル下がりの観察]
油透過測定装置を用いてオイル下がりの発生の有無を調査した。この油透過測定装置は、減圧タンクの上部に油槽を配置して二層の空間を設けたもので、潤滑油を含浸させたバルブガイドの試料を油槽の底部に設けた挿通孔に気密に嵌合させるようになっている。この実験では、試料の上端部を油槽に突出させるとともに、試料の下端部を減圧タンク内に突出させ、減圧タンクの圧力をエンジンの吸気時と同等の負圧に減圧して所定時間保持し、その間に減圧タンク内に油が滴下するか否かを観察した。なお、減圧タンク内の圧力は400mmHg、保持時間は300分とした。この調査におけるオイル下がりの有無とその評価を表1に併記した。
【0019】
[面積率と気孔径の測定]
各試料を切断して内周面を顕微鏡で観察し、全視野中の気孔の面積を測定するとともに、全視野の面積に対する気孔の面積の比率(面積率)を計算し、その計算結果を表1に併記した。また、気孔径を80μm未満、80μm以上〜150μm未満、150μm以上〜300μm未満、300μm以上に分類し、内周面の1mm2当たりに当該気孔径の気孔がいくつ存在するかを調べた。その結果を表1に併記した。以下、表1に示す結果に基づいて本発明の数値限定を検証する
。
【0020】
【表1】
【0021】
[数値限定の検証]
▲1▼面積率(2.7〜10.7%)
気孔の面積率が本発明の下限値を下回っている試料1,2では、バルブステムの外周面にスカッフィングが発生し、上限値を上回っている試料18,19,21および22ではオイルの滴下(オイル下がり)が発生した。これに対して、面積率が本発明の範囲内である試料3〜17のほとんどにスカッフィングもオイル下がりも発生しなかった。特に、試料2では、気孔径が80μm以上の気孔が1個/mm2以上存在するという、本発明の他の条件を満足しているにもかかわらずスカッフィングが生じており、面積率の下限値の信憑性を裏付ける結果となった。
【0022】
▲2▼気孔の数(気孔径80μm以上の気孔が1個/mm2以上)
面積率が本発明の範囲内でありながらスカッフィングが生じたのは、試料4,7,10,13であるが、これらは、本発明の気孔の個数の条件を満足していない。また、試料20に至っては、面積率が本発明の範囲を上回っているにもかかわらず、所定の気孔の数が本発明の範囲を下回っているため、スカッフィングが発生している。
以上の検討結果から、本発明の面積率と気孔率の数に対する数値限定は、互いに密接不可分な関係にあり、スカッフィングを防止しかつオイル下がりを防止するために必須の条件であることが確認された。
【0023】
B.第2実施例
[試料の作製]
Cu,C粉末の他に、に、P,BN,MgSiO3粉末を適宜添加した粉末を6.8g/cm3の成形密度でφ11×φ6.4×10の円筒状に圧粉成形した。次に、圧粉体を還元性ガス中で温度1130゜Cにして60分間焼結し、試料の孔にリーマ加工を施した。使用したリーマは直径7.0mmの超硬合金製で、切削速度は950rpm、送り量は0.4mm/revとした。ただし、被削性の測定は、焼結したままの試料を下記の条件でリーマ加工することにより行った
。
【0024】
[各種特性の測定]
各試料の硬さ、圧環強さ、被削性および摩耗量を測定するとともに、スカッフィングの有無を確認した。被削性の目安として、直径6.4mmの下穴を直径7.0mmの超硬合金製リーマで10mmの全長を加工するのに要する時間を測定した。この場合、切削加重は3.2kgfで一定とし、切削速度は1000rpmとした。また、実施例1で用いたものと同じ縦型バルブガイド摩耗試験機に各試料を取り付け、試料に挿通させたバルブを往復動させたときの内周面の摩耗量を測定した。この場合のバルブのストローク数は3000回/分で、ストローク長は8mmとした。また、バルブに加える横加重は3kgfとし、200゜Cの排気ガス雰囲気で30時間行った。以上の試験の結果と各試料の成分組成を表2に示した。なお、表2において、圧環強さ:70kgf/mm2以下、被削性:10s/10mm以上および摩耗量:90μm以上(スカッフィング発生)となる場合を許容限度を超えるものとして「NG」と表示した。また、表2において、本発明の請求項2以降に規定した数値限定の上限値を上回る数値には「*」、数値限定の下限値を下回る数値には「☆」を付した。
【0025】
【表2】
【0026】
[特性の評価−Cuの影響]
試料30では、圧環強さが70kgf/mm2以下でNGとなるとともに、摩耗量が増大してスカッフィングが発生した。これは、試料30はCuの含有量が本発明(請求項2,3)の範囲(1.0〜10.0%)の下限値を下回っているため、基地の強化が不充分であるためと考えられる。また、試料59でも圧環強さが70kgf/mm2以下でNGとなったが、これは、試料59では、Cuの含有量が本発明の上限値を上回っているため、基地に固溶できない余分なCuが析出し、基地の強度が低下したからと考えられる。
【0027】
[特性の評価−Cの影響]
試料33では、圧環強さが70kgf/mm2以下でNGとなるとともに、摩耗量が増大してスカッフィングが発生した。これは、試料33では、Cの含有量が本発明(請求項2,3)の範囲(0.6〜1.2%)の下限値を下回っているため、パーライトが充分に析出しなかったためと考えられる。また、試料56でも圧環強さが70kgf/mm2以下でNGとなるとともに、被削性も悪化した。これは、試料56では、Cの含有量が本発明の上限値を上回っているため、結晶粒界に脆いセメンタイトが網目状に析出したためと考えられる。
【0028】
[特性の評価−Niの影響]
基地を強化する元素であるNiを含有する試料51〜54では、摩耗量が少なく耐摩耗性が良好であった。また、Niを含有していない試料36と含有している試料51〜54とを比較すると、Niを含有している方がマイクロビッカース硬さ(MHV)の値が総じて高かった。しかも、Niの含有量が増加するにつれてMHV値が高くなっており、Ni添加の効果がはっきりと発現されている。しかしながら、試料54では、Niの含有量が本発明(請求項2,3)の範囲(3%以下)を上回っているため、基地の一部がマルテンサイトに変態して被削性はNGとなった。
【0029】
[特性の評価−BN,MgSiO3の影響]
被削性を向上させる元素であるBN,MgSiO3を含有する試料37〜47では、切削に要する時間が他の試料と比較して総じて短く、被削性が良好であった。しかしながら、試料41で圧環強さがNGとなっているのは、MgSiO3の含有量が本発明(請求項4)の範囲(1.0%以下)を上回り、焼結の進行を阻害したためと考えられる。また、試料47で圧環強さがNGとなっているのは、BNの含有量が本発明(請求項4)の範囲(0.5%以下)を上回り、同様に焼結の進行が阻害されているからと考えられる。
【0030】
[特性の評価−Pの影響]
基地を強化する元素であるPを含有する試料48〜50では、摩耗量が少なく耐摩耗性が良好であった。しかしながら、Pの含有量が本発明(請求項5)の範囲(0.2%以下)を上回る試料50では、基地中にステダイトが析出したため被削性はNGとなった。
【0031】
C.第3実施例(製造方法の例)
[試料の作製]
粒径が74〜250μmのFe粉またはCu粉を各種の比率で含有する粉末を用意し、第1実施例と同等の工程により試料を作製した。次いで、第1実施例と同じ条件で摩耗試験を行い、スカッフィングの発生の有無を調査した。その結果を表3に示す。
【0032】
【表3】
【0033】
表3に示すように、粒径が74〜250μmのFe粉を90%以上含有する試料では、スカッフィングが発生せず、良好ないしは最も良好な結果が得られたのに対し、含有量が80%の場合にはスカッフィングが発生した。また、粒径が74〜250μmのCu粉を30%以上含有する試料においても、最も良好な結果が得られたのに対し、含有量が20%の場合にはスカッフィングが発生した。
【0034】
D.第4実施例
粒径が74〜250μmのCu粉を全Cu粉に対して30重量%以上含有する試料60と、この試料60の成分組成にさらにNiを含有する試料61を作製した。また、比較例として、試料60,61と同一の試料にさらに焼入れ−焼戻しの熱処理を施して基地組織が主としてマルテンサイトである試料(比較例1,2)、および比較例1の基地中にMgSiO3を分散させて被削性を改善した試料(比較例3)、さらに従来のバルブガイドとして特開平4−57140号で開示した成分組成のバルブガイド(比較例4)を用意した。なお、これらの試料60,61および比較例1〜4の成分組成を表4に示した。これらの試料に第2実施例と同じ条件で摩耗試験を行った。この試験における各試料の摩耗量と被削性を調査した結果を表4に示す。なお、切削条件は第2実施例と同じである。
【0035】
【表4】
【0036】
表4より、本発明の試料60,61および比較例1〜3は、機械加工後の内周面に露出している気孔の面積率が2.7〜10.7%の範囲内にあり、該内周面の1mm2当たりに気孔径が80μm以上の気孔が1個以上露出しており、表2の耐摩耗性調査結果(摩耗量)と比べると、全て摩耗量が小さく耐摩耗性は良好であることが明らかである。
【0037】
次に、表4より、硬質相を含まない本発明の試料60,61では、基地が主としてマルテンサイトの比較例1,2、マルテンサイト基地に快削成分を添加して被削性を改善した比較例3および硬質相を有する従来のバルブガイド(比較例4)と比較すると、切削に要する時間が短く、被削性に優れていることが明らかである。
このように、本発明により製造したバルブガイドは、耐摩耗性および被削性の両面で優れていることが明らかとなった。
【0038】
【発明の効果】
以上説明したように本発明においては、摺接面を適度に潤滑することができるので、バルブステムのスカッフィングの発生を防止することができるのは勿論のこと、潤滑油の漏洩も防止することができる(請求項1,6,7)。また、耐摩耗性を維持したまま被削性を改善することができ(請求項2,3,5)、なお一層の被削性の向上も図ることができる(請求項4)。
Claims (5)
- バルブステムと摺接する内周面に機械加工による仕上げを行った焼結合金からなるバルブガイドであって、
前記焼結合金は、重量比でCu:1.0〜10.0%、C:0.6〜1.2%、残部がFeおよび不可避不純物からなり、基地組織が主としてパーライトまたはパーライトとベイナイトの混合組織であってステダイトを含まないとともに、
機械加工後の内周面に露出している気孔の面積率を2.7〜10.7%とし、上記内周面の1mm2当たりに気孔径が80μm以上の気孔を1個以上露出させたことを特徴とするバルブガイド。 - バルブステムと摺接する内周面に機械加工による仕上げを行った焼結合金からなるバルブガイドであって、
前記焼結合金は、重量比でCu:1.0〜10.0%、C:0.6〜1.2%、Ni:0%を上回り3%以下、残部がFeおよび不可避不純物からなり、基地組織が主としてパーライトまたはパーライトとベイナイトの混合組織であってステダイトを含まないとともに、
機械加工後の内周面に露出している気孔の面積率を2.7〜10.7%とし、上記内周面の1mm2当たりに気孔径が80μm以上の気孔を1個以上露出させたことを特徴とするバルブガイド。 - 前記基地組織中に、さらにフェライトおよび/またはマルテンサイトが分散することを特徴とする請求項1または2に記載のバルブガイド。
- 重量比でBN:0.01〜0.5%およびMgSi03:0.05〜1.0%の少なくとも一方を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のバルブガイド。
- 重量比で0.2%以下のPを含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のバルブガイド。
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